Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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今回短め〜。


『それはAIという名の』

 

掠れる視界に自転車が映る。搭乗者はシロコ、付添人は自転車の携帯ホルダーに放り込まれたアロナ。

聞きなれた機械音と、爆速の自転車がすぐそこまで来ていた。にしても、広いアビドスでスバルをピンポイントに見付けれるのは、アロナの力だろうに、スバル以外にはアロナの声は聞こえず、文字だけの伝聞で良くたどり着けたと思う。

 

劇的な出会いではない、ただ単に間抜け故遭難しかけたスバルを救援しに来てくれただけ。でもその悲壮感あふれる叫び声を聞いて──不覚にも、嬉しいとスバルは思ってしまった。

 

我ながらとんだ変態で、変節漢だ。

今考えると、日の落ち始めに別れた後、今は完全に日没。

夕焼け小焼けが呼んでいると思っていたら、考え事をしてふらふらとぶっ倒れた結果、既に夜中になっているじゃないか。

 

スバルの名前を呼んだシロコがどんな気持ちで自分を探していたのか、想像ができないわけじゃないのに、それでも心からの微笑を浮かべてしまうのは仕方がない。

 

 

「スバル!っ、これ、飲んで」

 

 

口の中に飲み口を差し込まれて、そこから甘く冷たい液体が流れ込んでくる。

身体に力が入らないので、シロコが抱き寄せて注いでくれる、彼女の手で飲ませてくれると経口飲料水の甘さに優しさがブレンドされ、更においしく感じた。

 

脱水に加え熱中症の人間の容態は早々回復しないけれど、最高級の美少女付きだと直ぐに飛び起きれる自信はある、あるだけ。

 

 

「──どこ、行ってたの」

 

 

「帰るって約束したのに……私が来なかったら、スバル死んでた」

 

 

「……ご…めん、シロコ、アビドスは今…どうなってる?何も起きてねぇよな…?」

 

 

「──」

 

 

暗い視界は脱水のせいじゃなかったか、月が上りかけている街並みに、街灯の明かりは無い。電気系統のラインは壊滅的なんだろう。

 

でもはっきりとわかるのは……今、シロコが物凄い形相でスバルを見つめている事、理由は不明、アロナに照らされて更によく顔が見えるようになって、可愛い顔が歪んでいた。

 

 

「……シロ──」

 

 

「スバルは、自分の命よりもアビドスが大事?」

 

 

「……──」

 

 

「私もアビドスの事はすごく大切だけど、アビドスの皆が死ぬくらいなら手放す」

 

 

「すまねぇ、言い方が悪かった…俺は、ホシノとシロコの事が気になって、ほら、カイザーとバチバチに戦ってたし!」

 

 

「どっちでも同じだよ、私は私の知らないところで、スバルが命より大切に思ってくれてても、死んだら誰もスバルの代わりにはなれない」

 

 

「分かってると思う、心配してくれたのも嬉しい、でも今は違うよね?」

 

 

「……はい」

 

 

「ん」

 

 

普通に怒られて普通にしょげて、普通に申し訳なさでいっぱいになる。さっきまでの喜びだとか、今は何考えてたんだよとしか言えない。

そして……一番抗議があるのはアロナだろう、先程からガラケーのバイブレーションが止まっておらず、やはり作戦とはいえ無茶したなと、自己反省を挟む。

 

 

「アロナ──」

 

 

「……」

 

 

携帯ホルダーから彼女を取り出して、手の中に収め語り掛ける。

 

 

「…見つけに来てくれてありがとう、頭の中、ずっとお前の事考えてたぜ」

 

 

《……》

 

 

「…その、アロナ……」

 

 

《……》

 

 

ああ、こりゃダメだ。

暫くは口を聞いてくれない、だけどまぁ、アロナが助けに来てくれたって事は……アビドスは守りきれたのか。

多分今頃、アコがブチ切れてて、相変わらず名前を聞く前に何処かにすっ飛んでいくあの子ともすれ違ってて……。

 

そうか、ホシノが前線に加われば基本負けは無い。前回は理事をそのままにしていたせいで、雷帝の遺産を使われたが……──今回は対策済み、なんだ、思ったより焦らなくても良かったのか。

 

 

「──」

 

 

《スバル様》

 

 

()()、ご自身の命を粗末に扱いましたね、そして今、何を考えていたか話せますか 》

 

 

「…………か、顔に…出てた?」

 

 

「はい」

 

 

「あ〜…」

 

 

《では、私はスバル様専用サポートAIとして、追加した項目の『健康管理』を執行させて貰いますね》

 

 

「え?──うべべべべべ!!?!?!?」

 

 

嘘、こんな強引な子だったかしら──!?

育ての親の顔が見てみたいですの!!全く!教育方針は一体どうなって──。

 

 

「ぉぼッ…」

 

 

 

スバルの中のマダムが暴れ出すより前に、本当にいつの間に追加されたかも分からないスタンガンの機能で気絶させられ……。

 

 

──あれ……これ……後ろから──?

 

 

疲れと脱水のせいで、弱い刺激に大袈裟に反応しながらも……落ちていく身体を、全身で受け止めるのはシロコ。

といっても、気絶させようとしたのもシロコなのだが。

そりゃそうか、幾ら魔改造ガラケーでも、アロナは俺を傷付ける事はしないし……。

 

 

《おやすみなさいませ、スバル様》

 

 

──そうだな。

 

一日が終わることなんて、無かったから、寝るのも何百日振りだろうか。

健康管理か、はは、何回前の事をずっと記録してんだよ……覚えておけるのは回数だけじゃなかったか?ほんと、甲斐甲斐性ありすぎるってば。

 

でもこれは流石にやりすぎじゃない??──そんなツッコミと共に、シロコの胸の中で瞼を閉じた。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

「これで良かったの?」

 

 

《はい、ナツキ・スバル様は縄で縛ろうが、どれだけ言葉で諭そうが、監視をつけたとしても抜け出します、こうでもしないと、『次』に動き出しますので》

 

 

「ん、私より貴方の方がスバルの事知ってるから、従うよ」

 

 

《ありがとうございました、砂狼シロコ》

 

 

「……」

 

 

スバルを背負い、気絶したスバルの手からガラケーを取って、携帯ホルダーに。スバルのバランスを崩さないように自転車に乗り、サドルが深く沈み込む。

 

垂れる腕を自身の首に回して、彼の寝顔…いや、緩みきった気絶顔を人差し指でツン、と突いてから……──ガラケーへと話しかけた。

 

 

「……貴方は、スバルの相棒って聞いた」

 

 

「…聞きたい事が、ある」

 

 

《何でしょうか》

 

 

「スバルはどうして、ここまでアビドスに手を貸してくれるの?」

 

 

「………私は、ホシノ先輩に救われて、今がある、だからアビドスの皆を守りたいし、ホシノ先輩の無茶は意地でも止める」

 

 

「でもスバルはそうじゃない、命を懸け続ける理由は…無い、スバルが無茶をし続けて、これ以上ボロボロになるのなら」

 

 

「止めて欲しい──」

 

 

《─────》

 

 

《……──……──……………》

 

 

《………………》

 

 

《……》

 

 

返答は、暫く返ってこなかった。

 

数分、数十分、シロコが自転車を漕ぎ始めても目の前のガラケーには、新しい電光の文字は浮かばない。

相棒の正体が、連邦生徒会長の残したコンピュータである事は、既に出回っている。機械であるのならば、返答はすぐ返って来るはずだ。

 

凄まじい演算能力を持つ彼女ならば、そう、返事を返すのなんて一瞬で済む。瞬間で終わる事を、何時までも行わない理由があるのだろうか。

 

 

 

──丁度、帰り道に差し掛かった頃に。

 

 

ゆっくりと……電光が、浮かび上がる。

 

 

 

《──小鳥遊ホシノも、同じ質問をしました》

 

 

「……!そうなの?」

 

 

《はい》

 

 

《ですので、同じ返答をさせて頂きます》

 

 

そうだ、ホシノは彼女を連れて戦闘を行っていた。それが終われば質疑応答出来る時間もあるだろう、頑固者のホシノの事だろうから、スバルの相棒に探りを入れるはず。

スバルがどんな人間なのか、信頼出来るのかどうか。

 

同じ返答なら、彼女なりのスバルの人物像を──。

 

 

 

《貴方達が『それ』をスバル様に問わないで下さい》

 

 

《貴方達がスバル様の歩みを止めることの無い様に》

 

 

《今の問いをスバル様に直接お聞きになる場合は》

 

 

《──私は、それを許しません》

 

 

《以上です》

 

 

 

「──」

 

 

 

唖然と、シロコはその電光を見つめるしか無かった。

 

気が付けば、アビドスの校門の前まで来ていて。

 

──同じ返答を受けた、屋上の貯水タンクで黄昏れるホシノに、目が止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『借りは全部連邦生徒会に!!そしてナツキ・スバルに請求しますッ!!!』

 

 

『はぁ、はぁっ、はぁ……ええ、帰ります、貴方のお陰で部隊に殆ど消耗は無かったので』

 

 

『一目見ていく?──冗談じゃッ!!ありませんッ!!!!!!!』

 

 

『あんの委員長を誑かした奴の顔なんて一ミリも、いっっちミリも!!見たくもありませんし、会いたくもありませんし、名前すら聞きたくないので!!!』

 

 

『あ、あはは…それでは──私もティーパーティーに連絡をしなければいけないので……え?隠さなくなった…まぁ、はい…隠しても意味が無いですし……あはは…』

 

 

 

「…………」

 

 

 

──これで、一日が終わる。

 

状況は一瞬にして変わった、後輩二人は衰弱しながらも無事に戻ってきたし、PMCは全面戦争にて敗北。

敗北と言うよりは、元理事の逮捕による空中分解と言った方が正しい。後半はほぼ消化試合で、誰も彼も戦闘する気はなかった。

 

アビドスの砂嵐が今晩やってくるので、移送はまた後日になるが……結果として、絶望的な窮地に陥っていたアビドスの現状は半日と数時間で丸ごと変わる事に。

 

ノノミは未だ取り戻す算段はついていないけど、スバルになら、きっと救えると思う。

 

──やはり、ナツキ・スバルは怪物なのかもしれない。

 

そう信じて負けた経験を覆されるほどに、ホシノは今日という一日を『奇跡』を超えた何かだと思っている。

 

黒服が素直に二人を解放したこと、PMC全軍の配置が既にわかっていたこと、連邦生徒会長の遺産が規格外すぎたこと。

裏切られた、見放したと信じていたヴァルキューレ警察がここに来て、カイザーへ反旗を覆し、元理事の逮捕に踏み切ったこと。

 

最後に、アビドスの為にゲヘナとトリニティが手を組んで戦う、という奇跡を超えた奇跡が起きたこと。

 

 

「……」

 

 

それら全てがナツキ・スバルの仕業とは思えない、が、それでも彼の仕業だと思わなければ、この好転に理由なんて付きやしない。

 

 

「ナツキ・スバル」

 

 

「本当に凄いね、君は」

 

 

「……」

 

 

──ずっと頭の中に残っていることがある。

 

ナツキ・スバルを理解する為に、連邦生徒会長の遺産に問いかけて、帰ってきたあの返事が、ずっと。

 

AIが感情を持つことがあるのかは知らない、ミレニアムにはそういったものがあるかもしれないが、それでもAIとしては破綻した返事だった。

 

あれは、あの返事の意味は、

 

 

「怒られちゃったな〜…」

 

 

怒られた、つまり、『怒り』という感情だ。

 

 

「…はは」

 

 

軽く息を吐き出して、その吐いた息と混ざるような声を、喉からぽろりと零す。

 

ホシノは知っている、誰かの為に怒るには、必須の感情があるのだと。よもや、それがまさかAIに搭載されているとは夢にも思わなかった。

 

ホシノは理解している、その感情が何であるのか。たった一言で言い表せて、たった一言じゃ収まりきらないモノであることを。

 

それは、過去にホシノも向けていた感情だ。■■■■のダラしないところや、それでもひたむきに人を信じてしまう所だとか、可愛らしいモノが好きなところだとか、一緒に巫山戯てくれるところだとか、関わりあった全てで構成されるもので、

 

その人の声が、

その人の顔が、

その人の手が、

その人の言葉が、

その人の一挙手一投足が。

その人の想いが、

その人のモノが、

その人の関わりが、

その人の夢が、

その人の全てが。

 

 

等しく■らしいから、怒るのだと。

 

 

 

「……………」

 

 

「君という人間は、■されているんだね」

 

 

「私が、■■■■に向けた想いと同じように」

 

 

 

それは。

 

 

──それはAIという名の。

 

 

 

「───」

 

 

「……それは」

 

 

 

──貴方は、全てを取り戻す。

 

 

 

「きっと、同じ」

 

 

「私と同じ」

 

 

 

──貴方は、失われた全てを取り戻す。

 

 

 

 

「呪いだよ、遺産ちゃん」

 

 

 

 

──貴方は、真実をとりもどせる。

 

 

梔子ユメの、死の真実を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上で黄昏れるホシノの元に、夜の校舎の階段を駆け上がるシロコ。

 

スバルは口に水分を流し込んで、保健室で寝ているアヤネとセリカと一緒に寝かせてきた。

 

お生憎様、使えるベッドが限られているので、デカイベッドをくっ付けて三人共に川の字だが。

 

 

「……」

 

 

「ん」

 

 

「──今の内に言っておくね」

 

 

《……》

 

 

そして、夜の校舎のお供にガラケーを引き連れて。

 

 

「ありがとう、スバルには聞かない、聞く前に忠告してくれて助かった」

 

 

《いえ、領分を越えた発言です、申し訳ありません》

 

 

「ん、貴方の事も分かったから、別にいいよ」

 

 

《……?》

 

 

文字通り、画面にはてなマークを浮かべる彼女。

もしかして、自覚が無かったのだろうか。

 

 

「──スバルの事、好きなんだね」

 

 

《…………──》

 

 

《はい》

 

 

「ん、良かった」

 

 

あぁ、良かった。そう思う。

シロコもそれを知っている、大それた表現は必要無い、シロコが受け取ってきた『大切』なモノだから、別に分かってる。

 

あぁ、良かった。少しだけそう思う。

スバルに、彼を好きな存在が居て、良かった。

 

──スバルが、他人を救うだけ救って、摩耗して消えていく、それより前に彼を引き止める存在が居て。

 

 

《…ですが、否定します、感情というものを発露するには、私は…──》

 

 

「気にしないでいいと思うよ、それに、『それ』は一言で済むし」

 

 

《……》

 

 

それは、シロコがホシノに拾われてから。

 

 

それは、ホシノから、ノノミから、アヤネから、セリカから、沢山受け取ってきた。

 

 

──それは■という名の。

 

 

 

「愛してるって伝えれば?」

 

 

《────!?!?!?》

 

 

「でも、スバルがこれ以上無理し続けるなら、私もスバルに全部託すよ、これから先…スバルが無くなるより前に」

 

 

 

「アビドスの皆んなと同じ様に、今度は私が──」

 

 

 

引き止める人に(好きでいたい)

 

 

 

 






シロコの重すぎる過去と、救われた過去に、スーッとスバルくんが当てはまって……──。
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