Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『勝者は常に一人』

 

 

朝日が部屋に入り込んできて、清々しい日差しを浴び気分が良くなっていく。普通、生徒五人の学校なんてどこの教室も埃が舞ってそうなものなのだが、肺にやって来るのは新鮮な空気だけで欠伸をしても咳き込まない。

 

シロコが自分の手に指を滑り込ませてきた、駄目だと言っても聞かなくて、一度突っぱねた位で折れるものかと考えてはいたが、それにしたって折れ無さすぎである。

 

手を繋ぎながら部室に入った時のセリカからの視線は、思い出したくもない。「そう……なんですね……」と呟いたアヤネの眼鏡がバーロー言ってる某探偵の様に光ったのも思い出したくない。

自嘲を垂れ流すには受け止めているものが優しく、甘過ぎる。もっとはっきり拒絶する事が彼女らを傷つけない最善手であり、中途半端になればなるほど、ナツキ・スバルは他人を不幸にするというのに。

 

 

「……」

 

 

自分が言える事では無いが、アヤネもシロコもまだ若い。彼女らの身の丈の想いに気が付けない程、愚鈍でも無いのがより息苦しさをましていて一度放った言葉の焼き直しを行ってなんとかなるものなのか。

 

 

『俺は──誰の想いにも応えられない』

 

 

『みんなには、もっと俺なんかより良い奴が見つかるよ。きっと、俺を選んだことが間違いだったなって笑える時が来る』

 

 

ひどく、都合のいい言葉を作り上げたと自分で思う。

でも、嘘偽りのないスバルの拒絶だ。

こんな男に、人生の時間を使わないでいて欲しい。

大人になれば、間違いだったと笑える時が来る。

異世界でスバルが残したものなんて無くていい、いつか必ず、ナツキ・スバルは日本に帰還する。

 

───別れは確定しているのだから、その間に抱いた気持ちが無駄にならないように。

 

 

「──それでは!俺が連邦生徒会捜査部の名のもとに、奥空アヤネをアビドス生徒会の生徒会長へと任命する!」

 

 

声を張り上げて、スバルは教室にて宣言する。奥空アヤネを生徒会長にすると叫ぶその音に同意の声が重なった。

 

 

「全生徒の半数以上の同意を以て、奥空アヤネは今から生徒会長へと就任します!」

 

 

拍手喝采(四人)をその身に受けて、アヤネは赤ぶちの眼鏡に指をかけ、自慢げに位置を整える。

 

 

「ん、それで…これなに?」

 

 

「アヤネへの栄えある任命式だよ、これで正式にアヤネは連邦生徒会に認められたアビドス生徒会長!」

 

 

「生徒会長───急に呼ばれてやけにアヤネが資料かき集めてると思ったら、スバル…アンタまた変な事して…」

 

 

「いえ、セリカちゃん…これはノノミ先輩を救出する上で必須な事なんです。今鉄道権利の交渉権を持っているのはホシノ先輩だけ、ホシノ先輩が居ないままナツキさんが総会に向かったとしても……」

 

 

「正当な権利が俺には無い、鉄道権利の契約続行を願い出るにはホシノが本来は議会に行かなきゃなんねぇ。それも俺が送り出した以上出来なくなった」

 

 

ループで揃えた情報と、アヤネから教えて貰ったアビドスの以前の話で、ホシノがどんな立場でどんな交渉をしていたかを知った。

問題に上がったのはホシノ以上の決定権を持つ人間が居ないこと、なら、今朝作ってしまえばいいとなって今となる。

 

 

「じゃあアヤネが総会に向かった方が良いんじゃないの?生徒会長って事は…ホシノ先輩より…──ホシノ先輩より役職が上!?」

 

 

「ま、そうだ。副生徒会長のホシノよりも生徒会長のアヤネの方が権力は上だし、本来ならアヤネも一緒に来て欲しいんだが、三人にはそれよりも大切な事を頼みたい」

 

 

「──ホシノを、一旦副生徒会長から離任させる。この内の誰かに撮影してもらいながら、ホシノの役職を失わせるんだ」

 

 

必要なのは──ホシノと契約の繋がりを断ち切る事だ。この後アビドスにネフティスが余計な手を出さない為にも、不和を残して戦いを終える事はしたくない。

やや面倒なのが、ホシノは『前生徒会長梔子ユメの代理者』であり、アヤネが生徒会長になってもそれは変わらない。

 

 

「だからホシノを生徒会長の権限で書記官なりなんなりにして、前の生徒会と契約との繋がりを断ち切れば…後は、アヤネにここで代理者に立てて貰った俺が、契約の続行を願う!」

 

 

「──ただし、ここまでやって漸く振り出しに戻るだけです」

 

 

スバルの言葉に続いてアヤネが語気を強めて告げた。

ノノミが人質として囚われている事実は変わりなく、スバルが代理者であってもネフティスは契約の破棄を押し付けてくるだろう。

 

元より、ノノミがネフティスと親密な関係にある限りそこを逆手に取られるのは仕方が無い。ホシノ達がここまで追い込まれたのも、彼女らの善意が合理的な判断を邪魔していたからこそ。

 

 

「──胸糞悪ぃ手段使って、全員を不幸にしながら善意につけ込んできたんだ」

 

 

「そろそろ、お代を払って貰わなくちゃな」

 

 

「……可能なの、スバル。アンタと警察の人だけで行って…本当に……」

 

 

「おっと〜セリカたん!砂漠の牢獄に囚われていた二人を助けたのはだ・れ・か・な!!」

 

 

「…そうじゃない。スバル──アンタがまた、無理をせずに助けられるのかって話。戻ってきたアンタがボロボロだったら、今度こそ承知しないわよ」

 

 

「────」

 

 

──涙は自然を流れる河の如く、いつもは素っ気ない態度を取る飼い猫が、家を出る瞬間に甘撫で声を出してきたかの様な感動。

 

ビシッと指を指してスバルに、身いっぱいの不安が詰まった顔を向けるセリカへ、やけに水分を含んだ音で鼻を鳴らし、

 

 

「セリカたんの為にも!無事に帰ってぐるがら!!」

 

 

「なんでアンタは私相手だとそういっつもテンションが変なの!?」

 

 

「う゛ぅ…その…元々家で飼ってたミャー子を思い出して…元気してるかなぁ、餌ちゃんと食ってるかなぁって…セリカを見てると泣けてきて…」

 

 

「そっ、そう… 私で思い出すってのにもツッコミたいけど…スバル、猫飼ってたんだ…」

 

 

「いや?」

 

 

「は?」

 

 

ミャー子はスバルの想像上の翼が生えてるキメラドラゴンペガサス猫であるので、別にセリカとは何の関係もない。

 

 

「───」

 

 

「ひぃ──!?!?」

 

 

「セリカちゃんストップ!ストップして下さい!?」

 

 

危うく出発前に約束を破りかけ…──破られかけたスバル。

肩に手を添え、腕をぶん回しながらにじりよってくるセリカに腰を抜かしている間にアヤネが抑えてくれなかったら、タンコブを作ったまま出陣していたことだろう。

そうしている間に───コンコンコンと、部室をノックする音が聞こえてきた。

 

 

「失礼します──…何で転けているんですかナツキさん、ともかく、ハイランダーのお二人から連絡が」

 

 

「…助かるぜカンナ、連絡って事は…」

 

 

「はい。準備が整ったとの事、私もいつでも出発出来ます」

 

 

──定刻が迫る。この場にいる誰の胸にも不安は無いが、開戦前の緊張感が走り始めている。

 

襲撃は無く、食事を十二分に取った上で安眠。コンディションは最高と言っていい。

長い説明を受けてもらったカンナも、この時間で休息を経て身なりを整えていた。

 

 

「…ふはっ」

 

 

「こんなんじゃ、最後まで締まらねぇかもしんねぇけど、それでいい。俺らはこれで行こう、いつ、どんな時でも『コレ』を忘れずに」

 

 

指を唇の端へ置き、横に向けて皮膚を引っ張る。

スバルが形作ったのは笑顔の形、約束通り、皆で笑っていられるように。

 

──息を止め、心を落ち着けて、全員がその時を待っている。ナツキ・スバルがその言葉を放つまで、じっくりと。

 

誰もが音を殺して笑顔の口から放たれる言葉を待ち望む。誰かの息遣いが聞こえる程の静寂の中、雲が朝日を遮り、そして持ち場を離れ朝日を部室に翳すその瞬間、

 

 

 

「俺達の手で、皆んなの手で、アビドスを救おう」

 

 

 

「──勝とうぜ!そんでここに帰ってきて、全員笑いながら飯を食う!!」

 

 

 

「最後に、ホシノへこう言ってやれ」

 

 

 

 

──結末がどうであれ、声高らかに。

 

口にする望みは、笑いながら肩組んで明日って未来の話をする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂が吹き荒れていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

件のビナーはここに居ない。だからこれは純粋なアビドスの気候であり、荒れ果てた帝国の末路とも言える。

砂の一粒一粒が、その愚かさの結末を伝えていた。帽子を深く被り、この砂嵐の中腕を組んでひたすらに待ち続ける。

 

本当に、愚かなものだ。全てを望み、全てを失った。何者かになろうとした帝国は、何者にもなれず砂の下へと消えた。

 

私はそれを受け継いでいる、帝国を憎んだ私が、帝国の夢を継いでいる。

 

 

 

「──」

 

 

──焦げ付くような、心地の良い殺意がジリジリと自分を焦がしていく。

指定した刻限と、私募ファンドの予定した時間にまで待ちきれず、鼻腔には硝煙と死と血の香りが間近に感じられた。

 

朝霧スオウという一人の人間が、初めて身の丈を知ろうとしていた。

 

監察官として、四重スパイとして、己の虚無への供物は常に捧げてきた。何かを成す事で何者かであることを、常としてきた。

しかし、心の内に根付く呆然とした空白は、変わりようのない本質を否定せずにいて、底の抜けた器に残っているのは虚無だけで、

 

それが──漸く、埋まるのかもしれない。

 

 

「…………」

 

 

欲しいものがあるのに、

幸せになりたい気持ちは無い。

満たしたいものがあるのに、

中身の無い器にそれを注ぐ。

 

何者かになりたいのに、何者でも無い私は。

 

──空いた穴の塞ぎ方を知らなかった。

 

空いた穴の、空いた理由も知らずに。空いてしまった事を認めずに。

 

 

「………………来たか」

 

 

何かになる事を否定されたくは無い、人間は皆、『何か』になる事を追い求め続けている。

それは否定されない、否定されたくは無い、否定されるはずが無い。

私がどんな手段を使っても、どんな悪逆を犯しても、求める事は悪では無く、人間としての本能なのだから。

 

──私は、空いた穴の塞ぎ方を知っていた。

 

空いた穴が、何故空いたのかを知って。空いた空白を埋めようとして。

 

 

「君は───」

 

 

「長旅ご苦労、昨晩から走り続けだろう。水分は不足していないか?」

 

 

「……優しいね、今から殺し合う相手に」

 

 

「──分かるのか。そうか、そんな目をしていたか、私は。殺し合う、そんな目を」

 

 

「随分と…感傷的。最初に会った時とは大違い、周りに潜んでる奴らは手出しして来ない感じかな」

 

 

「ああ、私との決着がつくまで奴らは動かない」

 

 

「───決着か、私には君のそのちっぽけな望みに付き合う必要すらない、私は、私の望みを達成するだけ」

 

 

「その望みとやらは、これか───?」

 

 

「──────」

 

 

 

朝霧スオウの手元には、小さな箱が握られていた。

 

小さな、箱。ただそれだけの代物が、小鳥遊ホシノの精神を横殴りにする。

 

何の変哲もないソレを見て吐き気が止まらなくなった、どんな攻撃を受けても揺れ動かない視界が洗濯機の中のように回って、気迫の表情を向けても身体は動かない。胸の内にあるのはこの場に自身を送り出してくれた少年への感謝と、

 

 

──目の前の存在を一欠片とて赦さない、純然たる殺意のみ。

 

 

 

「いい顔だ」

 

 

「貴様の想像通り、これは──」

 

 

「梔子ユメ。『だったもの』」

 

 

 

そうだ、何かになろうと、何者かになろうとする事は悪では無い。その旅路に悪逆と非道が満ちていても、そう望むこと自体は悪では無い。

 

問題はその望みを持つ人間が自分だけでない事、道筋には何れ交差する地点が存在するという事。

 

それが今だ。未来を望む限り、道筋が交差した瞬間にどちらかの道は閉ざされる。どちらが前を走り、その片方がその場で倒れ伏すだけの事なのだ。

 

帝国は多くの道を閉ざし過ぎた、目の前にはその帝国の権化が居て、私は帝国の虚無を継いでいる。

 

──なら、今から起きる事は必然に、求めるが故に赦される。

 

 

 

「始める前に、聞いておこう」

 

 

 

「貴様にとって、梔子ユメは何だ──?」

 

 

 

「─────」

 

 

 

「─────全て」

 

 

 

「…は」

 

 

 

「ははっ、ハハハハハッ!!そうか!ああ、良かったよ、私の勘違いでは無くて」

 

 

 

「ああ…そうだ。空白は、自分一人の手で埋め無ければならない。自分以外の手で埋まることなど、あるはず無いのだから」

 

 

 

箱をズボンのポケットに入れ、インカムから聞こえてくる叫び声にアビドスからの進軍を察知する。

時間は無い、猶予も無い。晒けだせる隙もない。今はただ気分が良い、気持ちが良い、人生の中で今だけが心地の良い時間。

 

あまねく全てを力で捩じ伏せてきた存在を、力を以て否定するというのは───。

 

 

本当に、気分が良い。

 

 

 

「…………」

 

 

 

一歩一歩、小鳥遊ホシノが歩みを進める。

願いの果て、善意の果てに辿り着いた末路が、あんなモノになる事でないと、執念のみが脚を突き動かす。

 

一方のスオウは動かずに、荒れ狂う暴風のような殺意を一身に受け悦に浸る。磨き上げられた殺意は、この世のどんな宝石よりも美しく、味わい尽くせない。

 

盾の重たい駆動音が、砂を擦る音と混ざり耳をつんざく。片手で扱える筈のない巨大な重量がゆっくりと迫っていく。

着ていたロングコートを脱ぎ捨て、ノースリーブの衣装へと変え、己の獲物であるポンプアクション式ショットガンへ気合い(神秘)を込める。

 

 

 

「─────」

 

 

 

──圧勝した相手との再戦、ホシノにとっては油断も驕りも無い戦いを、面白みもなく繰り広げて終わらせる。

 

──完敗した相手との再戦、スオウにとっては千載一遇を掴む戦いで、自分の人生を目の前の存在から未来を奪う事で始める。

 

因縁は無い、小鳥遊ホシノは縁もゆかりも無い相手。ただ、アビドスにおいて最強であるという一点のみで選ばれた。

 

どんな手段を使っても、己が何者かになる為の、『手段』として選ばれただけの事で、並べ立てた言葉や共感は表面にしか存在しない。

 

 

 

「──────」

 

 

 

ホシノの脚が一歩、遂にデッドラインを通過した。

同じ種別の、互いの武器の、最大火力をたたき込める距離に。

 

 

 

「ッ」

 

 

「──早撃ち勝負」

 

 

 

鋼が鋼を打つ音がして、剛弓が突き刺さったような衝撃を盾に受けるも、完全に威力を殺し切り『壁』を立てる。

砂に差し込んで作られた己の盾による『壁』は、互いの姿を隠し攻撃の出始めを見えなくさせた。

 

スオウには絶対の二択、右か左かを選択する秒数は脳内時間0.0001秒にも満たず、最早それは思考と言えぬ直感による反応で──、

 

 

「すると思った?」

 

 

「───!!」

 

 

──スオウの鼻先に『壁』が迫った。

左右のどちらかではなく、『壁』をそのまま蹴り飛ばしスオウへとぶつけるホシノ。意識外であり規格外の膂力による質量攻撃が顔面に直撃し、唯の生徒であれば顔面の骨が全て砕ける衝撃を一回転で流すも、額と鼻から血を流すスオウ。

 

仕留められなかった。まだ、生きている。故にスオウはホシノから目を逸らさない、絶対的な暴力装置、最強とされた小鳥遊ホシノの攻撃はこの程度で終わらない。

 

だから視線を外さないでいた、視線を外さずに、次の一手に思考を究極に集中させ、必ず対応して見せるために。

 

だからこそ、己が一手目で失敗したことにも気付ける。

 

 

 

「かハッ……」

 

 

 

何もせずに、ただ突進してきただけの、普段ならば対応できる無謀に対して、反応が遅れてしまった。

銃を撃つ素振りをして、ナイフを振り抜く素振りをして、質量攻撃を、手榴弾を、MAを、ありとあらゆる手段を放棄してのダイブ。

 

スオウの首に手をかけて、万力よりも強い力で意識を絞め落とそうとするホシノ。

 

それは、この世でたった一人、とある少年を除いて通用する逆択。ハイリスクローリターンの、選んではいけない悪手であるがために、

 

 

 

「言ったでしょ、君に付き合う気は無い──────…!?」

 

 

 

「いっ……ただろうッ…──空白は!自分一人の手で埋め無ければならないッ!!」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()、この結果は想像に容易いものであった。

 

 

ホシノの超人的な聴力が、この砂嵐の中、スオウの間近にまで迫ってとある音を捉えていた。

時限型爆弾の機械的な音が、スオウの胸元から聞こえる。それはホシノにとって二択どころでは無い、数百の未来の分岐。

 

その思考へ入り込んできたのは──。

 

 

 

「──避けたな?」

 

 

 

シロコとの、ナツキ・スバルとの、約束であった。

爆発は、起こらない。あの秒針の音が唯のフェイクであったと気がついた時。

 

 

 

「『ミメシス』」

 

 

「──起動しろ」

 

 

 

──ゲマトリアの無垢なる探究心、無垢が故の悪意が、ホシノに襲いかかる。

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