Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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今回短め


『ナツキ・スバルの智将ぶり』

 

「…そっか、カイザーもヘルメット団も居なくなったから…」

 

「お陰で登校出来た、この前の話し合いもまだ終わってない」

 

「ーーもう終わった話でしょ」

 

「ん、違う、私はまだ負けてないから」

 

 

振り下ろされた銃底を握りしめる彼女は、スバルの記憶だと初めての登場人物だ。色々とあり過ぎて凄まじい動揺に判断を遅らせられるが、そこで彼女が身に付けていたアビドスの校章が目に入った。

 

なるほど、と冷静に分析できるほど心の余裕は無いが、それを目視した事で彼女がアビドス高校在校の2人目、砂狼シロコであると理解出来る。

この切った張ったな状況で、先着1名の席に座ってくれた彼女へ手を握り返したい所だが、ホシノの殺気が増加したのを見て口すぼむ。

 

ーーだが、気絶させられなくて良かった。言いたいことを言う為に、尻すぼみの喉を動かす。

 

 

「ホシノ」

 

 

「……」

 

 

「ーーまだ遅くねぇ、って言いたいところだけど」

 

 

「先着一名様、先に握ってくれたからな、今はもう遅いって言っとく、俺の理想に手を差し伸べてくれたのはこっちの子だ」

 

 

「…そう」

 

 

「じゃあ、もう戦うしかないね」

 

 

「おいおい、早とちりが過ぎるぜホシノ!今は、だぞ?」

 

 

「ーーー」

 

 

「お生憎様…ーー俺は、『全員、笑顔で飯食う事』が理想だからな、だから、ホシノ」

 

 

「もう遅い、でも」

 

 

「『まだ遅くない』」

 

 

「ッ」

 

 

 

鬼のような表情と、心の内が透けて見える慟哭を目元に出しながら、シロコの背に隠れるスバルをにらむ。

思い返せばホシノがこれほど怒りをあらわにするのは、今までにない事だ。今と前、違う点があるとするのなら部外者であるかどうか。

 

彼女なりにスバルを認めているのだろう、また1つ、下を向けない理由ができて唇を緩ませる。

 

 

「ところで、ケモミミがプリチーチャーミングで窮地のヒーローな貴女様のお名前は?」

 

「砂狼シロコ、よろしく」

 

「これまたネーミングセンスあふれるお名前…ーー駄弁る暇は?」

 

「ん、無いかも」

 

 

ホシノが掌サイズの黒い塊を投げる、投擲技術も一級品で見事スバルの目の前に。着目すべきはその判断速度、2人の反応が間に合わない間に投擲物と自身で挟み撃ちを行う。

緊張感に舌鼓を奏でながら、スバルは足元の投擲物を外へと蹴り飛ばした。

 

「ナイス」

 

シロコは息を合わせて前へ、ホシノと取っ組み合いをはじめ、スバルから矛先をずらす。

ここでいけしゃあしゃあとプロレス観戦なんてすれば、手を取ってくれたシロコに申し訳が立たないので、足早に階下へ。

 

スバルが達成すべきは、2人の争いを止めることではなく、ホシノの頭に冷水でも何でもいいから上った血を収めてもらう事だ。

 

「…ほんと、強くなったねシロコちゃん」

 

「ん」

 

「でもまだ負けるわけにはいかないんだ、それに…どうしてあの子の味方をするのかな」

 

「ホシノ先輩が私を頼ってくれないから、あの子の方が頼られがいがある」

 

「ーー…そっ……か」

 

素朴な返しに苦虫を三匹かみ砕いたような表情になるホシノ、長年の付き合いであろう2人が今の問答をしてしまうほどに、彼女たちの『譲れないライン』はぶつかり合っている。

 

いたたまれないとはこのことか、スバルとて親しい友人とここまでガチガチの喧嘩は…、

 

 

「喧嘩できる友達いなかったな…ーーアロナ!!アーローナーさーまーー!!どちらにいらっしゃいますでしょうかーー!?」

 

 

爆破された部屋を訪れ、大声で叫ぶスバル、返事の代わりに帰ってくるのは幸せの音色、フランダースの犬。

 

だがまだ遠い、遠くから聞こえる音を頼りに他の教室を練り歩いていく。この砂漠のど真ん中でしっかり手入れされた教室は、窓からパラパラと入ってくる砂が目障りに映るほど綺麗。

 

だから、ガラケーがどこに置いてあるのかもすぐわかった。

 

 

「みっけ!愛しのアロナ様!!」

 

 

壊れていないのが奇跡だと思う、あのハリウッドで地面に飛び込んだ時、ホシノが受け止めてくれなかったらガラケーごとぐしゃぐしゃの愚者になるところだった。

 

 

「177度目の帰還、お疲れ様です、スバル様」

 

「アロナ、今すべき事の方針丸投げしていい?」

 

「はい、お任せください、ではまずーー」

 

「しゃがむことを、お奨めします」

 

「ーー!」

 

 

ーー直後、ホシノとシロコがもつれ合いながら窓を突き破ってくる。

 

偶然この場に来たわけではないようで、ホシノの視線は常にスバルを向いていた。

逃走、なんて欠片も作戦には含めない。例え相手が規格外の怪物であっても、ここを逃せば次は無い。

 

スバルがホシノ達の事を知らないのは依然として事実で、その知らない日々をぶつけあえるのは乱入者のシロコだけ。そして、スバルの想像が届くのはどこまでもぬるま湯に浸り切っていた人間の想像の限界で、現実はそんな想像など軽々しく乗り越えて襲いかかってくるのだから、今はシロコが勝てるように動くしかない。

 

運命に翻弄されるとき、人はそれほど無力になるのだ。この世界にきて何度も痛感させられたそれを、彼女もまた幾度となく味わってきたことだろう。

 

「演算開始、スバル様が指揮を」

 

「俺が!?」

 

「表示される言葉通りに話せば良いだけです、時間差は2秒、ラグを考慮して指示をーー『踏み切らず一歩後ろ』」

 

無慈悲にも有情にも捉えられる物言いを残し、携帯に表示される文字が変化する。アロナにぐちぐち愚痴を言う暇もない、演算ってなんだよ、何新しい便利機能発動してんの、と突っ込もうと思ったが、ビルの倒壊の時も無茶苦茶してたから今更だな、と思う。

 

「シロコ!踏み切らず一歩後ろ!」

 

「……!」

 

教室の机を蹴り上げてホシノの視界を遮ったシロコ、その耳がぴくぴくと動き、スバルの声を拾った。

自身の中の攻め方と次の行動の思考を捨て、言うとおりにバックジャンプ。

 

ーーシロコの視界には、目の前で机ごと盾を振りかぶりなぎ倒すホシノの姿が。

 

机一枚挟んだ読み合いを仕掛けたシロコであったが、それを力業で破壊したホシノを見るに、アロナの予測が未来予知にまで達していることが分かる。

 

 

「スバル、ホシノ先輩の動き分かるの?」

 

 

「いんや、ウチのサポートAIのおかげ!次閃光弾注意!」

 

 

「ん、いい相棒だね」

 

 

右手で盾を振りかぶり机を破壊したホシノは、読みを外したことには焦らず次の手を打つ、だがそのホシノがとるであろう次の行動は、アロナが蓄え続けた177回分の彼女の戦闘データによって先読みされていた。

 

白光が部屋を満たす、振りかぶった逆の手でピンを外していたため不意打ち気味に決まったかと思われたソレは、耳と目を防いでいたシロコとスバルに致命的な隙を晒させるまでには至らない。

 

 

「……」

 

 

構わず前進、シロコとの勝負は彼女を気絶させるまで終わらないし、それかスバルを手に入れてさっさとこの場を離れるかの2つ。

ホシノの足にシロコは追いつけない、スバルを捕まえた時点で勝ちが確定するなら、手短にいくそちらを狙う。

 

 

「余所見するなんて、ホシノ先輩らしくない」

 

「そうかな」

 

「ん、心に余裕なさすぎ」

 

「…もー、手厳しいなぁ、シロコちゃんは」

 

 

懐から拳銃が抜かれる、2人の距離は数十センチ。

盾の面で殴りかかりシロコの視界を覆いながら額を狙うも、スバルの掛け声が未来予知のごとく的中することで、1発目は顔を擦り、2発目は避けられ、撃ちながら押し倒そうとした深めの前進は、シロコが盾を蹴り上ったことで失敗、逆に姿勢を崩され、シロコはホシノの頭部を好きなだけ狙える状態に。

 

空中で1回転しながら発砲、その規格外の強度を誇る肉体には効果が薄いであろうが、確かに命中した。

 

そのままフルオートで仕留めにかかるも、ホシノは教室を転がりまわり窓の外へ。

 

 

「流石、あのキザなセリフ言うだけはある、スバルの指揮、すごくやりやすい」

 

「方向叫んでるだけで反応できてるシロコの方がすげぇよ…てかそんな風に思ってたのね…」

 

「ん、言うだけの人じゃなくて良かった」

 

「ったりめぇだ、口先三寸の臆病スバルもここまで!ここから先はーー」

 

 

たわいもない軽口をショットガンの銃声が塗りつぶす、ホシノの威嚇であろうが当たれば致命傷の弾丸がスバルのそばを掠める。

 

「ーー…あ、あろなちゃん…予測は…??」

 

「今のは命中しない弾道でしたので」

 

「うーん合理的、親の顔が見てみたい」

 

当たり前だが、未だ死地。

どの面下げてホシノに落ち着けと言えばいいのか悩みどころ、本当ならば自宅の枕に顔面を押し付けて、恋文の返事を考える乙女のような気分で悩みたいところだった。

何百回殺された相手に、それでもと手を伸ばそうとする辺り、スバルの病状は深刻だ。深刻な幼女中毒状態。シロコのおかげで少し軽減中。

 

 

「……この状況で凄い顔してる、スバルってもしかして図太い?」

 

「中毒トリップからモフケモミミの素晴らしさに、この世界の素晴らしさを謳ってたとこ、んと、ホシノを落ち着かせるアイデアとかある?」

 

「無い、ホシノ先輩は頑固、岩盤よりもカッチカチだから何しても変わらない」

 

「ひでぇ評価…ーーシロコ!部屋出るぞ!」

 

「ん!」

 

 

急いで駆け出ようとする2人、理由はそのあとすぐ理解できる。教室の外に足を踏み出した瞬間、教室の中で爆発が起きた。

 

それは、投擲されていた手榴弾が引き起こした結果で、教室を出てすぐにスバルはシロコの頭に手をのせしゃがませる。

 

 

「ーー全部読まれてる、か」

 

 

一本のロープを使って、校舎の外から通路へ窓越しに狙いを定めていたホシノは、教室から通路へ出てくるはずの2人が見えず一度地面へと降りていく。

死角になった手前も手前側に2人が張り付いているのを見逃して、捜索を始めた。

 

 

「「……」」

 

 

「何、アイツ、マジモンの化け物?」

 

 

「ホシノ先輩はホシノ先輩、でもその表現で合ってる」

 

 

「1分ほどは猶予があります、その間に校舎の構造を把握いたしますので27秒お待ちを」

 

 

「ウチの子有能過ぎて俺の立つ瀬がねぇ…!?いやまぁ、前からずっと頼り切りではあるけど…!」

 

 

「ん、その携帯…?が、相棒?」

 

 

「そう、これが本体で俺オマケ」

 

 

「そんなことない、付属品レベルはある」

 

 

「ありがたいのかありがたくないのか微妙なライン来たぁ……」

 

 

いやしかし、と今更ながらアロナの多機能さに感動する。スバル1人だけの時は、本体性能があまりにもへなちょこだったせいで何言っても変わらないのだろうが、こうやってついてこれる人間が1人でもスバルの仲間に居ると、動きの幅の広がりが凄まじい。

 

分かっていたことだが、アロナの機能をスバルでは発揮しきれない。中世の馬車へ高機能エンジンくっつけても意味が無いように、本来スバルは前線に出るべき人間ではないのだと、身にしみて感じる。

 

 

 

「ーーシロコ」

 

 

「ん、どうしたの?」

 

 

「ありがとな」

 

 

そういって、にこやかに笑顔を浮かべるスバルが、シロコに拳を突き出す。

 

 

「ーーー」

 

 

「ん」

 

 

そのグータッチの挨拶を、しっかりと返すシロコ。

傷だらけでボロボロのスバルから頼りがいは一切感じないが、

 

ーー確かにこれは、頼られがいがある。

 

こっそりとスバルの宣言を聞いていたシロコは、目の前の少年に、エゴを押し通せる心持があると確信したのであった。

 

 

「ーー怪我、大丈夫?今の身体でホシノ先輩から逃げ切れる自信は?」

 

 

「正直立ってられない位、でもまだ大丈V!足の速さはクラス順位上から数えた方が早い方ではある、ちな長距離走は下から」

 

 

「ん…ーー微妙」

 

 

「うっすら分かってたけどシロコも大分図太いっつーか、容赦ねぇな…」

 

 

「私はスバルが全員幸せにしてくれるって言ったから手を貸した、その通りの未来を見せてほしい、その代わり、言うこと聞く」

 

 

「ーー任せとけって、運命様上等だ!まずはホシノ攻略戦!」

 

 

「何てったってこっちには必勝の最強AIがーー」

 

 

そう思い、携帯を覗くとーー、

 

 

スバルの口から「あれ」と、気の抜けた疑問が吐き出され、その音をシロコが拾うよりも前に。

 

ーー破裂音、

 

 

 

「これで、私の勝ち」

 

 

 

アロナがはじき出したのは、『予測不可』の文字。その数秒後にホシノの勝利宣言がスバルを貫き、隣で一緒に身を隠していたシロコが吹き飛ばされる。

 

 

ーースバルはまだ、空崎ヒナ(最強)が自身よりも強いといったその意味を、理解していない。

 

 

 

 

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