Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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短めです。
書きたいことあれど、書き溜めが出来ない呪いによって話数がかさみました、申し訳ない。多分前話三つ分は統合できます。助長であれば、くっつけてしまう…かも?


『他称英雄ナツキ・スバル』

 

か細い、頼りの無い引き金にスバルの指がかかる。

グリップを力一杯握りしめて、それが頼るものの無い人間の精いっぱいだと分かっておきながら、スバルは照準を合わせ──構えが様になったな、という場違いな思考をしていた。

 

「────」

 

二人の目線がスバルを射止め、そして停止する。

ミカの端正な顔はツルギの血、そして鼻血によって汚れ、きょとん顔を晒してはいるが痛々しい。馬乗りになっていたツルギも、頭に上った血が物理的に冷めたのか傷は消え、ミカの唐突な静止に同じく動きを止めた。

 

「────」

 

両者に銃を向けたところで、到底効果があるモノではない。

拳銃どころか、ミサイルでもダメージにならない二人にとっては輪ゴム銃に等しい代物の筈で、そうでなくともナツキ・スバルの些細な反抗に構っている余裕は無い。ツルギは、空を飛ぶ相手から手に入れた場所の優位を。ミカは、一早い脱出を。

 

一瞬の判断が勝敗を分ける場面で、何ら影響を及ぼさない異分子の行動一つに意識を割く必要はないのだが、

 

「いい加減にっ…話ぐらい聞けよ!」

 

「──。あはっ☆」

 

カタカタと揺れる拳銃が、スバルの胸中にある戸惑いと繋がっている。

戸惑いに含まれるのは自覚無き黒い衝動。暴力に対する暴力は封じてきた、それがどんな生徒であってもまずは対話から。

 

──それは元来の『ナツキ・スバル』ではなく、幾度も重ねた死に戻りによって鋳造された『シャーレ部長・ナツキ・スバル』である。無自覚の齟齬が、小さな小さな澱に。

 

「ミカ、次勝手に動いたら、コレで俺の頭をぶち抜く」

 

「────」

 

トリガーを知られていない限り、聖園ミカの抑止剤は必然とスバルが自死を選択することだ。苛立ちのままに言い捨てると、狙い通りミカは身動きを止める。

 

「ツルギもだ!これ以上勝手しても、何も残んねぇのは分かってるだろ!?」

 

「………抵抗されていなければ…学園も破壊していなかった…。どうして貴方が、シャーレ部長ともあろう方が……聖園ミカに加担して……」

 

「加担──?ちがう、違う違う!なんでそんな話になる!さっき中立だって言ったばかりじゃねぇか!」

 

「…隙を晒した原因を、どう信じればいい」

 

「どう信じれば…──どう…って…」

 

知らねぇよ、頼むから信じてくれよ。なんだっていいからとりあえず、ナツキ・スバルを信じてくれればどうにかするから。

 

頭の中を駆け巡る随分な物言いを、喉でシャットアウトして、吐く息で脱力する。どうどうと、自分をなだめて冷静に──『ナツキ・スバル』として相応しい立ち回りを。

 

「…この内乱を…終わらせる、今日この瞬間に全てを賭けて」

 

「貴方が……悪い人ではないのは分かる…」

 

「だが。──部外者は、もう踏み込むな」

 

「──ぅ」

 

──誰が、部外者だと?冗談じゃない。本当に冗談じゃない。誰よりも因縁の奥深くに絡み続けてきたのはナツキ・スバルだ、他の誰でも無くナツキ・スバルなんだ。

 

積み重なった苛立ちの数々が、思考を過熱させる。──冷静になれ、そう言う自分が居ても、それすらただの嘲りにしか聞こえぬほどに。

 

冷静になれ、冷静に、冷静に冷静に冷静に──。

 

「そうだよスバルくん、君は視てるだけでいいのに、勝手に出てきちゃって……あ!もしかして」

 

「──そろそろ、主役の自覚でも出てきた?」

 

「──。うるせぇよ。黙れ、もう喋るな。もう、いい」

 

ニヤニヤと、スバルを見つめてミカは嗤う。その視線の悪質さと笑いの不快感に背中を押されて、茹で上がった思考が限界を迎える。

その視線だ、その視線がずっと気に入らない。値踏みするような試すような、助けを求めてる癖に、助ける相手を笑っている様なその目が嫌だ。

 

「いい加減にしろ、いい加減にしろよ。いい加減にそんな風に見てんじゃねぇ。どいつもこいつも、気持ち悪ぃ目ばっか向けやがって!」

 

《──スバ》

 

「えー?気持ち悪いって酷いなぁ…。それにどいつもこいつもって、君の為、必死にアリウスの子たちは行動してくれたみたいじゃん。何が嫌なの?」

 

「──気持ち悪いんだよずっと!人の事殺しに来ておいて、救われたいなんてほざくお前らが!それでも助けてくれるって信じてるお前らが!俺に頼るくせに、俺じゃない俺を俺だって視てるお前ら全員──!!」

 

唾を飛ばし、金切り声に近い音を出して口汚く叫ぶ。

気持ち悪い。気持ち悪いと思われていなそうにナツキ・スバルを視るのが、余計に気持ち悪い。ストレスなんだ、イライラする、イライライライラ、身体から零れるエネルギー全て、イライラになってしまうぐらい。

 

「俺は普通の人間なんだよっ!苦しむのも当たり前で、悲しむのも当たり前だ!聖人様でもねぇ、救世主でもなんでもない!それでも、精一杯頑張ってるんだから……!せめて……少しでもっ…。誰か一人でもいいからっ」

 

「──救いたいと、思わせてくれ…」

 

──真に救われるべき人間は、誰かに救ってもらえるような形をしていない。救われる準備をしていない。救われようとしない。

イナゴのように、与えられる善意を貪る彼女らに、果たして救われる『資格』があるのか。

 

涙目になりながら唇の端を血で濁すスバルへ、いつも通り、全く変わらないきょとん顔をするミカに、スバルの堪忍袋の緒は細まるばかり。

相も変わらず、どうして、救いたい方向から離れていく。

 

「んー。んー?」

 

「──その顔」

 

「その顔、その顔だよ、何に納得してない。なんでずっと、そうやって遠くに行っちまう。それが、イラつくんだよ…!」

 

「んーと、ね。救わせたい?とかはよく分かんないけど…ねぇスバルくん」

 

ツルギを押しのけ、ミカは血を贅沢に服で拭い取り、瞳と瞳との境界が分からないほどの距離で聖園ミカは────。

 

「君が、そんなに願ってくれてるなら、なんで早く私達を終わらせてくれないの?」

 

スバルが思い描く『救う』形とは、掠りもしない歪な『救い』を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──酷いダブルスタンダードだ。なんで?なんでとはなんだ、助けて欲しいと願ったのはそっちだ、なんでとほざくなら、こちらもなんでと返してやる。なんで、なんでなんで、『なんで』と口を開いたのか、と。

 

「は……。はぁ?お前が、お前が──」

 

こんな、終わらない人狼ゲームごっこに引き込んだのはアリウスで、聖園ミカで、浦和ハナコで、ベアトリーチェ。助けて欲しいから、救って欲しいから俺を削ると宣言した張本人が、

 

「お前が、いっちばん言っちゃダメな言葉だろ、それは」

 

夜空に浮かぶ星空のような瞳、変わらない綺麗な瞳。幾ら手を伸ばしても触れられない夜空の星と、同じ瞳。

──何かおかしいと思った、何も噛み合わない訳だ。

 

「────」

 

「救われたいんじゃ、なかったのか?」

 

「うん」

 

「────??」

 

あっけらかんと頷くミカ、終わり=死と仮定するなら、ミカが問うたのは『何故早く殺してくれないのか』という事になる。

事情を解せぬツルギが様子を伺っている隙に、言葉の真意を聞き出そうと、頭の中の不安を消したくて、名を呼ぼうとする。

 

「──ミ」

 

「あー、なんかごちゃついてる感じっすか?」

 

だが、新たなる異分子にその探求を邪魔されてしまう。

目線を百八十度回転、その先には仲正イチカが頬を掻いて、全てを把握せぬまま──、

 

「イチカちゃん。スバルくんを連れて逃げて」

 

「──。了解しました」

 

また、置き去りにしようとしてきた。

その場で困惑したまま、遠ざけようと。ならば抗うしかない、イチカの登場により呆然とするツルギへ向かい走り、ナツキ・スバルが少しでもこの場に残れる道を選ぶ。

 

「ツルギ!目を閉じろ──!!」

 

天高く吠え、そして天高くアロナを投げる。

電源は消し飛ぶが最大パワー、最大出力のフラッシュで一瞬でも視界を塞げればいい。スバルの叫び声に応じミカとイチカが目を閉じる──が、

 

「────!」

 

ツルギは、一寸たりとも瞼を動かしていなかった。

彼女の表情を脳に焼き付けたまま、空中でアロナが夜空を切り裂くほどの光で照らしつくす。

 

「っ」

 

その、目を閉じていた間に肌を突いた突風。

開ければ、目指していた相手はその場にもういなかった。いなくなって、何処に行ったのか。

 

「がぁぁぁッッ──!!!」

 

「ちょっ、ミカ様!目を離さないで下さいって!」

 

「すんごい無茶を言われた気がするけど、それぐらいどうにかしてよ☆」

 

──ツルギは既に、イチカへと犬歯をうならせて飛びついていたのだ。光が場を包みこむ直前の光景を記憶し、網膜を焼きながらイチカを襲った。

またしてもスバルは眼中にすら留まれず、手が届かないまま。

 

ツルギの憤怒が一体何から来るものなのかは分からない、けれど記憶の中の二人は、こうも血なまぐさい関係では無かった。スバルの無常さに拍車をかけるように、イチカの登場を皮切りに続々と両軍が集まってくる。

 

もみくちゃになる二人の戦況は一方的だ、怒りのままその恐ろしい腕力を全開に、『暴力』を果たすツルギの血気迫る様子に、イチカは抵抗できていない。

 

「ッぁ゛、部長、を…それぐらい、って言えるならもっと早く勝っといてくれません!?」

 

「イチカァ!イチカッ!何故だ!!何故殺したァッ──!!」

 

「皆!お前を慕っていたのに、何故──」

 

「よいしょ」

 

血眼で拳を振り下ろすツルギを、ミカが横から殴りつけイチカから剥す。そしてスバルの聞き間違いでなければ、ツルギの発言はイチカが『人殺し』へと相成った事を示していた。

 

前提が全て覆り続ける。仲正イチカが、ツルギの憤怒を呼び起こす相手を殺害したとなれば、一度目のループであそこまで温和だった説明がつかない。

 

間違いなく、今回のループ、前線の撤退時に仲正イチカはツルギの目の前で、

 

「────」

 

──生徒を殺したのか。

 

「────」

 

「英雄、ナツキ・スバル」

 

「ぁ?」

 

「英雄ナツキ・スバルによって、全ての悪は討たれる。全ての罪は浄化される。全ての悪徳は存在できなくなる。故に私達は──英雄譚の中で消える『悪』」

 

「明日を生きる意味すら見つけられなくとも、今を生きる理由すらなくとも、物語の端にすら書かれない名も無き端数であったとしても、英雄ナツキ・スバルの為に『終わる』事が出来たのなら」

 

「──私達は、救われる」

 

「────」

 

「──。馬鹿野郎、クソ馬鹿野郎、お前ら全員どうかしてるよ」

 

──遂に、スバルの掌から『答え』が零れ落ちる。

正答が、正解が、正しさが、何も通じない異常な存在達を前に、頭と同じく、心も身体も拒絶を選ぶ。

 

ナツキ・スバルは大人じゃない、誰かを導き正せる『先生』にはなれない男だ。その代わり、隣で、すぐ傍で、共に道を歩ける存在だ。

なのに、隣で歩く生徒らがこうも、こうも『道』から外れてしまっているのならば、ナツキ・スバルに、『ナツキ・スバル』に何ができるのか。

 

死が救いなど、彼女らの求める救いの終着点が死であるなどと、そんなの、そんな事、

 

「狂ってる」

 

カウンセラーもお手上げの、誰も耳を傾けないような妄言に惑わされた、話を聞くだけでも馬鹿馬鹿しい奴らに、ナツキ・スバルは壊される。

何もかも投げ出して喚き散らしたい、やってやる、そうしてやる。──そうしたところで、『やり直し』を信じている限り終わらない。

 

ここまでして、ここまでやって、こんなことまでやって、望みが、願いが、破滅である事なんて許されない。

ナツキ・スバルは『救う』為にここに居る。『救う』事で結末が、より美麗になると信じて、

 

「声が小さいね、ナツキ・スバル。もっと大きな声で叫んでよ」

 

「──。狂ってる」

 

ニコニコと、嗤う聖園ミカは最初から何一つ変わらない。

満天の夜空のような瞳は、スバルを閉じ込めてくる。

 

「うん」

 

「狂ってる…狂ってる!狂ってるっ!!」

 

ニコニコと、笑顔を造る聖園ミカは最初から終わりまで、ナツキ・スバルに自身を偽っていない。偽っていないのなら、この吐き気も偽りでない。

 

「──うん」

 

「死ぬってのがどんなもんか知らない癖に!死んでどうにかなることなんて一つも!一つも無いんだぞ!?」

 

ニコニコと、三日月のように口の端を歪めるミカは、この混沌を生み出したのが自分でなくとも、吹き飛ばしたツルギが迸る殺意で動き始めようとも、浦和ハナコの策により、これから死地にて眠るとしても、

 

「──。うん。それでも、私達は君の敵。ナツキ・スバル、君が『英雄』になるその時まで、削り続ける」

 

「君の英雄譚が、私達のお墓だよ」

 

聖園ミカは、笑っていた。

 

 

「──狂ってる」

 

 

身体に訪れる浮遊感、イチカが脱力したスバルを担ぎ上げ、その場から離れていく。

 

離れるのなら、つまりは遠ざかる。

遠ざかって、遠くなって、置いていかれて。

 

 

 

遠くなる。遠くなる。遠くなる。

 

遠ざかって、遠ざかって、遠くに。

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