Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『渡りに船を沈めていく』

 

「「「連邦生徒会長の置き手紙?」」」

 

時は少し遡る。

 

誘拐されかけていた子は家に返した後、便利屋と共に飛行船乗り場への道のりでの会話の事。

 

スバルの口から語られた内容は、流石の便利屋も目の前に居る何の変哲もない少年の評価を改めざるを得なかった。

嘘か真か、このスバルという少年はあの半年前に失踪した連邦生徒会長の探し人かもしれないと自称している。

 

「ちょっとした判別方法があったんだ、まぁそれには反応しなかったんだけど……でも、まだ情報が出揃った訳じゃない、まだ何かの勘違いだとしても…ーーもう少し調べなきゃなんねぇ」

 

 

「それにサンクトゥムタワー、それの制御装置を探し人だけが起動出来るって訳、止まりっぱなしのあの木偶の坊を叩き起こせば……」

 

 

あんな、泣きそうな顔をしていた二人も笑顔に出来る。まだ俺は、ナツキ・スバルは恩の一つも返せた覚えがねぇ…!

例え巻き戻ったせいであの出来事が全部意味無くなったっつっても、記憶に、過去に嘘はつけない。

 

巻き戻るから大丈夫って言い訳してた自分が情けない、ナツキ・スバル、お前()はそんな惨めになって、親父に、母さんに顔向け出来んのか?

 

「……」

 

 

「恩を返したい奴がいる、だからどっちにしたって『どうにか』しなきゃ駄目なんだよ」

 

 

「俺が最初にやらかして奪ったこの銃も、所持品も全部返しに行く、せめて全部解決した後に『ごめんなさい』ってちゃんと謝って」

 

 

「ハッピーエンドの条件は、全員が笑顔で終わる事、だからな」

 

 

「……」

 

 

「……なら、案がある」

 

鬼方カヨコが声を上げる、スバルにとって便利屋の中でも切れ者の印象が最も強い彼女の言葉は、便利屋の皆にとっても値千金になる場合が多い。

 

「スバルの話を聞いてた時から、少し考えていた事があるんだけど…」

 

「今、キヴォトス中に巻き起こっている事件が関係あるかもしれない」

 

「あるかもって、何か引っかかる所あったか?」

 

「ーーカイザーコーポレーション」

 

 

スバルの皆に届いたのは、先程の頓珍漢の機械野郎共が所属する会社の名前であった。

 

解説を受けた後ではあるが、普通の悪徳会社だとしか思わなかったが、何かあるのだろう、窓についた肘をどけて姿勢を正し、話を聞く姿勢をとる。

 

 

「さっきの子を攫ったのもそうだし、私達に依頼をしたのもそうなんだけど……兎に角、キヴォトスで今、目的不明でゲリラ的に集まった集団での抗争が頻出してるんだ」

 

「制圧された後の生徒は皆、『何の目的で』抗争を始めたのかは分かっていない、お金を渡されたからやっただけだって」

 

「……」

 

スバルの小さな脳ミソでは、それらが何故自分の話と繋がるのか理解し切れていないが…。

 

「その抗争の陰で、カイザーコーポレーションがあちこちで犯罪を犯してた、殆ど誘拐だけどね」

 

 

「各自治区で表でも裏でもカイザーがどんどん幅を利かせてる、それもサンクトゥムタワーの稼働が終わってから、稼働中…連邦生徒会長が目を凝らしている間は奴らは動けなかったんだ」

 

 

「つまり、サンクトゥムタワーが起動しない方がカイザーにとって圧倒的に都合が良い、起動するにしても掌握してから、今タワーが起動すれば、起動そのものがキヴォトス復興の兆しになるし、そうなればカイザーの活動は収縮してしまう……」

 

 

「ーーそんな状況で、私達にカイザーから依頼があったって事、『黒髪黒目のヘイローを持たない生身の男を誘拐して引き渡せ』ってね」

 

 

「……!!!」

 

 

沈黙。だがそれは気まずさによるものでは無く、もしこれが嘘だとしても納得出来てしまう結論が出た事の驚き。

乗車しているカイザー製の車についてあるロゴを眺める、そして思い出すのは最初の周回、ヒナの業務だ。

 

今でも視界に浮かぶあの超加速、ヒナがあの日行っていた全ては抗争を終結させる為のモノであったのを、応接室で盗み見した資料の中で知っている。

 

そもそもリスポーン地点の争いも、今思えば抗争だったのだが……幾ら銃が一般的に流通している世界とはいえ、行く先行く先で銃撃戦が起きていたというのは流石に異常だったのだろう。

スバルが異世界ボケで気付いていなかっただけで、抗争には争う理由があり、争うにも下準備が必要。

 

 

「天才かよアンタ!じゃあなんだ?『ついで』でカイザーの悪巧みもぶっ潰せるって事か?」

 

「仮定だけどね、それに何が狙いかは分からないけれど、少なくともタワーの起動で何かしらの目標は潰えるかな」

 

仮定であったとしても頭の歯車が潤滑油でも無い限り余り回らないスバルにとって、数々の偶然の事象だったものから共通点を導き出し、最後にはスバルの手によってもたらされた最後のピースを長いパズルに当て嵌めたカヨコへ尊敬の眼差しを向ける。

 

頭を横に縦にブンブンと振りながら、肩を組みたい所だが…そういうのは普通に嫌な人もいるのでストップ。

 

 

「よーし!よしよしよし!何かテンション上がってきたァ!」

 

「……待ちなさい、その話まだ不明点が一つ残ってるわね?カヨコ」

 

「ほへ?デジマ?」

 

「うん、カイザーの依頼、『黒目黒髪のへイローを持たない生身の人間』っていう特徴はあまりにもその置き手紙の内容って奴に似てる、流石にこれが偶然だとは思えないね」

 

「このタイミング、この状況で、今日『外』からやって来たスバルを探せだなんて……それこそ予言染みた何かが必要、置き手紙の内容が予言を担ってるのかも、つまり…」

 

「えっと、つまり、つまり…?」

 

「ーーつまり、連邦生徒会の中にカイザーコーポレーションと繋がっている内通者が居るかもしれない」

 

「……は〜…なるほどぉ………ーーやばくね?」

 

 

状況が見えてくれば見えてくるほど、詰みの盤面が広がっていく。

 

 

「初心者に飛車角落ちで将棋始めさせてんじゃねぇよ…!場合によっちゃもっと酷いハンデだな、つまるところ明日になるより先に…ーー」

 

 

「全部解決して、全部に勝たなくちゃ駄目って事か」

 

 

そう、明日にはキヴォトスが崩壊するかもしれない。

スバルの中でも、一つくすぶっている疑問があった、それは4回目の巻き戻しの事だ。

今、行動している理由でもあるのだが、ループの条件を見つけたい。

 

死ぬことだけが巻き戻る条件なのか、明日を迎えれば巻き戻るのか。

 

死ぬことでしかループしないのなら、あの夜で知らぬ間に死んでいたと言う事、コンビニの屋上で死ねる原因等限られている、またまた偶然手榴弾でも投げ込まれたのか?

 

それは、無い。

断固として言える、それは無い。一度死を経験したスバルだからこそ、一度あの狂気を通り過ぎたスバルだからこそ分かる、あの時とは訳が違う。

 

一瞬でその命を散らさせたあの手榴弾にさえ、隙間があったのだ。

 

『魂』が『死』に近づく隙間、刹那、泡沫の一瞬。

 

あの夜にはそれすら無かった、スバルはそれ故にループの条件が別にあると考えていた。

 

……のだが、もしかしてがある、それこそ地域一帯を吹き飛ばすメチャ強砲撃だとか、核爆弾とか、今でもあの夜は死んでいたんじゃないかと思う気持ちの方が強いが…。

 

ーーもし、そうであるならば、『あの後』はどうなっていたのだろう。

 

「周囲一辺焼け野原、じゃ済まねぇよな」

 

 

見る所、流石にキヴォトスの人間でも銃弾が直撃すれば石礫をぶつけられた位にはダメージがある。

ダメージがある、ならば強度限界があるという事。

 

 

「……クソ、魔王の部屋手前の詰みセーブギリギリで、ぽんっと手渡された気分だ」

 

「ーーカヨコ、教えてくれ、その案ってのは…なんだ?」

 

今日という日は必ず終わってしまうことを憂鬱に思いながら、問いかけるスバルとカヨコの瞳が合わさった。

その視線からは、如何にも頭脳明晰な作戦が飛び出してきそうな気概を感じる。

 

スバルは生唾を飲んで、彼女からの言葉を待った。

 

 

「突撃」

 

「え?」

 

「シャーレに突撃する」

 

「ん?え?カヨコさん?俺の聞き間違い…?」

 

「言葉通りだよ、社長はカイザーの悪事を止めたい、スバルはシャーレの部室に辿り着きたい」

 

「ならこのまま突撃しよう、時間、無いんだよね?」

 

「ーーカヨコ様、ここは一つ忠言をば……ーー止めときません?」

 

「クフフ〜!カヨコちゃん!それ、ナイスアイデアだね!」

 

「え?ええ?ほ、本当に行くの?ええええ?」

 

「利害の一致って奴だよ、社長もそれでいいよね?………社長?」

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふ、い、いいい良いんじゃないかしら…?やってやろうじゃないの!!」

 

(な、なな、なんですってぇーー!!?)

 

 

 

 

 

「「……」」

 

 

尚、キヴォトスの行政を管理する連邦生徒会直属の部室、連邦捜査部シャーレへの襲撃は……。

 

キヴォトスの中枢、各学園、各陣営から指名手配を受ける事と同意義である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方、便利屋は身分上ゲヘナの飛行船乗り場を利用する事は出来ず、そのまま車での進行を余儀なくされていた為に、カイザーの車は使い回されていた。

 

到着して車から降りた時に浴びた陽射しは、奇しくもスバルにあの因縁の一日を思い出させる。

深呼吸をして、吸って吐いた息に恐怖の感情は無い。『やれる事はやる』、この時間帯に襲撃してくるであろう災厄の狐も、今は便利屋が居るのだ。

 

ぬかりは無い、慢心も無い、ナツキ・スバルの胸の内にあるのは確固たる決心だけ。

ーー少なくとも、救いを求めた相手に片手でも差し伸べる。

 

力足らずで、矮小な自分が出来ることを満遍なく理解出来ているつもりは無い、やれない事でも自信満々に『出来る』と言い放ち、失敗を積み重ねてきた。

自分の事が大好きで、保身の他責ばかりなのにも関わらず、自分を自分が一番理解していないのだ、笑えてしまう。

 

「よっしゃ」

 

軽く準備運動、膝を屈め伸ばし、屈伸から上体起こしに繋げると最後は深呼吸……ーーそして、いつもこの言葉で乄ていた。

 

「ビクトリーッ!!」

 

「ビ、ビクトリ〜…?」

 

何故か隣で一緒にラジオ体操をしていたアルも釣られて両手を広げ、ビクトリーと魔法の言葉を叫ぶ。

 

ビクトリー、そう、『勝利(ビクトリー)』はスバルにとって魔法の言葉、100あるナツキ・スバル脳内大書庫の中でもtier1を確立している己を鼓舞する言葉だ。

 

「異世界転移なんぼのもんだ、こちとら無敵のナツキ・スバル、青コウラでダッシュしながらスター取ってる最強状態!」

 

「来てみやがれ災厄の狐、カイザーコーポレーション!お前らより先にゴールへタッチダウンしてアルティメットビクトリー決めてやる!!」

 

 

謎に満ち溢れる自信と活力を活かして先陣をきるスバルだが、最初にして最大の壁、普通に閉まっている強化ガラスの自動ドアに阻まれた。

所詮スバルはスバル…七神リンの手立て無しにシャーレの部室へ入る事なんて…。

 

「は〜い、爆破するからスバルは退いててねー!」

 

「んえ」

 

一人、車に残っていたムツキが車のエンジンをふかす。後部座席にはお手製の手榴弾の山を積み込んであった。

 

ーーアクセルを水平になるまでベタ踏みする。

 

真っ直ぐ一直線に、シャーレの入口へと車が突進していった。

 

「アクセル全開ぃぃーー!?」

 

その場から飛び退いて車を何とか躱したスバルの耳に、夕方の人気の無い路地の静寂を吹き飛ばす轟音が流れ込んでくる。

二転三転転がって、カヨコに受け止めてもらうまで涙目になりながら爆破の破片を避け、命からがら生き延びた。

 

「あぶっ、危ねぇぇって!!カヨコの姉御に受け止めて貰わなきゃ全治100年だったよ!?」

 

「それって死んじゃってるって事ぉ〜?」

 

「そ・う・だ・よッ!よくもまぁそちら様も途中で降りられましたね!!ご無事で何よりですーだ!」

 

「クフフ、ありがと」

 

「皮肉だって分かってるだろ…判断的には…ーー正しいのか?コレ…?ま、まぁ入口は開いた!行こうぜ、皆!」

 

「警備が来る前にさっさと行くわよ!それに頼んだからねスバル、貴方がサンクトゥムタワーの制御を取り戻せなかったら何もかも終わりなんだから!」

 

「その保証は一切ありません、ご加入の料金により保証金額を…ーーなんて言うつもりは無ぇ、『やれる事はやる』、もう一回触れて何もなきゃその時はその時だ」

 

「…(う、今更になって発言を取り消したくなってきたわ…)」

 

 

スバル含めた便利屋がシャーレの階段へと向かう中…ーーハルカは一人、外れて入口に立って皆を眺めている。

まるで本当に主人を待つ犬の様に、自前のショットガンに抱きついて仁王立ちしていた。

 

その様子を見て、早くこっちに来てくれ、とスバルが声を掛けようとするも便利屋はハルカを無視して階段に足をかけていた。

 

「あ?お、おい!なんで、そんな急に無慈悲に…」

 

「大丈夫よ、これも作戦の一つ…災厄の狐もカイザーも、向こう様から来るってなら門番が必要よね…!ここは任せたわよ!!ハルカ!」

 

「はい、ここから先…一人としてアル様の元には行かせません」

 

「っ、本当に大丈夫…ーーなのかどうかは、アンタらが一番分かってるよなそりゃそうだ、俺からも無事を祈っとく!頑張れハルカ!」

 

「あ、あぁありがとうございます…」

 

 

便利屋の皆はハルカの戦闘能力を信用していた、脇目もふらずに前進が出来るのは、その長年の信頼の表れである。

番犬ハルカが突破される事態になった時点が分水領、便利屋の戦闘における撤退の基準は、一番撤退の基準がバグってる人間の様子で決まっているのであった。

 

階段を駆け上がり数分、電力がシャットダウンされている為エレベーターは使えず徒歩を余儀なくされたが、それはこの高層ビルだと中々の痛手。

キヴォトス人である三人はともかく、ここに来てナツキ・スバルが素の身体能力である事が足を引っ張ってしまう。

 

「っ、ふぅ、くっそ、マジで一々高いしデカイなここは…」

 

「どうする?スバルきゅんを背負っていってもいいよ〜?」

 

「きゅんって…はぁ、ひぃこらひぃこら…」

 

「無理しなくていいのよ…?貴方外の人間なんでしょ?ヘイローも無いのだし、背負われても私達は笑わないわ」

 

「う、いぎぎ…うぎぎぎ………舐めんなぁぁーー!!」

 

「わー、頑張れ頑張れ〜」

 

 

相手は高層ビルのやけに高さの幅がある階段だ、スバルの小中学校では無双できた体力も、この体躯になってからは随分と落ちている。

 

生活が原因?それは言わないお約束だが、それでも少しの運動は重ねているので、身についた根性を活かし、部室までの階段を見事登りきった。

 

「登頂成功っと…ぉぉお?おわわわ!?」

 

同時に下の階から大きな爆発音が聞こえてくる、1階、ハルカが戦闘を始めたのだろう。

心配して何も無い床を見つめるスバルを他所に、カヨコは見たことも無い機械とそれに繋げられて壁に埋まってあるタブレットを視界に入れた。

 

「…!あれが、その判別方法?」

 

「そう、アレだ」

 

「どうやって使うか分かるの?」

 

「いんや全く、触れればいいってだけは知ってるけど…それが駄目ならお手上げだよ」

 

「……社長と同じ位行き当たりばったりなんだね…」

 

少しがっくりした様な顔をするアルを放っておいて、スバルはタブレットへと歩みを進めていく。

実の所『触れて何も無かった』というのは正確では無い、あの最初の周回の時、スバルはタブレットに触れた事で『あの女の子』と見つめ合った。

 

あの、誰かも知らない人間との覚えの無い記憶が湧き上がったのは、結局触れたのが契機。

 

「…………」

 

「散々何も起こるなって祈ってたが、頼む……何か起きてくれ…!」

 

人差し指を、タブレットに触れさせるスバル。

 

ーー反応は無い。

 

「チッキショー…何だ、何が足りてない?やっぱり俺じゃないって事かよ…!?」

 

舐めれば起動してくれるのか?殴ったり、肌を擦りつければ起動するんじゃないかと、恥も外聞も捨てあらゆる方法を取っていくスバルだが……どれもこれも不発。

 

仕舞いには祈りの力と叫んでみても、神は特に興味を示さなかった。

 

ーーその時スバルの奇行に、幾ら理由があるからと言って若干引いていた2名と笑っていた1名が、部室のドアへ銃を向ける。

 

 

「あら、あらあらあら……貴方達も、ソレ、壊しに来たのでしょうか?」

 

 

「うふふ…困ります、困ってしまいますわ」

 

 

スバルの背筋には悪寒と冷や汗、やはり来たか、でも来て欲しくはなかったと心のため息で視界を曇らせながら、後ろを向かずに手探りの作業を続けるしか無かった。

 

少し上擦った声、そして少しの狂気を含んだ笑いの声は思わずあの瞬間を思い出して、強く拳を握りこんでしまう。

 

《災厄の狐》が、後ろにいるのだから。

 

 

「…傷一つ無い……ーーハルカを避けて来たわね?七囚人」

 

「ええ、あの様な狂犬を相手する程酔狂ではありませんので、扇動させた人達とぶつかって貰いました」

 

「それより…何故便利屋がここへ?依頼でも受けましたか、変人(イロモノ)さん達」

 

「ふっ、舐めないでちょうだい…今の私達は誰の下にも付いていない、孤高の狼なのだから」

 

「……?では本当に何故ここへ?」

 

「……えっ……………悪を成し!悪を討つためよっ!!」

 

今絶対何言うか迷っただろ、とスバルの脳内にはドヤ顔しながらも小刻みに震えていたアルを思い出す。

状況が状況、問答で時間を稼いでくれているのなら…あの狂人が何かしでかす前にシッテムの箱の起動を目指す。

 

「まぁ良いでしょう、貴女方はここでお亡くなりになりなさい、ここを破壊するのはその後にでも」

 

「っ…お前こそ何の目的でここに来てんだよ!こちとら結構大きめな大義名分抱いて来てんだ!!」

 

シッテムの箱を弄り回しながら、片目で災厄の狐を捉えそう言い放つ。

顔は見えない、狐の面で覆われたその面からは本当に狐の耳がはみ出している、それに服装は改造制服とでも言うのだろうか、和装と織り交じったデザインをしていた。

 

「勿論この場にある全てを破壊しに」

 

「だから何の為に…!」

 

「趣味、です」

 

「……ーー」

 

絶句。

 

纏う風靡さからは考えられない程、話が通じない怪物だった。

スバルの超高等テクニックを使った話し合いや交渉で場を治める案もなくはなかったが、こんな存在が相手では効果なし。

 

起動する事以外を頭から外して、記憶を思い出そうと脳ミソをフル回転させていく、少なくとも触れるだけじゃ駄目で何かしらの起動条件があるはずだ、あってくれなきゃ困る。

 

 

「それでは、始めましょうか…泣き叫びたい方から順番に、どうぞ?」

 

 

「順番に、だなんて甘っちょろい事すると思って?行くわよムツキ、カヨコ!」

 

 

「「了解!」」

 

 

巻き起こる銃撃戦から飛び火で死なないようにムツキがオフィスデスクを蹴り上げ、スバルの前に立て、遮蔽を作り手持ちのバックを振り回して投擲する。

便利屋の中で明確に近接戦を行えるのはハルカ、中距離がムツキとカヨコ、アルはスナイパーライフルではあるが…この距離だとしても片手撃ちできる彼女からすれば、余り不利は取られない。

 

対する災厄の狐は飛んでくるバックを撃ち落とそうと、握る短小銃と銃剣が合体したライフルを構え、引き金を引こうとした。

 

ーーだが、引き切るより前に彼女の直感に冷たいものが走る。

 

 

「…お返ししましょうッ!」

 

銃を引っ込め、バックの手持ちをキャッチ、投げ返そうとした瞬間に……。

 

バックから、爆弾の駆動音が聞こえる。

 

「残念〜もう遅いよー?」

 

「あら…」

 

ーー爆発。

 

スバルの身体ではこの距離だと、音と衝撃波だけで致命傷になりかねない事をムツキは理解している。

机に加え己の身体でスバルに覆いかぶさり、手を耳に当ててあげて鼓膜を保護、爆発の衝撃は身体で受けきった。

 

「うぉおおーー!??や、やばすぎ、アレ死んだんじゃ…!?」

 

「ーーなるほど、貴女達の急所はソレですか」

 

「嘘、生きてる」

 

「あったりまえじゃん、それよりスバルきゅん?早く『何とかしないと』ここ全部吹き飛んじゃうよ〜?ちゃんと頑張ってね?」

 

「お、おおう!頑張る!」

 

肩をぽんと叩いて前に踏み出すムツキを尻目に、スバルは一つの案を思いついた。

 

あの状況を再現する、あの言葉を受け取った時の自分がどうなっていたか。

 

ーーそう、血に濡れていた。血の池を自分で作って、這いずって触れに行った。

 

 

「アハハハハハハッッ!!」

 

「ちょこまかと…!」

 

「社長、足元に手榴弾転がってきてるよ」

 

「キャッ!?早めに言いなさい!?」

 

「アルちゃん、スバルの近くで撃てる〜?狙いもあのタブレットっぽいし!」

 

「分かった…わッ!」

 

夕日を背に戦闘が始まった。

この狭い室内で災厄の狐は奇襲を繰り返せる、蹴り上げた資料、押し倒したテーブル、近接戦においてミスディレクションを周囲の物品を使い繰り返す事で、自身に向けられた視線を一瞬の内で振り切るのだ。

 

優先順位はこの場所の爆破、あの男、遠距離持ちの便利屋の社長の順、しかしその思考を被せて考えられる前衛の2人も厄介。

 

 

「よいしょっと…!スバル、まだ駄目かしら!」

 

「案はある!何か切れるモノ持ってないか?」

 

「何も無いわね……あそこのガラスを取りに行くのも…」

 

遮蔽に隠れたアルと視線を共にした先は、爆破の衝撃で割れた窓ガラスの破片…しかしこの距離を走る隙を晒せば前線に負担が掛かってしまう。

 

故に、スバルが取った行動は……。

 

「あ〜もう、クソ!ここまでお膳立てされて男見せねぇ訳には行かねぇよな!!」

 

「アル!撃ってくれッ!!」

 

片手を挙げて、掌を撃ち抜いてもらうこと。

 

「手首から先全部消し飛ぶわよ!?!?」

 

「デジーマ!?」

 

「せめて貴方の背負ってる銃じゃないと…」

 

「結局もっと覚悟決めろって話か…!!ビビんな俺ぇッ!」

 

すぐさま肩紐を外し、奪ってしまった簡素な銃を片手撃ちしようと構える。

 

中々に重いが……日々5キロ超のダンベルで筋トレしていた甲斐があった、手の甲に突き付け、思いつきで肩と顎とで銃を固定し、紐をピンと張って狙いを定めるスバル。

 

ーー急激にガチガチと震える顎の振動で照準がブレるも、意を決してトリガーを引いた。

 

 

「いぎッ…ぁが……あっヂぃ…い゛って゛ぉわぁぁぁ!!??」

 

「ト、トリガーから指を離して!押しっぱなしになってる!!」

 

「オゴゴゴゴ…ーーふんッ!!根ッ…性ォー!!」

 

痛みによって引き起こされる身体の硬直で、何発も自分の身体を撃ち抜く所だったが、逆にど素人の考えで固定しようとした為にすぐさま銃は手元から離れ、見事一発だけ手の甲を撃ち抜く事を可能とし…。

 

反動によりポコポコにされた顎と肩を抑え、脱臼した感覚さえ覚えながらも血まみれになった手を……。

 

 

「だらぁぁぁーー!!!」

 

 

ーータブレットへと、叩き付けた。

 

 

 

「……」

 

 

「……………」

 

 

「…だ、めか…?」

 

 

激痛で目を瞑り、耳元で発砲しまくった事で音も聞こえないけれど……何か、成果はあったのだろうか。

 

 

そう思い、ゆっくりと目を開ける。

 

 

ーー目に飛び込んで来たのは、明るいブルーライトだ。

 

 

「成分合致、次元重複確認、因果係数否定、再起動開始」

 

 

「お待ちしておりました、『ナツキ・スバル』シッテムの箱メインOS、A.R.O.N.Aです」

 

 

「連邦生徒会長から承っています、これから私、A.R.O.N.Aはナツキ・スバル様のお手伝いAIです」

 

 

「何を致しますか?」

 

 

何も聞こえない、何も聞こえないが……目の前のタブレットに現れた白髪の幼女はきっと、ナツキ・スバルに利のある存在。

 

起動した、起動してしまった、ナツキ・スバルは『その人』であった。

 

今起動してくれた安堵感と、起動してしまった憂鬱を織り交ぜながら……ーーこの場に来た最大の目的を果たす為、叫ぶ。

 

 

「サンクトゥムタワーを再起………ーーー」

 

 

そう、叫ぶ瞬間。

 

 

「ーーー!!!」

 

 

誰かから、押し倒された。

 

 

暗闇に押しつぶされていく視界に、その端に微かに映ったのは…。

 

 

彼女(アル)が着ていた、赤黒いコートだった。

 

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