Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『約束した未来は遠く』

 

 

ーー46。

 

 

「…死ねねぇ、死ねない、死んじゃダメだ、死んだら、死んだらまた…」

 

悪夢を見る、起きているのに『死んだ後』の世界を夢に見る。ナツキ・スバルが居なければ滅びる世界、そんな都合が良くて悪い世界が何故与えられているのかを必死に理解しようとして、憎悪と恐怖を舌の上で転がし続ける。

 

だから思い立ったのだ、これから死ななければ良いというだけ。『死』とはそんな簡単なモノじゃない、これから、これから死なない事も可能な筈、死ななければ…。

 

ーー死なずに歩み続けても、過去は消えないのに。

 

 

「うるせぇッ!!」

 

 

「ひゃい!?」

 

 

「っ、あ、ぅ…ごめん、ごめん何でもない」

 

 

「あ、あぁ…了解です」

 

 

アビドス高等学校、その道のりはリンに協力を求め、高校前まで車両で送って貰う事に。

スバルの叫びが車内に響く、運転手は急な大音量に身体を跳ねさせて、危うくハンドルを思いっきり切る所だった。

 

車道は狭く、家屋の石垣とスレスレの道幅でいつ事故るか分からない。

変わらない砂の世界、変わらない人気の無さ、変わらない景色にうんざりする所だが、今のスバルの視界には己の膝しか見えていない様で、軽く外を一瞥すればスバルにとっては新鮮な光景が広がっているのだろうが、残念だ。

 

伏し目で俯いて、何かをずっと呟いているスバルをリンは心配したが、スバルは事態の解決の為に強行。

病室からジャージを取り返し、他の所持品も病室に置いてあったので回収してから、まだ完全に治りきっていない身体でカイザーの狙う高校へと向かう事に。

 

そう、全部救って全部助けて、一度も死ななければ良いだけなのだから。

 

 

「は、はは…ーー楽勝、1回やれたんだ…だから…」

 

 

そうさ、1回出来た、ナツキ・スバルはやり遂げた。

 

 

「やれる、やれるさ」

 

 

英雄ナツキ・スバルは、一度は全てを救った。

だからもう1回位、出来るはず。

 

恐ろしい程に閑静な住宅街、砂に埋もれた街は変わらない。変わらず車の行き先を惑わせ、窓から覗く景色も未だ変わらない。

ーーただ、ある1点を除いて。

 

 

「やれ……ーー」

 

 

それは驕りであった。

彼の考える英雄等元からどこにも存在しない事は、ナツキ・スバル自身が最も理解していた事なのだから。

 

 

ーー分かっているのに目を背けて、惨めだな。

 

 

「ん?あれ、ここって封鎖されてるなんて…ーー」

 

 

ーードンッ!

 

 

「「っ…!?」」

 

 

爆炎に肌を焼かれながらスバルの身体が浮き上がり、車の天井へと叩きつけられる。

 

 

「かはッ…ーー!?」

 

 

背中に受けた衝撃はそっくりそのまま全身へ、肺を叩き心臓を鳴らす。

酸素を送り込もうとしていたそれぞれの器官は一時的に機能を停止する。

全身から力は抜け、急激に息が止められた彼の口はパクパクと餌を求める金魚のように酸素を求めた。

 

 

「ぉ…ぐッ!!」

 

 

今度は右に、下に、左に。

何事かと理解するより前に、スバルの身体は四方八方から強い衝撃が加えられ、強く腹部を殴られた時には弱った内臓が悲鳴をあげる。

 

頭、首、背骨、打撲から守らねばならない箇所の全てを蹂躙されていく。

全身への余りの痛みと暴虐に、ナツキ・スバルの意識が失われていってしまう。

 

 

「何…がーー」

 

 

そして漸く四方八方からの打撲に終わりが迎えられた後。

ドラム式洗濯機の中に入れられていたみたいな、平衡感覚もクソも無い状態に放り込まれた理由が、スバルの目に写った。

 

痛みにのたうち回りながら、視界に捉えたのは……車の天井が下にある事と、壊れたフロントガラスの向こう側に、黒いヘルメットを被った少女達が、死体を啄むハゲタカの様に集まってきていた事。

 

 

ーーそうか、また死ぬのか、

 

 

「…」

 

 

シートベルトに縛られながら気絶している運転手は、ガラスで切れたのか腕から血を流す程度で済んでいた。

ナツキ・スバルは、腹部に熱い熱を感じると共に血の塊を吐き出し、額が切れたのか視界が『赤』に染まる。

 

お腹が痛い、裂けるように痛い。

内臓が破裂した、血の気が引く、呼吸が出来ない、震えが止まらない。

脇腹にガラス片が刺さりくい込んでる、血と苦しみが混ざりあって涙へ変わる。

小さい頃から車に乗る時は、シートベルトを付けろと教えられてきたのに、そんな事すら守れない。

 

 

痛い、死ぬ。

 

 

ーー死ぬ?

 

 

「……ーーひ、ねない…」

 

 

死ねない。

 

 

「ぁぶ」

 

 

「ーーひんだら…」

 

 

駄目だ、死ねない。

 

 

「ぅ、ぶブ…ぶば…ーー」

 

 

「おーい!乗ってるの2人だけだー!クソシケだ!撤退撤退!」

 

 

「はー!?なんか乗せてねぇのー!?」

 

 

「なんにも、輸送車だから期待したけど女1人に………ーーおい、コイツ…」

 

 

真紅に染まったスバルの瞳に映るのは、また、またもや銃だ。

 

 

「ぶぺッーー」

 

 

「うぉ、ナツキ・スバルじゃん、ハチャメチャに大物だぜ!?……うわ、血ゲロ汚ね」

 

 

「いやっほーい!!コイツダシに連邦生徒会脅してよぉ!そうすりゃ暫くは食いっぱぐれない!これでカイザーとも縁切って、脅しも無視できる位の護衛雇ってからブラマの基地で打ち上げだー!」

 

 

「「イエーイ!」」

 

 

「ーーーー」

 

 

ーーコイツらは、何を言ってるんだ?

 

人が死ぬんだぞ?今目の前でお前らが殺すんだ、何で、何で喜んでる、お前らがーー。

 

 

「ぁ……ぅあ…ぇ」

 

「アンプル1本打っとけ、ひとまずそれでいいだろ」

 

「了〜解、へへ!儲けもの儲けもの!」

 

 

冗談じゃ、無い。

 

理解すらしてないのに、殺して。俺の事何も知らないのに、命を奪って。

車を爆発させればこうなる事位分かってるだろ、そんなことして、誰かが死んだ時、何処の誰が責任をとるんだ。

 

お前らだ、殺したお前らが責任をとる。

 

 

ーーそれすら、理解していない奴らに殺されるのか。

 

 

何も知らない、お前達は何も、何もかも知らない癖にナツキ・スバルの命を奪うのか、お前らのせいでこの世界が消えるかもしれないのに、お前らのせいだ、お前らのせいでーー!!

 

 

「さ、引っ張るぞ〜」

 

「何か引っかかってないかな?」

 

 

駄目だ、近づくな、死にたくない。

間に合わない、治療して貰うより前に死ぬ。

間に合わない、間に合わない?間に合わないなら、死んでしまう。

死にたくない、死んではいけない、死ねない。

死ねない、死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねないーーー、

 

 

 

「ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー46回目の、死に戻り。

 

 

 

「……」

 

 

ナツキ・スバルを迎え入れたのは見知った天井。

つい最近見たことがある、真っ白で清潔感溢れる部屋の様子と、セナに似た薬品の匂い。

横には腕に繋がった点滴、服装はスバルが入院している事が分かる病院服。

 

ジャージは着ていない、先程の重体から運良く生き残って病院に運ばれて、また点滴を打ち込まれでもしたのだろうか。

 

死に戻れば、コンビニの上に戻る。コンビニの上で無いのならまだ、ナツキ・スバルが死んで転移したとは限らないのだ。

 

 

「…………」

 

 

人は安心を求める時に、不都合な真実から目を背け、虚実であり少ない可能性であるものを選んでしまう。

幻想、幻視、常そういった現実逃避は、肯定された試しは無い。

 

 

「………………」

 

 

数十分、ただひたすらに時間を無駄にする。天井を見つめたまま、虚実を『そうあれ』と願いながら。

 

 

「おや」

 

 

病院の扉が開かれた、七神リンが入室してくる。

それは、スバルにとって高校の合格発表の様な、それでいて地獄の審判を下されるような気持ちで、

 

 

「初めまして」

 

 

「起きてらっしゃったんですね、ナツキさん」

 

 

ーー物の見事に真実は告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー3日後の夜。

 

 

「……」

 

 

今日も変わらず窓の外を見つめる。

何もせず、何も話さず、何の反応も見せず病院に佇む男が居た。

誰の声にも返事を返さない、何のアクションも起こさない、まだ撃たれてからすぐな事もあってか、今その男は何もしない事が許されている。

 

傍から見れば死人のようにも思えてしまい、看護師が何度か生きているかを確認しに来る事もしばしば。

食事も喉を通さないので、液体状の栄養食を喉へと流し込み、3日もする頃には彼の顔にも痩けが見える程。

 

夜空に輝く星を、相も変わらず眺め続ける(スバル)は、生きたまま死んでいた。

 

ーーふと、彼の耳が足音を捉える。

 

複数人の足音だ、それも看護師の様な柔らかく激しい音を立てない足音と違い、軍隊が闊歩するかの様な行進の足音。

 

それが近づくにつれ、施設からは悲鳴が上がっていく。

 

 

「ここか」

 

 

病室の扉が派手に押し開かれた、蹴飛ばされた扉は破壊され、病室の品々を破壊する。

彼は変わらず窓の外を眺める、ただひたすらに。

 

 

「ナツキ・スバルだな」

 

 

「……」

 

 

「全員、構え」

 

 

機械音声、聞き覚えのあるソレにゆっくり顔を振り向かせ、黒に塗装された機械兵を目にするスバル。

機械兵にはカイザーのロゴが刻まれている。

当たり前の様に、いつまでたってもスバルの前には彼らが聳え立つのだ。

 

元凶と言えば元凶、だがしかし、彼らもスバルが死ねば消えるかもしれない土台(世界)の上に立っていて、それを知らずにいる。

 

 

「お前がナツキ・スバルか……どんな男かと思えば、唯の死人では無いか」

 

 

ーー死人?まだ、スバルは生きているというのに。

 

 

「……ぁ…」

 

 

「何か言いたげだな」

 

 

「…………」

 

 

「な……にも、」

 

 

「何も、しらないくせに」

 

 

「俺の事、何も知らない癖に殺すのか」

 

 

「ああ」

 

 

この世界の皆がそうだ、相手の事を何も知らないのに銃を向ける、理解するより前に銃を向ける。

理解し合えない拒絶が形になってしまっているのだ、理解し合うプロセスを全て無視して銃を、爆弾を、言葉ではなく敵意を向ける。

 

だから分からない、理解し合える事が分からない、理解し合えないのかも分からない、銃があって、拒絶だと理解していないものを振り回すからこの世界の住民は分かり合えない。

 

 

ーー何も知らないくせに。

 

 

「貴様が死ねば連邦生徒会は、キヴォトスは瓦解する」

 

「広く有名になり過ぎたのだよ、ナツキ・スバル」

 

「象徴になった、なってしまった、カイザーの敵だと名乗りを上げた貴様はこの局面で必ずキヴォトス全てを繋ぎ止める存在に成りうる」

 

「だから死んでもらう、何も知らない訳では無い、何もかもどうなるか分かっているから殺すのだ、貴様が死ねばーー」

 

「違うッッーー!!」

 

「ぬッ…」

 

「お前、お前らは、なんも、なーんにも!!分かってない!!!」

 

「分かって、ないんだ……!!何も……ーー何1つ…何も、かも……」

 

「…………分かってないんだよ」

 

「………」

 

 

カイザー兵はスバルの言葉を右から左へ受け流す、象徴、どんな男かと思えば唯の少年、唯の泣き叫ぶガキだったのだから。

 

拍子抜けだ、と照準をナツキ・スバルの額へと定めていく。

 

 

「言いたいことはそれだけか」

 

 

「…………」

 

 

「ふむ、ではさらばだ、貴様の死を以てキヴォトスとの全面戦争を始めるとしよう」

 

 

「ーー撃て」

 

 

 

数十人からの一斉掃射。

 

勿論、ナツキ・スバルの命など枯葉が吹かれるよりも儚く散っていく。

 

1つの人間から肉塊へ、肉塊から肉片へ、肉片から血煙へ。

 

何もしないから、何もしないで下さい。

そう願って毎夜を過ごし続けてきたナツキ・スバルの3日目は。

 

祈りに唾を吐き捨てられる形で、失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー47。

 

 

「ナツキさん!?何処に行くんですか!!」

 

 

ひたすらに走るスバル。点滴もちぎり投げ捨て、病人であるボロボロの身体に鞭を打って、壊れた心を手でくっつけて。

 

そんな人間の走り等、何処まで行けるかなんてたかが知れている。

すぐに捕まって、吐き戻しながら蹲る。

 

 

「ーーシャーレに?」

 

 

行きたい場所があった。スバルの味方をしてくれるあの箱の元に。

数十分、スバルの視界はずっと己の手が覆っていて、そのままあの箱の元へと運ばれた。

 

 

「おかえりなさい、ナツキ・スバル様、これで会うのは5度目ーー」

 

 

「……ーー4…7度目、了解致しました、今後お戻りになった時にもスバル様の観測回数には『観測機能』を使用して修正を加えておきます」

 

 

「連携……携帯機に?肯定、可能ですが……ーー宜しいのですか?」

 

 

彼女だけは知っていてくれないと。

理解してくれていないと、ナツキ・スバルが犯す過ちの数を確かめてくれていないといけない。

持っているガラケーはスバルが死ぬ度に、その回数を表示する。

 

スバルが、スバル自身をナツキ・スバルが犯した過ちを認識する為に。

 

死ぬ度に世界を飛び越えるというのなら、ナツキ・スバルの罪は『死ぬこと』、死を繰り返せば繰り返すほどスバルの背中に罪が増える。

 

殺されるな、死ぬな、生きて、生き残って救う。

 

 

「……ごめん」

 

 

それが…それだけが。

 

 

「ーーごめんなさい」

 

 

それだけが、ナツキ・スバルが得られる『赦し』だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー48。

 

アビドス砂漠の道路にて、ヘルメット団の襲撃。

 

ーー49。

 

空路を頼り、カイザーにより撃墜。

 

ーー50。

 

抜け道を探す為、輸送後単独行動、その後ーー。

 

ーー51。

 

自殺未遂、病室に軟禁後、カイザー襲撃。

 

ーー52。

 

輸送後、自転車での移動、後に熱中症により死亡。

 

ーー53。

 

輸送後、徒歩での移動を開始。その後熱中症により死亡。

 

 

 

ーー54。

 

 

『…ナツキさん』

 

 

『どうして、ずっと謝っているのですか?』

 

 

徒歩移動後、熱中症により死亡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が目覚める。

 

スバルにとって、この世界に来てからというものの、寝起きの目覚めが良いなんて事とは無縁だった。

 

それは、これからも永遠に。

 

 

ーー■■。

 

 

「…………」

 

 

見飽きた天井を眺め、見飽きた物置棚、見飽きた携帯。

 

ガラケーの蓋を開ける。

 

 

「………………」

 

 

そこに表示されていた数字を読み上げ、今日も壊れた心を、悪夢で支えて歩むのだ。

 

 

ーー55回目の死に戻り。

 

 

ゾロ目を喜ぶより前に、ナツキ・スバルは点滴を取り外す。

 

枕を整え、シーツを整え。

七神リンが入室するまでに、1秒1分間違えず扉を見つめて、

 

 

「おや」

 

 

「初めまして」

 

 

「起きてらっしゃったんですね、ナツキさん」

 

 

「ーーああ」

 

 

「初めまして、だな」

 

 

 

そしてまた、()()()の彼女らに挨拶する。

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