Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『一つの信頼と、もう一人の最強』

 

──辿り着いた場所にいたのは、見知った見知らぬ顔だった。

夕日が沈む中、暁に染まる世界で彼女と会遇する。

 

 

「はあっ、はぁっ…!」

 

 

スバルが許したとはいえ、勝手に出ていった先輩にかける言葉は無い。アビドスがこんな事になってからはずっとユメ先輩の手帳とやらを気にしていて、焦れば焦るほど失敗する癖に思い詰めてばっかりだった。

 

 

「ふッ──!」

 

 

そして思い詰めれば周りの声を聞かなくなる、自分の行動の正しさを今は居ない先輩なんかに頼るから、何が正しくて間違っているかすら自分で考えていない、そんな先輩。

 

 

「…っ、ホシノ先輩」

 

 

「シロコ先輩!ホシノ先輩は…!」

 

 

空が真っ赤になって、大きな瞳が浮かんでからホシノ先輩の居場所を突き止めるのに時間はそう掛からなかった。

何かが見つめているその先で、スバルの言ってた眼帯女の傍で倒れていたホシノは、私がここに来た途端起き上がった。

 

その目は彼方を見つめていて、突然目覚めた。という訳でも無さそうで、先輩が熟睡している所は見たことが無かったから、もしかしたら熟睡するとこんなに酷い寝相になってしまうのかなと思ったりしたけれど、

 

 

「───」

 

 

「楽しそうだね、先輩」

 

 

「楽しそうって…シロコ先輩には何が見えてるんですか…?」

 

 

「ん、だってホシノ先輩、笑ってるし」

 

 

「……??」

 

 

悪い所は散々味わってきた。

でも──それを超えるだけ、沢山良い所もある先輩。

例えば、強い。それも圧倒的に。それだけで尊敬に値するけれど、それよりも更に良い所がある。

優しい。私があの寒い日に拾われていなかったら、今この場に私は居ない。

 

色んな良い所がある癖に、向いてる方向が先輩の先輩なせいで、ホシノは自分がしてきた事に気がついてないから、教えてあげる必要がある。

 

 

「……いくよ」

 

 

──勝ち目がある戦いにしか挑まない。

何度も何度も、先輩に負け続けてきたから、それだけは教え込まれている。勝負に負ける度勉強は嫌いなのに無理矢理させられるし、逃げても追い付かれるし。

 

 

「待ってシロコ先輩!」

 

「試すだけ、もし予想通りなら──」

 

 

野生の勘が告げる。

目の前にいるのは、これまでにない絶対的な強者であると。

両足にためた力を開放し、直線状に突撃するシロコの狙いは『確かめる』事であり──それこそ、一切の加減を排し殺す気で突撃したところで、

 

 

「……」

 

 

「ぃ゛ッ…」

 

 

暗く微笑む先輩に、その殺意が届くことは無い。

伸ばした右腕を僅かな動作で躱され、半弦の形を描く回転蹴りがシロコの後頭部を直撃する。重く、鈍い痛みは先ほどまで床に伏せていた人間が出せる威力ではない。

 

──これは予想通り。

 

自身の攻撃に対しどう対応されるかまでを予想していたシロコは蹴り込まれた足に手を滑り込ませ、握りこむ。

 

 

「まだ…!」

 

 

「───」

 

 

互いに固まった姿勢からホシノが指を一本動かし、身に付けていた閃光弾を落下させる。

これもまだ予測の範囲内。ホシノの対応は効率的故に機械的で、同じ攻撃には同じ対応をし続け、終わりの見えない詰将棋をさせられる───それが、小鳥遊ホシノと戦うということ。

 

 

「──…!」

 

 

「コレ、やりすぎだよ…!」

 

 

「………」

 

 

その詰将棋に対応出来るのは、将棋盤をひっくり返せる存在か、シロコの様に次の一手を予測出来る存在か。

──両者の間に援護射撃が走ると同時、後ろに飛びのこうとするホシノを逃がそうとしないシロコへ拳を叩きつける。何度も、何度も執拗に足から手を離さないシロコへの連打はセリカとアヤネの射撃を許容してのモノ。

 

 

「分かってたけど…!」

 

 

「全く攻撃が通りません!ね!」

 

 

「ん゛!」

 

 

無手のホシノは業を煮やし力任せにシロコを振り飛ばす、その仕草には三人ともに見覚えがある。

それはナツキ・スバルでも、朝霧スオウでも、カイザーですら引き出すに至れなかった小鳥遊ホシノの『最高到達地点』。

戦闘行為における全分野を網羅し、その身に盾を構える以前の──。

 

 

「うぐっ……」

 

 

「シロコ先輩!」

 

 

「……ん、これ、やっぱり…──荒れてるときのホシノ先輩だ」

 

 

暁のホルス(怪物)』であった頃の、小鳥遊ホシノ。

それがシロコが直感で理解した今のホシノの状態であり、その答え合わせをするかのようにホシノは大盾を地面へと打ち捨てる。

梔子ユメからの唯一の遺品、ゴミ箱の中を引っくり返してまで手帳の行方を探していた姿を見ているシロコにとってその行為は、

 

 

「──誰も勝てない」

 

 

──あらゆる犠牲を許容する。

小鳥遊ホシノが辿り着いてしまっていた酷く寂しい孤高を、感じさせられるものだ。

ひたすらに相手を滅するという点で、小鳥遊ホシノが秀でていた時期は成熟した3年目では無く守る相手が存在しなかった1年目。

 

多分、恐らく、何の戦力の欠けも無くここに辿り着いたとして。

ノノミが居て、風紀委員会がここまで来てくれて、一緒に戦いたくなんかないけれどあそこに倒れている眼帯女が協力してくれるとして、

 

 

「勝てない」

 

 

それが──結論だ。

 

 

「……」

 

 

シロコが蹴り飛ばされた後、ホシノは大盾の前から一歩も歩いていない。様子を見るに一定の範囲に踏み込むまでは何も反応しないのだろう。

だからといって遠距離攻撃をしたところで、戦車砲ですら傷を付けれない彼女に通用する武器は──背後の列車砲ならばあるいは、だがその道をホシノが塞いでいるジレンマだ。

 

スバルが来るまで待つか?それも出来ない。それを前提には動けない。スバルの戦力の分散の仕方は、スバルにこれ以上の負担を押し付けない形でもある。

 

それに何より──。

 

 

「セリカ、アヤネ…上」

 

 

「っ」

 

 

──深紅曇天極まる空に浮かぶ光輪。

空が、落ちてきていた。大地に立つ全員を押しつぶすが如く、光輪は落下を続けている、まるでタイムリミットを指し示すように。

 

 

「どう思う?」

 

 

「…分かりません、ですが…」

 

 

「どう考えても、アレが落ちてきたら全部終わる感じ」

 

 

「ん、なら早くホシノ先輩を起こすよ」

 

 

酷く乾いた目が光を映す度、一歩先の未来を示す。

深紅の終わり、それは溢れんばかりの血。自分の、セリカの、アヤネの、誰かの犠牲の血。

──犠牲。犠牲犠牲犠牲。どうして犠牲を払い続け無ければいけないのだろう?

必要の無い犠牲であれば、それを回避する道もあった筈。それでも、私達は犠牲を強いられる。

 

 

「──本当は、もっとゆっくりしていて欲しいけど」

 

 

先輩と出会った時から、先輩が一度たりとも熟睡した所を見たことがない。浅い、眠りとも言えぬ気絶を繰り返して毎日を過ごす先輩は、ここに来て漸くちゃんと眠れてて、

──本当は、寝かしてあげていたい。この瞬間を逃した後、もしかするとホシノ先輩は一生眠れないかもしれないから。

 

 

「ホシノ先輩は、ホシノ先輩。アビドス高校三年生の小鳥遊ホシノ」

 

 

「だから、そこに居続けることは出来ないよ」

 

 

「──ユメは、いつか覚めるものだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっばいやっばいやっばいやっべぇぇぇぇぇ──!?」

 

 

「しーぬー」

 

 

「このままじゃほんとに死ぬけど!?」

 

 

「私が足止めしましょうか!?」

 

 

目覚めて、数刻。

スバル達は絶賛、叫び声を上げながら唸り声を上げる列車のエンジンに両手を合わせ祈りを捧げていた。そうせざるを得なかった。

──後方から迫る狂乱したビナーが、線路を破壊しながら迫っている以上、列車のエンジンの出力にしか頼れないのだから。

 

 

「アレを!?」

 

 

「んー…無理かもです〜!☆」

 

 

このままでは葬式一直線だが、お焚き上げをしようにも全部砂に分解されるので出来上がりがガラスになってしまう。メイドインスバルのガラスはアビドスの窓として寄与するとして、毎日過酷な砂嵐から彼女らを守ってあげなければ。

 

 

「──あ、ヤバい」

 

 

「それ止めてくれよ!?俺の寿命縮むからさ!!?」

 

 

「まだまだぶっとばーす」

 

 

ノゾミの顔が青く染る。ヒカリが握る操縦桿、その前方に搭載された計測器の数々が見たことの無い数値にまで振り切れているのを見て思わず絶望が口から漏れだした。

ノゾミのヤバいを聞いたのはコレで三回目で、三回目という事は既にこの列車は三回の限界を超えているという事。

 

そしてヒカリの『まだまだ』もコレで三回目、スバルがこの列車くんなら全力で首を横に振り、もうダメですやめてくださいごめんなさいと、己を酷使し続ける少女に命乞いをするであろう。

 

 

「本当にコレ大丈夫!?ビナーに潰される前にエンジン爆発して死なないよな!?」

 

 

「う、運転の技術でヒカリはCCCに選ばれてるんだから!お兄さん安心しなよ、これぐらい大丈夫!」

 

 

「──冷や汗ダラッダラだけど!?」

 

 

全く以てのっぴきならない状況で、安心しろと言われても手の震えを抑えることは出来ずにいる。ビナーの分解、その恐ろしさを知っているからこそ、追いつかれればあの地獄を皆も味わうと考えれば必死に祈り、祈り続ける。

航海の無事を、ノノミの勇気を後悔にしてしまわない事を祈りながら、震える手から力を抜いて、心細そうにしているノノミとノゾミの手を取った。

 

──頼むよ神様。運が結末を決めるというのなら、ここで今全てを捧げよう。その他のものでも、何でも。

 

 

「───」

 

 

「ナツキさん……震えて…」

 

 

「…まぁ、怖いもんは怖いからな。そういうノノミは…怖かねぇの?」

 

 

「そうでもありませんよ、怖い思いはずっと味わってきましたし…今も怖いままです。けど」

 

 

「──明日が見えない毎日よりはずっと、今の方が安心出来るんです」

 

 

「───…安心」

 

 

随分と、スバルは彼女を呑気にさせてしまったようだ。この状況で、安心、なんて。

無言で笑みを浮かべるスバルに、ノノミは重ねて笑い掛ける。

ビナーの追跡が終わらないのはスバルのせいだ。結果論ではあるがノノミがスバルを列車に引き入れなければ、スバルは気絶後にビナーに分解されていた。

列車に乗り込んだとて今からでも皆と今生の別れになるやもしれないが、それでも、

 

 

「腕、引っ張ってくれてありがとな」

 

 

「いえいえ〜、後悔しないのが何よりです☆」

 

 

ため息、それと解放感。

あの場で、終わりのないビナーとの追いかけっこに興じるより、走り出せて良かった。そのルートから手を引いてくれたことに感謝したい。

 

 

「アロナ、ビナーを何とかする方法ってのは無いのか?」

 

 

《…対象:預言者・第3セフィラBINAHの行動ロジックに致命的なエラーを確認しています。真性に至るまでの過程に、何かしらの要因でスバル様という変数が混在してしまったのかと》

 

 

「傍迷惑つー次元じゃねぇだろ!」

 

 

《再起動を挟んでも解消しなかった事から、既にこのエラーは不可逆的な損傷であり、ビナーの主目的が完遂されるまで追跡を途絶えさせる事はありません。解決方法は───》

 

 

《………目的を果たす事か、修復不可能域にまで損傷させるか》

 

 

「──ラスボス枠としちゃ、お前の方が地下生活者より相応しいのな…」

 

 

どうする、ホシノですらその修復不可能域とやらにまで達せなかったのなら、スバルの手持ちでビナーを滅多打ちにする火力は存在しない。

 

 

「────」

 

 

《…………》

 

 

互いに沈黙し、解決法を練る。

条件は、この走行中の列車で出来る事、ビナーを破壊し尽くせる火力、そしてシロコ達の邪魔をしない事。それらの条件に合致するのは──。

 

 

「あ…」

 

 

《──該当するものが、一つだけ》

 

 

──そしてまた、互いの言葉が重なる。

この窮地を脱するただ一つの方法、それを目指しヒカリヘと声をかけた。

 

 

「ヒカリ!列車砲だ!ビナーをぶっ飛ばすにはそれしかねぇ、目指す先は……!」

 

 

「──結局、生徒会の谷ね〜」

 

 

運命は収束する──なんて眉唾ものだと思っていたが、こうも因果因縁諸々一箇所に集中するのを見るに、オカルト的なモノは確かに存在するのかもしれない。

予言の自己実現、それかもしれないと頭を捻る。

殺人鬼が出るといった噂話に尾びれが付いていつの間にか怪談となり、都市伝説的に広がった結果、噂話を実行するものが現れたり、銀行が潰れるという噂だけで銀行が潰れたり。

 

予言という前提があるから──未来もそれを前提として成り立っていく。七夕に願えば叶うのも、自分の願いを紙に書いて言葉にするからなのではないか。

 

 

「っ…」

 

 

祈り、祈る。心の底から祈る、精根尽き果てるまで祈る。

現状スバルが出来ることは無く、皆への祈りは『任せる』というと他力本願でしかないが、信じているという後ろ頭が痒くなる言い草でもあった。

 

少なくとも、最後のこの移動だけで日が落ちる。視界が制限される程度でシロコ達が負けるとは思わないが───あの老人、卑劣で救いがたい地下生活者が呼んでいた『セトの憤怒』とやらの顕現は近い。

到着したその後、ソレにより誰かが敗北し、命に関わるようなことがあれば──あるいはスバルは、『死に戻り』を考慮しよう。

 

 

「────」

 

 

これ以上、痛いのも苦しいのも嫌だ。

それよりも、皆の居ない夜明けを迎えたくなんか無いだけ。

 

 

「……シロコ、セリカ、アヤネ」

 

 

──信じよう。みんなを。送り出した自分を。

シロコ達がホシノを救う。スバルが辿り着く戦場は何の心配もない。ただ列車砲を使ってハッピーエンドを迎えるのだ。

誰も欠けずに、朝を迎えよう。そうすれば、スバルの心配事はもう、たった一つでいい──。

 

 

「ホシノ」

 

 

祈りを空へ。世界が落ちてきていると錯覚する光輪の落下を仰ぎみる。スバルの胸には一人の少女が崩れ落ちている姿が焼き付いていた。

──彼女は救われるのか?──救えるのか?

 

スバルに、あの虚無を。あの絶望を。誰も理解出来ない筈の苦しみを。

 

だからきっと、ホシノに再会出来た時は同じ言葉を伝えよう。ここに来た時と同じ、あの言葉を。

 

その言葉を胸に潜め、ただ静かに。祈りを彼女へ、決意を己へ。

 

 

「……もう手札が空っぽってなら、とっくに絶望してたかもな」

 

 

「主役気取っといて後はやる気だけってのは、シロコに面目立てられねぇ」

 

 

「──頼むぜ、アコ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っぁあ゛っ!!」

 

 

──雄叫びが戦場に響き渡った。

気合いを、底力を全て外へ排しぶつける。己の全力と全存在を投げかけて、それをいとも容易く対応する先輩に届くまで研ぎ澄ます。

 

一手でダメなら二手目、二手がダメだったら三手目で、それでもダメなら詰むまで続ける。それを行えた存在がずっと傍にいた。

 

考えよう、スバルならどうするかを。ただ一人、この先輩についていけた男の思考をトレースして、自分の身体を動かすのだ。

この攻撃に意味が無ければ、意味を生み出し。容易く躱される射撃は誘導で。追い詰められているのはそっちの方だと。

 

そうやって最弱の男は完璧無比な先輩に消えない傷を刻み込んだ。敗北という消えない傷を。

 

 

「ん゛ぅぅ…!?」

 

 

「シロコ先輩!っ、無茶し過ぎです…!!」

 

 

「もう、時間が……ない…!」

 

 

空の雷鳴、その嘶きは更に激しさを増している。

アレが何なのかは分からないが、光輪と同等の嫌なモノを感じさせる雷雲は、現状を耐えてるだけでは許されないと、身を更なる酷使へと追い込んでいた。

 

機を急げば勝機を無くす、だが機を急がなければゲームオーバーは近い。にっちもさっちもいかないこの状況で、彼ならば───。

 

 

「はァッ、はぁっ…スバル、なら……」

 

 

「スバルなら───」

 

 

スバルは、人を信じている。

それは表面的な話では無く、確かな希望を持った確信だ。その人が成す事を、その人が出来ることを出来ると信じている彼のひたむきな想いが、出来ないことまで叶えさせた。

 

──彼が信じているから、私も自分を信じられた。彼が、ホシノを元に戻せると信じているから、こうやって死力を尽くす。

 

なら、彼は私の何を信じているのだろう。強さ、経験、信頼、理解、ホシノ先輩を救い出せる何かを、私の中にあると信じている。

『ある』んだ。この絶望的としか思えない状況で、希望を語れる何かが私には。

 

 

「………………」

 

 

──突撃射撃。躱される。手榴弾。効かない。接近戦。論外。あの盾を拾う?──何が起きるか分からない。眼帯女を起こす?それでも勝機は無い。

 

スバルが信じているもの、スバルが信頼しているもの、それに気が付かないと。

 

 

「……私が、ここにいる理由」

 

 

「──私の、役割」

 

 

今のホシノ先輩に、どんな言葉を投げかけても届きはしない。幸せな夢を見て寝ている彼女には届かない。だから、起こさないと。

 

──もし、スバルが信じている『私』が、果たすべきものがそれだとするなら。

 

たった一つ、たった一つだけ。自分には出来ることがあった。

 

 

「───」

 

 

「今、ホシノ先輩を止められるのは私だけ」

 

 

「それが私の役割で、そのために私が存在してるから」

 

 

──暗く、暗く。さらに暗く。

冷たい太陽を思い出す。彼の背後に浮かんでいたあの太陽を。

 

 

「私なら」

 

 

温かくて冷たい、あの太陽になれるのなら。

私だけが感じていた、彼の太陽になれるのなら。

 

 

「私が」

 

 

過去を焼き尽くし、アビドスに曙光をもたらせる。

私が、その太陽になろう。

 

 

「私が!」

 

 

「──待って」

 

 

「誰!?」

 

 

 

──時を同じくして。

戦場に立ち、戦況の行く末を見届ける者が居る。

ゲヘナの風紀委員会である銀鏡イオリはこの争いにさして興味は無く、ただの業務としての参加ではあったが、ナツキ・スバルの演説に食指を動かされ銃を握った。

火宮チナツは責務に役割を見出している。アコの居ない席を自身で埋め、この作戦の指揮を握った。

尾刃カンナは己の負債に決着をつけるため。奥空アヤネは元のアビドスに戻るため。黒見セリカはアビドスに降りかかる不条理な運命に抗うため。

 

──小鳥遊ホシノは自分の理想を追い求め、夢を叶えるため。

 

そして砂狼シロコは、全ての願いを叶えるために。

 

 

 

「……彼は、ここに居ないのね」

 

 

 

ならば、あと一人だけ。あと一人、アビドスの運命へとナツキ・スバルを後押しした存在が、まだその手を離していないのなら。

 

──まだこの舞台の一幕には、その名を書き記す余白が存在する。

 

 

「──誰?」

 

 

そこに立つのは白い髪の少女だ。圧倒的な存在感を纏った影だ。破壊力を具現化した武器を持つ、彼の、ナツキ・スバルの信頼そのもの。

 

崖から降り立った影は、結構な高さから落下したのにも関わらず何事もないようにその重機関銃を亡霊たる小鳥遊ホシノへと構える。

 

 

「こんな事になるのなら最初からついて行きたかったのだけれど……今となれば謹慎さえ、彼から私を引き離すためだったのかも」

 

 

「ともかく、小鳥遊ホシノ。今から貴方を制圧する。手加減をする余裕は無い────彼が、ここに来るまでに終わらせるから」

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