「死ぬかと思った」
「ん」
「死ぬかと思った」
「…ん」
「死ぬかと思った」
「……もう聞いたよ」
本当に死ぬかと思った、こんな凡ミスとケアレスミスで死ぬなんて本気で嫌だ、何百回死んでも死に方というものがあるだろう。
あのクソガキッズ2人の暴走でビルの下敷きになるとか、本当の本当に冗談じゃない。
そして、死ぬかと思ったのは1回だけじゃない、ビルの倒壊だけなら語るのも1回でいい。
──シロコに抱えられて、空を舞うまでは、まだ泣き叫ぶ余裕はあった。人間…本当に命の危機に瀕すると思考が真っ白になるというが、それは間違い。
逆だ、頭の中は助けての声でいっぱいなのに、身体が動かなくなって言葉が出なくなる。引き伸ばされた走馬灯の中で、永遠に思考させられるのに身体は動かず、恐怖を与えられ続ける。
それを言葉で表した結果、今地面に触れていることに感激感動雨あられの涙を流し、シロコの膝元でプルプルと震えながら話した『死ぬかと思った』で、あった。
「「……」」
勿論被害者はスバルだけでなく、スバルが助けてと言った2人も絶賛地面の上で気絶中。
まさか倒壊するビル同士を足場に壁ジャンプをしながら、蝶のように舞い、蝶のように羽ばたき、蝶のように降り立つシロコは一切の衝撃を、抱えた3人に伝えなかった。
だがそれでも、それでも彼らは空を舞い、鼻水と涙、又はオイルを流しながら許された最後の抵抗は『死にたくない』『死ぬー!?!?』と叫ぶ事のみ。
「しんじてた、うん、しんじてたから、だいじょうぶ」
「スバル……」
ロボットのように固まって動かなくなったスバルを一生懸命撫でているのだが、涙を流したまま元に戻らないので、シロコもいよいよスバルが壊れてしまったのかと心配する。
「…──約束守れなくなっちゃった?」
「そんな訳ねぇだろ」
「良かった、元に戻った」
「常世に戻ってきたぜ俺、いや〜、ほんとマジ助かったわ」
「それじゃ説明して、何の為にここに来て、何の為にあんな事してたのか」
「えーっとな…質問を質問で返すのもアレだけど、先に聞いていい?どうやってここまで…?」
「ん、自転車で」
「そっか〜自転車でか〜…」
最近はツッコむことを止め始めたスバル、朗らかで寛大な気持ちで非現実を抱きしめる。
そしてスバルは今、とある必要を迫られていた。それはシロコの質問に答えること、目を見れば分かる。
──めちゃくちゃ不機嫌だ。
ただでさえ訳の分からない状況に訳の分からない事を重ねた側、言い逃れる術なし。
「言い訳したら、許さないよ」
……言い訳する余地も、無いようだ。
■
「──」
絶句している。
勿論スバルでは無く、シロコが。
「──……」
信じられない程に目をかっぴらいて、膝を折りたたんで地面に座り込む……というよりは土下座の前準備のような姿勢をとるスバルを見つめて、数十秒。
やった事と言えば、隠せば隠すだけ悲惨なことになるであろう真実達を包み隠さず話しただけ、少しだけ脚色して例の爆弾やら傭兵やらは…ぼかして伝えたが、それでも危険性はなるべく話した。
それはそれは実感の籠った、というか体験した事だから熱を込めて話してしまったが、それも悪影響を与えてしまったみたいで……。
「約束二つ目、覚えてる?」
「…自己犠牲をやめましょう」
「ん」
「で?」
「ヒュッ」
しゃがみこまれ、顔を覗かせるシロコ。
その『で?』には、今スバルがしている事に対する疑問が含まれていた、端的に言えば……それで君は今何をしているのかな?と。
いつもは優しい笑顔を覗かせる教師が冷静にキレているような、ギロチンの刃が首の上に構えられているかのような気持ちになる。
「…い、言い訳はなんもない、危ない奴らが危ない事してる、それがアビドスのみんなにも被害があるって事が分かってるのなら俺は──」
「
「その危ない爆弾が私達の命を奪う、アリウスが襲いに来る、だからアビドスに入らせない為に道路を塞ぐ」
「じゃあ、アリウスは何のためにアビドスに来るの──?」
「それは…」
それは、俺が目的だ。
スオウに関わらずとも、必ずアリウスはアビドスにやってくる。護衛のふりをしてネフティスの上層部を壊滅させて、その後に俺に見せつけるよう遺体を晒す。
そこまでしてやりたいのは、スバルに対しての嫌がらせか何か、正気じゃない連中の考える事は分からない。
どっちにしろだ、どっちにしろアリウスに関してはスバルが目的でやってくる。
「……──」
「直接的に私達とアリウスに関係性は無い」
「──スバル、全部話さなくていいけど、そんなに私の事信頼できない?」
「違う」
「違う…ん、分かった」
早すぎる了承に今更言葉を渡すつもりは無い、悲惨な状況になっていたのは大体ヒカリとノゾミのせいではあるが、そこは問題では無く、ひた隠しにしていたネフティスとアリウスの事。
「『信頼できてないのはシロコじゃなくて、俺自身なんだ』」
「『俺自身がシロコ達に力を借りれるほど、自分に自信を持ってない、嘘偽りなく…──これだけは事実で、俺の欠点』」
「『だから、ごめん』」
しっかりと頭を下げる。間違っていたのはスバルの方、そこにも間違いは無い。本当なら先に話すべきだったことを、例の爆弾がらみなこともあってスバルが億劫になっていた。
だから誠実に頭を下げる事がシロコの気持ちに応えれる唯一の反省。
何百回繰り返したこのやり取りを、一度たりとも要らないものだとは考えたことは無いが…──、
無数に繰り返しても、いつも心配してくれるアロナとシロコには、心配かけっぱなしで申し訳ない気持ちは確かにある。
少しずつすり減ってきた人間性が、会話をするだけでもりもり回復するかといえば噓になるけれど、哲学的ゾンビになるよりはずっといい。
「はぁ…いいよ、それも分かった、でも」
「あの砲台乗り回してた奴らは許さなくてもいいよね?」
「あーーー…──そのーー、まぁ、一回叱ってくれ…一応仲間なんだけど、流石にオイタが過ぎるから…てかなんで砲撃止まってんだ?」
《私が制御を奪取いたしました、遅くなって申し訳ございません》
《同時に反省教育プログラムextremeを執行中です》
「…………」
《二度とあのような事が起きないように、そして今後もスバル様のお役に立てるようお二人を…──》
「ストップ、アロナストップ、文言的にも絵面的にも不味すぎるからそれ」
《はい》
「それじゃ私があの二人と話すのはいい?」
「いやほんと、勘弁してあげて下さい」
■
列車に戻れば、待ち受けていたのは顔面をべしょべしょにして泣いていた2人の姿だった。
「反省しましたか」
「「…」」
「返事は」
「「…」」
へちゃむくれて返事を返さない2人を見ていると、漸く年相応な姿を見れたなとほんわか……する訳にはいかない。何せこちとら命の危機、守るはずの味方に背後から刺されてどうするんだという話。
「だって、だってヒカリが…」
「ノゾミが勝手に…」
「ん…言い訳するつもり?」
「「…」」
「あんま怖がらせるなよ…?」
この2人に泣きべそかかせるなんて、アロナもどんな手段を使ったか知らないが、最近やけに過激になっている気がする。
おかげさまで予定の1時間より早くビルの解体は終わり…ついでに新しい情報に加え破壊工作を試みるアリウス兵もろとも一掃できてしまったので……利益だけで考えるとプラス…なの、だが…。
──地下生活者の動向が掴めなくなった。
スバルが画策していた事として、あからさまに地下生活者の手が加わっている事態を解決すること。
例えば、スオウによるホシノの扇動とアリウス兵によるアビドス襲撃は確定と言うわけではないが、奴の仕業だと考えていい。
全ての要素はあの死に戻りに詰まっている、黒服は常にホシノの身を案じてきた……──アリウス兵を使い、アビドスの皆をホシノを暴走させる為に殺害し、最後に煽りを加えてくるような奴が、事前にすべての策を封じられると、どうなるだろうか?
「……」
「お兄さんが撃っても良いって言ったんだもん!」
「お兄さんのせい…」
「確かに俺も悪かった、協力してくれって頼んだのは俺だし…それに、ちゃんと俺が目指してることを話しても無かった」
「ごめんな、二人共」
頭を下げるスバル、下がった頭のつむじを見つめていると…──、
「──はい、俺も謝ったから二人も謝る」
「~っ!…ごめんなさい」
「………ごめんなさい」
「お構いなく、力、貸してくれてありがとな!ノゾミ、ヒカリ」
涙をジャージで拭って、持ち前の筋肉…さして力持ちではないが、幼女体型を二人分抱えるぐらいわけも無い。
アロナがどんな目に合わせたのかは…──二人が乗る砲台の制御を奪える時点で察しはつく、デスメリーゴーランドとかされたんだろ、多分。
「よ~しよしよし、それでなんだが、列車…もう一回使わしてもらってもいいか?」
「…むー、それが目的でしょお兄さん」
「別にいいよ、どうせこの騒ぎで暫くは監視官も忙しくなるだろうし~」
「よっしゃ!それじゃ次、は、ぉ…──つぎは…」
何故か後ろからシロコに首を絞められながら、次の目的地をお願いする、次の目的地は…──そう、アビドス高校だ。
一旦帰ります、マイホーム。地下生活者のやりたいことは全部潰した、なら今すぐにでもノノミを助けに行きたい気持ちはあるが、まだカイザーがらみの問題が解決していない。
アコの力を借りてカイザーは撃退する、カンナに連絡して理事を逮捕してもらった後に、戦力を分散して全員を守りながら地下生活者の動きがあるまで待つ。
つまり、今スバルは手持無沙汰なのだ、今以上に何かできることが思いつかない、じっくりじっくり地下生活者がキレるまで待つ時間でもある。
何か制約があるのか、今まで奴は直接的な介入はしてこなかった。ここまでやってアクションが無いということは、『できない』方で考えてもいい。
ノゾミとヒカリのお陰だ、スピードは命、てかはやくシロコのチョークスリーパーから逃れないと意識がとおくに…──、
「ずるい」
「な……にが…」
「…──スバルって、ずっとそんな感じなの?」
「……??」
「と、ともかく、いったんアビドスに…」
意識がなくなるギリギリにそっと二人を地面に下ろす、そしたら首絞めから解放されたので咳払いをする。
降ろされた二人もシロコも不機嫌な理由はスバルにあるんだろうけれど、こんなちっさい子にスバルは恋愛的な好意を向けるわけが無いのに、軽いボディタッチで怒りすぎだろとは毎回思ってる。
スバルにだって、シロコに対しての好意はある、そりゃ勿論だと大声で言える。天を貫いてもまだ足りない位にはスバルからシロコへの想いは天元突破だ。
──それを表に出していいのは、スバルが全てを終わらせるまで。
「帰ろうぜ、みんな待ってるだろうし」
「ん」
この世界は苦難と同時に、スバルから失われたものは取り戻させてくれる。こんな事口に出せば全員から即座に嫌われるだろうけど、ヒナもホシノもカンナもアコもアルも、シロコも、今までかかわってきた全員の事が好きだ。
様々な面で好き、神すら惑わす魅力が詰まった皆の事が大好きで仕方がない、声を熱情で震わせて、血液が沸騰しそうになるほどの愛情を外へ放出したい。
例えばヒナ、ヒナはこの世界に舞い降りた天使だ。純白の白髪は天使の柔らかな羽を想起させる、それに本人が恥ずかしがるので言葉には出さないけれど、あの小柄さに似合わない筈の蠱惑魔的な衣装は正直心臓に悪い。
スリットが入った丈が短すぎるキュロット、あそこのスリットから覗く肌に目線が吸われるのは仕方がなさ過ぎるだろ。卑怯だと思う、声も溶けるように甘い、仕草は無意識の内に何人かの心臓を止めてもおかしくない。
例えばホシノ、普段昼行灯を装っているが…──あの所々染み出るイケメンしぐさには予想以上に胸に来るものがある、ギャップというやつだ。といっても冷徹な所しか見てきていないせいでどっちかというと後輩が戻ってきたときに見せた可愛らしい姿の方にギャップ萌えしているのだが。
例えばアコ、は、まぁ、ご本人の趣味ならいいんじゃないかな。否定はしないよ、否定は。
…──冗談は置いといて、彼女も彼女なりにヒナの為なら尽くす思いがある所は微笑ましく好ましい。
例えばシロコ、何十回、何百回でも色褪せないケモミミの味は、消えないまま口の中に残り続けている。膝枕をしてくれる存在はシロコを除いて他にはいない、特別な時間であり特別な空間が作成される。触れ合うふくらはぎとの感触は保存して枕にしたい。
色々述べたが、皆が『ナツキ・スバル』の事を好きな訳が無いし、今の所約束の件もあってシロコからの好感度は…──高いのか?ともかく、頭の中でこんなこと考えてる時点で好かれる筈無いが…。
──愛しいからこそ、それらが穢されたときの全ても覚えている。
そうさせてしまったのがスバルの落ち度である限り、スバルに想いを発露する権利は無い。
「それじゃ操縦席に行くから、お客さんの二人は何処でもいいから席に着いといてね」
「出発進行まで少しの間お待ちくださーい」
「はいはい、なんか列車内サービスとかあったりする?」
「列車が空を飛ぶならあるかもね、それとも飛ばしてみてもいいけど」
「マジでやめてくれ、もう二度と生身で空中に放り投げだされんのは嫌なんだよ、特にパラシュートも何も無い状況での空中散歩は!」
「凄い実感籠った声、もしかしてそこの怖いお姉さんと関係あ…──ったりしそ~だねー」
「そんなに怖く見えるんだ、私の事」
「ひぇ~」
「シーローコー、脅さない」
「脅してない」
あっけらかんとそっぽを向き、何か別の恨みでもあるのかやけに当たりの強いシロコをなだめて席に座る。
膝の上に載ってくるシロコを引きはがしてリラックスをするスバル、せっかく休憩時間が湧いて出てきたのだから、この後の事も考えて余力は残しておきたい。
頑なに膝上へと座ることをシロコが諦めてくれないので、スバルが先に引きはがすのを諦めて数分、出発準備が完了したとの車内放送と共にノゾミとヒカリの声が響き渡る。
さっきまでのクソガキムーブからは信じられない程に、礼儀正しく仕事人といった様子を見せる車内放送は、普段なら無造作に響き渡るだけのものだが、今だけはスバルとシロコだけの注意喚起。
超高級のプライベートジェットに乗っている心持ちで列車が動き始めた、Gがスバルの身体を席の背に押し付けて、だんだんと加速していく。
「………本当は、もっと早くホシノにノノミを会わせてやりてぇ、このまま帰ってボロクソに罵倒されるつもりなんだけど…」
「そう?ホシノ先輩はスバルにそこまで背負わせるつもりは無かったと思うよ、きっと二人が帰ってきただけでも、ある程度スバルの事は頼るつもりだと思うし、すぐノノミも取り戻せる」
「それに良くも悪くもホシノ先輩は、強い、スバルがやりたい事全部叶えてくれると思う」
「良くも悪くもか」
「うん、良くも悪くも、ホシノ先輩はずっと問題を暴力で解決してきたって自分で言ってる、スバルと同じ、自分にそれ以外の方法で解決できる自信がないから」
「──なのに、独りぼっちで背負うつもりでいんのも、なんつーか…」
「ん、めんどくさい」
そう、驚くほどにめんどくさい、一番身近にいるシロコがめんどくさいというのならめんどくさいのだろう。
しかしその『めんどくささ』の根源がスバルに分かっているからこそ…。
──めんどくさいって言って、互いに笑っていられる時が来た時が、この死に戻りの終着点でもある。
過去は消えない、過去は影のように今も追ってくる。
それでも『今』を生きれるのは『今』だけ、そんな言葉を掛けた記憶もあるけれど、ホシノは、ホシノ自身にこう叫んだ『ユメ先輩の今を、未来を奪ったのは私自身だ』と。
人の死を悼む気持ちはある、『過去』になってしまった彼女と、そうさせてしまったと己を呪い続ける気持ちも分かる。
それでも尚めんどくさいが勝ってしまうのだから、ホシノはほんとにダメダメな先輩だ、ダメダメで、傷だらけ、ハチャメチャでめちゃくちゃ。
「……──それでも、今は今だけしかないんだとよ」
「誰が決めた訳でも無い」
けれど、いつかは過去や未来と向き合わないといけないのと同じように、『今』と向き合う必要性がある。
どっちにしたって、スバルもホシノも、この無茶苦茶な世界で生きているのだから、自分を許さずにいてもいいけど、受け入れることはしなくちゃなんねぇ。
スバルはそう伝えたい、何故なら、スバルもそうやって生きていくしかないのだから、失われたものは元に戻らないこの世界で、ホシノの何百倍も守るのが下手だから──、
「ッ!?」
「スバル、しゃがんで」
死に戻りによって消えていく『過去』に対して、スバルなりの向き合い方を自己答弁していた時。
列車が急スピードで停車する、その反動は重く体にのしかかり、シロコが抑えてくれていなければ窓を突き破って外に飛び出してしまっていたかもしれないというほどのモノ。
すぐさま警戒態勢に入るシロコ、業務に関しては真面目な態度が見られた二人に限って、おふざけの急停止という事はないと思いたい、つまりは緊急事態という事だ。
「どうした!ノゾミ!ヒカリ!」
《やばいかも~!時速二百キロ越えで対面から列車が走ってきてる、応答なし、無人かな!?》
《うーん、車体番号も登録されてない…もしかして廃駅から勝手に出発した?》
《なんか停車したらぞろぞろ周囲に人の反応増えてる!》
「…──!!」
二人の口から語られた僅かな情報からスバルは即座に理解して、その思考速度の速さに身体が置いて行かれる事で自然と「地下生活者の仕業か…」と口から零れだす。
シロコに顔を近づけ、鼻と鼻が触れ合いそうになる、鼻息は触れ合う距離で会話をする。
白と黒の双眸、瞳の青々しさは唐突な接近に紅く染まりかけるが、スバルの表情が深刻さと笑みを織り交ぜた奇妙なものだったので、すぐ顔を引き締めた。
──この表情は、ホシノに勝った時と同じ顔だ。
「ごめん、シロコ、無茶押し通すぞ」
「いいよ、でも約束二つ目は守って」
「ああ」
続く死地、九死に一生を何度繰り返せば気が済むのか。
「…ははッ!」
「ん…笑うとこあった?」
「いや、別に」
笑える状況でも、笑えることも無いが、遂に尾を出した蛇を見つけて少し気分が上がったとでも言おう。
本当はアビドス高校でどっしりと構えて干渉を待つつもりだったが、どうやらスバルが思っているよりも奴の堪忍袋の緒は細く弱いらしい。
焦っている、確実に焦っている。
ホシノが何故黒服に勝てないのか、それは元より黒服はホシノと同じ場で戦っていないから、暴力で競うべきものではないと黒服が理解して『大人』であるからだ。
「大人気ねぇー!恥ずかしくないのかよ、子供に本気になってなぁ!!」
さも『大人を怒らせるとこうなる』と言わんばかりの猛追だが、頭が足りてない。
乗り越えられる程度の『死』を並び立てられたって、全く怖くねぇ。
これは間違いなく、致命的な一手だと言える。
──地下生活者にとって、致命的な一手。
「子供のやり方には子供のやり方、わざわざこっちに来てくれてありがとな」
ここでの稚拙な襲撃、つまるところそれは…、
もう手札がありませんと、自白している様なものなのだから。