Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『甘い密談』

 

 

「……」

 

スバルが知る中では、死に戻りとは絶対的な力であった。

何度同じ朝を迎え、何度同じセリフを聞いた事か、リンが訪れた時に言うセリフの一言一句が分かる。

 

スバル目掛けて放たれる銃以外は、あらゆる全てがスバルにとって経験済みのもの。ヘルメット団の巡回ルート、カイザーグループの襲撃位置、小鳥遊ホシノとの問答は彼女から100点を貰っている。

死に戻りとはそれほど絶対的なモノで、何者でも無いスバルが特別になるには十分な絶対性を持っている筈。

 

震える手を抑えつつ、ヒナからの電話を受け取る。

 

 

「も、もしもし…」

 

《…貴方は、ナツキ・スバルよね?》

 

「…??うん、そうだけど…はッ!超ウルトラスーパーキューティクルマイヒーローのヒナたん、もしかして俺の事急に恋しくなって電話しちゃった?」

 

《……はぁ、良かった貴方で間違い無いわね》

 

「納得する部分に納得行かねぇんだけど??」

 

《貴方こそ急にどうしたの…、電話を掛けてきたと思えば無音で切ってしまうし、心配させないで》

 

「………ーー電話?っ、ごめんちょいまってて、ヒナ」

 

《え…ーー》

 

 

電話を切り、急いで通話履歴を確認する。

 

 

「…!」

 

 

確かに、そこには空崎ヒナに対しての通話履歴が残されていた。しかもスバル側から掛けているのに、スバルはその操作をした覚えが無い。

ーーもしや、と最悪の可能性が思い付いた。

死に戻りは世界線の移動、つまるところ別世界に移動している訳で、それが何もかも全く同じの世界であるという保証は無いという事に…?

 

いやまて、ならこれまでのマッピングと理屈が合わない。何だ、何が原因のーー、

 

 

「ナツキ・スバル様」

 

「っ、アロナ?」

 

 

混迷する思考に瞳がブルブルと震えていると、携帯からザラザラの音声でアロナの声が聞こえてきた。

 

 

「176度目の帰還お疲れ様です、そして申し訳ございません、差し出がましい真似でしょうが…スバル様の携帯の機能を使用し、空崎ヒナへ連絡させて頂きました」

 

「…何で」

 

「私、シッテムの箱メインOSであるA.R.O.N.Aはスバル様のサポートAIです、スバル様が事態に対して様々なアプローチを行う結果が振るわなければ、サポートAIとして現状への打開策を提示するのも役目です」

 

「……………それと、ヒナと何の関係性がある、ヒナは今謹慎中で俺が連れ回すってのも出来ない」

 

「ーーいえ」

 

「貴方が、助けを求めるのなら、彼女は見捨てません」

 

「……ーーーー」

 

 

でも、そんなの申し訳無いというか…。

 

なんて、凡俗で凡百の感想が浮かび上がる。

今更すぎる、今更だ、最初からヒナに対しては巡回も向かわなきゃ行けない抗争先も捨てさせているのに。

そして、スバルは付いてきてくれと彼女に助けを求めて、それに彼女は応えた。

 

 

「空崎ヒナ様から再度着信が来ています、応答しますか?」

 

 

「……」

 

 

「……つなげて、くれ」

 

 

「了解しました」

 

今度は震えていない手で、携帯をそっと耳元へと当てる。

ガビガビの機械音、この世界のスマホとやらより圧倒的に機能の劣るガラケーから聞こえるのは…、

 

 

《スバル、大丈夫?》

 

 

甘い、優しい声。

 

 

「…大丈夫」

 

「そう、だな…はは、大丈夫だ」

 

《…はぁ、すぐそっちに行く、病院の名前は聞いてるからじっとしてて》

 

「うぇ?な、なんで…?」

 

《泣き声で『大丈夫』だなんて、誰が信じるの?》

 

「ーー」

 

泣いていた?泣いて、そうか、さっき泣いてたせいで…。

 

「あ、あぁ!いや!ヒナに迷惑掛ける訳にはいかねぇ、俺の方から行くよ」

 

《馬鹿言わないで、銃で撃たれたばかりの病人を引きずり回す程…無神経でも無いから、それじゃ》

 

「ちょ、ちょっと!おーい!?」

 

電話がまた切れる、心配してくれるのは嬉しいが彼女にそこまでの手間をかけさせるのも忍びない。

慌てて点滴を外そうとして、点滴の針に手を掛けた時……ふと、窓の外の景色が目に入った。

 

何ら変わりない青空、変わりない、と言えばあの空に浮かぶバカでかいヘイローが目に映るせいで「本当か?」と自分で自分を突っ込みたくなるが、まぁ特段変わらない青空だ。

異世界だから太陽や月が2つあったりもしない、謎の構造物が空に浮かんでたりもしない、本当にシンプルな青空。

 

その果てに、紫色の塊が小さく見える。

 

「んーー?」

 

「んんんーー??」

 

目を凝らして見てみると……、

 

「……アレさ、ヒナ…だよね?」

 

ヒナが飛んで…いや、いやいやいや!?

 

「どわぁぁぁ!?!?!?」

 

 

超加速で向かってくる紫と白の塊は、病院の窓のすぐそこまで急接近。

ぶつかる、と思い…スバルは目をぎゅっと瞑った。ぶつかる訳無いと分かっていても、急接近する物体が視界に映れば人間は誰しも反射で目をつぶる。

 

数秒経ち、来るべき衝撃が来ない事に安堵して目を開くと…コンコン、と病院の窓をたたくヒナがそこに居た。

 

 

「あ、開ける開ける…よいしょっと」

 

 

窓を開けると入室してくるのは、可愛らしい小鳥。フワフワの白い髪の毛と反対に合わせた固い印象を持たせるコートを羽織り、下には童話のお嬢様を感じさせるゆるふわな白を基調としたシャツ。

 

どう考えても天使of天使、仕事着から溢れ出ていた社会人オーラを脱ぎ捨てると、現れるはまさに小さな天使のヒナの可愛さ。

スバルの心にギャップ萌えが萌え萌えの倍プッシュ、常識外過ぎる登場は脳からすっかり抜け落ちて、その空白に彼女の可愛さを埋め込み続けている。

 

 

「お邪魔します」

 

「ーー飛べたんだ、ヒナって」

 

「飛んでは無いわ、滑空出来るだけ」

 

「滑空って、おいおい…ーーん?あの高さまで自力でジャンプしたの?」

 

「ええ」

 

「え〜…え、ええ〜…?」

 

「…少し、はしたないとは思うけれど」

 

「少しじゃねぇーーよ!キヴォトス人外大魔境も流石にビックリドッキリだけど!?」

 

「スバルは今特別観察保護下にあるし、病院の受付に行ってもどうせ取り合ってくれないから…」

 

「うぐ…ま、まぁ…俺の立場が色々複雑なのが全部悪ぃな、それにヒナも謹慎にさせちまったし」

 

「気にしないで、七神リンと話し合った上で…合意してのものだから」

 

 

窓枠から室内へと迎え入れる為にも点滴を外して動きやすくしようとしたら、とんでもない顔で睨まれたので大人しくしつつ……ベッドに横になり、その隣でヒナが椅子に座る。

 

ドギマギとした気持ちになっているのはスバルだけなのか、それともこのドギマギが申し訳無さでは無い別の何かによるものなのかは知りようが無いが、そうやって話していると、病室の扉が開かれた。

 

 

「おや、ナツキさん…ーー!?」

 

「お邪魔しているわよ」

 

「空崎ヒナ…ナツキさんがお呼びに?」

 

「うーん、まぁそうでもありそうでも無い的な?あ、でもちょい話したい事があるから……席外してくれねぇか、リン」

 

「ーー分かりました、色々と聞き出したいことはありますが、貴方が選ぶ事に不満はありません」

 

「ですがお忘れなく、空崎ヒナは現在謹慎中…病室から退出する際にはくれぐれもお気をつけて、我々にも政治的立場というものがありますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スバル」

 

 

一段落してから、お見舞い品を戸棚にしまい込んだ後…ヒナがスバルに声をかける。

 

 

「な、何でしょうか」

 

「目覚めてくれて良かった」

 

そういうと、椅子に座ったままスバルの腹部に張り付いたガーゼを摩る。

 

「私は結局、貴方を危険に晒してしまったし…消えない傷まで付けさせてしまったから」

 

「おっと、ダサく気絶する前の言葉じゃ足りなかったみたいだな?」

 

「…いえ、アレで十分よ……でもまだスバルがキヴォトスに来て2日目だというのに、貴方に『銃』を向けさせてしまった」

 

 

2日目、そうだまだ……2日目なんだ、と今更ながら実感するスバル。

死に戻りを含めれば3〜5ヶ月は日にちとして経っている気もしなくはないが、所詮トライアンドエラーによって消費された毎日。

 

一日一日、無駄にしてきた。

 

 

「銃社会であるキヴォトスの常識は貴方にとって、きっと…私では言い表せ無い程の恐怖があると思う」

 

「泣いていた理由が他にあるとしても、貴方の身体を『弾丸』が傷付けた事自体、飲み込むべき事じゃないの」

 

「……そうかも、しれねぇな」

 

 

そうかもしれない、そう『だった』かもしれない。

でも今は、もうどうだっていい。

 

 

「……」

 

 

「ーースバル」

 

 

ベッドで横になるスバル、その手をヒナが握る。

 

 

「ん?」

 

 

「貴方、何に謝ってるの?」

 

 

「ーーーは」

 

 

唐突だった、それは数十回前に一度リンから言われた言葉。

錯乱して、恐怖して、言葉に出してしまったあの時とは違う、スバルは何も話していないし、何も表には出していない。

 

 

「…謝るって、急に…どうしーー」

 

「目を逸らさないで」

 

「……」

 

「…スバルは本当に顔に出るのね、隠し事があったら隠せないし、困ってる事があったら困った顔をしてる」

 

「へ、へ〜?そんな分かりやすい?妖怪百面相、にらめっこじゃ敵無し負け無し無敵のスバル様と言われた俺だぜ?」

 

「あらそうかしら、さっきは親に叱られる直前の子供の顔してた、言い訳を探して謝る子供のね、花瓶でも割ったの?」

 

「花瓶割って叱られ待ちの子供!?そんなド定番な叱られ待ちもきょうび聞かなくなってきたけど……むぐっ」

 

「茶化さないで」

 

 

お見舞い品のリンゴを切ってくれていたみたいで、気づけば口にうさちゃんリンゴを差し込まれていた。

紫紺の瞳がスバルのぼんやりとした顔を見つめる、それは最初の様な威圧感溢れるものではなく、慈愛が詰まったものだ。

 

 

「……まだスバルと出会って半日だけど、私は貴方にそんな顔される程の事された覚えは無いわ、何か隠してるの?」

 

「あ〜…んと、…すまん、話せねぇ」

 

「それは私に迷惑をかけるから?それともスバルが嫌な思いをするからかしら?さっきの顔をさせていたのはどっちか答えられる?」

 

「うグッーー…」

 

 

淡々と理詰めをされるとどうしようも無い、初めからそうだったが、スバルが隠し事をしようとしてもヒナには全て見抜かれる、見抜かれた上で見逃されていただけで、彼女の配慮に甘えていた記憶しかない。

 

 

「少なくとも、私に拙く『助けてほしい』って伝えようとしていた時の貴方を考えれば……ーー」

 

「タンマタンマ!!厳しい!ちょ、もうちょっと手加減してくれ…、頼むよ、ヒナ…」

 

「………そう」

 

「別にヒナに迷惑掛けるって事でも無いからさ、深掘りNG…また出しても良いか?」

 

「……ーー」

 

 

回答は否、そう見つめる瞳が返す。

しかしてスバルが本当に拒むのなら許す様子も見えていた。

 

 

「…そっか」

 

 

今、またヒナはスバルに優しさを見せる。甘えであるのかどうかの議論は要らず。

 

 

「……」

 

「ヒナは……」

 

「ーーヒナは凄い」

 

「ヒナは本当にスゲェ奴だよ、俺が保証する、俺の人生の中で…あ〜、親父と母さんを除けば1番凄い人だって」

 

「…ーーふふっ、半日しか会ってないのに?」

 

「ああ、結局自分がやって初めて『こんなに難しいのか』って事を、ヒナは当たり前にやってるからさ、尊敬超えてチビっちまう位には、すげぇなって思ってる」

 

「それは…何かしら」

 

 

今なら自信を持って言える、風紀委員である彼女が当たり前の様にしていて、当たり前の様にスバルに分け与えたモノ。

 

 

「『人助け』」

 

 

「『助ける』ってのも、本当に難しい事なんだって分かった、多分ヒナも風紀委員の活動してる時とかに…色々あんじゃねぇか?」

 

 

ずっと寝ていて今起きたばかりのキヴォトス新参者が何を言っているのかと、普通ならば要領を得ないだろう。

だが、見つめ合う両者には『深掘りNG』という鉄則があるのだから、ヒナはただその問いに答えた。

 

 

「そう、ねーー」

 

 

「色々ある、追われていた子を助けたら、ブラックマーケットで悪さをしていたのが理由だったり、助けた子から文句や銃を向けられた事なんて数え切れない位に」

 

 

「問題を解決してもまた別の問題、根が悪い訳では無いと分かっている子達でも、価値観が反り合わないから……『業務態度も味も最悪』だからって飲食店を爆発させる子だっている」

 

 

「やべぇ奴じゃん」

 

 

「うん」

 

 

冷静でシンプルな突っ込みが、今はやけに面白い。

2人の間で微笑が巻き起こると、お互いにうさちゃんリンゴを一欠片づつ食べて話を整える。

 

 

「俺は…ーー人助けが下手でさ、救おうって思っても余計色んなモン失ってばっかりなんだ、それで失うのが俺1人だけのモノでも無いし」

 

「それがさっきあんな顔をしていた理由?」

 

「まぁそうだな」

 

「……ーー」

 

「確かに、スバルには難しいかもしれないわね」

 

「…そうだよな、口が上手い訳でも無いし、銃も持ってねぇし、ヒナみたいに何かしら特別なーー」

 

「そういう意味じゃないの、スバル」

 

「じゃない、って…ーー」

 

 

そう言われ、何が違うのかと不思議そうなスバルに対して、ヒナはーー、

 

 

「私は…役職柄、見ず知らずの人を助ける、名前も知らない、何も知らない子をね」

 

「だから反発されるのは当たり前の事なの、誰かを助ける時は何時だって『余計なお世話』だって思ってる」

 

「っ、でもそれじゃやるせなさ過ぎるだろ…?」

 

「そうね、『助けられるにも準備が必要』だなんてよく言われるけれど、助けなきゃって思わせられる姿を見せられて動く身体には……少し、文句を言いたくなるわ」

 

「でも」

 

貴方(スバル)の様な人に出会う時もある」

 

「…ーー」

 

「だから私は風紀委員を続けたいし、だからこそスバルには向いてないと思うの、貴方は人一倍優しくて…相手に対して入れ込んでしまう人だから、助ける為に誰かに手を差し伸べる程、失敗する」

 

「助けを拒否する理由に、貴方自身まで共感してしまおうとするのだから」

 

 

相互理解は美しい言葉。譲り合い、互いに理解を深めれば衝突は自ずと減っていき、良い関係を築けるもの。

 

ーー時に、相互理解とは触れてはいけない箇所、その人の人生の傷に触れる時がある。

 

とても仲の良い友人であれば、離れるか、慰めるか、様々な対応をする事だろう、そして同時に共感もしてしまう。

相手の立場に立って、己の人生を投影して、理解を深めてからでないと…その傷に触れれない。

 

そこには個々人の価値観が介入し、結論も異なることだ。もし理解を深めた結果、導き出された結論が互いに違えば?

 

より、大きな傷を生み出す事になる。

 

 

「助けてって声に応えて手を差し伸べなきゃいけない時はある、スバルが何に謝ってるのかは…きっと、その時に生まれた傷、失った全てに対してだと思う」

 

 

「でも向いてない事は止めた方がいい時もあるのよ」

 

 

「…諦めろってことか?全部見捨てて、俺にだけしか出来ない事なのに……逃げて、蹲れって?」

 

 

「そうじゃない、スバルにも向いてる方法があるってだけ」

 

 

「向いてる、方法ーー?」

 

 

 

 

 

「『自分を助けて欲しい、助けてくれ、自分を、ナツキ・スバルを救って欲しい』」

 

 

 

「『ーー誰かを助ける為に』」

 

 

 

 

「それが、最初に見た貴方の姿よ」

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