Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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今回短め。


『機械の故障』

 

 

「…──傭兵にしては学がありそうだけど、何処の出なのかな?」

 

 

「話す必要があるか?」

 

 

「冷たいな〜」

 

 

距離は常に一定。目には見えない境界が互いの立ち位置を決めている。侵入者は足元の双子の回収を目標としているのか、その場から動かず遮蔽のある教室に入る様子もない。

 

ムツキは背後に庇うスバルを守りきる為にも、唯一スバルが弾丸から身を守れる己の身体という遮蔽を失わないようにその場を動かない。

 

 

「アロナ……アロナ!聞こえてるか…!?」

 

 

《はい!》

 

 

「OK!なら頼む!俺の事は後回し、ムツキの援護に全力を注いでくれ!」

 

 

《で……ですがそれではスバル様が…》

 

 

「大丈夫だから早く!」

 

 

《…………──っ》

 

 

両者の思考が停滞を選んでいる状況、スバルが一人で動ける……弾道予測による回避を行えるアロナによる脱出を行えば、状況は良くなる筈だった。

 

だかしかし──侵入者の出現と共に、アロナは致命的なミスを二つ。そして過去に精算しなかった怠惰による失敗を犯してしまう。

 

一つ目のミスは、ビナーの吹き荒らす砂嵐によって低下していた演算能力をカバーせず、無理矢理マッピングを続行していた事による未来演算の停止。肝心のマッピングには侵入者が映っておらず、易々と接敵させてしまったこと。

 

 

「スバルきゅん!ぜったい!私の背後から出ちゃ駄目だよッ…!この廊下、射線通りっぱなしだから」

 

 

「でもそれじゃムツキが──!」

 

 

「くふふ、スバルきゅん庇いながらでも勝てるって♪」

 

 

「っ…アロナ!アロナ…頼む…!」

 

 

《…………》

 

 

 

二つ目のミスは、その遅れを取り戻す為に一時的に全機能をリセット、この場からスバルを生き延びさせる為に行動予測の演算をスタートさせ、その分の時間のラグを生み出した上に……。

 

──即座に、ムツキへの支援に全力を注げなかった事。

 

 

 

(って言っても…ここじゃスバルを巻き込むから爆弾は使えない、相手は見立て的にハルカより数段強い。撤退?いや、スバルきゅんはあの足元の子達を見捨てれないよね)

 

 

(この状況でアビドスに襲撃って事は、スバルきゅんの容態が外に漏れてるかな……カヨコちゃんの言った通り、風紀委員内にアリウスへ情報を横流ししてる奴が居るって考えていい。それかカイザーと繋がってるか……)

 

 

「──随分と悠長にしているな」

 

 

「……悠長なのはそっちじゃない?御託はいいから、かかッてきなよッ!」

 

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

 

そして、アロナの過去から襲ってきた怠惰の結果。

アリウスの侵入経路を封鎖する為に行動したスバルの計画、それを立案したのはアロナであり、実の所列車が破壊された後にもう一箇所、破壊すべき地下鉄があった。

侵入の可能性は低いが、後の憂いを考えると必ず潰しておくべき案件、それを。

 

 

──スバルの命を優先した結果、見逃してしまった事。

 

 

アロナにとって、主であるスバルの命は、他の命より優先される。しかしそれも、スバルの意思は最優先事項、の筈だった。

 

ナツキ・スバルはARONAを信じている、盲信、盲目とも呼べる大きな信頼を。そしてARONAはスバルを信じている、連邦生徒会長が自身を託した相手を、今尚屍を積み上げるその姿に愛を。

 

三つのミスそれぞれが、彼女の感情による産物である事も自覚が無い。

 

愛を抱いたが故に、その時からARONAというAIは修復不可能な傷を負ってしまった。心というものに踊らされて、本人ですら自覚せずに嘘をつき、死の腫瘍を放任してしまう程に。

完了すべき目標を持った機械が、自ら目標達成の為のタスクを削除してしまう事は許されないのだから──、

 

 

 

「───!!」

 

 

 

白無垢の外套を被る侵入者は、構えるライフル銃に視線が向いたのを視てから、フラッシュバンのピンを抜いた。

ムツキの視線は銃のすぐ側に落下する物体に釘付けになった後、脳内で物体がなんであるかを理解し目を瞑る。更に目を瞑る直前に前傾姿勢を取った侵入者の姿を確認し、すぐさま廊下の直線上を封鎖するための掃射を行うが、

 

 

「あぐぅぁッ…!?」

 

 

《スバル様──!》

 

 

「躱すか。目がいいのか、それとも勘がいいのか」

 

 

「お生憎様、スバルきゅんは今お触り厳禁だから、ね!」

 

 

フラッシュバンの激しい音が鼓膜を通じて脳髄を叩く。キヴォトス人にとってはさしての衝撃でも無いが、目を閉じず耳も塞いでいなかったスバルにとっては、網膜を焼く業火であり鈍器による打撲に等しい。

 

体内の水分まで揺らされる衝撃に、刺さった点滴が身体から離れ、後方へと倒れ目を回す。

その間に銃撃を躱し接近していた侵入者、その手に握られた銀光がムツキの喉元スレスレを通り過ぎ、

 

 

「…(タマ)狙いに来る相手は久しぶり!慣れてるね、もしかして経験済み?」

 

 

「さぁな」

 

 

「まぁそっちがその気なら、スバルきゅんには申し訳ないけど……──自分が死んでも文句言わないでよね」

 

 

「…はは、そうか。やってみろ」

 

 

首を軽く回し、ナイフを突き立て続ける侵入者。握るナイフから漂ってくる刺激臭は薬物らしき気配を感じさせ、ムツキは銃で刺突を回避し続ける。

 

命の奪い合いは、人から大切なモノを奪い去る事が多い。一度経験してしまったものは、決してその『人殺し』という深みから立ち上がれる事は無い。

 

──ただ、戦闘での優劣を決めるとするのなら、どちらがより深く堕ちているかどうかでもあった。

 

 

「……」

 

 

なんの躊躇もなく、刺突の途中…背後に倒れているスバルに拳銃を向ける侵入者。ムツキがスバルへの攻撃に反応する度に、

 

 

「いッ──」

 

 

「まずは貴様からだ」

 

 

避ける事を強要させられる薬物が付着したナイフ、背後のスバル、そして得意の爆弾は使用不可。考えうる限りの最悪の状況で、ムツキの被弾が増え始める。

 

スバルに対して発射された銃弾を防ぎ、打撃を喰らう。フェイントを織りまぜられればその分択が増え、次第にナイフを避ける余裕すら消え失せていく。

この瞬間、一秒一秒がムツキの持ちうる全てのリソースを削る為に使われていき、

 

 

「……捨てろ」

 

 

「──その男を捨てろ、そうすれば生き延びれるぞ?」

 

 

「くふふ、やーだ。分かってないなぁ、私達…同じような人間なのに」

 

 

「同じ?」

 

 

「そう、同じ。同じように…」

 

 

唇の端が打撃によって切れ、銃底による攻撃で額から血を流しながらも軽い口調は変わらない。

そして侵入者はムツキの言葉に少しの戸惑いを見せる、どのような事情があるのかは互いに理解していなくとも、そんな口振りをするには己の生き方と余りに乖離しているのだから。

 

故に、その次の言葉を待ってしまった。彼女もまた、無意識の中に潜む悪魔に足を引きずられ、

 

 

「自分の命が、とーっても軽いって所♡」

 

 

「──!!!」

 

 

それまで使わずにいた爆弾入りのカバンを、ついに侵入者へ向けて近距離投擲するムツキ。

便利屋の情報、そしてカバンの重量から内容物を察した侵入者はすぐさまカバンを後方へと投げ飛ばそうとする。

 

その瞬間──ムツキから抱きつかれた事で、行動は封じられるのだが。

 

ムツキのとった手段は、侵入者諸共の自爆だった。近接戦闘、射撃能力が自身より上だと最初に感じ取り、尚且つ自身の最も得意な分野である範囲攻撃と火力が封じられている時点で、その封じられる箇所を使用する事でしか勝利の導線は見えてこない。

 

無駄に会話に反応してくれて良かったと、寡黙な暗殺者でなかった事を感謝しながら廊下の窓側へと押し倒していき、

 

 

「貴様…!」

 

 

「くふふ、ごめんね〜嘘ついちゃって。あ、もしかしたら命の軽さは同じだったかもしれないけど」

 

 

「…──」

 

 

「守りたいものがあっても、汚れたまんまじゃ駄目なんだよ〜?人殺しはね、誰も、なんにも守れないの。アリウスの傭兵ちゃん」

 

 

「………………この程度で死ぬものか」

 

 

「分かってる分かってる、だから続きは『下』でヤろうよッ!!」

 

 

視界が回復したスバルが見たのは、余裕そうな態度を取りつつも一心不乱に侵入者を窓へと押し倒していくムツキの姿だった。

力を込める事で震える声が、スバルに届く度に心が擦り切れていきそうになってしまう。

 

――ナツキ・スバルは期待されているのだ、彼女に。自分は自分に期待していないというのに、ナツキ・スバルが生き残れば大丈夫だという期待を。

彼女とスバルの間には『数時間』と『数百日間』の蓄積の差があるというのに、

 

 

「正直──すみません気分満載だけど、そのカッコイイ退場はストップさせて貰うぜ!命の軽さ張り合いレース一位は貰ったァ!」

 

 

「っ!?こっち来ちゃ駄目だってば!」

 

 

絡み合う二人に向けて走り出す。ここぞと言わんばかりに侵入者は空いている手でスバルの脳天に照準を合わせに来ていて、ムツキは大慌てだ。

 

関係ない、スバルが出来ることをして、スバルに託された期待に応える。そうすべきであることを魂が決めていて、スバルはそれに突き動かされるだけ。

 

足が早ければ逃げられた、銃が上手ければ援護出来た、身体が強ければ戦えた、休む必要が無かったらこんな状況にならなかった。

 

それでも、スバルよりも足が早くても、銃が上手くて強くて、頭も良くて天才だとしても──ここで動けるのはナツキ・スバルだけだ。

 

 

「喰らってくれよ頼むからぁ!!」

 

 

「喰らってやるさ、貴様を殺せるなら」

 

 

点滴台を振りかぶり、勢いをつけて白無垢の衣装へと振りかざす。

 

侵入者は小首を傾げ、まるでここまで愚かな人間だったとは、なんて目線で見つめ合ったが、生憎様ここまで愚かな人間が、こんな所までやってこれているのだと、

 

 

「ムツキ!離れろ!!」

 

 

身体の捻りを活かして、殴りつける姿勢のまま直前で投擲に切り替える。代わりに飛んでくるのは一発の弾丸。

 

苦汁を啜り、後悔を身体に刻んだ。理不尽と無常に血涙を流し、残酷な運命に弄ばれて己と他者の血に塗れて地に塗れる。

思い知らされたことと思い知ったことと、色んな経緯、経験を経てナツキ・スバルはこうしてるわけだが、その答えはずいぶん前から出している。

 

──運命様上等。

 

お前なんかに負けるために、ナツキ・スバルは存在していない。

 

 

「───壊れても、いい」

 

 

今まで撃たれすぎてるからか、スバルには撃たれる側での沢山の気付きがあるのは周知の事……──周知であっては不味いので修正して、列車では急所に当たらなかったら死なない事が一つの気付きだ。

 

そしてまた一つ、弾丸は柔らかい障害物を通ると軌道が逸れる事。つまりは命だけでも守りたいのなら、肉を通せばスバルでも弾丸の軌道を変えれる、そんなふざけていて当たり前といえば当たり前の事実を、

 

 

「代わりだ、これも貰っといてくれ」

 

 

セナとホシノが丹精込めて直そうとしてくれた身体を、左腕を犠牲にする。

当たり前を実現させるための生贄としては、少々高くなってしまったが、代わりに不埒な侵入者には同じものを返してあげよう。

 

スバルの唯一の武器、カンナからの賜り物が火を噴いて──、

 

 

 

「ナツキ・スバル…!」

 

 

「またのご来店は拒否しております!今度はちゃんと正面玄関から来いッ!!」

 

 

 

侵入者の身体が窓を突き破り、点滴台と共に外へと押し出されたタイミング。スバル自身も神がかった噛み合いだな、と無計画さから「…くはっ」と乾いた笑いが出たものの、視線の先では憎しみに染まった目に哀しみを覚える。

 

──起爆。ただ、この距離ではスバルも致命傷を免れない。自分の中の『ナツキ・スバル』がなにもするなと。お前の力など必要ないと、引っ込んでいれば良かったと告げてくるが、

 

 

「むぎゅ」

 

 

自分の口から出たとは思えない奇妙な効果音と共に、柔らかい匂いが身体を包み、爆風から遮って貰う。

 

四方八方に身体が飛び散りそうな速度で振り回され、呻き声がポロポロと漏れ出すも、声がまだ出る事に身の安全を確認した。

幼児よりも柔い身体には、十分酷な衝撃であったのには変わりはないが、

 

 

「………ふー……」

 

 

「い、生きてる…」

 

 

「……生きてるね、スバルきゅん。でも死ぬところだったね」

 

 

血を流し、傷を大量に作らせてしまったムツキから非難の声の様な音色をした言葉が飛んでくる。

申し訳ございませんと、ムツキに無茶をさせてしまった諸悪の根源であり、自爆を選ばせてしまった自分の不出来さと、犠牲を出さなかった優秀さ半々。

 

 

「死んでたら…怒ってた?」

 

 

「死んでなくても怒ってるよ」

 

 

「そりゃ……そうか」

 

 

──同じような人間。

 

ムツキに怒りの感情で睨まれて、その瞳を見て「同じような人間…だな」と零してしまう。

他の誰かなら更なる憤怒を呼び起こしていたのかもしれないが、ムツキはその言葉をゆったりと味わうだけに留めていた。

 

同じような人間、自分の命に託された信頼と愛を理解しておきながら、託してくれた相手の為に全てを使い果たす、命の軽い人間。

 

同業者がここにも居たか、そんな互いの『命の軽さ同士』に思わず含み笑いをしてしまう。

 

 

──そんな傍らで。

 

 

 

《……わた…──私は、私は……》

 

 

 

壊れたAI()が、一人嘆いていた。

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