Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『五人寄れば文殊の悪巧み』

 

 

《スバル様…───》

 

 

「…分かった」

 

 

シロコの手を取って、列車の最前列、操縦席から逃げ出してきたノゾミとヒカリと合流する。ノゾミは既に列車を後退するよう自動運転に設定し、迫りくる無人列車との衝突を遅らせている。

 

「お兄さん」と、ヒカリがスバルに声を掛け手を握る。それは急激な車両後退への負荷でスバルが転ばない為でもあるだろうが、僅かに伝わってきた手の震えは恐怖心を含んでいた。

 

 

「…ヒカリ、やっぱ怖い?」

 

 

「流石に、ちょっと怖いかも」

 

 

キヴォトス人といえど、高速で移動する鉄の塊に板挟みにされて命が保証されるかは分からない。自身の身体強度に絶対的な自信を持つ者は限られていて、銃弾でも傷つかない身体を持っていても、精神は見た目通り。

 

 

「それじゃ、俺の手…もっと強く握ってくれるか?こんな状況だしな、俺も怖いんだよ」

 

 

「──うん」

 

 

「ありがとな、お陰様で勇気湧いてきたぜ…──安心しとけ、何とかしてみせる」

 

 

遅れてノゾミも合流し、全員揃って最後尾の車両へと移動する。二人の見立てでは先程乗り回していた砲台で線路を破壊しながら後退していけば衝突は回避出来るらしいが……──、

 

 

「周りで張ってる奴らが邪魔って訳ね」

 

 

この場に居る全員が外に出れない理由でもある、荒れ果てた都市を走行している列車だが、その周囲にピッタリと張り付いているカイザーとアリウスらしき兵が常に照準を向けていた。

 

 

「砲台を動かそうにも、撃つには外にむき出しになる以上、ノロノロ後退してる今だと格好の的だし……線路ぶっ壊すよりも先に破壊されたら衝突は避けられないかな」

 

 

「ぶつかったら私達はともかく、お兄さんは…──」

 

 

顔を伏せるノゾミ、生存の望みは薄い、そう言わんばかりに表情は暗く沈んでいる。

最後尾にいるのだから、衝突しても被害は届かない……なんて甘い話は無く、あくまでも移動しているのは銃座を外に出す為、そして『キヴォトス人にとって』ダメージを最低限に抑える為。

 

計測時点で200kmを超えていたのならば、今頃は250〜300の間まで速度は到達している事だろう。

 

 

「ノゾミ、ヒカリ」

 

 

「──不安そうな顔すんなって、俺に任せとけ!」

 

 

「…お兄さんに?でも、今一番危ないのはお兄さんでしょ?」

 

 

「そうかもな、けど…俺は『ナツキ・スバル』だ、ノゾミにもヒカリにも、これ以上怖い思いなんてさせねぇよ」

 

 

「だから任せろ、俺に任せられるか、二人とも」

 

 

ヒカリはノゾミより先に、頷いてスバルの手を取った。成り行きで出会った相手ではあったが、彼の人となりを理解するには十分な時間があった。

信頼とは本来時間が積み重なる事で共に積もっていく友愛でもあるのだが……ヒカリ達にとって、『謝られた経験』というものは皆無。

 

『ごめんなさい』は魔法の言葉、心の底から謝った事も無い少女達にとって、心の底から謝られる経験はキラキラと輝いて見えたことだろう。

 

ヒカリが手を取れば、自然とノゾミも手を伸ばす。温かな手を握れば、湧いていた不安は霧散していった、幼女を両手に狼を背に…──。

 

 

「シロコは降りなさい」

 

 

「やだ」

 

 

「仕方ねぇなぁもう……」

 

 

「何するかだけ教えて」

 

 

「……一番勝てる手は、線路を壊すこと、それをやりきりたい」

 

 

スバルはわざわざここまで持ってきたカバンを漁る、本来はビル解体の為に持ち込んだ黒服支給の爆薬。

誰かが外にとび出て、爆弾を線路に配置、無人列車が線路の上を通る瞬間に爆破が最善、安定を取るのなら線路を先に爆破させておくこと。

 

 

「ぁ…?」

 

 

アロナの見立てでは先に爆破させても、今の火薬の量では大して線路を破壊出来ない。

線路の破壊が甘ければ、超高速で移動する無人列車は『破壊された箇所を飛び越える』可能性があるらしく、そうなればジ・エンド。

そうなってもまだ、あの砲台で列車を吹き飛ばす手もあるかもだが、周囲の敵がそれを許すかどうか。

 

アロナが耳打ちしてきた情報はそれだけでなく、アリウス兵の一部に例の爆弾持ちと、カイザー兵の総数的に列車が無ければ逃げ切る算段は付かないという事。

 

 

「──これって…」

 

 

「どうしたの、スバル」

 

 

「…いや、何でもねぇ、さっさと作戦会議済ましちまおうぜ」

 

 

「ん」

 

 

またしても負けられない戦い、死ねない局面。

手札は四つ、シロコ達、爆弾、砲台、アロナ、これをどう活かすかは、司令塔であり手札を握る存在のスバルに掛かっていた。

 

選択肢は無数、可能性は無限、そして死の可能性も無限大。

不幸な事にスバルを追いかけるのを諦めていなかったカイザー共と鉢合わせてしまったけれど、今のスバルは冷静に処理できる気がする。

 

腹の中にある妙な高揚感は、スバルの慢心や蛮勇が凝り固まったものではなく、積み重ねてきた経験による自信。窮地を脱し続けてきた今までの体験がスバルの背中を押しているのだ。

 

 

「狙いは線路だ、兎にも角にも衝突から逃げなきゃなんねぇ、ノゾミとヒカリは砲台を、シロコは射出口の護衛をしつつ線路を壊す、ちな最優先事項は列車!列車自体が破壊されちまったら囲んでる敵から逃げる方法も無くなるからな」

 

 

「ん、作戦中の周りの敵は?」

 

 

「俺が相手をさせて貰うぜ、元々俺を狙って来た相手だし」

 

 

「……やれるの?いや、出来るから言ってるんだね、勝算は?」

 

 

「アロナが頼りだ、傭兵達はともかく、カイザー共はアロナが全員相手してくれる、それに一番注目を引けるのも俺だ」

 

 

合理的に作戦を組み立てていけば、いつも1番役に立たなくて価値が高い、メタルなスライム的な立ち位置に居るスバル。

正直、誰かが爆薬を線路に配置するというのは現実的では無い、ゆっくりとはいえ走行中には違いない電車から一度降りて、配置した後に再び車両に飛び乗る為には……──、

 

 

「それなら砲台の護衛要らないでしょ、スバル」

 

 

「……」

 

 

「さっき言ったばかりなのに、もう忘れちゃった?」

 

 

「──ふー……なら、頼めるか、シロコ」

 

 

「勿論、スバルが頑張るなら…私も頑張らせて」

 

 

「ああ…──任せる」

 

 

シロコにバッグを託す、シロコなら一人で路線に爆弾を仕掛けられるし、一人で戻ってこれる。そして相変わらず押しかけ女房的なムーブを取られると弱ってしまうスバル。

メインプランの線路爆破はシロコに託した、サブプランの砲台も、今度は二人が暴走する事の無いよう祈る必要は、

 

 

「パヒャヒャ!カッコイイじゃん、お兄さん…私達にも言葉で任せるって、言ってくれないの〜?」

 

 

「──無さそうだな、俺がしくったら後は任せる!シロコに近づく奴ら全員撃ち落としてくれ!」

 

 

「お兄さんが失敗したら……なんて、もしもの事は考えないから、任せるって言われても分かんないなぁー」

 

 

「こんにゃろ、調子良い事言いやがって…」

 

 

すっかり調子の戻った二人を見て安心する、これなら何も心配する必要は無いと。

 

──列車防衛戦、スバルにとって乗り越えるべき地点であり、地下生活者が晒した焦りが故の策略を破壊する為の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《列車衝突まで残り1分だ、最後の最後まで動きを見逃すな》

 

 

《了解》

 

 

一方、周囲を取り囲み走行するカイザー兵にも緊張が走る。

上から命じられて、唐突に現れた傭兵群との協力関係を結んだはいいものの、背後から撃たれては元も子もない。

 

理事は手を出すなと言ってはいるが、戦闘中の事故に関しては言及を伏せるとも申していた、つまり先にこちら側から背後を刺すか、刺されるかの勝負。

 

列車に残存している戦力では何も出来ないだろう、気にする事はない……──、

 

 

《……!!列車後方!上部にナツキ・スバル!単独で外に出ている!発砲準備だ、だがなるべく生け捕りにしろよ!》

 

 

「っ、何だと…?」

 

 

アクセルにペダルを踏み込み、路線へと踏み入っていく。

こんな状況で生け捕りなど上も無理を言う、恐らくは傭兵共はそんな甘い決着等望んではいない……先に殺されるより前に捕縛しなければ。

 

続々とバイクや重車輌が線路沿いに乗り上げる、気がつけば追跡を行っていた部隊と、傭兵の殆どが列車後方、上部に乗り上げているナツキ・スバルの元へと集合していた。

 

 

人数の多さはそのまま、ナツキ・スバルという存在に対しての警戒度を表している、どんな恐ろしい相手かと目線を上げれば……。

 

 

 

「……」

 

 

 

標的の姿が目に映る。

 

 

──ごく普通の、何の変哲もない、何一つ特別感の無い少年が居た。

 

 

「……──」

 

 

「おい……おいっ!何ボーッとしてんだ!銃構えろって!」

 

 

「ぁ……す、すまん」

 

 

ヨレヨレっとしたジャージに、ボサついた髪の毛。覇気の無い顔に、向かい風に煽られて「おわっ!」と声を上げて列車にしがみついている少年。

 

 

 

「おーいてて……うわっ!?何人集まってんだよ……俺の客寄せパンダ力も捨てたもんじゃねぇな」

 

 

それは、向けられている照準の数と反比例した印象の柔らかさだ、本当に普通の少年、上から聞かされている話、そして噂とは違い過ぎる姿に困惑してしまう。

 

 

「…撃って、いいんだよな…?」

 

 

無線もザワつき始めた、本当にアレがナツキ・スバルなのかと。

広がり続けた噂は無貌の怪物と化していたせいで、拍子抜けしかしない雰囲気に誰もがトリガーを引き切れない状態。

 

待ちかねたのか、アリウス生徒がスバルに向けて威嚇発砲を行い、その放たれた弾丸がスバルを掠める。

 

額を掠り、身体の何処かに命中したのか「あグッ」と強い呻き声を立てて、列車の屋根で横たわった。

するとナツキ・スバルの身体から流れ出した血が列車から流れ落ち、その先にあった機械の頭にポタポタと当たり、視界の邪魔をする。

 

その血が示すのは、「もう無力化に成功した」という呆気ない結果。

 

部隊長の命令で列車の横に車両を付け、ナツキ・スバルが横たわる屋根へと飛び乗る。

 

 

「……こいつが、ナツキ・スバル…」

 

 

屋根の上で、揺れと風に耐えながら数人でナツキ・スバルを取り囲む。

どうやら血の出処は彼が抑えている左腕のようで、見れば見るほどか弱い生物、普通の少年で……。

 

 

《殺せ》

 

 

「…ですが、命令には生け捕りだと…」

 

 

《いや、ここでソイツは殺す、それが最善だと私が判断した》

 

 

「……」

 

 

そう言葉を紡ぐのは、スバルの逃走劇を目の当たりにし、そして取り逃した部隊長。しかし指は中々にトリガーを引けなかった。

勿論、善良な心が残っているから撃ちたくないという訳では無い、こんな弱々しい少年を、数人で囲んで撃ち殺しては『気分が悪い』というだけ。

 

元々の命令も生け捕りなのだから、ここで撃ち殺すのは自分だし、これでまた上からとやかく言われるのも嫌だ、そんな自分本位ではあるが、殺人に対する躊躇。

 

 

「へっ」

 

 

《──何をしている!!殺せェッ!!!》

 

 

 

──その躊躇が、無ければ。

 

 

掛け声に身体が反応して、意識より先に訓練された身体が動き出す。

照準はしっかりと合わさり……そのまま少年の頭蓋を撃ち抜く死の弾丸が放たれる──、

 

 

 

「!?」

 

 

 

事は、無い。

 

 

 

「舐めてくれてありがとな、それにここまで近づいてくれて」

 

 

 

何も動かない、指も、身体も、トリガーを引く前に何もかもが停止した。

 

 

「────」

 

 

「───」

 

 

「─」

 

 

思考だけは動いていた。液晶の視界に映し出されるWARNINGの文字は、搭載していたファイヤーウォール全損を知らせる悪夢の表示。

無線は停止し、全部隊が同様の状態に陥っている。

 

動かないカイザー兵を見て、アリウスも動き始めるも……その時には、全てが遅かったと言うしかあるまい。

 

 

──次にナツキ・スバルの顔を見た時は、引き金を引くことを躊躇わない。

 

 

そんな活かせるかどうかも分からない反省をして、勝手に動き始めた身体を憎たらしく思う事しか出来なかった。

 

 

「射殺し──っ、何!?」

 

 

カイザーの装甲車両、その機関銃がアリウスへと向けられる。

兵の照準はナツキ・スバルから外れ、アリウス学徒へと。

 

車両を操作するカイザー兵のペダルを踏み込む足はブレーキへ、スバルの周囲を取り囲むカイザー兵の、ピクリとも動かなかった指は、傭兵に向ける頃には勝手に動いていて──。

 

 

「クソっ、撤退!一度列車から距離を離せ!」

 

 

「裏切りか…!?全員牽制射撃を挟みつつ後退!銃座が動いたら……──あぁもう知るか!反撃しろッ!!」

 

 

「待て!っ、待て違う!我々の仕業では……クソが、だから無線も通さない奴らと協力関係等…!」

 

 

 

状況は一瞬にして混沌へ。

 

 

──そして、ナツキ・スバルの傍にまで来て、身動きが取れない兵士はというと……。

 

 

 

「───」

 

 

「おー、すごっ!これってもうアロナが操作出来てんの?」

 

 

「──やっぱりアロナは最高最強の相棒だわ、チュッチュッ……ん?左腕……あー、大丈夫大丈夫、後でちゃんと唾つけとくって…嘘!嘘!!ごめんなさい!」

 

 

「──────」

 

 

「…なんかめちゃくちゃ睨まれてる気がするんだけど、もしかして意識はあったりする?」

 

 

「──オーケー!なら、さようならってな」

 

 

身体が傾いていく、意識とは反対に脚部は屋根から外れ、線路へと落ちていってしまう。

 

 

落下しながら、カイザー兵が最後に目にしたのは……。

 

 

列車から現れた砲塔が、頼みの綱の後方部隊を傭兵ごと吹き飛ばしている光景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ、ガンッ。

 

強く、激しく、憎しみと苛立ちを込めて地面を殴りつける。

痛みは感じず、身体に走るのは怒りと腹立ち。

 

 

「フーッ、フーッ、フーッ…」

 

 

ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ。

 

苛立ちを収めるため、そして大人としてこの程度で焦ってはいけないと、心を諌める為。

とりあえず拳を地面に叩き付ける、脳内に浮かぶ『匿名の行人共』を思い浮かべ、何も口を出さない無能共にひたすら怒りを湧かせ続ける。

 

 

「………………」

 

 

光すら射さない、いや存在すらしない混沌の領域。

名前は大層としているが、そこに佇む男はやけにみすぼらしい格好をしていた、ボロ切れの様な衣服を纏い、髪は白に染まりきったボサボサの状態で、グチャグチャな形のまま降りてこない跳ねた髪の毛によって、つい先程掻きむしっていた事が分かる。

 

苛立ち、それは心を病む痛み。その男は心の痛みにもがき苦しんでいた。

 

 

「小生は…小生は何も間違っていない筈だ…!!」

 

 

「何だ、何が間違っている、何を間違えた…!?」

 

 

自己答弁の答えは出ず、問いはそのまま苛立ちに。再び頭を掻きむしり、答えの無い問いに対して苦悩し続けて、

 

 

「苦しい……──苦しい、ひぃ…ぅぐぅ…苦しい……」

 

 

「何故…何故こうも…小生のキャンペーンは、チャートは…」

 

 

「コデックスに反してるッ!!あのような存在!小生は……小生は認めないぃッ!!」

 

 

「こんな存在がいるのなら先に言えよッ!」

 

 

彼のいる場所が、誰にも見られない場所であって良かった。

その男の姿を見れば誰もが指をさして笑ってしまうから、大の大人が喚き散らかすザマ等、到底見れたものでは無い。

 

手駒は殆ど先手で封じられ、要の小鳥遊ホシノが何故か反転を引き起こさない、スオウによる干渉も虚しく、手段は尽きた。

 

 

「な、難易度が高すぎる…!こんな、こんなもの聞いてなかった…!」

 

 

「万物には、攻略法が存在するはずだろ…?それはルール等では無く…──絶対的な法則!原理だろうがッ!!」

 

 

何度も何度も拳を叩き付けそう叫ぶ、この世界は己が遊ぶ為の『世界(ゲーム)』であって、攻略出来ないものは無い。

攻略法が存在しないというのならば、その男が今まで行ってきた事は全て子供の遊戯だとされてしまう。世界を規定するが故に、世界をどのように扱っても許されてきた大人としての意義が、意味が失われる。

 

 

「『死』を知らない貴様如きがァァッ!!この、このクズがッ!邪魔をするな!!盤上の駒ですらないガキがァッ!」

 

 

「殺せる筈だ、小生には攻略法が用意されてるはずだ、なんだあの存在は!なんだナツキ・スバルという存在は!!」

 

 

このキャンペーンを、このゲームの中で得られる苦痛を通じて、自身が何を得られるのかを求めていたというのに。

小鳥遊ホシノ程の神性があれほどの苦痛に晒されれば、自ずと答えはプレイヤーである己に降り注ぐはずだったのに。

 

 

「『死』を、『苦痛』を……──「非有の真実は真実であるか」を知れる、唯一の機会を……!」

 

 

そうだ、あの男は『死』を知らない、『苦痛』を知らない。あのような怪物が、英雄が、ぽっとでの…クソガキの、デウス・エクス・マキナ如きが知ってるはずがない。

 

邪魔をするな、所詮貴様には解決出来ない、小鳥遊ホシノの苦しみを理解出来ない。

 

 

「……──ヒ、ヒヒッ…そう、そうだ…奴には、小鳥遊ホシノを救う手立ては無い!ヒヒヒヒヒッ!」

 

 

── 非有の真実は真実であるか。

 

誰にでも平等に死は訪れる。

そして、それを自分自身で認識する事は不可能だ。

 

ただひたすらに他者の死を享受するだけ、ただそこにあるものとして、死を受け入れるだけ。

 

故に我々は、死に対して理解が及ばない。そこにあるだけのものを、そして認識出来ぬものを理解しようが無い。

 

それは古則だ、コデックスでもルールでも無い、この世の原理。真実であり、真理。

 

 

──だが、我々は死に並びうる概念を知っていた。

 

 

それは苦しみ。苦しみとは、人に内在する概念であり、決して他者へ発露される事も、理解される事の無いもの。

 

自分の苦しみを、他者が真に理解する事など無いのだから。

 

 

 

「ここでナツキ・スバルを殺しておけば事は容易く進む……ヒヒッ、生き残ろうが、奴は小鳥遊ホシノを救えない…!」

 

 

 

小鳥遊ホシノが、キヴォトス最高の神秘が『苦しみ』によって反転を成した時、非有の真実は真実であるかの答えを得る事が出来る。

 

 

「そうだ、ヒヒッ、そうだそうだそうだそうだ!奴は『死』を知らぬ!奴は『苦しみ』を知らぬ子供!!」

 

 

「邪魔だ、確かに邪魔者だ……だが奴は!奴には小鳥遊ホシノを救えないのだから──!!」

 

 

我が物顔で下した結論に、悦びを見出した時。

──混沌の領域に、もう一人足を踏み入れる者がいた。

 

 

「ええ、貴方の言う通りですよ、地下生活者」

 

 

「あぁ?……匿名の行人……!今更何の用だッ!!何をしに来た!!!」

 

 

「小生の邪魔をするのなら貴様も…──」

 

 

飛びかかり、その細首を締めようとする地下生活者。

だがその前に訪れた者からとある資料を突きつけられる。

 

怒りは収まらなかったが、唐突に押し付けられた紙に驚き一瞬脳内がフリーズし、冷静さを取り戻す。

書類、この空間に物を持ち運ぶ事の困難さを知っている地下生活者にとって、目の前の匿名の行人はともかく物体に触れた事の衝撃は大きかった。

 

 

「……これは…」

 

 

「貴方へのプレゼントです」

 

 

「『音にならない聖なる十の言葉(デカグラマトン)』…?」

 

 

「手駒は多い方が宜しいでしょう。あの者を殺したいのならば、今のままでは手不足」

 

 

「貴方を解放したのも、今貴方に新しい恩を与えたのも、あの者を殺して下さるのなら全て不問にしましょう」

 

 

「……」

 

 

「ヒヒッ…ヒヒヒヒヒッ…そうかそうか、そうか!そうだ、チートが許される訳が無い、あんな存在が、あんなインチキが許される訳が無い、だからGMは平等を小生に与えた…!」

 

 

「…貴方の解釈は、私にとって理解し難いものですが……まぁ良いでしょう、喜ばしい結果を得れるよう、頑張って下さい」

 

 

そう言い残して匿名の行人は消え去った。

 

 

「ヒヒッ!」

 

 

小汚い真似をしたガキが、どんな手を使ったかは分からんが、小生のキャンペーンを汚した愚か者が、それなら、同じ手を小生も使うしかない。

 

 

『チートにはチートで対抗する』

 

 

小生の知らない存在には、小生も()()()()()()存在で死んでもらう事にする。

 

それで、漸く答えを手にする事が出来る。

 

 

 

「──ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!」

 

 

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