き、気が付いたら土日が終わっていた…。
今回は文字数多めです。
【※以下追記 カイザーPMCはアビドス砂漠に拠点を展開し、権利が売り渡された土地の開発と砂漠での大規模な活動が見受けられた ( 訂正カイザーPMC→元カイザーPMC) 砂漠開発の目的は砂漠に眠る兵器の取り出し カイザーの癒着先にはセイント・ネフティスが含まれており鉄道開発の失敗が始まりだと推測される。尚アビドス高等学校にはセイント・ネフティスの一家に関係する十六夜ノノミが所属している】
【前生徒会会長、梔子ユメは砂漠での衰弱死が確認されており、原因は借金返済に関連する権利の売買行為中の失踪、もしくは迷子と推測された。後任は小鳥遊ホシノが受け継いでいる】
【ーー遺体の発見者は 小鳥遊ホシノ】
一からまたページを読み返し、最後に辿り着いてはもう一度読み返す。
「……」
パンッ!
と、1度顔を大きく両手で挟み、音が出る程に強く両頬を弾いた。スバルの突然の奇行にヒナとカンナが目を丸くする。
それが自身に活を入れ、血が上った頭を冷まさせる為のものだと分かると、スバルの顔が一変する。
「…ーーカンナ、俺には…コレから冷静にやらなきゃいけない事を抜き出せってのが無理だと思う」
「少なくとも…俺は、コレを唯の情報として受け取れねぇ、ちゃんと小鳥遊ホシノから、アイツの口から話を聞きたい」
「だから教えてくれ、俺はどうすりゃいい?どうすれば…俺は、『人助け』が出来る?」
「どうしたら、カイザーをーー」
「っ」
「…スバル」
「………大丈夫だ、冷静に激キレてるだけだからさ」
怒気が空間に満ちる、スバルから発せられる言葉には冷静さが見て取れるが、そこに含まれる怒りがヒナとカンナの肌を叩いていた。
ナツキ・スバルの積み立てられた死が、積み重ねられた回数だけカイザーへの怒りが増す。
敵だ、あれは、カイザーコーポレーションはナツキ・スバルの敵だ。
敵意と怒気が混ざった表情に、ヒナは心配するが…ーー彼にかすかに混じる冷静さに、『外』の高校生としては不相応な経験が見え、言葉を紡ぐのをやめる。
「……ーー私はカイザーと癒着している組織の一員でもある、彼らの悪行の数々は理解していたつもりだが、最近は特に悪事の程度が酷くなってきていた、それこそキヴォトスを食いつぶすまで彼らは止まらないだろう」
「防衛室長は…一見、現実主義者を気取っているが、連邦生徒会長の『超人』という肩書に囚われ過ぎて、理想を語るだけの馬鹿になってしまった」
遥か高く空を見上げ、カンナの視線は連邦生徒会のビルへ。今の罵倒を上に投げて、そして自分にぶつけるように。
彼女は現実主義者から夢想者へ、私は青い春を求めて泥濘に。
ーー長い間、泥の中につかってきた。
「今のキヴォトスでカイザーに与すればどうなるかなんて…ーー少し考えれば分かる筈なのだがな、まだ自分が裏切る側で、裏切られる側などではないと……はぁ」
あの傲慢な立ち振る舞いを思い出す、最初はバカのふりをした策略家、仮面の下に悪意を隠し通せる巨悪だと思っていたが、カイザーが力を付け過ぎた今、自分まで強くなったと勘違いする本当のバカになってしまった。
「ヒナ風紀委員長が関わればシャーレ就任が遠のく、連邦生徒会を頼れば情報は筒抜けに、元から私はこれ以上出来ることはありませんし、追跡捜査中の便利屋は足取りが掴めなくなっている、恐らくはカイザーに目をつけられてしまった」
「つまりはナツキさん、ここから先は貴方1人だけが動ける盤面です」
「分かってる」
「ーーですが、貴方1人だけの、孤独な戦いでもない事を…覚えていて下さい」
「…それも、分かってるぜ」
「それなら良かったです」
互いの三白眼が重なる、互いの視線は混じり合い、空白の思考には心から湧き出てくる、いつか、昔の情景がカンナの口を滑らせた。
「私は……、私は、きっと貴方のような人間と、もっと早く会いたかった。こうなってしまう前に、もっと早く…ーー私に、選択肢を与えてくれる存在に」
カンナが上着の内側に手を突っ込むと、取り出されるのは真っ黒い筒、いや…銃身。グリップがあり、弾丸を発射する機構があり、スバルにとってこの世界に来てからは見覚えしかない、『銃』が取り出される。
拳銃の狙いはスバルの額。数秒間の出来事だがスバルは銃身を見つめたまま目を離さない。
「ーーー」
「貴方に、これを」
元からトリガーには指をかけていなかった拳銃が、カンナの手から、スバルの両手に。銃も握ったことの無い争い慣れていないスバルの手を包みながら渡される。
男性の手、ゴツゴツとしていて大きいが…ーー簡単に力負けしてしまうであろうその手に。
「カンナ、これ…」
「護身用です、扱い方は?」
「全く、スカポンタン」
「この後指導しましょう、棒立ちの相手には当てられる位に」
「……ありがてぇけど、俺は出来るなら…」
「『銃を向けたくない』、分かっています」
「世渡りの先輩からの餞別ですよ、スバルさんーー貴方は、悪に負けてほしくない」
しっかりと、しっかりとその黒鉄を握り込まされる。
「ーー拳銃って結構重いんだな」
「そうですよ、重たいんです」
「…ナツキさん」
「
問われたソレは、少し考えると無意味な問いだと分かる。撃ち方が分かるかどうかは先程聞いていたし、再度確認する為なら余計に意味が無い。
なぜなら文明の利器とは素晴らしいものだとスバルは知っている、車の運転をした事は無かったが、死に戻りの周回の間でやってみたのだ。
リンに教えて貰いながら、身体に記憶として覚え込ませた。文明の利器とは『使い方』さえ分かれば誰だって同じ性能を発揮出来る。拳銃も同じで、命中率はともかくとして……『引鉄を引けば弾が出る』所までは万人が共通していて……。
「撃てる」
「ーーー…」
重要なのはそこじゃない。
それよりも前の段階、『ナツキ・スバルが、人に向けて弾丸を放てるのか』という事。
スバルは一度、変質者の真似をして銃を奪い取り、構えた事があった。その時の銃は、今の拳銃よりもずっと立派だ。
ーーでも、撃つ気は無い。あれはあくまで持っている事が大切なのであって、発砲するなどと毛頭にも無かった。
この世界の常識だと分かっていても、こんな対話を捨て去った暴力性の表れであるものを、スバルは使えない。
スバルはこれからもこの世界の常識に反抗し続けるだろう、その弾丸1発が己の命を容易に奪い去るものだと理解しているから、相手が『奪う側』になって欲しくないから。
銃を向け合うよりも、この世界には美女が多いのだから……笑顔を向け合った方が、何倍も世界平和に近づくと信じている。
ーーだが。
使えないのはーー、今までのナツキ・スバルであるのならば、
「もう一度言うぜ、カンナ」
「俺は、撃てる」
「ーーナツキ・スバル、私は貴方の事を…心から尊敬します」
それは、新たなる宣言。
ナツキ・スバルは、この世界の常識が『悪意を持って』襲いかかるというのならば。
同じく
「運命様上等だ、なんべんでも、何百回でも言ってやる…!」
「始まりの大勝負といこうぜ!」
「ーー運命様上等だッ!!」
■
ーー2日目の夜。
夜風をその身に受けながら、砂漠の砂が肌に当たるのを悠然と受け入れる。寒い、情景を味わっている暇が無いくらいに夜の砂漠は寒い。
まがりなりにも176度目の夜、慣れたものだと鼻を鳴らす余裕はあるが、表情を緩める油断は無い。
胸にしまいこんだ黒鉄の重みはスバルの背中をずっと押し続けてくれている、またあの目と向き合えるのなら、今度は膝から崩れ落ちて落ち込む事なんてしない。
彼女に、スバルが求める答えが欲しい。
「俺はアイツに助けられたい」
ナツキ・スバルは、小鳥遊ホシノに手を借りたい。カイザーと戦えるのはスバルと、アビドス高校だけ。行方の知らない便利屋やスバルの知る限りの友人は身動きが取れない。
「アイツは、俺に助けられたいか?」
そう、求める答えとは至極単純。
『小鳥遊ホシノは、救いを求めているのか?』
「紙っぺらの上で知った事を、呑気にアイツの目の前で話す余裕なんて、無い」
スバルはヒナから伝えられた、勝ち筋の話を思い出し…、これ以上夜風に当たるのを止めて、車の運転席へと乗り込んだ。
『大前提として、元PMCグループを打倒するのは…スバル、貴方じゃないといけない』
『外』の人間の情報は、今の今まで連邦生徒会長によって隠匿され続けてきたらしい。生徒にも、機械人間にも、獣人にも、カイザーにさえ知られていない、怪物の所業。不自然極まりない情報の隠匿は、最早『外』の人間の情報を一度全て抹消させたかの様。
つまりは、キヴォトスの人間は『外』から来た人間を『連邦生徒会長と同等の何かを持つ怪物』だと思っている。
だから示すのは結果だけでいい、過程は問わない、スバルが元PMCグループに『何が出来るのか』を示すだけで、
「俺に手を貸す奴は大勢増える!」
それで小鳥遊ホシノが力を貸してくれる様になるのなら、と言いたいところだが、彼女が求めるものはきっとそんな事じゃない。
『小鳥遊ホシノ、私が保証する…ーー彼女は、私よりも強い、今の彼女なら恐らく…何かしらの事情が無い限り単騎でカイザーを殲滅できる』
『……私は、彼女ほど強くない、大切な先輩を失ってもまだ立ち上がろうとしている彼女みたいには、小鳥遊ホシノのようにはいかない…』
『ーーでも、だからといって彼女が負った心の傷が治っているわけでもないと思う』
ーー問題提起。
「アイツは、俺に助けられてぇか?」
再度問い、そして答えは分からない。助けられたいかどうかなんて、俺が決めていい事じゃない、前のナツキ・スバルは勝手にそれを決めてしまっていた。
こんな危機的状況なのだから、アビドスの奴らは助けて欲しいのだと、勝手に。
梔子ユメという人物が、どんな人物であるのか、小鳥遊ホシノにとってどんな存在であるのかも知らない。奥空アヤネが、黒見セリカが、砂狼シロコが、十六夜ノノミが、小鳥遊ホシノにとってどれだけ大切な相手なのかすら。
「……けっきょく俺は、なんにも知らないまま、なんにもわからないところで、てめぇ勝手にみっともなく騒いでただけだって事か」
車のハンドルを握りしめる、これから向かう先はカイザーの前哨基地、スバルが何度か空路で試した時に撃ち落とされ続けた因縁のある場所だ。
ーーカンナから譲り受けたこの車には、大量の爆薬が積み込んである、まぁ、つまり、今からする事は……。
「ボンバーマンも真っ青だぜ、特許とって新しいゲームとして出そうかな?題名は……自爆マン?…ダサすぎて言ってて気分悪ぃ」
特攻だ。カイザーの拠点の1つを破壊する、見取り図もカンナの資料にあったのが幸いした……この計画を提案したヒナ本人は、スバルがこんな事をする事に賛成はしてくれなかったが。
『任せとけ、ヒナ』
非力でひ弱なスバルが、基地を破壊するなんて大それた事をするには、その程度の苦難は乗り越えなければならない。
だがスバルには苦難が多すぎる。多すぎるのなら、一度に多くを解決する。
その1、テロ組織の制圧。
その2、防衛室長のキヴォトス転覆の阻止。
その3、アビドス高校の問題解決。
それらを一挙に解決するには、無茶くらい押し通してなんぼだ。
「簡単簡単!やる事は突撃して、火薬庫に車ぶち込んで!ホシノに会いにいく!!」
「ーー同期完了、運転のサポートはお任せ下さい」
「ああ、任せるぜ、アロナ」
この作戦の肝はスバルと…アロナだ、運転できるようになったとはいえ、マッピングを見ながら悠々とアビドスの町を抜け…砂漠を走り、基地まで辿り着くのは至難の業。
しかしスバルには最強にして最高性能のカーナビ、アロナちゃんが居るのだ、案内に従ってハンドルを切るだけの簡単なお仕事。
「カイザーもケツ追いしてねぇ、黙ってこっそり病院から抜け出した甲斐があったな」
病院の窓からベッドのシーツをロープの様に使って抜け出してきた、勿論部屋には書置を残していて、ちゃんと反省文通りに……それはもうハガキ、手紙の先生が居るのならスバルに100点をくれる様なモノを残してきた。
ーー叱られるのは当然として、もう反省文は懲り懲りなんだけどな。
「……ふー……」
運命様上等、今の今まで行くも留まるもBADEND。
迫るBADENDを回避できない位置でオートセーブ、詰みセーブを勝手にされるなんて…なんと不条理な設定だろうか。
これがゲームであるならば消費者庁に駆け込み、開発企業に鬼電し、スレでありとあらゆる罵詈雑言を並べ立て、ボロカスのレビューを購入者コメントに付けてやる。勿論☆1。いや☆0。
今回はぶっつけ本番、セーブデータの経験は基地破壊には活かせない、でも、死に戻りするなんてのも考えてすりゃいない。
『スバル』
『死なないで』
「……俺の顔見て、アレ言ってくれるってなら…もう本格的にヒナには頭が上がらねぇよ」
彼女には、本当に何もかも見透かされるものだ。
「さしずめ青春真っ盛りの女子生徒を泣かす悪党 vs ちょっと青春が過剰に漏れ出ただけの厨二病患者か」
「俺が負ける道理が無ぇな、いつの時代も悪党は、ボーイミーツガールの甘い青春に負けんだよ」
「青春背負ってねぇ奴が、人の幸せ奪ってんじゃねぇ」
「行くぜ!アロナーー!!」
「作戦開始、ご武運を」
■
ドラム缶の中に石を積み立てて、その上に木材を置き、最上部には燃えやすい細木と藁屑を乗せる。引火剤が手元に無かったので弾丸から火薬を取りだしトッピング。
引火しやすいように夜風に当てながら、空砲で火をつけた。パチパチパチと目の前のドラム缶から炎が立ち上り、砂漠の冷えを抑え込む。
「出来だぞぉ゛……ざみぃざみぃ……」
「おー、助かる……はーあ〜だりぃー…獲物が掛かってこない夜にせっせこ動く意味あんのかよ?」
「仕方ないって、そもそも依頼の内容はウチらが儲ける様に出来てないし」
「カイザーマジうぜー…はぁ、何の為に今までヘルメット団やってきたんだか」
「でも゛アイヅら゛にさがらっだら、なにざれるがわがんなぃし」
「ほんとお前寒いの苦手だな」
周囲一帯には罠が仕掛けてある、罠と言ってもカイザーが通る道に爆弾やら何やら仕掛ける訳にもいかず、車やヘリが通ったのなら薄く張ったワイヤーが切れて知らせが来る仕掛けだが。
「「「「……!!」」」」
ーー掛かった。
「マジか!?こんな時間に!?」
「行くぜ野郎共!明日のご飯はここで決まる!」
「え゛ー…火消すの゛……?」
「早く支度して!ほら、頑張って立って!」
無線で他の奴らにも報を入れる、だが1番近いのはウチらだ。罠に掛かった相手を襲えば、報酬はウチらが独り占めできるルール、早い者勝ちって奴だ。
全員がせっせこせっせこ動き、車両に乗り込む。標的は先程からトラップをガン無視して最高速度で走り続けてやがる。
「真正面からぶつけ合う!ウチらは装甲車!向こうは良くても一般車だ、このスピードを装甲車で出せる訳が無い」
「真正面から?相手の中身ぐちゃぐちゃになっちゃうよ……」
「そんときは金目のモノ全部剥ぎ取ろうぜ、裸にひん剥いてやんだよ」
「暖房つけて…」
車両を走らせる、この道を真っ直ぐ行けば丁度どたまとゴッツンコだ。
「見えたーー!」
「あれは………ヴァルキューレ警察の車か…?」
「ハイビームにして、乗ってるやつが分かんないから」
ーー光が、遠く離れた車両を照らす。車両から身体を乗り出して、銃のスコープの倍率を変えて……車に乗った人物を覗き込んだ。
「……」
「ーー!?!?」
「おい、誰だった?警察の誰かか?」
スコープ越しに目と目が合った、そしてその風貌には散々カイザーから口酸っぱく言われている人相と似たものを感じる。
いや、それ以前に、それ以前に……アレは、あの男は……!
「ナツキ・スバル……!?」
「「「……マジ?」」」
■
「前方から車両接近、速度を上げて下さい」
「あげるの!?これ以上速度上げたらシミに変わるどころじゃ済まないと思うんだけど!?」
「ここを迂回してしまえば包囲されます」
「アロナ様は本当に俺に肝据わらせるの得意だよね!!もう少し癒しと優しさがあればパーフェクトAIなんだけど!」
「検討しておきます」
ハンドルを握る手が、ガクブルと震えだす。分かってる、アロナの言う通りに動けば死にはしないと分かっている。
ーー分かっていても、流石に怖い。
全速力で死にに行ってるのだから怖いのは当たり前だ、マッピングに表示されてるあんなゴツイ車とぶつかれば、今度はイカせんべいじゃ終わらなさそう。
「ーーはは!何回死んでも、やっぱり死にたいなんて思った事なんて無ぇよ!」
「怖ぇ、でもまだ…俺は生きてる」
「生きてるなら、まだ抗えるーー!」
ペダルを踏み込む、全速力だ。表示される速度は時速127km、日本なら一発でしょっぴかれる。住宅街の細道をこの速度で爆走するなんて以ての外、狂気そのもの。
象のような巨体の車が、目の先までに迫っていた。
だが、狂気だと言えるのは無計画であればの話。スバルにはーー、
「っ…」
「ーー踏み、こめッ!」
死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!
「プルスウルトラだ!更に向こうへ!スピードのその先にーー!!」
「必要速度に達しました、そのまま維持を」
「わかってらぁ!」
刹那の一瞬を走り抜ける、そんな表現が正しい程の加速で真っ直ぐ装甲車と衝突する寸前。
ーーアロナが車の後方ブレーキを強制的にかけた。
瞬間、車体はブレーキがかけられていない前方が跳ね上げられると、牙をむいた猛獣のように装甲車へ襲いかかる。
装甲車からすれば、押しつぶせる小さな車が、突如現れた轟速で迫り来る壁へと変身したようなもの。
急速なブレーキは互いが掛け合う事になる、片方は驚きによる反射、片方は作戦によるもの、その結果導き出されるのはーー、
「「「「うわーー!!?!」」」」
「うがッ゛っ、ま、だ!踏み込め゛ーー!!」
衝突。
スバルの身体に、これまでに無いほどの重い衝撃が走る。車のエアバッグが作動し…鳴り響くのは車体が削れ壊れる音。
互いのブレーキの掛け合いにより適度に減速された衝突は、ナツキ・スバルの命を奪うに至らなかった。
内臓を揺らす衝撃に吐き気と目眩を引き起こされながらも、ペダルから足は離さない。
車体は前部を跳ね上げた。
ーーつまりは衝突の結果、今スバルは装甲車の上に乗り上げている。
「あばよッ!」
「なッ!?クソっ、正気じゃねぇ!!」
『装甲車の上を走った』。スバルは装甲車を足場として、車を走らせ……乗り越えていったのだった。
フロントガラスは粉砕、ガラス片が目に刺さりかけたが間一髪目を閉じられた、しかし肩を深く切ってしまう。両脇の窓も衝撃で割れて、右腕に刺さっている。
痛覚が鈍っていたのが功を奏したか、ペダルを踏み続けられた自分を褒めたい。
「爆発する危険物乗せてやる事じゃねーよ!!あーもう!」
「20秒後、アビドス砂漠に突入、その後1分で前哨基地に到着します」
「周囲にカイザーコーポレーション製品の反応無し、対応出来ていない様子です」
「いい報せばっか耳に入ってくる時程、悪い報せがあるもんだけど!」
「肯定、常備防衛の2名と自動防衛機構との衝突は避けられません」
「どうすんの!?」
「ーー真っ直ぐ行きましょう、スバル様はロマンが大好物だと昨晩語ってらっしゃったので」
「…性癖博覧会なんてするんじゃなかった!!」
運転はもう殆ど自動運転、ハンドルを握らずとも方向を制御してくれている。
今の内に腕に刺さったガラス片を抜いて、肩の抉れた傷に備品の布を強く押し当てて…拙く止血。カンナから色々教えて貰ったはいいものの、
「一朝一夕とはいかねぇよな」
不格好で不細工、それでいい。
「……」
「アロナ、やっぱりもう…追ってきてるか?」
「肯定、トラップを掠奪、小鳥遊ホシノと思しき反応が迫っています」
「こちとら時速148kmだってのに、化け物かよ」
追い付かれれば、事情を問わずに破壊される。スバルは今までの経験から、小鳥遊ホシノが相手を『危険物』だと判断すれば容赦が無くなる事が分かっていた。
ーー1分20秒の、死の鬼ごっこが開催される。