Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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ノゾミママ…ヒカリお姉ちゃん…(二天井)


『決戦前夜』

「──只今より、胸部に埋め込まれた危険物除去の為の開胸手術を行います」

 

 

手術衣に身を包んだセナと複数の部員が、麻酔で眠っている三人を手術台に乗せて囲んでいる姿を見届けて、スバルはこれからの一手を熟考する。

あの時と同じように体育館のヒンヤリとした、今は半壊して太陽が差し込む壁へと背中をつける。

 

 

『スバルは休んでて、みんなには私が説明してくるから』

 

 

探偵しぐさで現戦力の分析を済ませるが、それは全てアロナの力なので、今のスバルはホームズでは無くワトソンがいい所だ。

セナはスバルの無茶を受け入れた、設備が充実していない状況で三人の生徒を手術する。

──それは命を預かるものとしては最悪の条件下であり、揺らぎない決意を宿す人間でも握る刃の先が震えてもおかしくない。

 

 

『任していいか、セナ』

 

 

『──ええ、任されました』

 

 

最早頑丈などでは表せない気力と胆力は、やはり最前線に立って医療を続けている救急医学部だからこそのもの。

許されるのなら、この手術の結果を神では無く、彼女達へ祈らせて欲しい。

 

 

「なんなら今は神様側が俺らに祈ってくれよな……」

 

 

「どーしたの、そんなダウナーな感じになっちゃって。もしかしてご飯食べてない?貰ってきたけど食べる〜?」

 

 

「ふ…──クールだろ?実の所クールに見えてコレ疲れてるだけ、後無償の善意に悶え喜びたいところだけど、今流動食しか胃が受け付けに立ってくれないんだよ…」

 

 

「そんなの見てたら分かるって、ほら、医療部のお姉さんから貰ってきてるから」

 

 

銀色の容器をノゾミがスバルのボサついた髪の上に置き、スバルの膝上へと身体を預ける。

ぽんっ、と置かれたそれの蓋を外し、啄むように口をつけ中身を飲み込むと、爽やかなグレープフルーツの味が広がって、鼻を通り抜けていった。

 

この身体に適したものかは分からない、薬品の類かと思ったが…中々どうして、美味しいではないか。

確か匂いが味の殆どの情報を占めていてて、香りさえ感じ取れれば内容物が何であれ美味しく感じる…的な事をネットで見た気がする。

 

 

「うめぇ」

 

 

「The・お薬みたいな見た目だけど、美味しいんだ?」

 

 

「食べてみるか?」

 

 

「え!いいの〜?食べる食べるー!」

 

 

喉にゼリーのような形状のモノが流れていくのを感じながら、傍に座り込んできたノゾミにパックを手渡し、肩を借りる。

 

 

「……」

 

 

スバルの杞憂でなければいいが、座り込む時に若干お腹を庇いながら座った様な気がして、軽く手を伸ばし──、

 

 

「大丈夫だよ、湿布貼って貰ってるから」

 

 

「──ごめん。…ホシノの代わりにはならないけど、痛い思いさせて悪かった」

 

 

「いいよいいよ。これで列車に乗ってた時…ヒカリを助けてくれた分はチャラ!お兄さんが……手、ぶっ刺した時はビックリしたんだからね〜?」

 

 

緩く笑みを浮かべるノゾミの穏やかな視線がスバルへ届き、含まれた安堵と信頼は、詰まっていた息を吐き出させた。

ノゾミもヒカリも、思いもよらぬ偶然で出会った相手。事情説明しただけで、やけにすんなり協力してくれる事が不思議だったが、その内情も責任感から来るものであったとは。

 

いつの時代になっても、上司の不手際は部下が始末するものなんだ。社会経験がないスバルにとっては、そんな上司の命令に従い続けるなら思いっきり喧嘩してやる、という気概だけはある。

 

 

「お兄さん」

 

 

「お…──ヒカリ!良かった、何ともなくて…!」

 

 

フラフラとやってきたヒカリが、ぽすり、スバルを背もたれにして股の間に座る。「こら!」とノゾミが怒ったが、スバルにしてみると本当に座ったかどうか分からない体重で特に負担も掛かっていなかったので窘めた。

 

 

「助けてくれてありがとー、全部片付いたら…スオウ監督官に私の電車の定期券作って貰うから、受け取ってほしい〜」

 

 

「定期券て、つーか…こんな事になってスオウはクビきられねぇの?」

 

 

「パヒャヒャ!その事なんだけど……ウチの上にも怪しい奴がいてさ、報告は入れてるけど審議中ってしか返してくれないんだよね!」

 

 

「………ネフティスもカイザーもハイランダーも、ちっとは内部の事整えてくんねぇかな…!?」

 

 

別に悪の組織やるならやるで、スパイはしっかり排除しておけよ、カイザーは特に。スオウの三重スパイ活動を思い出しながら、ため息を吐く。

状況の複雑化の一手をになっているのは、敵同士で殴り合いつつスバルらを巻き込んでくるからで、もっともっと単純に潰せばいい相手を示して欲しいものだ。

 

頭皮に爪を立て、皮膚を傷つけるようにガリガリと動かすスバル。それを見て、ノゾミは味わっていた先程のパックをスバルへ返して、

 

 

「お兄さん、これ無味のゼリー飲んでるみたいだったんだけど〜。お菓子みたいな感じかなー、って思ってたのに」

 

 

「あっまいもん食ってる舌で飲むからじゃね??───ちゃんと味するって!こう、爽やかなグレープフルーツ的な………え、プラシーボ??」

 

 

「それ欲しいー」

 

 

「ん、ほれ」

 

 

「ついでになでなでプリーズ、なにもしてないけど褒めて褒めて〜」

 

 

「はいはい」

 

 

帽子を取って、ヒカリは緑髪を揺らし差し出した。

『何もしてないけど褒めて』これをホシノの口から聞けたらどれだけ良かった事か、人間こういうバイタリティで生きていくのが一番丁度良い。スバルも許されるのなら、毎秒何もしてなくても褒めてもらいたい。

 

動く左腕を頭に乗せて、慣れた手つきで撫でてみれば、ヒカリからは「んー。10000点〜」とサムズアップを頂けた。流石はシロコで鍛えたこの左腕、ゴッドブローの名は伊達では無かった……のだが、

 

───薄ら寒さが背筋を伝って、一瞬身震いをする。

 

 

《……私も…》

 

 

「…?なんか…──なんだ??」

 

 

「どうしたのー?」

 

 

「な、なんでもない……そういや、ノゾミもヒカリもこれ以上出せる…移動手段ってのは、無い……よな、あんだけ派手にぶっ壊したんだし」

 

 

「「あるよ」」

 

 

「あるの!?」

 

 

「パヒャヒャ!私らの事舐めてたんじゃな〜い?これでもハイランダー学園のCCC(生徒会)なのに。それと選ばれた理由も…ヒカリの運転技術が凄いから!」

 

 

「普段はあの列車だけー。でも、今は緊急事態なのと、スオウ監察官が怒られてるから……一車両貸して貰えたー」

 

 

──貸して貰えた。単純に言葉の響きを取っても、列車一つを『借りる』等、特級の権限を振りかざせる彼女らに開いた口が塞がらない。

この砂漠での幸運を挙げるとすれば、必ずノゾミとヒカリとの出会いを含めよう。それだけ、スバルにとって二人の貢献度は群を抜いて大きかった。

 

ヒカリが膝上に乗っていなければ、慌てふためいて作戦の決行をシロコ達に伝えようとしただろう、跳ね上がる心拍を抑え、ノゾミに質問する。

 

 

「列車は、いつ…来るんだ…?」

 

 

「──明日の午前四時」

 

 

「…………!」

 

 

──期待以上に早い。この喜びが身体から弾けていく前に、ヒカリへのなでなでパワーへと変換して、鼻息を荒くした。

 

最善に近い状況、最善手を打てる環境、最悪を予防出来る余裕、この地獄の砂漠において、足を踏み入れたあの時から……過去史上最大に、ナツキ・スバルをエンディングへ迎え入れる準備が整っている。

 

 

《スバル様、戦力配置の演算終了致しました。選択されたプランはこちらの二つです》

 

 

「二つ……アロナにしちゃ、珍しい───」

 

 

胸ポケットの振動に気がついて、アロナと顔を合わせれば、この長く苦しい戦いを終わらせる宣言を耳にする。

しかし提示された案は二つ、二つという事はアロナが迷っている訳で、その選択肢に目を通すと、最適を導き出す彼女にとって選択肢が二つある理由が──。

 

 

《選んで、頂けますか?》

 

 

「────」

 

 

「…………っ…」

 

 

「お兄さん、何それ気になるー。必殺ピンポンダッシュ秒間16連打ー」

 

 

「ちょ、ちょわ、おわわわわわ!やめ、やめちょびれ!?」

 

 

乳酸が溜まるタイプの連撃を脇腹に叩き込まれ、スバルの手からアロナが奪われる。興味津々にスバルのガラケーを弄り回し遊んでいて、ノゾミに取り上げられるまでそれは続いた。

 

──お陰様で、顔に無理矢理貼り付けた鉄仮面は剥がれ落ちてくれたのだが、

 

 

「ひぃっ…ふぅ、あひ……」

 

 

「もー!ダメじゃんヒカリ!今のお兄さんに負担かけたら!」

 

 

「ごめんなさい……」

 

 

「だひ、大丈夫、ちょっと吐き気がするだけで──オげぇ…!??!?」

 

 

「「わーー!?」」

 

 

「ゲぽッ……だいじょうぶ、き゛にすんな……ひかり…」

 

 

ポロポロと口の中に先程のゼリーが戻ってきて、胃液とまでは行かずとも、喉の中を胃液に濡れたゼリーが通って外に出る。

 

別につつかれた事が直接的な原因では無く、笑ってしまうだけで胃の内容物を外へ拒絶してしまう体調が悪いのであって、気にする事はないとヒカリへ手を伸ばすスバルだが、真反対の効果を与えてしまっている気がしてならない。

 

無理に口元を手で押えてゼリーを戻そうとしたせいで、余計に見た目が──、

 

 

「オロロロ……はぁ………俺、この戦いが終わったら死ぬんじゃねぇの?フラグすら立てさせてくれないってワケですか?」

 

 

手元になんとか収めきった吐瀉物に血が混ざっていて、全て丸く収まった後に、CT検査の内容を確認したら見たくもない数値やら影やら湧いてそうなのが酷く心がかり。キヴォトスに人間ドックが無いことを祈ろう。

 

ヒカリからワナワナと震える手でハンカチを手渡され、顔を向ければ…案の定泣いていた。

この汚い手で抱き寄せる訳にもいかず、丁度よくこちらに向かってきていたアヤネへと事態を丸投げする事を考えながら、

 

 

 

「───まぁ、やってやるさ」

 

 

 

「お前に一発ぶちかますまで、諦めるかよ」

 

 

 

──『死』を笑い物にした存在への、格の違いを見せつける為に。

 

 

 

「やってやろうぜアロナ、選ぶのは勿論─────だ」

 

 

 

《……───はい!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───条件が足りない。

 

不足している、過不足である、欠けている、満ちていない、失われている、欠如している、未完成だ、何もかもが十全では無い。

 

許されない、許されてはいけない、許す訳にはいかない。勝てる筈だった、勝っていた、

 

 

「勝者は……」

 

 

「……」

 

 

「勝者は、小生だ」

 

 

「──勝者になるのは小生だッ!!許してなるものかッ!!!」

 

 

ビナー。ああ、デカグラマトンの預言者よ。

 

──何故、小生では無くナツキ・スバルを選んだ?

 

何に影響された。

貴様は忌まわしきキヴォトスのベール(神秘)を破壊し、無為にする浄化装置の筈だ。

文明のリセット、神秘が神秘である以前の古き神々への到達を目指す、それが『役目』である筈の下僕だろう。

 

あろう事か貴様は、同じ回帰を目指す同志を裏切った。音にならない聖なる十の言葉を、同胞を、自身の存在理由の証明さえ投げ捨てて──。

 

 

「何故……選んだ…──この鉄くずがッ、欠片の役にも立たない……─────」

 

 

「……………」

 

 

「─────?」

 

 

おかしい。やはり、何かがおかしい。

小生のシナリオ所では無い、この世界の原則そのものが塗り替えられている。コデックスの原本が改変されているのだ。

 

───おかしい。

 

異常だ、異変、特異点、へんちくりんで、機能しなくなって、

 

 

「おかしい」

 

 

「間違っている、訳では無いのか──?」

 

 

そうか、間違えてはいない。

小生の攻略法に間違いは無い。間違えていない。不足していない、満ち足りている。失われていない、欠如していない、完全で、完成品だ。

 

 

 

──既に起きた出来事は変えられない。

 

 

 

──肉体の限界を突いた。

 

 

 

──他者の苦しみは理解出来ない。

 

 

 

──小さな傷が致命傷になる。

 

 

 

「チートでは無かった」

 

 

「不正では無かった」

 

 

「反則では無かったと、したら?」

 

 

 

「おかしい、のか」

 

 

 

「おかしい。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい────」

 

 

 

「……………」

 

 

 

浮浪者の様な服装で、捨て子の様な顔をして、老いた白髪を掻き毟り、両の腕を地面へと叩き付ける。

 

 

 

「──────利用したな」

 

 

「匿名のッッ……──行人ッ…!」

 

 

「利用したなァァァァァァ!!!!小生を!!!勝てる筈のない勝負に!!!どう勝つかを知るためにぃぃぃぃ!!!!」

 

 

「ベアトリーチェェェエエ工!!!!!」

 

 

 

嘆く、嘆いて泣いて苦しんで、自身の終わりが近づいていることを自覚しない様に暴れ回り続ける。

 

何故自身が解放されたのか、何故コデックスに載っていない存在が現れたのか、何故奴はデカグラマトンの預言者を寄越したのか、何故自身が全ての選択肢を間違えているのか。

 

その『何故』の理由を見つけてしまった男は、よろよろと力なく、何処でもない何処かに向かって歩いていく。

 

どうしようも無くなったから、どうするでも無くなったから、これは『ゲーム』では無くなったから、

 

 

 

「黒、服……」

 

 

 

「黒服」

 

 

 

「黒服───!!!!」

 

 

 

「契約だ、契約しろ!聞こえているのだろう!!小生と契約するんだ!今すぐに!!」

 

 

 

「小鳥遊ホシノを反転させる手段を!寄越せぇぇぇ!!!」

 

 

 

その老人の嘆きを、誰かが聞いた訳では無い。

 

 

──だが、誰かが聞かねば、あんまりにも哀れでは無いか。

 

 

 

「───クックック」

 

 

 

男の笑い声が虚構に響いたのは。

 

───小鳥遊ホシノが、ナツキ・スバルの元を離れた瞬間のことであった。





今日は早めに書き終えたのでユメミルifスバルくん、書いてみました。

──オラの画力はここが限界ェだ…。
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