Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『明日を向く理由』

「花は枯れ、鳥は喉を枯らして正に飛ばず泣かず、人生バラ色はすっかりドライフラワーになって、天気は曇りのち曇り」

 

 

「そうやって暗く下を向くのも今日で終わり!これからはこの天下無敵の俺による、圧倒的で圧勝の希望に満ちた毎日がエブリデイのハッピーライフの始まり──」

 

 

続きどや顔を晒す男の頭を、セリカがスパーン!とぶったたき、「あいたぁ!?」とスバルがうずくまるほどの威力で突っ込みを放つ。

 

 

「聞こえてなかったとは言わせないわよ!?アンタほんとに誰なの!」

 

 

「それにホシノ先輩とシロコ先輩は…──!」

 

 

「だ、大丈夫だってば…痛ぇ……」

 

 

「氷嚢いりますか?」

 

 

「なんでお前そういう気遣いは出来てんの?」

 

 

黒服がマトモ側なセリフを吐くのは何となく分かっていたが、それはそれとして心配されたのが何故か腹立つ。

セリカに殴られるのはこれで2回目、毎度毎度クリティカルヒットを誘発するセリカの圧倒的な命中精度には感嘆が漏れる。

 

頭を貰った氷で冷しながら、未だ怯えを隠せない二人に向けて、暗く下を向き続ける毎日を終わらせるために自己紹介から始めるスバル。

 

 

「俺の名前はナツキ・スバル、何の変哲もないたっぷり愛情を受けた一般家庭の出で、キヴォトスの外からやって参った傾奇者」

 

 

「ナツキ・スバル……ナツキ・スバル!?あ、あんたが…?」

 

 

「他でもない俺が全知全能にして天下不滅の大富豪…ナツキ・スバル!ってふざけるのはここら辺に、黒服!爆弾の解除頼む!」

 

 

「分かりました、失礼します」

 

 

二人の耳に届いた名前は、先程兵士の口から聞いたアビドスの協力者の名前だった。

今思い返すと、確かに『ナツキ・スバル』の為に私達は人間爆弾にされて送り出されたのだ、その到着先の車の中に居るのが彼なのは何ら不思議では無い。

 

スバルが手招きをしてソファーに座らせて、二人に巻き付けられた爆弾を黒服が丁重に取り外し、爆弾を回収し始めた。

そんなことをすれば遠隔での爆破の危険性があるのでは無いかとオドオドしながら手解きを受けていると、「車内は妨害電波で包んでいます」と黒服がその不安を解消してくれた。

 

 

「ホシノとシロコも、二人の爆弾を外し終わった後にここに来るよう連絡してある、あともうちょいで周りに煙幕が降りるから、先輩信じて突っ走れ!──オーケー?」

 

 

爆弾を外された二人の体をチェックして、何処にも怪我が無いかを確認し、この先の戦いを乗り越えてもらう。

ベタベタと触りすぎて二発目を頭に貰ったがそれはそれ、まだ走れそうでよかった。

 

 

「い、いきなり過ぎるわよ!そもそもあんたが味方…──味方、よね、命張って来てくれてんだし…」

 

 

「…本当にホシノの後輩??信じてくれて嬉しいけどちょろ過ぎて心配なってくる」

 

 

「もう一発殴られたいの?……信じて貰いたいなら信じてって言えば済む話でしょ」

 

 

「──その通りだな」

 

 

全くその通りだと、今更ながらの常識を再確認させられて、信頼の証である握手をセリカに求めるスバル。

本当の事を言うのなら、沢山沢山裏切られ続けてきて、まだ安直に人を信頼する心根に心配を抱きたい、でも。

 

その素直さが、今のスバルには心からカッコイイと思える。

 

 

「初めましてセリカ、そして急だが俺に託して、俺に頼れ」

 

 

「俺は!二人を助けに来た!信じてくれ!!!」

 

 

「……──分かった、初めましてね、スバル…あんたの事信じるわよ?」

 

 

「モチのロン」

 

 

「…それと、お風呂入れてないから近寄らないでよね」

 

 

「安心しろって、グッドスメルグッドスメル!」

 

 

「──やっぱりもう十発殴らせて」

 

 

 

 

 

 

 

 

セリカと握手を終え、次に目を走らせるのは未だ暗い顔をして下を向いているアヤネの姿。

後ろめたいような、それでいて何かに怯え諦めるような表情を今尚続けるアヤネの手を握る。

 

 

「やっぱ、不安?」

 

 

「ぁ…い、いえ…」

 

 

目を逸らされた、目を逸らされたからこそ見つめ続ける。目を逸らしたい何かがあるというのなら、それを受け止めなければいけない。

スバルは吐き出せる相手が居て、吐き出せる情けない心持ちがある、でも彼女は……。

 

 

「アヤネが手紙、ずっと送ってた事は知ってる」

 

 

「それが無視されてきた事も、きっと辛かったと思う、それにホシノとシロコから聞いてるよ、アビドスのまとめ役だったんだろ?」

 

 

「そんな、私は…」

 

 

「誰も否定しやしないって、苦労してる奴にもっと苦労しろなんて言う奴なんてアビドスに居ないし」

 

 

「……」

 

 

「それとも、何か別の理由?俺が頼りないからか…?」

 

 

「だ、大丈夫です!本当に、大丈夫なんです、ごめんなさい、ナツキさん…」

 

 

中々心の口は動いてくれない、爆弾は外されて助けは来てくれる、この後のカイザーをどうするのかも説明すれば安心してくれるだろうか?

いや、きっとそんな事は関係無い、スバルが全ての問題を解決しようが、この類いの悩みは別のアプローチが必要だ。

 

そして今、彼女の悩みの内容なんてものをスバルは知らない。でも分かることがあるのも確かで、それは自責と諦めの織り交じった表情と態度からも分かること。

 

スバルも同じだ、同じ様になった事がある、というか常日頃そうだ。

 

 

「よっと」

 

 

「ぁう」

 

 

握った手をそのまま頬にまで持っていって両手サンド、アヤネの目線をスバルへと固定して逃げられない様にする。

 

 

「──同じ目してる」

 

 

「……?」

 

 

「あ、別に俺の死ぬ程悪い目付きのことじゃないから安心して」

 

 

「死ぬ程でも無いとは思いますけど…」

 

 

「慰めありがと、いつか園児に泣かれない目付きを目指してます」

 

 

傍に黒服が居るせいで、決めゼリフを言うにはちと恥ずかしい気持ちの方が先行してしまうが「こほん」と間をとって、スバルならではの言葉をアヤネへと渡す。

 

 

「アヤネが何に苦しんでるのかは、分からない、それに…そもそも人の苦しみはその人しか分からないから」

 

 

死に戻りを口外できないスバルにとって、『苦しみ』というものは……誰からも理解されないものだ、それを別に他者に押し付けたい訳でも無いから、スバルのこの苦しみは苦しみのまま、理解されなくてもいい。

 

 

理解出来なくてもいいんだよ、本当は。それでも前を向いて歩けるなら。

 

 

助け舟を出さなきゃいけないのは、それに引っ張られて後ろを向いてしまう時だ。

 

 

 

「分からなくても、『苦しい』ってのは事実だろ、いつまでも変わらねぇクソみたいな現状はある」

 

 

「……!──ナツキさんも、そう、なんですか…?」

 

 

「いーや、俺は運命様上等だ派閥」

 

 

「……」

 

 

「変わらないってなら変えてやる、神様が音を上げて幸せを寄越してくるまで足掻く」

 

 

死に戻りはそのチャンスを与えてくれている、でもチャンスだけだ、同時にやってくる苦しみや、世界の理不尽から守ってくれるわけじゃない。

 

 

「──それは……でも、何も……変わらない時も、あると思うんです、私達はずっとそうでした」

 

 

「世界は何も変わってくれません、変わらないまま……ずっと、それが待ち受けてる真実だって言われてる気がして…」

 

 

「…そうかもな、アヤネ達は変わろうって頑張ってんのに、中々微笑まない原因は…まぁ、大人達のせいでもあると思う」

 

 

黒服に指をさす。世界に生きるのが子供で、世界を作るのが大人、丁度今ここにはその両者が揃っている。

 

 

「だけどな…現実はそれだけじゃないぜ?アヤネ」

 

 

「それだけじゃ…?」

 

 

「確かに苦しいこととか、理不尽な事とか、事実も真実も見つめれば悲しいことばっかで変わらない」

 

 

「でも、それだけじゃない」

 

 

「──幸福や幸せな未来を思い描く事だって、世界の真実だって俺は思うよ、今までアヤネの目の前にアビドスの皆んなが一緒に居て、苦しいって思ったことは?」

 

 

「…無い、です」

 

 

「それが答えだと思う、真実なんてのが一つだけって誰も言ってない、どれが本当でどれが正しいかを選ぶなんて、毎日してる」

 

 

当たり前の事を当たり前に話すだけでいい、アヤネがどうしてそうも思うようになったかは、アヤネが決着を付けれるから、見失ったものを見つけさせるだけでいい。

 

確かに、世界が苦痛に満ちている事はスバルには変えられないことだが、そもそも人生は生きて死ぬまでの一方通行を走ってる。

 

スバルは、その『走り』をどう表現したものかと悩む、色々ヒューマンドラマやネットで小説を漁れば、命を燃やすだとか、流れ星のようにだとか、形容出来る言葉がわんさか出てくるから、スバルも感化されて──。

 

 

 

「青春真っ盛りなんだから、それでいいんだよ、アヤネ」

 

 

 

青春、青春を生きている人間。

 

沢山のものをごちゃ混ぜに、混沌を作りながら光り輝いて燃え走ってる星が、青春を生きている人間というもの。

 

色んな小説の合わせ言葉だけど、それが『らしい』言葉だと思う。

 

そんなだから、あんまりにも眩しくて、星々は互いがどんな星なのか見えないし理解出来ない。

見えるのは、星が残した軌跡だけ。

 

どう生きているか、では無く、スバル含め子供も大人も等しく理解出来るのは──。

 

 

 

「それでも下を向きたくなるぐらい辛い時は」

 

 

「誰かを頼ればいい、信用して、後ろを向くしかないから助けてって、信頼出来る奴に」

 

 

「今はそうだな…丁度、ナツキ・スバルが暇そうにアヤネのこと見てる」

 

 

「…──ナツキさんは…っ、なら、ナツキさんは、どうしてそこまで……」

 

 

「それも、お互い理解する必要は無い、俺が助けたくて、アヤネは助かりたいかどうかだけ、アヤネが俺の事を信じるかどうかだけさ」

 

 

「…………それでも…」

 

 

顔を歪めて「それでも」とアヤネは言う、相互理解を捨てて良いのかと、ただ『信じる』という言葉で終わらせていいものかと。

 

 

「まぁ、理由があるとしたら…伝わんねぇかもだけど」

 

 

「──俺が、ナツキ・スバルだからかな」

 

 

ナツキ・スバルだから、両親に愛情を込められて育ってきて、ここまで生きて、歩んできて託されたナツキ・スバルは、今もまだ無性に誰かを救いたくてたまらない。

理由なんてご大層なものは無い、理由が無いのに何故ここまでと聞かれれば、きっと俺だけにしか分からないって返すと思う。

 

スバルは、それを聞いてキョトンとした顔を晒すアヤネに、思わず吹き出しかけたのをアルカイックスマイルまで抑え込む。

「ほらな」と言って肩を叩き、アヤネに喝を入れ直した。

 

 

 

「俺の事、信じて走れるか、アヤネ」

 

 

「…はい!」

 

 

「カウントは後二十秒後!3・2・1で飛び出して、煙幕の中真っ直ぐ走れば二人が奪取してくれる!」

 

 

「──ノノミも必ず取り戻す、だから今だけは頑張ってくれ、セリカ、アヤネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれほど衰弱していた人間に走らせるなんて、酷なことをするつもりはなかった、だけど、思ったよりも元気を取り戻してくれて、このよく回る口もまだ捨てたものではないと思う。

 

 

『今だ!走れ!!』

 

 

精神的にも肉体的にも疲れきった、ふっかふかのソファーに沈み込むようにもたれかかる。

対面に座る黒服が、お疲れ様ですと言わんばかりに飲み物を差し出してきた。なぜここまで俺に気遣いができて、アビドスをこんな目に合わせたのか疑問に思うほどに接待を受けている途中だ。

 

 

「まっ、その理由は…ホシノの事だよな」

 

 

ホシノとの会話の後、スバルは以前までのプランをまるっきり変更した。夕方まで待機はあまりにも時間を無駄にしすぎる。手早くそれでいて、迅速に二人を救い出すためには、黒服の車に乗って現場まで行くのが一番試してみて早かった。

 

運ばれている途中、ホシノの暴走のことを事細かく聞かれたが、スバルだってそう鮮明に覚えているわけではない。派手なビームや、暴走した状態のホシノの姿形、世界の変わり様を説明するだけしか出来なかったのだが──。

 

 

『雷の化け物、ですか?』

 

 

黒服が最も興味を引いたのは、あの異形の怪物の事だった。

その話をしただけで、今の特別待遇を用意してくれたのだ。

 

 

「ククッ…同時に脱出なさらないでよかったのですか?」

 

 

「俺には最強の相棒がついてるから大丈夫だ、お前が気にする必要は無ぇよ」

 

 

「ふむ、シッテムの箱…ですか」

 

 

「名前知ってんだ」

 

 

「ええ、はい」

 

 

絶妙な雰囲気が流れる、冷徹な間柄のようで、もはや親しんだ友人かのような距離感を保ち、それでいて、敵対心はしっかりとスバルの内にある。

 

 

「さて……この爆弾の正体ですが、これはゲマトリアの一人、デカルコマニーが作成したヘイローを破壊する爆弾です」

 

 

「…ヘイローを?」

 

 

「ナツキさんは彼女らの頭の上に浮かぶヘイローの正体を知っていますか?または、何の作用を引き起こしているのか」

 

 

「全く、でも神様の頭の上の輪っかだったり、後光とか言われてんのは知ってる」

 

 

そういえば、異世界に来たからといって、頭の中ですっかり見慣れた光景として処理していたヘイロー。

空にも浮かんでいて、生徒の一人ひとりの頭の上に浮かんでいるそれの正体を考えたこともなかった。

 

 

「仰る通りです、ヘイロー…それは所謂、『神性』の現れとも受け取る事ができます、銃弾を受けても無傷な肉体強度、生徒一人一人に現れる特異な技能、それらは全て神性の影響下にあります、ナツキさんも一度現実を超越した動作を見たことがあるのでは?」

 

 

「──あるわ」

 

 

そういえば、はちゃめちゃにある。ヒナの跳躍力や、セナの明らかに手荒な扱いをしておきながら、全てが完璧な治療を果たす謎の光景。

 

 

「言ってしまえば、ヘイローとは彼女らの『存在証明』に他なりません、最もそれを破壊するなどと大それた事は行えませんが……」

 

 

「あ?でも今ヘイローを破壊するって……」

 

 

「デカルコマニーは、ヘイローが持つ神性の二面性からこの兵器を作成しました、神秘と恐怖、神性の内……神秘に大きく傾く彼女らは、天秤が片方に寄っている状態です」

 

 

「その天秤を恐怖へと強制的に反転させる、元の存在証明を失った彼女らは、結果として命を失う」

 

 

「……」

 

 

それが外傷なく、ホシノらを殺すに至る爆弾の正体か。

なら、あの爆弾を使ったであろうガスマスク生徒はそれを知っていたのだろうか?本当に死ぬ気で自爆しに行ったのか?

 

 

「このことを……知ってるのはゲマトリアだけか…?」

 

 

「──はい」

 

 

「───」

 

 

ああ、クソったれ。

零しちゃいけないもんが、また見えてきた。

 

 

「はぁ……OK、それで地下生活者の事は」

 

 

「彼は………………ぁぁ、中々に説明が…難しいのですが……」

 

 

「地下生活者、彼は一度相応しくないとしてゲマトリアを追放されました。特別な空間に潜み、彼は盤上を遊具のように遊ぶことしか目的が無い、望みを果たす為には『大人』の殻すら捨ててしまうお方です」

 

 

「ナツキさんの口から彼の名が出てきた時は驚きましたよ。存在を抹消された彼を知る事が出来るのは我々だけだと……」

 

 

「──我々ゲマトリアがキヴォトスに見切りをつけ始めた頃、ゲマトリアのとある方が彼を解放してしまったのです」

 

 

「結局はお前らの責任かよ!!」

 

 

「申し訳ございません、彼の事については解放後の動向が掴めずにいます、彼の潜む空間を察知できるのは……──」

 

 

黒服の視線の先には、スバルの胸ポケット。今なお演算を続けてスバルの脱出ルートを算出しているアロナ。

 

 

「……そうか」

 

 

察知出来るという事は、察知されるという事。あの時のアロナ不調の真相は……地下生活者の仕業か。

 

 

「彼の引き起こす事は、我々ゲマトリアにとっても望むことではありません、出来る限りのお力添えはさせていただきたいと考えています」

 

 

「…………」

 

 

「……ふー」

 

 

「はぁ」

 

 

「あー…………その」

 

 

「ありがとな、黒服」

 

 

「───!!」

 

 

「ククッ、クックック……クククッ…ええ、契約通りに働かせて頂いただけですので、これはサービスと言わせて貰いましょう」

 

 

「でも一生ホシノ達にしたことは忘れない、その責任もいつかは取ってもらうぜ?」

 

 

「構いません、その時はまた、良い話し合いを」

 

 

「──ご健闘(検討)を願いますね、ナツキさん」

 

 

 

 





ヘイロー破壊爆弾の解釈は……作者の独断と偏見です、許して……。
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