Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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感想、いつもありがとうございます。
評価に関しても同じく、高い評価をいただけて嬉しい限りです。


『ミッドナイトダンス』

 

 

『二つ程、条件をお付けしても構いませんか?』

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

『これは、契約という行為における秘匿性の担保であり、二者間で結ばれた契約の効力を保証するものでもあります』

 

 

『一言で申し上げると、様式美、というものです』

 

 

『契約を履行するには大切なモノですので、宜しくお願いしますね』

 

 

『もう一つは──』

 

 

 

 

 

 

「──あーー!もー!!緊張したぁぁぁッ!!!」

 

「お疲れ様です、スバル様」

 

「マジ無理、デジマ無理、いつ誘拐されるか黒ひげ危機一髪で2本だけ残った時位にドキドキしたわ」

 

 

契約が終わり、頭にまで昇った熱を風が冷ます。純粋な1VS1の勝負、今まで他者に頼りきりだったからこそ、この勝利の美酒は何ものにも代え難い。

いや、話し合いとしては交渉にすらなっていなかった。言ってしまえば、スバルは黒服に凶器を向けて脅しながらハンコを押させた側だ。

 

そこに付随するリスクリターンを、向こう側が譲渡してくれたからこそ……この結果に辿り着けた。

 

 

「……思ったよりも話通じたな」

 

「ゲマトリアの識別パターンを設定しておきました、スバル様の周囲100mに彼が近づいた場合、着信音でお知らせします」

 

「おー怖、アロナが1番抜け目無いな、ほんと」

 

「シッテムの箱の機能を、シャーレに私が固定されている以上使用出来ないのならば、それ以外での危機回避を徹底しておく事がスバル様のお役に立てるかと思いまして、それ以外にも現在のスバル様の肉体では過度な運動を控えていただきたく、この夜風にあたるのもお控えになって欲しく──」

 

「…健康管理AIかな?俺の元の生活聞いたらぶっ倒れそう、カップラーメン生活だったし」

 

「──食生活管理の項目を増やしておきます」

 

「冗談!冗談だってば!?」

 

「スバル様が御自身の身体を大切になさらない以上、私からもやるべき事をさせて頂きますので」

 

「うぅ……1番の脅威はアロナたんだったか…」

 

 

確かにスバルの生活リズムやら習慣は褒められたものではなく、スバル自身も健康管理には気をつけていても大雑把だ。

管理して貰えるなら甘々に管理してもらいたいが、スバルの相棒は容赦が無い、多分トンカツが昼食に出てきたら衣外してくるタイプ。

 

 

「明日になれば…二人は帰ってくる、か……──アロナ、明日の襲撃場所に行く意味ある?」

 

「目的が奥空アヤネと黒見セリカの場合、契約通りに進めば、労力に対するリターンは返って来ない可能性が高いです、が、一切の探知が行えない未知の場所を暴く事も、危機に備える点では効果があります」

 

「んー…ならとっとこノノミも取り戻しに行った方がいいな、ハイランダー学園だっけか、シャーレで『捜査』すればいいんだったっけ?」

 

「はい、今現在スバル様の影響力は拡大を続けています、連邦生徒会シャーレ部長として、インターネット上でアカウントを作成しておきました」

 

「リン首席行政官とは会談済みです、公認アカウントとして救援の要請をコメントして頂ければある程度の動きはあるかと」

 

「──俺、アロナ居なかったら生きていけねぇ、これからもよろしくお願いしますありがとうございます神様仏様アロナ様」

 

「はい」

 

 

どことなくドヤ顔を感じる空返事を頂いたところで、明日の予定がガラッと変わってしまったので新案を絞り出さなくてはならない。

──まず、何よりホシノとシロコに朗報を届けること。

 

後輩二人が戻ってくる、ならば集中すればいいのは後十六夜ノノミに対してだけなのだから、もうやりたい放題すればいい。

テロ組織と繋がりがある、なんてバラされた時点でネフィテスは抵抗しても詰み、抵抗しなくても詰み、ホシノ達を苦しませ続けた代償として八方塞がりになってもらう。

 

スバルにはそこら辺、捜査の建前の不正を暴くだの違法だのなんだの、ネフティスが抱えているものを理解はしていないけれど……そもそも国という個が無い代わりに、学園が自治区を持つ世界で民営企業が幅きかせりゃ、それはそれはご自由に楽しめるであろうと、そんなキヴォトスの歪みにため息を吐く。

 

まず学生が国みたいな権力握って、政治してんのがおかしいんだよ。

もっと学生つったら……──余りに甘い経験がないせいで言語化が出来ないが、もっとはっちゃければいいのに、と。

 

 

「ヒナの事を思い浮かべつつぼやくのであった……」

 

 

社畜の鑑、空崎ヒナ。何故か学業以外で目元に隈を貼り付けなければいかんのだ、寝れない上に食事が出来ない、だからあんなにも小さくプリティーキューティなサイズ感に──、

 

 

「スバル」

 

 

「──!」

 

 

「ホシノ!起きてたのか!」

 

 

「うん」

 

 

──噂をすればなんとやら、ヒナと同じミニマムサイズの苦労人が現れる。声を掛けに行く手間が減った。

 

校舎まで後数分だが、黙って外に出ていたスバルに何故声をかけれたのかを不思議に思いながら、ルンルン気分で駆け寄っていく。

 

 

「スバルも、こんな夜遅くに何処に?」

 

 

「あー…ちょい口外は出来ねぇが、まぁド屑のクソ野郎の所にかな、多分分かるだろ?」

 

 

「……」

 

 

「黙って外に出てたのは悪かった、リスクとか考えたら連れ回せなくて……あぁでも!めちゃくちゃボコボコにしてきたぜ?アヤネとセリカ、明日には帰ってくる!」

 

 

「──そっか」

 

 

「おいおい、反応が淡白過ぎんだろホシノ、特に苦労せずあのゲス野郎から二人を取り戻せたんだし、もっと喜んでも……」

 

 

「───」

 

 

「…ホシノ?」

 

 

何か、異様な雰囲気がする。少し浮き足立ったのは悪いと思う、過去のアビドスを考えるとこんなチャラく話したのを、平身低頭して岩肌に頭をこすりつけたい気分だが、何か、別の、何かが─、

 

 

何かが、ズレている。

 

 

 

「…大丈夫か?やっぱ、ちょいこの時間帯は体調崩すだろ、早く校舎に……」

 

 

そう、ホシノに手を伸ばした瞬間。

 

 

「──触れるな」

 

 

「っ…?」

 

 

泣き崩れた顔をして、ホシノが手を振り払う。

 

 

「ホシ…ノ、泣いてる、のか…?」

 

 

「──……」

 

 

「何で、何か…嫌な夢でも見たってなら、俺の胸貸しても…」

 

 

「……黙っててッ!!!」

 

 

「──」

 

 

「もう!私は…!」

 

 

「何もッ──!!」

 

 

「騙されないッッ───!!!」

 

 

叫び、ホシノがわずかに震えた手で銃を握った瞬間、スバルは腰の裏に仕込んでいるアロナに触れる――直後、荒い息と過呼吸の様な仕草で銃をスバルへと向けて、発砲。

 

積み立てられた死に戻りの経験から、死の接近に対して敏感になっていたスバルはそれを転がって回避する。避けられると思っていなかったのか、刹那の間、もしくは久遠の時間、両者に停滞を生み出した。

 

 

「──スバル様ッ!」

 

 

「────ッ!!」

 

 

ガビガビの音声が、ガラケーから聞こえてきたお陰でスバルの身体がホシノより先に行動を開始する。

ホシノの小柄な身体へと、タックルを決め込むスバル。

どういうカラクリか、あの化け物地味た耐久力と膂力を持っていながら、スバルに簡単に押し倒されるホシノ。

 

 

「ホシノッ!」

 

 

「落ち着け、落ち着いてくれ、頼む」

 

 

「う゛ぅ…──ぁ…!」

 

 

「大丈夫だ!俺は、俺はお前の事、騙したりなんかしない!」

 

 

「何か勘違いしてんのかもしれねぇが、俺はそんな事──」

 

 

「もう喋らないでよッ!!゛」

 

 

「おごッ……!?」

 

 

押し合いはスバルが有利、かに思えたが、そんな幻想を一蹴する様に押し倒されるホシノが唯の膂力差でスバルを逆に押し倒した。

凄まじい力、万力を超え工場の油圧プレスの様な力でスバルの細首を締め上げる、銃を投げ捨て、泣き果てながら涙は流さず。

 

それか、枯れてしまって出ないのか。

 

 

「お前が!……違う、違わない!!お前が、お前が全部……ふっ、ぅ……っ、違う……」

 

 

「分かってる…分かってるッ!!こんな゛、こんな事して……──煩い!そんな訳、無い、スバルが来たのはついこの前で……!」

 

 

「──お前がッ、ユメ先輩の事を…知っている訳が……」

 

 

── 一人で、会話をしている。

 

どこからどう見ても錯乱状態の彼女に、声を掛けても無駄だと分かったが、押し倒されて首を絞められた状態から抜け出せる訳もなく。

スバルは、ホシノの凄まじい激昂を受けていた、そしてこれが恐らく初めて、ホシノがスバルに対して本当の姿を露わにした瞬間だった。

 

──壊れている。

 

それが、スバルがホシノに抱いた印象。昼行灯な皮を被り、余裕を持っていた姿からも滲み出ていた暗い影、それは会話をする度に晒しだされていた。

または、後輩とアビドスの為に必死に足掻く者だとも、100を超える死に戻りで実感している。

だが、その実、それらが彼女を構成している要素では無く──、

ただそれを、被っているだけのチグハグな存在である事に、今気づいてしまった。

 

お菓子の袋を、上からハンマーで叩いた後の中身はどうなっているだろうか。──そして、その中身がどうなったか分かるのだろうか。

 

──それが分かるのは、袋が破けた時だけだ。

 

 

「ホ──……っぁ゛……あがっ……」

 

 

「お、まえは、裏…切る!お前は、必ず裏切る!裏切らなくちゃ、裏切ってくれないと──!!」

 

 

「わたしは、どうすればいいの……?」

 

 

支離滅裂な叫びが、理解不能の嘆きが、壊れた蓄音機から放たれていく。

 

──もたらされた幸福は、許されない苦痛に勝てない。

──与えられる信頼は、満たされない懐疑に勝てない。

──幸福であることが苦痛で、苦痛であることが幸福な者に。

 

──赦しは、この上ない罰であるのだから。

 

 

「──ぃ…が……」

 

 

「──こぅ……ぁッ…はいが、たいせつ……なんだ、ろ…」

 

 

「──」

 

 

だからこそ、スバルは必死に喉を掴む手を引き剥がして、何とか呼吸の隙間を作る。窒息寸前の肺は、脳ミソへの酸素供給を止めかけている。

少しだけ、少しだけでも酸素を取り込まなければ、

そうしなければ、言葉を伝える事すら出来ない。

 

 

「こ、んなことした手で……こうはいに、ふれさせねぇ! おれは、ホシノのことも……──だいすき、だから」

 

 

「ホシノにも、幸せになって欲しい」

 

 

「────」

 

 

ほんの一瞬、ほんの少し須臾の間に、力が緩む。

 

 

「──ッらァッ!!」

 

 

「ぁ…」

 

 

馬乗りになる形で首を絞められていたスバルは、両腕をホシノの身体に回し、横へと投げ転がす。

一瞬の脱力は、ホシノの身体能力を見た目通りの少女にまで押し下げ、スバルは足りないヘモグロビン内の酸素濃度を補充する為に、上擦った音を出しながら呼吸をする。

 

 

「かハッ、ハッ、ヒュっ……──ゲホッ゛ゲホッ゛……」

 

 

「…………」

 

 

「はぁっ、はぁっ、──オェェッ!! ──ぁあ゛クソッ、早く立ち上がれ俺…!!」

 

 

グラグラと酸素不足で揺れ動く視界、四肢に力が入らず、締められた首の痛みと押さえつけられた時に折れた感じのした胸骨からの痛みで目を覚まさせ続けるスバル。

 

強く締められ過ぎたせいで、一気に頭に流れ込んでくる血流で気分が悪くなり吐き戻し、それでも尚重篤なのはホシノの方だと向き直す。

 

──向き直して、目に映る光景から目を背けてしまいそうだ。

 

 

「ホシ、ノ」

 

 

泣いているのに、涙が出ない。叫んでいるのに、声が出ない。

貼り付けた能面が割れる事は無く、開かれた目は地面しか見つめていない。

 

──その顔は、死人にのみ許されるものだった。

 

 

「そんな、顔……してんじゃ、ねぇよ…」

 

 

「………」

 

 

「助けてって、言ったんだろ?助けて欲しくて、苦しんでたのに…」

 

 

「──それ以上に苦しんで、どうすんだよッ…!!」

 

 

「…」

 

 

「ユメ先輩」

 

 

「ユメ先輩は、どう思います?」

 

 

「……」

 

 

「──そうですね、きっと、みんな助けれます」

 

 

「全部、終われば」

 

 

「全部、終わらせれば」

 

 

フラフラ、フラフラと立ち上がり。

 

──スバルの方向へと歩いてくる。

 

 

「っ」

 

 

それを見て、スバルもフラフラと。

力の入り切らない体を動かして、ブラブラと身体の部位を振り回して、ホシノから逃げていく。

 

 

──二人だけの、夜の舞踏会。

 

 

引きずる足を、砂だらけにしながら近づいてくる。

引きずる足を、傷だらけにしながら逃げていく。

フラフラとした足取りで、歩いてくる。

フラフラとした足取りで、離れていく。

整わない呼吸で、嗚咽を流す。

整わない呼吸で、涙を流す。

前へ進むために腕を動かして。

前へ逃げる為に腕を動かして。

 

 

「ぁ」

 

 

12時の鐘が鳴ったシンデレラの手を、王子が握る。

 

 

「──ホシ…」

 

 

握られきれない、弱い握力で。

押し倒されきれない、弱い力で。

殺せもしない、両手を振りかざし、スバルの首にまた手が届く。

極光が世界を満たしていく。視界を埋め尽くす赤の極光、世界を染める赤色の太陽。

血の色に似た、深い深い赤が──世界を、覆う。

 

 

──キヴォトス最大の神秘、その名が示す神性が顕現を始めてしまった。

 

 

少女の頭に浮かぶ桃色のヘイローが、ブレ動く古いテレビ画面の様にノイズが混じり、可憐な桃色はドス黒い赤へ。瞳のような形を模したヘイローが形作られていく。

 

何処か、遠い場所である男が雄叫びを上げ、何処か、遠い場所である男は物静かに世界の終わりを悟り、何処か、遠い場所から顕現を感じ取る神性が星から降ってくる。

 

そして、目の前の少年は──彼女の苦しみを、その身に受けて。

 

静かに涙を、乾いた大地に染み込ませていった。

 

 

「ユメ、先輩」

 

 

顕現と共に、周囲は爆風が吹き荒れる。それは、涙を零す少年の命を散らすのには十分なもので──、

 

 

最後の最後まで、首が締まり切る事も、無かったのに。

 

 

それだけを覚えて少年は──、

 

 

 

 

 

────。

 

 

 

 

 

「ん、間に合った」

 

 

 

来るべき死が、訪れない事に目を見開いて。

身体は誰かに背負われて、浮遊感を手にしている。場所は近くの家屋の屋根で、そこから覗く光景は今までの美しい星空では無く、真っ赤に染った悪夢の世界。

 

──アビドスを蹂躙し尽くす様に爆発が繰り返されていた。

 

 

「──……しろこぉ…!」

 

 

「泣いてる場合じゃないよ、スバル…発砲音を聞いて駆けつけたけど……──アレってホシノ先輩?」

 

 

目線を向ける先には、赤黒い影の様な存在になってしまったホシノが居て、爆風は周りの建物を吹き飛ばし、スバルを庇って飛び退いたシロコの右半身をズタボロにしている。目は焼け、顔に火傷跡が強く残り、右腕は使い物になっていない。

 

スバルの身体も同じ様に焼けただれて、傷だらけではあるがシロコよりは軽傷だった。

 

シロコの流れ出す血がスバルの顔に付着し、垂れて、その熱さを感じ取ると、シロコの状態に気がついてしまう。

 

 

「その怪我……」

 

 

「大丈夫、まだ動けるよ」

 

 

「──なんで、ここまで…」

 

 

「スバルの理想を叶えたい、それが私が手を取った理由、手を取ったから叶えたいんじゃなくて、私もスバルが言った夢を叶えたかった」

 

 

「だから諦めないで、スバル」

 

 

「──……」

 

 

「ホシノ先輩を元に戻せる方法はある?」

 

 

「…わかんねぇ、何がどうなってるのか全く」

 

 

「対抗手段は?」

 

 

「効果があるかどうかは未定、でも切れる切り札は残ってるから、近づけるならこっちに注意を向けれるぜ」

 

 

「十分、とにかく気絶させよう、相棒は?」

 

 

「っ、やべぇ、落としちまってる…!」

 

 

「仕方ない、スバルをホシノ先輩の近くにまで届けるから隙を作って、私が気絶させるから…」

 

 

「──勝つよ、スバル」

 

 

叱咤激励というにはお互いボロボロで、もう無理かもしれないという諦めが心の中にあった。死に戻りをして、戻らなければどうにもならない絶望が心を埋めつくしていて、

──それでも、最後の最後まで足掻けるチャンスを作ってくれる。

 

今起きてる事が、取り返しのつかない事態だとしても。今起きてる事が、もうどうしようも無い悲劇であっても。今起きている事が、エンディング後のエピローグだとしても。

 

それでもナツキ・スバルは、生きているのだから。

 

 

 

「……」

 

 

「行こうぜ、シロコ……まだ、負けちゃいねぇ」

 

 

「適当な運命仕組みやがる馬鹿野郎に、負ける訳には…いかねぇからさ」

 

 

「ん、しっかり掴まってて」

 

 

 

爆発が巻き起こる市街地、その中心へと建物を足場に駆け寄っていくシロコ。

流石というべきか、ホシノと毎日勝負し合える実力は、駆ける足に備えられていた。

家屋を飛び移るその姿に、義経の八艘飛びを想起するスバル。目標との距離が近づいていく事に肌を刺す悪寒が増えていく。

 

──遂には、目視できる距離にまで接近していた。

 

スバルを背負いながら、赤黒い影に向けてシロコが猛進し、都合の良い事に破壊され開けきった焼け野原を真っ直ぐと。

赤黒い影は人の動きでは無い、機械的な反応を見せる。シロコを認識している訳では無く、近づいたものを迎撃するシステムのように。

 

赤黒い影が握るショットガンからは、明らかに距離の制限を無視して光の筋が解き放たれた。光線とも言えるそれがシロコの肌を削り、命を削る。

 

それでも最速最短の道は揺らがず、それは直進であり、自殺行為にも等しい突撃だが、実力でその無謀さを埋めるシロコは、光線の嵐をスバルに命中させない。

 

 

「───ホシノ先輩」

 

 

「■、■…■■」

 

 

「弱くなったね」

 

 

命中されるべき距離で、致命傷を負っていない。ホシノの強さの根幹である技量を全て投げ捨てた暴走故に、本来届く筈のない手が届くのだ。

 

──銃口との距離が、すぐそこまで近づいた時。

 

スバルを、ホシノの真上を弧を描いて飛び越すように、シロコが投擲する。

スバルが出来る唯一の切り札を切ろうと──、

 

 

 

「ホシノ!俺は!」

 

 

「死に戻りをして──!!!」

 

 

 

 

──その制約を、忘れてしまっていた。

 

 

スバルは忘却してしまっている、アロナがその言葉を吐き出すように話した時……。

 

 

その名を聞かせてはいけないと。

 

 

 

「──」

 

 

「───ああ」

 

 

「これが、私の役目だったんだね」

 

 

 

 

結局。

 

 

結果は、大きく変わる事は無かったんだと、思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 

目が、覚める。

 

それはおかしな事だ、だってさっきまでスバルは起きていて、とんでもない戦場のど真ん中に居た。

 

目が覚める、という事は、目が覚めていない時間があったという事。

それが許される猶予は、先程までの空間には無かった。

何かがおかしい。そもそも、死に戻り宣言は世界が静止する、そして言の葉に言い表せない激痛と共に、『何か』がやって来て、それが悪寒を振りまくのだ。

効果は分からないが、強者であればある程効果が強く、ホシノは『死をイメージした』とも。

 

だから絶対に振り向かせる気概はあったものの、結果は気絶。それよりも、あの言葉を口に出せてしまっていた事も気になる。いつも通りなら『口に出す前に』あの激痛が来るし。

 

周囲は依然変わらず焼け野原、だが空が赤くない。肌を刺す様な悪寒も消えていて、スバルはその星空の下に寝転がっていて。

 

 

──そして、誰かの膝の上にいる。

 

 

「……どう、なって」

 

 

ホシノは、と周りを見渡しても彼女の姿は無い。

 

気絶していたのか?という疑問は、少しづつ明ける空が物語っていた。

 

一体どうなったのか、その問いに答える者がいて。

 

スバルは今、その子の膝の上。

 

 

「──シロコ?」

 

 

「ん」

 

 

「な、なんか、デカくなってない?」

 

 

「ん、成長幅が大きかった」

 

 

視界が彼女の胸で覆われるくらいには、ナイスなダイナマイトボディへと変化していたのだ、これには健全な男子高校生も獣になってしまい、非常に不健全。

 

 

「…………私だって、分かるんだ」

 

 

「そりゃデカくなっただけだし、てか何そのドレス、いつの間に調達したの?つーかホシノは?マジで何があったんだよ」

 

 

「ん、色々」

 

 

「……色々?」

 

 

「そう」

 

 

妙な間がやけにくすぐったい、だがその愛らしい姿にも、何かがおかしいと直感が告げている。

 

静かだ、爆発音が鳴り響いていた先刻とは打って変わっての静寂は、何故かデカくなっているシロコが共にいてくれなければ心臓が凍りつきそう。

 

 

「随分とまぁ、色気づいた見た目になっちゃって……うお!髪長いな!?ちょーサラサラ……──というか、本当にホシノは何処に?」

 

 

「……」

 

 

「あの後、どうなったか教えてくれねぇか…?」

 

 

「──ホシノ先輩は、私が殺したよ」

 

 

「───」

 

 

「え──?」

 

 

「あれしか、方法が無かったから」

 

 

──頭の中が、グチャグチャになる。

なんで、どうして、何があって、どうなって、何が起きたらそんな結果になるのだと、叫ぼうとして。

 

──シロコの目を見ると、動悸が止まない。

 

 

「なんっ、ぁ、なんで、何が?ぇあ、何で……」

 

 

「スバル、落ち着いて」

 

 

「むぐっ…」

 

 

柔らかな、肌に吸い付く材質の薄い手袋で優しく口を塞がれる。

何か喋ろうとして、何かしようとして、その全てがシロコの膝の上で完結した。

上擦る息遣いを、シロコがスバルの頭を撫でて落ち着かせて、口元から手を離す。

 

──さらりと、スバルの顔にかかった自分の髪の毛を退けて、顔を近づけた。

 

 

「…………」

 

 

「落ち着いた?」

 

 

「……ぜん、ぜん…でも、美人顔には癒されるな…」

 

 

無理矢理感情を落ち着かせ、シロコと目を合わせるスバル。

何が起きたかなんていうものを理解する暇は無く、何が引き起こされたのか原因を探偵のように究明する余裕も無い。

 

 

「ん、ごめんね、無理させて……でも時間が無いから、手短に話すね」

 

 

「ホシノ先輩は、元に戻らなかった、スバルが気絶している間に、私がホシノ先輩を終わらせた」

 

 

「それだけ、…受け止められる?」

 

 

「──無理…だって、ば」

 

 

「スバル」

 

 

「……」

 

 

「──約束、果たして欲しい」

 

 

「ぁ……っ、それ、は……」

 

 

もう、果たせなくなってしまった。

もう、叶えられなくなってしまった夢だ。

 

 

「だから、ね」

 

 

()()

 

 

()()、守って」

 

 

「───」

 

 

青天の霹靂だった。

 

だって、その言葉が果たす意味は……。

 

 

「ごめん、スバルの思ってる事とは多分違うよ」

 

 

「っ」

 

 

「何となく、かな…『こうなって』何となく、そう思っただけ」

 

 

そっと、何の敵意も無く、何の害意も無く、スバルの胸に拳銃が突きつけられる。

 

──黒鉄から“ソレ”を感じるとは思わなかった。

 

優しさという、温かみを。

 

 

 

「約束、できる?」

 

 

「──う゛ん…!」

 

 

「泣いちゃダメだよ、スバル」

 

 

「…うん」

 

 

「ん、良い子」

 

 

何が始まるのかは分かっている。

何が起きるのかは分かっている。

 

──それでも、スバルは初めて『死』に安堵する。

 

感じた事も無い甘さを、許されない安堵を胸にして。

 

 

()()()()()()()だよ、スバル」

 

 

「──ああ」

 

 

「忘れないでね」

 

 

「死んでも、忘れねぇ」

 

 

頭をなでなで、涙でぐしゃぐしゃの顔を手で拭って誓いを立てる。

 

 

「──絶対に、助けてやる…!」

 

 

柔らかな膝の上で、包み込む優しさを持った腕の中で、叶えてと願う手の平で。

 

 

──この時、この一瞬、スバルはこの世界に来て初めて…優しく、温かく。

 

 

──蕩ける様な甘美な死を、迎える。

 

 

 

「ん、良かった」

 

 

「さようなら、スバル…よく、頑張ったね」

 

 

 

──死の神(アヌビス)の膝の上。

 

何の変哲もない、一人の命が安らぎを得た。

残された神は、一人寂しく…二つの亡骸を撫でて。

 

終わる世界と共に、静かに微睡んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それで、おじさんにどんな酷い事したいのかなぁ~」

 

 

卍固めの痛みが、身体を駆け回る。よくもまぁギタギタのガタガタになるまで締め付けてくれたと、この時は恨んでいた気がする。

 

 

「単騎突撃でもさせる?それとも…君が前線に出るからそのサポート?」

 

 

聞き慣れた声に見慣れた仕草。というには、まだ二度目だが。

 

言いたいことは山ほどあった。口にしたい思いは胸を突くほど存在する。なのに、そのいずれもが喉をつっかえたように出てこない。

健在なホシノの姿は、今では同じ様に見えないし、シロコがプロレスラーの如く勝どきを上げているのを見て、次はやり返すと心の中で誓う。

 

 

「──スバル?もしかして、強くやりすぎた?」

 

 

二人がスバルに対して当たり前のように接しているのを感じて、どうしようもない感情が込み上げてくる。

大の字になって動かないスバルを不思議がり、二人が近づいてきた所に──、

 

 

「がばちょ」

 

 

「ん」

 

 

「うへっ!?」

 

 

効果音を口にしながら、思い切り二人を抱え込んで抱きしめていた。

シロコのケモ耳をもふもふと味わいながら、ホシノのアホ毛が肌に触れる。

 

 

「あー、来たよ、来たぜ、俺、また次に来ちまった、最悪の気分だわ」

 

 

「でも」

 

 

「──ありがとな」

 

 

「…ん、引っ付きすぎ、チョークスリーパー」

 

 

「プゲラッ───!?!?!?!?」

 

 

 

 

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