Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『何も変わらなかった毎日』

 

「シロコちゃんに私まで連れてきて何事かと思えば、堂々と黒服に会うなんてね、流石にびっくりしたよ」

 

 

「まぁ、そうだよね、君はナツキ・スバルだ、何の策も無しにアビドスには来ない、何処まで調べたのかは知らないし、元から関係があったのかどうかは分かんないけど…」

 

 

「──撃たせないでね、スバル」

 

 

無言でホシノがスバルにショットガンを向ける、未だその指が引き金を引かないのは、ナツキ・スバルが堂々と黒服との面談をホシノへと暴露したからで、胸の内に眠る疑心暗鬼が今は引き金を引かせないために、己の指を押えつけている。

 

現実的な重量感を持つ彼女の盾と銃、非現実的な少女の身体、そしてふと目をそらせば風穴があく未来を幻視する空間で、スバルは歩を進める。

命を奪うものを突き付けられておいて、逆にそれに近づくなんて、今までを考えればあり得なかった、だが、もう既にソレは遠ざけるものではないのだと、スバルは銃身を握り返し胸に引き寄せた。

 

 

 

「……何を」

 

 

 

そして、一言。

 

 

 

「──」

 

 

 

 

なんのつもりか、目の前の命知らずに問いかけようとしたとき、ホシノはスバルに抱き寄せられて耳元にぼそり、と傍にいるシロコに聞こえないような声量でつぶやかれる。

と、それを聞いたホシノは今までの鉄の仮面が一気に崩れ始めた。銃は手放さないが、一瞬本気の力でスバルを引きはがして後ずさる。

 

 

「…………それは、卑怯じゃない?」

 

 

ホシノのオッドアイが、蜃気楼のように揺れる。黒服の車が離れるころにはため息を漏らして、痛ましい顔をしながら下げかけたショットガンをもう一度構えなおした。

 

 

「…スバル、なんて言ったの?」

 

 

「ごめん、ホシノだけにしか言えない事」

 

 

「むぅ」

 

 

ホシノの発砲をけん制するように、シロコがスバルの傍にすり寄り耳打ちするも答えはかえって来ない。スバルが屋上から帰ってきて、唐突に外に引っ張り出されたと思えば、ホシノとスバルしか知らない謎の人物と会談するなんて、どんな事情があるのかは少しくらい教えてもらってもいいだろうと思う。

 

 

「……」

 

 

「──」

 

 

流石に苦い顔をするしかないホシノを追い立てるようにスバルは言葉を続ける。

 

 

「黒服の事は……いきなりで悪かった、弁解できる何かがあるわけでも無いけど、でもホシノもシロコに黙ってただろ?お相子様ってことで」

 

 

「図々しいねぇ」

 

 

「セリカとアヤネを取り戻してくれるように頼んどいた、あと三時間後には……いや、『俺が取り戻す』二人を、無事にここへ」

 

 

「アイツはそんなに単純な男じゃないよ」

 

 

「分かってる、代わりに俺が代償を受けるさ」

 

 

「…………」

 

 

「ホシノが隠れて、隠してしようとしてたこと、ずっと一人で抱え続けれるなんて俺は思わない、一緒に来てほしくなさそうな顔しても俺はひっつき虫みたいにくっついてくからな」

 

 

「…なる、ほどね」

 

 

狡猾な男だ、どす黒い感情が沸き上がっては吐き出す直前で消えていく。一から十まで、あの前哨基地爆破の時から練っていたとするのなら、なんと合理性の塊のような男か。

後輩の前で、小鳥遊ホシノは引き金を引きたくない、引きたくないだけで、そのリミッターをホシノは外すことができるだろう。

 

その上で──。

 

 

「……」

 

 

引き金を、引き切れない。

ルールありとはいえ一度敗北した男から告げられたのは、黒服に会う前に『信じるか信じないかはホシノ次第』と前置きされただけ。

ナツキ・スバルの眩しさに目を瞑りたいのに、暗闇はホシノを救わないから、目を開けて見つめ合うしかないのだ。

 

 

「──何をどこまで知ってるかは気になるけど、今は見逃してあげる、けど…どうして君はアビドスに来たのかな?私達のこと、大体調べてるでしょ、何がどうなってるのか、どんな目に遭ってきたのか」

 

 

「わざわざ命を張ってここに来なくて良かった、君の命は…私達より軽すぎる、物理的にも君が思い込んでる事としても」

 

 

囁かれた一言は、ホシノにとって、狡いと嘆くしかないもの。

思考を鈍らせる毒でもある。

 

 

 

「……勘違いしてるかもだけど、俺はホシノ達の事なんっにもしらないぜ?てかまだ会って2日目だろ、ホシノの事、これから教えて貰う立場なのに」

 

 

「あー、でも…なんつーか、ここに来た理由は……俺の中に持論があるだけで……ホシノに、悲しいことや苦しいことから、『答え』を探さないで欲しいんだ」

 

 

 

「俺さ、ホシノの事大好きだから」

 

 

 

「──ホシノが苦しんでるところも見たくない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろ」

 

 

「……」

 

 

「メシだ、有難く食えよ?」

 

 

「──…」

 

 

暗闇にのまれる。光が世界を照らすことは無く、いつまでも世界は暗闇のまま、聞こえるのは下品な機械人間の笑い声と、たまに差し入れられるパサパサした何かと水。

必死にむさぼりつく、そうしないと生き残れない。

 

「セリカちゃん、お水です」

 

 

「あり……がと…」

 

 

小刻みに震える彼女の身体をさすり続ける、以前の事もあって、セリカちゃんにこの空間は酷すぎる。

 

 

「……」

 

 

私のせいだ、私がセリカちゃんと一緒に砂漠に出て、遭難してしまったから。

理由は分からない、本当にあの時は頭がどうかしていたと思う、変化しない現状と無視され続ける応援要請、ノノミ先輩は退学寸前で。

──ほんの少し、ほんの一瞬だけ心が諦めかけてしまった。

そんな時に、見かけた記事に頭の中が支配されてしまった、普段の自分なら絶対に踏み込まない、確実性のない記事。

 

アビドス砂漠に眠る高額な特殊金属の噂、ああ、本当にどうかしていたとしか言えない、セリカちゃんの制止を振り切ったのも、先輩に黙って先走ったのも、頭の中が誰かの声でいっぱいで、私がアビドスをどうにかしなきゃだなんて。

 

思ってなかったそんなこと、別に私一人の力はアビドスの誰かより秀でていることは無く、先輩の背中を追うだけで精いっぱいだったのに。

 

なのに、私は──。

 

 

「ごめん、ごめんねセリカちゃん…」

 

 

恐怖におびえて震えるしかない彼女を、私は抱き寄せる事しかできない。何かが解決するわけでも無く、いつ死ぬか分からない状況で、先輩の助けを待つだけしかできない。

それなのにどうして、どうして…?

 

 

「ごめん、なさい…」

 

 

今日もまた、暗闇の中で汚泥につかるように眠る。いつ終わるか分からないこの長い地獄と共に、何日たったかもわからない狂ってしまった感覚を元に、二人が助けに来てくれるのを待ち続ける。

 

待ち続けて、待って、助けてもらって…。

 

 

──その先には、何もありません。

 

 

 

「…ぁ」

 

 

 

──貴方に待っている真実は、何も変わらないという事実。

 

 

──貴方の世界に存在する真実は、決して変わることは無い。

 

 

「ぁぅ」

 

 

 

──貴方はこれからも、『苦しみ』という真実に照らされ続ける。

 

 

 

「…………ぅ」

 

 

「ぅう…ぅあ゛…」

 

 

 

すすり泣く日々は終わらない、アビドスは苦しみから抜け出せない。世界は、それでも何一つ変わらない、私が、私たちが抗い続けても、努力し続けても。

 

何一つ変わらないというのなら、抗ってきた意味も無い、セリカちゃんがこんな目に、こんな風になって、ノノミ先輩もあんな風になって、今もまだ二人が苦しんでるのも、私たちが苦しんでいるのにも、ノノミ先輩が苦しんでいるのにも…──。

 

 

終わりは、ない?

 

 

 

「ごめん、ごめん゛ね゛…──セリカちゃん…」

 

 

 

舌の上にわずかに残った水分で、後悔を述べ続ける。

謝っても無くなるのは水だけで、誰かが何かを与えてくれることも無い。

 

勿論、救われることも。

 

 

 

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 

 

 

 

 

「起きろ」

 

 

「あぐッ!?」

 

 

「ついてこい」

 

 

暗闇から解き放たれる。瞼を閉じた裏側から、どこにも出口がない部屋から、何かで埋まって苦しみ続ける思考から。

寝起きに背中を銃で叩かれて、思わず飛び起きる。セリカちゃんも私の驚いた声で飛び起きてしまい、二人そろってカイザー兵の銃口に晒されてしまった。

 

驚きも束の間、乱暴に強引に引っ張りだされた先は、また別の閉鎖空間、一度外を経由して重厚な外見をした車両に積み込まれる。

人としての扱いではなく、まるで荷物のようだ。あちこち痛いまま車両が走り出し、舞い上がる砂がぱちぱちと鉄の車体に当たる音が響く。

 

恐ろしい事に、余りにも迅速に行われたソレは、質問や理解をする前に別の場所へとたどり着こうとしていた。

運転席と後部座席を隔てる壁には、スライド式の小窓がついていた、「メシだ」とだけ告げられ投げられたのは、いつものようにパサパサの携帯食とペットボトル1つ。

 

だが、あんな暗闇の、閉鎖空間で食べるよりは随分とマシで、明るい場所だから初めてセリカちゃんが安心してモノを口にできる。

連れ去られる時に口に物を当てられて誘拐されたセリカちゃんは、暗いところだと水のような飲料か流動食でなければ吐き戻してしまうから。

今まではずっと1本のペットボトルの水でふやかしてから、食べさせなければいけず、その分…分け合える中身も減ってしまっていた。

 

 

「っ…何処に連れていくつもり?」

 

 

「……」

 

 

「私たちをどうするつもりですか…!」

 

 

「──黙れ、お前らに教えられることは無い、此方も動かされてる側だ、理解しろ」

 

 

「「……」」

 

 

イラつきのまま、小窓が勢いよく閉じられる。

動かされている……という事は、ただ単に監禁場所を変えるだけなのだろうか、それとも必要性が無くなったからこのまま何処かに捨てられるのだろうか。

 

 

「…──イラつき過ぎた、話しておけと言われていたんだったな…」

 

 

ススス…と、今しがた自分で閉じた小窓を再度開けるのに腹が立つのか、怒りを押えながらため息混じりの声が届く様に開かれる。

 

 

「お前達は人質になる…遂に利用価値が付いたんだ、喜べ」

 

 

「人質って…まさか、ホシノ先輩を…」

 

 

「勘違いするな、あの様な化け物とは人質があったとしてやり合わん、理事がアビドスを攻め滅ぼす為にお前らを利用する」

 

 

「攻め、滅ぼす──」

 

 

「校舎さえ破壊出来ればいい、戦う必要性は無い…それさえ達成出来れば理事の宣言が重視されるからな、まぁ恨むなら我々では無く、そうせざるを得なくなった『ナツキ・スバル』を恨め」

 

 

「………」

 

 

「そういえば、か、お前達は知らなかったな、小鳥遊ホシノを超える怪物がアビドスに付いた、そいつを殺す為にお前ら二人は生贄になってもらう」

 

 

「つまりは──今から、引き渡しと共に人間爆弾になってもらうって事さ、言い残したいことがあっても誰にも残せないのは、フハッ、残念残念」

 

 

 

──あぁ。

 

 

やっぱり、終わりはあるのか。

 

『終わる』事でしか、苦しみからは逃れられないのか。

 

 

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

エンジン音が続く、タイヤに紛れる砂の音、車体にぶつかる軽い音が多くなってきた事から砂漠の中を走ってるのが分かる。一瞬外に連れ出された時に見たこの車が走れるルートは限られているから、アヤネの頭の中では大体の予想が付いていた。

 

確かにこのルートは、高校を前にする砂漠へ向かっている。

助手席に乗るもう一人が暇なのか、窓を開け閉めして、そのせいで運転席に砂が入り込み怒鳴られている。

 

予想なら、予想通りならもうすぐだ。もうすぐ私達は……。

 

 

「よし」

 

 

「降りろ」

 

 

終わって、しまう。

 

頭の中で響く誰かの声が、余計に大きく、煩く響く気がして堪らない。それはきっと諦めを望んでしまった私の心で、この苦しみに終わりが訪れるのを望んでいる声でもあるのだろう。

 

車から降ろされて、身体にグルグルと粘着テープを巻かれた後、カイザー兵が慎重に、人の命よりも丁寧に扱いながら持ってきた、見たことも無いタイプのc4爆弾の様なものを、巻き付けるテープの途中に混ぜて固定していく。

 

現実味が無い感覚と、積み重ねられる現実の絶望に何処か冷静になってしまった、そうやって装着させるという事は、本当に生きて返すつもりは無いんだな、なんて。

 

漸く実感してきた頃には、恐怖で足が動かなくなってしまっていた。

 

 

「さっさと歩け、ノロノロと動きやがって…」

 

 

「っ!アンタ達何も思わないの!?」

 

 

「ああ」

 

 

「…──アヤネちゃん、手、握ってて……──アヤネちゃん?」

 

 

名前を呼ばれたのに、口が、手が、体が動かない。

 

染み出してくる諦めと絶望が、前に進む為の全てを麻痺させて──。

 

 

「アヤネ」

 

 

「大丈夫、先輩達ならきっと何とかしてくれる」

 

 

手が温かさで包まれる。

そうか、引き渡しが行われるのならシロコ先輩とホシノ先輩も来てる、二人に会えるならまだ可能性がある。

 

でもまだこの爆弾の正体が分からない、これが二人に被害を及ぼさないように何か手をうって……──、

 

 

「セリカちゃ──」

 

 

『決して変わることは無い』

 

 

「──」

 

 

『貴方はこれからも、『苦しみ』という真実に照らされ続ける』

 

 

そうだ。

先輩達に助けて貰って、その後は?

 

その後も、何も、変わらない。

 

 

「……」

 

 

ああまた、動かなくなってしまう。

セリカちゃんに引っ張ってもらわないと、もう何処にも行けなくて、何処にも行きたくなくなってきて。

 

 

泥を踏みしめるような足取りで歩く、セリカちゃんのお陰でまだ歩ける。

 

 

「ここから先はお前達で進め、あの車に受け渡し予定だ……何か一つでも怪しい動きをすれば撃ち抜くからな、逃げれると思うなよ」

 

 

「ふん、何よそれ…私達を失って辛いのはそっちじゃないの?」

 

 

「あまり驕るな、『弾数』が減るだけで困る大人が何処にいる?」

 

 

「っ…あっそ」

 

 

「行くよ、アヤネちゃん」

 

 

「……うん」

 

 

1歩1歩、黒い車に近づいていく。

どうにも離れないこの心の病を切り離すには、せめて先輩たちからこの巻きつけられた爆弾を引き離すこと。

ホシノ先輩の実力を知っておきながら、人間爆弾なんて、カイザーがするわけがない、おそらく何かとてつもない仕掛けがある。

 

そうだ、何も変わらないのなら、少しずつでもいいから終わらないといけないんだ。

 

苦しみが終わって、何も変わらない明日から抜け出せるのなら、私は。

 

 

 

「お待ちしておりました、奥空アヤネさん、黒見セリカさん」

 

 

「…親玉登場って所かしら」

 

 

「いえ、ククッ……いえいえいえ、私は唯の契約相手ですよ」

 

 

「同じ穴の狢じゃない、気味の悪い顔して…──それで、アンタが受け取り人?」

 

 

「ええ」

 

 

暗闇に炎が浮かんでるような、人間ではない。不気味な存在が車の前で待ち構えていた。

 

優雅な仕草で、二人を車内へと案内する。

 

 

「貴女方を待っていた方が居ます、お会いになられて下さい」

 

 

「「──!」」

 

 

くじけそうな心に、最後の希望を灯すのはアビドスの仲間達だけ。

 

セリカは先輩達に助けを求めるために、アヤネは先輩達を助ける為に、共に手を握りあって車の扉を開けた、その先には──。

 

 

 

「え」

 

 

「ぁえ?」

 

 

 

「──助けに来たぜ、二人とも」

 

 

 

「「誰!?」」

 

 

 

 

本当の本当に知らない人間が、したり顔でソファーに沈みこんでいた。

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