Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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第二章『永劫の一週間』
『見知らぬ天井』


スバルにとって、この世界に来てからというものの、寝起きの目覚めが良いなんて事とは無縁だった。

 

瞼を閉じても飛び込んでくる弾丸の影、寝た所であの朝日の下に戻される悪夢、全身を焼く業火の幻痛。

だが今は心地が良い、その理由を探る為に瞳を開けると、目に映ったのは清廉な印象を持つ白い天井、人工的な光。

 

本来寝起きは良い方だった、1度目を擦ってゆっくりと意識を目覚めさせる。

 

 

「……柔けぇ」

 

 

ずっと硬いコンビニの屋上で寝ていたから、頭を支える柔らかい枕が酷く有難く感じる。

日本では寝慣れたぺちゃんこの敷布団だった事もあり、寝ているのがベッドの上だと気付くのは早い。

 

「すげぇ薬品の匂い、くんかくんか……セナと同じ匂いだな!まぁアイツはもっとこう、安心感ある柔らかめの匂いだったけど」

 

身体を動かそうとすると、腕に点滴が取り付けられていた。あれだけ血を失っていたのだから当たり前だと思うが、そういえば撃たれた傷はどうなったのだろう。

 

「ん、おー…これが弾痕って奴か」

 

軽くさすってみると、ガーゼが取り付けられていて、捲ってみると…肉が浅く削れている。

傷の周りはケロイドの赤みがまだあるが、硬いカサブタみたいなモノが傷口を固めていて雰囲気的には治りかけだ。

 

そういえば、と、背中側、弾痕から真っ直ぐ予測でラインを引き、腰の上辺りも触ってみる。

同じくガーゼが取り付けられていた、状況的には同じ事になっているのだろう、無精髭の生え方から寝ていた時間を考えると、この世界の医療技術は流石の一言。

 

「漢の印ってヤツだな!勇ましい痕付けちゃって、こんなのお婿さんとして引っ張りだこじゃん!」

 

「とにかく、何にせよ死に戻りを回避出来て良かったって所かな、カイザーの野郎共の爆撃も……多分起きてなさそうだし?」

 

生き残るか否かを賭けに出した、訳でも無いが、賭けに勝ったと言いたい所ではある、もう死に戻りは懲り懲り。

 

「……」

 

この後また死んでしまうような事があれば、最初からやり直しだと考えると……吐き気を催してしまう、そしてまだキヴォトスに囚われている現実と目を合わせ、日本にはまだ帰れそうにない現実と向き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を消失する寸前、ヒナが傷口を抑えてくれた事を覚えている、ちゃんと言いたい事を伝えられたのも。

 

 

「うげぇ……はっじぃ…」

 

 

宣言の事を含め、改めて思い返すと…コミュ力1がよくもまぁ、あんな大立ち回りが出来たものだと思う。

確かに異世界に来たからには、あんな感じでやってやりたい気分もあったが、ヒナとかこの世界の住人は割と感性が日本人と似ている。

痛いセリフを吐けば高校の二の舞だ、孤立無援になるのは一度きりでいい。

 

 

「ともかく、みんなに礼言わなきゃな…ここ病院だろ?って事はあの後全部ヒナとアル達が片付けたって事で、俺が不細工にぶっ倒れてる時に…ーー」

 

「はぁ…引きこもり時代に戻りてぇよ、難しい事考えなくても好きな時に寝て好きな時にアニメ見て、寝たい時間に寝てスレとか立ててレスバして、ご飯もどんな姿勢しながらも食べれる最高の……いやいや、流石にダメか」

 

 

引きこもりニート時代に不満があった訳では無い、今このモフモフな枕と暖かい掛け布団、綺麗なシーツに包まれながら美少女にアーンされる生活なんて、

 

 

「……最高だな!!」

 

 

「ーー全部声に出ていますよ」

 

 

「うわぁおっーー!?」

 

 

声を掛けられた、ずっと1人の個室だと思っていたので点滴を揺らしながら飛び起きてしまう。

その所為で身体に走った激痛に「ぅぐぅッ!?」とうめき声を立てながら、先程の声の出処を知る為に部屋を見渡した。

 

「初めまして、ナツキ・スバルさん」

 

「ど、ドーモ。ハジメマシテ、ナツキ・スバル=デス」

 

「カタコト…何処か言語能力に異常、違和感はありませんか?」

 

「しまった、ネットミームは伝わらねぇんだった…別に何ともないぜ、リン、相変わらず生真面目っぽいな」

 

「…これが初対面の筈です、貴方には名前も教えていません」

 

「あーー」

 

眼鏡美人の七神リン、死に戻りを経て会うのはこれで2度目であり、この周回だと初めての邂逅であったことを失念していた。

相変わらず、とも言ってしまったし、こんな明らかに怪しい男なんてバイクに紐付けられて市中引き回しの刑に処されたりなんかしたら、

 

「はぁ、大丈夫ですよ…今ので余計に貴方が『その人』であると確信が持てました」

 

「そーなの?」

 

素っ頓狂な声を上げて、今の何処に確信出来る要素があったのかと疑問視するスバル。

 

「まずは貴方に連邦生徒会の首席行政官として、ただ1人の生徒、七神リンとしても多大な感謝を、ナツキ・スバル」

 

 

「お、おう」

 

「サンクトゥムタワーの再起動と制御権奪取、シャーレ部室の死守、抗争の鎮圧、そしてシッテムの箱の起動…連邦生徒会長の仰ってた通りでした、キヴォトスを救う存在は貴方だと」

 

 

俺はそんな大層なもんじゃねぇ、引きこもりニートって肩書きにそれ以上足さないでくれと言いたい所だが、今更に自分が引き起こした事態の結果に驚いて言葉が詰まる。

 

 

「本当にありがとうございます、ナツキさん」

 

 

深々と頭を下げるリンの姿を見ていると、喉の奥が痒くなってーー。

 

 

「…むず痒くなる、俺は…その、もっと今言われた事で俺スゲー!って馬鹿はしゃぎする奴なんだ、畏まられると心咎めちゃう」

 

「人間誰も彼も疲れきった顔で、人生って大海を泳ぎながら人様に迷惑かけて生きてんだからさ!そう改まらず、ありがとな!位のラフさで、こう、来てもいいんだぜ?」

 

「ーーー」

 

スバルがグッジョブを出してリンに見せつける、すると…ずっとガチガチに固まっていた鉄仮面が緩んだ…気がして、眼鏡の奥の綺麗な青い目をぱちくりとさせてから、微笑んだ。

 

「…ふふっ、そうですか、貴方がそう言うのならそうしましょう」

 

「ではこれから貴方には理解して貰わなければならない事が大変多くありますので、噛み砕いて説明します」

 

「寝起きの病人に心苦しいですが、寝ずに聞いていて下さいね?」

 

「え、あのその、心なしか可愛いお顔がより厳しくなってませんことーー!?……お手柔らかにね?リ、リンちゃん?」

 

「んんっ、誰がリンちゃんですか、ほんの1時間で貴方が引き起こした事態が如何なる結果を産んだのか、一言一句丁寧に教えて差し上げるだけです」

 

「いーーやーー!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルがあの場を鎮圧する為に行った『宣言』

D.U区の中心、そして連邦生徒会の手垢が付いた部活からの急激な新勢力の誕生は即座にキヴォトス中に広がる。

 

各学園は連邦生徒会への連絡を取ろうとし、連邦生徒会の電波回線が渋滞する事態に、連邦生徒会長から預かったミサイルとは何なのか、あの少年は一体誰なのか、何故連邦生徒会は声明を出さないのか。

 

普段から忙しい連邦生徒会員が過労死してしまう程に、ナツキ・スバルの宣言はキヴォトスに混乱を与える事態となった。

 

2時間後、空崎ヒナの証言を元に連邦生徒会はナツキ・スバルという存在に対しての声明を出す。

 

『サンクトゥムタワーを再起動させ、制御権を取り戻した張本人である事は事実であり、預かったミサイル等の発言は事実無根、我々連邦生徒会はナツキ・スバルの存在を容認し、その功績を以て彼を特別保護下に置く事が可決されています』

 

『彼の意識が戻り次第取り調べを行います、徹底的で厳格な調査の元、今後の彼の動向を全学園へと通達致しますので、これ以上の詮索、噂に踊らされないよう気をつけてください、以上です』

 

無茶苦茶な声明だ、要するに……連邦生徒会がナツキ・スバルを抱き込むから野外の奴らは口を出すな、という事で、スバルが引き起こした功績が事実である以上、連邦生徒会が強力な戦力を独占している様にしか見えない。

 

しかも情報はナツキ・スバルから連邦生徒会を通して世間に発表されるなど言語道断、結局『その人』とは何なのかという疑問にも、彼がどういった存在なのかも何も語らない会見は大荒れとなった。

 

 

次に抗争、襲撃に加担していた者達の後始末。

 

 

『ヒナに…1週間の謹慎処分ーー!?ちょっと待ってくれ、何でだよ、ヒナは俺を助ける為に………』

 

『言葉通りの意味ではありません、彼女が謎の人物に手を貸すため自治区での活動範囲を越えて動いたのは事実、体面を保つ為にも何かしらの刑罰は必要でした』

 

『つまるところ、この謹慎は…休んでください、という事です』

 

『……それ、大丈夫なの?ゲヘナってクソ治安悪ぃのに、ヒナが謹慎なんてしちまったら不良共大暴れするけど?』

 

『………………残りの風紀委員の方々に頑張って貰います』

 

『無計画ゥッ!?』

 

 

災厄の狐は依然逃亡中、温泉開発部もゲヘナに戻り同じく逃走中。

 

ヴァルキューレ警察は通常の勤務と何ら変わり無かったのでお咎めは無しだが、後日スバルを暴発の末撃ったであろう生徒は公安局長と共に謝罪に来るらしい。

 

尚防衛室長は無断での輸送ヘリ使用と破損により、罰金と反省文原稿1000枚の処分、空崎ヒナから防衛室長とカイザーの繋がりを示唆されたが、明確な証拠不足により一旦はその処分で終わったという。

だが保留は保留、今後防衛室長は連邦生徒会総出の監査下に置かれ、以降の動向は厳しい管理体制を敷かれる。

 

 

それよりも、連邦生徒会が頭を悩ませる問題があった。

 

 

ーー現在、キヴォトスを包み込む最大の問題は……。

 

 

『カイザーPMC、あの襲撃の全責任を背負わされ、カイザーグループに足切りにされた企業はテロ組織として独立してしまいました、トカゲの尻尾が独りでに動き出してしまった、という事です、現在でも彼らとの【戦争】は水面下で進行しています』

 

 

『根回しが終われば、彼らはキヴォトス全域を巻き込んでの大規模な内乱を引き起こすでしょう、以前から不審な動きはあり、連邦生徒会長が居なくなっての半年間で彼らの保有する武力は拡大し続けてきました』

 

 

『その開戦のみせしめとして、カイザーPMC理事を名乗るテロ組織の長はある1つの学園を滅ぼすと宣言しています、そして彼らの最終目標はナツキ・スバルの身柄とも』

 

 

ゲヘナ・トリニティの両校は沈黙、ミレニアムは元より連邦生徒会長の失踪から独自の防衛体制を設立、全ての学園が各々の対応を築きキヴォトスは空中分解しようとしている。

まさに、キヴォトス崩壊は目前にまで迫っていた、超人と謳われた連邦生徒会長の失われた半年間は余りにも溝が大きすぎたのだ。

 

 

『はーー?』

 

 

その言葉に、軽いため息のような言葉しか返せないスバル。

 

確かに、確かにスバルはあの宣言で俺が相手だ、とカイザーグループに向かって吐き捨てた。

 

ーーけれど、この結果は流石に予測していない。

 

スバルの一言で戦争に?学園を滅ぼす?そもそもPMCってなんだよどういう企業だよ、病院で寝っ転がって『その人』だから連邦生徒会長の遺産とか貰えるのかなとか期待してたのがバカみてぇだ。

 

スバルの責任か?スバルが生き残りたいが為にあんな事叫んだからこうなってるのか?

 

 

 

「ーーそれが、現実です」

 

「っ……」

 

「貴方の責任だとは思いません、その意見は大勢の方も同じです……ただこれは、貴方が起こした行動の結果というだけ」

 

「貴方が一体何処の誰で、何処からやって来て何をしに来たのか、何故シッテムの箱を起動できて、何故連邦生徒会長は貴方を選んだのか、そして何故貴方は未来を予知したかのようにカイザー相手に矢面に立って敵対する発言をしたのか」

 

「その全ての答えは貴方の中にしか眠っていません、私達は何も知らずに貴方を助ける事は出来ない」

 

「……ふぅーーご理解頂けましたか?今のナツキさんがどれ程の立場であるのか」

 

「……………」

 

「私達が手を貸す事も可能です、しかし私達に頼れば貴方がどういう存在であるかをキヴォトスに示すには不十分になってしまう」

 

「敵なのか、悪なのか、善なのか、それらのどれでもないのか、ナツキさんがキヴォトスでどう受け止められるのかを決めるのは、ナツキさん次第になってしまっている」

 

「こんな状況で酷だとは思っています、ですが私達には貴方以外の誰かがこの問題を解決出来るとも思っていません」

 

 

「ナツキ・スバル、貴方が、貴方がその人ならば、どうか…」

 

 

「私達…いえ、キヴォトスを救ってくれる『その人』だと示してくれませんかーー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「………………」

 

 

身体を動かせば付いてくるキャスター付きの点滴を揺らす。

廊下に飾られている装飾品を眺めながら、スバルは溜息まじりに敗走の算段を始める。

 

高層ビルの張りガラスからの眺めは絶景で、学園都市の規模を感じさせる雄大さがそこにはあった。装飾や文字盤は幾何学的な模様をしていて、特にミレニアムとやらが広告を担当している看板を見ると「うーん、まるで何を言っているのか分からんぞ、広告の意味あんのか?」とかこの世界の教育閾値が高すぎる事をぼやく。

 

「ま、弱気は止めて前向きに……なんて言えねぇよなぁ…」

 

この長い廊下を戻る選択肢は無い、リンから自由行動を言い渡されたスバルはシャーレの『あの場所』に行きたいと駄々を捏ねて病人ながらも連れて来てもらったのだから。

目的地は1つ、問題は山盛り。

 

「実感が無ぇ、本当に戦争直前なの?1ニートに色々背負わせ過ぎだろ、何なんだこの世界……1つの学園守ったら今度は全部守れって、ブラック企業でももう少し新人に優しいぞ?」

 

落ち着いて考えると、寝ている数時間に世界の命運を握らされていて、特殊詐欺もビックリな負債の多さだと、しばらく歩いてから気付いたのでそっと記憶に蓋をした。

 

「つっても……」

 

思い出すのは、全てを放棄して諦めた数回の死に戻り。

見てきた事、与えられた機会の責任を全て放り投げて不貞腐れて、目をつぶって現実逃避したあの時。

 

ーーそれで何かが良くなった事は一切無かった。

 

変わらず死ぬし、変わらず皆が不幸になる。

勿論今はあの時と状況が違う、明日すぐ死ぬ訳でも無い、明日に解決しなくちゃ滅ぶ何かがある訳でもない、まだ猶予があって、スバルが現実逃避をしている間にもしかすれば全部解決する可能性はある。

 

なら逃げてしまえばいい、リンはスバルの責任では無いと話してくれたし、自分の存在を示すというのなら『役立たず』である事を皆に知ってもらえればいい。

 

臆病で、傲慢で、嫌気が立つ位お調子者の自覚はあるし、失言も多くてウザイ、ナツキ・スバル1人じゃ何も出来ない、他の人の足を引っ張るだけの存在だと。

 

「そしたらさ!全員俺に頼るってのを諦めてシャンとしてくれんじゃね?俺の誤解を解くのはきっとヒナも手伝ってくれる、銃弾1発でKOの頭悪い俺なんか、誰も求めたりしない」

 

惨めだな。

 

「……」

 

「半日寝て元気になったせいで、俺の中のマジレススバルが暴れ回ってやがる」

 

 

そう、惨めだ。諦めて死に戻りした時に何度も何度もスバルを滅多打ちにしたのは『惨め』の感情。

 

惨めだった、ニートで何も出来ない自分が。惨めだった、社会に馴染めなくなって不貞腐れた自分が。

惨めだった、異世界に来ても変わらない自分が。惨めだった、死に戻りを繰り返す自分が。

 

そして、諦めた時は。

 

助けられるものから目を背けて、自分の苦しみを誰も肯定してくれない事にうちひしがれて、何の理由も無く選択肢だけが与えられた上に何も出来ない自分に、惨めを通り越して『絶望』した。

 

A・M・S、通称『アルティメット・マジレス・スバル』が産まれたのは、そんな絶望が心に植え付けられてからの事。

 

トラウマ、とも言う。

 

 

「………………また諦めて、ヒナ達が悲しむ姿も見たくねぇ」

 

 

カラカラカラ、ローラーが転がる音を響かせて、点滴を支えにしながら通路を歩く。

諦めたくない、諦める理由が無い、スバルには諦めない理由だけがある。

 

例えそれが、誰かに押し付けられたものだとしても。

 

 

「救って欲しいってそういう事かよ、連邦生徒会長、厄ネタ残し過ぎて押し潰されちまうって」

 

 

愚痴を吐きながら、前に来た非常階段の入口からではなく、正式な扉の前に立って開く。

 

運命の分岐点、数多の死に戻りを繰り返した理由の前に、スバルは立った。

 

 

「……色々教えて貰うぜ?」

 

 

「アロナ」

 

 

「おかえりなさいませ、ナツキ・スバル」

 

 

「シッテムの箱、メインOS 兼 ナツキ・スバル専用サポートAIのA.R.O.N.Aです」

 

 

「お会いするのはこれで4度目ですね、スバル様」

 

 

「…………ーー」

 

 

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