Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『夢が残した足跡』

 

──壊れかけた世界の中から、星を見つめる。

 

夜中の学校は満天の星空を眺めるのに丁度良くて、零れ落ちてくる星をひとつまみしては空の果てに消えていくのを眺めている。

 

思うに。

言葉が過ぎたのだと思う。あんなに強く当たる必要は無かった、先の見えない復興に少しづつ心が折れかけていたから、折れた心が否定をしようとして、言葉をその場で取り繕った。

 

『奇跡なんて起きっこないですよ』

 

『それよりも現実を見てください』

 

『少しは、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!』

 

自分の本心があの時あの場面で、何処にあってどう出てきたのかは分からない。今更悔やんでもただ後悔を上塗りするだけ。

あの決別の直後に先輩と永遠の別れを経験した私にとって、次にする事はただ一つ。先輩が成し遂げられなかったことを私が代わりにやり遂げる事だけだ。それはアビドスの復興と、アビドスに訪れる全ての生徒の先輩として後輩に道を開く事。

遺品を持っていかれ、整理する品も無いのに体育館を彷徨いている間、ずっとユメ先輩と話しているフリをすることだけが私の救いだった。会話に含まれる意図を読み取って、理想を目指す。その輝きを感じられただけで、私に残された全てはアビドスの為に捧げられるべきだと信じられたから。

 

「──え、─シノちゃん」

 

思うに。

信じるべきだったのだと思う。信じるのが遅すぎた、夢物語も幻想も、奇跡もあるのだと信じるべきだった。

ユメ先輩が目指していたのは、都合のいい未来なんかじゃなくて、正しいと思う事を信じて、その正しさがいつかきっと大きな奇跡を産む道筋になる未来だ。

アビドス復興に囚われていたあの日の自分には、その事を理解出来なかった。ありもしない幻想を吐いてどうするのだと、目指すべき未来すら否定していた。

 

「ねえ、ホシノちゃん。みんなが来てるよ」

 

回想が過ぎ去る頃に、誰かが残り香を残していった。ふいの残響に現実に…私にとっての現実へと目が覚める。

声の主を探しても、何処にもいない。当たり前だ、現実だからこそあの人はもう居ない。

 

「──ホシノ先輩」

 

「あれれ…どうしたの、ノノミちゃん。もう学校は終わったよ?」

 

ふらり、幽霊のように現れたノノミは、ホシノへ手元に握るゴールドカードを見せつける。それを見て「そのカードはネフティスの物でしょ」と、以前彼女に言ったセリフを思い出し立ち上がった。

彼女が転校してきた時に、アビドスの借金返済にゴールドカードを使おうとした時に、強めに叱りつけたんだっけか。

 

「このゴールドカードは、私とネフティスとの繋がりであり、呪縛でした。わがままなお嬢様の私は、コレが万能だと疑わなかった」

 

「でも、ホシノ先輩のお陰で私は、『私』としてここに残ると判断出来たんです。ネフティスの人間だからでは無く、十六夜ノノミとして」

 

「……全部忘れて、ここを去っていれば…ここまで苦しまずに済んだのか。『私』が選んだ道の中、苦難に晒されてそう思った事があります」

 

「私は、私達はアビドスに留まるから不幸になるのか。私はただシロコちゃんとホシノ先輩に幸せになって欲しいだけで、アビドスという世界に留まる必要は無かったのではないか、そう思って…」

 

「──出した結論は、いいえ。です」

 

「私達は、苦しむ為に、後悔する為にアビドスに生きてきたんじゃありません。私は一度たりとも後悔はしてない。そう、とある男の子の前で宣言しました」

 

そうかもしれない。

人生は狭い世界を何個も何個も渡って生きていくものだ。一つ一つの世界、その何処かに留まる事を自分で選んだのなら、そこで産まれる全ては積み重ねなのだから。

 

「だから、ホシノ先輩」

 

「私がアビドスを守りたいのは、私の選択に嘘をつきたくないからです。私が望んだ未来を、理不尽な運命に覆されたくないからなんです」

 

「私は、みんなで笑い合える世界に居たい」

 

「……そう、なんだ」

 

「…ホシノ先輩」

 

「……?」

 

「ホシノ先輩は、どうしてなんですか?」

 

幽霊は問いだけ残して去っていく。

目を凝らして彼女がいた場所をよく見て見ても、そこにはもう何も無かった。ため息を吐いてもう一度横になり、空を見上げ星を見る。

さっきスカートと制服についた砂を払ったばかりだというのに、また汚して同じ事をするのかと軽く目をつぶった。

 

「先輩」

 

再び聞こえてくる声は、聞き覚えの無い声だった。けれど耳を傾ける気になる、やけに聞き逃せない感覚に襲われる声。

目をつぶったまま、自分を覗き込む誰かを感じ取って黙考する。

 

「私がどうしてアビドスの借金を返そうと、沢山バイトしてるかちゃんと分かってます?」

 

「……」

 

「──先輩達の為になりたいって、ホシノ先輩が思わせてくれてるから、ずっと頑張ってるの!!」

 

「無理でも無茶でも、私は私なりにアビドスに居たい理由がある!なのに先輩は昔のアビドスだのなんだの…!」

 

「役に立ちたいって思ってる相手に!過去の苦しみも託せないっていうのは!何よりも重くて辛い裏切りじゃないんですか!?」

 

「それは──」

 

また、答える前に消えていく。

そう、私は後輩に幸せだけを残していく。後輩を守り抜いて、明るい未来を託す為に過去は全て私が背負う。

列車砲も借金も、アビドスの苦しみは生徒会のもの。対策委員会が背負うべきものじゃない。

 

──ああ、でも確か誰かに、手を伸ばした気がする。

もう届かなくなった空に掌を向けていたら、そこに誰か手を置いてきた。

 

「否定します」

 

「ん…」

 

「私は、この世界の明日が苦しみしか無いだなんて、悲しい事は言いません。ガラクタになったヘリを直すのも、資金稼ぎの為にリサイクルショップを駆け回るのも、明日に今の苦しみを続けさせない為です」

 

「ホシノ先輩、今日より苦しい明日を眺めながらでは、私達は生きていけません。少しづつでも、着実に借金を返してきたのもその為なのに…」

 

「──先輩は、何故今日よりも苦しい明日を、明後日を望みながら前に進もうとしているんですか」

 

「重くのしかかった責任を、少しは私達に分けて、今日よりは苦しくない明日を望んでも…良かったんです…!」

 

「────」

 

すすり泣くような声に首を傾げる。

これは私の夢で、夢であるのならこれは私が聞いた事のある言葉しか出てこない筈だ。

それなのに、自分の自分でも知らない事を話されている。ならばと、今度は体育座りになって自分の頬を本気で挟み込んだ。

これは──現実じゃない。夢だ、スバルに手を伸ばすのが遅れたせいで、全てが手遅れになってしまった私が、最後に見ている走馬灯。

 

けれどやはり夢でも走馬灯でも記憶の整理である以上、経験したことのあるものだけがここに出てくる。こうやって私の知らない会話が行われたのは、よくある記憶を都合良く繋ぎ合わせて作られる夢の様なもの。何ともまぁ無様で──。

 

「違うよ」

 

「シロコ…ちゃん…」

 

「そんな『都合』を信じる事にしたからでしょ、ホシノ先輩」

 

「自分を信じて、私達を信じたから、先輩の『こうであって欲しい』がここにある」

 

「私は…私は、アビドスのみんなの事が大好き。対策委員会での思い出が私の全てで、私の世界だから、私はアビドスを守り続けるよ。何があっても」

 

「──ホシノ先輩は?」

 

最後にまた、問いだけ残されて。

こうなると、後一人、誰が語りかけて来るのかは分かりきっている。私が見ている夢の中で、私が聞きたい言葉を話してくれる相手は二人居るけど、今の私なら必ず、

 

「ホシノ!」

 

──必ず、彼が最後に現れる。

 

「───俺達を選べ!ホシノ!」

 

「ホシノがずっと!アビドスを守り続けてきたのは!いつか来る奇跡を待ち望んでたからじゃないのか!」

 

今までとは違って、血だらけで、傷だらけで、とても見れたものじゃない彼の姿が星空の向こうに浮かんで見えた気がした。

声も、聞こえた気がしただけだ。彼は私の『幸せ』になってくれる相手なんだろう、私にとっての『何か』に。

瞬きをして、目を潤す。遠くをずっと見つめていると、乾いてしまうから、痛くないように。

彼に心の天秤を傾けるには──少し遅すぎたのかもしれない。

苦いものが込み上げてくる……事も無く、死んだ魚の目をしながら明ける夜を眺めていた。

 

慎重に息を吐いて、この世界の誰にも自分が見つからないような静かな吐息を夜空に漂わせる。

黎明を迎える空に私は、溶けて消えていきそうになって───、

 

「なあ、ホシノ」

 

傷一つ無い彼が私の目の前に現れた時には、これがハッキリと夢であることを認識したのだった。彼は、そんな器用に生きれる人間じゃないから。

 

「これ、返しとくよ」

 

「…手帳?返す…って…」

 

慌てて手帳を開いても、そこには何も書いてない。

私が求める答えも、求め続けてきた遺言も。元より探し出せていないものなのだから、当たり前だけど。

 

「……」

 

「何か、書いてあったか?」

 

「───」

 

「ホシノ、事実がいつも全部教えてくれるとは限らないんだよ。でも…真実は、確かにあるから…ホシノが求めてるものもそこにある」

 

「信じろ。それが俺達に出来る唯一の選択だ、取り戻せないものを前にした俺達にとって────」

 

「たった一つの、奇跡なんだ」

 

ただ、その手帳には。

私が信じる奇跡が、あったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

──都合の良い物語だ。

 

「─────ぁ」

 

「ホシノちゃん、元気にしてる?」

 

「…………ぇ」

 

「──えへへっ」

 

「3年生になったホシノちゃんは、どんな風に成長してるんだろうね」

 

「…ユメ、先輩」

 

見間違えるはずもない、先輩の姿が目に映る。

何度夢を見ても、会う事は出来なかった彼女に、触れる。

肌に触れる感覚、温かい体温、愛しい顔。全て、彼女のものだ。

 

「これは、未来のホシノちゃんに贈る言葉」

 

「………」

 

「私は、3年生になったホシノちゃんを見られないけど…」

 

「きっと、立派な先輩になってるんだろうなぁ」

 

「…………先輩」

 

「どうどう?良い先輩を目指せてる?」

 

「ううん…心配なんか要らないね。後輩の面倒を見れて、守れるくらいの頼もしい先輩になってると思うから」

 

「あ!でも、みんなとは協力出来てる?困った時に手を貸してくれる友達は?ちゃんと未来に向かって歩けてる?」

 

「ちゃんと……『うへぇ〜』って毎日笑えてる?」

 

──ただただ、泣きながら抱きしめる。

漏れる嗚咽も、流れる涙も、苦しみじゃないもので作られていく。

空っぽの中身を埋めるように、作って、作って。

 

「仕方の無かった事なんて一つも無いよ、ホシノちゃん。運命がどんな風になってたとしても、ホシノちゃんはずっと一人でいっぱい頑張ってきて…私が居なくなって、沢山悲しくて苦しい思いをしたかもだけど…」

 

「ホシノちゃんは、困っている人を見つけたら絶対に助けてあげられる、後輩の事もしっかり守れる頼もしい先輩になれたから」

 

「──偉いね、ホシノちゃん。よく、頑張りました」

 

「っ…せんっ、っぁ…ユメ、ぜんぱい…!わたっ、わたしっっ…!」

 

抱擁が全身を包み込む、消えていきそうだった自分が捕まえられて、先輩の腕の中で作られていく。

 

「大丈夫?…息苦しくない?」

 

「だいじょうぶ…です…」

 

「ふふっ…後輩とは、上手くやっていけてる?」

 

「…いえ。トラブルを起こしてばっかりで……私は、バカで役立たずだから…後輩に迷惑ばっかりかけてっ…!」

 

「──めっ」

 

「自分を責めないの。それに、一緒に背負ってくれる相手が、ホシノちゃんがいつも頑張ってる良い先輩だって言ってくれる子が居るんだから──」

 

「…………」

 

「ホシノちゃんはまだ、やることがあるでしょ?」

 

「………ユメ先輩」

 

「…会いたいです、先輩」

 

「うん」

 

「会いたいんです…」

 

「ホシノちゃん」

 

「行かないでください……!」

 

「──みんなを守ってあげないと、ね」

 

「先っ……」

 

──ああ、こんな都合のいい物語を信じる事にしよう。

したことも無い会話を、信じる事にしよう。

 

過去の私を、信じる事にしよう。

今の私を、信じる事にしよう。

未来の私を、信じる事にしよう。

 

無駄な事なんて一つも無かった、私の中身は埋めていけて、明日にはまたもう少し、『私』がこの世界で生きていける理由を見つけて、明日、みんなで笑ってご飯でも食べよう

 

「…………」

 

「二人で過ごした幸せな時間を、忘れません」

 

「一人で過ごした時間も、忘れません」

 

「繋いでくれた全てを、大切にします、だから──」

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました、ユメ先輩」

 

「もう、立ち止まりません。前を向いて、生きていきます」

 

空気が張り裂けるような雷鳴と衝撃が、雷のレーザーに貫かれた二人の被害を物語っていた。

口に手を当てて涙を浮かべるアヤネは、アレが到底生身の人間が耐えられる筈のない威力である事と、もう一つ。

 

「──お帰り、ホシノ。理由はちゃんと見つけられたか?」

 

「うん。ただいま、スバル。ただいまみんな」

 

何処吹く風かとその威力を打ち消した自慢の先輩が、晴れやかに笑っていたのを見て、アヤネは涙を浮かべたのであった。

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