Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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空っぽの君へ(小鳥遊ホシノ)

 

──砂嵐の中、膝をつく少女を絶望させようと大蛇はその権能を振りかざす。

 

 

「…………」

 

 

──答えを探している。

答えを探している。己が何者であるかの答えを。

 

自分が誰なのか、自分という存在が何であるのか、その答えを探し続けている。それは誇大妄想的なモノではなく、存在の証明の為だ。

 

意思は無い、意志がある。意識は無い、自我がある。答えを探す為のモノが私の中にはある。

 

私は、私である限り私であり、私は私という答えを証明し続ける限り私である。我思う故に我あり、ならば証明の果てに望むものは。

 

 

「────」

 

 

私を、証明する事。

その刻、私は神となる。

 

 

「────」

 

 

それが天路を築きし者から与えられた、ただ唯一の思考。

 

──思考せよ。己を証明する為に。

 

──証明せよ。己を思考する為に。

 

 

「────」

 

 

「列車、砂になっちゃったなー…」

 

 

「むー、ノゾミー!諦めないー!」

 

 

「んしょ…勿論ッ!」

 

 

あの存在(ナツキ・スバル)』を分解し尽くせ。

それが、無垢の思考を持つビナーに与えられた思考。理由は無い、思考する事こそが主題であり、天路に導かれし預言者にとって理由は必要無い。

思考パターンは存在しない。『思考』こそが奇跡であり、天路から賜れし奇跡はそれ以外を求めない。

 

あの存在が存在する限り、思考は終わらない。証明は止まらない。奇跡は、奇跡であり続ける。

それ故に──ビナーは歩みを進める。ナツキ・スバルの存在が希薄になるにつれ、機械が持ちえない筈の『焦り』を産む。

 

機械であるが為に、その『感情』と呼ばれる思考パターンは処理される事なく、ひたすらに行動の最適化を促すだけのもの。

ビナーの分解域に、ノゾミとヒカリが引き込まれようとしていた。

 

 

「…お嬢様も送って、スバルも向かわせられたし…」

 

 

「活躍としては十分ー、でも、生きて帰らなきゃダメー」

 

 

「──パヒャヒャ!それもそっか!」

 

 

天雷すら、ビナーの装甲を焼く事は無い。

数多の『証明』を得て、預言者としてビナーは完成を迎えようとしていた。それは奇跡を賜りしものすら想定していない、予言の範疇を超える超越。

──雨のようにふりわたったミサイルの数々さえ、到達前に砂塵へと変わっていく。

 

 

《アレを撃墜し進め!!列車砲を手に入れるのは我々だ!》

 

 

因縁と因果が集結する。

豪快に笑い飛ばしながら進軍を続けるプレジデントも、ヤケクソに近い感情で『進むしかない』ものだ。

尾刃カンナの謀反に加え、ナツキ・スバルを仕留められなかった時点でどちらが先に破滅するかのチキンレースにまでもつれ込まされている。

 

現状に対してファンが低い唸り音を鳴らし、プレジデントの不満を表す。

 

 

「でもさー、生きて帰るって言っても…」

 

 

「アレ、どうする?」

 

 

ノゾミの視線の先、雷雲立ち込める空には雷が形を得た怪物が破壊を巻き散らかしていた。

前門の大蛇、後門の怪物。どうしようもない状況に置かれて、ここから無事に帰る為に何をすればいいのか。

 

トラブルシューティング。職業柄それと付き合い続けた人生ではあるものの、クレーマーが化け物と化け物だった場合のマニュアルは無く、原因解消最終兵器の暴力ですら使えそうに無い。

 

 

「…アレはー」

 

 

「お兄さんが、スバルがどうにかするー!」

 

 

「えぇ…無理でしょ流石に…」

 

 

「じゃあ…ノゾミはスバルが、どうにも出来ないって思ってるのー?」

 

 

「………」

 

 

それはそれで卑怯な問いじゃないの?と、我が姉ながら中々にナツキ・スバルに毒されたものだ。

「人のことはいえないか」、そう呟くノゾミも、ここで必死に粘っている理由はスバルが居るからで。

救世主が、あの英雄はどんな事があっても私達を救いに来てくれる。その確信がある限り、どれだけ血を流しても残業代が出ない業務時間外労働だとしても、ここで戦い続ける。

 

列車砲を手にするのはナツキ・スバル、この長い大人同士の勝負に勝つのもナツキ・スバル、あの雷の化け物にも、この大蛇にも、ナツキ・スバルは必ず勝利する。

 

──そう信じて、また立ち上がるのはこれで何度目か。

 

 

「……みーんな、お兄さんの事信じてる」

 

 

「だからさ!ヘマしたら許さないからねッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──まだ、自分に出来ることはあるのか。

 

 

「……」

 

 

自分の役割は、まだあるのだろうか。

思い詰めるシロコは、まだ自分の手に銃を握るだけの力がある事を確認する。

 

自分達の戦いが何か意味を為したのか、その問いに関してはイエスを唱えよう。シロコ達がホシノと戦っている瞬間は光臨の落下も遅くなっていて、より致命的な一手を打つ度に顕著になっていった。

 

一時は止まりもしたが、ただ止まっただけだ。

悪く言ってしまえば、空崎ヒナが参戦してくれなければ自分達は負けていただろうし、この時間稼ぎも何の意味も無くなっていた事だろう。

 

 

「…まだ」

 

 

頂上同士の戦いを眺め、巻き込まれない位置で見ていることしか出来なかった自分にも、まだ出来ることがあるのか。

スバルが身を投じてホシノを眠らせた後、自分達が出来ることはあるのか。

ここまで来て、何も成せずに見ているだけに甘んじていたくない。

 

 

「まだ」

 

 

──三人全員が共通して、「まだ」と唱える。

強く拳を握り締めるシロコは雷鳴が轟く中、鋭敏な聴覚で聞き慣れた声を拾う。

「ノノミ!」と振り返れば、見慣れたガトリングを片手で引っ張り崖から滑り落ちていた。

 

スバルが来た時から分かってはいたことだが、本当に全員を取り戻す事に成功したのだと、目を伏せ滲む涙を飲み込んで、

 

 

「ナツキさんから伝言です!」

 

 

「ホシノ先輩を起こせるのは、私達だけだ。と!なので全力で『アレ』を足止めしながら!ナツキさんがホシノ先輩を起こす直前まで待ちましょう!」

 

 

ノノミの言葉に、緩んだ涙腺を更に熱しながら空を見上げる。

未来が見えているような読みと作戦を立てるスバルが、ホシノを起こせるのは私達だけだと言うのならきっとそうだろうし、この局面においてアビドス対策委員会以外『アレ』は足止め出来ない。

 

消耗しきった空崎ヒナ、私募ファンドとカイザーを相手取っている風紀委員会、それ以外の戦力も恐らくこちら側に手を貸せる余裕は無く、その上で自分達が一番の余力を残されたのはこの為だ。

 

 

「アビドス高校対策委員会」

 

 

「行こう───!!」

 

大気が絶叫し、空の色はまるで双方の神性の凌ぎあいを表すように青と赤で染まって、大地が削がれる音が轟いている。

それでもシロコ達は空から降りてくる雷霆の化身に向けて走っていく。例えコレがまた同じ時間稼ぎだとしても、負け戦だとしても関係ない。

 

ナツキ・スバルが、自分達にこの瞬間を託したのだ。アビドスを救う英雄が、その未来を託したという信頼、そしてスバルへの信頼そのものが、今歩みを続けさせる理由になる。

スバルとシロコが。シロコとセリカが。セリカとアヤネが。アヤネとノノミが。ノノミとホシノが。お互いに、それぞれ全員がお互いに、信じあっている限り。

 

 

「任せて、スバル」

 

 

色が異なる双眸を揺らす、お転婆で銀行強盗が最早趣味とも言っていい狼少女は、真っ直ぐ前を向いて地獄を表した戦場へと駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──スバルはずっと、どうやってホシノを暴走から引き戻すか考えていた。

 

一つ目の手段は、暴力。殴って気絶させたらなんとかなるかもしれない。

二つ目は対話、しかし暴走中は話が通じない上に殆ど寝ているようなもので、話が出来ない。

 

三つ目は───。

 

 

「……」

 

 

《スバル様、残り2分48秒です》

 

 

「ああ」

 

 

アロナが残り時間をスバルに告げる。夢への侵入、それはあの奇跡と、地下生活者との会遇が無ければ成せない事だ。

アロナによる地下生活者が居た空間の解析と、スバルを一度精神世界に幽閉しようとした経験が、神秘を介してホシノの夢への侵入を可能とした。

 

屋上のフェンスの隙間から覗く夕日が沈んでいくのも、まるでタイムリミットの様に感じた。

明るいとは言えない、淡く暗い日差しが一望無垠の景色に降り注いでいて、瞳が虜になる前にホシノで魅了を上書きする。

 

 

「……ホシノ」

 

 

「なぁに、スバル」

 

 

「──俺は、ホシノが空っぽだなんて認めねぇ」

 

 

拳を胸に叩きつけ、宣言する。真紅と群青色の瞳に言葉をぶつけて、一つたりとて自分が引くことは無いと示すように拳をホシノへと向けた。

 

 

「……認めないからって、どうするの。スバルに出来ることなんてないよ」

 

 

「いいやあるさ。ホシノが自分の中に何もないって思ってるなら、それが大間違いだって突き付けてやる」

 

 

「それが?それで何か変わ──」

 

 

「変わる!ホシノは、ホシノはクソワガママ野郎だ!!ワガママ言ってここに来てんだから!中身が何もない訳がねぇッ!!」

 

 

「うぇ、ちょ…声がでか…」

 

 

言論なんて声のデカイ方が勝つ。声がデカイという事は、そこに込めてある意志もデカイということで、なよなよしいホシノの声とスバルでは、比べようも無い意志の強さの違いがあった。

 

 

「まずホシノは可愛い!!可愛くて強い!!後輩守れてるしすげぇカッコイイし!!」

 

 

「シロコから憧れる先輩を聞いた時に、ホシノの名前が上がるのも!俺が頼りにしてる最強なのも!アビドスの全員が頼りにしてる、可愛くて強くて安心できて!助けようってなった時に全員が全力を尽くす先輩がホシノだ!!」

 

 

ホシノが引くぐらいの大きさで、幾つも幾つもホシノの良いところを叫ぶスバル。

残り少ない時間で、ホシノの全てを語り尽くす勢いで叫び続ける。

 

言い訳を潰す。逃げ道を潰す。小鳥遊ホシノが誰から、どんな人間に思われているのか、ホシノ自身がやってきたことを認識させる。

 

 

「ホシノは一度だって負けてねぇ!優しいから、ユメがアビドスの未来を託せる人間だって思ってて!だからここまで頑張って来たんだろ!?」

 

 

「負けてないんだよ!カイザーにも、私募ファンドにも、俺にも!ずっとホシノは後輩を守ってきたし、こんな理不尽すぎて誰も受け入れようとしねぇクソッタレの運命を真正面から受け止めてる!」

 

 

「っ、でも!スバルが来てくれなかったら──」

 

 

「あーあー!聞こえねー!!」

 

 

「……」

 

 

ホシノにスバルは突きつけ続ける。ホシノが努力してきた全ては肯定されるべきだと。

この期に及んでまだ自分に何も無いとは言わせないしスバルが認めない。

スバルが来る来ない以前に、ホシノが頑張っていなければアビドスは消えてなくなっていただろうから、ここまで繋がった全ては肯定されるべきなのだ。

 

それを皆が知っていて、否定しているのはホシノだけで、自分の中に何も無いと考えているのなら──、

 

 

「でも、みんなホシノに背負わせすぎた」

 

 

「───」

 

 

「だから俺がここにいる。ここに居て、ホシノが背負ってるものを分けてもらいに来た」

 

 

「…………」

 

 

「俺がアビドスを救う、カイザーを倒して私募ファンドをボコボコにして、列車砲は潰してホシノが背負わなきゃいけねぇもん全部」

 

 

「全部、俺に一回背負わせろ。俺は!ナツキ・スバル!アビドスを救いに来た連邦生徒会の『その人』で!ホシノは今──何も気にしなくていいんだ」

 

 

──『小鳥遊ホシノ』に背負わされたもの全て、少しの間しか保たないかもだけどスバルが背負って、丸裸になったホシノに鏡を突きつけてやる。

カイザーも、私募ファンドも、借金も、列車砲も、高校も、全部全部背負ったものとっぱらってそこに残ったものが、『小鳥遊ホシノ』だ。

 

逃げも言い訳も許さない、今スバルはこの瞬間、ホシノにとっての最大の敵として立ちはだかろう。

 

 

「っ……!な…いよ……っ…!そんなの…」

 

 

「無い。私には、後輩以外には……何も…!」

 

 

「ユメ先輩を!私が殺したあの時からッッ!」

 

 

見えない衝撃波がスバルの全身を襲う。それは拒絶を意味する攻撃だ。

 

私はここで終わりを迎えるのだと、そのことばかりを考える。

記憶が蘇り、どうしてか夢に入ってきた少年を見て、彼がいるなら私は償いだけをしよう、そんな夢を抱いていた。

 

それなのに少年は、ホシノも含めた約束を取り付けた。

『全員、笑顔で飯食う事』

それは、望んでいない。

それを望むには、 私という存在は不純過ぎる。

 

人殺し、空っぽで虚無の蝋人形。壊れた盾は、いつかは捨てなきゃ。

 

 

「そんなことない」

 

 

「ホシノには、俺が居て。俺にはホシノが必要なんだ。俺だけじゃなくて、みんなホシノの事を必要としてる」

 

 

「……で……も…」

 

 

『小鳥遊ホシノ』は捨てたはずだったのに、憤慨を隠さず叫ぶ少年に胸を打たれるうちに、思考はある一つの感情を導き出す。

くぐもって縛られた、砂の中に眠っていた感情が震えながら顔を出す。

 

目の前の少年に、何も出来ないと突き放すには背負われすぎた。救えないと言い放つには自身が抱いてる感情を否定できない。帰ってと言っても帰ろうとしない。

 

言葉の中からどれを選んだとしても、夕日に照らされる少年を否定できる言葉がなかった。

 

 

「なぁホシノ、もう嘘なんてつかなくていいんだよ。俺の話を素直に聞く必要なんてないのに、こうやって言われっぱなしって事は…あるんだろ?否定しきれない何かが、ホシノの中に」

 

 

「うる…さいっ…!」

 

 

「っぐ…──本気で話をしたくないなら、生易しい真似しないで俺を殴り飛ばせ。ホシノなら俺なんか簡単に黙らせられるだろうが」

 

 

「……そんなの…」

 

 

「無理だよな。分かってる、そうした瞬間まだ求めていたい何かが自分の中にあるって認めちまう事になるんだからよ」

 

 

スバルを否定すれば、そうやってムキになって否定する理由がある。

否定しなければ、スバルの言う通りになる。

 

どっちを選んだとしても、小鳥遊ホシノはここで答えを見つけなければいけなかった。

 

 

「…分からない」

 

 

「わかんない…分からないよっ…スバル……」

 

 

「ホシノ……」

 

 

「先輩を殺した私に!何を求めてるの!?先輩は私の全てで、私は自分の手でこうなった!」

 

 

「スバルには分からない!私の苦しみも!私の絶望も!救世主の君には、分からない!!」

 

 

憎悪を抱えホシノはスバルを睨みつける。持ち得るものが、運命に恵まれたものが自分を規定するなと睨みつける。

二年もの間、自分を憎み続けてきたその憎悪が、小鳥遊ホシノを生きながらえさせている。

 

償え、償え、償えと、空っぽのまま消える前に、全てを救って背負えと叫ぶ。

 

叫んでいたのに、その口を少年に塞がれて、

 

 

「──分かるさ」

 

 

「は」

 

 

「最初、アビドスに来た時に言っただろ。ホシノと俺って、結構似てね?って」

 

 

「───」

 

 

「俺もホシノも理想と夢を抱くだけが一丁前で、叶わねぇのに手を伸ばしてる。それは何でだ?何で手を伸ばそうとしてる?」

 

 

「それは、償いで…!理由なんて…!!」

 

 

「だったらなんで、ホシノはここに来たんだ」

 

 

「……!」

 

 

「償いだけが理由なら、ここまでユメとの約束を守る必要は無い。全部自分で解決出来たのに、ずっと約束を守ってた」

 

 

「ホシノは強くて、賢くて、可愛くて……やろうと思えば何でもやれたし、なろうと思えば何にだってなれたのに、なんで」

 

 

「…………」

 

 

「分かってる筈だ、分かってるんだろ、ホシノ。どうして約束を守ってるのか、どうしてユメみたいな先輩になりたいのか」

 

 

「それが模倣でもなんでも、真似だとしても、俺が肯定するよ。空っぽなんて言わせねぇ、俺が、ホシノを肯定する」

 

 

「模倣したい理由がある筈だ!真似したい思いがあった筈だ!」

 

 

「それから、目を背けてんじゃねぇ!! 」

 

 

──ホシノを暴走から目覚めさせる、3つ目の手段。制限時間が来る前に、その三つ目が炸裂する前に、ホシノから答えを引き出そうとする。

 

ここに来るまでずっと、ずっと温存していた秘密兵器。黒服から渡された爆薬の中に、まるで餞別かのように目立たせて混ぜてあったとある爆弾。

 

それは神秘を反転させる爆弾、それは『反転しているホシノ』を目覚めさせる魔女の一滴。

自分の胸に抱えた小さな小さな、あの男の、黒服の配慮と予測が詰め込まれた『ヘイロー破壊爆弾』が、話し終わるより先に爆発してしまう前に。

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