Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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感想、誤字脱字報告ありがとうございます。




『群疑満腹』

 

「アロナを…!?」

 

「うん?アロナ…?携帯に名前を付けるなんて、スバルくんも中々凄い…癖を持ってるんだね…?」

 

「…違ぇよ。ちゃんと大切な名前があるって事だ。それと──貸して欲しい、なんて台詞信じると思うか?俺のアロナに汚ねぇ手で触れれると思うなよ」

 

無言、後笑顔を浮かべる聖園ミカを見てスバルは、本気で『貸し出し』を要求しているのだと察する。

確かにアロナは、スバル以外にも文章で意思疎通を取ることが出来る。超級のネットハッキング能力に、演算による行動予測。聖園ミカが放った様な辺り一面を破壊し尽くす攻撃でなければ、スバルをアリウスの傭兵と渡り合える程に強化してくれる。

 

戦闘面、その点に必要では無いだろう聖園ミカが、アロナを貸りたいというのは──裏に潜み隠れる邪魔な古株を切り倒す為か。

 

敵の敵は味方、スバルがその切り倒される側を援護すれば、巨木たる聖園ミカを討つことが出来るのか、そんな可能性を視野に入れ、そしてどうも釣り合わない交渉に否を叩きつける。

 

「んー、三人の無事が私達以外からの干渉だけじゃなくて、私達からも干渉しないって条件だとしても?」

 

「契約ごとに詳しい奴からご教授してもらったから言うが、まずお前が制御出来てない範囲から被害を受けた時点で、お前の言葉は何一つ信頼できねぇ。それに交渉ってのはな、相手が不足してるモンを餌にしなきゃダメだ」

 

「──俺は、お前に頼らなくても全員守ってみせる」

 

「…へぇ、ウイちゃんは無理だったのに?」

 

「そうやって足元見る言葉しか吐けねぇのかお前は…!!ああ、確かに俺が間違えた、間違えたのなら次は、死んでも間違えない」

 

ミカのわざとらしい口振りは、自分の事を棚に上げた発言だ。スバルの神経を逆撫でするのを分かっていて、涼しい顔で話している。あの光景は、あの目は、既にスバルにとって取り外せない楔だというのに。

 

「それに、誰かに頼らなきゃ誰も守れない英雄ってのは『解釈違い』なんだろ。お姫様」

 

「………」

 

「俺視点、お前が行き詰まってるから、困ってるからアロナが欲しい。って風にしか聞こえねぇ。だからアロナを渡す理由も無いし、その気もない」

 

口を閉じるミカに、スバルは下らない交渉の勝利を確信する。交渉の場において最も見せてはいけない手札、それは望む目標だ。真に手に入れたいモノが暴かれてしまえば、掛け金を際限なく釣り上げられてしまう。ミカは今、スバルに利点のない交渉を脅しを使って有利を取ろうとした、それは自ら不利な立場を証明してるのと同じ。

 

この瞬間に、強奪という手段を取らない事からも、ミカがアロナの全貌を測りきれていない証明になる。沈黙の時間が経てば経つほど、スバルの優位性が大きくなっていく。ミカはアロナを欲しがる以外に札が無いのに対し、スバルは要求を青天井に引き上げ続ければいい。

 

「あれれ…あれれ……おかしいな…おかしい…」

 

「──おかしいよ、ナツキ・スバル」

 

「どうしたよ。今更自分の馬鹿さ加減に気がついたか?そんなにおかし、が欲しいなら今すぐクッキーでも詰め込んでやるけど」

 

「──。うーん?」

 

表情を固めるスバルに対し、ミカは解せない、といった様子で首をひねる。解せないも何も、自分の発言のおかしさに気がついていないのが、スバルからすれば不思議でしょうがないのだが。

 

兎にも角にも、聖園ミカは口を滑らしやすい。更に悪く言うなら、このような正面切っての話し合いで頭が回っていない。死に戻る前、『カタコンベ』という単語を漏らしたり、『ミメシスで作ったユスティナ信徒』等という如何にもなセリフを吐いたり、元のお嬢様気質が抜けていないのだろう抜け目がよく見える。もしもそれが指をさされたいだけの、ピエロ仕草であれば──お手上げだが。

 

困った顔をしながら、人差し指に親指を重ね顎へ置く姿は、本来なら可愛らしい仕草だ、しかしスバルの額には万が一自暴自棄になられたらと、冷や汗が止まらない。

 

「あ」

 

「そっかそっか、昨日のは嘘で、それで私…何か、話してもらってない事があるんだ」

 

「────」

 

昨日の嘘は、スバルの『やり直し』に疲れ擦れた姿を偽装した事だろう。だが話していない事は特に思い当たらず、ミカへ軽く恐れの目を向ける。スバルは何も隠していない、次に彼女が疑う相手となれば───、

 

「ベアトリーチェは本物のクズ野郎だ、お前にどんな事を吹き込んでんのかは知らないが……頭の中身こんがらがってるなら、俺じゃなくてアイツのせいだからな」

 

「──。ベア…トリーチェ…?あ、うん、マダムさんの事か。それにしても…嘘かぁ。そうかも、多分沢山、数え切れないくらい嘘ばっかり言われてる」

 

「…………」

 

言ってはみたものの、確信を突けた手応えは無い。スバルの声を聞きながら、不満足そうに頬を膨らませるミカが掌にぽん、と拳を置いて納得げに微笑みを戻した。

理解不能に意味不明を塗り重ねられ、疑問符が口から漏れ弱みを晒す前に、スバルは得意の虚勢を張る。

 

「俺は、お前の想像通りのエイユウサマにはなってやれない。ましてや救世主でも無い、ここにくるまで転んでばっかりの傷だらけなガキだ。ガキだから、隣同士だ」

 

「お前がいつまでもお高くとまって待ってるなら──お前をこっちに引き摺り落としてやるよ。現実を、見せてやる」

 

席を立ち、早くリンとアユムの身の安全を確保しようと急ぐスバル。扉の前に立ち、取っ手を引こうとして先んじて扉が開く。唐突な超能力の芽生えに、主人公ばりの覚醒を期待したが、スバルの胸に突撃してきたティーパーティーの制服を着た生徒がそれを否定した。

 

要人の会議室、そこへ一般の生徒が断りも入れず入室するというのは、規律規範を重んじるトリニティでは異常事態の報せだ。

 

「ナツキ様…!?も、申し訳ありません!──ミカ様!!」

 

「んー?どうしたの?」

 

声を張り上げ、礼儀も忘れ息切れと共に口にした一言目は──スバルには、到底予想だにしていなかった新たな戦火であった

 

「シスターフッドが、防衛地区に攻めてきました!」

 

「同時に和平派の一部、そして災厄の狐が同時侵攻!更にはトリニティ内部から離はんっ────」

 

報告を終える前に、スバルが黒服との対談の際味わった地響きより、何段階も大きな揺れと鼓膜を引き裂く音に脳髄を刺激される。

古書館爆破と同じ──爆発による衝撃だ。

 

「────」

 

「災厄の狐と侵攻軍は私が対処するから、みんなを避難させておいて。防衛ラインは放棄、イチカちゃんを先頭に全面撤退。自警団の子達も参加させる、親衛隊は離反者の捕獲。その他は……先に全部私が済ませよっかな、纏めて更地にしちゃうね☆。トリニティの建物内の子達は全員避難所に移動、分かった?」

 

「は、はいっ!!」

 

「スバルくんはここにいて、死にたくないなら。絶対に君の安全は私が守るよ」

 

「──。一体……何が……──」

 

再度、スバルは意味不明、理解不能の闇の中へと落ちる。

それはたった一人、スバルしか持ちえない疑問と不理解であり、混乱を極める現況を踏まえて尚比べ物にならない『意味不明』だった。

 

今度は──スバルが、おかしい。と心の中で口にする。それはおかしい、おかしすぎる、おかしくない筈がない。こんな状況を理解できる訳がない。

 

───浦和ハナコが、聖園ミカとアリウスを攻め込む理由なんて何一つ、無いはずなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──茶会の部屋に置き去りにされたスバルは一人、外の騒音から切り離された世界に居た。

 

視界は白のテーブル一色、聴覚にはあの音が、スバルの心を無惨に踏み潰す、聞いたことのある建物の倒壊音が聞こえてくるが、それを塗りつぶして困惑が襲いかかってくる。

敵である筈のミカに守られ、厳重なアリウスによる警備の元、軽度の軟禁状態である現状は確かに危うすぎるが、スバルの手足に絡みつく困惑の糸を紐解くまでは動けそうにも無い。

 

「────」

 

──訳が分からない。

スバルが口にできるのは、それだけだった。ミカの神秘の行使によって空一面に広がるピンク色の輝きが、トリニティ中に広がって再び暴虐を振るい始めても、当のスバルは置き去りのままだ。

 

この最悪のループが始まった最初の要因、聖園ミカによるエデン条約の破壊の後の悪逆に、和平派の参謀、浦和ハナコも加担していたのは事実。

では何故こうして侵攻が始まったのか、そして圧倒的な戦力差はどうしたというのだ。最も誤魔化し辛い数の差を何とかする為のゲリラ戦を放棄して、勝ち目は無い。

 

何故、何故、何故。稚拙な脳みそをフル回転させて、何故に答えを求め続ける。もう置き去りにされないよう、この陰謀についていかなくてはと。

何かが違う、何が違う。エデン条約と今で、浦和ハナコに何の心変わりがあった───?

 

「────」

 

否、心変わり程度で切り替えられるものでは無い。アリウスと癒着している以上、時は遡り内乱開始の六ヶ月前。最低でも六ヶ月間はアリウスと共に状況を掻き回している。

 

『ベア…トリーチェ…?あ、うん、マダムさんの事か』

 

──唯一、ベアトリーチェの名を口にしたのは浦和ハナコだ。『やり直し』の情報を与えられる程に信用されている時点で、浦和ハナコがアリウス側では無い可能性は、ゼロ。

気でも狂ったか?そう評価するしかない頭にウンザリする。そう評価するしかない現実にウンザリし尽くす。

 

「シスターフッドが侵攻…それって──マリーと、ヒナタが…?」

 

「──っ、いや、絶対…有り得ない!絶対だ、そんなのっ…」

 

願うしかない、絶対なんて絶対なくとも、スバルが視たあの二人と、救助者に手を差し伸べるシスターフッドの生徒達の姿に偽りがあるものか。和平派にしてもそうだ、和平派が攻める戦力に出来るのは正義実現委員会、つまりは、

 

「ツルギ──……」

 

「なんでっ……」

 

────。

訪れる混乱と困惑に、ナツキ・スバルが許容できる苦痛が、ストレスが、限界を迎えようとしている。せわしなく手を動かし、頭を掻き、強く瞼を瞑って行き場のない力を発散しなくては、息もできない。

 

トリニティに来てからずっとだ、身に覚えの無い期待と希望、虚像を押し付けられて、否応がなしにスバルを置いて、世界が進む。

せめてそこに参加させてくれるのなら良かった、スバルも、誰かの苦痛と誰かの苦悩、誰かの物語に連ならせてくれるのなら、まだ心はそう荒波経っていない。

 

身勝手な、身勝手な身勝手で身勝手すぎる我儘な子供達に群がられて、ナツキ・スバルを追い詰めて、

 

「────」

 

「────……」

 

《スバル様》

 

「っし、行こうアロナ。もう、耐えられねぇわ、ハブるのも大概にしろって話だよな。やたらと急ぎ足に事態を進ませやがって…!」

 

《──。はい!監視の目から抜け出せる道を今すぐにでも!…ですがスバル様、その様にやせ我慢と自制を続けていては、心身に悪影響です》

 

「うぐっ、一瞬で抜け道探してくれるパーフェクトアロナたんにそう言われちゃ…──心の抜け道も見つかっちまうか」

 

《そうですよ、スバル様。そしてウイ様の不幸は、スバル様のせいではありません。決して》

 

「………それ、言われちまったら…俺も老いたな。ありがとアロナ。んーまっ」

 

必要以上に背負ってしまう悪癖は、どうしようも無いもの。頭の中を支配していた暗闇から、いつも通りの会話によって解き放たれ、携帯の画面に映るアロナへと連続キスをお見舞いする。

心臓まで石になってしまう様な緊張を解き、いつものように出来る事を出来るだけしようと気合いを込め直す。──自分の足で動いて初めて、求める未来へと進んでいけるのだ。

 

《──元気百倍です!!今ならキヴォトスの全ネットワークを支配できます!》

 

「よっし!その調子で今の戦況プリーズ!外でミカが暴れてるけど、更地にするつったって相当デカイぞトリニティは」

 

《対象:聖園ミカ──現在は音楽堂に立て篭った離反者を掃討中です。トリニティ建造物約六割が全壊、周辺地域の被害も凄いことになっています…!》

 

「…聞けば聞くほどやべぇけど、エデン条約の時より圧倒的にショボイ…やっぱり、何かタネが…いや儀式をしたから出来ただけで、無条件で発動出来る訳じゃないのが分かっただけでも収穫だ」

 

いつ何時でもあの破壊力を行使できるのなら、本気でスバルに勝ち目は無い。条件付き、もしくは相応の準備の後に限定されるだけでも、今後の動き方に余裕がもてる。

 

《目標は如何致しましょう、スバル様がお望みならどんなルートでも…。リン様アユム様ウイ様の回収を最優先に致しますか?》

 

「や、そうしたい所山々なんだけど…正直、リンとアユムは既にシャーレに帰る道を走ってる筈。ウイは…──っ…寄れるのなら、寄りたいけど…。とりあえず今は、前線に行きたい」

 

《──。卑屈は、似合いませんよスバル様。ご心配ならば、タイムロス無くウイ様と会遇し、前線へ赴けるようにします》

 

「────」

 

卑屈、か。

そうだろう、スバルはあの目を見て、ウイにとってのナツキ・スバルがこの世で必要の無い存在へと変わってしまったのが怖くて、怖気付いている。

ならばそれはただ、卑屈な男が自尊心に負けて足踏みしているだけだ。

 

「──避難所に寄りながら、目指せ前線!突っ走るぞアロナ!っておわっ…!?」

 

《了解致しました、スバル様──!っあ…》

 

この程度の檻に閉じ込められる鳥では、ここまで羽ばたけていない。アロナのお陰で取り戻せた無謀さと勇気を手に、決意を固めた──瞬間、エデン条約の壊滅に比肩しうる振動と衝撃波が、スバルの左半身を叩く。

立ち上がろうとしていた事もあり、勢いあまりズッコケてしまった。痛むデコを摩りつつ、馬鹿げた破壊音を撒き散らす主への不満を漏らす。

 

「本気で全部更地にするつもりかよあの馬鹿──!!」

 

《──これは…!スバル様、聖園ミカが…正義実現委員会部長、剣先ツルギと戦闘を開始しています!》

 

「は」

 

この後のトリニティの事など欠片も考えていない大胆さに苦言を呈しつつ、アロナの報告に脳みそがストップする。他人行儀な言い方はそうだ、死に戻りをしたからで、いやそれよりも接敵が早すぎないか───?

 

「────」

 

前線を放棄し十分、トリニティ自治区の面積の広さを考えれば、撤退行動を取る強硬派を無視したとして辿り着くのに一時間はかかる。

この早さでの戦闘開始、可能性があるとするなら、一切合切建物も無視して全速力で直進してきたか。それが出来る生徒が剣先ツルギだ。

 

彼女もまた、ヒナやホシノに比肩しうる規格外の生徒。一飛びで数キロ移動するヒナを考慮すれば、無理な話じゃない。

 

聖園ミカと剣先ツルギのビックマッチ、見逃す手は無いが一度決めた道を変えることは無い、スバルが今往くべきは───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「っ、なんだ!?」

 

茶会を催す部屋の前、扉を守るアリウス兵がその向こう側から聞こえてきた叫び声に表情を強ばらせる。

扉の向こうには、アリウスの希望にして絶対守衛を命じられたナツキ・スバルが居る。彼の身に命に関わる事があれば、どんな悲劇よりも心を引き裂く結末になってしまう。

 

そんな想い一心で、守衛四人が扉を開ききる。銃を構え、襲撃者を撃滅しようと索敵をして───、

 

「────」

 

そこには、襲撃者どころかナツキ・スバルの姿形も無く、ちょこんと小さな携帯が扉を開いたすぐ先に置かれているだけであった。

 

「やっちゃえアロナ」

 

「───!!」

 

《アロナフラッシュ、です!》

 

ナツキ・スバル本人の声が聞こえたのは体当たりで押し開いた扉の片翼、その裏側から。声が聞こえた方向へ首を傾ける前より先に、四人の視線はぽつんと置かれている携帯へと一極集中していて、ガスマスク越しに届く光が網膜を焼く。

 

「ぐぁっ──」

 

「効果アリかアロナ!」

《効果大アリですスバル様!》

 

「っ──!にが、すなぁっ!!」

 

命を奪えない、アビドスとは全く逆の縛りを課されている事を知っているスバルにとって、彼女達が手に握る黒鉄は最早なんの脅威でも無い。

アロナを回収し隙間を抜け、騒ぎを聞きつけた他の守衛が集まってくるより先に───この長廊下を通り抜ける。

 

言うは易しだ、長廊下の長、は本当に長い。スバルとは俊敏さもスタミナも何もかもが違うキヴォトスの生徒と、追いかけっこをしては負け。

 

「──らぁぁぁっ!」

 

走り、勢い良く窓をぶち破る。アロナが示した窓の下にはふかふかの大きな生け垣があり、指示に従いなんの迷いもなくスバルは身を三階から投げ出した。

 

「ぉっぐ……次は!」

 

肺から空気を押し出され、中々の衝撃を喰らうもトリニティ学園の豊富な財力で丹精込めて作られた生け垣は数メートルの落下の加速を受け止める。

散らばって落ちてくるガラスの破片を腕で防ぎ、落下で失った平衡感覚を取り戻す為、アロナの指示を強く求めて、

 

《ひたすら直進して下さい!がむしゃらに走って頂かなければ追いつかれます!》

 

「了解!」

 

がむしゃらに直進、それだけならば視界も要らないと目を閉ざす。アロナが直進というならば、それ以外の行動は必要ない。全力疾走の為に、身体の端々にまで力を込めてスバルは走り出した。

 

自慢の体力が息切れするほどに走り、漸く目を開けてみれば───エデン条約と同じ、瓦礫の海だ。全く、壊すことしか知らない魔女のせいで暗い記憶が蘇ると息を吐き、血液に酸素を回してもう一度、全力疾走。

 

スバルの名前を叫ぶ生徒の声があったかもしれない、がそれすら聞こえない集中で走り抜き、アロナの《右折です!》という声に身体を捻る。自然と開く視界の先にはアリウス兵の姿は無く、永遠と鍛え続けられる逃げ足の速さにそろそろ自信が持てそうだ。

 

「避難所は…部室会館…」

 

《ウイ様もそこに居ます、監視カメラの映像で確認済みです》

 

「心配すんなって事ね!励ましセンキュ、アロナたん!」

 

視野に会館を収め、もう少しの辛抱だとフルパワーで動く足を応援し、疲労困憊のまま会館へと転がり込む。

避難所に指定されていることもあり、戦闘の余波から逃げてきた大勢の生徒が唐突なナツキ・スバルの登場に目を剥く。中には叫び声すらあげる生徒も居て、本当に災厄でも襲ってきたかのような反応。

 

無理も無い、スバルが到着してからたった二日でこの有様。疫病神がノコノコと安全地帯まで何をしに来た、そんな目に晒されながらウイを探す。

 

《二階、物置部屋です!》

 

「────」

 

「っぁ、ナツキ・スバル…!?」

 

避難を浴びせたいであろう生徒が、憎しみを込めて名を呼んで引き留めようとしてきたが、今はソレを受け止めている暇は無く。

階段をかけ登り、人の波をかけ分けて突き進む。力押しで進み、迷惑の塊になって物置部屋へと。

 

「────」

 

勢い良く扉を開ければ、そこには数冊の本と共にうずくまり、顔を膝に埋めて沈黙するウイが居た。

あれほど大切にしていた本を、物置部屋に積もった埃に好き勝手にされようと知らんぷりを貫く彼女の態度は、心に刻まれた傷の大きさを物語っていた。

 

「───…」

 

大きな物音を立ててもピクリともしないウイの前で、スバルは膝立ちになる。少しの顔も見せないウイの、以前はある程度手入れされていた筈の服装や髪は無造作を超えて汚く、本と同様に埃を被っていた。

 

過去はやり直せない、これから先、死に戻る事があってもそれは別の未来で、ウイが失ったものが元に戻る事は無い。だから、

 

「ウイ」

 

「──ありがとう。そして、ごめん」

 

「数十冊しか、読めなかったけど…あの本達を…──あの子達の読者になれて良かった」

 

「………本当に、ありがとう」

 

「────」

 

沈黙を続けるウイを背に、その場を立ち去る。この一瞬の為に、死ぬ気で逃げ出して死ぬ気で走ったと言えば、彼女に馬鹿にされるだろうと思いながら。

 

 

──スバルは、戦火の中へと走り去る。

 

 











聖園ミカという生徒の魅力と汚点と愛憎煮詰まる生き様、全てが詰まっているブルアカ本編をもっと広めたい…。エデン条約以外にも、もっと大きく話題になって欲しい数々の青春の物語が眠っていますので。(私自身一番好きなストーリーはアビドス全編でもエデン条約編でも無く、唯のイベストのゲヘナ二周年ストーリーだったり)

そしてリゼロ本編をご覧になってない方も是非、是非とも、少しだけ…ほんの一章から十章程度まで…ちょびっと読んで頂ければ、幸いです。
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