Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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大人(先生)に成れない男』

 

 

「ーー貴方が『その人』ならば、置き手紙の内容を実行できます、それが理由です」

 

 

「一日の密度が凄すぎる、これが異世界生活か…!」

 

 

エレベーターを昇りながらそう呟く。

 

天衣無縫、以下略を挟み建物の中に入ったスバルは、七神リンと自己紹介をした彼女とヒナと共に、シャーレの部室へと足を踏み入れていた。

ワクワクしながら足踏みをしていると、隣で資料を捲る音が早くなりどことなく場の雰囲気も変わる。

 

 

「スバルさん、あまり浮かれないように」

 

「…そもそもキヴォトスの全区域の発電所、もとい半数の公共施設はサンクトゥムタワーの制御無しには動きません」

 

「サンクトゥムタワーつーと、あのデカイ奴だよな」

 

「そのサンクトゥムタワーの制御を担っているモノがここにあります」

 

「段々腹みてぇな構造…」

 

発電所の構造など知ったことじゃないので、スバルが何か言うわけにもいかないが…こんな国同士がつながり合っている様な都市で、公共機関の制御が一本にまとめられているというのは…。

 

だいぶやばいんじゃないかなぁと。

 

そもそんなスペックを持ったコンピューターは、現代日本にも存在していない、スバルの脳内に浮かんだSFチックな超巨大マザーコンピューターみたいなものがあれば、可能なのかもしれないが…。

 

最終的に案内された場所が、個室。しかもかなりの小規模なのを見てその思考が消え去った。

 

「えっと、なるほど、なるほど?この部屋の真下に超巨大空間が広がっていて、それはもう巨大なロボットとか、格納できる秘密基地みたいな場所があるんだよな?」

 

「ありません」

 

「じゃあウルトラcコンピューター的な世界がひっくり返る秘宝のパソコンだとかは?」

 

「ありません」

 

「……」

 

「今までどうやってキヴォトス成り立ってたんだよ!?!?」

 

「その秘密が、こちらです」

 

リンが手を差し、スバルの視線を誘導する。

 

その手の先にあったのは、部屋の壁に埋め込まれたような形の真四角の液晶画面。スバルの記憶には日本でも後々発売予定だったタブレットと呼ばれるような物に酷似している。

 

 

「これ…が?」

 

 

「…これが連邦生徒会長が残した中で未だ唯一稼働しているもの、私達では何一つ解明できず、何故、どうして動いているのかすら分からない遺物」

 

 

「『シッテムの箱』」

 

 

暗い部屋に、一つのタブレット。それが壁にハマっているだけの場所。

 

そのタブレットの画面には数字が浮かんでおり、それはまるで。

 

 

「この、数字…」

 

 

ーーまるで残りの稼働時間、持っていた携帯の充電告知のように、液晶画面からは数字が表示されていた。

 

その数字は、0。

 

余命を告げ終わった患者の前に立つような、消えたロウソクを見つめるような、そんな気持ちにさせられる。

 

 

「この数字が減り続けて約六ヶ月、止まった日はありません、止まってしまった数字を元に戻す事も叶わなかった」

 

「今はまだ各自治区は各々の対応、応急処置によって成り立っていますが、この状況が続けば……ーー未曾有の事態が招かれます」

 

「い…いや、いやいやいや!まて、待ってくれ、ここに連れてきた理由ってコレかよ!?判別するって……違う、無い、絶対無い!!俺じゃ無いって!」

 

「…例え、そうでなくても、私達には連邦生徒会長が残した手紙に頼るしかありません、キヴォトスが沈むその日に現れた貴方が、偶然にも手紙の特徴と合致していた」

 

「貴方がアレに触れれば、きっと…」

 

「で、でもそんな、何も出来ねぇって、もし俺が触れて、それで無理だったとしてさ……その後どうなるんだ?」

 

「それは…」

 

「……」

 

「ヒナ、ヒ、ヒナはどう思って……ーー」

 

 

「っ?」

 

 

ーー諦め。

 

そんな感情が顔に浮かんでいる。あのヒナがだ、今分かった、本当に縋るような思いで、彼女らはスバルのような特徴を持った人間を必要としていたのだ。

 

空崎ヒナと七神リンが業務の手を緩めることは無い、どんな事情があれ彼女らは守りたいものの為に心力を尽くす。

 

その二人が今、並んでナツキ・スバルを見つめていた。

 

 

「……はは、そりゃ大変だよな」

 

「…ーー」

 

 

異世界に来て早々とんでもない事に巻き込まれた、たった一日だがこの世界の生徒が背負っている業務や責任は見てきたつもりで、この件に関わるという事は責任を追うという事。

何も無くても、何かあっても、ナツキ・スバルは誰かも知らない言葉に踊らされる。

 

そんな事を自覚している訳では無い、ただ単純に……ーー救う為に、ただ触れて済む話なら、彼女らの為に動こうと思っているだけ。

 

 

「分かった、分かった分かった!やってやるよ!…触れるだけなんだろ?」

 

「…!」

 

「助かります、そのお声を頂けて良かった」

 

「もも、もし起動したら…ーーヒナ、恩義は返したって事で!」

 

「……助けた事に恩義なんて感じなくて良い、アレは業務だから」

 

「そう言わずにさ、待ってろよ!俺のゴッドアームでヒナの酷い勤務状態をパパっと解決して〜…ーー」

 

 

数歩踏み出し、シッテムの箱に触れるその瞬間。

 

 

ーー警報らしきアラーム音が部屋に鳴り響く。

 

 

「どわぁ!?え!?俺また何かやっちゃいました!?!?」

 

 

「ッ、何事です!…はい、もしもし?ーー《災厄の狐》…」

 

 

 

アラームに驚いて、コケてしまいかけたのを足で支え…後ろで待機していたヒナとリンに駆け寄った。

 

スバルはその時、パパパパッ、と何かが弾ける音を耳にする。

 

軽い空気混じりの何かが破裂する様な音、近いものではクラッカーが近いだろうか?

 

ーーそんな事は気にとめず、二人へと向かう。

 

 

 

 

「あら、あらあらあら、困ります」

 

 

「ーーぁ?」

 

 

気が付けば、頭が床のコンクリに触れていた。

 

酔っ払った覚えは無い、千鳥足にも大概にしろ、どれだけ緊張していたんだと思いながら再度立ち上がろうとする。

 

 

ーー立ち上がれない?

 

 

何が起きているか分からない、でも、何が起きているか分からなくても……ーー俺が何をすれば良かったのかだけは思い出せる、あのタブレットに触れればいい。

 

何故か分からないが、重い体を引きずって…タブレットの前まで辿り着く。

 

 

「ーーー!!」

 

 

誰かが叫んでいる、でも、聞こえない。

 

 

ーー指先が、タブレットに触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私のミスでした」

 

 

知らない子、知らない声、知らない顔。

 

でも、確かに何度も触れた暖かい声。

 

 

「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」

 

 

「結局、この結果にたどり着いて初めて、貴方の方が正しかったと悟るなんて…」

 

 

そんな事は無い、ナツキ・スバルの人生において正解を選んだ瞬間等無いのだから。

 

失敗、失敗、失敗の連続。

 

 

「……今更図々しいですが、お願いします、スバルくん」

 

 

何の話だろうか、ナツキ・スバルは、誰から、何を頼まれているのだろうか。

 

 

「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」

 

 

「何も思い出せなくても、スバルくんなら『選べる』筈ですから」

 

 

「ですから……大事なのは経験ではなく、選択」

 

 

ーー何を、言って…。

 

 

「スバルくんにしかできない選択の数々、責任を負う者について、話したことがありましたね…」

 

 

「あの時の私にはわかりませんでしたが……今なら理解できます、私は大人になる事なんて出来なかった」

 

 

「…『溺れるものは藁をも掴む、人生という大海の中で』ふふっ…度々、変な格言みたいなもの言ってましたよね」

 

 

「貴方は変人で、意気地無しで……お調子者で、時には腹が立つ位に自信満々で…」

 

 

「…ーーそれでいて、責任から逃げない」

 

 

「溺れかけていた私が、私だけが縋れる藁、それがスバルくんです」

 

 

「ですから、私は貴方を信じられる、貴方の選択を、決意を、判断を信じられる」

 

 

「この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を、そこへ繋がる選択肢を見つけれる筈」

 

 

ーーだからスバルくん……どうか、必ず。

 

 

 

 

私を、救って下さい。

 

 

 

 

 

「あぇ」

 

冷たいコンクリートの感触を後頭部に味わい、自分が仰向けに倒れている事がわかる。

痛みによって身体が硬直し、生き残る為の行動を取ろうにも思考に反して身体は全く動いてくれない。

ただひたすらに、臓腑を煮られる様な感覚に襲われている。

 

 

――熱い、痛い、苦しい、冷たい、寒い。

 

 

誰と話していたかは分からない、でも今が現実である事だけがナツキ・スバルに与えられた唯一の理解。

 

 

「ごポッ…ーー」

 

 

こぽこぽと喉が鳴る、それは息をしようにも喉を塞いでいる血の塊が吐き出せていないからで、肺に空いた穴が咳き込む事すら許してはくれないのだ。

自分の口から流れ出るまでもなく、身体に空いた隙間から隙間風が通り過ぎるのを感じると、床に赤一色が広がっているのも見える。

 

 

――俺の中に、こんなにも血が巡ってたのか。

 

 

「……」

 

人体の神秘、どう考えてもこのナヨナヨした身体に入り切る量では無い血の海が広がっていく。

保険体育の授業で習った気がする、成人近い人間の肉体には約六割の水が流れていて、それで血の量が……。

 

 

ーーなんだっけか、思い出せない。

 

 

初等教育すら忘れる自分に目眩がする、それか血を失いすぎて目眩がする。

そうだ、確か人体の三分の一の血が失われたらヤバい筈、もう全部抜けきってる気がしなくも無い。

 

 

「ーーヘイローが無い?」

 

 

今自分がどれだけ死に体であるのかを理解すると、身体から力が抜けていく、三途の川でバタフライでもしている様な高揚感は、死にかけるとアドレナリンが大量に放出されるというアレであろうか。

だが、確かに身体から感覚は失われ、ヒュウヒュウと吹いていた身体の隙間風も遠く感じなくなって消え去っていった。

 

 

ーーああ、死ぬのか、俺。

 

 

消える意識からは、魂が他界しようとしているのを感じる。

天井のシワを数えていればすぐに終わるこの時間で、特別何かをする意欲は無かった。

銃で撃たれれば人は死ぬ、そんな当たり前の事があるのに襲われた自分はどうしようも無かった、仕方なかったのだと。

 

 

「…ーーバル」

 

 

そんな事も理解出来ない狂人に、殺戮者に襲われてしまったのならば、そこに『死』以外の結末は無い。

 

ただ『死』を目の前に願ったのは――彼女が今後救われて欲しいという事だけ。

 

 

「ーーないで」

 

優しい羽が触れるような、優しい音色が聞こえた。

 

記憶に新しい声、空耳かどうかも分からないが、きっとすぐ側に来てくれている。

その声は頼りになる、安心出来る、心地よい感情が溢れてくる。

 

だから――。

 

 

「……っていろ」

 

 

近付いてくる『死』を、魂から引き剥がし叫ぶ。

今冷たいコンクリの上に寝転んでいるのは、失敗した人間の、盲目的で愚かな人間の取り返しのつかないミス、俺のミスのせいだ。

 

 

だが、それでも――。

 

 

「俺が、必ず――」

 

 

――お前を、救ってみせる。

 

 

 

次の瞬間に彼――ナツキ・スバルは命を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃て!撃てぇッ!!」

 

 

「グレーネーード!!避けろぉッ!!」

 

 

「……」

 

 

「ーーは?」

 

 

 

 

ーー目が覚めた。

 

 

目が覚めて、目が覚めた。目が覚めてしまったナツキ・スバルが目にしたのは…。

 

 

「え?ーーえ?どゆこと?」

 

 

この世界に来た時と、何ら変わりない銃撃戦だった。

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