『早速で悪いんだけど、寄り道and道草食べに行かね?』
『……まだ巡回中、それに解決しなきゃいけない抗争もある』
『えっ、ーーそうだ仕事あるんだった、ディスティニードローした切り札様、願わくばアコに仕事押し付けてランデブーしない?』
『………………《もしもし、イオリ…ーー》』
数々のBADエンド、いやDEADエンドを経験したスバルは、この世界の危険性を理解してきた。
その最たるものが一般に流通し、互いの肉体強度が高いが為に向けあっている『銃』。
「今更ナイフだのなんだのでビビるつもりはなかったが…」
記憶を辿り、便利屋と遭遇するきっかけになった助けを求める少女へとまずは案内した。彼女を置いていってゴール等と、ハッピーエンドには相応しくない。
だが今は、ビニール袋に手を突っ込み、中身を漁ってお菓子を食べたい気分だ。映画館でポップコーンをつまむような感覚で、コンポタを口へと放り投げる。
「ごほっ」と噛み砕いた時の破片が喉の奥にぶつかってむせてしまう、胸を叩きながら一息ついて……ヒナの方を見る。
「ーー素手」
「素手は…初めて見るわ」
「狭い場所ではこっちの方が早いの」
そう言って、苦笑いしながら軋むスバルの顔は中々元に戻らない、
機械人間から拳を引き抜いたのを尻目に、少女の身を心配する。そのひきつった笑みも…カヨコの言葉を思い出し、筋弛緩剤が打ち込まれていると伝えた上でさっさと引っ込めた。
やってしまえと心の中から叫んだのは良いが、流石に手刀と殴りでカイザーの機械人間3人を瞬殺するとは。
ここから先の人生でも鉄の塊を素手でぶち抜く奴なんて、全身機械改造されたサイバーシティ出身のサイコ野郎か、ヒナしかいないだろう、恐らく、メイビー、多分。
「これでミッション1解決って所か……後は……」
周囲を見渡す、あの時は助けて貰った立場だがそれよりも…ーー何十回殺された借りがあるからな。
流石にこの生徒を背負ったままヒナに相手してもらう訳にはいかない、ササッと近づいて、女子生徒を背負い上げる。
「むむむむむむ…そろそろな筈なんだけど…ん?」
すると、何処か背中の少女が忙しない。
「ぁ……」
「あぃ…あぃぁとう…!!」
……………。
「ーーお前もよく頑張ったな、声を上げてくれなきゃ気付かなかった」
「それに俺も、走れなかったんだ」
「知らねぇだろうけどこれでお互い様って事、俺からも『ありがとう』ってな、ほらリッスンミーリピートアフターミー…ありがとう」
「ぁいがとう!!」
力の入り切らないか細い腕がスバルの首に巻きついて、それから強ばった肩の力が抜けきったのか、ずり落ちそうになってしまう。
怖くて、寒くて、涙を流し、恐怖に染まっていた心が……背負ってくれている少年に精一杯抱きつくと温まる。
安堵感に心を和らげながら、目をつぶった。
ーーその姿を、空崎ヒナは目に焼き付ける。
「皆ちっせぇから、同じ年齢ってのが信じられねぇぜ…寝落ちしたし」
「…………セナを呼んであるから、預けたらシャーレへと向かいましょう…ーー貴方の予言通りね、カイザーの誘拐…どうやって分かったのかしら」
「それは企業秘密ってことで!乙女には秘めた秘密があるみたいに、俺だって秘密を持ってた方が男としての魅力があがるってもんさ、まぁまだ本命が……ーー」
その時、路地裏へ声高々に名乗りを届ける者がいた。
「待ちなさいっ!そこの悪、党……ど、も……」
「……こりゃどうも、置き餌に勝手にかかってくれて助かる」
幸運にも向こうからやってきた、赤黒いコートに身を包み、スナイパーライフルを構えながら…カッコよく登場しようと考えていたのであろうーー陸八魔アルが気まずそうに顔を逸らす。
街中を突っ切って来たのか、汗を流しながら……。
「いやアレ冷や汗だな」
「便利屋まで……ーーこれも、予定通り?」
「ん、んむ、まぁそう言えばそうなる」
こういった場面は……蛇に睨まれた蛙、とでも言おうか。
蛇どころかメドゥーサに睨まれたレベルで硬直し、石化するアルの後続に、他のメンバー3人もぞろぞろとやって来た。
スバルが求めるもう1つの戦力が集まった、ーーそこらの誰か、ではダメなのだ、ヒナを更に納得させつつ、災厄の狐に対抗できる存在。
厄介事に巻き込まれやすくて、義憤に燃えやすくて、話せればきっと分かり合える者達。
確かに、言われてしまえばこれは『予定通り』だ。ナツキ・スバルが死に戻りで掴んだ、必然。
「ヒナだ、アイツらが裏切った…逃げるよ皆」
「あっちゃ〜、アルちゃん不運だねぇ…」
「ア、アル様…!ここは私に!」
「ーー便利屋68、いい度胸ね…この期に及んでゲヘナに足を踏み入れるなんて」
即座に全員が戦闘態勢を取る、カヨコが算出した逃走ルートを走る為の目くらましとしてムツキがバックを構え、ハルカが単身でジリジリと距離を詰める。
アルを逃がす為、全員が独自の動きを見せようとした時に…ーースバルがヒナと便利屋、両者の間に仁王立ちした。
後ろに銃、前にも銃。爆弾が投げられようとしていて、狂犬が牙をうならせている場で、胸を張ってスバルは立つ。
例えーー銃弾1発で無くなる命でも。
「…スバル、何をしているの」
「ち〜とタンマタンマ!お互い牙を収めてクールダウンしようぜ?バチバチ銃向けあうこたぁ無いって、ヒナも逮捕するのは待ってくれ、俺から便利屋に話がしたいんだ」
「は、話?ふん!便利屋はお安い会社でも無いのよ、お生憎様先客が居るの、依頼は必ず達成するのが……」
「俺みたいな特徴を持った人間を誘拐しろ、だろ?カイザーコーポレーションから依頼されて来てるのは知ってる」
「っ!?貴方それを何処で…!」
「それに、悪事に巻き込まれた奴を見捨てるなんてアウトローはしねぇ筈だ、俺に今背負われてるちびっ子はカイザーに誘拐されかけてたんだよ」
「……」
「泣いて、助けを叫んで、そんな事させる奴を見逃すのか?」
「……ーーそれともカイザーの味方をするのか?」
「も、勿論よ、依頼者を裏切るなんて……ぅ、便利屋の矜恃を裏切る事は……」
「それはアウトローじゃないって分かってるだろ…ーーなぁアル、話をさせてくれ、生粋のアウトローのアンタに知らせたい『巨悪』って奴の話を」
先手を打てる、思考が分かる。それがスバルの利点、唯一この世界で、唯一死に戻りで得られるリターン、長年の友が語り掛けるのならいざ知らず初対面のスバルが何を言おうが無駄だ。
だが、スバルは知っている。誰に、どの様に、何を言えばこの場を収められるのか。
便利屋はアルが止まれと言えば止まり、アルが進むと言えば進む、そんな理解と信頼を積み重ねた便利屋の姿を1度見ているのだから。
「【俺が悪党を撃ち殺すのに理由はいらない、必要なのは引き金を引く事だけだ】……ーー何の力も、能力も無い俺と、生粋のアウトローで便利屋の社長のアルとは奇妙な共通点がありやがる、本能って奴だ」
「それが何か分かるか?いや、きっともう分かってると思うぜ」
「ーー悪党を討つ、それがアウトローが持ってる本能だろ?」
「…………」
心の中は共感性羞恥が働きかけている、コミュ力1の影響でカッコよく言い切れたかは分かんねぇ、でも良く頑張った俺、GG。
分かってる、2度目の世界でもそうだ、アルは『コレ』が大好きだってな、カッコよくて、厨二病臭いけど……自分の中の正義に従うアルなら、きっと聞き逃さない。
ーー何度お前らに殺されても、1回こっちはカッケェ姿見てんだよ。
「ーーふ」
「ふ、ふふ……貴方の名前を聞かせてくれるかしら」
「ナツキ・スバル、天衣無縫の無一文にして、義憤に燃えるアウトロー」
「便利屋68、社長の陸八魔アルよ……貴方とは初めて会う気がしない、聞かせてくれるかしら?その『巨悪』とやらの話を!」
ーー但し。
その世界に浸れるのはスバルとアルだけなので、周りの皆は置いてけぼりになっていたのだが。(※ハルカを除き)
「ア、ア、アル様を呼び捨てにするなんてぇぇぇッ!!!が、害虫、害虫は駆除しなきゃ……!!」
「いやーーー!?アルーー!!止めてぇっ!?」
「ハ、ハルカ!大丈夫!大丈夫だから!」
■
ーーゲヘナの街道。
それは銃声と罵倒、爆発の嵐が常駐する世界、街に出歩いて怪我をしなかったら幸運という言葉がまかり通るのがゲヘナ。
その日常を知っている者ならば、目を疑う光景が広がっていた。
「ーーなるほど、連邦生徒会の裏切り者にカイザーコーポレーションのシャーレ掌握」
「それなら依頼の話とも辻褄が合うね、私達も『空崎ヒナを誘導しておく』って言われてたから」
「カイザーが?……つー事は、やっぱさっきまでのアホみたいな抗争の量って…………なぁヒナ、その、置き手紙の内容って全部知ってんの?」
「全部…は、知らないわね、恐らく把握しているのは連邦生徒会に属してる人物だけだと思う」
あの最強であり最恐の風紀委員長が、ゲヘナから追放された便利屋と並んで歩いているのだ。
いや、並んでいるという表現は正しくない、ある男が中心に立ち、その男を中心として話が回っている。
あれは誰だ、ぐったりとした少女を背負っている男は…銃も持っていない変態で、あの風紀委員長と便利屋に挟まれて何ともない狂人か?
「それじゃその子をセナって子に渡せば…シャーレに?」
「ああ、それからシャーレにはアル達も付いてきて欲しい、カイザーがやってくるってなったらそん時だけだ、必ずアイツらは俺を止めに来る、サンクトゥムを起動させない為にも…俺を、殺しに」
「…ヒナが居れば問題ない様に思えるのだけれど?」
「あ〜…その、なんだ、ヒナにもやって欲しい事がある、…マジで頼み事ばっかりで悪いけど、手が足りてねぇ上に時間まで無いんだ」
「なんせ説明まで出来ない……それでも…」
「ーー『信じて欲しい』、安心して…ナツキ・スバル」
「貴方が『寄り道』をしなかったらその子は連れ去られてた、風紀委員に属する人間として、感謝を述べたい位よ…だから、貴方の不思議な勘も今は信じる」
「っ…S・M・G過ぎんだろ…!ヒナちゃんマジ天使、心の底から愛してるぜ女神様!ハニー!キューティー!!」
「………………はぁ、
ーーナツキ・スバル。
誰が耳にしたか、あの集団から聞こえた名前。
誰もが畏怖する空崎ヒナの名は皆知っている、誰もが危険視し、その名を聞けば銃を固く握り締める便利屋のメンバーの名も勿論皆が知っている。
その誰でも無い名前は、道行く人々から大衆へ。
大衆からより大きな大衆へと伝わっていく。
ナツキ・スバル、ナツキ・スバル、ナツキ・スバル。
その名は瞬く間にゲヘナ全域へと広がる事になった。
■
ヒナが手配した車を乗り継いで、過去史上最速記録を叩き出しながらシャーレへと向かったスバル。
そこに行くまでに見た、荒れ果てた道路、割れたビルの窓ガラス、崩壊する建物を見てボヤく。
「来たぜラスボスダンジョン、よくも詰みセーブを渡してくれやがったな!!……ーーってさ、意気込みたいんだけど…」
「これ、今ーー何が起きてんの?」
戦力は揃った、ダンジョン:シャーレを攻略できる人材を手に入れた。
誰も見捨てる事なくラスボスへと挑める、その事実に胸をなで下ろす。自分の吐いた言葉に嘘をついてしまうくらいならば、今のスバルならば死に戻りすら辞さないだろう。
ハッピーエンドの条件は、全員が笑顔で終わる事。
それだけがスバルにできる誠意であり、命を救われ続けてきた過去に対しての答えなのだ。
だからスバルは胸を張る、この45回目の世界でも変わらず善意を施してくれたヒナに、自分の中の正義に従ってくれた便利屋に。
「あわ、あわわわわ…」
「……これ、は…これも、貴方の予想通りなのかしら?」
ーーでも、これは違うだろう?スバルを裏切るのは何時だって善意じゃない。
悪意を持った世界だ。
「ぶっ壊せぇぇぇッ!!カイザーも連邦生徒会も何もかも!関係無くぶっ壊せッッ!!革命だァァァァ!!」
「全員集合ッ!カイザージェネラルからの命令を伝える!『サーチアンドデストロイ』サーチアンドデストロイだッ!」
「今日の日、今日こそが転換期、シャーレ掌握を最終目標として行動開始!!!」
「ヴァルキューレ警察全員に通達する、シャーレ付近に接近する全員の逮捕許可が出ている、この防衛ラインを越えさせるな!広く防衛網を張れッ!ゲヘナの温泉開発部は発見次第カンナ局長に報告、即座に対応せよ!」
「ハーハッハッハッ!ハッハー!⤴︎ タレコミがあったのはここかな?」
「……」
「……ーーマジで、何コレ」
シャーレが存在するのはD.U区の中心。
そこに、ゲヘナ生だけでは無くカイザーまで、そしてスバルが見た事もない生徒達が一同に集まり、戦争とも呼べる規模で鎬を削りあっている。
ナツキ・スバルの知らない、ナツキ・スバルが経験した事の無い未知の世界が広がっていた。
シャーレビルで巻き上がる爆煙は、恐らく災厄の狐のモノ。
あちらこちらで起きている爆発は、開発だー!と叫びながら暴れ回っている狂人達のせい。
広く敷かれたライオットシールドの壁は、日本でも発生する事があるデモを対応する機動隊かのようにも見える。
空はカイザーの戦闘ヘリが覆い尽くし、地上は扇動されでもしたか、スケバンやら不良、ヘルメットを被った少女達が暴れ回っていた。
「……」
あらゆる危険を避ける為に、それだけ早く訪れたつもりだ、それだけ万全に戦いへと挑んだ筈だ。
スバルが死を超えて、時空を超えて辿り着いた先が…コレ。
「……あ〜゛…ほんッッと、上手く行かねぇなぁ!!!」
そうして、場が整う。
役者も揃った、これから主演【ナツキ・スバル】による…。
ーー舞台の幕が上がる。