Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『何度目か分からない誤算と期待の裏切り』

 

 

「お、俺は…!俺は、その…カイザーPMCの奴らがアビドス高校を滅ぼすって聞いて、それを防ぎたくてきた」

 

「俺が何とかしてみせる、カイザーがアンタの高校を攻めようってなら俺が救ってーー!」

 

 

スっと構えられるショットガンは顔面へ。

スバルが勇敢に叫ぶのを、先んじてショットガンを鼻へ押し付けて黙らせる。

 

「…ーーねぇ、ナツキ・スバル」

 

()()?」

 

「…っ?」

 

「君が、どうにかしてくれるの?」

 

「あ、あぁ」

 

「ふーん」

 

 

片足をとんとん、靴のかかとを整えて…気だるげに銃を背中に戻す。

ゆっくりとスバルを地面へと降ろし、怪我が無いか確認した上で見つめ合った。

 

オッドアイ、世にも珍しい配色の2つの瞳に見つめられていると、猛禽類に狙われている気分になるスバル。

 

 

「君だけで来たの?」

 

「…そうだ、近場まではヘリで運んでもらったけどな」

 

「うへ〜、でもここから見えなかったって事は、数十kmあの自転車で走ってきたんだね〜?」

 

「お陰様で足パンパンバキバキ、バイクなんかと競走するつもりなんか無かったってのに、えっと…小鳥遊ホシノ?でいいんだよな、さっきのカイザーが叫んでた名前的に」

 

「そうだよ〜」

 

ホシノがテクテクとスバルを置いて校舎に向かう。それに付いていこうとするも……スバルの足が動かない。

その原因は、このたわいもない会話の中にもあった拒絶だ、…スバルは彼女からの拒絶を肌に感じていた、その証拠に校舎には入らせようとせず、校門前に仁王立ちする彼女からは、何一つ入校する許可を得られている気がしない。

 

 

「もう一度聞くけどさ、ナツキ・スバル」

 

 

「君がーー?」

 

 

「君が、アビドス高校を救いに来たの?」

 

 

「…そうだって言ってるだろ」

 

 

「へ〜」

 

 

校門前の地面には砂が広がっている。足元の砂を払い、その動作はまるで線引きをしているかのように感じた、「越えれば撃つ」と。

 

吹く風は砂を運び、運ばれた砂はアビドスの全てに届き、高校から街までを砂で埋めている。

スバルは過去に日本の砂丘にも訪れた事はあるが、エジプトと張る様な砂の量は初めて見るものだ。

 

アビドスに来てからは、高所から眺める景色は…独特な景観で、全てが砂に埋もれた滅んだ後の世界を旅している気分にさせられて……とても美しく幻想的なものだったと覚えているが…。

 

幻想的というには言葉が美し過ぎる、寧ろ悲惨が似合うのだろう。

 

 

「……」

 

 

地震と津波に押し流されて、壊滅的な被害を受けた被災地。そこに数十年後、災害を経験していない者が訪れた時は「綺麗な場所だ」と評すかもしれない。

人の生活が生み出す汚さというものが排され、景観を邪魔する建物は全て倒壊し、自然だけが残る被災地は…それはそれは、美しい。

 

それを「過ぎたもの」だとして、今尚抗ってる者に目を向けようともせず。

 

 

「…ホシノ、俺の事は…やっぱり、疑わしい…よな」

 

「ん〜」

 

 

ーーだからこそ、被災した者は「ふざけるな」と返すのだ。何も知らない、何一つ知らない者が、と。

例えそれが天から降りた救いの手でも、全てを解決するデウス・エクス・マキナであったとしても。

 

 

「あのね〜ちょっと昔話なんだけど、この高校もそうでさ、アビドスは……本来砂で埋まってる場所じゃないし、人も沢山居たんだよ?」

 

「……」

 

「砂で埋まった後も色んな人が居て、健気に再興を目指してた」

 

「街の中の人も…ある程度は、未来に希望を求めていたと思う」

 

「今は殆どアビドスから出ていっちゃった」

 

「テロ組織が目の前に拠点を構えてる土地なんてさ、誰も住みたくないもん」

 

 

スバルはホシノの事を何一つ知らない、アビドスの事をまだ知らない。

 

ーーホシノは、

 

 

「ナツキ、…スバル」

 

 

「サンクトゥムタワーの支配者、連邦生徒会の隠し玉、連邦生徒会長の後任、キヴォトスの救世主、風紀委員と便利屋を束ねる男、カイザーコーポレーションの敵対者」

 

 

「カイザーPMCの標的で、君が狙われる『ついで』にアビドスは滅ぼされる」

 

 

「いや〜おじさんびっくりしちゃったよ、急に影も形も無い所からそんな存在が出てきてさ、どんな大物かな〜って思ってたんだけど…資料と君、嘘をついてるのはどっち?」

 

 

「…ーーー」

 

 

「最後にもう一度、ねぇ、ナツキ・スバル」

 

 

()()

 

 

「アビドス高校を、救うって?」

 

 

 

ーー呼吸。

 

息をしろ、息をしろ息をしろ息をしろ息をしろ!

何か話せ、何か話せナツキ・スバル、肺を動かせ喉を動かせ手でも足でも何でもいいから動かせよッ!!!

 

アビドス高校を救いに?分からない、俺は何のために…諦めない為に?それが伝わるのか?諦めたくないってだけの自己満足に、駄目だこれじゃ駄目だもっとそれらしい英雄らしい名誉に見合う存在らしい言葉をーー、

 

 

 

「そっか」

 

 

「そうだ、とかさ、何か1つでもいいから…」

 

 

「さっきみたいに返して欲しかったな」

 

 

「おやすみ、ナツキ・スバル、空っぽな英雄、連邦生徒会には送り返してあげるから…もう二度と、アビドスには近づかないで」

 

 

ーー腹部に強く、重い衝撃が走る。

 

 

「ぉ゛ーーぁ……ーー」

 

 

ナツキ・スバルの中身が、ナツキ・スバルを構成する全てがその衝撃と共に後方へと散らばっていく。

血、肉、内臓、見た事無い体液。腕と足と筋肉と骨の美しい対称のモノから左右非対称の醜いモノが飛び散る。

 

大砲をへそに押し当てられ、そのまま発射されたかのような衝撃は意識と共に命を刈り取り、スバルの命を虫けらのように摘みとっていった。

 

ーーまた殺されるのか。

 

恨み言と諦め、それが混ざった感傷を呟いて…最期に、己を撃ち殺した者を心配する、誰もが浮かべていた『殺した』事実を認めない顔、重圧に押しつぶされる顔を見つめようと、

 

 

「…ーー」

 

 

小鳥遊ホシノと、また目が合った。

 

さっきと同じ目だ、ナツキ・スバルと同種の、それでいて別の修羅の目。

 

 

そして…ーー殺した事実を受け止める目。

 

 

どうすればそうなる、どうしたらそうなる。何をすればその目が出来る。

 

知らない、ナツキ・スバルはまだ何も知らない。アビドスを、彼女の事も、何も知らない癖に。

 

 

ーー何も、知らない癖に。救うだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはぁッ…ーー」

 

 

飴玉の様な汗を流して飛び起きる。

粘着質で、ドロドロとして、息が詰まるような重い汗。

目が覚めて見つめるのはあの少女の目ではなく、清潔で白い天井。

 

 

「っ……ぁ゛ぁ…クソッ゛…ーー」

 

 

あの目が、あの少女がナツキ・スバルを見るあの目が脳裏に焼き付いて離れない。

飛び散った内臓が地面に落ちてないか周囲を見渡して、そうだ、死に戻りしたんだと首を項垂れる。

腕に繋がる点滴が揺れ、点滴が繋がっていない片手をベッドへと叩きつけた。

 

 

「こ、れで…56」

 

 

答えられなかった、あの少女の言葉に応える事も答えることも出来なかった。ハッキリとスバルが何をしに行ったのかを……。

 

ーー惨めだな。

 

 

「…うるせぇ」

 

 

ーー何も分かってねぇのに、何をすべきかも理解してねぇのに。

 

 

「…………」

 

「分かってるそんな事ッ!!」

 

「…ーー分かっ……て、る」

 

 

ーー分かってない。

ナツキ・スバルが何の為に、何故アビドス高校へ何度も死に戻りを繰り返して向かっているのか。

 

 

「…」

 

「キヴォトスを、救う為」

 

 

そんな理由でも無い。

 

 

「……アビドスを見捨てたくない」

 

 

そんな理由でも無い。

 

 

「……………カイザーをぶっ潰して…」

 

 

違う。

 

ナツキ・スバルは、赦される為にアビドスへ向かった。

救えば誰かに赦される、助ければ誰かに赦される、解決すれば誰かに赦される。

 

それを求めて歩んだのだから、答えが無いのは当たり前。

 

今ナツキ・スバルが必要としたのは、泣いている誰かの涙を零さない事では無い、助けを求める誰かを救う為でもない。

 

 

「……」

 

 

だから、あの問いに答えられなくて当然なのだ。

スバルには、あの問いの答えを自分の中に持っていないのだから。

 

 

「もう一度、もう一度だ」

 

 

「もう一度、アイツに会う、ホシノに会って…」

 

 

ーー会って、どうする?

 

 

「会って………っ、今は、それしか出来ねぇだろ!やるしかねぇんだよッ…!!」

 

 

「1歩ずつ、進んでんだ…今は、それで…」

 

 

ーー……。

 

 

惨め、だな。

 

 

「……」

 

 

「分かってるよ、そんな事位」

 

 

大きく息を吐き出すスバル。

 

また、背後から扉が開く音が聞こえた。

 

 

「おや」

 

 

「初めまして」

 

 

「起きてらっしゃったんですね、ナツキさん」

 

 

「ーーー」

 

 

「初めまして、か…あぁ、初めましてだな、リン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度、繰り返しただろうか。

 

辿り着くにも、何度も死んで、死に戻って、何十回に一度の奇跡を掴み続けて。

 

また、あの校門の前で挫折する。

 

 

ーー■■回目。

 

 

「さようなら、ナツキ・スバル」

 

「待て、待てって!まだ!話は…!!」

 

「もういいよ、君には何も無い」

 

「じゃあね」

 

 

ーー■■回目。

 

 

「連邦生徒会?よくもまぁ、君たち顔を見せれたもんだね」

 

「っ、カイザーの野郎に対抗出来るモン、沢山持ってきた…アビドスを、助けたい…協力してくれねぇか」

 

「……断らせてもらおうかな〜?」

 

 

ーー■■回目。

 

 

「やっぱり、君じゃ駄目だよナツキ・スバル」

 

「何でだよ!別に、何か…アビドスに悪い事するって訳でも無い!」

 

「俺はただカイザーからアビドスを…ーー諦めたくないだけで!」

 

()じゃない」

 

 

ーー■■回目。

 

 

「もう帰って、送り届けてあげるから、もう二度と来ないで」

 

 

 

 

 

 

 

ーー■■■回目。

 

 

 

「君は」

 

「……」

 

「ーー君は、虚しいね」

 

「そう、虚しい」

 

「私の言ってる事分からない?うん、分からないと思うよ」

 

「君には分からない」

 

 

 

ーー■■■回目。

 

 

 

「君は」

 

 

「君は、英雄だよ」

 

 

「絶望に染まった人間の心を理解してる、救いを求める人間の心を理解している、私の心も、何を考えて、何を君に言いたいのかも君は分かってる」

 

 

「ずっと見てたよ、銃も持たずにカイザーの追っ手を1人で撒いて、奇跡的にヘルメット団の包囲網にも引っ掛からず、何の被害も無くアビドス高校に辿り着いて、自分が私達アビドスを救うに値する人間である事を示した」

 

 

「私の言う事にちゃんと答えて、私が求める救いであろうと頑張ってる、銃を使わずに…君は、話し合いで、誰もが救われる道を模索する子なんだね、私…そういう子好きだよ?」

 

 

「凄いと思う、噂通り、噂以上の存在、英雄だ、ナツキ・スバル」

 

 

「ーー英雄にしかなれない、君は、英雄以外にはなれない」

 

 

「それだけ、大丈夫…アビドスは何とか私が守るからさ、カイザーでも何でも、君なら勝てると思う…おじさんにはちょっと、湧き出る虫の全部を根気強く〜ってのは難しいかもしれないからね〜」

 

 

「でも、アビドス高校にはもう…手を出さないで欲しいな」

 

 

「私の手から、アビドスを奪わないで欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

また、目が覚める。

 

どうやって死んだっけ、それすら覚えていない。

ボーッと、死んだ。適当に街中を歩いていた気がする。

 

あれだけ死を嫌って、一度の死に戻りに心を砕いていたのに…。

 

段々と、砕ける心すら無くなってきた気がする。

 

 

「……」

 

 

ガラケーの淡い電光には、176という数字が浮かんでいる。

数字の数が3桁に到達したのはいつ頃だったか、闇雲に話し合いをしようと彼女の元へ辿り着くのに、最初は数十回、最後辺りは毎回1回で辿り着けた。

 

そんな経験に意味なんて無くて、丸まり膝を折る。

 

 

「……」

 

 

どうすればいいか分からない、どうすれば先に進めるか分からない。

先に道があるのかどうか分からない、カイザーをさっさと倒してしまえばいいのだろうか、でもナツキ・スバルには何も無い、戦力も、銃も。

 

それでも繰り返せば必ず勝てるのだろう、あらゆる犠牲を無視すれば、この力は世界で最も強いのだから。

 

救いたい、救いたいんだ、何故それが伝わってくれない。頼りないのは分かってる、口達者でも無く銃も持ってなくて、特別な能力も披露出来るものでは無い。

 

ーー救いたいと願っているだけなのに、何故彼女はナツキ・スバルの手を払うのだ。

 

 

「わっかんねぇよっ……」

 

 

そうだ、アプローチを変えよう。

朝に行けば彼女以外の生徒も居るかもしれない、それか連邦生徒会を引き連れて行けば信頼に値するかも知れない、ルートはもう導き出した後なのだから、車でも何でも連れて行って……。

 

そうやって、結論を変えようとして何度も失敗しているのに、論点を変えようとしない。

 

彼女が求める姿を、ナツキ・スバルは示した筈なのに。

 

 

「何を、すれば……どうすればーー!」

 

 

枕に頭を埋めて、涙と鼻水を垂れ流して叫ぶ。

どうしようも無いのだから、惨めになっても良いのだと己へ言い訳をして。

 

 

「ーーー!!」

 

 

胸に溜まった感情を吐き出し続け、数分。

 

 

ーースバルの携帯に、着信音が鳴った。

 

 

「っ……?」

 

 

フランダースの犬、電話を受け取った時や朝の目覚ましにしていた曲が鳴り響く。

軽やかで、それでいて遊園地に来た時のような楽しげさを含む曲が耳に届きスバルは驚く。

 

一度も無かった。死に戻りをしてきて、この状況で一度も電話が掛かって来た事なんて無い。

 

死に戻りの何かが変わったのか?と、心臓を痛めながら…戸棚に置いてあるガラケーを急いで手に取ると、2つ折りの画面を開いた。

 

 

 

「……ーー空崎、ヒナ?」

 

 

 

涙で滲む視界の中。

 

無機質なガラケーの画面に、彼女の名前が浮かび上がる。






ナレ死表現を多用して申し訳ないです……。
本当に本当に、スバルくんの死をこんな軽く表現して、作業のように表現し、流していく事はしたくないのですか…どうしても執筆する時間と展開との妥協点を考えると、この様な感じになってしまいました。

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