Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『絶望と絶望の狭間で』

 

──予期せぬ破滅によって、トリニティ学園は『黒』の底へと沈んでいった。

 

イチカに足を撃たれ担がれるしかなくなっているスバルは、ツルギの肩で終わる世界を眺めるだけしかできず、『黒』に飲まれた生徒がどうなっているのかは分からないし、シロコの時とは全く違う罰の形にも理解が及ばない。

 

明日、地球が滅亡するとなればこんな光景なのだろう、不思議と冷静な頭が嘲っていた。

死に戻りのペナルティは、その理を知った者のみに下される。という前提の破壊、思考は虚ろに、現実を前に瞼を開けていられそうになかった。

 

遠近感を失わせるほどに黒泥は真黒く、光を吸い込んで離さない闇の中に一体何人の生徒が飲み込まれたのか。

 

「────」

 

敵かどうかも不明な災害は、シンプルな敵意と悪意よりもよっぽど心の奥底に恐怖を呼び起こす。

もう、満腹だ。詰め込みすぎた、絶望も恐怖も胃の中に入りすぎて、これ以上は吐き戻してしまう。

 

「────」

 

何の為か誰のせいかは知らないが、あの『愛してる』がスバルを『愛してる』である事ぐらい分かる。『愛してる』事を徹底的に理解させようとあれだけの物量で迫られたのだから、鈍感主人公でも流石に気が付く。

 

──何が、愛してるだ。

 

本当に愛してくれている相手が既に居る。今更何処の誰が愛していたとしても、シロコ達がスバルを悲しませるような事はしない。愛しているなら、全部巻き戻せ。

 

一生懸命に、必死に、前に進んできた意味を失わせるような事をするならば、せめてもの慈悲を与えて欲しい。

 

「っ……」

 

凄まじい泥の物量に出来ることといえば避難所の生徒を全員トリニティから退避するように声を掛けるぐらいで、未だ顕現し続けている黒い太陽が誰の目にも止まって無いことを祈るしかない。

 

しかも、ミネやツルギ程でなければ『愛してる汚染』とでも名称しよう精神干渉に抗えず、ハナエやマリーの様に発狂する。

一人が反応すれば次々と視線を空にあげてしまうだろう、そうなると一巻の終わり、パンデミックの様に広がり──トリニティは滅亡してしまう。

 

「────ミネ」

 

明らかにスバルを追ってくる汚染された生徒と泥を、ミネは拳一つで跳ね除けているのが水平線に重なって見えた。

 

泥への対抗策は今の所、進行する足場を無くすだけ。驚異的な腕力で泥が這う地面を切り崩すミネは、加速しきったパンチの風圧で拳が泥に呑まれる前にその下の地面を破壊している。

地面を引っぺがしては投げつけ、空いた隙間に亀裂を作り地下へと泥を流す。強引すぎる解決方法だが、泥の進行に滞りが生まれ始めているのは効果があると見ていい。

 

無尽蔵に湧き続ける泥がトリニティを飲み込む前に、彼女が倒れる事はない、無根拠だがそんな安心感がスバルの正気を保たせていた。

 

「……こんな事になる前に、反乱が始まってて良かった。殆ど全員避難済みじゃなきゃ、もっと酷いことに…」

 

「……きぇぇッ……これ以上が…あるとは…思いたくもないが……」

 

──物量が物量、スバルへ向かう泥の大半がミネの手で塞き止められているとはいえ、三百六十度の方向に泥は流れ続けている。

壁となる建物は元から倒壊済み、ミネ以外に遮るモノはないせいか思うがままに泥は蹂躙を広げていく。

 

ツルギの後方、ミネから僅かに逃れた黒泥が迫り来るが、一瞥もせずショットガンを放つと着弾地点が爆ぜ、跡形もなく泥はちりじりに。

 

「ハナエも、マリーも、ハナコも皆んな、消えちまったのか」

 

「……貴方は、あの黒……いや、虹のような、太陽が何なのか……知っているのか…?ミネが託すと言ったのなら、貴方は……」

 

「っ…それは、ごめん。力になれそうにない。アレについて知ってる事は殆ど…──」

 

歯を食いしばりツルギがスバルに質問を投げかけた事で、スバルの脳内に記憶が破裂する。

シロコに対しての罰でアレは『反転』を引き起こした。確定とは言えないが、暴走したホシノを殺せるだけの実力はあの時のシロコには無い。そしてこの世界、キヴォトスにおけるパワーアップや覚醒といった代物は──元に、戻る事。

 

黒服の言説を信じるなら、『神性』を取り戻す事。

即ち『恐怖』への反転現象である。

 

「────」

 

「ツルギ、なんかこう…体の調子が良くなったりしてないか?いやこんな時に聞くのも変だけど、とにかく力が強くなったり」

 

「──。さっきの射撃は、確かに違和感があった」

 

ツルギは自分の手に握られたショットガンを見つめ、先程の泥を退けた射撃を思い返す。反応速度、空間把握能力もそうだが、破裂を起こせる程の攻撃力は発揮した事など無い。

スバルの記憶にあったミネも、怪力ではあるが──あそこまで怪力乱神では無かった筈。本気を出してなかったのでは、なんて疑問は彼女の『救護』に失礼。

 

「逃げても解決しねぇ、退避してもジリ貧……あの太陽に直接攻撃をぶち込んで壊すってのはどうだ……?」

 

「やってみる価値は、あると思う…思います。……泥の供給源を…破壊できれば、ミネにも…余裕ができる」

 

実物の太陽でないのなら手が届く。現にアレは実在するからこそ、泥を産み落としているのだから星に似ているだけの別物だ。

退避を続けスバルとツルギは意見交換、ミネの足止めがなくとも泥を後方に置き去るスピードで走っていく。

連戦につぐ連戦なのにも関わらず、一切の消耗を見せないのは本人の力量を超えて異常だ。

 

ふらついている様子を見て眉を顰めるスバル。不安を増幅させないよう、ツルギは身に起きた事実を告げる。

 

「……っ。イチカを助けようとした時に……触れてしまった。そこから、激しい熱が全身を駆け巡ってくる」

 

「泥に触れてたのか……!?」

 

風のような疾走をしているのに、スバルには一切負担が掛かっていないのも彼女の『パワーアップ』が要因。強さと引き換えに精神を犯すとは───ああ、シロコならば乗り越えられてしまうのが、あのループでの不幸だったか。

 

「……キツそうなら、俺を置いて避難してくれ。アレの狙いは俺だ、しかも俺はアレの影響を受けない。少しぐらい、時間を稼げる」

 

「──断らせてもらいます」

 

「──っ。でも!」

 

「イチカを含め、後輩は…皆、沈んでしまった。その上でまだ、目の前で他人が命を捨てていくのを見過ごしたくない。精神の干渉が貴方に働かずとも……泥は質量を持っている、押し潰されて、死ぬ…」

 

ツルギの吐いた言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をする。ハナエに連れられて戦場に立った時、イチカとツルギの果たし合いを視界の端で捉えていたスバルからすれば、見殺しにしたスバルにも発言の重みが理解出来る。

 

スバルを抱える指先に力が籠り、決して離すつもりが無いのを体感。強まる意識の侵食が顔色から分かるというのに、踏み込む力を更に上げて弾丸のように疾走する。

 

トリニティ全域が焼け野原になっているのが功を奏したか、ツルギの移動は何も邪魔されず、強化された脚力も相まって到着は一瞬。

生徒が逃げ込んでいる避難箇所は二つ、トリニティ校内の部室会館とトリニティ郊外の指定避難所。

 

ウイが元々居た場所と、それからレイサに運ばれていった方向だ。順序を立てるのなら部室会館──、

 

「皆さーん!決して空は見上げず、私の誘導に従って退避してください!!命の危険があります!決して、決して視線を空へ向けないように!」

 

「────」

 

その、部室会館の前には既に、部屋内で待機していたと思われる生徒が全員、ある生徒の誘導の元退避を始めていた。

脳内検索が正しければ、あの生徒、あの子はミネと共に戦線へ向かったピンク羽のセリナ、という生徒だ。

 

だが、幾ら何でもおかしい。黒泥に飲まれていないのもそうだが、ツルギの移動速度を超えて先に避難を開始させている。視線をアレに向けてはいけないと指示している以上、最低限あの場には居たはずで、

 

「セリナ!」

 

「──!スバルさん、ミネ団長は……!」

 

「泥を止める為に前線で踏ん張ってる!俺らはどうにかして、あの太陽を破壊したい!だからもう片方の避難所も任せていいか!」

 

「了解です──っ」

 

そんな思考は必要無いと破棄。セリナにはスバルとツルギが自由に動く為の礎となってもらい、地面を大きく削りながらツルギが切り返す。胃の内容物もついでに置き去りにしそうになるが気合いで耐える。

目標は、アレこと黒い太陽。排出している黒泥に物理的干渉を及ぼせるのなら、あの太陽にも干渉出来なければ辻褄が合わない。

 

スバルへ『死に戻り』をもたらしたと考えられる元凶、いわば、スバルにとっての最強最悪のラスボス。

──愛してる。だったか、この世で、この世界でたった一人、一人ぼっちのナツキ・スバルにその言葉を最初に送った存在もまた、一人しかいない。

 

「……連邦、生徒会長」

 

アレが、あの太陽そのものが彼女だとは言わないが、スバルが持ちうる知識で絞れる対象が連邦生徒会長しか居ないのも事実。

無差別かつ無作為に、破壊と狂気をもたらすのなら結びつけはしなかった。けれど明確に、ナツキ・スバルを狙いそして──愛してる。と、甘やかに呼びかけるのならば、

 

「手紙に、予言。俺しか起動出来ないアロナ。俺が行動する前提の…トリニティ。アリウスの信仰……」

 

『ナツキ・スバル』という存在は、ナツキ・スバルがこの世界に来る以前から、『ナツキ・スバル』一個人として生活していた──?

こんな不可解だらけの世界に考察を行うのも時期尚早だが、未来予知でも出来ない限り、「───さん!」スバルの存在前提の欠陥計画を押し進めるアリウスの説明がつかなくなる。

 

未来予知だとしても、『死に戻り』が果たすのは巻き戻しではなく、「───キさん!」別の世界への移動。『やり直し』等と、認識出来る根拠が無い。

何より予言なんてものを本気で信じているのなら、アリウスの生徒が泥に呑まれる瞬間に──。

 

「…………」

 

あんな、死にたくない。と、泣き叫びそうな顔で、泥の外へ手を伸ばそうとするのだろうか。「───聞いてんですか!!!」望む死に方、望む断罪のされ方以外を受け付けない、されたくない。なら、そうか。そんなワガママを持てる程には、『人』なのか。

 

「────」

 

「……ナツキ・スバル。返事を返した方が…」

 

「──。ん?」

 

「聞いてんのかって言ってんですよ、このオタンコナスがぁ───ッ!!」

 

「アパラチア山脈っ──!?」

 

空気が弾ける音が後頭部で発生し、目玉が飛び出そうな衝撃。唐突な暴力に牙を剥きかけるが、未だ前回のループの誰とも関係を築けていないスバルにとって、気さくな暴力を振るってくれる相手というのは、彼女しかいない。

 

にしたっていきなりの殴打は酷いじゃないか、恨めしくもありがたく、時間の猶予を考えて恐らく、全力疾走をした後の、

 

「いっつつ…。オタンコナスってきょうびきかねぇよ…──ウイ。…来ちまったのか」

 

「そりゃぁ当たり前でしょう!?なーんにも解決してないのに、ドヤ顔だけして離れていったバカが向かった先が大変な事になれば、心配するのが!当たり!前!!」

 

「────」

 

「ちょっとは期待した私がどうかしてましたよ!あーはいはい、古書館は守れないわ約束も果たせないわ、挙句の果てに『また』なんて別れの言葉を使った癖に出来そうになさそうだわ、走って見つけた最初の姿が惨めに背負われてる姿だわで裏切りも裏切り、ほんっと大裏切られです!」

 

「──期待して損しましたが、期待外れで良かった。さぁ行きますよ、どうせ全部ぶっ壊れてるんです、アレも壊しちゃいましょう」

 

「──。すげぇ有難い発破掛けてもらって悪ぃんだけどさ」

 

「……なんですか?」

 

「──まずはレイサから降りて言ってくんない!?」

 

「ぅ……だ、大丈夫で……ゲホッ…」

 

ウイの代わりに全力疾走してくれたのは、レイサだった。

呼吸もままならず、唾も飲み込めなさそうな雰囲気でウイを背負い汗だらけ。見ただけでも辛そうな状態は、ウイ一人を運んだだけでの消耗では無いだろう。彼女の事だ、多数の生徒を救助した上でウイの無茶振りにでも答えたか、流石は正真正銘のヒーロー志望。

 

アレを直視して尚、立ち上がった三人組。絶望を覆すには足りうる戦力では到底無くとも、立ち向かうには十分。

 

──何より、期待外れで良かった。そんな、『失敗』を肯定される言葉を受けては、立ち向かわない理由は無い。

肯定してくれるのか、肯定してよかったのか、ナツキ・スバルの惨めさを、ウイは許してくれるのか?

 

ああ。

最初から、許してくれていなければ、古書館を燃やされた後、言葉に耳を貸す訳が無かったのか。

 

──。ありがとう。

陳腐で、愚鈍な感謝で、彼女の優しさに甘え尽くす。

 

「……──」

 

「何か作戦はありますか?」

 

「一旦、物理的に仕掛けてみる。それが無理なら手詰まり」

 

「手詰まりが早すぎますよ…!何かこう、アレが神話的かつ概念的なモノとして降臨した──とかならば、発生の要因を潰せばどうにかなります。些細な情報でもなんでもいいので、突破口は私が割り出しましょう」

 

「────」

 

──アレの降臨理由を伝えるのは、更なる混沌を招く可能性がある。それこそ、ミネを無視してウイを取り殺しにでも来られれば打つ手がない。

何か無いか、何か、目にした情報で最も不可解だったものは、なんだ。そう顎に手を置き、スバルの返答を皆が待ち望む。

 

「…………」

 

「──てん、し。そうだ、天使だ」

 

「天使?」

 

「アレが現れてからすぐ、ツルギに背負われながら見たんだよ。地中からデケェラッパみたいなもん握った化け物が出てきた。それに、あの黒い太陽は俺が原因、能力は多分…『反転』で、俺に協力してる情報筋はソレを『恐怖(テラー)』つってた」

 

「ラッパ…──天使、反転、恐怖…」

 

古書館が失われても、ウイの脳内図書館は健在。ぺらり、とページを捲り該当する伝承を探し続ける。ブツブツと聞き取れない単語の羅列、そしてかっぴらかれた目がウイの集中具合を表していた。

 

作戦立案が懸かった一幕、細かな謎は増えるばかりだが、ミネが作ってくれた猶予を使い追及するつもりは無い。

ツルギは再びスバルを、レイサは息を整えウイを抱え、どれほど離れているかも分からない太陽に向けて走り出す。

 

「天使、天使天使天使…恐怖…」

 

「──『第六のラッパによって呼び出される四人の天使』『七人の鉢を投げる天使』…ナツキさん!出てきた天使の数は!!」

 

「七人!」

 

「──。戒律に記されし終焉、アリウスの掟……反転、反転──?反転、方向、順序、状態が反対になる事。反対…不実在から、実在への昇華。恐怖と反転の関係性…──正と負、エントロピー?混沌?私達が正の状態であるからこそ、さっきの気持ち悪い頭の声が…ちっ、愛してるって何なんですか愛してるって!そういうハイコンテクストが含まれる癖して読み取らせる気のないモノが一番嫌いなんですよ!」

 

「今キレないで!?俺も『愛してる』ってのにはキレたいけど、ソレに関しちゃ意味も何も考えるな!意味が無い…んじゃなくて、考えないで欲しい。多分こっちの事情」

 

「ああやり直しに関係することですね分かりました考えません」

 

早口で意を理解し、ウイは黒い太陽における不要な情報を全てシャットダウンする。思考すべきは、どうしてか現れた天使の事。

 

知識が正しければ──トリニティで顕現しうる天使となれば、黙示録の天使しか居ない。

終末を告げるラッパ吹きの天使、黒い太陽の『反転』とやらの根源に『恐怖』、つまりは破滅や終わりに対する人の根源的恐怖。ここまで来れば、天使の出現はあの黒い太陽がこの世の終末そのものである事を指し示している。

 

「────」

 

だが、ナツキ・スバルと黒い太陽は結びついているならば、伝承の終末ではなく、その立ち位置へと押し上げられたのか。

中身が違うくとも、役割が同じであるのなら、被るモノが同じならば、同じように働く。

 

どれだけ絶望的で破滅的な代物でも──役割を持たされた以上は、役割に縛られ続ける。天使の出現は絶望への追い討ちじゃない、まだこちらに対抗出来る手段が用意されてある、という事。

 

本来は分類も解釈もされない筈の無形の存在が、無理矢理顕現したとするのならば、

 

「……まだ、確証が足りない」

 

「──ナツキさん。まだ何か話してない事はありませんか」

 

「まだ何か……って。何が……」

 

頭を振り絞った、記憶を油を抽出するように絞り出した。スバルに提出出来る情報は提出した。

で、あるのならば、思い当たるのは一つ。口の端を歪め、言わずに済むなら言わないでおきたかった単語が立ち塞がる。

 

太陽との接触はもうすぐ、内臓までも震えさせる本能への恐怖を感じながら、苦渋の決断を迫られる。

 

「何故、アレの事を知っているんですか。一度目にしたのでしょう、一度接触した事があるのですよね、でも世界はまだ壊れていなかった。だったらその『一度』に、撃退したのでは?」

 

「そうでなくとも、貴方はまだ、私の知らない情報を隠している。この期に及んで話せない、とは言わせません」

 

「───……この期に及んでも、話したくねぇよ」

 

話した所で、ウイに何の確証を与えられるのかは決まってない。スバルからすれば、天使の正体の欠片すら掴めていないのに、更なるリスクを産む行為をよりにもよって、ウイに──。

 

「ナツキ・スバル」

 

「ここで、腹を割って話せないなら私は本気で、貴方に失望します」

 

──酷い脅し文句だ。

裏切られても、裏切られても、スバルを信じてくれたウイが告げるには、重すぎる意味を持った脅し。

 

死ぬかもしれない、それに近い現象が起きるかもしれない、だがペナルティの執行中に新たな断罪を行えないとするのなら、口にしても許される可能性がある。

 

「──愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」

 

「うわわっ!?なんか頭の中の声酷くなってません!?」

 

「………宇沢レイサ。…よく、保っていられる。だが今の声は頭の中からじゃない。──来るぞ」

 

黒泥より先に相対する、発狂した生徒達。避難に従わなかった一部の生徒と、戦線に出ていたアリウス兵がツルギ達に襲いかかる。

縦に横に、激しく揺さぶられる中、明らかに発狂した生徒はスバルを狙っているのが分かった。

 

「────!」

 

──遂には、生徒の体から黒泥が溢れ始めた。

一瞬の内に『黒』へ変わる生徒。死んでしまったのか、否か。時間が経てば経つほど『黒』の占有が増えるというのならば、まだ足場が存在する今が最大の好機。

レイサは身を躱し、ツルギは地面を蹴り上げて防ぐ。レイサの実力もまた、今この瞬間には底上げされていた。

 

「ナツキさん──っ!」

 

「っ…」

 

「ぁ…く…」

 

時間が無い、迷っていられる猶予も無い。

 

悩む、迷い、惑い続ける。

答えに辿り着く選択肢はこれだけじゃない、出来る限り避けるべきで、死んでも口にしない約定があって、それから、それから──。

 

「────」

 

今以上の最悪は、何も成せず全てが『黒』に沈む事。

多大なリスクも、魂に焼き付けた約定も、未来を歩みを阻む枷になるというのなら、それこそ全ての過去の、ここまでの犠牲の裏切りだ。

 

故に、これは罪の浄化ではなく、これは罪悪感の昇華でもなく、ただただひたすらに、唯の情報として──吐き出した。

 

「ツルギ!レイサ!耳を塞げっ!」

 

「俺は!」

 

「死に戻っ───……てる…!」

 

──心臓を潰されるような感覚は、無かった。

ペナルティが、訪れない。それはいい、自分はどうでもいい。スバルの心配は一人、スバルの告白を聞いたウイに向かっている。

何も起きないでくれ、何も失われないでくれ、そして逆転の芽を、この絶望と終末に満ちた現状を打開する一手を求める。

 

防衛反応か、見たくないものから反射的に目を逸らそうとしたのか、少し狭まった視界の中に──無傷のウイが居た。

 

彼女にも、ペナルティは無い。

安堵が一斉に押し寄せて、滝のような汗が肌から滲むのを感じながら、ペナルティの執行中に新たな処罰は無かったのだと、

 

「────」

 

「考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ」

 

「死に戻り、死に戻り、ですか。死に、戻る。つまりは時間と空間の超越!死。典礼色、黒の色彩。逆行、反転……無貌の力。絶対者であり唯一神?終末のラッパ……神によってもたらされる、パルーシアであり最後の審判…!」

 

「本来死に戻りを成し得るのは!概念的かつ抽象的な神そのもの!」

 

「──。ナツキさん!アレが顕現するには最低でも審判者と嚮導者に成りうる存在が───!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スバルくん」

 

「──愛してる」

 

 

 

バラバラに、バラバラに。

バラバラにバラバラにバラバラに。

 

スバルの懇願じみた願いは、スバルの窮地に陥った事による苦肉の策は、砕け散る。

優しく、甘い、甘美な声がウイから聞こえ、『黒』にバラバラに引き裂かれたウイの死骸が、レイサの背中で爆散していく光景を前に、粉々に。

 

 

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