Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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遅くなりました。


『暗闇の歩き方』

──男、一人の男がいた。

 

男は何の特別な力を持たぬ凡人であった。男は小心者であり自らの選択に怯えていた。

選択の責任から目を背ける訳では無い、選択の結果から逃げようとしている訳では無い。教育者であるからこそ、選択の結果が子供の道を歪めてしまう事実は受け止めるしかない。

 

常に恐怖と戦い続ける事を選び続ける。恐怖は歩みを鈍らせる。鈍りは迷いを産む。力無き男にとって、それは終わりなき果てしない旅である。

失ったものは取り戻せない。失われた道は元に戻らない。故を聞かれても、是非を問われても、男は旅を続ける。

 

「──それが、大人のやるべき事だから」

 

喪失を突きつける世界に、男は対峙し続ける。

何時までも、何処までも、克服できない恐怖を前に歩き続ける。選ばずに失う事の苦痛を味わう事に比べれば、選んで前へ。

 

そんな男は多くを惹きつけた。過ぎるほどに。いつか、男が護る者達にとって、男が最も護るべき相手となるまで。

 

──男は無力であった。

 

足るを知る、足らぬを知って打ちひしがれる。唯の教師は世界の命運なんて左右できない。唯の大人に他人の人生を導ける事は出来ない。唯の人間が出来ることは身の丈のものだけだ。

教師であり大人であり特別に至った男は、それでも無力を嘆く。

 

砂漠の孤島にオアシスを、自我の無い神の傀儡に人の道を、絶望に沈んだ楽園に救世を、それでも尚無力と嘆く。

 

世界を変えられる力が誰にでもあるように、世界によって歪められる可能性は、誰にでもある。だから少しの間だけでも、守っていたかった。

 

ただ、ほんの少し、転んだ時に手を差し伸べるような、雨の日に仕方なく濡れる子に傘を差すような、小さな救いを。

 

自分で道を歩けるまで、自分で未来を選べるまで、大人として教師として、導く者として。

 

「確かに、それはあなただけの武器です。しかし、私はそのリスクを薄っすらとですが知っています」

 

「──ですから、そのカードは仕舞っていてください」

 

未だ幼い少女達が、銃を手に取り大人が作った暗い世界でしか生きていけない。

 

未だ幼い少女達が、互いを憎み疑う事が当たり前になって、全てを焼き尽くす焔となる。

 

未だ幼い少女達が、産まれ生きてきた事を後悔する世の中がある。

 

──ならば男は、自分の全てを捧げる事に何の迷いも抱かなかった。

 

それでも、男は無力である。

誰もが男に愛を送った。受け取れば、それは祝福となり呪いとなり、責任となる事も知らず。

 

無力を補う為に身を削り続ける男の背中に、背負いきれる筈のない奇跡と運命を預けた。

男の無力を分からず、男の平々凡々たるを理解せず、男の犠牲を知らず、男の些細な願いは届かず。

最初から、男は何も特別では無い凡人であったというのに。

 

──故に、男は命を落とす。

砂漠に降臨した神の手で、とうに崩壊していた肉体の苦痛から、自責の呪縛による魂の苦痛から解放され、方舟の失墜を見届ける。それが選択の結果である限り、決して避けられないものであった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

視界は四方八方、白い光に埋め尽くされて何も見えなくなる。

 

ただ、スバルの視覚が眩しさを感じる事はなく、真っ白なスクリーンに囲まれその中心に立たされているような、色としての白に包まれていた。

 

記憶──この世界が記憶と記録でしかないものだとすれば、セイアの言う通り映画の様なもので、そしてこの白が真の姿であり、着色と描画を行う事でさっきまでの光景を作り出していたのだろう。

 

「────?」

 

だからてっきり、このまま待っていれば次の景色が、スバルが求めた真実が映し出されると思い気張った表情で待機していたというのに、

 

「…………??」

 

──幾ら待ちぼうけても、白は何も変わらない。

白は白のまま、静寂は静寂のまま、取り囲むスクリーン達は呆然とするスバルを冷たい目で見ていた。

 

息も詰まる重苦しい沈黙。人生最大級の険しい顔に脂汗が滲み、内心は焦りに支配されていく。

何か間違えたか、言うことを聞いて貰えていたつもりで、偶然が重なっただけなのかと。

 

「──。なら最初から勘違させる様な事してんじゃねぇ!?」

 

足を踏み鳴らし、距離感の掴めないスクリーンに触れに行く。何が起こるにせよ、セイアの尽力で得た時間を無駄にする事は出来ない。

 

スバルの逆転の引き出しはすっかりネタ切れ。ネタ切れるのが早い理由はきっと、お転婆不良二人組のせいだろう。

起死回生の一手を得る為にも、彼女らのウイークポイントを見つけ突く事もやぶさかでは、

 

「ほう。勘違いとな?」

 

「────」

 

「其方の見当違いを押し付けるでない。誰が何をどう勘違いして、一体どんな無茶をすればこうなるのかは察するに余りあるが、ソレはソレ、コレはコレじゃ」

 

「融通を効かせるには相応の対価が必要というもの」

 

謎の声の反論にスバルは息を飲み、前に踏み込む足を止める。

明らかにスバルと対話してきた声は対価と告げる。一体誰がどんな対価を望むのか、それ以前にこの世界は記憶と記録の集合の筈。対話出来る事自体、異常事態。

 

「不思議かえ?言葉を借りるなら、妾もカンキャクの一人だというだけの事」

 

「…………」

 

「なんじゃ……そのいかにもげんなりとした顔は」

 

「…いや、同じレパートリーの奴が短期間で連続すると、誰でも胃もたれするだろ。この二番煎じ野郎。何も知らない俺に見当違いって言うのは、それこそお門違いだ」

 

「──い、言うことに欠いて、二番煎じじゃと…!?二番煎じなのは、あのじゃりん子狐の方──」

 

「あーはいはい」

 

声にまとわりつく雰囲気といい、不思議な空間で不思議な事を話す感じといい、ついさっき別れたばかりのセイアを思い返させる。

 

声の相手は、セイアよりかは素直に感じ取れるがそれでも、アーキタイプ『百合園セイア』味が拭えない。これで姿形も彼女に似ていたらお笑いものだが、

 

「ほれ!こっちを向かんか!其方の様な無礼者、本来ならば顔も合わせず追い出すが……今回は其方をここに送り込んだ者の尽力に免じて許そう」

 

──真っ白。

振り向いて見えたのは真っ白色。背景と相まってそこに誰かが居るのは分かるが、服以外の情報が何一つ読み取れない程に白い。

 

目元の赤化粧や埒外の露出の服装、それらが無ければ意識は白に吸い込まれて閉ざされそうになる。

ボヤける輪郭を何とか捉え、フラフラと動くシルエットの正体を理解したスバルは思わず──、

 

「──。はぁ」

 

極大のため息を吐く。

狐耳、狐の尻尾。セイアのコンパチか2pキャラクターか、和風セイアとでも呼ぼう人物が眉をひそめスバルを見ていた。

 

薄色の桃白の肌。仙人風と言えば聞こえはいいが病弱さ、もろさも兼ね備えている。夏場で見れば事前に救急車を呼んでいただろう。

何処の誰なのか、善か悪かを問わずとも、なんとなく害のある相手では無いのは相対して感じられる。

 

「…………」

 

セイアは動物的なリアリティのある狐だが、こちらは創作上の妖に近い狐であり、九尾のイメージを重ねられる相手。

スバルのため息は、ここまで来てまだ同じタイプの相手に翻弄されなければならないのか、というため息である。

 

浦和ハナコに嵌められ、色彩とやらに襲われ、セイアと別れた後、またこんな、如何にもな相手と巡り会う。宿命という奴であろうか。

 

「…妾の事はクズノハと呼ぶといい、ナツキ・スバル。巷では大預言者とも言われておるがな」

 

「予言──属性がダダ被り過ぎだろ」

 

「其方の世界で言う『ルーツ』とやらが原因であろう、妾に責は無い。それよりもほれ、同じ様な相手に世話を焼くのも面倒そうに見える。妾はただ対価をせしめに来ただけじゃ、早う終わらせよう」

 

「其方は支払うだけ。妾は受け取るだけ。本来交わらぬ物語同士、妾への詮索は泡沫が如し事。簡潔に言うなら入場料を寄越せ、というだけじゃ。其方は其方の求めるものに集中すれば良い」

 

やれやれと肩をすくめ、神妙な顔をするスバルにクズノハは面倒だからと率直に告げる。

お互い思い通りになっていない現状、終わらせたいのは山々だが支払う対価とは何だ。

生憎天下不滅の無一文、ポケット全てをまさぐっても出てくるものは無い。

 

この偽セイアに渡せるものとなれば身一つ。格好的に、もしかしてもしかするかもしれないと、頬を赤らめながら近づくと、手に持つ煙管で額を叩かれた。

 

「阿呆う。斯様な俗欲を欲しがると思うてか」

 

「ってて…」

 

ならば何を求めるのか、首を傾げている間に懐へ手を突っ込まれる。やはりそういう目的だったのかと女々しい悲鳴をあげる直前、確かに空だった内ポケットから何かが取り出された。

 

何も無い筈の場所から、ある筈の無い物。筈と筈が掛け合わされ、目の前に掲げられたのは、一枚の白いカード。

 

「これで、支払え」

 

「──クレカ?いや俺、こんなの作った覚えねぇけど」

 

「細かい事はどうでもええ、元より其方には時間が無いのであろう?妾は全ての面倒な過程を省きたいというだけじゃ」

 

「──。訳分かんねぇけど、こんなもんで良いなら幾らでも。コレってどう使えばいい?アンタのおでこにタッチ決済か?」

 

「……やかましいわ。にしても即断即決、藁にもすがる思いじゃの。其方の苦労、推して知るべしと言った所」

 

「分かってんなら早く──」

 

「案ずるな」

 

クズノハは煙管に唇を付け、薄紫煙を吐き出す。薄く引き伸ばされた煙がスバルにまとわりつき、手で払っても晴れない煙の中に包まれていく。

今更疑う事はしないが未知は未知、恐怖は恐怖。突拍子の無い登場具合ではセイアを遥かに凌駕するクズノハの肩を強く握る。

 

状況が状況だ、色彩以上に推論の立てようが無い相手に適当な返事をしていたものの、スバルにとっては本当に藁にもすがる思いを向ける相手。

そんな思いが実を結んだのか世界は白から青に。朝日が落ち、夕焼けを超え、

 

「じき、黄昏となる」

 

「────」

 

スバルが知っている黄昏の形とは幾分か違う、町明かり月明りの一つも無い暖色に包まれる。眼前の真白な少女さえも見えなくなって、不安に駆られ声を上げる。

 

「クズノハ!」

 

「…──ナツキ・スバル」

 

「黄昏の中では全てが起きうる。何が起きても不思議では無いと言い換えようか。ならば──夜が映し出すのは、何たるや。暗く暗く、真実さえ染める黒は、そこに何を残す」

 

「…さらばじゃ。金輪際巡り合うことはないと思うがの」

 

と、今生の別れを口にしてクズノハの気配は消えてなくなった。

彼女の正体が何であれ、支払うべき対価を支払ったというのならば、今度こそ物語を閲読する機会が与えられるべきであり、スバルは暗闇の変化を待ち望む。

 

目を開けても閉じても、同じような光景に変化が訪れたのは──スバルの聴覚に、すすり泣くような声が滑り込んできた時の事。

か細く力の無い泣き声だ、居場所のない者の孤独を噛み締める音。ナツキ・スバルが引きこもりを始めてしまった時も、同じ音を出していた気がする。

 

声を押し殺す泣き声、泣いていることを知られたくない見られたくない子供の泣き声。耳にしているだけで、居心地の悪くなる音。

いつも誰かに助けて欲しかった、なりたくてなった訳じゃない、誰かのせいにしないと耐えられなくて、この不幸が自分だけのせいじゃない事を思い知らせたい。

 

──自分の不幸を、自分じゃどうしようもない理不尽のせいにすれば、少しは傷が癒えたから。

 

「誰かいるのか…?」

 

投げかけた声は虚空を跳ねるだけ。この場所に居るのはスバル一人だけであることを強調するかのように、転がっていく。

それでも泣き声だけは変わらずにいて、幽霊屋敷のど真ん中に放置されている様な薄ら気味悪さだけが増す。

 

そんな居心地の悪くなる泣き声が止まったのは、別の苦しみが紡がれたが故。

 

「──。ごめんなさい。ごめんなさい……ごめんなさい」

 

「二度と、大人の言葉を破りません…反抗しません。将来に希望を抱かぬよう努めます……」

 

「二度と幸福を望みません」

 

「──二度と、祈りません」

 

「だからどうか、慈悲を…」

 

与えられた運命に、何一つ抗うことすらできぬままに、服従を示す声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──待っていた?」

「私が貴方を殺しに来ると、分かっていて」

「…どうして、私を待つ必要があったんだ」

 

声に含まれていたのは困惑、焦燥、恐怖。ガスマスクの向こう側に映る瞳にも同じ色が載っていた。

 

来賓たるアリウスの刺客は狼狽え、後ずさる。事前の情報と食い違う脆弱な警備、護衛らしき護衛は見当たらず当のターゲット本人はティーカップを二つ用意して席に座っている。

 

極秘裏に行われていた暗殺計画を『待っていた』等と、知りえる筈も無い相手から言われても戯言の一つにしか聞こえないだろう。だが今注がれたばかりであることを示す湯気の立った、迎えるべき客が空白なままでいるティーカップがそのうわ言を事実にしていた。

──彼女は待っていたのだ。己の運命の終着点を。

 

「……影武者、じゃない。紛れも無い本人」

「…どうして?知っていたのなら、逃げて…」

 

大笑いを堪えて微笑む。殺しに来た暗殺者が何故逃げなかったのかと問いかける姿は、起こすべきでない爆笑を腹にこさえる所だった。

見とれる銀髪、将来氷の魔女と呼ばれるようになる暗殺者に向けて、静々と茶席を設けた理由を伝える。

 

「疲れた──?」

 

きょとん顔をする氷の魔女──白洲アズサに、茶会を開いた主である百合園セイアは、自らの発言にどうしてか安堵と驚きを覚えた。

抗おうにも抗えない運命を持つ者同士のシンパシーとでも言おうか、苦痛を飲み干し涙を枯らす、百合園セイアと白洲アズサは立場は違えど同じ苦しみを歩んでいる。

 

「……」

「…──なっ」

「だ、駄目だ。そんなまだ…」

 

残念ながら、アズサの制止は意味をなさない。

言葉が変えられるものはそう多くない、変えられないものの一つに、百合園セイアの意思が含まれていただけの事。

 

「──。背負わせる?」

「何を、何を一体…私にも分かる様に…!」

 

予知の力を持つセイアにとって、この世で『初対面』の相手はいない。しかしアズサからすれば正真正銘の初対面、零れる涙にも価値があるというもの。

 

「すまない」

 

「運命は時に、冷酷で残酷だ。君に訪れる運命を、予言の天使として告げさせてもらう」

 

「白洲アズサ。君は今ここで私を殺し、仲間と呼べる相手を二度裏切り、敵を殺し、疑心に囚われた智将を殺し、最後に魔女を殺す。血に染まり沈み、尚も歩け。君に残された道はそれしかない」

 

「──そして、あまねく奇跡を守るんだ。四人の命と引き換えに数百数千万の命を救う。救世主は、そうして生まれ落ちる」

 

元より、それ以外を選べるほどの自由も無い。

元から、その予定だったのだから。

 

「君の旅の果てに、祝福を」

 

セイアの残酷なお告げに、アズサと共に声をうならせたことで初めて、スバルの意識は部隊の中から外へと投げ出される。

最初の声に意識を引きずり込まれたと、この暗い部屋を眺める立場になって理解する。セイアの自室には生徒が二人、部屋の主百合園セイアと暗殺者白洲アズサ。

 

刑事ドラマならばクライマックスに相当するシーンは唯の始まりでしかなく、これから先に幾度もクライマックスは待ち受けているのだ。

アズサが暗殺を企んだ、命じられ行ったというだけでも愕然だが、セイアもセイア、告げた言葉に嘘偽りが無いのなら、

 

「────」

 

この世界が生徒に育む未来は最初から、冷たい色で塗られていた。

 

経験から察するに、キヴォトスでは真に運命と呼ぶべきものが存在している。黒服らの言葉を借りるならば『テクスト』。

舞台があり、脚本があり、演者が舞台の上で物語を奏でる。決められた演目を果たすために、物語は進行していく。

 

神が鼻歌を歌い、紙に綴った文字がそのまま旅路の終着点だ。納得できるできないの問題じゃない、それが世界に用意されている答えと終わり。

トリニティ学園という舞台にあらかじめ用意されていた脚本、そこに必要とされたのは、

 

「救世主」

 

その座に座るのは、本当に誰でもよかった。

『ナツキ・スバル』となるのがスバルでなくとも、今こうして救世主の役目をアズサは背負わされようとしていて、ああ──確かに、敵を皆殺しにすれば、この物語は簡単に、陳腐に結末を迎えるのか。

 

救世主が数人の犠牲を許容する、その道を選ばなければ、世界の破滅に等しい出来事が引き起こされる。セイアが未来で見たのはきっと、スバルと同じ赤い空。

 

「俺が居ないから諦めた?んな訳…」

 

アズサは結局、ここでセイアを手に掛けれなかった。

それは着々と進んでいく世界の風景の中で、ヘイロー破壊爆弾ではなく手榴弾を投擲した事で分かる。

 

「俺の所のセイアとこっちのセイアじゃ、どん詰まりの状況に対しての認識が違う。死に戻りを知ってるか否か──それで、こんだけ変わる」

 

「分かっちゃいたが、アズサがトリニティに転校したのも初めからセイアを消すために……っでも、アズサはセイアに逃げて欲しそうで…」

 

部屋から逃げたアズサは、作戦の成功という嘘をガスマスク仲間に伝え闇に消える。セイアはミネに救出され、これで凡そ内戦開始前の初期盤面。

この後に作成された補習授業部にアズサと、そして先生は放り込まれる。ならば補習授業部が作成された意図は薄らと見えてきた。

 

白洲アズサを捕らえる檻、ナギサの考えが何であれ主軸となるのは──。

 

「セイアを襲撃した容疑者探し」

 

「ヒフミの成績不振はブラックマーケットにグッズを買いに出かけてたからで、アズサはアリウス関係者、ハナコは…確か深夜の不審行為。下調べが済んでるなら、全員怪しく見える」

 

「コハルはシンプルに、補習授業部が正しく補習授業部としてのていを保つ為か?アズサは分からねぇけど、あの二人がテストに苦戦する姿が思いつかない。すんなりと抜けられたら困る」

 

やはり実際に答えを音にして聞く必要がある。

状況が変わらないのであれば、スバルが念じるだけで世界の形は変わる筈だが、

 

「──。変わんねぇ、何をどうすりゃいいんだ。無体を働くにしても程が」

 

「そんな事!いつ!私が頼んだかな…!」

 

「ぉ」

 

耳をつんざく怒鳴り声。ぐるぐると血液と共に疑問を脳で回している内に、劇の光景は次の悲劇を映し出す。

ガスマスクを付けた生徒と、聖園ミカの会談だ。

 

「もう、いい。下がって」

 

「ですが」

 

「──言う事の聞けないワンちゃんの末路って、知ってる?」

 

「…っ、はい」

 

ミカの殺気に気おされて、アリウスの生徒はその場を去る。

現実を受け止め切れず、今にも爆発してしまいそうなミカを残し、彼女は少ししてうずくまる。

 

「……私がホストになるにはセイアちゃんは邪魔だった」

 

「邪魔だった。邪魔だもん、小うるさいし、案は受け取らないし、頑固だし」

 

「うん。邪魔だったの」

 

「だから、もういい」

 

この会話と先程の展開とを結びつけるのならば、なんとも残酷な事実が見えてくる。そして同時に、すれ違った道がどんどん離れていくのを。

 

「────」

 

セイア襲撃を命じたのは、聖園ミカ。

ならばナギサは、容疑者探しの労力一つ報われず、そして聖園ミカは落ちない偽りの赤色に両手を染めそして、

 

「アリウスの一人勝ち…!」

 

──本来トリニティ学園が歩む運命の形が、見えてきた。

 

 

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