Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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以前スタートラインに辿り着いたと述べましたが、

日数を数えるとしたら、今日で『三日目』です。


『三日目の現状』

 

 

「ーーそれで、おじさんにどんな酷い事したいのかなぁ~」

 

 

卍固めを終えて数分、傍でうめき声をあげてうずくまるスバルに、ホシノがそう前置きして、

 

 

「単騎突撃でもさせる?それとも…君が前線に出るからそのサポート?」

 

 

「お…れが、前線で戦える奴に見えるか…?ファンタジー要素が身体の硬さの世界で、強度豆腐未満だぞ、あ、銃は握れるか」

 

 

「ん、スバルが撃っても反動で怪我するだけ、意味ない」

 

 

「それは正直否定できません」

 

 

いつまで経っても手になじまない黒鉄は、スバルの相棒と言うには不十分過ぎる。

思いのほか重い拳銃は、スバルの為にと一番取り回しの良いモノをカンナに選んでもらって、的当て訓練までしたけれど余りの適性の無さにカンナが目を覆っていた。

 

相棒枠になるには優しさが足りないのだ優しさが、基本辛辣なこの世界でスバルが求めるものは、武力ではなく自分を甘やかしてくれる存在。

 

 

「やっぱりアロナたんがナンバーワン…いや、どっちかというと辛辣な時の方が多いか?」

 

 

抗議の意を示すバイブレーションが、スバルのポケットにしまい込んだ携帯から伝わってくる。

どこで音拾ってんだと、いつの間にか魔改造されている携帯に思いをはせながら、約束通りにホシノへと命令を下すスバル。

 

 

「取り敢えず、銃置いて話し合おう、正直もうヘロヘロだよ、キヴォトス人はスタミナまでファンタジーなの?」

 

 

「『外』の人間が君程度なのか、それとも君が体力無いのかどっちなんだろー」

 

 

「別に俺が引きこもりだからってわけじゃねぇからね!?初日に腹に弾ぶち込まれて、その後にハリウッドからの全力鬼ごっこすれば誰でもしんどいわ!」

 

 

「…ーー無茶しすぎ」

 

 

「おうふーー、シロコ様、そのような眼光で睨まれてしまいますと、肝っ玉冷えすぎて凍えちゃいます」

 

 

色々駆け巡る思考を整理しながら、奥歯に引っかかる言葉を舌で取ろうとして、思い出すのは『配信の結果』だ。

前哨基地の爆破によって、アビドス高校を包囲していたヘルメット団は撤退したらしいし、スバルを監視していたカイザー共はホシノが撃退した。

 

ホシノも話し合いの席に座ってくれたこの状況で確認すべきは、『シャーレの部長に任命されたかどうか』。

 

 

「そこんとこ、どうなの?」

 

 

携帯を開いて問いかけるも、帰ってくるのは沈黙…そして不機嫌な顔文字で、どうやらさっきので機嫌を損ねたらしく、「相棒はアロナしかいない」とLOVEを伝えて連邦生徒会の現状を教えてもらうと、

 

 

「現在議会進行中です、可決4、否決2、無投票1での進行、一時間後に裁決されるかと」

 

 

「ほぼほぼ勝ちか、一時間後…ーー少しは休憩できるな、ホシノ、せっかくだしアビドス高校のことからでも教えてくれねぇか、腹も減ったし、何か食いながら」

 

 

「それ…命令?」

 

 

「いいや、月並みに返すけど、お願いだな」

 

 

「ーーいいよ、こっちも月並みな言葉だけど、ようこそアビドス高校へ、ご飯も弾薬も無いけど一休みしていって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー老朽化している建物にしては、全くほこりが積もっていない手入れの行き届いた教室に案内される。

 

アビドス高校の建物は殆どが閉鎖していて、使っているのも数部屋なのは所属している生徒がたったの5人であるせいなのだろう。

窓から覗く光景には、カイザーの襲撃のせいで大破している本館の一階が見える。

 

燦燦とした天気の割には随分と涼やかで心地がいい、きっと彼女らにとっては忌避すべき対象である砂漠のおかげで、この猛暑でも部屋の中は涼しい。

 

 

「直射日光にぶち当たるとそうでもねぇんだよなぁ、日本は湿気高けぇからあんま馴染み無い」

 

 

校舎、学校という場所は基本的に思い出の詰まった場所だ。椅子の一席、机の一つ、黒板一枚に想起すべき思い出がある。

特にいい思い出の無いスバルの高校生活でも、自分の座っていた席には愛着があるものだ。

 

ましてや、『滅ぼす』なんて宣言された日には、引きこもった後でも外に出て、剣道二段の力量を活かそうとして、宣言した張本人と得意を捨てて殴り合う気負いがスバルにだって、

 

 

「なんで殴りかかってんだよ、武器のリーチ差活かして戦えよ」

 

 

と、妄想の自分に突っ込みを入れて、手元のちんすこう砂糖抜きのような味がする携帯食を頬張る。

ーー驚くほど旨い。

 

そこで気が付いた、口の中がぱさぱさだ。ありがたくペットボトルの中の水を口の中へと満たした。

 

 

「……」

 

 

「どうしたの、黄昏れちゃって」

 

 

「ーーホシノの態度が柔らかくて感動してんだよ、初対面思い返してただけ」

 

 

「それは君が爆弾詰めた車で爆走してたからだけど」

 

 

「それはすまん」

 

 

後三十分程度だろうか、裁決が決まればやれることが増える。聞こえは悪いが公式に手駒が増えるのだ、協力してくれる人を集めてPMCを根こそぎぶっ潰す。

 

ーーというのは第二目標、欲しいのは暴力じゃなくて救い、奥空アヤネと黒見セリカをアビドス高校へと取り戻し、事情を聴いて十六夜ノノミの退学にシャーレの権力を使い、最後に借金関連をどうにかする。

 

夢物語だが、今必要としているのはその夢物語だ。だからこれは今から現実にする『目標』でもある。

 

 

「リンちゃんも無茶言うぜほんと、その人……か」

 

 

そんなものに相変わらず興味も関心も無いけれど、『その人』であることでヒナやアビドスを救えるのなら、悪くない。

だってーー、

 

 

「異世界転移の定番はハーレムだからな」

 

 

「ん、動機が不純すぎる」

 

 

「男ってのは大体そんなもんよ」

 

 

「そもそも異世界転移ってどういう事?」

 

 

「あ~、ニュアンス的には『外』から来た的な?まぁ外つっても来たくて来たわけでも無いし、ちゃんと俺にもちゃんと帰る場所がーー」

 

 

ーー帰る場所が、ある。

 

居場所は無い自分に、居場所を作ってくれた二人が。

 

 

「ーーーー」

 

 

「スバル?」

 

 

「ーーま、自分語りはこれで仕舞い、そろそろアビドスに何があったのか聞いとこっかな」

 

 

「大体調べてるでしょ、聞く必要ある?」

 

 

「大ありだぜ、逆にホシノは俺が『あーはいはい大体知ってるから任せて引っ込んどけ』とか言ったら撃つだろ」

 

 

「そんなことないよ~」

 

 

目が笑っていない、どう考えても撃つとしか考えられない目。

この目のホシノに撃ちぬかれた経験は何度あるだろうか。

一晩正座で、深く土下座しまくっても許されなさそうだし。

 

 

「いや撃つね、絶対、100%、天地ひっくり返っても必ず頭ぶちぬく」

 

 

「随分と身が入った言葉だね、過去に誰かと経験済み?」

 

 

「ああ、似たような経験がな」

 

 

「ふーん、凄くやらかしそうな性格してるもんね」

 

 

「ははは!良く言われーー…っておい!相変わらずひっでぇな!?」

 

 

どう考えても信頼を得られていないタイプの罵倒をされたところで、本題へと入る。

本題とは再三言っている、『何があったか』だけであり、雑談するにしては重苦し過ぎるものだが、この砂漠のごとくぱさぱさの携帯食とは相性がいい。

 

ーー生唾を飲む話には、違いないだろうから。

 

スバルが咳ばらいを挟むと雰囲気が変わったのを肌で感じ取り、ホシノが目をすぼめ、顔を軽く伏せてから話し出す。

 

 

「……ふう」

 

 

「問題の根幹はね、結局のところアビドス自身にあるんだ」

 

 

悲劇の始まりはアビドス全盛の時代を終わらせた、謎の砂嵐。

再興のための事業は失敗に次ぐ失敗に終わり、自治区の権利を売り払ってでも押し進めた鉄道計画は大爆死。

 

あらゆる損害を取り戻せなかったアビドスに待ち受けていたのは、衰退と破滅の道だった。それでも、

 

ーー元に戻すために抗う人がいて

 

ーー夢物語だと吐き捨てた人もいた。

 

 

「カイザーが幾ら法外であくどい商売をしてると言ってもね、アビドスの借金はアビドスが生み出した慢心そのものだからさ」

 

 

入学してくれた後輩は、一緒になって借金を返すために働いてくれたけど…到底返し切れる金額でもない。それどころか利息が収入を上回っていつまで経っても借金は返し終わらない。

 

いつの日かそんな生活に疲れて、悪事に手を染めてまで返そうとした時もある。勿論それは止めて、いつものように頑張ろうと声をかけてーー待っているのは何一つ変わらず悪化し続ける現実。

 

校舎にはいつもカタカタヘルメット団が襲撃しに来てて、補給は毎日のように尽き果てる。弾薬も食料品も武器も無くなっていくし、何か月も経った後はお金を稼ぐにも近場に働き手を募集してる所もない、遠くへ出稼ぎに行かなくちゃいけない。

 

悪徳な利子は増え続け、黒見セリカは更に高い給料を求め深夜のバイトに長居するようになった。

 

 

「うちの一番の稼ぎ手、セリカちゃん」

 

 

「もうボロボロのアビドスに入学してくれただけで、嬉しかったのに」

 

 

ーーとある日、ヘルメット団の襲撃を受けてしまった彼女は、誘拐され、一週間は監禁されてしまう。

 

その時は探索を続けながら、偶然監禁場所の近くで騒ぎを起こした便利屋を懲らしめようとしたお陰で発見できたけど…。

 

 

「セリカちゃんはその一件で心身に後遺症が残ったんだ、暗闇や攫われた時間になると思い出がフラッシュバックしちゃって、遅くまでのバイトもできなくなって」

 

 

今でも攫われた瞬間に居れなかった、すぐ見つけてあげられなかった自分を恨む。

 

 

「……ーー」

 

 

同じ悲劇は二度と繰り返さない、そう誓った後に待ち受けていたのは。

 

ーー力ではどうしようもない悲劇だった。

 

 

「ノノミちゃんの事は…ある程度知ってる?」

 

 

「……ある程度は、な」

 

 

「ーーノノミちゃんはね、元々はハイランダー鉄道学園っていう、アビドスの鉄道事業に協力した学園に入学する予定だったの、次期生徒会長としてね」

 

 

その席を蹴ってまでアビドスに来てくれた、でも中々の無茶を押し通したみたいで、時々近況を聞きに来る執事はいつも、「戻ってきて下さい」と苦い顔をしていてーー、

 

 

「遂に、強硬手段でノノミちゃんを取り返しに来た、カイザーと手を組んで」

 

 

「またカイザーかよ…」

 

 

「また、だね。カイザーの欲望は止まらないから、ネフティス企業の令嬢という立場はカイザーが競売相手を蹴落とすにはちょうど良かった」

 

 

「今は停滞してるけど、あと二日後には私がノノミちゃんの退学を認めなきゃいけない」

 

 

そして、最後にトドメを刺したのは、

 

 

「利子を1000%に引き上げられた事」

 

 

「…ぁ…はぁ!?」

 

 

「20億越えの借金なんて、普通に返してたらそんなことにはならないよ」

 

 

ある時、いつものように借金返済の為、集金業者にお金を渡して…その後、アヤネちゃんがある事実を突き止めた。

 

ーーセリカちゃんを襲撃したヘルメット団の武装がブラックマーケットでしか流通していないような物品であったこと。

 

 

「違法な取引が横行してるブラックマーケットに探りを入れに行った時、通りがかった闇銀行の傍に止めてあった車が目についてね」

 

 

普通の車じゃ目に留まることもなかった。ーーそれが、いつも自分たちのところに集金しに来ているトラックでなかったら。

 

乱暴な手段は使ったけど、何とかして集金記録の書類を手に入れて、そこに載っていたのは…『セリカちゃんを襲撃したのはカイザーローンからの依頼』だったという事実。

取り立てる側が、取り立てられる側を潰しにかかる、なんて億越えの借金があるのにできるわけがない。

 

 

「背後に潜んでいたのは本社に近い相手、カイザーPMC」

 

 

「色々準備して、本拠地に突撃した後…アビドスそのものを人質に取られちゃってね、最終的にはこのざま」

 

 

カイザーはアビドス砂漠に眠ってる『兵器』って奴が欲しくて、そんなことをしてたらしく、けれど事情が変わったのか開拓を放り投げた。

温情ともいえぬ情け、いや情けとも言えないカイザーの慢心で強制立ち退きと徴収は行われずに済んだものの……。

 

 

「最後に、私が契約してる相手ーー黒服との契約履行をしようと話し合ってるときに、二人が攫われちゃってさ……」

 

 

「私が契約しないって道を潰すためか、それともただの戯れか」

 

 

「戯れって、そんな、そんな言葉で…!」

 

 

「奴らにとってはそうでしかないよ」

 

 

「…ん、まぁ、…ふー…こんな、感じかな」

 

 

「ッ……ーーっ……」

 

 

もの言えぬ感情を口に出そうと、『もの言えぬ感情』だから何か言えるわけでも無く。

餌を求める鯉のように、どうにかすると言い放った自分への答えを求めて口をパクパクさせる。

 

やっとの思いで絞り出せたのはーー、

 

 

「ホシノ……達の、責任でも、ねぇだろ…」

 

 

「なんで、なんでここまで、こんな目に合わなくちゃなんねぇんだ…!!」

 

 

運命という理不尽に対しての、嘆き。

 

 

「ーーそうだね、私たちの責任じゃない」

 

 

「でも、譲れないんだ」

 

 

「ぁ…ーーっその、……ごめん」

 

 

「大丈夫、むしろ怒ってくれてありがと」

 

 

「理不尽を当たり前だって、受け入れ続けちゃうとさ、心が麻痺して、壊死していくんだ」

 

 

「だから、うん、そうだね……」

 

 

「ーーありがと」

 

 

「……」

 

 

何度も死に戻りをした中で、ホシノ達が譲れない『ライン』があることは分かっていたはずなのに、それでも同情の感情を口に出してしまった。

分かってはいる、分かってはいるのだ、憐みや同情は懸命に前に向き続ける者にとって、侮辱にとられかねないと。

 

分かってはいてもーー、それは、無いだろ。

 

 

「…シロコも、そう、なんだな」

 

 

「うん」

 

 

「私はホシノ先輩に拾われて、何もなかった私に『私』をくれた」

 

 

「アビドスが私の居場所で、アビドスのみんなが私の家族で、何一つ諦めるつもりは無いよ、何をしてでもね…ーーホシノ先輩が嫌がっても、先輩も契約の事黙ってた時点で同じ」

 

 

「スバルの手を掴んだのもそれが理由」

 

 

「約束、守ってくれる?」

 

 

「ーーー」

 

 

ゆっくり息を吐き、席を立ちあがる。

 

いつものスバルなら、またこんな状況に放り込まれたのかとため息を吐くところだろう。

 

教室の黒板に近づき、壇上へとあがり、軽い音を奏でる床の木材で心のリズムを整えながら、スバルは自分の状態を考え、服はボロボロ、縫い直さないと浮浪者に捉えかねられない有様で、火傷跡を含めると本当の無一文っぽさがある、そんな『今のスバル』を二人へ見せつけた。

 

 

「俺の故郷のゲームにな、明日は明日の風が吹く、なんて言葉がある」

 

 

「明日には、この砂の風が心地いいって言わせてやるよ」

 

 

「ーー今の俺は、神がかってるぜ」

 

 

 

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