Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『俺は漢だ と、男は言う』

 

 

「やっべぇぇぇ!!!」

 

「待てコラァーー!!」

 

「誰か助けてぇぇぇ!!!!!」

 

キレながら追いかけてくるスケバンは当たり前の様に銃を乱射してくる、今の今まで全力疾走する俺に当たってないのは、ここに来て眠った力が覚醒しただとかチート能力で全弾避けているとかでは無く、単純に走りながら当てるのが難しいから。

 

逆にあの重量を持ってほぼ素手のナツキ・スバルの醜い全力疾走と殆ど速さが同じであるのが恐ろしい、話をしたくても倫理観が壊れすぎていて、話すよりも先に銃を向けられてしまえばどうしようもない。

 

「どうなってんだここの人間はぁッ!」

 

強烈な悪人面であれば良かった、だがどう見てもスケバンごっこをしている可愛らしい女子高生にしか見えず、カツアゲという奴を喰らいかけたのだが…。

 

「タ、タンマ!俺マジで無一文なんだ!!他の持ってるもんなら全部やるから追いかけるの止めてくれねぇか!?」

 

「じゃあ逃げないで全部置いてけよ!」

 

「お前らが銃撃ちながら追いかけるからだろ!?」

 

「何の問題があんだ!逃げても撃つ!逃げたから止まっても撃つ!!」

 

 

ミッション1 『倫理観がバグっているカツアゲから逃げ切れ』

この世界に来て、一番に目にした光景である銃撃戦、なんとこの世界の住人は弾丸が当たっても『痛い』で済み、それ故か銃関連の倫理観がゆるゆるなのである。

 

もしかすれば俺無双パターンなら、俺も弾丸を喰らおうが無傷でこの世界じゃめちゃくちゃ強いかもしれねぇが、今の所そんな事を試す度胸も無い、秘めた力というものは命が危機に迫らなければ発揮されないという例もあるし。

 

ーーしかし、伊達に異世界生活を妄想していた訳じゃない。

 

「うぉぉお!喰らえ!日々の妄想の成果!」

 

「おわっ!?」

 

「こんの、テメェ…!」

 

路地の荷物を通りすがりに薙ぎ倒す、スパイもののシミュレーションを繰り返していた成果が出た、実践するのは初めてだが効果はあるようだ。

更に加えて壁にもたれかかっていた鉄パイプも全て倒して、少しでも追いつけないような工夫をして走り出した。

 

ーー確かに逃げ切るには適した行動だったであろう。

 

しかし相手は現代文明の最先端飛び道具である銃を所有する相手。

 

 

「へッ、立ち止まらせてくれるなら当てやすいや」

 

「ーーマジか、マジかよ」

 

弾丸の命中精度が上がる、数十m離れた相手でも、今まではギリギリを掠る程度のものであったのに明確にダメージを受けた。

 

「お約束モノは無しですかそーですか!」

 

ダメージ軽減スキルだとか弾丸無効異能だとか期待していたが淡いシャボン玉の様に希望は消え去ってしまう。

そうなれば本当にこの世界で俺は雑魚中の雑魚、まだ蚊だとかゴキブリだとかの方が彼女らに対抗出来るであろう。

 

ーー足首に弾丸が掠った。

 

「いッ…!?」

 

痛ぇ、かまいたちに通られた時よりも痛い。殺意が無いのに死ぬような攻撃がどんどん飛んでくる。

ナツキ・スバルの人生史上最も危機的な状況にある、死ぬような痛さでは無いのにその傷は確かに心を恐怖で支配してくるのだ。

 

怖い、見た目には裏腹に死がこんなにも間近にある世界、銃で撃たれるなんて人生で味わう事は一生無いと思っていたのに…。

 

「はぁっ、はぁっ、ふッ!」

 

路地の曲がり角、射線が通らないか通るか分からないが取り敢えず直線から逃れる。

この世界は余りにも俺に優しくない、確かにネットを使えば銃の知識を得るチャンスは日本でもあるが、それがこんな形で必要とされるなんて予想だにもしていないのだから。

 

「はぁッ、糞痛ぇよ!クソ、クソ…!」

 

足首を抑えてみると、予想よりも血が出ていた。ポタポタとでは無く、ダラダラと言う擬音が正しい出血が更に恐怖を煽る。

止血の方法なんて知りはしないので、何とかビニール袋の中にあったモノを全て出してから、ビニール袋を紐として患部よりも上に強く巻き付けた。

 

「これで…良いはず」

 

「な〜にが良いって?」

 

「んなぁ!?」

 

どれほど慌てていたのだろう、気が付けば先程のスケバンが自分の肩に手を置いていた。

それほど時間が経っていたのだ、異世界では無双すると息巻いていたがほんの少しの手傷でこの有様、実戦等想定していないのだから当たり前の話なのだが、手加減というものも味わいたいものだ。

 

「すみません命だけは助けてくれませんか!?逃げたのは悪かったと思ってるんで、その、銃を下ろしてもらっても…」

 

「あん?何言ってやがる、命まで取るわけねぇだろ…ただ…ーー」

 

土下座の効果覿面かと思いきや…。

 

「で、ですよね!ありがとうございます!」

 

「ーーただ、コメカミに数発ぶち込むだけだ」

 

ーー相手の『死なない』とこちらの『死なない』は大分違うようで、驚きと絶望の宣言をナツキ・スバルを襲う。

こんな序盤で、何も分からず死にかけている状況に涙が出そうだ、騒がしく泣き腫らしていないのが奇跡とも言える。

 

「そんで気絶したお前から根こそぎ奪うだけだからよぉ!」

 

「キャハハハハ!真っ裸にしないだけ有難く思いなぁ!」

 

トリガーに降りる指を眺めながら、本当にこの世界の倫理はどうなっているんだと現実逃避を挟み、走馬灯を浮かべ…ーーいや、浮かび上がりはしないし、死ぬ間際のスローモーションも無く、死ぬ。

 

二人の笑い声が耳に届くと同時に、トリガーが引き切られるーーその時。

 

 

「そこまでよ」

 

 

凛、とした声。

スローモーション等では無く、世界の時間が止まる。

 

「そ」

 

「「そ、そ…」」

 

小さく可愛らしい少女だった。

床にまで届きそうでモコモコと膨らんだ真っ白の頭髪、太陽を影にする事で淡く光る紫色の瞳孔、理知的で可憐で強かさがある立ち振る舞いには『魅惑』という言葉が相応しい。

 

不釣り合いな程小さな身長も、これほどの魅力を備えていれば打って変わってギャップ萌えとなる。軍服の様な服を纏い、今まで見てきたどんな銃よりも暴力装置な見た目をした巨銃を背にする少女は、その小ささと相反する様に全てのモノが大きく見えた。

 

「「空崎ヒナぁ!?」」

 

「銃を下ろしなさい」

 

「わ、わ、分かった!分かったからご勘弁をーー!」

 

「おい待てよ!おい!ちょ、私を置いてくなぁーー!」

 

 

蜘蛛の子を散らすよう、そんな言葉が相応しい様子でスケバン二人は逃げ帰る。先程の威勢は何処にやら、と笑うよりも先に込み上げてくるのは感謝の念と、恐怖だ。

銃を乱射する世界で、銃を持っている人間は恐れられない、その前提をイキナリぶち壊した存在が目の前に居るのだから。

 

「……はぁ」

 

「そこの貴方、無事かしら?叫び声を聞いて来たのだけれど」

 

「あ、あぁ…無事かどうかっていうと怪しいが、やってくる結末よりはマシだった、助かったぜ」

 

「ーー足を怪我しているのね、それにその見た目…『外』の人間?」

 

「アンタの言う外ってのが俺の知識と噛み合うかどうかは分からないけど、少なくともここの女子とドンパチやったら一瞬で挽肉になる自信はある」

 

落ち着いて、身体に着いた埃を払い彼女をよく見てみると、そこらの女子高生が頭に浮かべている光輪とは比較にならないモノを浮かべていた。

要塞という表現が正しいか、2Dでは無く3Dな質感質量を持った巨大な光輪は、回転させるだけで自分をミンチに出来そうな予感がある。

 

 

「何か、特別な事情がありそうね」

 

「そう、特別も特別、俺もよく分かってない状況なんだよ…少なくとも、ここは俺が知ってる場所じゃないし、俺は弾丸一発で死ぬ男だ」

 

「……弾丸一発で?」

 

「引っかかるのはやっぱりそこなのね!?」

 

「……」

 

何か思い悩む表情を見せる少女を他所に、結局締め付けが足りていなかった足首の怪我からの出血が増えていく。

切れた訳ではなく弾丸で抉られたのだから当たり前なのだが、立っているだけで足元には血の小さな水溜まりが出来ていた。

 

アドレナリンのお陰で痛みは誤魔化されていたけれど、落ち着いてみれば『痛い』で済む傷じゃない、そこら辺に転がって喚きながら叫びたい気分だが、目の前の少女を他所にそんな真似をする訳にはいかない。

 

 

「ーー良いわ、警備の通りすがりだったし、貴方の話を教えてくれないかしら」

 

「応!…ま、それより前に自己紹介だな!」

 

「無知蒙昧にして天下不滅の無一文、ナツキ・スバルだ、宜しく」

 

「…私は空崎ヒナ、ゲヘナ学園風紀委員の三年生、宜しく」

 

残念ながら自己紹介のファーストインプレッションは大失敗、どう見ても変質者と幼女であるが、最早一度変質者を乗り越えた俺の敵では無い、恥も外聞もとっくに捨ててある。

サイバーパンクにしては珍しい純粋な善意に感謝しながら、握手の為に手を伸ばすと……困惑しながらも、握手を返してくれた。

 

有難い事この上ないのだが、今は兎にも角にもこの世界の事を知りたい、ゲヘナ学園という余りにも異世界っぽい単語も飛び出してきた頃なのだ。

 

 

「……ぁ」

 

「え?」

 

ーー握手をしたその時。

 

アドレナリンが切れたせいか、足首に走る激痛と貧血のせいで前のめりに倒れてしまう。

 

無論、目の前に居た幼女を押し倒しながら。

 

 

「キャッ…」

 

「っ、悪ぃ!」

 

不意打ち気味に倒れ込んでしまったので、受け身を取れない彼女の代わりに全身で庇いに行く、これで俺が怪我させてしまえば、『漢 ナツキ・スバル』は跡形も無くなる。

 

ーー手を頭に回し、怪我していない方の足でくるっと一回転。

 

「……いっ、ぁ、痛ってぇ…」

 

物の見事に背中を強打した、いや、背中を強打できた、これなら空崎ヒナは怪我していないはず…。

 

「「……」」

 

ーーどうした事か、仕方ないとはいえ幼女を強く抱き締める形で寝そべってしまっていた。

顔が大量の毛髪に埋まると、太陽のポカポカとした温かい匂いが鼻腔を擽る、これが布団なら顔を埋めて深呼吸をしたい位には良い匂い。

 

「ご、ごめん…!すぐ離す、本当に悪かった」

 

「………………別に、いい」

 

「足の怪我が酷いのね、すぐ救護室に連れていくから」

 

「あぁ、この恩を返せる手持ちは無いが、必ず返す…だから異世界案内頼むぜ、ヒナ」

 

「………………」

 

まだ『漢 ナツキ・スバル』は砕け散っていないようで助かった、これ以上無様な姿を彼女に見せる訳にはいかないと、痛みを我慢して手を繋ぎ、路地の外へと案内してもらう。

おんぶに抱っこ、今は彼女の善意に縋るしかない。

 

路地の外に出てみれば、先程までスラム街ビックリの治安の悪さをしていた風景は清廉潔白、品行方正の言葉が当てはまる美しい街並みになっており、銃声等飛び交う事も無い世界に訪れる。

 

「…風紀委員つったよな、もしかして、この辺全部ヒナが?」

 

「ええ、治安維持活動は風紀委員の役目だから」

 

「ーースゲェ、マジで凄いよアンタ、なんなの、この世界の全ての善意と優しさを詰め込んだ女神様なの?」

 

痛みを忘れて両手を握り、ブンブンと振って更に褒めたたえる。死地に連れてこられたと思えば戦場の女神が助けてくれたのだ、感謝感激雨あられで足りるかどうか。

 

「んんっ、役目だと言っているでしょう、褒められることでも無い」

 

「いやホント誇りに思った方がいいって、俺がこの世界来た時なんか絶望を通り越して地獄に来たかと思ってたんだから」

 

「……」

 

「S・M・G、ヒナが助けてくれて本当に良かった…既にヒナに対する好感度天井突き抜けてるぜ俺、ギャルゲなら一発告白OKだ」

 

「何巫山戯た事……それに、smg…って、この銃の事を言っているの?」

 

「違う違う、空崎ヒナ・マジ・(ゴッド)、略してS・M・G」

 

「……………そう」

 

ドン引かれている気はするが、自分からすれば嘘偽りのない事実である為褒めの言葉が収まらない、この感謝全てを伝える頃には嫌われてしまうだろうから打ち止めるが、少しでも伝わってくれると嬉しい。

 

「ともかく、貴方はここの事をどれだけ知っているの?」

 

「何も!」

 

「本当に何かしらの事情があるのね、教えておくわ、ここは…」

 

 

「ーー学園都市キヴォトス、数千の学園と自治区が存在する超巨大都市よ」

 

 

「そしてここは三大学園と呼ばれている学園の一つ、ゲヘナ学園」

 

 

「キヴォトスで最も治安の悪い場所でもある」

 

 

拝啓お母様お父様、不出来な子供ではありますが悪い事には決して手を染めないと誓い合った仲です、勿論悪事はしていませんが……。

 

その結果、転移地点が最悪の場所になっていました、運命様上等と殴り飛ばしてくれませんか。

 

 

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