Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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誤字脱字報告いつもありがとーー!!!!




『生き足掻く条件』

 

 

ーー数分前。

 

 

「よし、元気満タンアンパ〇マン!ナツキ・スバル元気100倍で復活致しましたー!」

 

「ん、良かった、それじゃ早くアイデア出して、ホシノ先輩が来ちゃうから」

 

「うーんビジネスナデナデだったか……いやまぁ、アイデアっつーのも、ちゃんと思いついたんだけど…」

 

「言ってみて」

 

「……そもそも、俺らは…ホシノに、話し合う場に降りて来てもらわなくちゃならねぇんだ」

 

ナデナデされて落ち着いた事で、ホシノに一矢報いる方法は何となく形作れた。

極悪非道と言われれば仕方の無い作戦で、ついさっきシロコが禁止した事も破ってしまうし、何よりほぼ賭けの部類だ。

100%負ける勝負から、99%負けて、1%で勝てる勝負になる様なもの、そしてその1%を絞り出す為に多大なリスクを支払う事になる。

 

スバルの頭脳は、頭脳戦を出来る程のモノでは無い。駆け引きと読み合いが絡めば、驚きの雑魚さを発揮して身ぐるみを剥がされる。そんな弱者が出来ることは、自分が最大限力を発揮出来る状態を押し付けること。

 

ーーホシノに最小限の力しか発揮出来ない場を押し付け、尚且つ自身は最小限のホシノを上回れば勝てる簡単な話。

 

 

「ーーで、その簡単な方法って何だと思う?」

 

「分からない、スバルがホシノ先輩に勝てそうなモノって何一つ無さそうだし」

 

「ひでぇな」

 

「ん、事実」

 

「はいはい、その通りですよーだ、俺が勝負を仕掛けて勝てるモンはねぇ、せいぜいコインの表裏当てゲームで五分五分さ」

 

「でもそんなんじゃホシノは勝負に乗らない、俺らはホシノを接待する必要があんだよ、超VIP待遇をして、(おだ)てて、どうぞどうぞって手招きして(勝負)に座らせる」

 

「勝負に乗ることでホシノに得があって、その勝負はホシノが100%勝てる奴をな」

 

「……スバル?」

 

 

ふざけているのか?といわんばかりの目線を送られるが、まだ慌ててはいけない、とスバルの人差し指を1本突き立てながら、ちっちっちと舌を鳴らす。

 

 

「ホシノから見て、100%勝てる勝負、でもそれは俺らから見れば1%勝てる勝負にするって事」

 

「ん……難しい」

 

「んじゃぁ…質問、ホシノが今1番不利な事って何だ?」

 

 

問題として出すものの、答えをすぐ見つけれるようにシロコへ目配せしながら、突き立てていた人差し指を自分に突く。

ふわふわのケモ耳がピン、と立って、正解を口にした。

 

 

「スバルに銃を向けられない事」

 

 

「正解だ、どんな間違いがあるか分からない以上、ホシノは俺の前じゃ銃を使えなくなってる」

 

 

「…でも、ホシノ先輩ならスバルから私を引き剥がして戦う事なんて楽勝だよ」

 

 

「だから勝負に乗せるんだよ、銃を使えないってデメリットを帳消しに出来て、ホシノが欲しいもんを手に入れられる夢の対決、なんと俺が相手なのでどんな勝負にも勝てるオマケ付き、そこから1%絞り出すのは俺に任せとけ、余りの道化っぷりに腰抜かすなよ」

 

 

「ーーさっき、それは(自己犠牲)禁止したばかりだけど」

 

 

……なんというか、まぁ、この世界の住人は察しが良すぎるものだ。

 

 

「…大丈夫だ、別に命を捨てる訳じゃねぇ、シロコにちょっとばかしの間預けるってだけ」

 

 

「言葉の綾、納得出来ない」

 

 

「ーー指切りげんまんしただろ?約束は破らねぇって」

 

 

「ん」

 

「……」

 

「ーーーーー」

 

「ーー……ん」

 

「分かっ……ーー」

 

「……」

 

「……………………」

 

「た」

 

 

「はは、どんだけ納得出来ねぇんだか……ーーまっ、ありがとな、俺の勝ち筋に乗ってくれて、さっき出会ったばかりなのにな!」

 

「ん……」

 

 

不服そうにピコピコと動くケモ耳を見るに、まだ飲み込めてなさそうなのでお返しと言わんばかりにスバルがシロコの頭を撫でる。

本当の犬を相手する様にわしゃわしゃと、数十秒落ち着かせてから、勝つ為の下ごしらえをしていく。

 

 

「ーーシロコ、今使える武器って何がある?」

 

「ミサイルドローン一機と手榴弾2個、ドローンは別館に置いてある」

 

「十分!今すぐ取りに行けるか?」

 

「分かった、スバルは」

 

「ちょいと仕掛けを作りに、体育館なら多分あると思う奴を取りに行く、それからの作戦は〜……ーーゴニョゴニョゴニョ…」

 

「ごにょごにょ言われても分からない…」

 

「冗談冗談!作戦については俺の相棒が教えてくれる、まずは各々準備開始って事で!」

 

「ん、それじゃ……」

 

「おう、それじゃーー」

 

 

ーーホシノ攻略戦、開始。

 

 

「「勝とう」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

心臓の高鳴りが抑えられない。

 

日差しが頂点に達する真昼間、体育館の窓から差し込む光が、空中のホコリをもやもやと輝かせている。

トーントーン、とジャンプをして、跳ね返ってくる音は、スバルだけが居る、この空間に響く。

 

右肩は動くか?足は痺れてないか?少し首をグリグリと回し、パキッと鳴って、じんわりとした温かさが首元に広がった。

 

「ふー…」

 

冷や汗と武者震いが止まらず、浅知恵の策略が本当に通じるのか、胸の中はモヤモヤで埋まっていた。

だが、スバルには信頼出来る事がある。

それは、スバルとホシノが似ている事。スバルが死に戻りに心を囚われているように、同じくホシノも『何か』に囚われている。

 

だから分かってしまうのだ、スバルが明日を、未来と希望を求めて必死にもがく様に、ホシノもまた『もがく者』であると。

 

「『溺れるものは藁をも掴む、人生という大海の中で』、だな」

 

溺れているのはお互いに、だが、今回藁を差し出すのは……ーースバルだ。

 

 

「まっ、それでも最初の賭けに負けたら全部おしゃかだが…」

 

 

最初の賭け、それはホシノに勝負を受けさせる事。

恐らく、スバルが出せる手札にその様なものは無い。つまり…いつも通りのハッタリと嘘で誤魔化す。

 

これも恐らくだが、ホシノの泣き所、龍の逆鱗、ウィークポイントにして、パンパンに膨れ上がった膿は…ーー梔子ユメの存在だ。

生徒会長梔子ユメの遺体を発見したのは、当時生徒会に所属していたホシノ、この事実が如何に残酷なものであるかは語りように無い。

 

でもそれだけでホシノは揺れ動かないであろう、調べれば済むだけの事では賭け金が足りないのだ。

 

ーーならどうするか?

 

 

「アロナたん……本当に俺が考えた奴でいいの?」

 

「肯定、私はスバル様の提案を『最善手』として保証させていただきます」

 

「…ーーアロナは良い相棒だよ、ほんと」

 

 

勇気づけられながら、推測していた結論を心に書きなぐる。

 

それは…ーー『黒服』という単語であった。

 

黒服、それだけを聞けば皆…大統領お付のSPやら、疲れきった社会人の襟元や、会議だの葬儀だの思いつく事だろう。

スバルにとってはそうでは無い、それは忌々しい名、悪夢の単語だ。

 

何度も苦しめられた初日の死に戻りの数々、その中でも最大最悪の死に方をした時に、黒服という男は…スバルを解体していた。

内臓を摘出し、肉を剥ぎ骨を折り、生きていけるギリギリまでをスバルから奪い続けた悪魔。

 

スバルは、その男がホシノと契約している存在だと予想を付けたのだ。

 

別に苦しめられて目の敵にしてるから、だとか、黒服なんて黒幕っぽい名前だから、なんて理由では無い。

 

まず、ホシノが契約している男に合致する条件を探した。

 

 

「前提:その1」

 

 

カイザーと深い繋がりを持ち、かと言ってカイザーの手先という訳では無く、あくまで協力者として存在している事。

 

『カイザーと契約主は一枚岩じゃない、ただの取引相手だから…アイツは、カイザーに引き渡すことよりも君を観察する方に傾く』

 

『『黒服』は興味を示すだろう、奴は有用だ、残ってもらわねば困る…ーー連れて行け』

 

ホシノの証言と、カイザープレジデントの証言、まずここが類似した。

 

 

「前提:その2」

 

 

ホシノに契約を持ち掛けた男は、研究材料としてホシノの身柄を求めた。少なからずとも、前提その1に引っかかる存在で研究等と宣っている男は……。

 

『ゲマトリアに所属する黒服と申します』

 

『おっと、冷静に』

 

『今、貴方の中を開いている所ですので』

 

薬品の匂いが充満する、冷たい感覚が支配していたあの時間。

カイザーが生徒を攫ったその後、その生徒を兵士にでもするだろうか?いや、そんな非効率的な事はしない、そういう奴らだ。

第一に金、第二に金、なら誘拐等する理由は……ーー『誘拐する事で金儲けが出来る』から。

 

もう一度意見を噛み砕く、ホシノは、その男からホシノの身柄が欲しいと言われ続けてきた、あの化け物級の戦闘能力を使う訳でもなく、研究材料として。

 

 

「…前提:その3」

 

 

ーープレジデントが名指しで指名し(カイザーと深い関わりがあり)

目的はあくまで研究(研究材料としてホシノを求め)

尚且つカイザーコーポレーションと真っ向から

競売できる立場(ゲマトリア)

 

それって、だーれだ?

 

 

「ゲマトリアだの、何してんのか知らねぇが……」

 

 

お前(黒服)には、痛い目見てもらうぜ」

 

 

何の手札も、何も賭けるものがないスバルの手元には、今現在…価値も無く支払えもしない虚構のチップが置かれていた。

『黒服』と『梔子ユメ』というチップ。

 

ーーホシノからすれば、大海に浮かぶ藁であるものが。

 

 

「ーースバル!」

 

 

「お、お帰りなさい、だな…シロコーーなんかあったの?」

 

 

「ちょっと不味いかも、ホシノ先輩が本館を通ってここに来てる」

 

 

「マジか、早めに準備してて良かった、携帯預けとくから…文字に従って動いてくれるか?」

 

 

「ん、相棒の力…借りるね」

 

 

体育館の隅に置いてあった跳び箱を足場に、シロコが2階に飛び乗った。

こう見てみると、やはり根本的に地球人とは異なる存在なんだな、と感じる。

スバルが真似しようとすれば跳び箱の上でお座りするだけで終わるだろう。

 

 

「さーて」

 

 

腰を回し、唾を飲み込み、目をギュッと瞑って数秒。

 

 

「運命様、上等だ」

 

 

1%を掴み取る勝負が。

 

ーー蹴破られた体育館の扉と共に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー俺は」

 

 

「黒服から、梔子ユメの情報を聞かされている」

 

 

「ぁーーーー?」

 

 

ーー最初の賭けが、成功した。

 

 

「ぉ……まえ、ナツキ…スバル…!!」

 

 

「何をッ…知ってるッ!!!」

 

 

「落ち着けよ、ホシノ」

 

 

「ホシノが俺の事化け物だの怪物だの言ってくるから、その通りにしようって思っただけだ」

 

 

「ッーー」

 

 

歯ぎしりがここまで聞こえてきそうな顔で睨まれる。

初めから覚悟を決めておかなければ、その気迫で心を折られかねない代物。

 

 

「まぁ先に…コレについては嘘だって言っとくぜ」

 

 

「は?…ーーそんな訳無いでしょ、嘘にしてもその言葉が出るはずが無い」

 

 

「だから嘘か真か信じるのはホシノ次第、その上で俺と勝負しねぇか、ホシノ」

 

 

「…勝負」

 

 

「ホシノは強い、世界一って言われても嘘には思わねぇ、でも俺を今気絶させて拷問だのなんだのしようが、ホシノが求めてるものは手に入らない、俺は『ナツキ・スバル』だぜ?」

 

 

「ーー」

 

 

「だからこうしよう、俺の提案する勝負に勝った方が、負けた方に好きな命令を出す、色々ゴチャゴチャするより簡単だろ?」

 

 

「シロコちゃんの入れ知恵か……」

 

 

「……」

 

 

「ーーいいよ、乗った」

 

 

第2関門突破。

ここから先は、脳内シミュレーション通りに話すだけ、喉を詰まらせず常に余裕綽々に、自信満々に、スバルが負ける為の条件を整えていく時間。

 

疑わせろ、錯覚させろ。大した相手でないと思わせろ、侮れない相手だと思わせろ。

ーーホシノの思考をスバルにだけ向かさせろ。

 

 

「で、何で勝負するの」

 

 

「ーー鬼ごっこだ」

 

 

「……鬼ごっこ?」

 

 

そのシンプルな響きにホシノは困惑する。

恐るべき相手から提示されたのが、まさかの鬼ごっこ、キョトン顔を晒してしまうのも無理は無く、スバルから見てもその困惑は見て取れた。

 

 

「そっくりそのまま鬼ごっこ、但し俺のルールを付け加えた上での話、俺この世界だとめちゃくちゃひ弱だからハンデってのを貰いたい」

 

 

「別に良いよ」

 

 

「おk、ならまずルールその1…動いていい範囲は互いにこの体育館まで、ルールその2、俺が鬼でホシノが逃げる側、1度でもタッチされたら負けで、制限時間は1分、ルールその3はーー」

 

 

(1分…!?)

 

唖然とするホシノ、こういった場合では普通自分自身に有利なルールを作る筈だ。

それが、まさかのスバルが鬼側で制限時間1分、範囲も狭すぎる訳でも無く、この体育館をめいっぱい使えるなら逃げるのに支障は無い。

 

最早受けた時点で勝ち、そんなルールが次々と打ち立てられていく。

 

 

「ーーシロコは直接俺の手助けをしない、ホシノを捕まえる為にシロコが押さえつける、なんてのは無し、あくまで俺とホシノの勝負だからな」

 

 

「……」

 

 

「その4、範囲外に出ても3秒以内に体育館に戻ればセーフ、3秒ルールって奴、それと俺は危険物…銃とか爆弾とか、さっきみたいに自分の頭に銃を突きつけたりしない!まぁ保険だからこれは気にすんな、ーー以上!」

 

 

「…本当にそれでいいの?」

 

 

「勿論」

 

 

ーーナツキ・スバルの狙いが分からない。

あらゆる己の利点を捨て去っている、勝ちを譲るようにルールが付け足された。ルール1で思い付いた、何かしらを使って範囲外押し出しでの勝利も自ら放棄。

 

分からない、ナツキ・スバルは何を狙っているのか、何の為に自殺行為に等しい勝負を仕掛けようとしているのか。

 

元からどんな不利を背負っても負けるつもりは無かったが、こうも怪しいと逆にホシノの勢いが削がれてくる。

 

ーーだが。

 

 

「……ったら」

 

 

「ん?」

 

 

「勝ったら、ユメ先輩について、知ってる事を全て話せ」

 

 

「ーーああ」

 

 

妄執は、その程度でホシノの手を離さない。

 

 

故に。

 

 

ーーナツキ・スバルの策略は炸裂する。

 

 

「あそこの時計の秒針がピッタリ0秒に重なったら開始な」

 

 

「分かった」

 

 

残り数十秒で始まる勝負を前に、息を整えるホシノ。

対するスバルは余裕綽々と体育館の壇上へと上がって行った。

 

部屋を索敵する余裕は無い、ホシノは今、ナツキ・スバルという存在に対して最大限の警戒を敷いている。

一挙手一投足を見逃せば、この絶望とも言える勝負をひっくり返してみせるのが、この男だ。

 

何一つ油断はできず、何一つ許していい行動は無い。

 

チクタク、チクタクと秒針は一歩づつ進んでいく。

 

 

「……」

 

 

緊張感に息を詰まらせるのは二流の仕事。あくまで有利な立場であり、マトモにやれば勝てる勝負。

 

気負いに負けて、勝負に負けてしまう、なんて恥は晒さない。

 

 

「…………」

 

 

「ーーー……」

 

 

開始まで後3秒。

 

 

「ホシノーー!」

 

 

「信じてる、ホシノのこと」

 

 

「っ?」

 

 

時計の針が、0へと重なった。

 

ーー瞬間。

 

 

 

「ーーー!?!?」

 

 

 

ホシノにとっては、見慣れた武装。2階の暗闇から突如現れた…ーー。

 

シロコのドローンが、スバルに向けてミサイルを放っていた。

 

 

「相手の判断が終わるより前に、行動する…だな」

 

 

瞬時に判断を終え駆け出すも、ミサイルより先には間に合わない。放たれたのは4発、撃ち落とそうにも…この距離だと2発が限界だ。

 

「ふッ!!」

 

走りながら2発は空中で爆散、だが見立て通りこれが限界。

ホシノにとって最優先しなければならなかったナツキ・スバルの命が、華やかに散ろうとしている。

 

スバルもその場から微動だにせず、訪れる死から目を逸らさなかった。

 

驚異的な瞬発力とスピードで、壇上の目の前まで辿り着くホシノだったが、直感で間に合わないと理解し、逆に思考を一択へと切り替えた。

 

【これは、ナツキ・スバルによるブラフである】

 

と。

 

超人的な能力により、引き伸ばされていく1秒、常人には辿り着けないゾーンへと意識を落とし、体感時間を停滞させる。

 

 

「……!」

 

 

ーーミサイルの軌道が妙だ。スバルに命中するには少し上方向にズレていて…。

そうして、0.1秒後着弾したのはスバルに、では無く…壇上の上、舞台の天井だ。

 

破壊された瓦礫がスバルを押し潰そうとするも、判断を終えていたホシノは瓦礫を盾で殴り飛ばしながら、決してスバルの手が届かない高さで全ての事態を処理した。

 

 

「甘かったね」

 

 

「いやーー」

 

 

まだだ、とでも言わんばかりの視線を、宙で回転するホシノは受ける。

 

直後聞こえた発砲音は、恐らくシロコのモノ。

同じ様な真似を繰り返すか、と唾棄する気分でスバルを見つめた、だがしかし…同じく弾丸を弾きながらスバルの『タッチ』を躱せば済む話、難しい事じゃない。

 

ガキンッ!と、盾が弾丸を弾いた音を耳にしてからその場を離れようとした。

 

どれだけ覚悟が決まった存在であっても、単純な力不足ではどうしようも無い現実があるのだとスバルに突きつけられようとーー、

 

 

「よいしょ」

 

 

バフッ、と聞いた事の無い、それでいて重いものが落ちた音がする。

スバルの左手には、細い糸のようなものが。

 

ーースバルとホシノの身体を、白黒い粉が包み込んだ。

 

最後に、スバルの右手には天高く掲げられた拳銃が握られている。

 

 

 

「粉塵爆発って、知ってるかーー?」

 

 

 

ブラフ、そうブラフだ迷う必要は無い迷わない勝てる勝負、そんな無意味な事はしないする訳が無い。そもそも粉塵爆発を起こせる危険物はいや弾丸を解体すればいくらでも用意出来るそれでもなんの意味も無い自殺等してもああでもこの男は、この男はーー。

 

 

……そして、その言葉を耳にして、ホシノは。

 

 

ホシノは……ーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タッチ、だな」

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

ーースバルが握る拳銃のトリガーを引かせない為に、指を差し込んでしまった。

 

スバルの手と、ホシノの手が触れ合っている、

 

 

「…ルールは」

 

「別にシロコは俺の為に動いた訳じゃ無い、気分転換にでも撃ったミサイルやら銃弾やらの先に、『偶然』俺が居ただけ」

 

「……その4」

 

「この拳銃は弾が入ってねぇ、それとこれも……」

 

 

スバルが左手の糸を引っ張ると、真っ白の粉が大量に付いた木の板が、壇上の裏から落ちてくる。

幕を開けて、落下物の正体を見せつければーー、

 

 

「石灰だ、石灰は可燃物じゃないから粉塵爆発を起こさない……ほら、危険物じゃありません!ってな、それにこんだけ広けりゃ粉塵爆発は起こせない」

 

「『相手の判断が終わるより前に行動する』ーー小さい頃妄想してた甲斐があったな!調べなきゃ石灰じゃ無理、なんてそんな事知らねぇわ」

 

 

「…黒いのは…ーーはぁ、何コレ」

 

 

「『ナツキ・スバル特製 ホコリとゴミブレンド』調合率はその都度変わるから、毎日プレミア価格が付いてる」

 

 

「ーー……最初から最後まで、全部ハッタリだったんだね」

 

 

「それと、ホシノは優しいから、絶対俺を見捨てないって信じてた」

 

 

スバルは自分自身が底抜けの善人でないことを知っている、というか善人であるかどうかも怪しく、普通に嘘はつくし、一般人からすれば優しさも性格もまるで善い人と言われるには足りてない。

 

それでも、それでもーー、

 

受けた優しさを、信じる程度の人間ではあったというだけ。

 

あの夜、命を救って貰ったのは間違い無い事実なのだから。

 

 

「はー…ぁ…」

 

 

ーー結局、負けた理由は…最後までスバルを心無い怪物だと信じた、自分のせいか。

 

 

「……私の、負け、か」

 

 

 

「ーーああ」

 

 

 

「俺達の勝ちだ」

 

 

 

勝者から敗者へ。

 

最弱から最強へ。

 

手を差し伸べるのは、『溺れている自覚のある者』だったーー、

 

 

「……」

 

 

と、その時、ホシノの手をとって立ち上がらせたスバルの視界に、歩み寄ってくるシロコが映る。

 

 

「お、シロコ!マジでナイスプレー!!いや〜目の前までミサイル来た時は死ぬかと思ったわ〜…タハーッ、てね!」

 

「……」

 

「アロナもマジナイスっ!完全完璧に作戦どーり!流石最愛で最高の相棒アロナ様!」

 

「ありがとうございます、ですがーー」

 

「いやー!!これで!!これで、一件落ーー」

 

「ん」

 

 

ーーガッシリと、中々強めに肩を掴まれた。

 

 

「……あのー、その〜?」

 

 

「ん」

 

 

「えっと」

 

 

「……言わなきゃ分からない?」

 

 

「あ〜、はは」

 

 

「……ーーごめんちゃい!テヘペーー」

 

 

「ん、卍固め」

 

 

「チョゲラッーー!?!?」

 

 

 

その日、生まれた勝者が僅か数秒にして敗北者へと変わった後。

 

二度とシロコには逆らわないと、心に刻んだスバルであった。

 

 

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