Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『ブレイクタイム』

 

「ホシノ先輩」

 

 

シロコが屋上に辿り着き、星を眺めるホシノに声をかける。珍しくポニーテールをほどき、アビドスが危機的な状況になる前の格好をしているホシノを見て、何故か口の中が乾いてしまう。

 

 

「シロコちゃん…スバルは見つかった?」

 

 

「うん」

 

 

「良かった二人が戻ってきたのに、あの子だけ行方不明だなんて…おじさん、悲しい話は嫌だし」

 

 

「──急に取り繕ってどうしたの」

 

 

シロコの冷たい声に対して、ホシノは頬を人差し指で掻く、こうやって自分を隠していることを知られてしまっている、シロコの前でホシノがその皮を被るというのは、隠す気もない鷹の爪。

 

 

「いやぁ?別に、ちょっと気分転換に…」

 

 

「スバルは約束を守ったよ、二人を取り戻してくれたんだから、ホシノ先輩もいい加減スバルを信頼して」

 

 

「…わかってるよ、大丈夫」

 

 

「わかっててその態度をスバルにするなら、ホシノ先輩相手でも殴って言うこと聞かせる」

 

 

「うへぇ~…ほんと、シロコちゃんも言うようになってきたねぇ…」

 

 

「──でも、口だけじゃだめだよ」

 

 

──月の光がシロコの視界を遮った時。

 

その一瞬、一秒未満の時間でホシノの姿がシロコの目の前から消えた。

移動するはずなのだから、音は発生する。気配も、近づいてきたというのなら即反応できる自信はあった。

 

それでも、眼で追う前にシロコが握っていたガラケーが、ホシノの手に移ってしまう。

 

 

「遺産ちゃん」

 

 

「     」

 

 

《………──!》

 

 

 

「お願いね」

 

 

振り返り、獣のような勢いでホシノに手を伸ばすシロコだが、それも盾を床が砕ける勢いで打ち立てられ、素手と鉄のぶつかり合いが発生する。

しかし、シロコの馬力と膂力はホシノが片手で受け止められるものではない、穿つ拳がアスファルトを削り押して進む。

 

小さい体を活かし、盾を囮としてバネ仕掛けの人形のように、ホシノの身体が何の予備動作もなく高く跳躍。弧を描く軌道で飛び上がった慣性を動きに乗せたホシノは、足場もなく空を駆けた。

 

ホシノという支えを失った盾はシロコの手で屋上の床に撃沈。ホシノはそんな横たわった盾の上に再度着地して──、

 

 

「ん…!ホシノ先輩、それ返して」

 

 

「別に返してもいいよ、でもせっかくだし、寝る前に組み手でもしよっか」

 

 

「──奪い返してみなよ、シロコちゃん」

 

 

「──分かった、本気で行く」

 

 

 

月下、狼が吠える。

怪物たちの鍔迫り合いは、いつもの事で、いつもの風景。

 

だけど今回は、何か別の感触を胸に抱えて。

何の感情かもわからない苛立ちを拳に込めて、殴りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──翌朝。

 

 

 

 

 

 

温かい。

 

温かくて、冷たくて、丁度いい。痛みも無くて、疲れも無くて、苦しみも無い状態でいれるのが久しぶり過ぎて忘れていた。

 

安心できるって、こんな感じだったなと。

 

 

 

「……」

 

 

「スバル」

 

 

目の前に、幽霊の様な…生命力を感じさせない、儚い女がスバルの顔を見つめている。

上から覗き込まれていて、これだけ顔が近いという事は、膝枕をされているみたいだ。

 

スバルも、その顔を見つめていると、安心というか。

 

 

 

「なんというか」

 

 

 

「安心する、じゃダメなの?」

 

 

 

「おうよ、当たり前だ、美少女相手にはもっとこう…月並みな表現じゃダメなの」

 

 

 

命が枯れ果てた様な砂漠の上で、クスクスと彼女は笑う。スイレンのような美しい笑顔が花開いているのを見ると、どんな顔でも愛おしいのに、これ以上スバルの心を揺さぶらないで欲しい。

 

なんて、ぜいたくな悩みまで湧き出てきて、

 

 

 

「じゃあ、どんな?」

 

 

 

「──安心する」

 

 

 

「ふふっ、そっか」

 

 

 

「──良かった」

 

 

 

今の気分、ほんとは、静かで綺麗な満月の下で月光浴してる、だとか。夢の中でしか会えない愛らしい女神さまから抱擁されてるとか。

 

まぁ、いっか。

 

 

 

「おやすみ」

 

 

「ん、おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──!」

 

 

おっと、この感触…この手触り、枕だろうか。

 

 

「───!!!」

 

 

うむ、モコモコでふわふわ、気絶してる間になんとも最高級の枕を用意してくれたみたいだ。

おお!なんと言う抱き心地……等身大枕なんて文化がキヴォトスにもあったとは、スバルも一回は高層マンションの最上階で、バカでかい高級ベッドの上で、CMの中でしか見ない抱き枕に抱きついて寝てみたかった。

 

少しゴツゴツしているが、これはこれで……。

 

 

「は・な・し・な・さいッ!!」

 

 

「ぽぐわぁッ!?!?」

 

 

「何なのコイツ!!誰!?」

 

 

「銃!銃どこ!?アヤネちゃん早く起きて!!」

 

 

「ぁう…──はっ!カイザー…!?」

 

 

スバル式コペルニクス的転回をしながら、殴り飛ばされベッドの上からKO負けし、リングアウトするスバル。

見事な鼻先猫パンチだった、これには思わず鼻血を噴射せざるを得ない。

 

それにしても、ああ、初めて声を聞けたな。

 

 

「い、いい……腰の入った、パンチだったぜ……」

 

 

「っ、貴方は一体…!ここは…──アビドスの、保健室?」

 

 

「アヤネちゃん、私の後ろに隠れてて!まずはふん縛って…!」

 

 

ああ、そうだ。

スバルは、彼女達が目を開けているところも、話しているところも、見た事がないから、少し新鮮で。

ケモ耳の君は凄く元気なんだな、眼鏡の貴方はもしかして後衛?なのによく頑張ってたな、と。

 

──感傷を抱い

 

 

「これでも喰らいなさいっ!」

 

 

「ん?ちょタン…──おごふッ!?」

 

 

ケモ耳の嬢ちゃん、いやセリカ嬢ちゃん。

 

ちょーーーっと……元気過ぎるかな──!?

 

 

「ふーッ、アヤネちゃん!!縛るもん頂戴!」

 

 

「まっ、あの、まって」

 

 

「シーツなら!投げます!」

 

 

「サンキュー!」

 

 

WOW、なんてスムーズで滑らかな連携だ、流石ホシノを先輩に持つ後輩達、そんじょそこらの雑兵とは訳が違う。

 

──あの、連携が凄いことは分かったので、マウンティングしながら顔面は、あの!あの!!お嫁に行けなくなっちゃう!!!

 

 

「うべべべべ──!?」

 

 

「ん…………──騒がしい…」

 

 

「ぁ、シ、シロコ!!」

 

 

寝ぼけた様子で保健室へと入ってきたシロコ、ここしかない、スバルの顔面がお嫁に行けなくなる前に助けて貰う為に手を伸ばす。

 

 

「──セリカ、拳を下ろして」

 

 

「あ…シロコ先輩…!」

 

 

「降りて」

 

 

「え、あ、その…コイツは…」

 

 

「元気が戻って良かった、それと今跨ってる人が、アヤネとセリカをカイザーから取り戻してくれた人」

 

 

「だから、降りて」

 

 

今まで経験した事のない声色のシロコに驚き、素早く馬乗りにしていたスバルから退いて縮こまる。

当の本人のスバルは、どう考えてもこの状況になった原因はここにスバルを寝かせたシロコだろ、と思ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ごめんなさい…」」」

 

 

「よぼびい (よろしい)」

 

 

「……何で私まで…」

 

 

その後、現状の説明とスバルの自己紹介を済ませ、騒ぎを聞き付けたホシノも保健室へと立ち入り……鼻血を出して顔面に痣を作っているスバルに驚きながら、場を収めた。

 

スバルを殴り飛ばせる位には元気になったセリカだが、それでも元々は衰弱していた病人、アヤネと共に綺麗に直したベッドに寝かされ、今度こそ二人は安寧を手にする。

 

目が覚めたら知らない男と共に同衾していたなんて、そんな酷い状況になったのも………。

 

 

「あばびまえばろ、しろごのせいでごうなっだんだぁら (当たり前だろ、シロコのせいでこうなったんだから)」

 

 

「ん………」

 

 

「ごめんね〜…ウチの後輩達が迷惑かけて…」

 

 

吹き出した鼻血を止めるため、ガーゼを鼻に突っ込んだせいで上手く話せない。

さしもの元気ハツラツ後輩ズも申し訳なさそうに頭を下げ、スバルの容態を観察していた。

ちなみにシロコが一番悪いので、スバルによる無限ケモ耳モフりの刑に処している途中、倫理はどうなってる倫理は。

 

教育係のホシノにも、激烈にモンペの如く文句をつけたいが、そもそも後輩ズは誘拐されてからずっと監禁されてたし、シロコの教育なんてこのジャジャ馬っ子の性格を考えると頭が痛くなるので、許しとこう。

 

 

「どもばぶ、ふだりがぶじでよがっだわ (ともかく、二人が無事でよかったわ)」

 

 

「…スバル、聞き取りづらい」

 

 

「だれのへいだとおもってんの!?ぁ、でも……ぉー…ふんっ、と、鼻血、止まったか…」

 

 

「本当に申し訳ありません、スバルさん…」

 

 

「…ごめん」

 

 

「別に大丈夫だってば、俺はそれよりも二人の回復力の高さにびっくらこいたぜ、相手がカイザーだったら間違いなくぶっ倒せてた」

 

 

「だからごめんってば、そんな皮肉言わなくたって…」

 

 

ほんとの本当に皮肉を込めて話したわけではないのだが、相変わらず遠回しな話し方のせいで誤解を生んでしまうのは仕方がない事なのだろうか?

直す気もないので仕方がないかと、心の中での一人会談を終え、片手を顔の前に持ってきて「てへ」と短く応じた。

 

 

「セリカ」

 

 

「う、うぅ…シ、シロコ先輩が原因なのは違わないからね!?」

 

 

「……本当に元気だな」

 

 

バツの悪そうな顔をするシロコを逃がさないように、そのシロコのほっぺをスバルがむんずと両側から掴むと、程よい長さまで引っ張る。

この砂漠でも保たれているモチモチの肌に感心しながら、されるがままのシロコを楽しみ尽くすスバル。

 

──ふと、頭を撫でていると…少々痛がる反応を見せたので、しまったと思いながら手を離したが、シロコはあの程度で痛がる身体の強度をしていない。

 

灰色の髪の毛を、ケモ耳からなぞる様に撫でると……明確に起伏がある部分、つまりはたんこぶが出来ている所を見つける。

 

 

「スバル、痛い」

 

 

「ごめんごめん、…どっかですっ転んだりした?」

 

 

「ん……話したくない、かも」

 

 

その時反応があった方、ホシノの方を見ると顔を逸らされた。おおよそ昨晩スバルが気絶した後に一悶着でもあったのか?と予想できるが……衰弱していた後輩を置いて喧嘩などやる余裕は無いと信じたい。

 

…血の気の多さのせいで余り期待は出来ないが。

 

 

「アロナは?」

 

 

「遺産ちゃんのこと?おじさんが預かってるよ〜、スバルが持っとく?」

 

 

「正味肌身離さず持ち歩いといた方がいいし、そうしとく」

 

 

色々ごたついたが、兎にも角にも二人を取り戻せた事を喜びたかった。そして漸く、病院のベッドの上から始まった死に戻りに一旦の決着が着いた事も。

 

──本当に喜びたい気持ちは山々なのだ、でもまだ喜ぶには早すぎる。寝てしまった事でスオウとの約束が今日中に迫っている中、今度はノノミを救い出す為に動かなくてはならない。

 

それに……この場には、スバルが居ない方がやりやすいだろう、なにせ──、

 

 

「アヤネちゃん、セリカちゃん」

 

 

「……遅くなって、ごめんね…」

 

 

ホシノが二人の手を握り、その温かさを享受する。

 

 

「──」

 

 

「……──」

 

 

「そっ……か、私達、本当に帰って、これて……」

 

 

実感が遅れてやってくる。ずっと、ずっと暗闇の中でいて、もう死ぬしかないのだと思っていた。

そうか、帰ってきたのか、帰ってきた。帰って、これた。

 

 

「……か、かえって…」

 

 

そうしてまた、実感が身体を満たすとともに、目元にたまった何かが弾けそうになって、我慢しようにもどうにもならない。

声がだんだんと上ずってくるし、見せたくない姿を晒してしまいそうになる。

 

 

「──」

 

 

そして、その姿を見るスバルは、若干のわだかまりを感じていた。

 

ベッドで寝そべる二人の手を握り、ホシノが手の前に頭を下げていて、物寂し気に、伏し目に二人の顔さえ見ることのできないホシノ。そこに込められた感情が懺悔であれ後悔であれ、せっかく帰ってきた後輩二人の顔を見ないというのはいただけない。

 

泣き出しそうなセリカと、その背中をさするアヤネも、あれだけの絶望と苦しみに包まれた状態からようやく解放されたのに、その気を緩ませられないのも……──正直、スバルが声を上げて慰め、よく頑張ったなとか、とにかくその薄暗い顔を吹き飛ばして笑顔にさせたい。

 

 

「ホシノ」

 

 

感動の再会に、そういった感情は不必要だ。取り戻したのがスバルであるにしろ、気を遣わずに抱き着きに行けばいいものの、ホシノはそれに踏み切れない様子。だが無力を嘆くのも今必要なモノでもない。

 

きっと、彼女らに今必要なのはスバルのような部外者からの励ましではなく、家族のような関係性を持つ者からの『あの言葉』。

 

 

「謝る前に、言わなきゃなんねぇ言葉があんだろ」

 

 

「……そう、だね」

 

 

もどかしい雰囲気が場を支配する直前。スバルは「ちょっちトイレ」とだけ残してその場を後にする。

 

 

「シロコも気にすんなよ、そいじゃ」

 

 

「スバル……」

 

 

気の利かない男ことナツキ・スバルであるが、流石にここまでの雰囲気で読めない程人の感情の機微に無頓着でもない、関係性を知っているのなら尚更だ。

 

 

再会を、帰ってきたことを十分に喜んでもらう時間くらいは作ってきたつもりなのだから。

 

 

死に戻りを使って、見たい景色を、作る為に。

 

 

──でも、そこにスバルが居る必要はない。

 

 

 

「ん、スバルもここに居て」

 

 

「え」

 

 

「ホシノ先輩、いいよね」

 

 

「勿論」

 

 

──シロコが立ち去ろうとするスバルのジャージを引っ張り、自身の元へ抱き寄せ、ホシノの口から満を持して『あの言葉』が吐き出される。

 

 

 

 

「──お帰り、二人共」

 

 

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーてさてさて」

 

 

これでまた一からのスタートが始まる、いや、ゼロからの再スタートだ。これより先は立ち入ったことの無い未知の領域、今までの攻略法が通用しない新しいステージ、ステージ2中間地点『十六夜ノノミの救出』だ。

 

腰が引け、尻込みしそうな思い。でもここから先は死ねばステージ2の最初からやり直す羽目になる地獄の一本道。

 

セーブポイントがどこで更新されているのかが分からない以上、スバルは常に死なない為の備えをしなければならない、今まで機能したことは数度しかないが、死なない為に死んでも努力し続けるなんてこと、当たり前になってきた。

 

 

「よくやったよ、俺」

 

 

「ほんと…頑張った甲斐がある」

 

 

良いものを見た、本当に良いものを目にできた。

 

見たい景色、見たかった景色、ここまで死に戻ってきた意味。

今までの『死』は、今まで失われてきた全てが無駄ではなかったのだと、実体のない自信と達成感がスバルの心を満たす。

 

 

──あの笑顔が、あの泣きはらす顔が、スバルの報酬だった。

 

 

泣き顔に興奮する変態と言われればそれはそう、でも…あの時間を、あの瞬間を、ホシノとシロコが迎え入れられて本当に良かったと思う。

 

あれが奪われる筈だった光景、カイザーが、黒服が、アビドスに眠る悪意が奪うはずだった、甘くて暖かい素敵で幸せな、そんな光景。

 

それを取り戻せたというだけで、スバルはこれからも走っていける。『全員笑顔で飯を食べる』第一歩。

 

──ああ、本当に、本当に前に進んでよかった。彼女との約束を、ゆっくりとでも進めれて良かった。何の価値も、何の意味もない、存在していただけの少年スバルは、漸く価値のある存在になれたのだと。

 

 

「……──今なら」

 

 

今なら、少しだけ。

 

 

「顔向けできる気がするよ」

 

 

此処にはいない、自分を形作った二人に向けて。

 

 

「──」

 

 

「……──」

 

 

「よし」

 

 

屋上に吹く爽やかな風を肺いっぱいに満たし、さぁ「次だ」とアロナへ話しかける。

 

 

「アロナ、次はどうすればいい?約束の時間は……確か、四時半辺りだったよな、それまでに出来る事って何かあるか?」

 

 

「……」

 

 

「…アロナ?」

 

 

中々返事の帰ってこないガラケーに再度声を掛けなおす、アロナがスバルの声に反応しないなど初めての事。

一瞬何があったのかと焦ったが……すぐに焦った機械音声で返事を返してくれたので「アロナもボーっとすることあるんだな」と、他愛もない言葉が出る。

 

 

「ぁ……も、申し訳ございません、スバル様が作成された十六夜ノノミの救出プランに修正を加えておきましたが……現在出来る事としては…」

 

 

「──お昼ご飯じゃないかな?スバル」

 

 

「んお、ビックリした……後輩達との熱い抱擁はもういいのか?ホシノ」

 

 

 

後ろ肩をポンポンと叩かれて、振り向けば見たことが無い髪型……ポニテをおろして、ロングヘアーになっていたホシノが居た。

 

お昼ご飯、そういわれてみれば、死に戻りで様々な感覚がすっかり狂ってしまっていて忘れていたが、今のスバルの身体には圧倒的に栄養素が足りていない。

ただでさえ、実時間でいえばまだ病院で目が覚めて四日目、ホシノ達もスバルにとっては長い長い付き合いだが、ホシノ達からすればそうでもないのだった。

 

 

「飯、飯かぁ」

 

 

「昨日のお昼ご飯はパサパサの携帯食、晩御飯は無し、そんなお腹ペコペコの状態で突っ走ってもどこかで倒れちゃうよ~?」

 

 

「ほら、昨日みたいに」

 

 

「うぐ…それはサーセンっした」

 

 

「おじさんね、お昼ご飯にちょうどいい場所知ってるんだ、これからみんなでそこに食べに行くんだけど……」

 

 

「──スバルも一緒にどうかな?」

 

 

「……──!」

 

 

思わず口を開けてポカンとする。

 

まさか、まさかあのホシノが。あのスバルの一切合切を拒絶し、時には頭を撃ちぬいて、時には拷問まで行ってきたあのホシノが。

 

スバルに、飯の誘いを──?

 

 

「やべぇ……やばい、マジで泣けてきた」

 

 

「泣けてきたって…おじさん何か悪い事でも……」

 

 

「これは感動の涙って奴だよ──!!」

 

 

感動しすぎて前が見えない、ああ、ああもう、本当にまだ一歩だけど、その一歩を進めれて良かった。

 

色褪せた光景が、スバルの無味無臭、何の起伏もなく何のイベントもない、そんな

褪せに褪せまくった青春時代の思い出が蘇る。

 

──そして、その光景を今の色鮮やかな記憶で吹き飛ばして、

 

 

「ホシノーー!!もーー!ほんとにかわいいなお前はぁ~!!でへ、でへへへ」

 

 

「わ!もー、駄目だよスバル」

 

 

ホシノを撫でまわしまくるスバル、その桃色の髪を十分に堪能し、ずっとポニテしか見てこなかった影響で新鮮味が凄い。

小さな体に大きな責任、この小さな愛おしい体の中に渦巻いてきた、憎悪と復讐、誰も彼をも疑わなければいけなかった懐疑心が詰まっていたと思うと、余計に撫でまわしたくなる。

 

そうだ、そうなのだ、やっぱりスバルは報われない話が大嫌いで、何も悪いことをしていない人間が、唯々運命なんて言葉で不幸になるのは許せない。

 

単純で純粋な、ただそれだけの話なのだ。そこで生まれる不幸が、この世界から無くなって欲しいとこの小さな体を味わいつくして…──。

 

 

「あは、あはは、駄目だってスバル」

 

 

()()()()()()()()()()()()こんな事して──」

 

 

「……え?」

 

 

 

──たまらなく嫌な予感がする。

 

おお神よ、狼よ、もし、もし汝に慈悲あれば。

 

 

 

「──」

 

 

「あ」

 

 

 

じ、慈悲……。

 

 

 

「あ、そ、えっと」

 

 

 

「スバル」

 

 

 

「──ちょっと、話そっか」

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁ──!?」

 

 

 

がっしりと襟を後ろから掴まれて引きずられていく。

 

 

 

「後から追いつくから、ホシノ先輩はセリカとアヤネと一緒に先行ってて」

 

 

 

「おっけー、それじゃお先に失礼するね」

 

 

 

「ホシ、ホ、ホシノ!待って!!」

 

 

 

「ごゆっくり~」

 

 

 

「アロナぁーー!!!」

 

 

 

《提案:安易なボディタッチは控えることをお勧めします》

 

 

 

あぁ、こういう時は味方してくれないのね……。

 

そんな犬も食えないような情けない言葉を残し、

 

 

 

「ん、スバルには少しだけ、『知って貰う』だけだから」

 

 

 

「な、なんでしょうかそれは」

 

 

 

「ん」

 

 

 

「──???」

 

 

 

「ん」

 

 

 

そうして、

 

スバルは教室の闇の中へと引きずりこまれていったのだった。

 

 

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