Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『砂塵の孤島』

 

「砂嵐──!?」

 

教室がやけに閉鎖的な空間になっていると感じたのは、外と中をつなぐ窓などが全て閉じられているからで、スバルの経験に無い、初めての事態だ。

真っ先に心配したのは、昨夜アビドス高校の運動場にて待機してもらっていた風紀委員の面々。とんぼ返りする予定だったアコを引き止めて、今日の夜は砂嵐が酷くなるからと滞在してもらうことにしていた。

 

寝てる間に乱れた髪の毛をかきあげて整え、そのまま手を額に当て続ける。心の中にぽっかりと空いた穴、何かの違和感を昨日抱いていたスバルだからこそ、この砂嵐に対して警戒心を有していて、

 

 

「シロコ、風紀委員は何処に避難してんだ?」

 

 

──星が見えた。

 

そうか星か、星が見えてたんだ昨日。それがおかしい事は分かる、理事を逮捕しに行ったカンナが砂嵐で足止めされて襲撃を受けるからホシノに迎えに行ってもらったんだよ。

 

毎回決まった時間に、必ずと言っていい程に現れる砂嵐。死に戻りと言えど、自然現象には歯が立たない、故にスバルの『諦め』であった筈の砂嵐が何故今になって……。

 

 

「今は体育館の中、本館の教室も貸してる」

 

 

「じゃあ全員無事って事か。シロコ天気予報士的にこの砂嵐の所感は?」

 

 

「ん……変な感じではあるけど、それはそれとして自然なモノかな。何か気になったの?カイザーの仕業?」

 

 

「んなこと…──無いとは言い切れねぇけど、流石にこの砂嵐じゃ何処にも出れない……カンナ!風紀委員に通信機借りに行って欲しい!」

 

 

振り向いて呼び掛けるも、カンナは軽く唇を噛み首を横に振りスバルに意図を伝える。試行と失敗、有線ならともかく無線で繋がらないとなれば…。

 

──か細い声でアロナを起こす。「おはよ」と目覚めの合図を送ると、数秒後にちゃんと《おはようございます》と文章で帰ってきた。

頼み込むのは周囲のマッピング展開、一寸先は闇の状況だ、この機に乗じてカイザーやらアリウスやらが襲撃に来る予想はつく。

 

 

「……だからなんじゃこりゃ…!!」

 

 

頭を掻き、スバルは周囲を見回しながら携帯にため息をかけてしまう。

校舎の平均的な高さは3、4階立てで11〜15m付近だ、必要な面積も大体2400㎡ちょい、小学生が300人程度、各教室に入れる程度はその位。その校舎の中で行き交うぐらいの利用目的の場である廊下も90m、子供の元気さを考慮すれば十分な広さといえる。

ともあれ、アビドス校舎の大きさを頭の中のそろばんで弾き出し、そしてマッピングに映る物体の大きさを推し量る。

 

 

──最低でもアビドス校舎を超える、三倍程度の大きさを持つ影。

 

 

「っ…!」

 

 

雷帝の遺産、カイザーの超級兵器、ゲマトリア、アリウス、あらゆる外敵の可能性を思案し、その全てに該当しない存在。

戦車?ヘリ?戦闘機?ゴリアテ?この影に比べれば『些細』な武器と評するのが相応しく、そして万を束ねても純粋で物理的な質量差には打ち勝てない。

 

 

「色んな障害があるとはいえ……マジで、なんなんだよお前…」

 

 

──蛇。

 

巨大な、巨大な蛇。その全長をこの一画面だけでは捉えきれない世界蛇とも言うべき存在が、校舎から最も近いアビドス砂漠で遊覧していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お〜…ヌクモリティ…」

 

 

「お兄さん、おはよ〜」

 

 

「おはよ、ヒカリ」

 

 

寝ぼけたヒカリを膝の上に乗せて温もるスバル、その背中にはノゾミが引っ付いていて、スバルの身体は前後から子供湯たんぽと毛布の温もりを得ていた。

ぶーらぶらと身体を揺すり、手が暇なのでヒカリの頭を撫でる。猫を撫でている様な気分になりながら、どうしようもない現状に対する不満を解消していた。

 

あれは、どうしようもない。というかこちら側から出来ることが何も無い。

 

砂嵐との関連性は不明だが、十中八九あの蛇が引き起こしてる自然災害だと考えていい、討伐しに行くにも砂嵐が邪魔をしてアビドス組や便利屋等の少数精鋭でしか移動出来ないだろう。

 

 

──なので、少し休憩を挟んでいる。

 

 

「監察官様からはなんか言われてるか?もしグチグチ文句でも言い始めてたら俺が代わりに逆ギレしてやるぜ」

 

 

「なんにもー、でも逆ギレは止めといた方がいいよ〜、スオウ監察官すっごく怖いから」

 

 

「いいや、誰であろうと俺の逆ギレ芸を前にして意見を述べられる奴はいねぇ!その気になればハイランダー学園にクレームまで入れに行くからな」

 

 

「うっわぁ…とんでもないモンスターじゃん」

 

 

「なら叱られて終わりでいいのか?」

 

 

「「嫌」」

 

 

「怒られたらお兄さん庇って〜」

 

 

「勿論!」

 

 

右腕を天高く上げて、そう返すのにも理由はちゃんとある。

昨日、恐らくだがホシノが二人を問いただして詳細を聞いた事だろう、迷惑料としてその後の面倒位は見なければと思っただけの事。

 

これからの事を考えつつ、阻止しなければいけないノノミの暗殺への対応に最も意識を割く。評議会を襲撃したのはアリウスでもかなり手練の兵士、カイザーと私募ファンド、ネフティスの兵を突破して会議の最中をぶち抜いたことから察するに、戒野ミサキレベルの生徒だ。

 

そうなると相手側の動きに若干の違和感が出始める、一手一手を解き明かし、相手の策を味わい尽くしたスバルだからこそ気が付いた違和感。

 

 

それはそれはとても、至極単純で、地獄の中を歩ませられたスバルは、どうして地獄を歩まねばならなかったのか、という話。

 

 

 

「…ごめん!ちょい電話してくる、こんな時に何処のどいつだよ…すぐ戻る!」

 

 

「いってらー」

 

 

 

カイザーの動きは理解出来る、明らかに敵対的な発言をするスバルが入院している病院を監視して、アビドスに眠る雷帝の遺産を活用するために宣戦布告、所有権を争う事になる私募ファンドとネフティスは、所有権を有するのを小鳥遊ホシノの存在へ依存しているから、アビドス校舎を攻め落とす。

 

ネフティスが勝てばスパイであるスオウが裏切り成果はカイザーのものに、と、ここまではまだ理解出来る範疇だ。

 

 

──だがアリウスはどうだ?

 

 

「アロナ」

 

 

ノゾミとヒカリを置いて、廊下に出る。懐かしい光景だと長い廊下に寝そべりたくなるが、未だ茶色の風景しか映し出さない窓を見ていたらその気も失せた。

 

呼びかけ、携帯に耳を当てる。眠り姫が起きているのなら、あの機械音を聞きたくて仕方がない、彼女の声はスバルの安心そのものだ。

 

 

 

《何でしょうか?スバル様》

 

 

 

──安心した。

 

そりゃ安心する為に呼びかけたのだから、安心するのは当たり前なのだが、無機質で温かみの無い音だと受け取っていた頃とは違って、スバルの心を落ち着かせてくれる。

 

 

「……ちょっち、聞きたいことがあってさ」

 

 

少し躊躇いを混ぜた言い方のせいで、なんだか別れ話を切り出す彼氏の気分になる、スバルならグチグチと言い訳せず、ごめんなさいと土下座して終わらせる……なんて想像して、経験が無いことには何も言えないと次の言葉を紡いで、

 

 

 

「…──アロナにとっても大切な事だから、正直に答えて欲しい」

 

 

《正直に…ですか、私は今までスバル様に嘘を述べた事はありません》

 

 

「分かってる分かってる、まぁ、その上でなんだけど…」

 

 

 

様々な考察をしてきたが、アリウスの『動き』に関しては納得が行かない場面が一つある。

それは、スバルを殺害するという観点において、どう考えても必要にはならない行動。

 

それこそが──ノノミを襲撃する、という事実そのものだ。

 

単純明快、スバルの事を何も知らない相手があの地獄を作り出すには、それこそ()()()()染みた何かが必要になる。

スバルと同じく、死に戻りでは無いとしても…事前に何が起こるかを知っていなければ、スバルが丁度間に合わないタイミングでノノミを殺害するなんて芸当は出来ない。

 

 

──そう、あの時は、アロナを持つスバルが丁度間に合わなかった。

 

 

相手が未来予知出来たとしても、死に戻りとアロナによる後出しジャンケンで事態に対応出来るのにも関わらず、スバルは死に戻りを余儀なくされてしまう。

 

 

 

「もし、例えば!例えばの話だ、つっても……アロナは賢いから何となく分かっちゃうかもしれねぇ、でも、例えばの話」

 

 

《……》

 

 

「──アロナ」

 

 

今のアロナじゃ、俺の顔を見ることは出来ない。

 

表情も、声の音色も、細部の動きも、ただの情報でしかない。

 

それでも、今から発する音は決してスバルがアロナを傷つけるものでは無いと証明する為に、必死に、

 

 

「もし、俺以外の、もうどうしようも無い、俺がどれだけ頑張っても救えない一人の犠牲を見逃して……」

 

 

「それで、今の状況が全部何とかなるってなら、アロナは俺に嘘とかついちゃう──?」

 

 

《───》

 

 

《はい》

 

 

 

携帯の画面におでこをくっつける。何ら変わりの無い、無機質な文字である《はい》という文字が、スバルには酷く震えて滲む、幼子の様に見えた。

 

機械に体温は伝わらない、携帯に温もりは届かない、それでも必死に必死に、自分と彼女の距離が縮まるように、ささやくように声を届ける。

 

「……ありがとう、アロナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぁー……」

 

 

床にへたり込んだスバルは、自分の超悪運の強さ、元い察しの良さを実感していた。

 

アロナが『いいえ』と答えてくれるのがベストの展開だったとはいえ、正直に答えてくれただけでもひとつの僥倖だ。おまけに相手側に未来予知的な力がある事もある程度断定出来たと考えれば、先程の問答も悪かったとはいいきれない。

アビドス組との邂逅はつまり、この場をスバルがどう切り抜けるのか観察する為に存在したイベントだったといっても過言ではない。

 

──結果的に言えば、アロナはとある『諦め』を抱いていた。

 

 

 

『《恐らく、幾つもの世界で私は…──スバル様の幸福より、スバル様の命を選ぼうとして、選べないまま…………》』

 

 

 

自己分析はアロナの話す通り。過去に言い淀んだ時も既に手遅れだったのかは、今となっては知りようがない。

 

アリウスの指揮者が仕組んだ、ノノミを救いに来るスバルを殺害する為のトラップ達は、スバルがノノミを救おうとすればする程効果を発揮する様に仕組まれていた。

 

まるで、スバルという存在の規格を測り、何を選び、何を捨てるのかを知るためのようで、

 

 

「蛇は…関係無いって事か」

 

 

《アレに関しては未知の存在としか判断出来ません、撃破出来るか否かの計算は……ホシノさんの協力次第ですが…》

 

 

「──戦ってると、アドリブ対応が効かなくなるって話だよな」

 

 

まさしく上から目線、という奴だ。

スバルがここでどう足掻くかは問題じゃない、相手はスバルがこの戦いに勝つ事を確信している。その上でスバルがどんな『勝利』を手にするかを知りたいのだろう。

 

アリウスを指揮するその誰かは、スバルを徹底的に追い込む事で、スバルの危険度を計っていた、詰みとも言える状況を覆せる男の許容範囲はどれ程のものなのかを知るつもりなのだ。

 

 

「ふー…」

 

 

アロナは優しい、そして最早AIとは言えなくなった。

そうなった要因は、きっとスバルのせいなのだろう、無謀に突っ込んで、無駄に死んで心配ばかりかけるスバルの事なんて、当然見てられない。

 

見ていられなくなったから、スバルなんかの為に他者の犠牲を許容しようとした、それがスバルにとっての最大の不幸だとしても。

 

茶色の世界を背後にして、頭は窓に預ける。両腕を広げ、全身を預ける形で空気を吸って吐く。

 

 

「備えがない、訳でも無い!今更こんな砂嵐程度で止まれるかってんだ!いいぜ、別に高みの見物決め込んでるってなら今以上の最悪は無いって事だろ?」

 

 

「………」

 

 

「……自分で言ってて自信なくしたわ、そう言ってから何回最悪な目に会ってんだか」

 

 

《私が付いています、スバル様》

 

 

「──いつもは素っ気ない相棒が気前が良い!即ち勝ちフラグ!」

 

 

《素っ気ない態度……普段の私は、素っ気ない、のですか…?》

 

 

「んな事ないけどね!?いや、なんつーか……アロナの声にも色が乗ってきたな〜って、ほら!今の寂しそうな声とかもさ、勿論普段からプリティーなのには変わりないけど!」

 

 

携帯に触れ、頬を擦り合わせるスバルの様子を感じ取ったのか、アロナは今にも消え失せそうな声で《プリティー》と音に出す。

歓談している間に、電話から中々帰ってこないスバルを心配したのか、ノゾミがスバルの名前を呼んでいる声が聞こえた。

 

普通なら生徒の騒音に紛れて聞こえない声でも、アビドス高校の伽藍とした通路には大きく響き渡る。

 

色々アロナと一緒に話したいことや、まだ聞き出したい事がある。だが、それを掘り起こすには互いに時間が足りていないと思い──、

 

 

「こっちだこっち!端の窓際ー!」

 

 

声がする方へと駆け寄っていく、そんなスバルが曲がり角を曲がった先に待ち受けていたのは、ノゾミだけではなく、あの時寝室に居た面々だった。

錚々たるメンツに気圧され、また何かヤラカシがばれたかと唾を飲み込むスバルだったが、

 

 

「何事もありませんでしたか──少し、失礼します」

 

 

「よ、良かった…本当にただの電話だったんですね…」

 

 

カンナに身体をまさぐられて、アヤネに再度身体の確認を挟まれてから漸く解放される。

そんなに心配されるほど時間を空けたかと思ったが、アロナに額をくっつけている間に……どうやら数十分は経っていた。

 

我ながら時間感覚のうとさに目眩がする、そそくさと帰っていく二人に手を振って、残ったシロコとノゾミが身体に引っ付いて、

 

 

「ん、目を離したらすぐにどっか行く、ミジンコよりも弱いんだから黙って離れないで」

 

 

「すぐ戻るっつったじゃん!遅いよーお兄さん」

 

 

「ミジンコよりって……つーか目ぇ離したらどっか行くって俺はガキか!?いやガキだけどさ!?」

 

 

そこでまたもやシロコが、何かあったのかと様子をさぐってきたので、本当に特にやる事も無いと部屋に返そうとするスバル。

 

蛇との真正面衝突よりも、今は一日置いて事態の転換を待つしかないと、そう言いかけて、

 

 

 

「───」

 

 

「安心したよ、逆にお前がそうこない方が怖かったわ」

 

 

 

拳を強く、強く握りしめる。覚悟を決める為、震えを隠す為。

 

──スバル宛に、朝霧スオウの連絡が届いていた。

 

 

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