Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『シャーレでの攻防』

 

 

「ね、ねえ!ちょっとスバル!コレどうするの!?」

 

「知らねーーよ!!流石に予想外も予想外過ぎて現在株式ナツキ・スバルは大暴落中倒産手前ですー!」

 

「…ヴァルキューレにカイザー、温泉開発部まで?流石におかしいわね……一旦私達でスバルを囲みましょう、流れ弾で致命傷になりかねないから」

 

「了解、それと社長、あそこ…尾刃カンナまで出張って来てる、捕まれば矯正局行きだよ」

 

「全部吹き飛ばすには手持ちが足りないね〜、どうしよっか?」

 

美少女達の背中に包まれて一安心……なんて幻想を抱くより前に、見た事は無いが戦争と言われればそう勘違いしてしまう状況、プライドを投げ捨ててスバルは皆の背中に縋り付く。

 

シャーレ近辺を埋め尽くす人と機械の波、近距離は最早鉄パイプや素手で殴りあっているざまだ。

この光景を1度でも死に戻りで経験しているのならば良かった、スバルの秘められたアドリブ力が発揮されて駆け抜けれたかもしれないが…。

 

『完全初見プレイ』この場で死ねば…全てやり直し。

 

 

「……っ」

 

 

膝が震える、この力、死に戻りさえあればスバルは何度でもこの場に戻ってこれる。次は更に十分な対策を、十分な準備を、十分な情報を持ってこの場に挑める。

 

ーーだったら、この世界を『捨て』にいって、情報をかき集めるのが正解なのか?

 

 

「…言葉には出来ねぇけど、絶対違う」

 

 

元より、文字通り命懸けで歩んでいるつもりだ。

でも周りは?ヒナは勿論、便利屋も、この場にいる全員死ぬ事は無い。命を懸けて走っているのはスバルだけだ。

 

俺が命懸けてんのに周りはそんな事無いって、不平等じゃね?こんな苦しい思いして、頑張ってるのに…。

 

否、そうではなく、つまり、『ソレ(命懸け)』に付き合っていいのは、スバルだけという事。

 

命を懸けて、命懸けで、全身全霊で…『やり直す為の命懸け』に周りを巻き込むなんて。

 

 

「間違ってる」

 

 

「…スバル?」

 

 

「ん、ごめん…大丈夫、あんまりにも奇想天外お祭り騒ぎなせいで立ちくらんだだけだ」

 

 

「確かに、そうね………ーーナツキ・スバル」

 

 

「ん?」

 

 

「『私が守る』指示は任せていい?」

 

 

「………」

 

 

「……その、スバル?」

 

 

「ごめん、ちょっと胸を撃ち抜かれて立てないだけだから、重ねてごめん耐えられるか分かんない」

 

 

「……」

 

 

まさにS・M・G、ラブマシンガンの熱烈アタック。既にスバルの恋心はキューピットの弾丸に貫かれ過ぎてズタボロだが、膝を折っている暇は無い。

 

その言葉で憂いが消える。今スバルに与えられた言葉があるのなら、この地獄も進んでいける。

深呼吸を挟み、スバルが提示する案は1つ。

 

 

「何よりシャーレを災厄の狐から守らなきゃなんねぇ、辿り着くより前に全部壊されちゃ意味ねぇからな」

 

「災厄の狐って…あの七囚人の!?この場にいるって事?」

 

「…多分、あそこだ」

 

指を指す先にはシャーレビルの3階、今まさに窓ガラスが割れ、警察の格好をした生徒が地面に投げ捨てられていっていた。

フルスロットルでこの場の解答を求める脳に、コンビニ袋からコンポタを補充。

 

同じく破片が喉を刺してむせるが、その間はスバルに冷静さを取り戻させてくれる。

被弾は考えなくていい、スバルの最優先事項はシッテムの箱である、ならば…。

 

「取り敢えず全員でシャーレに入りたい、出来る限り早く俺を『判別方法』の場所に連れて行って欲しいんだ」

 

 

「サンクトゥムタワーさえ起動しちまえばカイザーは…撤退すると思う、多分、それから地上の警察っぽい奴らを味方につけたい、ヒナが居れば話し合えるか?」

 

 

「…ーー難しいわね、あのヴァルキューレは恐らく『裏切り者』が手配してる、例外なくシャーレに足を踏み入れる者全員を排除する気だと思う」

 

 

「……なら、あの壁を突破するしかねぇって事か…!カヨコ、見立てはあるか?俺の頭じゃ思いつかねぇ」

 

 

「スバルの事を考えると分散自体が悪手、先頭をハルカに任せて、ヒナとムツキで挟む、私と社長で周囲を払いながら突撃が無難かな」

 

 

「よし!カヨコ指揮官の策で行こう!!」

 

 

そうとなれば決行は早い、自分より体躯が圧倒的に小さいヒナとムツキに背負われ挟まれる恥ずかしい姿を脳内から排して、再び深呼吸。

目の前の戦場に飛び込む、ナツキ・スバルの命を脅かす弾丸が、爆弾が、ミサイルが雨のように飛び交う戦地へ。

 

震える身体、留まることを知らない心臓の鼓動はきっと、1番密着しているヒナにも伝わっていることだろう。

スバルにはこの場で何も出来ない、出来るのは信用することだけ、その情けなさも含めてナツキ・スバルだと飲み込み、ヒナの手を握った。

 

 

「ヒナ、頼むぜ」

 

 

「ええ、勿論」

 

 

後ろからコツン、と頭に軽い衝撃。

 

 

「私の事も忘れないでね?スバルきゅん」

 

「勿論!ムツキも、ハルカも、アルもカヨコも頼りにしてる!!」

 

「ふふ〜ん♪りょ〜かいッ!!」

 

「わ、私なんかを頼りに…!?え、えへへ…役立たず、ですよ…でも、アル社長の為にも…頑張ります!」

 

 

アルとは拳で、カヨコとは視線で突撃のタイミングを図るスバル。

 

騒音が支配する世界で、スバルの周囲だけが無音に包まれる、己の心拍と息遣いが聴覚に滑り込んで、目を閉じ、腹に力を込めた。

 

 

 

「ーー行くぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《カンナ局長ッ!!》」

 

 

ヴァルキューレ警察、主にD.U区の警備を担当している公的な活動権を持つ組織。

連邦生徒会防衛室長の命令を受け、シャーレ近辺を全面封鎖し、防衛網を超える人間に対して無差別な逮捕令を出している。

昼下がりに先んじて警備をしていたが、災厄の狐率いる不良軍団によってシャーレ内部へと災厄の狐の侵入を許してしまった。

 

後続のカイザーコーポレーションと温泉開発部により戦線が崩壊、シャーレ入口のみに戦力を集中させ、拮抗状態を作っていた。

 

 

「なんだ」

 

 

無線による通信を受け取ったのは、公安局局長である尾刃カンナ。

カンナはシャーレに唯一侵入した災厄の狐と数人の不良の対処をしていた。

ーー温泉開発部の対処を放棄、襲撃戦力同士の同士討ちを狙いとし、この限界ギリギリの防衛網を保っている。

 

「《新手です!!》」

 

「……またか、次は?相手によっては防衛線を今制圧した3階まで引き上げ…ーー」

 

「《あ、相手は便利屋68!そして…》」

 

「《空崎ヒナ!空崎ヒナです!!ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナ!!!シャーレ正面から来てます!》」

 

「何?…馬鹿な、自治区を越えての活動権限は無いはず…更には便利屋だと?」

 

「……ーー対応は変えるな、何者であろうと侵入者は全員逮捕、だが相手が相手だ、消耗戦は終わらせる、全員シャーレ10F以上に集合」

 

「カイザーの航空部隊は無視しろ!配置につき次第、階上から狙撃部隊は温泉開発部の対処だ!ビルを倒壊させない事を最優先に、全部隊再配置開始ッ!!」

 

 

「《りょうか…ッグぅッ!?》」

 

 

「《ごめんな…ーーごめ…ーー退いてください退いてください退いてくださいぃぃ!!!》」

 

 

誰かの叫び声と共に、カンナが持つ無線からの声が途切れる。

 

歯をギジりと噛み合わせ、苛立ちと共に溜息を吐く。

 

 

「………………はぁぁ……」

 

 

「ーーこの状況は、流石に説明してもらわねばならんな、カヤ室長」

 

 

目下繰り広げられる光景は……。

 

 

ーー団子状になり、『誰か』を包み込みながら突撃してくる空崎ヒナと便利屋68の姿だった。

 

苛立ちは収まらず、不良の銃を踏み潰して唸る。

 

 

「『ナツキ・スバル』とは一体何なのだ!!カヤ室長ッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し……ぬ……ーー死ぬぅぅッーー!!?」

 

 

スバルの絶叫を置き去りに、ヒナの加速は早まり続けていた。彼女が羽でスバルを包み掴んでいなければとっくに振り落とされているだろう。

 

 

「あはははーッ!!吹き飛んじゃえ〜!!!」

 

 

後方では幾度もスバルを吹き飛ばした大爆発が、ハルカがこじ開けた道を広げながら周囲の敵を払っている。

スバルを背負っているとはいえ、ヒナの疾走にある程度ついていける後方の3人には驚きたいところだが……生憎スバルにその余裕は無い。

 

銃を引き抜けずとも、空崎ヒナを止めれる者は存在しない。爆弾等のスバルの命に届きかねない危険物は全てハルカが払っている。

 

また1人、人海の中から飛び出た1人がハルカに轢かれ、持っていた爆弾で道を切り開いた。

 

ーーその時、人海を突き進みながら周囲の把握を進めるヒナの瞳が、ヴァルキューレの動きを捉える。

 

「…!ヴァルキューレが配置を変えた…籠城戦、固められる前に突破する、スバル!しっかり掴まってて!」

 

「も…ーーう……掴まれ…てッ、ねぇよ!!」

 

「それじゃ意識を失わないように、少しだけ…疾走(はし)るから、便利屋68、階下は任せるわ」

 

「了解よッ!先に行きなさい!!」

 

「ーーえ?…どぉ……ーーわぁぁぁぁぁッッ!???」

 

ーーヒナの踏み込みがアスファルトを砕く。

二転三転する視界に何が起きているかは分からないが、物理的に風を切っている事が肌で分かった。

ヘルメットも座席部も無しにジェット機に乗っている様なもので、スバルに掛かるGも増える、最低限足を引っ張らないでおこうと誓ったスバルの意識を奪うには容易いが……。

 

「ぐッ…ぎ…ッ……」

 

心の中で気絶しない自分へ自画自賛をして歯を食いしばり、高速で近づいていくビルへと視線を留め、予めのイメトレを済ませるスバル。

 

「ッ!?空崎ヒ…ーー」

 

「邪魔よ」

 

「ぉぐッ…!?」

 

本当に何が起きているのかはスバルの目に捉えられないが、照っていた太陽を感じなくなったからきっと室内に入った事だけは分かる。

誰かが倒れる音、物を薙ぎ倒す音、空崎ヒナはあらゆる音を置き去りにして階をかけ登り続ける。

 

ーーだが。

 

彼女の目前を、爆発が覆った。

その欠片でもスバルに当てないように、床が抜ける勢いでバク転を挟んで、一瞥。

 

 

「空崎、ヒナ」

 

「あらあら…ウフフフフ、また、邪魔が1人」

 

「……」

 

「ーー来なさい」

 

「理由は聞かんぞ」

 

「貴女方にも、私にも理由なんて元から必要ないでしょう?あは、アハハハハハッ!!」

 

シャーレの部室の10階で、災厄の狐、尾刃カンナ、空崎ヒナの各勢力の最高戦力が鉢合わせてしまう。目が回るままに放り出されるスバルには知った事では無いが、ヒナが今の一瞬で庇っていなければ3回は死んでいた事であろう。

 

カンナが机を蹴り飛ばし、災厄の狐が銃剣で切り掛るその両方を、スバルを庇った状態で完璧に止めきるヒナ。

 

鼻水と涙を垂らすスバルに向けて、ヒナが一喝を飛ばす、

 

「ーースバル!走れる?」

 

「ぅっ……も…ちろん!」

 

情けない言葉を残し、受身を取りながら走り出すスバル。

それを見逃す災厄の狐でも無く、この場で最弱であり脆弱であろう男を狙って動き出す。

 

「ーーしっ」

 

鋭い殺気を放ち、災厄の狐が手にしたガラス片を走る男の首目掛けて一閃。

反射し走る光の筋はお遊びを失い、風を斬り殺してスバルの細い首に襲いかかった。対するスバルは完全な無防備、飛んできたことにすら気付いておらず、防御姿勢をとる所か視線は階段一直線の為、回避行動すら取ろうとしない。

ヒナから銃剣の握られている剣先を折り、ライフルをスバル目掛けて照準が捉えた。

 

ガラス片が放つ光に気が付いた頃には、漫画のように血を噴射して首がすっ飛ぶ自分をイメージするーーが、

 

「それを通せると?」

 

「……やはり規格外、ですわね」

 

いつになく冷酷でトーンの低い声が響いた。

正確には、災厄の狐の左側から。

 

「ーー落ちなさい」

 

左頬へ向けての掌底、衝撃波まで発さんとするその衝撃が災厄の狐を吹き飛ばす。面は割れ、ビルの外へと。

一瞬目を離しただけだというのに、己以上の速さで先回りした空崎ヒナに『規格外』と称す狐。

なんとか窓のフレームに掴まり、回転することで部屋に戻ってきたが、唯の掌底で爆風にも近い衝撃波を放ち、枯葉の様に災厄の狐を吹き飛ばしたヒナに対してスバルは絶句する。

なんの変哲もない攻撃に見えた、それに一度はヒナが機械人間を素手でぶち抜いた事は覚えている。

それでも尚、それが限界では無かったのだ。

 

ーーだからこそ、心配せずに前を向ける。

 

 

「走れ俺ぇぇぇぇッ!!!」

 

 

「止まれ!」

 

 

「やーなこっったぁ!ヒナー!お願い致しますぅぅ!!」

 

 

カンナが放つ弾丸を腕で払い、次いで襲いかかる狐の強襲すらも素手でいなす。

 

それからヒナは脇目も振らず走り抜けるスバルを見て、視線を2人へと戻した、

背負う重機関銃、終幕:デストロイヤーは抜けない、この室内戦で周囲を駆けずり回る狐へと当てようとすれば上の階諸共吹き飛ばしてしまう。

 

 

「……貴方はそれでいいの?カンナ公安局長」

 

 

「…はぁ、やりたくないと言えば職務怠慢だと言われる、生憎、私にはこれが限界だ」

 

 

「ーーだが、あの青年が『ナツキ・スバル』だな?既に『判別方法』の前には部下を配置してある、捕縛はすぐだぞ」

 

 

「……ーースバルは外から来た人間よ、銃弾一発が致命傷になる、上の階の子を人殺しにするつもり?」

 

 

「何?」

 

 

「嘘をついてると思う?」

 

 

「……っクソ!!《上階!発砲するんじゃ…ーー》」

 

 

「あら、うふふ……良いことを聞きましたわね、空崎ヒナ、貴方には勝てずとも…」

 

 

災厄の狐は口元からしたたる血を拭い、胸元から起爆装置を取り出す。

 

次いで発動されるミスディレクション、室内戦においては自信を持っている災厄の狐は、それをすぐさま空崎ヒナの目の前へと投げ付けた。

同時に部屋に散らばる瓦礫も投げ付け、自分は意識の陰へと潜もうとする。

 

脆弱、あの少年こそが空崎ヒナにつけ入る隙だとは思っていたが、それ以上の弱点だったとは。

 

ーー今投げつけた起爆装置は唯の玩具、フェイクに過ぎない。

 

 

 

「この場を全て破壊すればッ!!」

 

 

仕掛けておいた爆弾を全て発動させる装置は、まだ手の中に握ってある!

 

 

「待てっ!!」

 

 

「…………」

 

 

ーーその一連の流れを、空崎ヒナは伏し目で眺めていた。

 

 

 

「ーーーふぅ…《ーー…了解》」

 

 

背負う重機関銃に手を掛けて、スバルの背中を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナツキ・スバル』

 

不思議な少年。

 

カッコつける癖に、最後までキャラを貫かないし、臆病な癖に誰よりも前に出るアンバランスな子。

 

 

でも、便利屋と出会った時から様子が少しづつ変わっている。

 

 

初めて会った時からそうだったけれど、泣きそうで、死にそうで、救いを求める顔をしている癖に自覚も無い。それがより酷くなっていたのだ。

触れたら壊してしまいそうで、話を聞けば壊れてしまいそうで、壊れかけている自覚も無い。

震えていた自覚が無い、ふざけながら隠していた両手が震えていたのを、攫われかけた子を背負っていた時に見ている。

 

ーー彼が誰かに笑って欲しそうに話す時には、何時だって恐怖心を隠していた。

 

あんなぐちゃぐちゃな顔をして、信じてくれなんて言われて無視できるだろうか。

便利屋相手には出さない表情、私は初めて会ったあの時に、見た、いや……『見てしまった』から。

 

甘い人間、ナツキ・スバルを肯定できる証拠も、ナツキ・スバルを信頼出来る何かも無いのに、『嘘はついてない』、なんて適当な事言って、風紀委員長として失格だって分かってる。

こんなにも短い時間しか彼とは対話していない、それでもスバルを放っておけない。

 

放っておけばいい?正論だ、人間が善意を慮る事なんて少ない、それが社会で、それがキヴォトスというもの、今も騙されているのかもしれない。

 

 

でも。

 

 

もし私の目の前で何処かの誰かを、身を捨てて救おうとした人が居て。

 

 

あんな顔で、死んでしまう姿を想像したくもなかったから。

 

 

『…ーーヘイローが、無い…肉体強度が…ーー』

 

 

あの子をセナに届ける行き道で聞いた事、スバルが言った事をそのまま例えるなら……私は、この世界で石を投げられるだけで死にます、というもの。

 

 

ーー馬鹿なのだろうか?

 

 

貴方はそれを自覚して、便利屋と私の間に立ったの?

 

 

銃を持つカイザーの兵に矢面に立って喧嘩を売ったの?

 

 

私と出会いたい為だけに、銃を乱射する不良に追われていたの?

 

 

 

「ーー隙を見せてくれて、助かった」

 

 

「「ーーーーーッ!?」」

 

 

ーーその場に居た2人は、足元の揺れに気を取られる。

 

 

その揺れを、ヒナだけが予知していた。それは便利屋68による工作、シャーレ入口を爆発によって崩落させ、足止めを図る作戦だ。

視界に入る光景が歪む、空崎ヒナの洗練された動きが見えない。捉えられない。

次に2人を襲ったのは、浮遊感。

 

 

【終幕:イシュ・ボシュテ】

 

 

 

終幕:デストロイヤーがおどろおどろしい駆動を始める。

何かが爆発する直前の静けさ、何かが引き起こされる静けさを肌に受け、背筋を凍らせ、使われる事は無いと思っていた怪物が目を覚ます。

 

気がつけば、空へと吹き飛ばされていた。

 

ーー極光。

 

それは、放たれた弾丸によるもの。素体の発射レート分間1400発、ヒナ専用に改造されたデストロイヤーは、分間に6200発、秒間にしておよそ103発の弾丸が発射させる。

 

発射される銃弾の音が響くより先に、新しい発砲音が重なり、1つの楽章として成り立ってしまう程のもの。

バルカン砲にも等しい重機関銃を超えた、ガトリング、バルカンと同じ銃弾の嵐が…正面の空間を2つに切り開いた。

 

 

「ーーあの2人なら、数週間程度で治る」

 

 

視線はすぐさま上へ、放っておけばすぐ死んでしまう、ナツキ・スバルというか弱い存在。

 

 

「私が守ると言ったでしょう」

 

 

「ナツキ・スバル」

 

 

規格外。

 

空崎ヒナ以外の誰か、風より早く動ける存在、的確に500m離れた的を撃ち抜く超絶技巧、尋常を超えた斥力、圧倒的な火力を持つものが居たとして。

 

彼女と比較すれば、その全てが霞む。

 

律儀に階段を登っている暇は無い。外壁を超えて無理矢理登ろうとしたヒナ。

その直前で目に映ったのは……。

 

 

「…………」

 

 

「全て撃ち落とすわよ、カイザー」

 

 

「《すまないが、あの少年には死んで貰わねばならない、ーーやれ》」

 

 

カイザーの戦闘ヘリ11機の全ての照準が、ナツキ・スバルの命を奪わんとしている所であった。

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