「早速ですがナツキさんにはお話が…ーー」
「カイザーのATM…じゃなくて、PMCの野郎がキヴォトスに宣戦布告して、アビドスって高校を滅ぼそうとしてる…だろ?」
「……何処でその話を?」
「伊達に夜空に浮かぶ星数えて、ねんねんころりしてた訳じゃねぇんだ、風の噂位耳にするさ」
「そうですか、では自己紹介を…ーー」
「ってのもキャンセルだ、リン…早速だけど、シャーレに連れてってくれねぇか?シッテムの箱に用事があるんだ、結構大切な話もあるし」
「…やはりーー…分かりました、貴方は本当に置き手紙通りの方ですね、ナツキさん」
繰り返した幾度もの死に戻りで、スバルは死に戻り後の立ち回りを固定化していた。
それに加え、周回によって手に入れた情報も多くある。
第一に、どうやら置き手紙の中にはスバルが突拍子のない、所謂過程を省いた情報や結果を手に入れる事があるとでも書いてあるのか、スバルの無茶振りは大抵『その人』判定として押し通せる。
第二に、連邦生徒会の置き手紙を保管してある秘密金庫。
その解錠は連邦生徒会各室長の可決が必要であり、現在は無投票と防衛室長の否決もあってスバルでは確認できない。
第三に、アビドス高校にまで辿り着く道のりには、脅されてカイザーに雇われているヘルメット団と、カイザーの私兵が配備されていること。
そして生身のスバルではありとあらゆる移動手段を使っても、熱中症による死亡か発見されての射殺が関の山。
「ですが…点滴を外すのは止めて下さい、まだ貴方の身体は十全とはいえません」
「その病人引きずり回さなきゃいけねぇ状況なんだろ?リンもそれは分かってると思う」
「……」
「無茶させてくれ、それだけしか出来ねぇんだ」
今はまだそれだけの情報しか手に入れてない、アビドス高校とやらに辿り着いてすらいない。
死ねば死ぬ程、情けなくなる。死ねば死ぬ程、惨めになる。
立ち止まっても走っても、ナツキ・スバルが死なない未来は無いのに。
でも、諦めるよりはずっとマシで……、
「俺が全部、何とかしてやる」
「ーーー」
そうやって、出来もしない甘言を吐いている時は…魂を鷲掴む痛みが和らぐような気がした。
■
「おかえりなさい、ナツキ・スバル様」
「……」
「55度目の帰還、お待ちしておりました」
「ーーー」
「…はは、それじゃ…マッピング、出してくれ」
「了解です」
ナツキ・スバルがあの砂漠を攻略するには、迷路のように入り組んだ街に現れる敵と、進むべき道を決める事が必要。
カイザーが病院を襲撃してきた後に決めた事なのだが、何の進展も無く死に戻りするよりは幾分かマシだ。
まず車道、これは基本的にNG…それこそ装甲車であっても使う訳にはいかない、進める道が限定され過ぎる車はヘルメット団の包囲網を突破できない。
空路は1度試したが、ステルス機でも引っ張ってこないと無理。
現実的なのは徒歩と自転車だ、特に自転車は車よりも見つかる危険性は無く、徒歩よりも日差しに殺されることも無い。
徒歩移動は夜に行きたい、それもこれから試す。
ーー試すしかない、それしか出来ない。それで死んだとしても。
諦めない事だけが、与えられた選択肢。
それ以外を選んだ瞬間に、ナツキ・スバルは過去に憑かれ殺される。もう二度と戻れない暗闇へと落ちていく。
「…今度こそ、だ」
「今度こそ…死なずに……」
一度たりとも受け入れた死などありはしないし、過ぎた世界を忘れる事も無い。
結局の所、現状に何1つ結論なんて出せてないから足踏みしている訳で、現実逃避の謝罪も効果は無く、スバルは救いたいと願う世界を自らの手で破棄しているに過ぎないのかもしれない。
どれだけ死なずの誓いを心に打ち立てても、この世界でスバルの命は羽よりも軽いのだから。
言い訳、欺瞞、傲慢、今のスバルを構成し…その足取りを歩ませているのは、自責と罪と…あの言葉。
『私を、救って下さい。』
用意されていた筈の逃げ道は、最初に自ら捨て去った。
「夜に自転車で行けば…。よし、巡回ルートもガラケーに出しといてくれるか?」
「了解」
「ありがとな、もっと気さくなセリフでも言いたいところだけど…ふざける気分でもねぇってのがスバルポイント減点、まぁ俺の中だけのポイントだけど!」
「…スバル様」
「ーーん…取り敢えず」
「行ってきます」
彼を縛る自責と罪がその重圧を増す。
救いを求める声は呪縛に、失われた世界は呪いに。
ナツキ・スバルの覚悟を以て…、
ーー死に戻りが、加速する。
■
「…太陽が照ってないと、ここまで気温が下がるんだな」
夜に包まれた静かな街を疾走するスバル。
昼ご飯食べて、少し寝て、アビドス高校までに繋がる道のカイザーに感知されないギリギリの場所までの輸送を済ましたスバルは、頼んで持ってきてもらっていた自転車に跨り、街を一望出来る高さの道路からアビドス砂漠を眺めていた。
今までは全て昼のアプローチ、夜に来るのは初めてだったが、
「…ーー凍死するぞコレ…!」
リンがマフラーと手袋を渡してくれていなければ、とっくの昔に自転車を運転出来なくなっていた程の寒さ。
世界不思議〇見とかで聞いた覚えがあるが、通常の土の大地は水分を含んで、その水が太陽の熱を溜め込み地熱に変換するらしい……だが乾燥した砂漠では水蒸気によって熱が蓄えられない。
砂漠が真に恐ろしいのは服で直射日光を遮ればいい昼ではなく、凍死の危険性がある夜だとも。
「急ぐ必要は無い……でも、多分…ーー」
繰り返した死に戻りで、スバルを最も苦心させている問題があった。
それはこの自転車を漕いでいる瞬間にもヒシヒシと伝わってくる殺気であり、スバルの背後を追う追跡者の事だ。
これがあの宣言を聞いて密かにスバルのファンクラブが作られた事による、熱烈で熱心で、連邦生徒会長みたいな感じで感情が1周回った結果、スバルを監禁してでも手に入れようとするヤンデレファンなら……歓迎は出来ないけど悩殺するセリフ位吐いてあげようと思える。
そんな思い付きが胸にストンと落ちていく事はなく、真実は純粋な殺意を持った集団でしかない。
「ああ、そうだよな、やっぱりお前らだよ、俺の敵はお前らで、お前らの敵は俺だ」
カイザーコーポレーション。結局の所PMCは独立しているのでは無いのだろう、カイザーがキヴォトスを攻め落とすために1番矢面に立っているに過ぎない。
カイザーコーポレーションそのものがキヴォトスの、スバルの敵だ。PMCをぶっ潰した所でこの戦争は終わらないのだ。
スバルが病院を出るのを監視しているのか、彼らはどの世界でもスバルを尾行していたし、確実で明確な隙を晒すまでは襲ってこない。
50回目はそれで死んだ、恐らく熱中症で死亡した後も死体を回収しに来る。
「…あれが、アビドス高校」
寒さで震える瞼を、危険ながらも一度ゆっくりと閉じて温める。
じんわりとした感触と共に、瞼を開けばボヤけた世界がーー現実が、スバルの目に映る。
辿り着いて救うべき対象、ゲームで言うところのネクストステージ、スバルは打算であの高校を救いに行く訳では無いが、そうせざるを得ない状況でもあった。
『ナツキ・スバルを目標としたテロ組織による、1つの高校の滅亡』
その文言が及ぼす影響力は計り知れない、逆にこの問題を解決出来るのならば、キヴォトスは連邦生徒会の旗本に集結する。
「………」
「脚痛ぇ…」
コンビニにも徒歩でしかいかないのに、自転車乗り回すなんて何時ぶりだ?高校通学してた時は使ってたけど、
「数百km、輸送してくれなきゃ自転車で移動するなんて普通に馬鹿だろ、一々キヴォトスは何でもかんでもデカすぎるって何億回言わせんだ」
「そりゃ廃れもするわ!こんな砂だらけの人も居ない過疎地なんかよぉ!!」
ここに移り住もうなんて考える阿呆は、多分種族がサンドゴーレムかサンドスコーピオン。
空路は砂で、陸路も砂で、電車も砂で動かないなんて、サンクトゥムタワー起動する前と何ら変わり無いなんて予想してなかった。
お陰様で3時間程度自転車を漕がされ続けているスバル。高校が視認できる様になるのをここまで苦難させられるとは。
「だけど、この坂道を下ればーー!!」
ウィリーしたい気分を抑え、山を思わせる斜面を滑る先は高校の校門前が待ち受けている、こんな夜中に誰も居ないとは思うが、校舎に入れた事すらない今までと比べれば大きな進展だ。
高校に近づくと共に背後のストーカーの気配も強くなる、その分スバルのペダルを踏み込む力も増していく。
「追いつかれたら死ぬ追いつかれたら死ぬ追いつかれたら死ぬ、足掻け雑草根性!!」
「見せたりゃ漢魂ッ!!」
死に戻りを繰り返しても筋力や体力は増えない、身体に蓄積されるのは肉体的な経験と精神力のみ。
それでも踏ん張りどころで火事場の馬鹿力をどうやって出すのかは、身体が何となく覚えているものだ、
「ーーー発砲許可、辿り着く前に撃ち落とせ」
「了解」
「んなッ…はいはいそうですか!!困ったらすぐ実力行使だもんなお前らは!」
放たれる弾丸がもみあげを掠める、たらりと流れる血液が道路にスバルの足跡を残し、捕食者と被捕食者の闘争が始まった。
スバルは自転車、対するカイザーはバイクだ。
「っつうッ…当たるかどうかは完全乱数…!微笑んでくれよ運命様ッ!」
「チッ……良く狙えっ!」
「べろべろばァー!!クソエイム共が!当てれるもんなら……当たってはいるけど!当ててみやがれ!!!」
急斜面が功を奏した、本来ならば勝負にならない追いかけ合いもバイクの加速を落とさなければ前輪が浮き足になる。
重装備重機器が仇になったか、軽装のスバルを追い越せていない。
しかし、急斜面が終わりを告げた、平地はスバルの優位性を失わせる、時速15km対時速40km、その対決の結果は火を見るより明らか。
「クソが、駄目かーー!?」
「ナツキ・スバル、大人しく病室で寝ておけば良いものの…………ーーあ…?ッ馬鹿な、走行中に……!」
「ん!?」
校門前まで後数百m…!
だが、横から突き付けられたライフルの照準がスバルの瞳に反射したのを見て…顔を背けてしまう。
ーー目をつぶった暗闇の中、何かが風を切る音を耳にしながら。
「何してるのかな〜?君たち」
甘く柔らかで、それでいて厳格さの籠った声。
「…カイザー…それに…ーーいや、先にお前らか」
その甘い声も、憎悪と怨念の籠ったヘドロのような感情が覆い尽くす。
「きさッ…小鳥遊ホシノォッ!!!」
「うるさい」
スバルの耳に届く両脇からの爆発音、目に見えない何かの強襲は驚異的な腕前と精度でスバル以外を滅ぼし…バイクの爆発からもスバルを救い出す。
死を覚悟して閉じられた瞳は、与えられた自由に活気を取り戻して開かれる。桃色の髪の毛には大きなアホ毛、全体的にぼんやりとした雰囲気を纏っているはずなのに……今のスバルだからこそ分かる、『何か』を背負った者の目をした少女。
強者……というよりは、『修羅』、そして同類でもある目。何かを求める目、何かを成す事で赦しを、尊厳を求める目、誰かの為に『頑張ってきた』目。
暁の様な深い色と海の様な鮮やかな色を持つオッドアイの彼女は、ヒナと同じ体型をしている筈なのに…。
ーー怖い。
死を想起させる感情が腹から湧き出てくる。狼の群れに襲われていたら、ライオンに救われた様な気分、
「た、助かったぁ……」
「うへぇ〜、こんな夜中に悪い不良さんが紛れ込んだものだね、ダメだよ〜?今アビドス周辺はとっても危険なんだから」
「お礼を言いてぇとこなんだけども、アンタも不審者だろ…普通あの場面見たら俺なんか見捨てるのが常だぜ?」
「そりゃぁここの高校の生徒だからね〜…周辺で危ない事起きてたら対処しなくちゃ」
「ここの高校って……って事は!アビドス高校の生徒なんだな!?…こんな夜中にまで学校に居んのか?」
「そう、最近は君たちみたいな不審者が多いからさ…警備しとかなきゃ、いつ襲ってくるか分かんないでしょ?」
気楽に話す2人。
先程の惨状を目にしても気にしないというのも当たり前になってきたが、両手でスバルを抱えているこの少女に限っては少し違う印象を持つ。
ーー彼女が乗ってきた乗り物が見当たらない、徒歩でバイクに乗り移って破壊していた。
ヒナと同じだ、ヒナと同じくこの少女も怪物。
少なくともヒナがこの世界の平均ではなく最上位だと知っているスバルの観察眼は、彼女を同等の存在だと判断した。
「それで」
「ーー君は?」
自転車の全力疾走で喘息の様な呼吸をしていたスバル、彼の肺が酸素を取り込むのを止める。
「……君…ってのは…」
「君が、何処の誰でどんな目的でアビドス高校を訪れて、害をなすのかどうか」
「答えられるーー?」
「っ」
表情は柔らかい、声も脅しの様な雰囲気は無い、見た目には幼い少女だという感想しか感じないのに…。
恐ろしい。銃を向けられている事よりも、死の直前である事が肌に伝わる。
「あ……ぅ、お、俺って結構有名人らしくてさ、耳にしてない?」
「生憎通信網が遮断されててさ〜、カイザーも徹底してるよね」
「ーーその、えーっとぉ…」
「ね、ナツキ・スバル、アビドス高校に何の用?」
「ッ!!!」