Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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Q どうしてこんなに更新が遅れた?


A その……あの…モンハンが…楽しくて……それに…ゼンゼロに…沼っちゃって…。


『穏やかな昼食』

 

『では、私は風紀委員の待機場に戻って、ゲヘナで活動中の救急医学部と通信してきます』

 

 

『ミレニアム製品のお陰で身体は動かせると思いますが…決して激しい運動はしないように、軽度の運動ならば治癒効果も見込めるので時間があればリハビリとして校内を散歩しても良いかと』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほ、スバル」

 

 

「お……」

 

 

点滴台を動かしながら廊下を歩いていると、ホシノがスバルに話しかけてきた。

 

先程、気絶してる間に見た光景もあって、少し肌がピリつく感覚に襲われる。普段は出さない謎の音を口からの空気が外に出るとともに破裂させて、

 

 

「どうしたのそれ〜。流石に学校内じゃ無茶出来ないと思ってたけどまた何かやらかしたの?」

 

 

スバルの点滴を指さし指摘する、そのほがらかな声は脳髄を甘い砂糖に付け込んでいるかのようだ、硬くなって壊死しそうだった表情筋が化学反応で柔らかくなる。

 

動画でよくみる叩かれて柔らかくなる肉と違って、スバルは殴られたら一撃でお陀仏する自信があるので無論ホシノに叩かれるわけにはいかない。

 

故、行動に気を付ける必要があるのだが、今の所信頼ゲージは満タンまで溜まってることを祈り、

 

 

「普通にすっ転んだだけ、セナに治療して貰ったんだよ……ホシノこそ、こんな砂嵐じゃ何も出来ないだろ。ホシノが暇で優しいおじさんなら歩くのに手ぇ貸して欲しいなー、なんつって」

 

 

「いいよ、おじさんに任せなって」

 

 

「──あ、ありがとうございます?」

 

 

「なんで疑問形なのさ」

 

 

肩を借りて廊下を練り歩く、それでもふらつく身体をホシノに支えてもらうと、こんな状態で歩き回っていることに疑問の視線が返ってきた。

勿論の事、意味も無くぶらぶら徘徊してる訳もなく、所謂……リハビリというやつだ。

 

ここまで雑なリハビリがあってたまるかと、この徘徊を指示したセナに申し付けたいが、

 

 

「体機能のうんぬんかんぬんを戻すんだとよ。感覚無いのも不便だしちゃちゃっと治さねぇと…」

 

 

「んー…無茶させちゃってホントにごめん。二人を取り戻してくれたのに、そのお礼もできず君を失う事になってたかも」

 

 

それ以降のスバルとホシノの会話が途切れるが、辛い沈黙という訳でも無い。

むしろ、ほどほどに安心できる。

 

ホシノの前で思考を停止させることは死を意味していたのだが、窓にへばりつくグラウンドの土らしき茶黒い物体を眺めるだけで、何か事を考えてはいないスバル。

 

──それにスバル自身が一番驚いていて、

 

 

 

「──急にどうしたの、スバル」

 

 

 

ホシノにすり寄って幅を寄せ、しみじみとした顔立ちでホシノのアホ毛をなでるスバル。

 

 

 

「今更ながらホシノに会った時の不遜さを噛み締めてて」

 

 

「不遜さって…きょうびきかないこと言っちゃって。確かにスバルが来たときは…色々あったけど、あの時はおじさんの余裕がなかったのが悪かったんだし」

 

 

「だからこそ、だ。軽々しく言ってた言葉の重みって奴を知って、今までどんだけホシノが『守る』事を頑張ってたのか身に染みてるってワケ」

 

 

「うへぇ…スバルって案外ロマンチスト?そういうの素面で話せる話題じゃないってばぁ」

 

 

「──じゃあ、素面で話せるシリアスな話でもする?」

 

 

照れ隠しのつもりなのか、やけに古臭い身振り手振りで赤くなった顔を隠すホシノ。

だがスバルは不要な前置きの手間が省けたとでも言いたげに、利口そうに振舞った顔へ輝きを宿してそう告げる。

 

まさに先手をとられた、意表を突かれた感覚を抱いたホシノは小さく首を横に振り、

 

 

「そっち系の話は、おじさん疲れちゃったかも。それに忘れないでねスバル、『約束』を守る事は秘密に踏み入る為の免罪符じゃないよ」

 

 

「……ちょい気になった事だけでもダメか?」

 

 

「…気になってることは、あれかな?おじさんが『アリウス』って昨晩話した時に豆鉄砲喰らってそうな顔してたから……なんで私があの子たちを知ってるかって所でしょ。っていっても、前に会っただけというか、襲撃してきたのを返り討ちにしたからっていうか」

 

 

「襲撃…ね、やっぱりアビドスには何回か足運んでるってわけだ。どーりで行動がやたらとテキパキしてたし、地理に詳し過ぎたのな」

 

 

「アビドスに何か用があったのか、それとも『私たち』に用があったのか、どっちにしたって碌な内容じゃないだろうけどね」

 

 

学生としての会話としては物騒すぎる気がしなくも無いが、話の腰を折ってホシノの懐に踏み込んでよかったと思う気持ちを「先延ばしすんな、結論」と、自身に向けて恫喝する。

未だ口を滑らせば死、その状況は変わらない。理由の付かない行動や根拠のない情報を漏らし、ホシノの懐疑心ゲージを増やし過ぎれば『今からでも』ホシノはスバルの事を背後から撃てるだろう。

 

ふいに頭のてっぺんから足先まで一本の杭に貫かれたように動かなくなるスバル、舌先に乗せた言葉がそのまま外へ転がっていきそうになるのを掬いあげる。

こういった身体の緊縛は偶によくある事、死の経験がある相手に対して体が硬直してしまう時がある。変わらない性根、ホシノと自分では持ち得る器の違いに硬直している間に、

 

 

「ホシ」

 

 

「──ホシノ先輩!あ、それにスバル…丁度良かった。もー、ホシノ先輩ったらお昼の約束の時間になっても何処にも居ないから探してたんですよ?」

 

 

「アヤネちゃん、ごめんね~…おじさんうっかりしちゃってたよ。ずっと忙しかったから時間感覚がね…体育館にはスバルも連れていくから先に行ってみんなに遅くなる、って伝えといて」

 

 

「先にって…ホシノ先輩一人で支えるより、一緒に行った方が早いしスバルの負担も少ないと思うけど…──というかそっちの方が絶対良いわよね」

 

 

 

ひょこひょこと歩くスバルを瞳に映していると、どうしても放っておけない感情が湧いてくるのか、軽く顎を引いてホシノが支える反対側で点滴台を押し始めた。

彼女の気遣いと優しさを身体へ染みこませ、出かけていた言葉の全てを胃の中に仕舞い込む。

 

セリカの様子を見て、ホシノとスバルは互いに顔を見合わせる。取るべき最適の行動へと自然に切り替わっていて、

 

 

「全く…こんなにボロボロならもっと早く人を呼びなさいよ、私とか。アンタに借りっぱなしの恩がまだ返せてないし…!これ以上に借金を背負わせられたら困っちゃう、ちゃんとその目で目の前のこと以外も見なさいよね!」

 

 

「考え事ばっかしてっと周り見る機会が減ってくんだよな…セリカの言うとおりだわ、ちゃーんと周り見ときます」

 

 

手を眉に当て、身体を揺らし周囲を見渡すジェスチャーをぎこちない動きで行うスバル、大げさな身振り手振りでいつも通りの道化を演じようとしても、今の状態ではどこか自罰的なものに見えるのか、

 

 

「……べ、別に怒ってるわけじゃないから、言い方が悪かったわ、アヤネも私もスバルに助けられてから何もできてないからその、もじもじしてるっていうか、何かしてあげられることは無いのかなって」

 

 

「───」

 

 

「え、な、なに?なんで泣いてるの?ちょっと鼻水垂れてるってば!」

 

 

「セリカ、お前がナンバーワンだ」

 

 

「だから急に何なのよ!?」

 

 

 

純度100%の素晴らしいツンデレを前にして、戦闘民族の王子の様な気分になるスバル。

動かせるほうの腕でサムズアップして、命を奪ってこないタイプの『ツン』と、若干の恥じらいが混ざった『デレ』というツンデレキャラとして百点満点の台詞を吐かれては、流石のスバルも涙腺を緩ませざるを得ない。

 

ホシノはツンデレと評すには些か荒っぽさが目立ちすぎているので、この程度の殺傷力の無いツンの刃になるまでは刃を潰して欲しい。

 

そんな想いが顔に出ていたのか「良い子でしょ、私の後輩は」と耳元でつぶやき、『は』の部分は強調していて、

 

 

「ホシノも、だけど」

 

 

「へぇ」

 

 

「ほら、ちゃっちゃと飯食いに行こうぜ!つっても足引っ張ってんのは俺だけど……つか今日の昼飯ってなんかアテあんの?」

 

 

「風紀委員会が炊き出ししてくれるんだって。ほら、あの変な格好した青髪の子が『ここでアピールを重ねれば重ねるほど、アイツは逃げ道が無くなっていきますから』なんて言いながらね」

 

 

「…………さいですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノ達の力を借りて体育館に足を運び、砂嵐に耐えながら二人に扉を開けてもらえば、見慣れた顔ぶれが銀色の寸胴の前に列を作っていた。

何を作っているのかと、列を抜かすつもりは無いが鍋の前に行きその中身を覗き込む。茶色い海に漂うオレンジ色やホカホカに炊かれたジャガイモを見ればすぐにカレーだと分かった。

 

確かに炊き出しといえばこれが定番だな、いつだってカレーは最高にして最強の食べ物だと思っている。

そそくさと列の最後尾まで戻れば、便利屋とセリカ、ホシノ、そして何故か涙目になっていたアルが「私のカレー…」としょげていて、

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 

「あ、スバル…」

 

 

「──溶けたナメクジみたいになってるけど……カヨコ、アルとハルカはどしたの、これ」

 

 

「スバル、待ってたよ。社長は…その、炊き出しが始まる前の待機列には最前列近くに居たらしいんだけど…」

 

 

ウキウキで並んでいたアルは、傍を通過した風紀委員が落としたマガジンを拾って届けようと、ハルカを呼んで列に待って貰い列から外れた結果…──。

 

 

『そこの貴方、コレ落としたわよ!』

 

 

『ん?あ、ありがとうございま…──べ、べべ便利屋!?』

 

 

『ほぇ?』

 

 

反射的に銃を向けた風紀委員に、ハルカが噛み付きに行ってしまい、いざこざが収まる頃には炊き出しが始まってしまった。

結局その後、列は動き出してしまったようで──、

 

 

「行政官とは話をつけてた筈だったんだけどね、相手側もいつもの癖で向けちゃったみたいだし、それにハルカが先に手を出しちゃったから」

 

 

「…そろそろハルカの手の出る速さ何とかした方が良いんじゃねぇの?」

 

 

これでよく一企業として認められているキヴォトス社会の不思議さと、アルの問題を呼び寄せる体質を考えると、依頼が来ては不利益を被る姿が容易に想像出来た。

だからこそハルカの様に過保護になる気持ちも分かる所はあるが、それでアルに迷惑をかけてしまえば元も子も無い…──を、ずっと続けていて倒産しないのも中々不思議。

 

待っていれば飯にありつけるのだから、そこまで悲壮的な雰囲気にならなくともと、アルの肩に触れ、

 

 

「待ってたらいつかは食べれるからさ、そんなしょげんなって」

 

 

「だってぇ…こんなに()()()()()()()()が漂っているのに、あんなに前に居たのにぃ…ご飯にありつけるって聞いて飛び込んで来た時、カレーの匂いがしたあの時の嬉しさって言ったら…!」

 

 

「おーよしよし、アルちゃまは本当に可愛いでちゅねー、みんなが過保護になるのも分か──」

 

 

「スバル」

 

 

「─────るけど、分かるけど、俺はやっぱりケモ耳美少女のモフモフの方が好きかなーーっ!!」

 

 

「ん」

 

 

何処からともなく現れた、何時でも何処からともなく現れるので最早UMAと遜色のないシロコは、既に片手に発砲スチロール容器入りのカレーを携えていた。

 

流石は狼、飯にありつくスピードは誰よりも早いなと感想を心で述べつつ、そろそろ肝を冷やす登場を止めて欲しい気持ちもあり、

 

 

「怪我とか病気より先に、シロコのせいで心臓止まっちまうよ……」

 

 

「──ジョークにしては笑えないけど?」

 

 

「……めんごっ!」

 

 

「…むぅ、あ、スバルもご飯食べに来たのなら、ちょっと遅かったかも」

 

 

「え?遅かったって…──」

 

 

スバルの視線の先、列の真ん中辺りに割り込むのは不埒な乱入者では無く、看板を片手にカレーの人数分の配布が終わった事を告げるメッセンジャー。

みるみるうちにアルの顔は、更なる悲しみの色に染まっていき、スバルの肩を掴んで紅く腫らす涙袋を破裂させようとしていた。

 

代わりに出てきたのは乾いた携帯食、砂漠にはピッタリだが相性は最悪の一品。

 

 

「──なんつーか、アルって不憫キャラだよな」

 

 

「うぐぅっ…キャラって何よ!私は冷徹非道のアウトローで…!」

 

 

「冷徹非道のアウトローはカレーに一喜一憂しないと思うんだけど……」

 

 

立ち上がって胸を張るアルを他所に、スバルはこちらを向いて近づいてくる生徒へ視線を送り、何の用かと身体の向きを変えると、

 

 

「ナツキ・スバルさん、セナ部長から貴方宛の食料がありますので、受け取って頂けますか?」

 

 

「──お弁当箱?」

 

 

「菜食をすべき、との事です」

 

 

丁寧に包まれたお弁当箱のシルエットを残す布が、スバルの両手に置かれる。ズン、と重い重量にコケてしまいそうになるほどのお弁当だ。

ぺこりとお辞儀をされ、生徒が立ち去った後に結び目を解いてみる、如何にも業務用らしい無骨な弁当箱が収まっていて、皆の視線が集まる中、床に置き蓋を開けてみれば──、

 

 

「「「……可愛い」」」

 

 

様々な色野菜と葉物、そして白ご飯に卵焼き…端的に言えば普通のお弁当でしかないのだが、真四角真っ白デザイン無しの無骨過ぎる見た目のお弁当箱から出てきたのが、とても丁寧に配置され、作られている中身であるギャップに萌えていた。

 

2段の設計になっていて、内容物はスバルの胃に収まるか怪しい程だ。

 

 

「でかくね??」

 

 

「軽く見積っても…五人前はあるわよね」

 

 

「「───…」」

 

 

「アル、食べるか?」

 

 

「…………先にあの乾パン貰ってきてもいい?」

 

 

「………」

 

 

静かに心の中で、食い意地結構張るんだな、なんて決して女性の前で言ってはいけない台詞を挟み、列から外れ待機するスバル。

カレーを持参してホシノ、セリカと共に並ぶシロコも、配給二度目を受け取るほど強欲でないと信じたいが少し怪しい。

 

───そして、列を外れようとしたときにあの二人が囁いてきた言葉は、らしいといえばらしすぎるものだったが、

 

 

「ん、みんなで一緒に食べよう。待っててねスバル」

 

 

「食べ終わった後にまた、話そっか、スバル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《───》

 

 

「…はい、はい分かりました…──委員長がそう仰るのなら、こちら側でどうにかしてみます。あのタヌキもこの件に関しては素直に応じてくれましたし」

 

 

《──、────。─────》

 

 

「いえ!委員長の苦労を考えればこの程度の事…!必ずや雷帝の遺産は……」

 

 

スバルが昼食に勤しんでいると、ドタバタとしながらアコが体育館裏から入場してくる。

館内はほぼ宴のような状態になっているので、扉の開閉、入場音等では誰も気に止めない。

 

本来はそのまま何食わぬ顔をして、この団欒の場に混ざるのであろうが、

 

 

「よっ」

 

 

「げっ」

 

 

「なんだよ…げっ、て。げっ、は無いだろ」

 

 

「うわっ」

 

 

「単語を変えればいいって意味じゃねーよ!?なんで反応が尽くゴキブリ見たみてぇな奴なんだよ…」

 

 

「おや、御自身がゴキブリの様だ、という自覚があったんですね。珍しく貴方の言葉に共感しましたよ」

 

 

「おま、お前マジで──」

 

 

この無礼千万なヨコチチ女の、横面(ヨコチチ)を思いっきり引っ叩いてやりたい所だが、日本男児としての血がそうさせなかった。暇な待機中とはいえ、事を起こしては円満に昼食に望めない。

 

それと同時に、体育館に入場してきた時の神妙な面持ちを思い出せば、噛み合ってる暇は無いのではないかと思うほど、彼女は切羽詰まっている。

 

ヒナがいない風紀委員会は、彼女一人の手で支えられているのだから、その気苦労は、スバルが推し量れるものではないだろう、が、

 

 

「……クールダウンクールダウン俺、コイツ相手にカッカしてたら身が持たねぇ、険しい顔してたのは遺産の件か?」

 

 

「概ねその通りです、肝心の結論だけ先に言いましょう…──遺産の鹵獲には協力できません、我々はアレを禁忌と見なしています。破壊が最優先として行動し、そこに関わる事情が何であれ、行動方針は変わりません」

 

 

「…──」

 

 

瞳の奥に見えるのは固い決意であり誓約だ。雷帝の遺産がどういった位置づけにあるのかも、彼女の目を見ればわかる程。

 

だがそれでも怪訝に眉を寄せながらスバルは己の顎に手を伸ばす。雷帝の遺産の脅威は死をもって知っているが、あれはあくまでも『兵器』であり、利用すらせず破壊を最優先ともなれば若干の勿体なさを感じる。

 

 

「破壊が絶対ってなら、それなりの理由は欲しい」

 

 

「シンプルにアレは『オーパーツ』と呼べる代物です。制御したり使用したりすること、それそのものが多大なリスクを含んでいる」

 

 

「……委員長は貴方が居場所を知っている事実に口出しはしませんでしたが、言伝が一つ。『使う』思考があるというのなら、遺産を向ける相手がいるはずだと。遺産を使うにふさわしい『何か』が、貴方が面識のない未知の敵と対面しているから助けてあげて…──そんな風に」

 

 

この場に居ない筈なのに凄まじい洞察力を見せるヒナに絶句しかける。アコからの報告は受けているのだろうけれど、それを踏まえてスバルが攻略できる相手を消去法で消し、遺産を使うに値する存在が居ると理解できるのは易々と出来るものではない。

 

但し、遺産は破壊する。それを絶対としたうえで、スバルへ攻略の道を託したのか、

 

 

「それか、まだなんか用意してくれてんのか」

 

 

今は姿形も無いこの砂牢からの脱出ルートだが、未来に託せる算段はつけてみせると意気込むスバル。

走るにも道が無ければ走れないが、道が無いと知ってその場でとどまり続ける賢さと、在ると信じて一歩進む勇気のバランスは、釣り合ってこそ意味を成す。

 

 

「──分かった、遺産を使うってのは諦める。だけど遺産の場所は知ってるからそれは案内するぜ。あと遺産を使う相手ってのも話しとく」

 

 

「誰が相手でも意見は揺るぎませんけど、一応聞いておきましょう」

 

 

胸ポケットからアロナを取り出して、例の全体図がアコの顔前に浮かび上がる。

 

 

「遺産を使う相手…──それはこの砂嵐を吹かせてる張本人、バカでけぇ蛇に対してだ」

 

 

大きく開かれる眼には、戯言を。そんな感情が含まれながらも、驚愕の方が大きい様子で、更に頭痛のタネが増えたことにため息を吐いていた。

タブレットを操作し、何やら電子資料をまさぐっていると、

 

 

「ビナー」

 

 

「……?」

 

 

「ビナー、それがその蛇の名前ですよ。連邦生徒会が公表している正体不詳の超級兵器」

 

 

正体不詳なのに名前は決めてるのか、いや正体不明詳細不明だからこそ名前ぐらいは決めておくべきなのだろう。それ以外の情報はあるのかと一応聞いてみるが、「出現時は必ず砂嵐と共に移動している」と、今既出の情報しか聞けなかったので、ため息を吐き返して、

 

 

「ほかになんか役に立つ情報はないのかよ…──アコと出会ってから割と不幸続きだな…」

 

 

「貴方にとやかく言われたくありません、最近は色々歯がゆい事が多いですし…何より!それはこっちの台詞です!貴方と関わってからはストレスが溜まりまくってるんですよ!はぁ…遺産と言いヒナ委員長の事といい、現在進行形の事といい!」

 

 

「俺からは特に腹立たせる事してねぇだろ!?大体はちゃんと了承を得てんだし…イライラするしないの自己管理はそっちの責任だと思うんですけどー?」

 

 

「──管理において完璧と自負している私が!その様なザマを晒すと思ってるんですか!?私のストレスが悪化している大概の要因は貴方のせいです!いや、全部ですね!ナツキ・スバルそのものがストレスの発生源な気がしてきました!」

 

 

「そうです、そうに違いありません!良く考えればヒナ委員長は盗られて、迷惑かけてるのはそっちなのに被害はこっちが被って、仕事中の迷惑電話も、風紀委員がミスばっかり起こすのも、朝の焦げたパンも、書類の上に零したコーヒーも!」

 

 

「後半俺一切関係無いだろ!?論理の飛躍が打ち上げロケットしてんだけど!?」

 

 

何故、あの蛇と遺産の件について話していたのにこんなレスバをしなくてはいけないのか、何故こんなにもヒートアップしているのかも分からないが、この状況、言い負けるには癪すぎる。

 

 

「いいえ!とにかく貴方のせいです!貴方が悪いんですから…!」

 

 

バッ、とアコは列に指をさして、とある提案をする。

息を荒げながら話すその姿には、述べていた完璧な自己管理、なんて面影は一切なかったのだが、

 

 

「賭けをしましょう!貴方自身に何かしろ、というのは流石に可哀そうなので…私の寛大な心に免じて代理者を立てさせてあげます!勝った方が負けた方に何でも命令できる───」

 

 

「──んじゃ代理は小鳥遊ホシノ、勝負方法は…至近距離の銃禁止タイマンで」

 

 

「はい?」

 

 

「おーいホシノー!ちょっといいかー!!」

 

 

「え、あの」

 

 

「どうしたのー?何かあった?スバル」

 

 

列に対してスバルが呼びかけ、必勝最強の存在を呼び出す。

アコの何でもという言葉を真に受けて、多大な迷惑をかける命令をしたらこの勝負がきっかけで連邦生徒会と風紀委員会が対立して『天雨アコ戦争』の開始である。キヴォトスの物語(アーカイブ)に爪痕を残してしまうのはとても忍びない。

 

泣きべそかくぐらい一度ボコボコに負けてもらって、賭けをしょうもない雰囲気にまで持っていけることを祈る。命令をそこまで重くしなくていいお気楽な雰囲気に。

 

 

「っ~!イオリ!イオリはいますか!!」

 

 

「アコも代理ありかよ」

 

 

「うるさいですね!」

 

 

「なに…アコちゃん……ご飯中なのに騒いで……」

 

 

「ボーっとしてないで戦闘態勢です!あーもう!《風紀委員全軍に告げます!配給も一時停止!戦闘訓練を館内中心で行う為スペースを確保!》──ナツキ・スバル!あの代役には風紀委員全軍と戦ってもらいますからね!!」

 

 

「ここまでくると清々しいな…──さて、何命令するか考えとこ~っと」

 

 

「ふ、ふふ…その余裕、砕いて捏ねてその厚い面に塗りたくってやりますから!敗北に塗れた吠え面をかく準備をしておいた方が良いんじゃないんですか──?」

 

 

「────」

 

 

問題は、まだ何も解決していない。

アビドスに平和を齎すには、こんなことをしている時間は無い、それこそあの時の昼食のように。

死に戻る回数が増えれば増えるほど、アビドスに招かねばならない人の数は増え、その分広く大きな交友関係を求める必要もある。

 

無論、待ち受ける課題に自分が主体となって解決できると思うほどスバルは自分を過大に評価していない。

 

 

「必要ないさ」

 

 

元の世界でも表立ってはいたくても、班のリーダーや行事の司会なんかに欠片の興味も持たなかった身だ。日本のリーダー、首相が変わるような事態にあっても、スバルは「周りに流されて意見コロコロ変えるなら誰がやっても一緒だろ……」と思っていたタイプで、それ以上の関心は無い。

 

故に、自分がアコやホシノ、今まで見てきた責任を一番に背負うもの達に対しても、自分がその立場になった時の具体的なビジョンは何もないのだが、

 

 

「──ホシノの事、信じてるから」

 

 

ただ、根拠のない願望ともいえる感情に、心尽くし実を結ばせることだけが。

 

あらゆる困難を乗り越えなければならないスバルが、出来る事。

 

 

 

 

 

 

 

「さてここで29連勝中のホシノ選手に新たなチャレンジャーだッ!風紀委員、切り込み隊長!銀鏡イオリぃ~!」

 

 

「ねぇアコちゃん!ねぇ!これ戦わなきゃいけないの!?絶対無理だよね!?」

 

 

「頑張りなさいイオリ!貴方が勝てなかったら少なくとも今の風紀委員会に勝てる人間はいません!!消耗はさせました、絶対に勝ってください!」

 

 

「おー、他の子よりは…少し違うね、君」

 

 

銃禁止の至近距離戦闘訓練、許可されたのはゴム製のナイフ一本であり、降参と叫ばせるまでの勝負であるが。

 

──小鳥遊ホシノは、29戦の内、一度たりとも武器を使用していない。

 

 

「ひっ…しょ、消耗してないじゃん!」

 

 

「どうした銀鏡イオリ!腰が引けているぞっ!」

 

 

「うっさい!外野がべちゃくちゃ騒がないでよ!」

 

 

完璧に真っ青に染まった顔色、隣で一生爪を噛んでいるアコ、何故か参戦しようとしているシロコとセリカ、ハルカ。

混沌に包まれている場だが、両陣営にあった溝が埋まっていくのを感じる。

 

 

「…………」

 

 

「アコ」

 

 

「何ですかッ!!」

 

 

「命令できる権利さ、負けた数分だけ増えてるからな」

 

 

「──え」

 

 

 

 

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