Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『オールイン』

 

黒服から手を差し伸べられ、歩んでいく道は一応は舗装されているが、殆ど砂漠との接続地点。

そんな事もあり、踏む足場には心地の悪い砂が混じる。

 

黒塗りの高級車を、砂漠地帯、それも風が強くて砂混じりのサンドブラストが吹き荒れる場所に置くなんて、車好きでなくても発狂してしまいそうなものだが……。

 

 

「…出た〜、謎の力さん」

 

 

黒服、彼の車には異世界要素が詰まっている。電磁フィールドかバリアか、スバルの男の子を実直に擽るように、淡い光が砂を弾いていた。

 

 

「最低限の護身ですよ、彼らが私諸共の排除を選ばないとは限りませんので」

 

「結構結構、勝手にお前ら同士で潰し合ってくれると助かる」

 

「クックック、手厳しい……さぁ、車内へ」

 

 

何度目か分からない入席に導かれるスバル、あれだけ高級感のあった後部座席も、こなれてしまえば座りづらい座席だな、程度しか感じなくなってきてしまって少し物悲しい。

広い車内には、奥空アヤネと黒見セリカが眠らされ、お互いの手を繋いだ状態で安置されていて、思わずがっつきかけた足を諌めた。

 

 

「このような場には、慣れていらっしゃるのですね」

 

 

「慣れたかねぇーよ、勝手に慣れさせられてんの」

 

 

「──ククッ、労いの言葉を掛けた方が宜しい様で」

 

 

「だーまーれ、本当にそんな事思ってんのかテメェ」

 

 

「ええ」

 

 

「……」

 

 

いつもコイツはそうだ。存在自体が神経をさかなでる様な奴なのに、スバルと対面した時には『大人と子供』である事を忘れない。

幾らスバルが身嗜みに気を付け、態度を改め、襟元を整えた後でも同じ、カイザーに通じるハッタリはこの男に通用しない。

 

やる気を削がれる理由は他にも色々とあるが、心根を考えればコイツに言及する事自体モチベーションが下がるのだ、黙っておこうと、

 

 

「──先に一つ言っておく、二人に仕掛けた爆弾はお前なら解除できるよな?俺とちゃんと『話し合いたい』なら、今すぐにでも解いてくれ」

 

 

「その代わり、俺の手の内の幾つかは教えてやる」

 

 

「ふむ」

 

 

黒服の表情には焦りは見えないが、不可解という記号が顔に浮かんだように、興味深くスバルを見つめた。

初見殺し、自信満々に誇っていたカイザーの一手が一瞬で儚く散った事を、特に興味無く受け止める。

 

 

「貴方が幾ら不可解な存在だといえど、有効手段があるのならば、それを手放す理由は無いのですが……」

 

 

「ならお前とはこれっきり、俺は勝手に二人を貰って帰るだけだぜ?ホシノならすぐ解除出来る、無傷で二人を返して俺もアビドスも万々歳って円満な状況に落ち着くんだ」

 

 

「それを踏まえて、お前が『してくれる』ってなら、それだけの恩は返せるけど?俺はどっちでもいいが、どうするよ、黒服」

 

 

聞くだけならば、余りにも利益に無頓着な発言。黒服にはそれを、このカイザー兵に囲まれているスバルが達成出来るのかを判断できるだけの能力はあるし、スバルの自信満々な顔の根拠は見当たらない。

 

ただ──、

 

 

「──ちなみに、お前がそっちを取るなら俺は『お前の敵』になる」

 

 

「…………」

 

 

「…──なるほど、想定以上ですね、ナツキ・スバル」

 

 

それだけは嫌、だとも言わんばかりに、その言葉を聞いて発言を萎縮させる黒服。

未知が解明されるより前に、未知のまま道が交わることが無くなるなどという苦痛、研究者としての性格が根底にある黒服が耐えられないのは知っている。

 

──お前が嫌なこと、全部知ってんだ、お前が俺にイラついて、その余裕風風な態度崩れるやり方は分かってる。

 

だからこそ、俺はその道を行かない。失敗したから。

 

 

「大人は欲しいモノの為に必死に働いてんのに、子供がその欲しいモノを持ってた時は強引に奪うしかねぇってのも、俺は惨めで息苦しいって思う」

 

 

「──でもな、そんなお前にも、俺はある程度は話してもいい相手だって思ってんだよ、おかしいとは思ってるけど」

 

 

「だから俺は妥協してぇ、俺はお前を悪い大人って以上に踏み込みたくない、分かって欲しいんだ……頼めるか?」

 

 

──それが結論、黒服に対してどうしても敵対心を抱けなかったスバルの妥協点。

このラインを踏み越えるなら、スバルは黒服の敵として立ちはだかる。それはスバルにとっても黒服にとっても望むことでは無い、所謂不都合そのもの。

 

 

「……」

 

 

「分かりました、お二人の爆弾はこの場で解除致しましょう、その上で貴方の要求を聞かせてもらいます」

 

 

「助かる、それじゃ、本題に入ろうぜ」

 

 

「──二人をこの場で、『俺に返せ』、それ以上は求めねぇ」

 

 

「ならば対価として、『貴方」を私は知りたい、暁のホルスを超えうる唯一の存在、『ナツキ・スバル』を解き明かしたいのです」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「「…………」」

 

 

──互いの沈黙が、共にせめぎ合って、静寂の火花を車内へと散らす。

だが、この沈黙さえ今の心の底から熱が溢れ出るスバルの敵では無い。

その為にカイザーを煽った、この銃に囲まれた現状を作り上げたのは、他ならぬスバルだ。それがどのような意味を持つのか。

 

──黒服は、その場の状況によって価値判断を変えれる男。

 

ならばこの勝負、この沈黙を破るのは──、

 

 

「……」

 

 

「クックック、ククッ、クックックック……──良いのですか?ナツキ・スバル、子供である貴方がこれから背負うのは、子供という枠には収まりきらない『英雄幻想』です」

 

 

「貴方は、このキヴォトスで『主役』という記号を背負うことになる、しかも、キヴォトスではその記号の効力は失われて久しい」

 

 

「シッテムの箱の権能を十全に扱えぬまま、それを背負えると?」

 

 

「──背負える」

 

 

迷わずそう返す。

 

何一つ言い淀まない、何一つ濁りは無い。

 

その程度の言葉で、スバルが託された全てが揺らぐものか。

 

英雄幻想?馬鹿言うなよ、そんなもん背負ってるつもりはねぇ。

 

──背負ってんのは、全員の『未来』だ。お前らが奪おうとしてたモン、返してもらうだけ。

 

 

「あぁ……」

 

 

「──お前らは、大人は、肩書き一つと目の前の命一つ、比べられるんだろうな」

 

 

天秤にかける事自体間違っているものを、間違えているかも分からず、自信満々に余裕綽々に秤にかける。そんなんだから、そうであるから、

 

 

「だから俺はお前と分かり合えない、お前は一生俺が何でアビドスを救おうとしてるのかも分からない、お前が理解したいって求めてるもん何一つ叶わねぇよ」

 

 

「だからな、黒服」

 

 

()()()()()

 

 

「でも、俺から目を離したらどうなるか、保証はしないからな」

 

 

「俺とお前は、子供と大人なんだから」

 

 

──子供なんてものは、目を離した隙に大人の想像をつかない事をしでかすのだから。

 

黒服は、ナツキ・スバルを見続けるしかない。その一挙手一投足を見逃して、ナツキ・スバルを理解出来なくなる訳にはいかない。

 

 

「──そうだろ?」

 

 

「……」

 

 

「……クックック、ああ、本当に貴方は不可解で、行動原理の一つすら私には理解出来ません」

 

 

「ですが──」

 

 

「私は、貴方の事を見ています、これから先もゲマトリアは、──ナツキ・スバルを理解する為に」

 

 

「お二人は解放しましょう、貴方がゲマトリアを打ち倒すべき敵だと認めない事を代価に、契約を結ばさせてもらいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビドス高校を、積み重なった家屋の砂越しに眺めるカイザー兵の機械の体に、淡くオレンジ色の夕日が反射する。

視界は不良、兵士それぞれのコンディションは最悪、小鳥遊ホシノを相手取るには不十分過ぎる練度。

 

──それでも、彼らに『後』は無かった。

 

一介の企業の社員であったはずが、流されるままに彼らはテロ組織の一員へと変貌した、涙腺が熱くなる思いだが、それも結局大人である彼らが己の身を企業へと委ねた結果だ。

 

それを誰かが救う事も、誰かが代わりに責任を負ってくれることも無い、それが、大人という存在であるから。

 

 

「……本当に射殺するのか?」

 

「それが指示だからな」

 

 

密かに黒塗りの外車を取り囲んでいた数十名のカイザー兵、その内の一人がため息を吐きながら、銃に張り付く砂を払う。

そこに含まれる感情が嘆きであるのか、ただ単に心からこぼれた痛みであるのかは、判断するにも夕日の温もりに溶かされる。

 

思考が曇る夕焼けは、この状況においてじわじわと判断力を奪っていた。

 

 

「…これで晴れて人殺しか、色々手を汚してきたが…──流石に、抵抗がある」

 

「この場にいる全員がそうだ、あの計画が頓挫した時点で、俺らはもう詰んでんだよ」

 

「「……」」

 

 

──ああ、人生つまんね。

 

そんな、選択に踊らせられ続けてきた大人のボヤきを、

 

 

「ん?」

 

 

爆発音と共に、視界を埋める煙が両断する。

判断力が落ちていた事も災いしたのだろう、射撃姿勢を整える前に事態は進む。

 

 

「──ぁ」

 

「おぐッ!?」

 

 

桃色の、閃光。

 

ボヤき、嘆き。自分の人生を自分で歩むことを止めた者たちに。

 

──どうして、今を生きる子供を押し留めることが出来るのか。

 

 

「馬鹿な」

 

 

「──邪魔」

 

 

「そんな、どうやってッ!?」

 

 

有り得ない、この開けた砂漠の中、警戒網を乗り越えてここまで接近されてることに気づかないなんて……、

有り得ない、そう口にしようとする。有り得ない、まるで何の障壁でも無い様に、人質は、そもそも何故周囲の舞台は……、

──そんな一方的な他責を胸に、カイザー社員の一人は頭を撃ち抜かれた。

 

 

「ん、流石」

 

「…5秒後、煙幕が晴れるからね」

 

「スバルは今この子を手放してる、無防備なんて状態じゃないから、即断即決でいくよ、シロコちゃん」

 

 

今現在、ホシノの手元にはスバルの切り札、そして相棒と呼んでいた古い時代の携帯が握られていた。

 

スバルの命とも言っていい、連邦生徒会長の遺産。それを何気なく渡された時は正気を疑う言葉が喉から出かけ、シロコは勿論スバルの胸倉を掴み、結局は言っても聞かないスバルに押し切られる。

 

──今、ホシノが把握出来る視点が増えていた。上空からの視点、シロコのドローンを掌握した連邦生徒会長の遺産は、この場における最適解をホシノの目に映らせ続けていて──、

 

 

「……」

 

 

この力を有しているナツキ・スバルへの警戒心を高めると共に、これを手放した彼の信頼が、砂糖のような甘さになって舌の上で広がる。

 

──裏切るんだ、信じるな、信じなくてよかったって思う瞬間が来るから。

 

甘さに騙されて、一緒に毒を飲まされないように、命を託されても、そこに打算があると信じて、最後まで信じないでいなきゃ。

 

 

「──アレは、全部私が相手するよ」

 

 

「……本気?…みたいだね」

 

 

「この子が居るなら簡単簡単、二分で戻ってくるから、シロコちゃんはスバルと二人を抱えて校舎に戻ってて」

 

 

「分かった、ホシノ先輩なら本当に楽勝だろうし、先に行く」

 

 

──でも。

 

 

「さ〜て」

 

 

「宜しくね、遺産ちゃん」

 

 

全てを取り戻せるのなら、私は喜んで生贄になるよ。

騙されるのは私だけでいい、騙されて、皆が戻ってくるのなら。

──毒を食らわば皿まで、全部さらけ出せ、ナツキ・スバル、その上でお前には騙されずに、騙されてやる。

 

 

ホシノの視力だと目の前、数km先の砂漠に広がる軍隊、空に映るヘリは10機を超え、陸上にはクルセイダーとゴリアテ数機が迫ってきていて、壁を作るように兵士が歩みを進めていた。

 

 

「包囲網を切り崩してまで、彼を殺したいか」

 

 

──それらは、小鳥遊ホシノの立つ舞台として、余りにも不十分で。

 

 

「かかってきなよ──」

 

 

ホシノがこの舞台に立つには、役不足であると思い知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背中にずっしりと、人二人分の重みを感じる。

筋トレしてて良かった、そう思える瞬間が来てくれた事に筋細胞を喜ばせ、スバルは汗だくになりなから二人を背負い歩く。

 

これが人の命の重み、簡単に奪おうとして、重みを忘れてる奴らが味わう事の出来ない重さ。

こんちくしょう、と震える足を前に進める。幾ら死に戻りをしても肉体はそのままなのが悔やまれた、精神と時の部屋の様にいけば良かったのにと、くだらない愚痴をたらす。

 

──スバルの思惑通りに事は進んでいるのだから、足をすすめろと、馬鹿な考えを過ぎらせた自分を叱咤して、

 

 

「──」

 

 

色々あれから黒服に質問されたけど、のらりくらりと躱すスバルの姿を見て、黒服はこれ以上の利益を見込めないと話を止めた。

 

 

『まぁこれは約束通り教えとく、手の内その一』

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『手の内その二』

 

 

『ホシノが暴走して世界が滅ぶってのが嫌なら、この場はこれ以上アビドスに干渉すんな、俺はホシノが()()()()()()()()()()からよ』

 

 

──この発言によって、今スバルは生きて二人を背負っている。全て、全て予定通り。

 

女子高生の生脚二人分を堪能するのにドギマギしながら、あっさりと辿り着いたこの場は、物思いにふけるには丁度いい。

にっちもさっちも上手くいかなかった、まだ安心感を口にするには未来が遠い、胸の内に固まったものはまだストンと落ちてこない。

 

 

──固まっているのは、数えるのすら諦めた死に戻りの数々。

 

 

まだ終点じゃない、まだスタート地点に立つ為だけに、ナツキ・スバルはここまで擦り切れていた。スバルは明日に手を届かせる為だけに、無数の過去を積み重ねる。

 

 

「んっしょ」

 

 

ずり落ちる二人を、姿勢を整えてもう一度持ち上げる。

流れるような黒髪には、一週間以上も監禁されていただけのバサバサ具合があって、強く握って離れない彼女らの手を引き剥がせばもっと楽に運べたであろうが、そんなことをすれば未来永劫スバルはスバル自身を許さない。

 

彼女らの顔を見るのは何度目か、四度、五度……いや、十回は超えているだろうか。

 

 

怯えているような表情をして眠っているセリカは、きっと悪夢を見ているに違いない。暗闇がトラウマらしいのに、ずっと狭い場所に閉じ込められて。

 

涙の後を眼鏡の下に残すアヤネは、きっと希望を胸に抱いてたんだろう、ホシノなら、シロコなら、きっと助けに来てくれると信じて、その強い決意が寝顔に浮かぶまで。

 

 

愛おしい後輩、何よりも大切な友人、親友。

──スバルにとっては、唯の他人。

 

 

「…まだ死んでねぇって事は、ホシノがやってくれたんだな」

 

 

黒服がずっと不思議がっている事がある、何故ここまで、何故そこまでしてアビドスに手を貸すのか。

唯の他人だ、スバルが、スバルの人生をすり潰してまで差し伸べる理屈も何も無い。

 

その答えは、やりたいからやってるだけ。やりたいようにやってたら、それだけ責任と背負うものが出来て、

 

約束も、託されただけのこと。

 

──理解不能と、黒服ならまた笑うだろう。

 

 

「もう少しだからな、二人とも」

 

 

一歩一歩、スバルは砂混じりの道を歩む。

 

──爆弾で吹き飛んで、身体が軽くなった二人を思い出しながら。

 

──一緒に塵になるまで撃ち殺された二人を思い出しながら。

 

──命が『無くなった』軽い二人を持ち帰って、ホシノに撃たれた事を思い出しながら。

 

 

静かな道路を、砂を蹴り飛ばして歩く。

 

 

頭の中に響く声を、振り切って。

 

 

「……」

 

 

振り、切って──、

 

 

「……シロコ…」

 

 

『ナツキ・スバルッ!!』『スバル!!』『騙されない!!私はぁぁッ!!』『スバル!スバルッ!!』『ナツキ・スバル』『クックック、ナツキ・スバル、契約を』『終わりだ、無様だなナツキ・スバル』『スバル、まだ戦えるよ』『スバル』『それで信じろって?大概にしてよ…ねぇ、ナツキ・スバル』『憐れだなぁ、実に憐れだとも、ナツキ・スバル』

『所詮、ナツキ・スバルは子供か』『スバル、立って』『ナツキ・スバルは何も出来ん、何も救えん、小鳥遊ホシノ、何故そいつの手を取った?』『ナツキ・スバル──!!』『スバル、信じてる』

 

 

『ナツキ・スバル』『ナツキ・スバル!』『ッ!ナツキ・スバルゥ!!』『巫山戯るなよナツキ・スバル』『威勢だけか、ナツキ・スバル』

 

『『『『ナツキ・スバル』』』』

 

 

 

「スバル」

 

 

「───」

 

 

「二人を取り戻してくれたんだね」

 

 

頭の中の声が消える。

 

 

「行こう、スバル…ホシノ先輩がまだ一人で戦ってる、今なら邪魔されずに校舎へ帰れるよ」

 

 

「…スバル──?」

 

 

「ん、あ、ああ!OK!マジでナイスだ二人とも、シロコは先に二人の事背負って戻っといてくれるか?」

 

 

「……先、に…──スバル」

 

 

「だいじょびだいじょび、ちょちょいっと行くとこ行って、やる事やるだけだからさ」

 

 

そろそろ重みで足が子鹿のように震えだしてしまったので、シロコに二人を託しつつ汗で乱れた髪を再度オールバックにする。

我ながら酷い、酷すぎる体力の無さ。痛みは全く感じなくなっても、疲れは平等に身体の動きを止めるのだ。

 

 

「私も行く」

 

 

「それは駄目、誰が二人を背負って帰んだよ」

 

 

「ん……、もしかしてスバル、この状況狙ってた?」

 

 

「偶然さ」

 

 

「怒らないから答えて、それとも命を懸けてる相手に少しもスバルの事、教えてくれないの?」

 

 

激烈に痛烈だ、肝の底まで冷えてしまいそうになった、そんなことを言われてもしまえばスバルに言い訳の余地なんて無くなってしまって、せっかく直した前髪がひょろひょろと落ち込んでしまう。

 

 

「………狙ってました…」

 

 

「ん、分かった、叱るのは帰ってからだね」

 

 

「うへぇ……うわ、ホシノの口癖移ってる」

 

 

「……──行って、スバル。スバルが行かないといけないなら、私達にも必要な事だろうし、私は約束信じてるから」

 

 

ああ、本当に痛烈だ。

 

──俺の事を心の底から信じてて、俺もお前の事を心の底から信じてるのに。

 

どうしてスバルは、彼女に悲しい思いをさせなきゃいけないのだろうか。

灼熱にも等しい想いが胸を伝う、一方的な想いが、一方的な約束が、募りに募って零れ落ちて、

 

 

「行ってくる!絶対帰るから!待っててくれ!!」

 

 

「ん」

 

 

「ッしゃおらぁ!!ぶちかますぜ俺!二人の事よろしくなシロコ!」

 

 

元気とやる気とやさしさと、色々貰って走り出す。

走る為に欲しかったものが、常にスバルの手の中にある。

 

道先はバラバラに、行く先にスバルの背中もシロコの背中も、互いに見えるわけじゃないけれど、互いが互いに見送って、

 

 

「待ってろ」

 

 

「──朝霧スオウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

「……」

 

 

「ホシノ先輩」

 

 

二人を背負って帰る帰り道。

油の匂いと硝煙の匂いを強く感じ取ったシロコは、少し寄り道をして、恐らくはホシノが暴れているであろう戦場に姿を見せに行った。

 

撤退だ、その合図を出しに行ったつもりなのだが…、

 

 

「……ああ、シロコちゃんか」

 

 

「…!!アヤネちゃん!それにセリカちゃんまで!良かった、無事に取り戻してくれたんだね…」

 

 

「う、うん、スバルは二人の事よろしくって、どこかに行っちゃったけど」

 

 

「そっか…でも、あの子ならきっと大丈夫だよ、早く帰ろっか、シロコちゃん」

 

 

「…ホシノ先輩…──大丈夫?」

 

 

「うん?」

 

 

何度も何度も、心配そうな顔を向けて、心配の言葉をかける理由。

 

 

しつこく、凄まじい油の匂い。

擦り切れた鉄の、鉄粉の匂い。

空気と肺を満たす硝煙の匂い。

 

鉄の残骸だらけの砂漠。

鉄の瓦礫の山の上、本来の小鳥遊ホシノが牙をむいた結果が、砂漠にその傷跡を残していた。

 

 

ホシノが強い事は分かっていたつもりだった、でも、そんな杞憂も『つもり』も、全てが打ち崩される暴虐の跡を見せつけられる。

獣としての本能が、シロコにホシノへ警戒心を持たせているのだ、それほどまでに、小鳥遊ホシノが立つこの場は、

 

──死屍累々の、地獄絵図だ。

 

 

「──私なら大丈夫だよ、それよりスバルを、まだ生きて帰れるかは分からないのに、この子を置いていっちゃって…」

 

 

「ス、スバルなら大丈夫だと思う、帰るって約束してるから」

 

 

「……──そっか、それじゃ、帰ろう」

 

 

 

差を実感する、差、実力差、圧倒的な隔たり。

確かにホシノが最も活躍できる条件に加え、今までにない支援もあったとはいえ、この光景を見せられて差を実感しないわけにはいかない。

 

これがシロコが超えようとしている小鳥遊ホシノという存在。

汗一つ、傷一つついていないその姿に、大切な相手であるのにも関わらず、悪寒が背筋を伝う。

 

 

 

「セリカちゃんは私が、アヤネちゃんはシロコちゃんが背負って」

 

 

「ん、了解」

 

 

「帰ったら防衛線!校舎を守りつつ、カイザーを撤退させるまでが目標だからね~!」

 

 

 

シロコにそう笑顔で語りかけながら、ホシノが帰路につく。

 

──速い。

 

大規模な戦闘を一人で終えた筈なのに消耗が見えない、体力を温存し全力を出せるはずのシロコがそのスピードにおいてかれる。

 

差が縮まるどころか離れていくのを見て、心のどこかにわだかまりと焦りを感じながら全速力で走っていると…。

 

 

──戦火の音が、高校側から聞こえてきていた。

 

 

 

「……?誰か、いや、結構な人数が…戦ってる?」

 

 

「何か聞こえたの?シロコちゃん」

 

 

「うん、凄い人数がアビドス高校の周りに…それとこれは……──迫撃砲」

 

 

「…急ぐよ、シロコちゃん」

 

 

「ん」

 

 

ホシノが更に速度のギアを上げる、戻った頃には校舎が更地、だなんて冗談を受け入れるわけにはいかない。

 

初めて息が切れるほど走り、焦りと共に高校の前へとたどり着くと…──。

 

 

「あーーもう!!なんで委員長はあんなのに協力しろって…──ぜーったい!!ぜったい許しませんからねナツキ・スバルッ!!委員長が復帰した暁には!!貴方の首にリードを付けてヒナ委員長のペットになってもらいます──!!!」

 

 

横乳をはみ出させた、凄まじい恰好をした人物が大勢の生徒の指揮を執っていた。見覚えのある腕章は、

 

──()()()()のもの。

 

 

地団太を踏んで切れるその姿に理性を感じるわけもなく、言葉をかけるか迷っていた時に…知らない生徒から、声を掛けられる。

 

 

「も、もしかしてホシノさんですか…?」

 

 

「…そうだけど、君は」

 

 

「えっと、個人的にナツキさんに恩があるというか…、ナツキさんがお電話して下さったので、『モモフレンズ同好会』に声をかけて助けに来たんです…!」

 

 

「──私の命の恩人、ナツキさん」

 

 

「またあの人が、私みたいに助けを求めてる人を助けようとしてるなら」

 

 

「少しだけでも…、お力添えをさせてください、あ、後スバルさんからメッセージです」

 

 

ホシノの目の前に掲げられたスマホには、スバルからの『ごめんな』と、短い一文が乗せられていた。

 

 

「────」

 

 

「という訳で!!」

 

 

「『ペロロlove♡№1』さーん!『ペロロlove♡№1』さーーん!!よろしくお願いしまーーす!!!」

 

 

なんとも歯がゆい、へんてこりんな名前が叫ばれると、戦線を押し上げていたカイザー兵が砲撃によって一掃され、戦況が好況に傾いた。

何が起きているのか分からない、この混沌とした場に、更に参入してきた人物がいる。

 

 

 

「ちょ、ちょっと、あの、えっと、あぅぅ…会員名で呼ばないで下さい…」

 

 

「でもトリニティが協力してくれたのも『ペロロlove♡№1』さんのお陰ですし」

 

 

「あ、あはは…私も別に、力を貸してくれないか声をかけただけなので…」

 

 

「…彼には、この後色々聞く必要性がありそうだねぇ~」

 

 

「ふぅ……ん、スバル話してない事多すぎ、ちょっと締めなきゃだめかも」

 

 

あの男に対する警戒心がさらに一段階上がったところで、日が沈みかけていながらもホシノの視力は、その砲弾を発射している迫撃砲に目が付いた。

 

──あれはトリニティの代物だ。アレを動かすには最低、ティーパーティーと呼ばれる、トリニティ学園の最高権威者の許可が必要。

 

 

「…少しいいかな、君が迫撃砲を用意してくれたの?」

 

 

「あはは…私と言いますか、えっと、偉い人だとしか…」

 

 

「──何の理由があって、トリニティの生徒が助けてくれたのかな」

 

 

「あ、え、あぅぅ…そ、その…──お、お友達が助けてほしいって…」

 

 

「それが理由?おじさんちょっと納得できないかも、ねぇ、ナツキ・スバルとどんな話をしたのか位、教えてくれないかな」

 

 

ホシノから発せられる圧。普通の人間ならば、泣いてしまうほどのものだが、シロコが諫めようと前に踏み出すより前に、キモイデザインをしたカバのヘルメットを被っている少女が、ホシノに言葉を切り返す。

 

 

「理由は、それだけです」

 

 

「──同じ理由で、ナツキさんは見ず知らずの私の友達を、命懸けで助けてくれたので」

 

 

「私もナツキさんと同じことをしようかなって…あはは、(本当は配信見て慌ててやってきただけで、こんな凄い事になるとは思ってなかったけど…)

 

 

「……──」

 

 

 

 

──そう言われてしまって、起きた懐疑心の毒もぬけちゃって。

 

 

 

「そっか」

 

 

 

少し不貞腐れたように、ホシノは返事を返したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──」

 

 

ドローンを通じて、カイザー元理事は戦場を俯瞰していた。

砂嵐巻き起こる砂漠では、幾ら高機能なドローンでも長時間の航空は不可、バッテリーもそこそこに、ナツキスバルの亡骸を期待していた。

 

期待していた、筈。

 

 

「──何が起きている」

 

 

まず、あの二人に仕掛けた爆弾はどうなった。なぜ起爆していない、そしてなぜ包囲をしていた兵からの連絡がこない。

 

 

「何が、起きている」

 

 

数人がやられようとも、圧倒的物量でナツキ・スバルを殺す、360度からの侵攻を守り切るには、同じく籠城できる場所で360度の防衛網を作らなければ、どう足掻いても隙は出る。

 

──相手は二人だぞ…!

 

 

「何が起きている…!」

 

 

まだ、まだそこまではよかった。どっちにしろ大規模爆撃と、申請中の遺産使用許可が下りればいい、その為に小鳥遊ホシノを足止めしながら校舎を攻め、その陥落と共にキヴォトスと敵対し、遺産の使用許可を取る手筈だった。

 

 

「──何がッ!起きているッ!!」

 

 

「何故!!何故、何故!!」

 

 

「何故トリニティとゲヘナが!アビドス高校を守っているのだ!?」

 

 

 

カイザー元理事の目に映るのは、ゲヘナの風紀委員による陣地展開と、トリニティの自走砲掃射によって殲滅されていく自軍の姿。

 

 

「奴らが来ていることに気づかなかったのか!?」

 

 

「も、申し訳ありません、巡回警護に割ける人数が不足していて…」

 

 

「ちッ、分かったそれは良い、では何故奴らが動き出した、誰がどうやって干渉してきた…!!」

 

 

「分かりません…」

 

 

「無能がァッ!フーッ、フーッ、フーッ…!」

 

 

クソ、落ち着け。風紀委員はまだわかる、奴らの長がナツキ・スバルに手を貸していたのは周知の事実。だが分からぬのはトリニティだ、どこにそんな伝手があった…!

 

 

「早く本社に使用許可をとれッ!最早後戻りは出来ん!!奴らごと吹き飛ばして……──」

 

 

部下の胸ぐらをつかんで、そう叫んだ時。

 

──オフィスの扉が蹴り飛ばされ、煙幕が部屋の中を包み込んだ。大量の足音と共に、カイザー元理事の身体が押さえつけられる。

 

 

「ぐあッ、な、なんだ、誰だ!?」

 

 

「──カイザー元理事、あぁいえ、今はテロ組織の長でしたか」

 

 

「───」

 

 

「尾刃……カンナ…」

 

 

元理事のメインカメラが大きく開く、数秒経って、ぼーっとして、自身の状態を漸く理解してから…怒りをあらわに、身体を小刻みに震えさせて、

 

 

 

「組織的犯罪集団、これから貴方をその代表として逮捕します」

 

 

「きさ、きさま、貴様ぁぁぁぁ!!!どうなるのか分かっているのか!!今更!今更カイザーを裏切ると!?」

 

 

ナツキ・スバル。ナツキ・スバルだ、こいつはナツキ・スバルが仕向けてきた手先!どこまで理解していたのだ!?理解できぬ、奴がキヴォトスに現れてたったの数日だぞ!?

 

あり得るわけがない、どうやって我々とヴァルキューレ警察のつながりに──。

 

 

「駄犬めッ!貴様の行く先はもう存在せんぞ…!!」

 

 

「いいえ、道は自分で作るものです、自分の選択で、自分の未来を創る」

 

 

「──丁度隣で支えてくれる方が、今アビドスで戦っていますので」

 

 

「が…ぁ……!ナツキ、ナツキスバル、ナツキ・スバルゥゥ!!また奴か!!奴の仕業か!!!!」

 

 

「良い悲鳴ですね、元理事」

 

 

「──連行しろ」

 

 

「了解」

 

 

「離せ!あああ!な、つき…」

 

 

「ナツキ・スバル────!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死に戻り。

死に戻って、なにがある。

 

死に戻り、それが最大限効力を発揮するのは何処か。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

 

それは情報戦だ。

ありとあらゆる情報を、前もって知っておける事。それがどれほどの効力があるのかは語るまでもない。

じゃんけんにおいて、相手が出す手が事前にわかっておいて負けるものが存在しないように、ポーカーで配られる手札が全てわかっていれば敗北があり得ないように。

 

 

──神様から平等に与えられている『時間』を、スバルは一人不平等に享受する。それによって、様々な仕掛けを各所に施してきた。

 

 

数十分経って、アビドスに何にも無いってなら、予定通りスバルのメッセージが届いているはず。

そして今頃理事も手錠を掛けられて、情けない悲鳴を上げている事だろう。送ったラブレターには「引きこもってばっかりだと、身体悪くするぞ♡」と、ちゃんと警告しておいたのに。

もし、引きこもったまま捕まっているのなら、スバルの脇腹抱腹絶倒、──前線に少しでも出ていたら、まだ長く娑婆の空気を吸えただろうに。

 

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 

走っている内に、空気を肺が求めて軽い吐息が混じる、上着のジャージを脱ぎ捨てて、腕に掛けながら砂を踏みしめる。

脱水症状が近い、直射日光で頭が痛い、キヴォトス人なら特別苦にも感じないであろう暑さが身体を蝕む。

 

そうしてまで何を求めているのか、ナツキ・スバルは死に戻りを持っているのだろう?こんな徒労を挟まずとも、結果には辿り着けるはず。

 

何を求めて歩いているのか、何を願って必死に手を動かしているのか──、

 

 

「じ、じかん……通り、か…?」

 

 

それは問い。自己確認ではなく、相手が居て成立する問いかけ。

スバルは今、アビドス郊内のラーメン店にまで走ってきていた、片道十分、フルマラソンで爆走した。

 

 

それにため息をついて答えるのは──、

 

 

「…27秒の遅刻だ」

 

 

「俺の体力で無茶言わせるなよ…、まぁ、兎に角初めましてだな、スオウ!」

 

 

──それは、朝霧スオウという存在に会う為だった。

 

 

()()()()()()()()の管理監督官!朝霧スオウ!」

 

 

「……」

 

 

「三下は三下らしく、三下の流儀をもってスオウ、お前に土下座しながら頼ませてもらうぜ」

 

 

「──頼む、力を貸してくれ」

 

 





この作品では、ファウストの誕生はまた別のシーンになります。
(ちなみに連邦生徒会長が早めに失踪した影響が一番デカいのがトリニティ、次にミレニアム、そして特に変わってないゲヘナ)
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