Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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少し短めです。


第一章幕間 『お天道様が見てる』

 

「……」

 

目の前に倒れ伏す少年を見つめる。

弾丸は体内に留置せず貫通してくれていた、しかも奇跡的な角度で重要な内蔵は傷付けず、止血だけすればこの場の命は保ってくれるだろう。

コートを下敷きに、患部の高さを調節する。

 

消毒された針と糸があれば良かったが、激戦の中コートの内側に入れておいた筈の応急処置セットを失ってしまっている、出来ることは…傷口を抑える事だけ。

顔色は悪くなる一方、私に魔法が使えればよかった、いやそれよりも傷つく前に守りきれたら良かった。

 

そうやって苦い表情を浮かべようとしても、先程のスバルの言葉がそうさせてくれない。

 

ーー感謝された、感謝されてしまった。

 

自責の念を強めてしまう、当たり前の事をしただけで、それも十全にとはいかなかったのに。

ここでヒナが自分を責めてしまえば、それはスバルの言葉を裏切る事と同意義になってしまう。

だから思考を捨てて、無心で処置を施し続ける事が最善、その判断を何処か冷静に行ってしまっている自分が嫌いだ。

 

 

「スバル!やったわ……ね…」

 

「スバルーー?」

 

 

ドタバタと次いで入室してくるのは便利屋、全員が勢揃いした上で祝勝会をする気負いの足取りで入ってきたのはいいものの、目にしたのは血の池に座るヒナとそこで横倒れになっているスバル。

 

致死か否か判断できない、そもそもキヴォトスの人間は、『外』の人間の肉体強度というものを理解出来ていない。

話していた事も冗談半分に受け取りながらだったもので、アルは身体を震わせながら近付こうとする。

 

ムツキやハルカも歯噛みして見守るしか無い中で、カヨコだけが手早く、手馴れた様子で上着を脱いで手に噛ませた。

 

「社長、ヒナ、ここは任せて」

 

「カヨコ……」

 

「……」

 

「ヒナ、スバルの血が目や口に入ったりしてないよね?」

 

「大丈夫よ」

 

便利屋の中でも唯一スバルの事を、『脆弱さ』という面で信頼していたカヨコがヒナに代わって手当を始める。

脇下を緊縛、傷口の周りを抑え、取り出したケースの中にあった清潔な針と糸で縫い始め、

 

「……貴女は想定していたの?」

 

「ある程度はね、被弾は避けられないから……全員で守りに入ってたら辿り着けない、この状況まで引っ張ってくるにはきっと無茶をするって」

 

「ーーーー…」

 

「ヒナ」

 

「……」

 

シャーレ近辺は、風紀委員として活動していた中でも最大級のもの、策略と戦略を練れる主核たる人物も3人居た。

災厄の狐、公安局長、温泉開発部部長、最後の1名に関してはヒナを目視した時点で瞬時に撤退したようだが、下の混戦の大部分は彼女に管理されていたと言っても過言ではないだろう。

 

便利屋が階下で侵入者とシャーレビルを守っていなければ、とうの昔にビルは倒壊していただろう。

そしてヒナが居なければスバルはシッテムの箱に辿り着けない、その後のカイザーからの攻撃からも生きて帰ることも出来ない。

最後の壁を乗り越えたのはナツキ・スバル自身、結局は収まる結果に収まったのだ。

 

 

「でもーーこっからちょっと、不味いんじゃない?早く逃げた方がいいと思うな〜」

 

「そうだね、ムツキの言う通り…さっきの宣言は広範囲に広がり過ぎた、ハッタリだと知らない人間があの言葉をそのまま受け取れば、新たな勢力の誕生前に潰しに来ると思う」

 

「狙いは勿論スバル、万魔殿もミレニアムもトリニティも、全員が『ナツキ・スバル』の名前を求めてここに来る」

 

「連邦生徒会からの声明が無い以上、スバルはまだ『自称その人』で、そうである限り無法者がとんでもない武力を持ったとしか見えないし」

 

 

それが現状の真実だ、カヨコの語る言葉にはムツキが撤退を促す理由も分かる、このままこの場に居続ければ、引き起こされる先程よりも大きな争いと政治闘争に便利屋も巻き込まれる。

 

無論、ヒナもスバルも。

 

 

「っ……ーー何とかするわよ、皆、せめてスバルを病院に送り届けるの、このままじゃ撃退よりも前にスバルが失血死するわ」

 

 

しかしーー。

 

 

カヨコ達の予想通り、敵は時を待たずして訪れる。

ヒナが見つめる破壊され、吹き抜けた壁の先、最初に辿り着いたのは、

 

 

「………はぁ」

 

 

「おでましね、連邦生徒会」

 

 

連邦生徒会のロゴが刻まれた、輸送ヘリ。

便利屋がスバルとカヨコの周りを固める、ヒナはデストロイヤーを握り直し、機銃を1ミリでも動かせば即座に撃ち落とす体勢をとった。

 

ヒナはヘリに乗る人物が七神リンであればと苦虫を噛み潰す、恐らくそうでは無い、あの種別のヘリを動かす事が出来る上、宣言から数分も経たずの到着、つまりはこの事態になった時、即座に動いてナツキ・スバルを確保出来るように事前に準備していた『裏切り者』の行動。

 

ヒナ、カヨコ、ムツキは既にその相手にも目当てが付いていた、それは『ヴァルキューレ警察』が動いていた事で判断出来たもの。

 

あの場に集まった中で、カイザーはネットにあげられたスバルの事を見て動いてもおかしくない。理由が他にあるかもしれないが、

温泉開発部は扇動しやすく温泉が出る地域があると一報を入れれば飛んでくる、災厄の狐は趣味。

 

この様な全員が全員ハナからゲリラ襲撃を行っていた現場で、ヴァルキューレ警察が先んじてシャーレ周りを防衛網で固められていた事自体がおかしいのだ。

 

 

「《ナツキ・スバルを引き渡しなさい》」

 

機械音声に変換された声がスピーカー越しに響く。

 

「彼は負傷中よ、無理に動かせる状態じゃない」

 

「《ええ、で、それが何か?彼は連邦生徒会に、キヴォトスに向けて己の武力保持を宣言しました、連邦生徒会長の探し人を自称する危険人物、重要参考人である彼の捕縛を阻害できる理由は貴方達にありません》」

 

「《空崎ヒナ、風紀委員長である貴女が賢明な判断を出来ずとても残念に思います、ですが今ならこれからの活動には支障は出ませんよ》」

 

「……風紀委員の為、ナツキ・スバルを差し出せと?」

 

「《そうは言っていません、残念だ、と言っているだけです》」

 

「はぁーー貴女がカイザーと繋がってる事は分かってる、事態の急変に焦りすぎたわね?今最も追い詰められているのは貴女でしょう?」

 

「『防衛室長』」

 

「《………………》」

 

ーー即座に、銃座が動きを見せる。

 

瞬間にスナイパーライフルによって撃ち抜かれた、アルが的確にヘリの武装だけを破壊し、ヘリを木偶の坊に変える。

アルが討つべき『巨悪』をスバルは教えると言った、ならばコイツだ、この相手が討つべき巨悪。

 

ここで罪を被るべきは風紀委員長として背負うべき、守るべきものが多過ぎるヒナでは無く、便利屋だと判断してヒナよりも前に立つ。

 

 

「黙って聞いていればペラペラとーー顔も見せない卑怯者に話し合う意義は無いわ」

 

 

「《おや、便利屋…ーーなるほど、その方達とも手を組むとは風紀委員長も落ちましたね》」

 

 

「落ちているのは何方かしら?貴女、まるで自分が正義の様に話しているけれど」

 

 

「《ええそうですよ、私達が正義で、貴女達が異常者です、そもそも便利屋は金で動くのでしょう?どうです、渡された金の数倍は出せます、そうなれば銃を向ける理由は無くなるのではないですか?》」

 

 

「自分が今言ったことをすぐ矛盾させるのね」

 

 

「それと勘違いしている事があるわ、金で便利屋が動く、ご尤もな意見だけれど……ーー」

 

 

 

「ーー私が悪党を撃ち殺すのに理由はいらない、必要なのは引き金を引く事だけ」

 

 

 

「《なッ!?》」

 

アルの狙撃がヘリのメインローターを撃ち抜いたーー。

 

迷い一つ無い狙撃は、ヘリに抵抗を許さず落下を促す。墜落していくヘリを眺めていると、追撃の爆弾がムツキとハルカから放たれ……地面のシミになるより前に空中で大爆散、

 

 

「便利屋68は依頼主(ナツキ・スバル)を裏切らない、それがアウトローの流儀ってものよ」

 

「ひゅー!!アルちゃんかっこいい〜!」

 

「さ、流石アル様です!!!」

 

「………(珍しく良い人に見えた)」

 

「はぁ……ーーこれで正真正銘キヴォトス全域のお尋ね者だね、社長」

 

「え、そうなのーー!?」

 

 

一悶着ありながらも、カヨコがスバルの治療を終える。傷は塞がったが失った血は元に戻らない、だが峠は越したようで、ペットボトルの水で濡らしたタオルを使いスバルの身体を拭いていた。

 

スバルの傷の処置に当たったヒナとカヨコの2人は血みどろで、ブーツからシャツまで総取替しなければいけない程。

一応の危機は去った、去った……ものの、この後のことを考えると気が滅入る。

洗濯を何処に頼もうか、スバルの移送先の病院はどうしようか、そもそもこの後も厄介者がごまんと現れるのに、放っておけない彼を悪意から守るには……。

 

 

そんな終わりの無い思考をしていた時、ヒナの瞳が僅かに揺れ動く。

 

 

「……ふぅーー」

 

 

「漸く、話が出来る人が来てくれた」

 

 

ーーそれは、再び同じロゴを持つヘリ。

 

連邦生徒会である証を所有し、先程とは違い小型ではあるが、恐らく先程の宣言から数十分で来た事と、ヘリが爆発しそうな勢いで来たのを見るに相当な思いで駆け込んだ事が分かる。

 

そして何よりも、先程の卑怯者とは違い、

 

 

「ーー空崎ヒナ!ナツキ・スバルは!!」

 

 

「……暫くはゆっくり、なんて出来なさそうね」

 

 

姿を晒し、メガホンを手にして叫ぶその姿に。

 

悪意は見て取れなかった。

 

吹き抜けた壁から覗く太陽は、その場の全員を照らしている。

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