Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『託された者、星を見上げる』

 

 

スバルにはまず、懸念すべき事実があった。

 

 

『もう一つは──』

 

 

『小鳥遊ホシノから、目を離さないで頂きたい』

 

 

今までピクリとも動かなかった黒服の姿勢、きっと社会人らしく身嗜みは整えているのだろう、襟元は整い、向き合う目線は常に相手と一直線、シャツはベストからはみ出ず、スバルを出迎えた時にも黒服に抱いた感情は『小綺麗』だった。

 

きっとこういうタイプは、家から出る時にだって鏡で自分の状態を数分じっくりと確認して出発する系、まぁ黒服に持ち家があるのかどうかは分からないし、パジャマ姿をイメージすると吹き出しかける。──ともかく、小綺麗だったそれが少しだけ崩れ、純粋な彼の人格が剥き出しになった。

 

 

『貴方が来る以前、我々ゲマトリアはキヴォトスから撤退しようとしていました、数多の奇跡が失われ、この世界に滞在する意味のなくなった我々は、共通目標である一つの認識、一つの目指すべき未来へ一度歩むのを止め、それぞれの最終目標を決めて…その達成を果たそうとしていました』

 

 

『その果てに、私達ゲマトリアはある人物を、アビドスの些細なマクガフィン、そして重大なシナリオとして取り入れてしまった、彼の手を近づけさせて欲しく無いのです』

 

 

『──身勝手でクソみたいな理由だなおい、それを達成したいからって、子供な俺たちに何でもしていいってわけでもねぇんだぞ』

 

 

『クックック……── ええ、そうです、身勝手ではありますが…だからこそ、責任を持たなければならない事でもあります』

 

 

『……ほんと、嫌な奴』

 

 

『お褒めの言葉だと受け止めておきます、それでは再度提言を……──小鳥遊ホシノから、信頼を勝ち取るよう…お願いしましょう、ナツキ・スバル』

 

 

『契約というよりは、頼みになります』

 

 

 

「……」

 

 

チョークスリーパーを掛けられて、伏せて大の字になったスバルは未だ体育館で怠惰を貪っていた、先程酸欠の状態になり…──ついさっき味わった最悪の記憶と重なりかけたが、憂鬱を心から吐き出して考える。

──まず、アレは一体何だったのか、と。

 

ホシノの精神状態が不安定な事や、隠し通してきた心根が懐疑心そのものだった事はまだ現実として受け止められる、だがアレは?あの謎の爆発と共に赤黒い影に変化したアレは、遂に登場した『現実的な理屈で説明が付かない現象』。

 

その後も色々ありはしたが、それらを理解するのは……ナンセンス、あの時は、約束を、願いを託された以上の結論は無い。

何が原因でホシノが暴走するのか、何故ホシノを頼むと黒服は述べたのか。

 

 

「……そりゃ、世界が滅ぶってなら…誰でも頼み込むわな……」

 

 

「おーいシロコ〜、ちょっとこっち来てくれー」

 

 

「ん」

 

 

胡座をかいて、自身の組んだ足に手をポンポン、シロコを自らのこの空間へと誘うスバル。

大人しくシロコがスバルの組んだ足元に近づくと、スバルがシロコの手を引いて座らせる。

 

スバルの目の前に、もふもふでピコピコと動くケモ耳が差し出された。

 

 

「あ〜……落ち着く…」

 

 

「……スバル、ちょっと恥ずかしい、何の意味があるの?これ」

 

 

「なーんも、俺が得してるだけ」

 

 

「──甘えん坊」

 

 

「うぐッ!!」

 

 

「うへぇ〜、二人ともいつの間にそんなに仲良くなったのー?おじさん妬けちゃうなぁ」

 

 

「別にそれならホシノも座るか?二人分座れる余地はあるぜ?」

 

 

「冗談言わないでよ〜、何の意味があるのさ」

 

 

「だからなーんも、俺が得してるだけ」

 

 

「うへぇ……」

 

 

凄く蔑まれるような目で見られて、色々と心にくるが……シロコがスバルを突き放さずに居てくれて良かった。

どれだけ甘い死を迎えたとしたも、死は、死だ。落ち着かないスバルの心をシロコが温めてくれていた。

 

 

「ふぅ〜、シロコ吸いは落ち着くぜ…──ホシノはさ、俺がまだ裏切るって疑ってると、俺は思ってるんだけど」

 

 

「──急にどうしたの、おじさんそんな……」

 

 

「だって、疑わなきゃ後輩守れないだろ?」

 

 

「……」

 

 

おとぼけた表情が少し冷たくなる。

シロコの頭を猫吸いしたスバルの脇腹には、シロコが「ん、ん…!」と控えめにキレて肘鉄をぶち込んで、入れられる度に軽い呻き声が会話のアクセントとして口から漏れ出す。

 

 

「止めろ、とは言わねぇ、それが出来んのはホシノだけだ、そのまま頼むぜ」

 

 

「……」

 

 

「んで、俺はホシノ達が居ないと何も出来ない、だから俺がホシノに命令ことお願いしたい事ってのは、──俺を助けて欲しい」

 

 

「俺はホシノを信じてるから、仲良くやろーぜ」

 

 

黒服との会話、巻き起こった暴走、世界を滅ぼす力を持った少女、それにスバルが下した判断は──、

 

一回目のときと同様に、ただひたすらに懸命に向かい合おう。

異世界転移初日のときも、スバルはそう思ったはずなのだ。ひたすら、ひたすら、前に進むため、絶望に抗う。

どんな未来が待ち受けているのかわかっていたとしても、それを生かし切れるだけの力の持ち合わせがない。ならば、与えられたチャンスを生かすために、スバルは他者を信じることしか出来ないから。

 

目の前の状況を精いっぱい生き足掻くしかないのだと、目の前の生徒と精いっぱい向き合うしかないのだと、理解している。

 

 

「……」

 

 

「シロコちゃんを吸いながら言っても、私からは拳しか出ないよ?」

 

 

「ほへ?」

 

 

「ん、やっていいよホシノ先輩」

 

 

「了〜解」

 

 

「へぶぅっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やはり子供か…私有地に侵入し、挙句の果てに戦闘活動等…被害を借金に加えても良いのだが、そこまで変わらんか………おっと、カイザーローンからの信頼がどうやら変わってしまった様だぞ?』

 

『そ、そんな!金利が1000%って!』

 

『はぁ!?ちょ、そんな嘘でしょ!?』

 

『フフ……ハハハ!古くから続くこの借金も、契約として手に入れた私有地も、全て私の手の平の上なのだよ?お分かりかな?対策委員会諸君』

 

『くっ…そもそもアンタ達は何が目的なのよ!』

 

『目的…目的か、私がここで何をしているか、何故アビドスの土地を手に入れたかか?それを聞くためにここに来た訳では無いだろう、君達の根拠の無い我々の不正を暴く等と調子付きおって……まぁいい』

 

『教えてやろう、宝探しだ。このアビドスの何処かに眠るお宝を、頑張って見つけようと……おっとそう睨むな、れっきとした事実だぞ?宝というよりは、とある兵器だが』

 

『何…よ、それ…ふざけるのも大概に…!』

 

『そう言いたいのは此方の方だ、貴様らは未だに何故アビドスにこだわる?そもそも借金の在処は学校そのものにある、これでようやく諦めがついて日常に戻れるのだぞ?』

 

『それを…ヘラヘラと毎日毎日飽きもせず……貴様らの訳の分からん理由で粘られてきた此方の身にもなれ』

 

『大人になるのだよ、対策委員会諸君』

 

 

 

 

「理事長ってさ、何で大体性根が腐ってるキャラ付けが多いの??」

 

 

「さぁ?でも……撃たなかった事を、今でも後悔してる」

 

 

「シロコも待てが出来たのか…!?」

 

 

「ん」

 

 

「おホグァ!?」

 

 

体育館で一通りシロコ吸いをキメた後の流れは同じ、教室に戻り、軽い食事を提供して貰って……駄べりながらシャーレ就任を待つ。

アロナは死に戻りの記憶を引き継いでいる訳では無い、シッテムの箱に累積した情報から死に戻り前をイメージし、仮定を形成する。そこから過去の自分が下した判断を読み取り、死に戻り前よりも最適な行動を実行し続ける。

 

バタフライエフェクトすら、計算に入れて掌握する規格外の性能を誇るアロナは、過去に辿り着いた、現在からすれば未来の決断を既に実行中。

 

故にスバルが集中すればいいのは、ホシノを暴走させないこと、元理事長をぶっ飛ばす事、そしてアヤネとセリカを契約で取り戻すことの三点。

 

──だから、まずはその『一度襲撃した時のこと』をホシノから語って貰った。

 

 

「宝探しに兵器…か」

 

「本気で言ってんのか?その頭の中ハッピーセットな馬鹿野郎は」

 

「多分ね、カイザー達はキヴォトスを支配したがってたから、それに見合う兵器が欲しかったんだと思う」

 

「……まぁ、それが何処にあるかっつーと…」

 

 

──アビドスのマッピング。

 

そこにポカリと浮き上がった、謎の空白地点。

 

 

「「「……」」」

 

 

「……ここしかないよな」

 

 

「だね」

 

 

「ん」

 

 

今までの死に戻りでも、キヴォトスを支配できるような凄い兵器とか、秘宝なんかは見たことが無い。

だがカイザーの動きから分かる通り、現在カイザーは超イケイケ状態だ、どんな敵が来ても叩き潰せる自信があると言わんばかりに元気。

 

──なら、その元気の根拠は何処か?

 

恐らくはこの空白地点にその答えはある。

 

 

「明日、ここを襲撃しよう」

 

 

スバルがホシノに対して、信頼を勝ち取るために必要なものは『実績』だ。疑われ続けていい、信じなくてもいい、それが役目であるならば、それが外れない呪いであるならば、必要なのは結果だ。

 

向き合い方は決めた、後は試行錯誤しながら突っ走るだけ。

 

 

「ホシノはスゲェ強い、敵無しだ、でもアヤネとセリカがカイザーと繋がりのある奴の手に囚われてる以上……シロコもホシノも、カイザーに逆らえねぇ」

 

「だから、俺が今日二人を取り戻す」

 

「──!」

 

「黒服、アイツは良くも悪くも契約に従順なんだろ?話の通じないテロ組織より、俺は黒服を悪い意味で信用するぜ」

 

 

その言葉を聞いて、ギリっ、とホシノが拳を握り締める。スバルに対しての視線がいっそう冷たくなるも、スバルは語る口を止めない。

 

 

「アイツは、アイツなら、契約の代償次第で『話をしてくれる』、だから俺は黒服に会いにいく、そこは受け入れて…くれ、頼む」

 

「………黒服に会いにいくなんて、自殺行為だよ?カイザーの本拠地に居るか、また薄暗いビルにでも篭ってるか、どっちにしろ攫われて終わり」

 

「来させるんだよ、ホシノが一番分かってるはずだ、黒服っていう人間がどんな奴なのか」

 

「───」

 

 

睨み合いを続ける両者を収めたのは……シロコだ、付く側はスバル、ホシノが後輩に隠していた負い目をさらけ出す。

 

 

「ん、ホシノ先輩、スバルの言う通りだよ……ホシノ先輩も黙って黒服って人に会ってた、それなのにスバルは駄目、なんて言わないよね」

 

 

「…うへぇ、シロコちゃんには敵わないなぁ…」

 

 

「──そう、だね、おじさんの身から出た錆、確かに黒服は…君が、どんなモノを提示するかによっては、向こうから来ると思う」

 

 

「だからって君は、黒服から二人を取り戻せるって言うの?」

 

 

「──ああ」

 

 

「俺は、俺を信じてない、俺は俺を信じる奴を信頼してる、それは悪い大人相手でも同じだ、俺を『契約相手』だって向こうが信じるなら、俺もその場に立って……」

 

 

「勝つ──!!」

 

 

「完膚なきまでに!ボッコボコのめっためたに!!ホシノ達が苦しめられた分……!!!」

 

 

「黒服の野郎から、ぼったくってやるよ」

 

 

心の中で、また別のことを宣言する。

 

これはスバルによる、ホシノの為の、アビドスの為の攻略戦。

黒服との契約に勝つことで、カイザーPMCに勝つことで、後輩達を取り戻す事で始まる、

 

 

「──んじゃま、始めるとしようか」

 

 

──小鳥遊ホシノ攻略戦だ。

 

誰にでもなくまず自分に、言い聞かせるように断言した。

 

――さあ、物語を動かそう。

スバルの望む人たちと、スバルの望む光景を共に見るために。

 

 

『約束』

 

 

『次は、守って』

 

 

『私とだけの約束だよ、スバル』

 

 

その願いを託された。

 

だから、もう。

 

泣くのも喚くのも、全部救ってからだ。

 

 






しっっっっかりと、スバルくんの中で根付いた彼女の願いはこれから先も、一生、忘れられる事はありません。

今回文章量少なめでごめんなさいね…次話はガッツリ進みます。
沢山のご感想と評価ありがとうございます、物凄いモチベーションになってます。
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