Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『お釈迦様の掌の上』

 

「──犠牲者は出ていない?」

 

「はい…!ですからその、ミネ団長をあまり過度に責めて欲しく無いんです…!」

 

小さな背中におぶさって耳にした説明に、スバルは納得できなかった。前回のループの経験から生徒の殺害方法は相も変わらない『爆弾』だと分かっている。そしてあの爆弾がもたらす『死』を避ける方法は存在しない──筈だ。

 

しかしツルギがイチカへ怒りを込め放ったあの発言が、爆弾に頼ったものでは無いとすれば、致命傷を負えど救助が間に合う可能性はある。スバルが現場に居なかった以上推測に終わりは見えないが、救護騎士団の登場により最悪の想定を避けれたというのならば、蒼森ミネ含めお門違いの憤怒を向けてしまった。

 

「ミネ団長が失踪してから、救護騎士団には常に厳しい監視の目に置かれていました…。こんな騒ぎにならないと、救護活動を自由には行えないぐらいに」

 

「………だから今になって…。いや今だからこそって訳か…。みんなの怪我の状態は?」

 

「──。外傷は、無いんです。治療すべき場所は見つからず、昏睡状態に。未だ回復の兆しは見えませんが、悪化することも無く私達が保護しています」

 

「マジかよ…!?だったらおかしい、負傷者はともかく死傷者が出てないって…『爆弾』の力は俺が一番分かってる。アレは当たり所が良かったとか、そんな生ぬるい話で済むヤツじゃねぇ」

 

体力と防御力が重要なRPGで、防御貫通即死の攻撃技が相手にだけ広まっている白けた状況、浦和ハナコがスバルの前で皆を殺戮したときにも、使われていたのはヘイロー破壊爆弾だ。──認めたくないが、スバルはあの『爆弾』をこの世で最も強力な武器だと認識している。

 

強者に油断は無い、だが『前提』はある。自分の把握している能力の中で必要な行動を選択する彼女らでも、効率と最適解の為被弾を受け入れるときがある。力量が落ちていけば自然と想定できない被弾が増えていき、結果的にはその優劣が結果を決める。

 

ならば何故、あの『爆弾』は生存者を残すような真似をした。戦力を減らしたいのなら、わざわざ効力に差異を付ける必要はない。戦場では死者よりも負傷者の方が負担になるという理由かもしれないが、その側面でもツルギのような強者を狙った方が手っ取り早い。

 

『爆弾』はアリウスにとっても貴重品。必ず命を奪える局面か、その破壊力が最も有効に働く瞬間か。言葉にしたくはない、けれどやはり、生存者を出すのなら『無駄遣い』と言わざるを得ない。

 

「────」

 

──スバルがまだ知らない『発動条件』がある。

もしくは、使われた爆弾自体が模造された複製品であり、何かしらのエラーが起きている。単純なプラスチック爆弾とは違い、根本原理に神秘が関わる以上、アリウス側の不都合だと考えてしかるべきだ。

 

聖園ミカが状況を支配できていない事を踏まえれば、何もかもが最悪に向かって進んでいたわけでは無いのだと、希望を持つ。

 

「うっ……」

 

「──ウイ」

 

ハナエが両肩に担ぐ患者の一方であるウイが、鈍い声を上げ目を覚ます。

ミネの強打を受けたというのに、かなり早く目を覚ましたウイは身体の自由の利かなさと襲い来る痛み、そして自身を背負う人物を見て置かれた状況を把握する。把握して──、

 

「ナツ──。痛っ、イタタタタ…痛い、ちょ、走るの止めてくださ」

 

「あ、お目覚めしちゃいましたか!お身体が痛むのなら、ぐっすりおやすみしちゃいましょう!」

 

「ぐぇっ!?」

 

「なにしてんの!?」

 

かなり強引なやり方で再び気絶させられそうになる。顎を狙い済ました頭突きで、ウイはスバルと言葉を交わす前に再び意識を闇の中へ落とす所だったが寸前で留まり、突然の暴挙に非難を示すようにジタバタと。

 

スバルだって話したい、ウイを悲しませた責任は言い訳のしようもない程にスバルにあるし、アリウスにも聖園ミカにも浦和ハナコにも渡してたまるものか。と考えている内にハナエが二発目を構え始めた。

 

「ハ、ハナエ!暴力禁止!」

 

「暴力?いいえ、コレは『麻酔』です!治療目的の行為ですのでご安心を!」

 

「────」

 

飛び出てきたトンデモ理論に頭が痛くなってきた、セナといい蒼森ミネといい、どうしてこの世界の『医療』に関係する生徒は皆こうも──暴力的かつ話が通じないのだ。銃を持てばすぐ喧嘩して──無くても──いや全員がそんな訳じゃ───いいや殆ど暴力的だったような───。

 

「ともかく!…ウイとは話したい事しかない。医療行為でもなんでも邪魔はしないで欲しい。大事な話なんだ」

 

「了解です!」

 

「ゲフっ……。ナ、ナツキ…さん──うぇぁっ…」

 

何か言いたげでも喉を溺れさせる血がウイの邪魔をする、スバルに何か言いたい事があって名前を呼んだのだから、ハナエに静止の命令を出して待ち望もうとしていた所、ウイの顔色は更に紫色へ。患者の容態急変に対応するのが救護騎士団だとハナエは──、

 

「ああもうほら死にかけてるじゃん!?」

 

「死にかけている──!?そ、それは大変です!今すぐ治療再開しましょう、まずは気管支の炎症を防ぐ為に喉の切開を──このチェーンソーで!」

 

「チェっ、おま、ダメダメダメ!それもう解体だよね?…それにウイが血反吐ぶちかましてんのはハナエのせいだからな…!大袈裟に言った俺も悪いけど!治療禁止!暴力反対!」

 

「えぇぇ゛!?」

 

「えぇぇ゛!?じゃないえぇぇ゛!?じゃ!……救護騎士団じゃなくて暴力団の方が似合いになる前に止めとけ…?」

 

暴挙を超えた暴挙が振りかざされる前に、団長命令を活かしてウイの無惨バラバラ死体エンドを回避させ、あわや危機一髪のウイはというと、そのドタバタを見て笑いをこらえきれなかったのか耳の端から頬までが赤く染っていた。

 

軽く吐く息と共に漏れる笑い。

身体の痛みがあれど、一度ツボに入ってしまうと中々抜け出せなくて、スバルも釣られてしまう。ウイは確か、妙な所に笑いのツボがあった。

 

「──。ぼ、暴力団。ぷふっ…ゲホッ、ヤクザじゃないですか、あながち間違いでも、痛たたたたっ…」

 

「は、くっ」

 

涙目になるほど笑ってしまったウイとスバルが、笑い切った後に視線を合わせた。か細い息は酸素を求め、話したい事すら忘れてしまうぐらいに笑って、

 

「っ、痛たたっ…あは、あははっ…」

 

──笑った後には、純粋な涙が零れ始める。

 

「はは……ッ。ぅぁ…あ、ああッ…!ごめ、ごめんなさい…ッ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ……ッ!なんでっ、なんであんなこと…!どうなるか、どんな辛い目に合わせるか分かっていたのにッ!」

 

「────」

 

「わた、私ッ…怖かったんです…!悲しくて、悲しくてどうにもならなくて!──死んだ方がマシだって思うぐらいッ!頑張ってきたのにっ、なんでッ……。だからって貴方に、貴方は悪くないのに、誰の目にも映っていなかった私達を…見てくれたのに……」

 

「──。大丈夫、大丈夫だ。大丈夫だから、泣かないでいいんだよ。分かってる、何を言いたいのか、何で泣いてるのかも分かってるから」

 

慈しみを分かち合う、いたわるように囁いて、愛おしみながら涙を指で掬う。

銃を向けたのも、『やり直し』を求めてしまったのも、ウイのボロ雑巾になった心の形のせいで、

 

「でもぉっ…!」

 

「……ウイ」

 

「──大丈夫」

 

誰のせいでもない苦しみに、責任なんて無い。

大丈夫と、一言を付け加えるだけ。それだけでいい、それしかできないし、それが一番良い。

 

「お互い、大変だったな」

 

「……ぅあ、貴方は……ッ…。貴方はっ、貴方は!…優しい癖して、残酷ですね、本当…」

 

「うん、本当に…最低な野郎だ」

 

「……そこまでは言ってません!」

 

ウイのみっともなさを受け止める。いいや、みっともなさなんて欠片も無い。ただただ純粋な、努力と勤勉からの裏切りによる涙を受け止める。

聖園ミカから何を吹き込まれたにしろ、死んでしまいたい程の絶望を乗り越えてスバルを追ったのは事実。

 

ああ──その事実さえあれば、十分だ。

 

「こちらこそ、ごめんなさい。──俺の力不足だった、何もかも。それ以外は何も無いし、それ以上も存在しない。だから、泣かなくていい……分かった?」

 

「──。貴方、貴方はどうなるんです!それじゃ、あんまりじゃないですか…!分かりません!分かりませんよそんな………ッ…。でも、ええ。……もう、泣きません」

 

「代わりに…貴方も、泣かないで下さい…」

 

折れかけの小枝のような、擦り切れた雑巾みたいな、何度も踏みにじられクタクタに、いじける寸前だった心は。

誰の計算内でも無い、誰の思惑でも無い少女の涙によって、元の形を取り戻す。

 

泣いて笑って、疲れたウイは寝静まり、憎悪の呻きは遠く、遠く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリニティ学園へ積もりに積もった灰と土、瓦礫は道を埋めつくしちりちりと肌を裂くような空気が、戦場に立つ全ての生徒を刺激していた。

 

「はぁっ、はぁっ…。やるね☆」

 

憎らしさ満天に呟いた言葉に耳を貸す相手はおらず、お嬢様、とはとても言えない息切れと様相をしているミカは、素直に『剣先ツルギ』への評価を下していた。

 

己の力量ならば、剣先ツルギ空崎ヒナの両者を相手どっても勝てると自負していたからだ。結果は、この通り。

 

見くびっていた──否、見積もりが甘かった──否。

今この瞬間に、剣先ツルギは高く評価されていた戦闘能力の限界値を超えて暴れていた。

 

「ふ───ッ。ふ───ッ!!!」

 

「あははっ、これじゃどっちが魔女か分かんないじゃん」

 

肉体強度、神秘を活用できる分の戦闘力の差、ミカも戦闘の中で技術を吸収して尚、剣先ツルギは止まらない。

腕をへし折り、腹部を貫き、胸部の骨にヒビを入れた。それらの暴力さえ、剣先ツルギの足を止められやしない。

 

折った腕は気が付けば治り、穴の空いた身体は塞がり、身体の中身は知られぬ内に元通り。消耗し続けるミカと、消耗を常に回復するツルギ両者の趨勢は徐々に、片方へと傾き始めている。

 

「とても──正義実現委員会には、見えないね」

 

「がァッ!!」

 

暗闇、視界を覆い尽くす影。

投擲される瓦礫の山は時速──数えるのも馬鹿らしい、馬鹿らしくとも、聖園ミカには当たらない。

当てるのは二の次、ミカの視界を奪ったツルギは瓦礫の投擲と共に跳躍し、その背後に付いていたのだが、それも想定内と半身で躱したミカは鬼の形相へと銃口を構える。

 

こうして、顔を撃ち抜こうとしたのも何度目か。普通の生徒なら本当に『吹き飛んで』いる筈が、血を流す程度に収まる癖して再生も早い剣先ツルギの肉体にうんざりしていた。

 

「殺し合いのつもりで来ないと、私には勝てないよ」

 

「────!」

 

「ほら、まだまだ冷静じゃん」

 

三度、同じ至近距離でのやりとりを繰り返したツルギは、引き金を引かれる前提で突進した。一度目は気合いが足りず、二度目は姿勢が悪く、三度目は印象付ける為の『ワザと』で吹き飛ばされた。四度目で制す為に、全てを布石にした一撃を叩き込もうとしていた。

 

しかし──半身を解いたミカの銃口が狙っていたのは、ツルギでは無い。周囲に集まっている部員に向けて意地悪な顔を浮かべ指を動かす。

まだまだ冷静だと指摘された理由を示すように、ツルギは銃口の前に身体をずらして弾丸を受け止めた。溢れる血と赤黒い組織達を手で抑え、牙を剥いて再び走り始める。

 

そう、趨勢が傾いていたのは、ミカの方へ向けてだ。

全体の戦況は文句のつけようもない和平派の勝利、アリウスは撤退し避難民は確保され、僅かな強硬派も捕まった。

だが、聖園ミカは一人で全てを覆す力量を持っている。周囲にツルギの味方が増えても、ツルギの助力は出来ず、良い標的になるだけ。

 

「狐ちゃんは暴れたいだけ、有望な後輩はお眠中、頼りに出来る子は誰もいない。……あはっ、どうするの?部長ちゃん」

 

「────」

 

「わっ、視線だけで死んじゃいそう」

 

──憎悪に呑まれようと、憤怒に染まろうとも、剣先ツルギの精神は揺らがない。正義実現委員会の部長としての経験が、揺らぎようの無い戦闘への視点を作ってしまっていた。

 

本来であればキヴォトスにおける『最強』の素質とも言える才能が、ツルギを苦しめる。

見れば、背後には怯えた顔で血塗れのツルギを見る後輩達に、戦闘に不慣れながらも奮起したシスターフッド。

聖園ミカの破壊力が点では無く面に特化している限り、ツルギは一度隠れて奇襲の選択肢を奪われている。

 

「殺し合いッ、殺し合いだと───ッ!!」

 

「そう。殺し合い。その気の私と、そうじゃない貴方。それだから……──」

 

「イチカちゃんにも、部下を奪われちゃうんだよ☆」

 

「──。貴様」

 

そして──この、口撃。

挑発とは、単に心に秘めた苛立ちを発散する為だけのものでは無い。戦略的な側面においても非常に有効であり、聖園ミカが最も剣先ツルギより秀でていたのは『悪意』の発散の仕方だった。

 

「………。んー、どうしよっかな」

 

さりとて、聖園ミカもこの戦闘に価値を見い出せないでいる。理由も方法も分からない浦和ハナコの裏切り、アリウスの奥の手もどうしてか、功績を挙げられていない現状を打開する方法は思い当たらない。

 

──戦闘を放棄すれば全てを覆しかねない聖園ミカと、戦闘そのものは優位を保ち逃走の隙を与えない剣先ツルギ二者間の拮抗を崩すには、新たな異分子が必要。

 

奇妙な事に、両者の意見は一致していた。

殺すか、殺されるか。新たな戦力の参加が望めないのなら、どちらかが死ぬまで戦うしかない。

先に決断したのは無論、聖園ミカ。

──狙う矛先は常に、弱者へ。

 

「死ねェェエエエッッ──!!」

 

「遅いよ」

 

一手遅れ二手遅れ、取り戻す頃には敵は二歩先に。

庇う事ができる距離でない、攻撃できる時間も無い。飛び交ってショットガンで殴り付けるのは、弾が放たれた後のこと。

常人の全力逃走如きに、聖園ミカが追いつけないという淡い幻想は無く、またもや剣先ツルギは己の才能と優しさに裏切られ───。

 

 

 

 

「──そこまでです」

 

 

 

 

 

 

 

 

弾を撃ち落とした光は、爆撃機からの投下を想起させる速度で地に降り立つ。ピリピリと、皮膚が総毛立つ感覚に聖園ミカは目を細める。

正直な所、加勢を期待していた仲正イチカの到着が遅れている時点で少しは予感していた。トリニティが破壊に呑まれようとするならば、必ず立ち塞がる怪物の内の一人。

 

「──救護騎士団団長、蒼森ミネ」

 

「聖園ミカ、貴方の暴虐に──終わりを」

 

正々堂々、威風堂々、抜山蓋世。凡その『強大さ』を表す言葉を貼り付けても、『蒼森ミネ』の四文字には届かないその気丈さ。

名を名乗り、目的を告げ、お辞儀をする。隙を晒す一連の行為は決して強者の余裕では無く、彼女の誇りと信念によるものだ。

 

「貴方にも、『救護』の道を!!」

 

「っ、重っ…」

 

殺意にも敵意にも迷いがある剣先ツルギの拳も、本来ならばビル丸ごとを拳で解体出来る破壊力を持っている。しかしこの場において最も『強い』のは、心の在り方に疑問を抱かぬ者。

 

『救護』という目的のみに絞られた蒼森ミネの拳は、ただ暴力として放たれるツルギよりも重くのしかかる。

ミネもツルギも、真に脅威とするべきはその『精神』であったと、ミカは苦笑しながら受け流そうとして、

 

「──ふんッ!!」

 

「────!?」

 

──受け止めてからの、加速。

振り下ろしを耐えるだけで精一杯のミカは、ミネと付かず離れずのまま地面へと抑え込まれる。

 

「ちょっ…と、やばい…かもっ…」

 

右手一歩と、全身全霊の張り合い。幾ら消耗しているとはいえ、そこまでの差は無いと思っていたが──こちらも、見立てが甘かった。

堪え、堪え続け、ここまで拳を握り締め続けた蒼森ミネに集約している破壊力は正しくキヴォトス一。

 

身動きが取れない事実は、自分の力量を把握しているミカにとって驚愕に値する。引きこもって表舞台に立たなかった臆病者が、こうも揺らがず戦場へ立っているのも理解し難いのだ。

 

「っ、っあ…」

 

「っ、聖園ミカぁぁ……!!」

 

「──ツルギさんも動かない!貴方も『救護』対象です!」

 

「………………」

 

「私の腕は振りほどけませんよ。貴方では、私に勝る事は出来ない。それは戦闘能力の差では無く、私達の胸に抱いた信念の違いです」

 

「ふっ…つーに…!筋力じゃないかな…!?」

 

少し気抜けするラフな言葉使いをするミカも、自身を押さえ付ける筋力を覆せる手札は無い。神秘の行使も集中力が必要で、体全体が強い重力で押し潰されている様であれば銃も使えない。

 

──詰み、かな。

 

最初からこうなる事は予想していた。自分が思っていたより戦えたのと、剣先ツルギがこの場においても甘えを捨てきれなかったのが幸いして、戦闘は長引いていたが敗色濃厚。

ナツキ・スバルにやり直しをさせる為には、この場に居る全員を死体にしたかったが、それも無理。

 

死ぬまで足掻く。その意思を果たす為には気絶などしていられない───が、

 

「イチ……カちゃん…は…?」

 

「………私は、一直線にここへ来ました」

 

「──。ふふっ」

 

もしも、全てが己の想像の最悪を辿るとするならば、仲正イチカがこの場に居ない事、そして物の見事に嵌められて、ナツキ・スバルを逃がさざるを得なかった事、今こうしてどうにもならないザマに追い詰められた事、それら全てを手の内で支配している相手を、聖園ミカは知っている。

 

知っているからこそ──絶好の機会を逃す様な相手では無いのだと、彼女の到来を予感した。

 

「──ええ、確かにそこまでです♡」

 

──その予感は、見事的中する事になる。

救護騎士団団長蒼森ミネ、ティーパーティーホスト聖園ミカ、正義実現委員会剣先ツルギ、トリニティ最高戦力三名を一箇所に集め、そして堂々と三名の前に姿を表したのは、

 

「出てきましたか、トリニティに巣食う腫瘍が」

 

「酷い言い草ですね。それに腫瘍というのは本来、善性だったものが悪性に転じた事で生まれるモノです」

 

「──私も、『救護』して下さいますか?蒼森ミネ団長」

 

「浦和ハナコ。貴方は自らが『救護』される事を望んでいない。ならば、私は貴方に自己救済の路を選ばせてみせる」

 

「嬉しいお言葉ですが、うふふっ…。ミネさん、私達はあくまでも、物語の主役を引き立てるマクガフィンであり脇役であり、そして私はヴィランです」

 

「──主役は、ここに居ませんよ?」

 

「────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なんで」

 

「…久しぶりだね?あの時は本当に、上手く騙されちゃった」

 

「でも、二回目は無い」

 

──彼女と出会う事が、即ち絶体絶命であることを、スバルだけが理解していた。アビドスでの因縁は計り知れず、そして今尚膨れ上がる因果の収束先。

アリウス生徒の中でも、一段格が違う敵対者達と最悪のタイミングで邂逅する。

 

「ああ。──二回目は、無い」

 

「つ、辛いですよね。生きてて良いことなんて無くて、苦しみばっかりで…直ぐに、楽にしますから…」

 

「…………」

 

「──ハナエ。俺を置いて、逃げろ」

 

 









未来を見れるセクシーフォックス。

???「……『大丈夫』。君のその言葉一つに込められた安寧の想いは、十分世界を救うに値しているよ…。ふふっ、だからこそ、申し訳ないとも思わないが……君の現象として残したその『言葉』、借り受けよう」
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