熱風邪引いてしまって、更新頻度落ちるかも知れません…。
書けたら書くスタイルなので特段変わらないかも?
スバルにとって、この世界に来てからというものの、寝起きの目覚めが良いなんて事とは無縁だった。
瞼を閉じても飛び込んでくる弾丸の影、身体を蝕む激痛の数々。寝た所で死に戻りの影が消えることは無く、夢を見る度に罪が背筋をつたう。
今は特に心地が悪い、その理由を探る為に瞳を開けても…視界は真っ暗で、手も足も動かない。
本来寝起きは良い方だった、もう二度と寝起きが良い朝なんてやってくる事は無いだろう。
「……んぉ…」
声を発そうとすると、口元に感じる異物に遮られ言葉が止まる。薄々感じてはいたが、どうやら拘束されているようだ。
猿轡をされるなんて…同人誌で見る以外、見ることも経験する事も一生涯無いと思っていたのに、奇妙な事もあるものだと。
ーー車を運転するのも銃に撃たれるのも、一生涯無いと思っていたから今更か、とスバルの感傷に神様が唾を吐いてきた。
「ん…んんーー」
違和感は続く。視界は開かないが肌に当たる風には砂が含まれていない、寒くもなく暑くもなく、いつものように見知った天井が見えるかと思っていたが……どうやら、あの後生き残ったみたいだ。但し目の前は真っ暗、なるほど、残念ながら視界が塞がれているのか。
まぁ生きていて良かった良かったと胸を撫で下ろす訳にはいかない、このスバルを縛る縄、口を塞ぐ布、同人誌状態であるスバルが何かに座り込まされている状態は……下手を打てばR-18を超えてGが付く。
人間を車の上に磔にして走る某世紀末&カーチェイスモノの映画とかでなければいいが、キヴォトスだと有り得そうで怖い。
「ーー……」
そして漸く気づく。
ーー誰か、居る。
それなら不味い、先程から芋虫のようにもがいている痴態を目に刻み込められ、海馬に保存されたナツキ・スバルの概要はsmモドキのド変態野郎になってしまう。
と、下らない思考は捨ておいて、口が自由なら舌打ちと共に最悪に傾きつつある状況へ頭を悩ませながら無精髭を撫でたい所。
「おはよう」
「よく、寝れたかな」
今までで1番怖い声を掛けられて、危うく失禁しそうになるスバル。可愛さと冷徹さが織り交ざる殺意の声の持ち主は、小鳥遊ホシノのモノ。
どれだけ無礼千万、厚顔無恥な立ち振る舞いをしても彼女から出る声にはここまでの冷たさが無かったのに、今は声色だけで人を凍えさせる恐ろしさがある。
「怪我の調子はどう?火傷は跡が残っちゃったけど」
そう言われて、あの時抉れた肩や身体中のあちこちに刻み込まれた大量の傷、火傷は……きっとあの大爆発か何かのせい、それらの傷の痛みが無い。
元より痛みが鈍いせいで、深手じゃない傷が治っているのかどうかは分からないが、そもそも今の身体は病院にぶち込まれるべき状態を無理矢理動かしている。
人間、腹にDOTAMA撃ち込まれたら大体全治1ヶ月、ハリウッドもびっくりな爆速カーチェイスと、防弾チョッキの上からとはいえ弾丸何発も受ければ死に体。
その人間が満足に呼吸出来て、満足にジタバタ出来るというのなら、怪我の調子は快調も快調だと答えるしかない。
「元気そうだね」
「ーーー」
「口は外してあげる」
「…っ、た、助かるぜ…このままジタバタするだけのちりめんじゃこみたいに…ーー」
「私、無駄口を叩くのは許してないけどな〜」
「……」
ーー失禁確定の眼差し。
するかも、じゃなくてする。幾度となく死に戻りを繰り返した今でなくては、スバルはとんでもない痴態を晒していた事だろう。
「選択肢は1つ、私が君に質問する、君はそれに答える、今はそれ以上に求めてないからね?」
「…いいや、選択肢その②だ、俺とホシノは今から仲良く朝ごはんを食べる」
「不思議な子だね〜、鉛玉を朝ご飯にしたいだなんて」
「疲れきった女性に朝ご飯せがむほど甲斐性なしな男じゃねぇぜ、それに俺は朝ご飯は和洋折衷何でもアリ派、銃弾は要検討」
「それ、雑食って言うと思うんだけど」
「あぁ、良く噛んで良く食べて、1家揃って楽しくご馳走様って言うのがナツキ家の家訓だ、食べる物が主体じゃない」
減らず口を叩くスバルの口の中に、ホシノが黒鉄を突っ込んだ。黒鉄の名前は拳銃、引き金を引くと弾が出て、人に当たると死ぬ。
歯と歯の間で揺れ動くそれは、スバルの奥歯に当たる度その冷たさを伝える。
「これさ、君の奴だよね、リボルバー…ヴァルキューレ警察が使ってる形式のモノだけど、ねぇ、ナツキ・スバル」
「お前は、あのヴァルキューレと何の関係がある?」
「……ひゅうのなまへなんへしらへぇよ、それはうぁるきゅーれのやつにかしへもらっへるたいせつなやひゅだ」
「そう」
ヨダレを引っ張り出されながら、銃身が口から離れた。視界が塞がれている為に、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされているせいで、抜き出される時に歯とぶつかった金属音がスバルの脳に響き続ける。
至近距離に居る、至近距離でスバルの顔が見つめられている、覆われた視界が映し出す暗闇の向こうに小鳥遊ホシノの姿が見える。
ーーきっと、俺を殺したいと思っている顔が。
「私達を見捨てたヴァルキューレ、多分カイザーと繋がってるんだろうね、そうじゃなきゃテロ組織になったPMCを押し留められるアビドスっていう土地を易々と放置しない」
「……」
「君の配信、中々良いアイデアだと思ったよ、だからさ…私も少しやる事が増えちゃった」
「っ、ホシノ…俺は…ーー」
「俺は、話を聞きたいんだ、お前が何に苦しんでいて、俺に何が出来て、お前は助けを求めているのかどうか」
「…………」
「ーー今更?」
「ぁぐっ…!?」
万力の様な力で、ホシノがスバルの首を絞めた。
強く、強く強く憎しみが籠った憎悪の手で。地獄に落ちろとでも語る手つきで。
「……ごめん」
「ぁ…かッ…はっ、はっ…ぁ…」
「君にあたっても、何の意味も無いのに」
「ホシ…ノ…」
「なんでだろう」
「なんで見捨てられたんだろうね」
「善人が積み上げる善意の集積は、結局食い物にされるだけの糧でさ、私達も『誰かの欲望の糧』でしか無かったのかな?」
…何故、彼女は諦めた様に話すのだろうか。何が彼女を諦めさせているのだろうか、それはスバルには分からない、分からないのなら…知らなければならない。
抗いを知っている、スバルはアビドスの対策委員会が地道に返済していた借金や、出口の無い苦痛から抜け出す為に抗っていたのを書類の上とはいえ知っていた。
「たい、さく…委員会の、手紙が……、送って、こなく……なって……」
「そうだね、アヤネちゃんは失踪しちゃったから」
「…お、れは…しりたい、しらなきゃ…だめで……」
「…………」
「ーーそれは私が解決するから、心配しなくていいよ」
パッ、と、スバルの首からホシノの手が離れる。急いで呼吸をして、酸素を求める体内、肺の中へと送り込み、失ったヘモグロビン内の酸素濃度を取り戻す。
抑えられた血管が解き放たれ、止まっていた血流がドクドクと流れる音が、機敏になった聴覚へと届いた。死ぬかと思ったが、何とか生き残る。
だが今なんと言った?ホシノが…解決する?
「ケホッ、ケホッ…解決、する…って…」
「今から解決出来るっていう方が正しいかな」
ーー鋼の音。
それは床を擦るショットガンから発せられる音、弾が直撃した相手をミンチにする致死性の道具。銃弾行き交う世界で彼女がこれをチョイスしたのは、余程近接戦闘に自信があるからに違いない。
何百回これの威力を味わい、その命を散らしたスバルだ。ソレを向けられているのは目を隠されたって分かる。
思わず息を呑み、焦りを玉の汗に変えながら『知る』為に彼女に問いかける。
「…どうやって解決する、行方不明…それだけじゃねぇだろ、ホシノが抱えてる事は」
「そう難しい事じゃないよ、全ての根底にはカイザーがあるから……問題は全部、一繋がり、私の手で全てを終わらせる」
「1人でか、灯台もと暗しって知ってる?」
「今はその暗闇の中だよ、ナツキ・スバル」
話し合うつもりが無いのか、受け答えに応じるホシノの声色は変わらない、激昂も無く、あるのは冷徹さだけ。
彼女の動向は分からない。だが、たった1つ分かること。
「暗闇からすくい上げる解決策、それはねーー」
「
「カイザーは、あの配信で本気になった」
それは、彼女がスバルを殺そうとしていること。
まがりなりにも彼女と語り合ってきたスバルの本能が、そう絶叫しながらアラートを鳴らしている。
生き残る為、彼女の逆鱗に触れず、現状を知りナツキ・スバルのせいで不幸になる全員を救う。
その為に向き合う壁としては、少々高すぎた。
「俺を殺した所で…ーー」
「解決する様に、もう出来ちゃってるんだ〜」
「ーーー」
「色々勉強してきたのかな、君はアビドスの問題について色々知ってるよね、初対面で私の名前も教えてないのに、名前呼んでたし」
「荒廃が進む大地、人が住みつけない土地に、かさむ借金、目の前にはわざわざ私達の高校を名指ししたテロ組織」
「それに、後輩」
「私の大切な後輩も、1人を除いて皆居なくなっちゃった」
「私のせいで」
ふと、掠れるような声で口をついて出たのは、自虐。
敵対意識を向けているスバルよりも、深く重く強い憎しみと諦めを、己へと投げかけていた。
「私のせいで、全員不幸になった、強いだけの人間が…強さ以外を求められて、何も出来ずに」
「君のせいで、アビドスが滅ぶ、『ついで』で滅ぶんだよ」
「ーー私達のせいで、人が死ぬ」
「だから、その前に」
「私が
ホシノが口にした言葉は、スバルが求めていた言葉とは全く異なるものだった。
状況は最悪、ホシノがホシノ自身を諦めている、不幸を打ち消す為だけの『装置』になろうとしている。
長い息を吐き、それが思わず怒りから来たものだとスバルは驚いた。
こんな状況で…怒りが湧くなんて。そしてそれがスバルのせいだ、と言われた事でも無くーー、
「つまり、諦めてるって事だな」
「そうかもね」
「なら、俺が拾っても問題無いって事でもあるぞ?」
「…ーー君には無理だよ」
怒り任せに右肩を握り潰される、絶叫も辞さない粉砕骨折だ。是非も無い、お前に出来ない事を俺はしてやるぞ、そんな不幸をもたらした張本人から伝えられたらスバルでも同じ事をしてやりたい。
身体の強度を超えて加圧され続ける右肩がすんなり砕けた後、ホシノの手は次にスバルの椅子に拘束された腕に伸びる。
腕の骨がミシミシと音を立てて……、
「っぁ、ぅ…」
軽口の代償は重くついた、だが拾うものあり。少なくともホシノが本心でその『解決策』を選んでいるわけではない。
これ程の覚悟と絶望、諦めを抱えているのに、何夜もスバルを拒み続け、今もスバルの存在そのものを拒絶しているホシノ。
ホシノ本人が言った事だ、あの夜、英雄だと言われたあの時はスバルなら全てを解決出来ると、スバルも頼ってくれるなら全てを救うまで奔走した事だろう。
つまるところ、今までをまとめてみるとその心はーー、
「あ……ぁ、そう、いうことか……」
「ーーそんなに、俺が信用出来なかったのか」
積み重ねた死を知らない彼女からすれば、何を言っているのかはきっと、何一つ分からない。
でも、放たれた言葉をそのまま受け取るとするならば。
「うん」
「私は、君を信用しない」
その返事が妥当だったのだろう。
「……教えてくれ、俺の命が何に繋がるーー?」
「…私は、ある男から契約を持ち掛けられてたんだ、私が欲しいってずっと言い寄られてた」
「はっ、とんだ変態だな…」
「こんな貧相な身体に興奮しちゃダメなのにね、人として…ーーまぁ、それでね、私がその男の手の中に入るなら、アビドスの借金を1億にまで減らしてくれるって」
「…!!」
「19億の免除、その代わりに私はカイザーの私兵になって、その男の研究材料になる」
「その提案を受けようって思ってた翌日ーーアヤネちゃんとセリカちゃんが失踪しちゃってね」
「必死に探したんだ、もう二度と繰り返さない為に…死ぬ気で探してーー1週間、唐突に契約条件が更新された」
「唐突に現れた君、『ナツキ・スバル』の身柄を確保すれば、2名の捜索に手を貸す、必ず発見するって」
「そして…さっき、君を殺せばアビドスには手を出さない、そんな文章まで追加してきた」
ーー都合が良すぎる。
話を聞いていると言いたい事が全部込み上げてくるせいで、喉が詰まった。
「ーー都合が良すぎる、だよね」
「そう、都合が良すぎた、アビドス砂漠の隅から隅まで探索して、痕跡1つ無いなんて、悪い方向にも都合が良すぎる」
「『誰かの欲望の糧』、結局最初から最後までカイザーの手の平の上だったんだよ」
「恐らくは、私が契約を結べば2人は帰ってくる、ノノミちゃんは…ーー多分、アビドスに戻ってこないだろうけど、シロコちゃん達3人なら残りの1億位返せると思うんだ」
「……ーーそれを、全部1人で…」
「愛しの後輩には、こんなもの背負わせられないから」
これで満足か、とでも言わんばかりに語りはショットガンが地面を叩く音で締められる。
しかし、スバルはそんなもので満足出来ていなかった。歯ぎしりをして、唇をかみしめて、最後の一言に反論して、
「ーーなんで、だよ」
静かに黙っているホシノの前で、腹にこさえた怒りのまま疑問を突きつける。
「わかって、た…つもりだった、想像以上だったさ…」
「どんな酷い目にあってんのかなって、俺が手を伸ばせる以上の所に居るんじゃないかなって…」
「ーーなんで、信用出来ねぇんだ…」
「………君の事なんてーー」
「……違う」
叫びに喉がしゃくり上げ、瞼に熱いものが溜まっていく。
「なんで、そこまでして守りたい奴を頼れねぇんだ…?」
滲むように吐き捨てた言葉は、表現するにもそれでいっぱいいっぱいだ。
「俺は、俺が死んでも守りたい奴が居る」
「どれだけ苦しんでも、どれだけ辛い目にあっても、どれだけ酷い目にあっても……助けたくて、救いたくて、守りたい」
「そうする為に、俺は頼ったんだよ、信用して…全部預けて…ーー恩を返しきれない位に助けてもらった…!」
「ーーなんで、分かってねぇんだ!」
一度自分が犯した罪なのに、他人がしたから激怒する、なんて。
どんな面下げたらその言葉が吐けると自己嫌悪する。感情が制御出来ない、八つ当たりにも程がある。
でも、だからこそ、であるからに。
同じ人間を見れば、同じように怒りが湧くのだ。
「ホシノ!!俺は、俺はまだ諦めない!!」
「…」
「ぜんぶ諦めてるお前に見せてやるよ、ぜんぶ拾い上げるって誓った奴の背中を!」
「うるさい」
「耳が痛てぇか?そうだよな、俺は英雄って言われてて、ホシノはまだ
「うるさいッ!!」
「俺は……!お前も、俺も、不幸になる全員を諦めーー」
ーー衝撃が、その後の言葉を続けさせなかった。
不意打ちの爆発が部屋を吹き飛ばす。スバルの体は拘束から解き放たれ、部屋の壁へと全身を強打した。
焼けただれる痛みに意識を奪われながら、強打した事で揺れる視界をさ迷わせる。
ーーカイザーだ。
目の前、部屋に侵入してくるカイザーを唖然とホシノが見つめていた。
「もう」
「遅いんだ、ナツキ・スバル」
それだけ聞き届け、向けられたショットガンによりスバルの胸部は形を失い、肉片へ。
消え去る、苦しみも痛みも悲しみも消え去って、魂は過去へ。
ただ最後に、
「これ以上……もう、いい、私のせい、で…ユメ先輩はーー」
懺悔に塗れた声だけが、聞こえた気がした。