Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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更新遅くなって、ごべーーーーーーーんッ!!!!!!


『たとえ灰塵と化しても』

 

──時は少しさかのぼる、残骸となった列車から去ったスバル一行は…。

 

 

「スバルしゃがんで」

 

 

「っぶね」

 

 

「あぶぶぶ、砂が!砂が目に!」

 

 

 

思わぬ時短が出来たって所か。いや思わぬ時短しかしてこなかったが。

 

 

 

「トラブルがあって欲しくはなかったけど」

 

 

 

シロコの運転技術どうなってんだこれ、揺れが無いというか今ホントに乗り物に乗ってるかどうかも怪しいぞ?

 

 

 

「そりゃ、カイザーは数揃えてるわな」

 

 

「ん、雑兵ばかりだけど…──ウザイ」

 

 

 

貴重な感想いつもありがとうございますと、ウザイな。めちゃくちゃにウザイ、人数と行動力は敵の中でもずば抜けてるし、シロコ達にとっては豆鉄砲の発砲も、俺は致命傷になってしまう。

 

許されるのは命を傷つけられない程度の傷と、活動出来る最低限の損傷。左腕をぶらぶらとさせて…──、

 

 

 

「──動く動く、まだいけるな」

 

 

「なんか不穏な、おごっ、こと、聞こえたんだけど、わぁ!?」

 

 

「…もう口閉じとけよ、舌噛むぞ」

 

 

 

 

左腕は動かない、だけど()()()()。動かせない訳じゃないのならまだいける。焦りは禁物、けど焦らなきゃいけない問題も迫ってる。

 

 

──カイザー兵が波を打つように背に迫っていた。

 

 

移動中、案の定カイザーに捕捉されてしまったせいで、絶賛逃走中だ。

高速で動くとは言っても自転車は自転車、カイザーの追跡するヘリや装甲車とは速度が変わらなくとも人力、スタミナの点で見ても不利は背負う。

今はスバルとノゾミ、そして脱力するヒカリを支えての移動は難が多い。

 

 

「アロナ、追ってきてるのは?」

 

 

《戦闘ヘリ3,装甲車2,通常車両3です、予定通り…帰還経路に天雨アコ率いる風紀委員が通行中》

 

 

《接触より前にヘリが追いつきます、そして現在、アビドス生徒二名の救助、列車での戦闘含めシッテムの箱の機能、リソースが不足中》

 

 

《スバル様…──ご武運を、ここから先は全てスバル様の采配です》

 

 

「……緊張するな、俺単体じゃ初陣だ」

 

 

胸躍るとはよく言ったものだ、この場合踊り狂って死ぬとでも言いたげな顔してるけど、アロナの支援無しになる場面は全部自力でやらなきゃなんねぇ。

だから動かせる足は絶対に残すこと、それに…──。

 

 

《…──》

 

 

死に戻りを知ってくれているアロナは、きっと期待してくれてるだろうから。

 

俺が勝つって信頼してくれてる、だから勝つ。

 

 

「勝てると思う?」

 

 

「スバルなら勝てる、でももう離さないからね」

 

 

「お兄さんその傷でまだ動こうとしてるのぉ?もうやめときなよ、ホントに死んじゃうよ」

 

 

「分かってるって、それじゃ…──シロコ!この先の道曲がってくれ!」

 

 

「──了解」

 

 

 

記憶に沿った道をたどる、シロコやアビドスの事を今、この世で最も理解してんのは──俺だ。

 

最適なルートを選び、最速で走れる場所を走らせ、最高のコンディションをシロコに提供し続ける限り、ヘリ以外は追いつけないし追いつかせはしない。

ヘリ以外はって所が難点だ、スバルがどれだけ的確な指示を出してもヘリからは逃げ切ることは…──難しい。

 

 

 

「ノゾミ、俺のケツに手届くか?」

 

 

「!?」

 

 

「ごめん言い方悪かった、尻ポケットに入ってる発煙筒使ってくれ」

 

 

「そ、そっちね」

 

 

 

ノゾミがスバルの尻をまさぐって、発煙筒のキャップを取り外す。自転車の横に括られ振動で吐きそうになっていながらもそれを握り締めていた。

こんなか細い煙、しかもこの速度で走行していると霧散して、何の意味も無い…ただ追跡がしやすくなるだけの代物だが、赤外線を使って追ってくるヘリには効果がある。

 

最適なタイミングはビルを遮蔽に直角に曲がるとき、発煙筒の強い熱源反応は隠れ蓑にできた『覚えがある』のだ。

 

 

「──今だ!向かい側のビルに向かって投げ捨ててくれ!」

 

 

「りょーっかい!!」

 

 

「シロコ!前、前、右、前、右!」

 

 

「高校とは反対の方向だけど…何かあるの」

 

 

「ゲヘナの風紀委員会の助けが来てる、多分この先で丁度出会える筈!多分」

 

 

「ん!」

 

 

 

自転車のスピードがさらに上昇する、ゴールの無い逃走劇と打って変わって、シロコが辿るクリア条件があるのなら、今までのようにスタミナを省エネで使い続けなくてもいい。

 

丁度交差点で視線が切れ、加速した自転車はカイザー兵の視線から一時的に消え去った。

 

 

「ははっ、流石」

 

 

小さく笑い、そうこぼすスバルはわずかに息を切らしている。

 

 もう、けっこうな距離をこうしてひとりきりで歩いていた。細い木々の間を抜け、落ちた枝を踏み折って鳴らし、滑る坂道を転ばないように注意して下る。道ならぬ道は獣道と呼ぶのも躊躇われ、ひたすら純粋にスバルの道行を邪魔してみせた。

 

 

──こうして逃走劇を繰り広げるのは、これで何度目になるだろうか。

 

何度も何度も、救出と脱出を繰り返していたことを思えば、今の自分はそれよりずっと身軽なはず。憂いは消え去って残りはノノミだけなのに、いつもよりもずっと今の方が心を騒がせてたまらないのは、向いている未来にある不安を解消できていないからだろうか。

 

あるいは、救わなければならないもの達に、スバルが元気づけられてきたからか。

 

 

 

「どっちも、だろうけど……自慢にゃならねえな」

 

 

 

散々救いたい人たちを手から零した結果を見てきた。

 

そして現況を追い詰めた今がこの程度の怪我で済んでいるのであれば、それ以上の繰り返しは絶対に避けなくてはならない。そのためにこその、今なのだから。

 

 

 

「――――」

 

 

 

生唾が通る喉はカラカラと乾いたままで、砂漠の砂は身体から存分に水分を取り上げていく。それでも嫌な汗が肌にへばりつくような緊張感と共に流れ、表皮を押し固めるような感覚が身体を覆う。

それは恐怖かただの倦怠感か、現実として早めに治療を受けねば明日は繋がらない事実もあった。

 

 

「こんだけ迷路みたいな道を練り歩いてルート全部わかってんだから、俺の方向感覚というか記憶能力というか、研ぎ澄まされ過ぎてて軽く笑えるな」

 

 

あるいは死に覚え慣れ過ぎたというべきか。

 

今ならアビドス専用のバスガイドになれる──そう呼べばこの寂れた地に活気を取り戻せるかと思ったが、スバルのトークショーなんて誰が見たいのかと気が付いた。湧き上がるのは笑いではなく冷笑、待ち受けるのは数時間の拷問。

 

 

 

「──見えた」

 

 

 

正面の道先に見えるわざとらしく蛇行している風紀委員の車両が、沈んでいく夕日に重なっていた。

あの顔ぶれに親しみがあるかと聞かれれば、割とそうでもないが…──助けに来てくれた事実に心からの感謝を述べたい。

 

 

 

「かっとばせシロコ!」

 

 

「──しっかり捕まってて」

 

 

「お、おお、お兄さん!ヒカリが!ヒカリのロープ外れかかってるから!もうこれ以上スピード出さないで!」

 

 

「安心してくれ、俺の右足が頑張ってるから」

 

 

「頼りないなぁ!?」

 

 

「まぁまぁ、流れは良いからもうちっと自分のレバーを安心させとけよ」

 

 

 

こんな場面でも怖じず冗談を言えるようになったものだと、小胆だった自分の変わりようが少しばかり可笑しい。

 

そんな少しの可笑しさと共に、身体が浮遊感に包まれる。延々と終わらないジェットコースターに乗せられた気分のままに空を飛んでいるかの様な錯覚さえ覚える。

そんな感慨もすぐに、『本当に』身一つで空を駆けた事で消え失せた。

 

 

「なっ──」

 

 

「へ?」

 

 

なんで、そう問うより前にシロコがスバルに腕を回し、自転車に括り付けられた二人を見捨てながらシロコは跳躍した。

 

──その直後。

 

 

 

「っ!ノゾミ!ヒカリィッ!!」

 

 

「……──ごめん」

 

 

 

背後に大爆発が巻き起こる、シロコのロードバイクに直撃したミサイルは、前方から挟み込むように迫るヘリからの攻撃だ。

 

見誤った、早速アロナの力を借りれていない弊害が、把握しきれない遠回りの挟み込みに気づけなかった形で現れる、恐らくは発煙筒を炊いたタイミング、そしてアロナの支援が切れた丁度という最悪のタイミングに…──、

 

 

 

「でも大丈夫、()()()()()()調節した」

 

 

「飛ばす方角って…──おぉぉ!!?」

 

 

 

何の事かと目を配らせば、爆発によって吹き飛んだノゾミとヒカリが実に非現実的な挙動で風紀委員が居る方向へと吹き飛んで行っていた。

あの爆風を喰らって無傷なのか、しかもそれ狙いで自転車を放棄する方向まで調整するなんてどんな神業か、だとかはもう慣れてしまった体験なのでツッコまない。

 

 

 

「ちッ、今ので殺し切れないのか──!?」

 

 

「構うな!機関銃で…煙で見失うぞ、早くビル付近から距離をとれ、飛び乗られたら終わる!」

 

 

 

カイザー兵の思案も虚しく、既に爆風はシロコの背に翼を与えている。

 

 

 

「もう遅いよ」

 

 

 

ヘリの回転しているローターに向け発砲し「ホシノ先輩ならもっと早い」と、十分な速度の撃墜に自分では不満を覚えつつ、墜落するヘリに乗って軽やかにビルの上へと着地したシロコは、そのままビルの側面を駆け降りる。

 

平行な壁を駆け降りるのを、降りると評すか落ちると評すか定かではないが、スバルが二度と味わいたくなかった感覚を再度感じているので、これは落ちているのだろうと断定して落ちていく。

 

 

「──空中散歩はもう勘弁なんだけど」

 

 

絶叫する間もない速度で視界は切り替わり、家屋を八艘飛びして音もなく車両へ近づいていく。

ヒカリとノゾミの行方は知れたものではないが、車両の列の後方が騒がしくなっていて、状態はともかく安全な場所まで飛んで行ったことを確認したシロコ。

 

スバルが指示した車両に向けて音もなく飛び乗ると、屋根の上から何回かノックを挟み…──返事が返ってこないので車の窓を上から覗き見て、窓を叩く。

 

 

驚かせてしまったのか車両は急停止した。車体の上から転がり落ちるスバル、もし以前の経験通り、アコが規則正しい…まるで教科書で勉強したかのような配列をしているのなら、あのふざけた服装が目に入る筈だ。

 

血でぬめる手を、更に滑りやすいガラスを支えに、スケートリンクの上に立つ初心者みたいになりながら立ち上がれば──。

 

 

 

「おぶっ…遅れてすまん…──早速だけど、ちょっくら俺らとお邪魔虫掃除してくんね?」

 

 

 

期待した通りの、破廉恥な衣装が待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──思えば、傷を負っている状況が常になってどのくらいだろうか。

 

 

病院勤めから抜け出して、アビドスに来てまたボロボロになって、そこから長い時間を過ごしてから今に至る。

踏み出した足が本来着地したいと願う場所とは別の箇所へ行く不自由。本来感じられるはずの大気を、身体の痛みと混ざり合って全く別のものとして味わう異物感。呼吸を無視して、不規則なリズムで脈打つ心臓の違和感。

 

自分の身体が自分のモノでなくなっていく異質感達を一緒くたに、ごちゃまぜにして飲み込む不快感。感覚が鈍れば鈍るほど身体は動くが、自分の身体をどこか遠くへ手放していく気分だ。

 

 

痛くない訳でも、苦しくない訳でもない、感じない訳でも、感じれない訳でも無い。

 

 

ただそれらが、足を踏みとどめる理由にならないだけで、いつでもスバルはスバルのまま、勇ましく強く優しく明るくを演じているのにも変わらない。

 

 

 

「──貴方が風紀委員を動かせると?だから、指揮系統を預けろと、そう言うんですか貴方は」

 

 

「約束だろ、駄々こねてないで頼むよアコ、被害も何も出さずに返すから!これでも貸してもらった消しゴムに角があったら絶対使わず何とかする、位の気遣いは出来る男だぜ」

 

 

「それが!不可能だから!今、私は渋っていることが分かってないんですかね!?」

 

 

「じゃあなんか罰ゲームでもなんでもして構わねぇ!──頼む!」

 

 

 

丁寧にミンチにされそうな視線を受けながら、そして更にセナの治療を受けながらアロナに風紀委員の通信網を繋げてもらう。

 

 

 

「少数中の少数精鋭隊から、大部隊の指揮官に早変わりか…──色々経験させてくれるなこの世界は」

 

 

「罰のこと忘れないで下さいよ!絶対、ぜーったい貸しに加えて命令を聞いてもらいますからね!」

 

 

「──じゃあ成功したら逆に、なんか俺にも報酬くれよ」

 

 

「……」

 

 

 

何厚かましいこと言ってんだこの馬鹿、とでも言わんばかりの視線を受けて温まっていた肝に冷や水を浴びせられながら、スバルは持ち上げた手をゆっくりと胸ポケットへ。

通信へ入ったスバルに対し、アコの指示を待っていた部員たちは、突然の闖入者であるスバルが挨拶も無しに作戦指示を始め、聞いたことも無い声に不安を啄み始めていた。

 

スバルは声から伝わってくる不安を一掃するために、ぐいっと首を回して最高の開戦、その合図を準備する。

 

 

《風紀委員行政官、天雨アコに変わりましてこの度指揮をとらせていただくのはこの男!ナツキ~!スバルぅ!》

 

 

《いきなり現れていきなり敵を引き連れて、いきなり指揮を執ってるのが俺だ、だから不安になってるのも分かる》

 

 

《──俺に任せろ、俺はナツキ・スバル、もう一度言う…──俺は、ナツキ・スバルだ》

 

 

《名前に乗っかった噂だけ信じてもいい、今からする俺の手品を見てからでもいい、何でもいい、()()()()()、それだけは頼む》

 

 

 

アロナに呼びかける、最後の最後、恐らくスバルの命を最後まで守るために残しているリソースがある筈。

スバルが確かな信頼を、恐怖と畏怖と共に得るためにはド派手な印象が欲しい、今背に迫っている危機を打破できるという確実な信頼を。

 

──手始めに、まずはヘリの墜落。

 

ヘリは簡単に墜落させられる、理由は簡単で電子機器で統制されている物品に対してアロナは無敵。

 

 

「演出頼む、アロナ」

 

 

《……ですが、それでは…私はスバル様を守ることが出来ず、これから行う指揮は全て…》

 

 

「俺がやるよ、アロナは休んでて」

 

 

《………》

 

 

 

──問題が一つ。

ヘリを遠隔で墜落させた場合、無茶をさせてしまえば、アロナはここで丸一日程度休んでしまう。

 

つまり、これからの指揮は全て『自力』だ。

 

 

 

「──今、俺ってカッコつけれてるかな」

 

 

《はい》

 

 

「じゃ、もっとカッコ良くしてくれるか?」

 

 

《…──はい》

 

 

 

悲鳴。

 

アロナの返事と共に、悲鳴が巻き起こる。彼女らが抱く感情に名前をつけるなら、やはり『恐怖』になってしまうのだろうなとスバルは思う。

 

通信で呑気な声で、とぼけたことを口にする少年にまぎれもない恐怖を今、彼女らは抱いている。

迫ってきていたカイザーのヘリが、唐突に空中で爆散して、その残骸を風紀委員へと晒したのだから。

 

 

 

《ヘリは全部先に潰した、これが俺の力だ、理解したなら……》

 

 

《俺の指揮に、従ってくれ》

 

 

 

これで、ナツキ・スバルという存在が本当の力を発揮すれば、息を吐くのと変わらない様子で不思議な力を使える男だと信じてくれたと思いたい。

実のところスバルは数回、風紀委員の指揮を執るという行為をすでに繰り返している。この局面であれば、なんとか出来なくもないが、ゲヘナの生徒は普通に接するだけじゃ言う事を聞いてくれないから、怖がらせてでも指示を聞いてもらう必要があった。

 

緊張をするな、怯えるな、という方が酷な話。

 

 

 

《それじゃ、作戦開始!頼むぜ?風紀委員会》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナ委員長…」

 

 

 

もしも今ここで、私が拳銃を握る勇気があったとするならば、間違いなく引き金に指を掛けていた。

 

もしもこの男を見誤っていなければ、あんなふざけた会話をするよりも先に捕まえていた。

 

もしも、そうしていたら……──何の憂いも無く、お風呂で鼻歌を歌えていただろうに。

 

 

 

「……──ナツキさん、質問があります」

 

 

「風紀委員の部隊名及び内部だけで使用している暗号を何処で知りましたか、それに…教えてください、どうやって相手の行動を予測しているのか」

 

 

 

この男から学ぶ必要があることを恥だと思いたいけれど、もし私が指揮を執っていたとしたら、この男と同じ成果は出せない。

 

 

進路方向を予測した道路の封鎖、建物を侵入してくる歩兵に対してのトラップの配備、住居群を利用した疑似的な籠城戦は、車両による移動を全て封じられたカイザーにとって犠牲覚悟の突撃を余儀なくさせた。

 

 

 

『バリケード第一陣に車が突っ込んでくるから、先に有刺鉄線!数人残って誘導しながら残りは側面の家屋に退避しといてくれ!』

 

 

『第三小隊は鶴翼前進、さっきと同じだ!数人で姿を見せながらおびき出して各個撃破で頼むぜ』

 

 

『相手足元見てねぇっぽい!もう何でもいいから適当な紐であちこち罠仕掛けてくれ!絶対に道路には出ないこと、囮は即味方が展開してる側に引くこと、名付けて初見殺し×100作戦……──ごめん何でもない』

 

 

 

稚拙な指示に、繊細さを感じない大雑把な作戦指揮、でも全てが最大限効果を発揮する。『ヒナがいない風紀委員会はでくの坊』と揶揄される事もあり兵士の質は決して高くは無い。

 

言われたことを言われるままに行う事、それだけで熟練の兵士であるカイザーを一方的に処理できるか?

 

 

 

「──貴方の秘密を開示してもらえないのなら、この後に部隊を貸すという話も無かったことにしましょう」

 

 

「アコ…」

 

 

「セナさん、彼の治療が終わったら私の車両へ、それではまた後程…お待ちしてますからね、ナツキ・スバル」

 

 

 

己の胸に手を伸ばしながら、腹が立つ男に対しての馬鹿丁寧な口振りに自分で驚きつつ車に戻る。そしてスバルはじっとりと背中に冷や汗を浮かべつつ、頑張りすぎた結果がこれかと肩を落とす。

 

更に胸の内に浮かんだ『これ』が杞憂ならいい、しかしスバルの心臓は鼓動が早まり、手足が痺れるような感覚を訴えていた。アコはバカな格好をしているが、馬鹿ではない。スバルへの対応は常にヒナを害するものだと思っての態度だったのだろう。

 

──胸を締め付けるのは、過去の記憶。

 

 

 

「ただいまスバル、ヒカリとノゾミ…回収してきたよ」

 

 

「「──……」」

 

 

「お帰りシロコ、お疲れさんだ……──二人も、うん、お疲れさん」

 

 

 

殺されたくは、ないな。

 

 

 

「……スバルの事治療してくれてありがと、貴方も風紀委員?」

 

 

「いえ、私は救急医学部に所属していて、遠征に付いていって欲しいとヒナ委員長から、理由は聞いても答えてくれませんでしたが──今、その理由を知ったところです」

 

 

「ん、そうだね」

 

 

 

撃たれて死ぬかもしれない、それが産毛が逆立つ理由。

勿論そんなことは有りえない、アコは賢い、だからこそスバルに銃を向けるリスクも理解できている、それでもスバルの記憶はその可能性を浮き上がらせてくる。

 

 

『ナツキ・スバル』

 

 

冷たい冷たい、ホシノの声。

 

 

この後の対談の結果、悪ければ誘拐、良くても撤収なんて可能性もある。

 

 

 

「……一介のネガリストとして、悪い方向を否定し切れねぇのが残念って感じだよ、ったく」

 

 

「ネガリストって何、それとまた何か隠し事?」

 

 

「いんや、別に……じゃないな、この返し癖になってら──先にアビドス高校に戻ってて欲しい、ヒカリとノゾミも連れてってくれ」

 

 

「スバルは」

 

 

「…………んー」

 

 

「ちょっとばかりお話しして、すぐ戻るさ」

 

 

 

そう言ってふいに、口元が緩んでしまった。笑ってしまった、というのが正しい。

はにかむような笑み、誰かに、何かに対して笑ったわけじゃなかった。面白くて笑ったわけでもなくて、大砲を撒かれてくすぐったくなったわけでも無い。

 

ただ、胸の内に浮き上がるちっちゃな、言葉にならない感情の煮凝りに顔を揺さぶられただけ。

 

 

 

「そんじゃ分散行動で、シロコはとにかく高校にカイザーが来てないか見てきてくれ、それで後輩を守る!その間に俺はアコ達と一緒に、さっさと……──」

 

 

「「────」」

 

 

「シロコ?セナ?あの、そんなに顔見つめられると恥ずかしいっつーか、その」

 

 

「スバルって意外と童顔なんだね、釣り目で気が付かなかったけど……あ、それはそれとしてここに私も残るから」

 

 

「急に何がどうなってなんでなんだよ!?」

 

 

「それなら私の車でお二人共休憩していてください、特にスバルさんは現状一歩も動かしてはいけない状態なので、アコ行政官の話など碌な事ではありませんし」

 

 

「何なんですかほんと!?」

 

 

 

ツッコミのキレを取り戻させてくれる二人にはスバルにとって感謝したいところだが、唐突な心変わりに悪霊にでも取りつかれたか、悪いものでも拾い食いしたかとシロコのおでこに額をくっつけてみるが……──熱は無い。

 

もしかしてここまでの疲労がたたって、おかしくなってしまったのかとセナに診断をお願いしようとするスバルを、凄まじく冷めた目で見ていた。

 

 

 

「じゃあちゃんと…スバルの為に残りたい、そう言ったら何とかしてくれる?」

 

 

「何とか……出来なくは…ないけど…」

 

 

「アビドス高校はホシノ先輩が守ってる、私が向かわなくてもホシノ先輩がいる事自体、それ以上守りに入らなくていい理由になる筈」

 

 

「………ホシノ…が、そのぉ…──もし、俺の頼んだことをしてくれてたら…」

 

 

 

そう口にしかけて、しかしスバルは気付く。

 

 

 

「──頼んでたこと?」

 

 

 

まだ、この期に及んで、隠し事を、していたのか。

一句一句区切って、押し潰すような視線を向けられているようで、尋常じゃない気持ちになりながら顔を背けるスバル。

 

ただでさえ隠し事を帰ったら話すと約束していて、今は言及を控えてもらってる立場であるのに、どんどん負債が増えていく。

 

「ごめん」と言おうとしたがそもそも、シロコにとって最早謝られる事すら意味不明だ。謝罪点を探そうとしたが、求められているのは謝罪ではなく『説明』なのだから、スバルの土下座を割り込ませる隙間があるのか。

 

気まずそうに首を傾げるスバルにシロコはそうかと肩を回して、

 

 

 

「処置が終わったら言って」

 

 

「彼の身体に負担を掛けるようなことをする場合は、阻止しますよ」

 

 

「──そんなことすると思う?」

 

 

「いえ」

 

 

 

ずかずかと、スバルの視線が向いていた車両に近づいていく。スバルがここに残る理由を察して、シロコは歩みを進めていた。

二の句をスバルが継ぐ前に、銀髪を揺らしてその予備動作に恥じないように、

 

 

 

「ちょ、誰ですか貴方!?」

 

 

「ん、ちょっと話し合いしよっか」

 

 

 

セナに抑えられ動けないスバルは、記憶の中を探ってあらゆる可能性と危険性を模索してみるが、前例のない事例にアドリブを利かせられるほど今のスバルには余裕も体力も無い。

 

だから、この後に聞こえるであろう悲鳴と嘆きには答えられないことを察して、

 

 

 

「ごめん、アコ」

 

 

 

先ほどのどに詰まらせた分の『ごめん』を、彼女への手向けとして吐き出し切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──少しの不安と、少しの恐怖。

 

 

それがスバルが抱いている感情であり、ずっと抱いていた憂いの中身を今から直視しなければならない。

 

黒髪をかき上げるその手は、包帯に巻かれていて、手を腰に当てようとすれば硬い固定具の感触を感じる。

 

 

「──スバル」

 

 

隣で触れ合う銀髪とケモミミは、砂漠の中でもふわっふわで、何のお手入れをしたらこの状況でその手触りを維持できるのか不思議なモノ。

いつもなら、美少女と密接出来ている今を天国だと評しただろう、どんな時も好きになった相手にはメロメロになってしまうものだ。

 

 

「良かったね」

 

 

それも──スバルの心臓を締め付けるプレッシャーになっているのだが。

 

良かった、そうだな、良かった。目を離したうちにアビドス高校がめちゃくちゃになってなくて、後輩が無事に戻っていて、シロコにとって信頼のおける先輩が高校に居て──、

 

 

 

「そ、そうですね」

 

 

「なんで敬語なの?」

 

 

 

うっぷと、胃から熱いものがこみ上げてきそうになるのを我慢する、シロコに汚物を見せるわけにはいかないし、シロコのプレッシャーで吐きそうになっている事実を知られれば余計に、

 

 

 

「緊張と……──言いますか…」

 

 

 

吐きそうだ。

 

 

スバルが何のトラブルもなく、アコもしなしなになって対話もせずに引っ込んで、太陽が沈むころにはアビドス高校に戻れたのもシロコのお陰ではある。

 

帰ってきて目を引いたのは、校門の前に立っているホシノの姿だった。「ああ、そうか」と……──自身の願いには一手届かなかった悲しみを謳おうとした時──、

 

 

 

『ナツキさん』

 

 

『そのような顔はあまり、貴方には似合っていませんよ』

 

 

 

願いの成就そのものが、スバルに微笑みを見せていた。

 

 

ああ、本当に、良かった。どんな目に合わせられたか知れなかったから、どんな思いでカイザーを裏切ってスバルに力を貸してくれたのか、何も知ることはできなかったから。

『良かった、また君の顔を見れて良かった』、そう心の底から告げて言葉を噛み締める事が、スバルにできる心遣い。

 

 

──ホシノはスバルの願いを聞き届けて、どうしても手が足りなかった部分を埋めてくれたのだ。

 

 

 

『今の言葉は、どういう意味なのかな』

 

 

 

その感動の再会で終われば、全て丸く収まっていた筈。……そんなことは無いかも。

 

 

 

「と、とにかく!まだ全員じゃねぇけど!一旦集合できたことに祝杯を挙げまして──」

 

 

「スバル」

 

 

「……はい」

 

 

「約束、したよね」

 

 

「……──はぃ」

 

 

 

今、スバルはアビドスの対策委員会の部室に居た。

勿論一人ではなく、右手に銀髪狼系美少女、左手に戦闘民族系美少女、背後に死体系美少女、最後に部屋の中には犬系美少女、黒髪猫系美少女、エルフ耳眼鏡系美少女と、部屋を埋め尽くす美少女の群れに囲まれて、だが。

 

人々はこの部屋を桃源郷かと錯覚するかもしれない、もしくは天国か。

 

 

部屋の中心の机の上には風紀委員会から支給してもらった水と食べ物で作った炊き鍋、そしてとても説明を必要そうにしている美少女たちを添えて、

 

 

 

「じゃ、全部話して」

 

 

 

スバルにとって、地獄の尋問が始まろうとしていた。

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