Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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今回チョー短め!


『絶望に抗う理由』

 

 

 

──信じられないものを見たような目をしながら、アロナはスバルの顔に覆いかぶさった。

それから、信じられない言葉を聞いてしまった驚きを、瞼から涙を零す事で表して、

 

 

「スバル、様。今のお言葉は…」

 

 

「そのまんまだよ、アロナ」

 

 

「…………?で、では…再び、アビドスを救いにお戻りになると…?」

 

 

「悩んでる顔も可愛いなアロナは……──まだアロナには難しいと思う。理解も納得も、こんなのに出来やしねぇ。当たり前だ、俺も何言ってんのか半分わかってない」

 

 

「──アロナ。無茶してる姿見るのは辛いだろうけど、我慢して欲しい」

 

 

スバルの言葉はアロナに、零す涙の粒を更に大きくさせるだけのモノ。

スバルの無茶に、スバルの醜態に、スバルの残酷で過酷な状況に、心が砕け散りそうだと少女が涙目で訴えかけているというのに、当の本人は我慢しろと突き放す。

 

愛を受け取る事を否定したかと思いきや、口からは愛の籠った言葉を塗りたくってきて、

 

 

「──いや…です…!」

 

 

──幼子の心には、少々刺激が強すぎた。

 

膝枕をしているアロナは、スバルを横倒しにしてから馬乗りになって抱き潰す。勿論体格差のせいでスバルはこのまま普通に立ち上がれるのだろう。

しかしそうはしない、第三者目線で見ても、男は「当たり前」等とのたまって、ここでの安息を否定した理由を示さずにいたのだから、この拒絶は仕方の無い事。

 

同時に、どちらを選んでも良いと言っていた割には…この選択にしっかり泣いて、しっかり嫌だと伝えてくれる事に、心からの喜びを覚えるスバル。

 

 

「私、には…──分かりません…!スバル様が、誰の記憶にも…死んでしまった事が残っていないというのに、自分を犠牲にし続ける事も、自罰を行いながら他人を救おうとする事も、今…私の手を握らなかった事も…!人間は、死と共に生きれるものでは無いのです…」

 

 

「──私は、スバル様のように、強く在れないのです」

 

 

「……」

 

 

「教えて下さい、私はスバル様の何を理解出来ていないのか。私の論理回路にどのような異常があるのか、何を間違えているのか」

 

 

──間違ってないよ。

 

何も、間違えていない。ただそれを伝えるには、スバルはどこか壊れているから、アロナには上手く話せない。

『死』は簡単に人をおかしくする。そんなものを繰り返す時点で、ナツキ・スバル自体、壊れているのだ。

 

スバルにさえ、普通の人間が『この状態』をどう思うかなんて分からないし、だからこそアロナへ返事を返す事すら出来ない。

 

それでも──、

 

 

 

「俺一人じゃ絶対に耐えられてなかったと思う。アロナが、アロナがこうやって癒してくれるから、アロナが心の底から愛してくれるから、アロナが俺の為に泣いてくれるから……俺はまだ、狂ってない」

 

 

「──前の俺は何ひとつやってこなかった、誰かに優しくする事も、誰かを認めたり、助け合う事も。あれだけ時間があって、あれだけ自由があって、何でも出来る筈だったのに何もしてこなかった」

 

 

自分が、不幸な人間だって思い込んだ。

自分が、出来損ないだって信じ込んだ。

 

自分には人より欠けているものがあって、自分には人より優れた所が無くて、運命が邪魔してるだとか、自分の中にあるものと無いものしか見ずにいて。

 

 

 

「要するに、周りを見た事が無かったんだよ。死んで死んで、何百回も死んで、昔の事を思い返して、今受け取ってるものを思い出して、それで漸く変わろうとしてる」

 

 

「変わろうとしてんだ、変われるんだよ俺でも。みんなが居るから、変わろうって思えた!いつでも、どんな時でも……そう思った時がスタートラインなんだ!」

 

 

天高くアロナを持ち上げる。空に満ちている星まで届くように、この幻想を謳って皆に届くように大声で。

 

ナツキ・スバルは強くなんてない、弱くて情けない愚か者だ。

けれど、変われる事を知った、変われた人を見た。

スバルは小鳥遊ホシノによく似ている───いや、『小鳥遊ホシノ』が、ナツキ・スバルにそっくりの人間だった。

 

話せば話すほど、死に戻れば死に戻るほど、小鳥遊ホシノという人間の弱さが見えた、スバルと同じく自分の中のものしか見れない、独りよがりな人間。

 

 

「──アロナ、俺は…ナツキ・スバルは、死に戻りしか価値の無い人間。俺は、死ぬ以外価値が無い人間、それ以外に良いところも、価値も何も無い人間だ」

 

 

「ッ──スバル様…!」

 

 

「──なんてね、本気で思ってない、大丈夫」

 

 

「……」

 

 

 

──こうやって、ホシノにも怒ってくれる人が居た。

 

弱いところを沢山見た数だけ、ホシノの強さと優しさを知って。

梔子ユメは、きっとホシノ(スバル)に怒って、叱って、そんな事言っては駄目だとプンスカして。ホシノは、見ず知らずのスバルにさえ、優しさを分け与えれる人間になれたんだ。

 

 

空虚な目の奥に、あの美しいオッドアイのその奥に一筋の光を見た。

 

 

梔子ユメという人間が、小鳥遊ホシノに残した光を見た。

 

 

──ナツキ・スバルは、その輝く星に夢を見たんだよ。

 

 

 

「言いたいことを全部伝え切るには、もうちょいアロナたんがお勉強してからだな」

 

 

「────」

 

 

「俺は、俺が変わりたいって思わせてくれた人達の為に頑張りたい。そう『変わりたい』って思うには、俺一人じゃ何回死んでも辿り着けなかったと思う」

 

 

「──だから、みんなの為に俺は何度でも死ぬ」

 

 

これで今、ナツキ・スバルが言語化出来るモノは全て話せた。

だからといってアロナが納得出来るかは分からない、分からない方が正しい。この結論になる方がおかしくて、否定した方がマトモなのだ。

ぽたぽたと、持ち上げているアロナから雨が降ってきた。そろそろこの雨も、止ませないといけない時間がやってきた。

 

 

「…そうだ、アロナは俺のこと強い人間だっつってたけど」

 

 

「──アロナが一番、俺の弱いところを見てきただろ?脆いところだって、どうしようもなく、ちっぽけな野郎なんだってところだって」

 

 

「それは…──私は、スバル様の努力を記録することが役目です。スバル様の頑張りは、欠けていますが…僅かに、私のメモリーに」

 

 

「…なんか改めてそう言われると恥ずかしッ!やべぇ、醜態ばっか晒してきて、それ全部見られてるの、今更ながらに情けねぇ〜!!」

 

 

自分で始めた話なのに、いざ改めて情けないところを並び立てて確認すると、顔が真っ赤っかになってしまった。

その恥ずかしさで天を仰ぐと──、

 

 

「───」

 

 

夜空が崩壊しかけていた。

アロナがこの空間を破壊しようとしている、スバルを、元の居場所に帰そうとしている。

──でも、納得、してないだろうな。理解出来てないし、辛いまんまだ。

 

 

「アロナ」

 

 

「──俺は、アロナに諦めるところだけは見せねぇ」

 

 

「ごめん、我慢させて。ごめん、辛いまま置いていって」

 

 

「……──大丈夫ですよ、私は、スバル様専用サポートAIですから」

 

 

 

身体の感覚が薄れていく、視界が揺れて、赤みがかったアロナの顔も霞んで見える。

その霞んで見えるアロナの口周りが、もごもごと何か言いたげにしていて、スバルには何を言いたいのかの察しはついていた。

スバルが、止まらずに歩むというのなら、アロナが見つけた結論はきっと一つだろう。愚かで、迷惑かけてばかりのスバルを根気強く支える理由なんて、一つしかないのだから。

 

 

泣いてるアロナは、悲しそうに、そして嬉しそうに──、

 

 

 

「スバル様」

 

 

 

「愛しています」

 

 

 

「────」

 

 

 

「俺も、愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──細胞一つ一つに植え付けられた苦痛と恐怖は、目が覚めると失われていた。

 

黒髪を揺らし起き上がる。惨たらしく泡をふいていた自分は、どこでそんな無様を晒していたのか、どこまで戻ってきたのか。

答え合わせはすぐに済んだ、視界はボヤけていても、身体にとある感覚が在る事で最悪の展開を避けたのが分かっている。

 

 

「スバル!!!」

 

 

起き上がったスバルを見るや否や、いの一番にシロコが抱きついてくる。

──右腕の感覚だ、右腕がある、という事はアレが起きる前の事。

 

 

「スバル、スバルスバルスバル!」

 

 

「うぉい!?忠犬ハチ公じゃねぇんだから、そんな頭擦り付けんなって」

 

 

「良かった、死んで無かった…!あんな、本当に死んじゃうのかと……」

 

 

「──大丈夫だよ、なんとか冥府の川の先から帰ってきたって所」

 

 

場所は体育館、ブルーシートが引かれてる訳でも無く、所々に崩壊が見られる訳でもないし、張られたテントの下に居るスバルの視界には、アコやセナ、ムツキやホシノが見える。

戻ってきた、死に戻ってきた。まだ何も間違えていないこの時に。

 

──死に戻りのセーブ地点、その更新場所はスバルがムツキと共にノゾミとヒカリを探しに行く直前だ。

 

倒れる瞬間に聞こえた大勢の声と、冷たい床は体育館のもので、周囲の有様から見るにスバルが開催した賭け勝負の後。

 

 

「スバルきゅん」

 

 

「ムツキ…」

 

 

「本当に大丈夫?スバルきゅんが倒れた時、すっっごく心配したんだからね。変な毒でも飲んじゃってたのかって…セナちゃんが大慌てで検査してたんだから」

 

 

「──結果、該当無しだった時の私の心情を述べましょうか?スバル」

 

 

「いっ、ご、ごめんなさい…?」

 

 

「スバル、どうして謝るのですか?」

 

 

 

おっかなびっくりな質疑応答を乗り越えて、耳に聞こえてくるのは自分の名前を呼ぶ声だ。

一人二人じゃない、スバルを呼ぶ声はそれこそ、体育館に居る生徒の数だけ増えていく。

風紀委員の彼女らに、特段恩を売った覚えは無いが、あれだけ派手にぶっ倒れれば注目も引く。

その中でも、恐らく多分メイビー、スバルの方向を向いてスバルに似つかわしくない称号を、他でもないスバルに向けて送った生徒もいて──、

 

 

 

「し、指揮官さん!大丈夫でしたか?」

 

 

「──ん?」

 

 

 

スバルの顔そっくりな、その『指揮官』がいるのか辺りをきょろきょろと見渡しても、この世界にまともな男性が居るわけもなく、スバルはシロコに抱き着かれたまま、人差し指を自分に向けて、

 

 

「…………」

 

 

「え、俺?」

 

 

「うぇ!?あ、は、はい」

 

 

「──??」

 

 

「あ、いや、あの」

 

 

「俺!?」

 

 

プークスクス、そんな笑い方が良く似合う様子で、アコがこちらに笑顔を送ってきたことで、この珍妙な呼び名をスバルが倒れている間に広めたバカ、アホ、間抜けの犯人は見つかった。

 

今すぐにでもあの顔面と横乳に一発決めたいところではあったが、彼女らしくない髪の乱れと乱れた衣服、額を拭いて拭っていた脂汗が、スバルが倒れた後の乱れようを表していたので、お咎めは無しにしておこう。

 

 

「スバル!良かった、よかったぁ…もう!体に不調があるなら早く言いなさいよ!」

 

 

「スバル…──まだ、何か隠してたんだね。私は、思っているよりも君のこと理解できてなかったのかな?」

 

 

「ナツキさん…!あぁ……良かった、無事に目を覚ましたんですね!お身体に何か悪いところは

 

 

次いでアルが、流れていた鼻水をハンカチで綺麗にしてスバルの肩を揺さぶる。

ホシノが暗く沈んだ目をしながらも、そこに含まれるのは不安と安堵で、アヤネは一人医療品を抱えてやってきて、

 

 

 

「──────」

 

 

 

「………心配かけてごめんな、みんな」

 

 

 

聞いてるかどうかは分からないけれど、胸ポケットに収まった可愛い彼女の事を思い浮かべて、こう告げる。

 

 

 

──ほら、スバルが変わりたいと思える人間が山ほどいるだろ?アロナ。

 

 

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