Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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日常(過去)の欠片』

──修羅場、今立たされている現状は修羅場なのだと理解するのに、そう多くの時間は掛からなかった。

 

 

「遅れて申し訳無いわね、それにしても風紀委員まで呼び寄せてるって…スバル!一体どういう事なのか説明して貰う……──」

 

 

バンッ、と扉を開け放って入室してきたアルは、その部屋の異様な雰囲気に圧倒されて口をあんぐりとさせてしまう。

 

 

(どど、どういう状況なのよー!?気まずい……物凄く気まずいわ!)

 

 

「あ、あの、とりあえず席に座っても…」

 

 

「…社長、怯え過ぎだって」

 

 

「あははー!お邪魔しまーす!」

 

 

入り込んでくる面々は、カンナやセナからすれば犯罪者共でしかないが、スバルの元に集まった同士、口を開かないでいた。

 

そして、混乱するアルと同じように…少なからず現状を理解出来ていない者も居る。それはアビドスの後輩二人、セリカとアヤネ、そしてヴァルキューレ警察学校公安局局長の尾刃カンナ。

 

 

「んんっ…その…なんだ、余り上手くは言えないのですが…」

 

 

「──ナツキさん、隠し事をしているのなら正直に話した方が宜しいかと」

 

 

「うっ…」

 

 

カンナは理事の居場所をスバルから聞いて逮捕に赴いた、逮捕後に現れた小鳥遊ホシノの誘導の元、砂嵐が激しくなる前にアビドス高校へと退避したのだが…。

 

理事の居場所は厳重に隠匿されていて、それこそ手を組む予定だった筈のカンナですら何も知らされていなかった。

 

 

「……私達ここに居る意味ある?」

 

 

「重要なお話がありそうですし、隅っこで聞くだけにしておきましょう…」

 

 

ひそひそ声で話す後輩二人が、会話の席を空ける形で押し黙り、とうとうスバルには無難な選択肢というものが無くなってしまう。

何から話そうか、何を話せばいいのか、どうしたらいいのだろうか。

 

目をキョロキョロさせても意味は無く、シロコの顔にもホシノの顔にも、カンナのギザ歯にもセナの視線にもアルの呆けた面にも、どこにも無い。

 

 

「………し」

 

 

「し、質問!質問形式で答えさせてくれ!!俺も全部一から話せるって程でも無いんだ、ホシノ達だって今のままだと話の内容も頭に入ってこないだろ!?」

 

 

「そうだね〜、うんうん」

 

 

「──でもさ、その傷に関しては今すぐ話せるんじゃないかな」

 

 

──急所一閃。

スバルにとって答えたくないお題が一番最初に来てしまった。この歴戦の証は『無茶をしました』以外の説明が出来ない。

 

カンナの瞳が鋭い光を発する、この中でスバルが病院を抜け出しているという事実を知っているのはカンナと以前倒れたスバルを運んだセナだけで、見覚えの無い傷が増えまくっている事に対し顔が青ざめる。

 

席を立ち上がったカンナを宥める為、スバルも席を立とうとして──、

 

 

 

「傷に関しては、私が先に聞いておきたいことがあります」

 

 

 

セナに肩を抑えられ、処刑台から逃れられ無くなってしまった。

 

 

 

「──そもそも貴方は入院中の筈では?腹部に受けた傷はまだ塞がっていません、新鮮な死体だと聞いて治療に向かった先で貴方が居た時は驚きました」

 

 

「再び開いていた腹部の傷、新しい弾傷二箇所、腕の弾痕に裂傷は信じられない程に状態が悪化していて二度と腕が使えなくなる様なものです、弾丸の摘出は行いましたが……臓器不全にならなかったのも奇跡と言えます」

 

 

「後学のためにも、どの程度粗末に身体を扱えばその様な状態になるのか、それか何かしらの兵器によるものなのか聞かせて欲しいのですが……」

 

 

 

──終わった。

 

何が終わったかというと、今から行われる予定だったスバルの弁明タイムが終わった。

きっとセナは純粋な疑問をぶつけただけだと思いたい、純粋に病院から抜け出した事に疑問を抱き、そして純粋にどんな無茶をすればそうなるのかと、次の患者がそんな傷で現れた時にどう対応するのか救急医学部として……。

 

 

「──しかし、自ら死体になりに行ったと言うのなら、医学部として私から言う事は何もありません」

 

 

「ごめんなさい!!」

 

 

「謝る、という事は何か心当たりが?」

 

 

別にそんなことはなくて、スバルに対する視線がより一層の冷たさを増しただけの話であった。

スバルには言い訳をする理由も、意味も何も無い、ロマンス文学もピカレスクロマンも薔薇の花も携えていないスバルが、どうしてこの場で楽な思いを出来るというのか。

 

──スバルの苦悩を察して、カンナが金色の髪を揺らし提案をする。

 

 

「一度、情報を交換しませんか?私としては、まだ理解出来てないことが多すぎる。風紀委員が何故アビドスに来ていたのか、今まで何があったのかを共有した上で、ナツキさんの質問形式とやらで話し合いたい」

 

 

「傷の真相に関しては彼女が話してくれました。そこに詰め寄るのは全て話し合った後で良いのでは?」

 

 

「……それでもいいけど、局長ちゃん、君とカイザーとの関係についても詳しく聞かせてもらうよ」

 

 

「構いません。どうせこの身は防衛室長が復帰するまでの命です、秘匿をする必要も無くなりました」

 

 

「小鳥遊ホシノさん、隣の部屋をお借りしても?」

 

 

考え込む様な仕草を見せながらホシノは部屋を一瞥する、そしてこの部屋に居ない人物に対しても思案を重ねて、軽い吐息を漏らす。

 

スバルとシロコが連れ込んできたのは風紀委員だけでなく、ハイランダー学園の生徒も居た、何がどうなってそうなったのか、そして公安局局長との関係は何なのかを知っておいた方が有益であり、話を理解しやすくなる。

 

それに今のスバルはどう見ても肝が凍って動かない状態だった、仕方ないか、そんな感情を顕にして席を立ち、

 

 

「スバル、ちょっとまっててね」

 

 

はい

 

 

「それじゃみんな、こっちに付いてきて」

 

 

部屋を後にするホシノ達、後輩達とカンナを連れて部屋の外に出ていく瞬間、スバルは振り返り際に目と目があったカンナに対して平に謝りたい気持ちと、道端に10000円が落ちていた時のような有り難さと、そして心が沸き立つような感謝を込めて会釈を送りあった。

 

金色のケモ耳が視界から消え、部屋にはスバルとセナの二人が残り、

 

 

「ん?セナは行かなくていいのか?」

 

 

「ナツキさんの体調が急変した際に、いち早く対応する為です。それに貴方が私の患者という事実は変わりませんので、それ以外の情報は……他の方々にお任せします」

 

 

「…ありがとな、前の時は…あー、気絶してたな、俺」

 

 

「もしくは死にかけていた死体、ですかね」

 

 

「死体がそれ以上の状態になる事ってあんの!? 死にかけてた死体って、相変わらずどんな判定で死体呼びしてんだか…」

 

 

「相変わらず、そんな言葉が似合う程会話していませんよ、というより会話自体、先程の戦闘時が初めてですが」

 

 

思わぬ失言に頬をポリポリとかいて、恥ずかしさを誤魔化すように身体をあたふたと動かす。

患者の役回りとして最悪な事をしたのかセナの目つきは悪くなる一方で、唾を飲み込んでからテーブルに肘をついた。

 

スバルの思わぬ失言が、いつまたあの存在を招くかは分からない。あの黒い球体、平面、物体かどうかすら理解不能の何かは……死に戻りという言葉に反応して現れるが、幾度の失敗で気が付いたのは『死に戻りに関連していること』自体が地雷に近い。

 

カンナのファインプレーに本当に救われた、パニクったまま話し合っていたら、思わず口を滑らせてしまっていたかも。

 

 

 

「……」

 

 

「セナ」

 

 

「はい、何でしょうか」

 

 

「へへ、呼んでみただけ」

 

 

 

一転変わって静かになってしまった部屋は、一抹の不安感を心に植え付ける。

 

静かさ、それ自体が怖くて仕方が無い。

 

静寂は怖い、人の居る温もりを感じなければ壊れてしまいそうになる。

 

 

 

「隣は今頃騒がしそうだな…ひえ〜、帰ってきた時が怖いぜマジで」

 

 

「またここで新しい死体が出来るのなら、私が治療しますので御安心を」

 

 

「──救急医学部ってメンタルケアまで管轄内なの?」

 

 

 

元々、一人は怖くなかった。静かであることも怖くはなかった。

 

薄暗い部屋で、一人で、孤独で。

家族が居ることの幸せを、温もりすら突き放しても、寂しくも寒くも無かったのに。

 

──散っていく命が、その後の静寂が、スバルの名を呼んで、手を繋いで、共に在ろうとしてくるから、

 

 

 

「そうですね。医学は偏に肉体にのみ限った話ではありません。戦場での死の数々は患者に大きな精神的ストレスに加え、深い傷を心に残します」

 

 

「ですので、救急医学部はそういった現場の死の直接的な原因に対し武力行使を行うこともあれば、治療の為に精神面の座学もしなくてはなりません」

 

 

「努力の証に、今の俺の身体は元気ピンピンだわ、めちゃくちゃ頑張ってんだな、セナのお陰で…──」

 

 

「ナツキさん」

 

 

 

──ナツキ・スバルは、こんなにも脆くなってしまった。

 

 

 

「触診していて気が付いた事があります。今の貴方は…痛覚が機能していない、例え傷が完治したとしても貴方は『元気』では居られない」

 

 

「……いやいや、セナのお陰で本当に元気になれたぜ?他の皆んなも無事に戻ってきてくれたし、今の所俺はそれで心の中身いっぱいいっぱいだよ」

 

 

「だとしても、失われた機能をそのままにしておく訳にはいきません」

 

 

セナが背後から指をスバルの頬に添わせ動かす、慈しみと丁寧さが籠った指先は頬の擦り傷の上に貼ってあるテープに触れ、撫でた。

 

なんだかゴム鞠を撫でられている気分というか、視界には手が映り込んでいるのに触れられているのが分からないせいで……不思議と自分という存在が、存在しているのか、そんな疑問さえ湧いてくる。

 

こそばゆさも感じないスバルにとって、どんな反応をするのが正解なのかが全く分からず、身体を震わせるのも湧いてきた羞恥心によるもので、

 

 

「痛覚が機能していない、つまりは触覚が失われているという事」

 

 

「原因は様々ありますが…ナツキさんの場合は心理的なストレスが根源でしょう。今後も治療としてこのように…」

 

 

次に、セナは手を伸ばして衣服の上からスバルの腕に触れる。

決して負担にならないように、軽く撫でるまでに抑えて、両手で擦って撫でてを繰り返す。

 

 

「『思い出す』、触覚を思い出しましょう、触れられている感覚が無くとも…今、ナツキさんは触れられています」

 

 

「触れられているという事は、私がナツキさんに触れているという事でもあります。私は何度かその様な患者を担当してきましたが、自己境界があやふやになれば…その分精神に負担があるんです」

 

 

腕から首筋へ、首筋から鎖骨を通り、胸へと手を当てるセナ。

流れるような手つきで心音を手の平に感じとると、黒手袋を外し血の気がある綺麗な手をスバルに晒した。

 

胸に手を置かれ、気が付いた。こうやって手を置かれていると、心音が反響して自分の耳にも届くのに、何も聞こえないのだ。

美少女と触れ合ってドキドキしなくなった訳でも、慣れた訳でも無い、一生慣れることは無いのだが、心音が自分で聞こえないというのは…──生きている気がしない。

 

鈍くなったのは痛覚という訳では無く、感覚そのものが鈍化していたのだと、今更ながら自覚すると、

 

 

 

「触れられている──そっか、セナは、俺に触れてんのか…」

 

 

 

そう、当たり前の事を呟いた。

 

 

 

「ええ、触れていますよ」

 

 

 

そして、当たり前の事を返される。

 

 

 

「治療ってのは、触れ合う事か?」

 

 

「そうですね…これも治療の一環なので、効果が無ければ別の方法でも…」

 

 

「いんや、これが一番効きそうだ」

 

 

「なら、私だけでなく他の方々とも触れ合って下さい、私は常にナツキさんの治療に当たれる訳では無く、明日にはゲヘナに戻りますので」

 

 

 

ナツキ・スバルは脆くなった、冷たさが冷たい理由を知り、温もりが温かい理由を知って、一人と孤独の違いを知ったから。

 

ナツキ・スバルは酷く脆くなってしまった、大切なものが大切である意味を知り、突き放してきた、ずっと見ないようにして来たモノを今更になって受け止めるようになって、

 

 

──ナツキ・スバルは、ほんの少し子供から大人になった。

 

 

 

「私は医学部として、患者であるナツキさんを治療する責任があります。患者として受け入れた以上、元気になって帰ってもらい、また新鮮な死体を探す事が役目なので」

 

 

「本当に元気になるその時までは、ナツキさんは私の患者です」

 

 

「分かった分かった。んじゃま、そのまま治療宜しく頼むとするか…これも医学部の座学の為にってな!」

 

 

「ナツキさん自身も、何処かしらに触れておきましょう。感覚が無ければ動作の一つ一つが錆びていきますし」

 

 

皆が戻ってくるその時まで、いや、その後も『治療』をしておくべきだと提案されて……色々と実直素直なセナにキョドってしまったが、首を縦に振るスバル。

 

暫くの間は、セナの瞳と覗きあいながら、失った触覚を取り戻す為の治療を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「どういうこと」」」」

 

「──なの!?」

 

「──なのかな?」

 

「──ですか?」

 

「──かな」

 

 

 

「わァ...ぁ..」

 

 

 

──癒しの時間は終わりを告げる。

 

セナと触れ合っている最中、凄い形相をした四人が部屋の中に駆け込んできた事により、スバルは肝っ玉をひっくり返された。

勿論バッチリと全員に見られて、アルが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

 

「って!私達が居ない間に何してるのよ!?」

 

 

「違ぇって!治療!治療だってばこれは!」

 

 

「世の中にそんな治療があって堪る訳…!!」

 

 

「治療ですよ。現在ナツキさんは痛覚触覚共に感覚器が麻痺しているので」

 

 

「…え」

 

 

「──この有り様で何一つ苦痛を表さないという事が当たり前だと思っていましたか?」

 

 

「セナ、セナ!その!ストップストップ、俺の身体については後々話すから!これ以上話題がタコ足配線になると収拾つかないって」

 

 

もう涙目寸前のスバルだが、それでもフレキシブルに話題を変えなければ今以上に酷い目にあう予感がして話を逸らし、皆が駆け込んできた理由を問いただそうと、

 

 

「いま、なんて言った?」

 

 

「シ……ロコ…」

 

 

──既に手遅れであることに、今更ながら気が付いた。

 

便利屋メンバーと後輩含め、全員が部屋の中に入ってきた頃には、スバルの周囲にはまるで檻のように取り囲んだ面々が、

 

 

「ナツキさん、話し合った上で謎が増えたのですが全て説明してくれますか。それと傷の事に関しても、確かに私は貴方に銃を託し想いを託しましたが、それを免罪符にしていいとは一言も言っていません。寧ろ貴方の身体は人一倍脆い、本当の最終手段としてアレは差し上げたんですよ。何故その様な無茶をしてしまったんですか!あの放送もそうでしたが……少しばかり、貴方は自分自身を顧みなさすぎる」

 

 

 

「スバル、アウトローの流儀について以前話し合ったけれど……──確かに義憤に命を燃やす姿はカッコイイと思うわ。でもスバルのそれは…粗末に扱ってるとしか思えないわよ。あの時だってお腹を撃たれて倒れた時も、空崎ヒナがどんな顔をしていたと思う?…少なくとも、私には泣いていた風に見えた。悲しみや不甲斐なさがギュッと詰まった顔をしてたの。それがスバルにとって正しいアウトローの姿?」

 

 

 

「ん…ノノミを助けに行く時も…──スバルは無茶するよね?」

 

 

 

「私はさ、スバルがあの約束を守ってくれるっていうから信じたよ…でも、別に君の犠牲で後輩を取り戻したい訳じゃない、君が命を賭ける事も望んでは無い、分かるかな、後輩達を私と同じにさせないで欲しい。スバルの命の上に成り立つ人生が…──どれだけ酷なものなのか……でも、そうせざるを得なかった状況だったのも分かってる。セリカちゃんとアヤネちゃんを取り戻してくれた事も心の底から感謝してるし、大体予測は付いたけど、多分ノノミちゃんの為に列車で郊外付近まで向かったんだよね?それも感謝してる。だから今はこれだけしか言わないよ。『ありがとう、でも少し考えよっか』」

 

 

 

「ひゃい……ひゃぃ………」

 

 

 

「……わ、私は!ナツキさんの言葉に元気を、希望を貰いました…!」

 

 

「…助けてもらったことには変わりないし、私は何も言わないわよ…──全部ホシノ先輩が言っちゃったし」

 

 

「アヤネ…セリカ……」

 

 

 

今までの後回しにしていた分の折檻を存分に受けて、ほんの少し大人になったスバルの、大部分である子供のスバルはメソメソと泣き腫らしていたのだが、

 

 

──まだ、尋問は始まってすらいない事に、ほんの少しの部分も涙腺を緩めていた。

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