Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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年末ですね、明日は忙しくなるのでこれが今年最後の投稿です。
いつも誤字脱字報告、感想をしてくださる読書の皆さまに大きな感謝を。
少し早めのハッピーニューイヤーです、結末はまた来年ですね。


『絶望という疫病』

 

 

「ぐすん……もう、お嫁に…いけない…」

 

 

「ん」

 

 

「…遅れてきたと思えば、何やってたのよ二人共…」

 

 

ホシノから二人が遅れてくると聞かされて、先んじて出発していた三人の背後へ、やけにツヤツヤしたシロコと髪がぼさぼさになったスバルが、仲良しこよしというには昼ドラ過ぎる雰囲気を纏って追いついてきた。

 

 

「私の初めてを奪った責任取って下さいまし!シロコ様!」

 

 

「ん…」

 

 

「本当に何やったの!?」

 

 

儚くも散ったスバルの純潔…──初めて全身を撫でられた『撫でられ返し』によって、スバルの身体はシロコに汚され切ってしまったのだ、もうこれは彼女に責任をしっかりとってもらわなければならない。

 

スバルがこれ程までに凌辱されたのは、近所の猫に顔面乱れひっかきされて以来だ、こんな姿をホシノと後輩二人に晒したくはなかった。

 

 

「はぁ…それで、今のアビドスで飯食う場所って結構遠いんじゃねぇの?」

 

 

「はい…アビドスに残って下さった唯一の方が居まして、元々経営していたお店は立ち退きで閉店させられてしまったんですが……──それでも根気強く屋台形式で営業を…」

 

 

「屋台…」

 

 

屋台形式で飲食を出せる店は中々に限られている、スバルが経験した中だと精々おでん屋だ、それにアビドス近郊は既にマッピング済み、それなのに一度も遭遇していないという事は、もしかすればスバルがカイザーを撤退させたことで出現するようになってるかもしれない相手。

 

警戒すべき乱数と言えば乱数だが、彼女らの平穏を切り崩してまで警戒する必要はないものだと考える。

 

ホシノがわざわざ誘ってくれた昼飯、無下にも無駄にもするわけにはいかない。

 

 

「屋台っつーと、やっぱ居酒屋的な?」

 

 

「まぁちょっとそれに近いかも、()()()()()だよ、柴関っていうね」

 

 

「元々はそこでアルバイトしてたんだけど……カイザーの奴らのせいで、大将も場所を移転しなくちゃならなくなって、大変だったのよ」

 

 

「そう考えると俺、やっぱり結構凄い事したなぁ」

 

 

「「今更?」」

 

 

「──今更か」

 

 

そもそも軍事企業に宣戦布告された少年が、その軍事企業を返り討ちにするなんて、日本なら陸軍……──民間の軍事企業なんて知らないせいで例えが適当なモノしか出ないが、それが一個人に返り討ちにされたと考えると、

 

 

「……」

 

 

「こっわ!?」

 

 

「そうですよ、スバルさん……──ホシノ先輩から状況は聞きましたけど、スバルさんが置かれている状況は、本来キヴォトスの中でも最高権力に立っている様なものです」

 

 

「シャーレの部長、シャーレの権限というものは、一重に言い表せるものではありません、スバルさん程の人物が元はカイザーに属していた組織を、まさかスバルさん自身で対応しに来るとは……」

 

 

「リンちゃんって子から頼まれたんだけど、まっ、重々承知のつもりではある、つもりだけ」

 

 

「──それに、アヤネとセリカを助けられたんだ、得しかないぜ」

 

 

色々スバルの身の上はこの世界だと複雑だ、突如湧いて出てきたビックリ人間。

 

ヴァルキューレ警察にずっと手紙を送っていた、恐らくは対策委員会の財務を担っているアヤネの立場からすれば、そんな人物がアビドスに何の理由もなく協力しているなんて、恐怖の対象でしかないだろう。

 

 

「……それでさ、結構歩いてきたけど…ほんとにその柴関って屋台やってんの?」

 

 

「大丈夫だって~、おじさん達常連だから、スバルが寝てる間に大将から連絡が来たんだ、営業再開したから食べに来てくれって」

 

 

ホシノが先導する先は、人気のない……──基本アビドスは人気がないせいで何処に行ってもそう表現するしかない侘しさを、風が運んできた砂が口に混じったのを「ぺっぺ」と吐き出して堪能する。

 

後、後輩のアルバイト先の常連ってめちゃくちゃ気まずくないか、なんて思ったりして、バイト経験もない奴がいっちょ前に話に甘噛むなと思いつつ、そろそろ店が現実にあるのかと怪しんできたところで、

 

 

「あ…!柴大将!……やっぱり姿を見れると安心する、戻ってきてくれたんだ…」

 

 

「セリカちゃんにとっては……とってもお世話になった、付き合いの長い人だもんね」

 

 

「……どこ??目、良すぎない?」

 

 

「ん、ほらあそこ」

 

 

シロコが指さす先に、豆粒のような赤色の塊が見える。恐らくは店の登り旗の赤い光が、昼間だというのに灯っていた。

相変わらず些細な所で身体能力の違いを見せつけられる、あれは最早見えるだとかの次元じゃないだろうに。

 

 

──数分かけて漸く店の全貌が見えるようになった頃、ラーメン屋特有のスープとニンニク、脂の織り交じった、どうにも食欲をそそる「臭み」とも言える匂いがしてきた。

 

 

「模範的な旨そう過ぎる匂い」

 

 

「柴大将はね、私達…ずっとお金に困ってるから、食べに行く度にオマケしてくれるの、580円のラーメンに、絶対に一人じゃ食べきれないくらいの量を盛りつけてくれて……取り皿も五人分」

 

 

「……良い人なんだな」

 

 

「うん、アビドスから離れていく人ばっかだったけど、大将は最後まで残っててくれたし」

 

 

「ん…──まって、先客がいるみたい」

 

 

先客、満席の屋台はその単語だけを聞けばただ、こんな辺鄙な場所の屋台にも寄り付く人がいるのだと適当に思うだけだが、今のアビドスではそこで終わらない。

カイザーの侵攻宣言により、殆どの住民が退去した今では、満席になっていること自体少し怪しむべき事態。

 

ホシノが硬い表情をして、屋台に近づいていく。

 

 

「──」

 

 

「君たちは……」

 

 

「お、アンタらも来たか、いらっしゃい」

 

 

噂の柴大将の姿をスバルは捉える、案の定名前通りに柴犬の獣人だった彼の屋台、柴関の席に座っていたのは──。

 

 

「アル!?」

 

 

「ひゅ、ひゅば……ん、ひょっとまっへちょうらい……」

 

 

「ん、んっ、──スバル!?」

 

 

「やっほ〜、スバル、元気にしてた〜?」

 

 

便利屋68の面々だった。

 

カウンターの4席にそれぞれ座っていて、丁度頼んだ山盛りのラーメン一杯を四人で分けていた所。

今話していた通り、人数分の取り分けるお皿を出してくれているという事は、柴大将が高々580円のラーメン1杯の為に取り出してくれたのだろう、「おや、顔見知りかい?これ以上は空けれて3席だから、空くの待っといてくれ」と、丁寧に待機席まで出してくれて。

 

ところ構わずそんなサービスをして利益が出るのかと、親切過ぎる大将を心配しながら…──スバルは、体感数ヶ月ぶりの再会に涙腺が緩みそうになる。

 

 

「ア、アル…──久しぶりだなぁほんとぉ!連絡がつかないから、カイザーになんかされてんのかって、死ぬほど心配してたんだぞ!?」

 

 

「スバルだって!私達から離れた直後に、あんな、あんな危ない事して…!っ、そうだ!怪我は?貴方あれだけ出血してもう病院を抜け出したの…?」

 

 

「あー…まぁ、うむ…」

 

 

曖昧な返事を聞くアルの顔は、少しずつ青く染まる。スバルは気絶していたが、何せ死にかけていたスバルを見た張本人の一人。

 

元PMCの宣戦布告から、カヨコの立案を元にPMC兵の出処を掴み、理事を強襲する予定だったのだが……。

 

 

「──駄目じゃないの!命は一つしかないのよ!?ただでさえ死にかけの状態でカイザーに喧嘩を売って…!!」

 

 

怒りながら席を立って、スバルに近づこうとしたのを…ホシノが間に立って止める。

便利屋一同は、スバルの計二回の配信をアビドスにて視聴していた。前哨基地への強襲に続き、矢面に立っての迎撃戦をこの前病床に伏していた少年が行っていた事に目を疑ってもいて──、

 

 

「…犯罪集団がスバルとお知り合いだなんてね、便利屋の社長ちゃん、アビドスに来たのは偶然?それとも今のスバルとアビドスに、どんな用が、どんな関係があるのかな」

 

 

「命を預けあった仲ってだけよ、スバルに教えて貰った『巨悪』を打ち倒す為にここに来ただけ、貴方こそスバルとどんな関係なのかしら、アビドスの事情に彼を巻き込んで…」

 

 

「アビドスに譲れない何かがあるというのなら、真っ先に命を張るのは貴方じゃないかしら──?」

 

 

「「……」」

 

 

「タンマタンマ!俺の為に喧嘩するのはドギマギして嬉しみの方が勝つけど、せっかくのラーメンが一人寂しく込められた愛情と共に冷めちまうって」

 

 

「大将の温かーいご好意で提供してもらってんだし、ちゃんとご馳走様してから話そう、な?」

 

 

慌てるスバルと、カウンターに置かれたラーメン、そして気まずそうな柴大将の顔を見て…アルは大人しく席へと戻る。

この場で足りないのは理解であり、行うべきは喧嘩では無く受けた厚意を無下にしない事。

 

 

「……そうだ、大将が待機席を出してくれたし、私はそっちで食べるよ、社長と…小鳥遊さんは、色々話したいでしょ?」

 

 

「な、なら!わた、私も…!」

 

 

「相変わらず気遣いの鬼で助かるぜ、そんじゃ俺もカヨコとハルカと一緒に──」

 

 

「「スバルはこっち」」

 

 

──是非も無し、元々抵抗できる力などありもしないが、無残に無力に両脇へ手を差し込まれ、カウンターに引っ張られるスバル。

 

今だけは柴大将の温かいラーメンの湯気が、この場から逃さそうとしない湿気へと早変わりし、耳元で「死にかけた事、後で聞かせてね」と実質的な死刑宣告をシロコから喰らい、せっかくのお昼ご飯の味が分からなくなりそうだ。

 

 

「兄ちゃんも大変だねぇ」

 

 

「そう思うなら助けてくれよ……柴の大将…」

 

 

「盗み聞きする限り、無茶したアンタが悪そうだしノーコメントで、ラーメンはオマケしとくけど……一杯でいいかい?」

 

 

「いんや、ご親切な大将に営業再開記念として、ここは全員分の会計持つぜ、普通のサイズで人数分請求しといて…、あ、電子決済だけど大丈夫?」

 

 

「──あいよ、大丈夫さ、良い男だよアンタ」

 

 

ここはカッコつけさせてもらう、シャーレの部長になったおかげでアロナを通じて電子決済できるようになったのだ、勿論連邦生徒会の経費として落とすのでスバルが支払う必要性は無し。

 

今や無一文ではなくなったスバル、ラーメン九杯程度おごって進ぜよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…」

 

 

「つまり、社長ちゃんはスバルの協力者で、カイザーを倒すためにアビドスに」

 

 

「そうそう、アビドスには俺が勝手に首突っ込んだだけだからさ、それで納得してくれるか?」

 

 

「むぅ…だからってスバルに押し付けていい理由には……」

 

 

「そ・れ・も、俺が勝手に約束して、俺がやりたいからやっただけだよ、アルなら俺の事よくわかってんだろ?」

 

 

「ん、その言い方まるで他の人は分かってないみたいに感じる」

 

 

「ごめんって」

 

 

──結局、待ちきれなくて今聞きに来たなコイツ…。

 

カウンター席を八人でギュウギュウ詰めになりながら、そうぼやく。アル達便利屋との接触の関係や、スバルがアビドスに訪れてからの経歴などを手短に説明したうえで、両者納得のいくまで仲介人になりながら話し合ってもらった。

 

その間、人数分の空になったラーメンの器を、柴大将がせっせこ片付けているのを眺めて、口がもげるほど説明し終えた自身の喉をいたわり、両手に花の状態。

 

…てか、シロコもアルもムツキもホシノも、一々距離が近い──!

 

 

「……──ムツキに関しては、俺以外にそれやんなよ??ぜってぇ勘違いされる、恨み買っても知らねぇからな?」

 

 

「え~?なになに、もしかして…スバルきゅん照れてるの~?」

 

 

スバルの背後から首に手をまわし、一番密着率が高いムツキにそう呼びかける。

コイツは分かっておきながら、人の純情をもてあそぶ奴だ、反応をすればそれこそ思うがまま、悪戯のやり合いに悪ガキスバルが負けるわけにはいかない。

 

 

「ちょい照れ半分とガチの心配半分、思春期の男の子を余りもてあそんじゃいけません」

 

 

「はーい、そこの狼の子からの視線もあるし、これ位で止めてあげる♡」

 

 

「ん」

 

 

ムツキが離れて、漸く両手に花ならぬ全身に花の状態から解放される。

女子高生との青春など送ってこなかった身からすれば、喜ばしい事この上ないが、今はそんなドキドキに意識を割けるほどの状態でもないのだ。

 

その理由は……シロコからの熱い視線か?それとも腕を握るホシノの力が強くなったこと?それかアルとの口論で暴走しかけている後ろのハルカ?

 

全部不正解、全部怖いけどな。

 

 

「それで、だ」

 

 

「──説明したとおり、俺達にはまだ救わなきゃなんねぇ最後の一人が待ってる」

 

 

「…ネフティスの令嬢、十六夜ノノミの事ね」

 

 

「相手はカイザーとタメを張る大企業よ?事前情報もなく、無策で挑める相手じゃない、といってもスバルなら何かあるのでしょうけど、そう、『何か』あるのよね?」

 

 

「そうだね、前回と違って、今回は敵がはっきりしているうえに、強大、『スバル達だけじゃ』手が足りないと思う、考えてる作戦も……何処かに穴が出来てるんじゃないかな」

 

 

「……?」

 

 

「──!」

 

 

なんだよその口ぶり、いや、分かってはいたさ。

最初出会った時もそうだけど、便利屋、悪行三昧の犯罪者集団という割には──、

 

 

「ほんっと、お人よしだよ、ビックリするぐらい」

 

 

「あら?どこでそう聞こえたのかしら?」

 

 

「──全部」

 

 

「もう少し濁して言わない!?」

 

 

「いやだって……」

 

 

「もう!分かったわよ!それ以上言わなくていいから!!……そんなことより私達に言いたいことがあるんじゃないの?」

 

 

盛大な前振りだ、そこに至るまでの導線も、歴戦の映画評論家のスバルからすれば雑過ぎて、先の展開なんて目をつぶってでも浮かび上がる。

 

──浮かび上がった光景そのままが、もしこれから繰り広げられるとするのなら、それはどれほど幸せな事だろうか。

 

映画とかアニメじゃありきたりで、ありきたり過ぎて、そして現実では一生叶うことの無いご都合な展開の為に、席を立ちあがる。

 

立ち上がって、そして一緒に立ってくれたアルに向けて。

 

 

「──便利屋68」

 

 

「依頼がある、内容は人助けもとい拉致、動機は善意のおすそわけで、報酬は連邦生徒会のお財布次第」

 

 

「計画名は十六夜ノノミ奪取大作戦!相手は悪の手に落ちた大企業、リスクはデカすぎて測定不能!」

 

 

「依頼、受けてくれるか──?」

 

 

「ふふっ…それは金次第、と言いたいところだけど、スバルはお得意様だからサービスしてあげる」

 

 

「──勿論よ!その依頼、便利屋68が受け持つわ!」

 

 

 

自信満々に言い放つ彼女の顔は、スバルがこれまでに見てきた顔の中で、一番頼りがいのあるもの。

 

その言葉を以て、差し伸べられるアルからホシノへの手。

 

ふやけた顔をするのも程々に──、お互いに、強く握手をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円満に終わった昼ご飯、過ぎれば中々に危うい状況ではあった。今は時刻四時半、喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、スバルにはいつだって病のように不安が付き纏う。

 

死という不安は病のようにしがみつき、こびりついて離れないものだ。狂犬のハルカが暴れず、ホシノの懐疑心が寝たままで、両者の仲違いがこじれる前に解消した。

言うことは無い、何もかもアル達の優しさと正義心がありがたい、それだけ。

 

 

「舞台は整った……のか?」

 

 

「肯定します、朝霧スオウとの接触は避けた上で、現時点での采配は最適かと」

 

 

「俺とは安心感だんちだな」

 

 

作戦があった、策略ともいえる。

アルが期待したように、スバルには策がある、しっかりじっとり死に戻りの回数分だけイメトレしてきた秘策。

 

朝霧スオウとの約束はノノミも参加するネフティスの評議会に、スバルを誘導するというもの、お家芸となった敵陣への単騎突撃だが、結局はこれが一番効率がいいから仕方ない。

 

 

「仕方ないって、何回言えば気が済むんだよ俺」

 

 

そう、絶賛全身に花から荒れ果てた野原になったスバル。今どこにいるかというと……──駅である。

 

スオウが管理している一つの列車、それを足に相手本拠地へと突入、スオウができるのはそこまでで、残りはスバルが仕上げる形。

 

ホシノ達には協力者Aと評したが、それはもうめちゃくちゃに、めっちゃくちゃに怒られた、ここまで来てやることが単騎突撃の能無しにはいい薬かもしれないが。

 

 

《もしもし、追跡準備は出来てるか?》

 

 

《こちらチームA、オッケイだよ~》

 

 

《チームB、スバルさんに何かあれば、すぐホシノ先輩が駆け付けますからね!準備完了してます!》

 

 

《チームC……──その、ハルカって子、ずっと爆弾持ちながら息遣い荒いけど大丈夫?》

 

 

《……多分大丈夫》

 

 

《多分って何!?え!?多分!!??》

 

 

《アル!絶対抑えとけよ!?》

 

 

《もも、勿論!任せておい──ハルカ!ハルカまだ時間じゃないわ!》

 

 

《────》

 

 

──手始めに、まずはその会議場所に全員が侵入すること。その為に列車を追跡する。

 

スバルが出来るのは、アロナが作った強制捜査書をネフティスに突き付けて、アビドス生徒会副会長であるホシノの否認を元にノノミを一旦返してもらう事だけ。

 

勿論書類上は可能でも、現場でそれを突き付けて待っているのは囂々の非難と物理的な交渉。──それらを対策するために、スバルは便利屋とアビドスの面々に手を組んでもらった。

 

スバルが編成したドリームチーム、Aから順番に奪取係のシロコとムツキ、Bチームは単騎行動のホシノと後方支援のアヤネとカヨコ、Cチームは盤面を破壊するハルカと、しんがりを務めるセリカとアル(ハルカ抑え係)。

 

 

「過去類を見ない位最強の布陣だな、油断はできないけど安心はできる」

 

 

「全員のIGL担当はアロナだし、最強に最強組み合わせたア○○ジャーズじゃん」

 

 

「状況判断はお任せを」

 

 

乾いた砂漠にお似合いの、カラカラの喉と目が痛む。

辿り着くまでに何があるかは分からない、ただ、見覚えしかない砂漠の景色は今日も変わらずスバルを痛めつける。

 

不安はあるか?勿論ある、協力者がスオウである以上、ホシノとどんな反応を起こすかは分からないし、裏切られる可能性も秘めているのだから、安心とは程遠い。

 

 

──だが、このメンバーで安心できなければ、スバルはこれからどんな人物に背中を預ければいいというのか。

 

 

 

「──来たな」

 

 

誰も手を加えていないような、寂れた駅に、新品ピカピカのような手入れの行き届いた列車が、アンバランスな光景を作り出して停車する。

 

 

「ほう」

 

 

「今度は、時刻通りか」

 

 

「7秒の遅刻だぜ、スオウ」

 

 

「……減らず口をたたく所は、変わってないみたいだな」

 

 

「乗れ、目的地には二十分後に到着する」

 

 

車掌の窓からのぞくスオウに従って、車掌席のその隣へとお邪魔する。

嫌そうな顔をして、「何故客席ではなくここに座る」とまゆをゆがめるスオウ。

 

 

「気分だよ気分、それともスオウをよく見ておくためって口説いておいた方がいいか?」

 

 

「貴様の場合は裏切らないか監視しておくためだと、正直に言った方が『らしい』」

 

 

「んだよ、俺の評価悪くね?」

 

 

「当たり前だ、私以上に幾つもの顔を持つ男だからな貴様は」

 

 

「誉め言葉として受け取っとく」

 

 

「……本当に減らず口ばかり」

 

 

「そこもチャームポ「もう黙れ」」

 

 

叱られてしまったので「はーい」と猫なで声で返事を返す。

出発する列車の、初期微動である揺れが尻に伝わってくる、スバルだけが乗客の特別貸し切り列車は、追跡者と共に動き始めた。

 

居心地は悪くない、むしろいい。

列車の最前列で見れる光景というものは、人生の中で経験しがたいものだ、せっかくだし堪能しておく。

 

 

「……」

 

 

「……ナツキ・スバル」

 

 

「ん?」

 

 

「一応だが、私は貴様に興味がある、人間としては微妙だが……──その行動原理にな」

 

 

「微妙て、否定はできないけど」

 

 

「聞いておきたい、貴様は何故アビドスの為にそこまで『行動』する?人間の多くは、理由が無ければ行動できず、根拠がなければ成功も継続もできない」

 

 

「貴様の奇跡の数々は、私からすればそれを欠いて引き起こしたもの、中々に不思議でな」

 

 

またそれかと、『俺がしたいからやっただけ』の売り文句を言おうとして……──半分まで言って、なんか、舌の上に引っかかってしまったのでやめた。

きっとこの場には、もう少し踏み込んだ『理由』を言うべきだと、なんとなく思う。

 

 

「スオウが思ってるほど特別なもんじゃねぇから、多分期待に応えられないけど、それでもいいなら」

 

 

「構わん。到着までの暇潰しだ」

 

 

「…なら、雑談としゃれこむか」

 

 

「──失いたくないから」

 

 

「……ふむ?」

 

 

失いたくない、スバルにとっての行動原理を問われれば、それが真っ先に来る。

スバルを苦しめてきた宙ぶらりんな感情に決着はついていた、それが望んだ形であれ、望まぬ形であれ、変化があったことを今は喜ぼう。

 

 

「失いたくないんだよ、俺が拾えるモン、俺が持ってるモノ全部」

 

 

「……」

 

 

「例えば、ありきたりだけど……友情とか、友達とか、お気に入りのお店、映画、ドラマ、大切なモノ全部、無くなったら悲しい」

 

 

「それだけじゃねぇ、それを失った時に失われるのは……その相手だけじゃなくて……んー、言語化難しいんだけど、こう、自分の中にある『何か』も失われていく気がするんだよ」

 

 

「──俺は、一回その『何か』を全部失った、面倒見て、優しくしてくれて、支えてくれる人がいるのに、俺の中の『何か』は失われたまんまで戻らない」

 

 

「ぜーんぶ虚しく見えて、全部自分が悪い気がして、全部俺だけを苦しめてるだけに存在してんじゃねぇのかって、そういう風に虚無ったままから戻らなくなって」

 

 

「……そんなとこかな、また『そうなりたくない』から、失いたくない、自己中マンのナツキ・スバルは期待に添えましたでしょーか」

 

 

「…………」

 

 

「及第点だ、奇跡を起こした英雄としては0点だが」

 

 

「はいはい」

 

 

 

──少しだけ、鉄仮面の表情が崩れた様な気がしたけれど。

 

何度見ても何も変わってなかったので、無心で、というには雑念が多すぎる鉄道旅を続けるスバル。

 

数十分経ち、目的地のビルが目視できる状況になり、最寄りの駅に停車する。

 

 

「降りろ」

 

 

ここから先は、道なりに真っすぐ。

 

 

「付いてこい」

 

 

言うとおりに後ろをついて歩くスバル、駅員ロボットに一礼をして、駅から離れ、ビルへと近づいていく。

 

──順調。

 

心の中でほくそ笑むスバルの、心の内など知らずにスオウは案内を続ける。

 

 

「……──さぁ、行ってこい」

 

 

「おぉ…スオウに背中押されるとはな」

 

 

ビルの入り口に到着する。そうだ、スオウとはここでお別れ、何度もデスエンカウントとして立ちはだかった過去もあるが、それは彼女にとって知りようのない世界の話。

 

肩をポンと叩かれ、ほんの少しだけ彼女に対しても信頼が湧く。

 

一応協力はしてくれたのだ、感謝をスオウに声を掛けようとして。

 

 

「…………」

 

 

その喉の動きが止まったのは喉が渇いていたから……──ではなく。

 

 

その喉の動きを止めたのは、不意に脳裏によぎった違和感が原因だった。

雑念ばかりのスバルの心が騒いでいても、いや、騒いでいるからこそ分かる違和感──、

 

 

 

「……──」

 

 

「し「静かだな」」

 

 

「──」

 

 

「ああ、そうだ、随分と静かじゃないか」

 

 

冷たいモノが、喉元を過ぎる。

そうだ、静かだ。砂漠の風が通り過ぎる音以外、一切の音が世界から消えてしまっている。

 

あたりを見渡してもあるのは無造作に配備された、薄いガラスの向こう側の受付ロボットだけで、それも稼働していない、積極的に音を発するものはそこにはなかった。

 

だが、半年近い日数を死に戻りしてきたスバルにとってこの無音は、ある種の警告音だ。

 

 

「どうした、先ほどまでの自信に満ちた表情は何処に行った」

 

 

「ぁ……あ、ああごめんごめん、せっかくスオウに応援してもらって……」

 

 

「それとも、私一人での励ましでは足らなかったか?」

 

 

「──ぁ?」

 

 

「連れてきていたお仲間の、声でも聴いたらどうだ」

 

 

「──!!!」

 

 

 

不安が、喉を掻き毟りたくなるような不安が全身を支配していた。

 

 

足は後ろへ、心は過去へ、意思は死を免れる為の対策へ向かって進んでしまう、じりじり、じわじわ、後ろから得体の知れない恐怖が追いかけてきているような気がする。

 

嘔吐感が酷い。耳鳴りがガンガン聞こえる。心臓が胸からこぼれ落ちそうなくらいになり続け、アロナが宿るガラケーを握りこむ手は、震えてか弱く頼りない。

 

 

 

「ス、オウ……」

 

 

「お得意の減らず口を叩けばいいだろう、ナツキ・スバル」

 

 

「だが、ああ、そうだな……─いい気分だとも言っておく」

 

 

「私は小鳥遊ホシノに勝ちたかった、勝って、小鳥遊ホシノを、アビドスを否定したかった」

 

 

「でも今は……なぜだろうか」

 

 

「──私は、お前を否定したい」

 

 

 

──違う、こんなの、望んでない。

 

 

全てがうまくいくはずなのだ。なにもかもがいい方向へ向かうはずなのだ。

 

巡り合わせが悪かっただけだ。タイミングが合わなかっただけだ。

 

やればできるはずなのだ。やることが明快なら、迷わないでいけるはずだ。

 

 

──何を間違えた?

 

 

 

「おれを…?」

 

 

「そうだ」

 

 

「貴様の言うとおり、私は多くのモノを不必要だと切り捨て過ぎた」

 

 

「もう、私の中には何も残っていない、私の中にあるのは虚無だけで、他には何も」

 

 

 

ああ、ああ。

 

静かだ、静かすぎる。嫌な静けさだ。

 

人の命を感じ取れない、誰かが居る気配を感じ取れない、評議会というたいそうなものを開催しているにしては、静かすぎる。

 

 

 

「貴様は、一度そうなったといったな?」

 

 

「──」

 

 

「教えてくれ、今はどうだ、同じ虚無を抱えた人間なのだろう?なぜ今は『失うもの』が残っている?貴様はどうやってその『何か』を取り戻した?」

 

 

「そ……ぁ、ぅ、それ、は……」

 

 

「──アビドスだ、私はそれをアビドスに要因があると思う」

 

 

「貴様を突き動かし、貴様の虚無を埋めたのは、救って欲しいと希うアビドスそのもの」

 

 

「結局の所、私はアビドスを否定したかったんじゃない、私の中の虚無に、私の中で渦巻く意味も意義もない虚しい復讐心の終わりを迎えたかっただけ」

 

 

「見せてくれ、ナツキ・スバル!私は貴様という存在を、お前が持っているものを否定し続ける、貴様が再び『虚無』を得るまで」

 

 

「そうして、再び這い上がる姿を私に見せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かだ。

 

 

「……」

 

 

やるべきことはわかっている。ノノミを助けられればいい。

 

彼女が窮地に追いやられているのならば、そこから救い出すのがスバルの役目だ。

 

ずっとそうしてきた。今回もそうしよう。それでなにもかもうまくいく。

 

 

「──」

 

 

静かだ。

 

 

 

 

「……──」

 

 

 

 

息が切れる。肺が痛み、酷使された全身が軋み、治り切っていない肉体の各所が悲鳴を上げているのがわかる。――でも、止まることなどできるはずがない。

 

作戦を遂行すれば、ノノミを、漸くアビドスをその苦しみから解放できる。

 

 

 

「ぉ」

 

 

 

ずっと空気をためてきた肺から、声になる前の赤子のような吐息が出た。

 

 

その吐息に、誰も、誰も耳を貸すことは無い。

 

 

 

「な、んだよ、コレ」

 

 

──カイザー兵と、ロボットの残骸が通路を埋めるように散らばっていた。

 

疲労とは別の理由で呼吸が早まり、心臓の鼓動が再び速度を上げ始める。それらの反応に急き立てられながら、スバルは急いで議会をしているであろう扉を開ける。

 

嫌な予感に掻き立てられ、鍵すらかかっていないそれを乱暴に押し開いて中に押し入る。

 

入って、しまって──、

 

 

 

「…………ぁ」

 

 

 

「あ、ぇ」

 

 

 

「ノノミ……なの、か?」

 

 

 

まるで、大きな爆発が起こった跡を残す部屋。

いよいよ状況に理解が届かなくなり始める。

その得体の知れない悪寒が、何故か今も尚応答がないホシノ達と、部屋の状況によって実体を帯びていく。

 

 

部屋の中に、ヘイローが消えたまま、爆破から逃れたのか、一つ中心に……残された椅子に無表情で佇むノノミ。

 

 

──そんなわけがない。爆発が起きたのなら、部屋の中心に椅子が残ってるはずが無くて、ノノミもこんな、こんな綺麗に……。

 

 

 

「っ」

 

 

 

その可能性を考えた瞬間に、床に吐き戻した。

 

黄色の胃液。柴大将のラーメンが混ざった、異臭のする液体。

 

床一面に広がって、広がって、広がって。

 

 

「ぉえ゛」

 

 

ふいに鮮烈な痛みが頭蓋に響いた気がして、スバルはとっさに額に手を当てる。すると、当てた瞬間に不快感が肌にべったりと広がった。

 

吐き戻して、そのままの勢いでいつの間にか地面に頭を強打したらしい。出血している、止めなければいけないと思い、顔を上げて。

 

 

 

「ヒュッ──」

 

 

 

――もうなにも映さない、空洞となったノノミの目と目が合った。

 

 

また吐き戻す、命を失った、蝋人形になった命がそこにある。何度も見てきても、スバルの心から『絶望』は湧き出続け、どんどん虚無へと近づいていく。

 

吐き戻す、もう何もなくなった胃の中を絶望で洗い流して。

吐き戻す、今度は口から絶望を吐き出し続けて。

 

余計な寄り道をしてしまった。初志貫徹しない結果がこれだ。

 

無駄な時間を浪費し、すでに得られていたはずの安らぎにまだ届いていない。無駄だった。全ては無駄だった。ここにあるのは無駄だけだ。スバルを含めて、無駄しかない。

 

そうやって、あの幸福な時間を、感傷で穢して。

 

 

──ノノミの遺体が、椅子からズレて、スバルにのしかかった。

 

 

「あぅ」

 

 

「あ」

 

 

「──ああ」

 

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁッ――!!」

 

 

 

――そして、スバルはついに、背後から迫る絶望に追いつかれていた。

 

 

嘆き、叫ぶ。

 

 

繋がらない通信、叫びと共に染まる世界は赤く。朱く。

 

 

間違った世界の中心で──ナツキスバルは。

 

 

 

 

「な……んで」

 

 

 

「なにを、なんで」

 

 

 

『そうして、再び這い上がる姿を私に見せろ』

 

 

 

「なんで……」

 

 

 

小さく小さく、喚き泣いた。

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