Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『最後の最期、その瞬間まで』

 

吹き付ける砂の粒。肌を裂くような冷たい夜風と雷鳴。

世界に蓋をしていく雷の化身。抱き抱えられる腕から伝わる温かさ。

ナツキ・スバルは叶うのなら、この瞬間を反芻していたかった。大きく息を吸って、吐いて、何度も何度も。

 

「───」

 

「ふぅ」

 

柔らかな手つきが、顔を撫でる。愛おしそうに、慈しみをもってスバルの頬を指が滑る。

安堵の表情を浮かべる顔には、ナツキ・スバルの信用が現れていた。一か八かを求めていた訳では無く、確信と共に腕に収まる彼の顔をホシノだって何度も反芻するのだ。

 

「スバル、ありがとう」

 

「どういたしまして、王子様。もっと抱き締めてくれると安心出来るんだけど」

 

「王子様なんて柄じゃないよ〜…。それと目覚めて早々、凄いことになってるね…」

 

「世界滅亡セット詰め合わせを注文したみたいな…気にしないようにしてはいたけど、やっぱりあの雷野郎って何なんだよ。唐突に出てきては無茶苦茶しやがって…!」

 

「直感だけど、私が呼び寄せた…と思う。すっごく神様っぽいし」

 

死を予感した雷撃を防いでもらいながら、空で狙い撃ちにされるホシノは全ての攻撃を盾で弾き返す。

目覚めて数秒、スバルと盾を回収する以前に生身で雷撃を受け止めきったのは最早硬いと評していい次元なのかは怪しいが、スバルにとっての最悪はこれで覆された。

『反転』現象を乗り越えた以上、これから考えられる敵はこの雷の化け物とビナーとカイザーと───。

 

一ミリも、問題無し。自分を抱える桃髪色の少女から伝わるものは安心感のみで、震えも恐怖もスバルには無い。

ホシノは軽く首を鳴らし盾を握る左腕を震わせる。着地に備え込めた力を盾と地面が接する瞬間に爆発させ、落下の衝撃を相殺した。

ヒーロー着地を繰り広げたホシノを大絶賛しながら、ホシノに加わった変化を目にとめて心臓を摘まれる。

 

「ホシノ、その髪…」

 

「大丈夫、何ともないよ」

 

灰色のメッシュが桃色の髪に加わって、あの世界線のシロコが脳裏によぎる。反転が失敗したとはいえ、本人に何かしらの後遺症があれば再発の危険を考えるべきで、

 

「信じて」

 

「───」

 

『理由』を見つけられたホシノなら、心配は無いと彼女の腕から降りる。ホシノの覚悟が感じられる表情と言葉は、スバルが不安視していたものを振り払った。

着地。そして、心配を他所に意識外から聞こえた崩落音に首を回す。

ここに辿り着く為に身を尽くしてくれたノゾミとヒカリが、限界を超えても尚走り続けているのを目視して、ビナーが崖から降りる二人を追いここに降りてくるのを防ぐ方法は無いかと辺りを見渡す。

 

「スバルお兄さんっ!結構!私達頑張ったけど!」

 

「もーっ、むりー……」

 

「十分だ!逆にここまで持ち堪えてくれて助かった。活躍料金不足の請求はシャーレに宜しく!──シロコ!」

 

「倒産させてやるから覚悟しててよ!?」

 

空中でキリモミ回転を行いながら、落下してくる二人を受け止めたシロコへ親指を立てる。

正直手詰まり感のある現状で、これ以上被害を抑える事は不可能。期待と羨望の瞳でホシノを見つめている内に、雷が空に悲鳴をあげさせながら迸る。

狙いがこちらに集中しているのは良い、世界を穿つ雷は全てホシノの構える大盾に弾かれて霧散しているから。

だが少しの消耗も見えない上に、あの攻撃を全方位に放たれればと考えると血の気が引く。

 

「スバル、私じゃ火力が足りない。何か策はある?」

 

「ある。……列車砲なら、雷の化け物諸共ビナーまで吹き飛ばせるけど──列車砲の正体は範囲のデカイレーザービームみたいなもんなんだ。この場所でも狭いくらい、威力も範囲もやべぇ」

 

「安全なのは砲台の反対側の人間だけだ、だから全員をそっち側に避難させてから…」

 

「か…ら……───」

 

──ほんの数秒の光景が、スバルの脳内の血液を沸騰させる。

まだこの期に及んで、まだこの場において、まだ納得出来ないのかと、状況を考えないその横暴さに奥歯を噛み締めた。

けれど、「そりゃ、お前は納得出来てないよな」と小声で呟いて瞑想するスバルへ、

 

「最期の、チャンスを逃す手はないだろう?」

 

「ナツキ…さんっ…」

 

朝霧スオウが、アヤネを人質にスバルとホシノの前へ立ち塞がる。

首元に突き付けられたショットガンは、決してアヤネを殺害に至る火力は無い。だがこの場ではスオウの行動一つが、不測の事態に繋がるのだ。

 

「お前…」

 

「そう睨むな、小鳥遊ホシノ。これだけ騒げば目が覚める……さて」

 

「──ナツキ・スバル」

 

息を置いて、スオウがスバルの名前を呼ぶ。

羨望と希望に塗れた声で、スバルへの期待を込めて呼ぶ声はそれを聞くスバルの聴覚へ求めているものを訴えていた。

スバルとて、永い付き合いである彼女が今ここで必要としているものぐらい分かる。

問いは一瞬、そして人生は一瞬の奇跡を織り重ねるフィルム。映画のワンシーンに感銘を受ける感受性の高い自分の様に、スバルはスオウへ答えを返す必要がある。

──小鳥遊ホシノを救えたのなら、写鏡も救ってもらわなければ困る。そんな顔をして、スオウはスバルへ問いを投げ掛けた。

 

「───ふっ」

 

「本当に、何もかも、分からないままだ」

 

「教えてくれないか?」

 

期待を込めて、そう説いた。

答えられる筈のない、答えのない白紙を差し出す。答えられる事を避けて、答えられてしまう事が有り得ないように、主題の無い問いを。

朝霧スオウという存在は何だったのか。朝霧スオウは十六夜ノノミの護衛役としてハイランダーに入学する予定だった。朝霧スオウは崩壊寸前のネフティスとハイランダーの関係の中、護衛としての役目すら忘れ去られていた。

朝霧スオウは、『十六夜ノノミ』という護衛対象は既に別の高校に、護衛だけが入学するという奇妙な状況で、あらゆる役割を失っていた。

 

無いのだ。彼女にはここに居る理由も、必要も。

誰にも必要とされていない、元から流れ者の自分は都合が良いから目を付けられて、尽くす理由も義理も無く金の為に護衛を買って出て。

挙句の果てに、護衛対象を誘拐して『人質(生贄)』にしろと命令されて───。

アイデンティティを奪われた後に、唯一の拠り所である強さで小鳥遊ホシノに完敗してしまえば、遂には何も無くなる。

何もかも無くなれば、後はもう消えるだけ。だから消える前に、

 

「───頼む」

 

「……お前さ…ほんっと、不器用」

 

「俺より生きるの下手くそな奴なんて早々居ないと思ってたのに、今週だけで二人も出会うってのも、因果って奴か…」

 

ホシノとスオウに訪れた不幸は、崩落していく世界で誰からも手を差し伸べられなかった事。言うなれば、アイデンティティの崩壊。

一人寂しく泣いている理由を見つけられないし、誰も泣いてる彼女らを救う事は出来ない。誰にも虚無と涙で作られた孤独の檻は壊せない。

 

「───」

 

スバルにも、伝えられる言葉は無い。

ホシノは自分で解答用紙に答えを書き込んだ、スバルに出来ることなんてペンを握らせてあげる事だけで、それ以外の役目は果たせない。

求められているのが答えの記入だとしても、檻からの解放だとしても、答えも檻を開ける鍵も持たないスバルはどうすればいいのか。

 

「───」

 

きっと、何を言われるのか想像を働かせているのだろう。

終わりが避けられないと悟って、頭の中で無数の結果をシミュレーションして、この終わりを選んだ。

 

白紙は白紙だと、自分が空っぽな人間であると誰かに決めてもらうことを求めて、必死に銃を握り直したのかもしれない。

その行為に、もう意味が無くなっていたとしても。

 

「───」

 

その通りになるだろう、スバルが偽らない考えを伝えるとするのならば、それはホシノへの言葉と同じになる。意味を見つけれるのは自分だけで、これから先も手伝っていくから頑張ろう、そんな言葉を。

それは───スオウに告げるには酷過ぎる言葉。

 

「スオウ。選択の一つを取っても、スオウが間違えを選んだ時は無い」

 

「ただ、選んだ全部が正解だって言ってくれる奴も居ないままで、不正解の烙印だけ焼き付けたせいで、空っぽになっただけだ」

 

「……」

 

「だから、さ」

 

「──俺が悪いって、事にはならねぇかな」

 

「………は…ぁ?」

 

虚をつかれた顔をして、馬鹿な事を言い放つスバルを見つめるしか無いスオウは、動揺の余り吐き戻しそうになる。

期待していた言葉の、どれでもない…いや、その中でも最悪の台詞だ。答えになってない、いやでも答えを求めた訳でないけれど、それでも、これは無いだろう──。

 

「スオウが苦しんでる全部の責任は俺にある。大人が世界をこんな風にしちまって、苦しんでる責任は…俺が取るし、自分を信じられなくなったのも俺のせいだ」

 

「…何を…言って…」

 

「スオウがそうなった責任を俺が取りたい。答えを探すのは、その後で。不幸を全部吐き出して、悔しさを後悔を罪悪感を、この世界がモノクロにしか見えない原因を全部俺に投げつけて…」

 

「あー、スッキリした。そう言えるまで俺はスオウの物語の悪役になる」

 

「────」

 

──無責任にも程がある言葉の数々が、ナツキ・スバルの口から出てくる毎に肉付けされていく。

 

「俺は…毎日、毎日毎日俺はスオウに会いに行く。何処にいてもどんな場所に隠れてても見つけ出してから、さぁ今日も、明日も、明後日も、俺が来たぞ!って言ってから」

 

「スオウが自分に贈る言葉を一緒に考えてやるさ」

 

「………っ、貴様、ふざけ…」

 

「ふざけてない。あ、迷惑掛けるのが嫌だとか殊勝な心持ちがあったら捨てと…ここまで来てそれは無いか、俺もそうだけどこの年齢は他人に迷惑掛けて成長するもんだし!まぁお互い様で助け合って行こうぜ」

 

「巫山戯るなッ!黙れ、そんな答えが許されるか!そもそも、私が頷いたとして、理由を見つけられなかったら!?そんな事を!!死ぬまで続けるつもりかっ!?」

 

「ああ。──そん時は、末永く宜しく」

 

「──────」

 

コイツはおかしい。イカれている。

 

頭がおかしくなるかと思った、頭がおかしい人間と話すと、こちらの頭までおかしくなってしまう。

パンクしておかしくなる脳味噌を、催眠術をかけられておかしくなる自分を元通りにする為に思考を錯誤して、試行錯誤を繰り返す。

 

この世界に狂人がいるとして、それらは全て偽物だ。狂った人間というのはコイツを指す言葉であって、真に壊れた人間でしかこの域には辿り着けない。

 

「───」

 

ケロリとした表情で、よくも、よくもそんな言葉を吐いてくれたな。

狂い過ぎだ、ナツキ・スバル。最早それは人間では無く聖者(キリスト)に等しい。

 

「返事はイエスかノーで宜しくな、スオウ」

 

「…………」

 

「───ははっ」

 

「きゃっ!?」

 

スオウがポンプショットガンを投げ捨てると共に、アヤネの背中を突き飛ばす。そして逃げ帰る様にスバルに背を向けて、走り出した。

それを追うことはせず、アヤネの傍に駆け寄ってスオウの背中を見つめるスバル。

 

返事はイエスかノー、答えずに逃げた彼女は自分が問いを投げ掛けたのだから、この言葉に返答する必要がある。

何処に行っても、アロナとスバルの全力を尽くして見つけ出し、この世界最強のストーカーになると決心したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アヤネ、大丈夫か…!?」

 

「は、はい!大丈夫です、何もされていないので…」

 

「なら早速で悪ぃが、全員に列車砲の元に集まるよう話して欲しい!」

 

スバルが企む殲滅作戦をアヤネへと伝え、誘導を願う。

首を縦に降り、尚且つ元に戻ったホシノを見て涙を浮かべ、今の心情を表しきるジェスチャーが無いのかあたふたとするアヤネは、自分がどんな顔をしているのかも分かっていないのだろう。

ともかくとして二人の元を離れ行動を始めるアヤネを見送り、やけに大人しくなった攻撃の原因を探す為ホシノの傍に戻る。

 

「アヤネちゃんがあんな顔してるとこ、初めて見たかも」

 

「洪水みたいな涙と鼻水だったな…指摘しなくて良かったよね?俺も乙女心を逆撫でする心無い奴になりたくないし」

 

「それを言うなら、さっきのはどうなの。──末永く宜しく。とか、アイツに…私の前で言っちゃってさ」

 

「────」

 

少女は頬を染めて咳払いをし、照れを隠して指を指した。指した方向は、雷の化身とビナーが互いに争いあっている姿だ。

上擦る声を抑え、敢えて抑揚の無い低い声で現状を話し出す。

 

「あの雷の方は私を、蛇の方はスバルを狙ってるみたい───んふっ」

 

「照れが隠し切れずに笑っちゃう所、可愛すぎて目がチカチカしてきたわ。嫉妬するのもいいけど、戦う前に俺の体力減らしすぎんなよ?」

 

「す、スバル!ストップ!今は本当に真剣にやらないと…」

 

「おっふ。…んん゛なら、ちゃんと顔見ながら話してくれ。ほれほれ」

 

「もー!スバルっ!」

 

しっかり目に怒られて、拳を頭に置いててへぺろを構えた。こうやっておふざけに反応してくれる内が花、自分のウザキャラが時と場合を弁えられないタイプなのは自覚しているので抑えつつ、風に煽られて目に掛かる髪を手で退けてホシノの手を握った。

 

「俺とホシノがバラバラに動いたら、ヘイトが分散するって事だよな。分散した方がやりやすいってならそうするが……」

 

「私は…スバルと手を繋いでおきたいかな〜。私の事、特等席で見といてよ」

 

「なら、俺が出来ることあるか?」

 

「手を離さないで、一人にしないでいてくれたらそれで」

 

「ん、それは一番大事な事だけど…」

 

「……列車砲を使えるのはスバルだけ?それとも別の人でも使える?」

 

それを聞いて、携帯を開いてアロナの様子を伺った。誰もあんな兵器の使い方は知らないし、忘れてはいたがそもスバル達が使える代物なのかも怪しい。

アロナさえいてくれれば、恐らくではあるが起動と発射は行えるだろう。カイザーが出来た事をアロナが出来ない筈が無い。

 

「アロナ。…アロナ一人でも、大丈夫か?」

 

《──肯定。私にお任せ下さい、スバル様》

 

「っ…任せる、任せたアロナ!俺の最高の相棒!」

 

《ええ、任されました》

 

親心が涙の流れを止めさせてくれなさそうだ、アロナに任せられるというのなら、携帯を誰かに預けて二人で行動すればいい、そして作戦の核たるアロナを預ける相手は───。

 

「───ヒナ」

 

満身創痍ながらも、スバルの元へ足を運んでくれた彼女が相応しい。

 

「よかった、元に戻ったようね…。スバルも怪我が無くて良かった、話は聞こえてた、その携帯は私が…」

 

「──S・M・G。俺に出来る事ならなんでもするから、託させてくれ」

 

「…はぁ、こんな時でもスバルは相変わらずなのね」

 

二人目のMVPたる彼女に、幾つの賛美を送ればいいのか。魂が擦り切れるまで繰り返した死に戻りも、彼女の活躍一つと同価値とは述べられない。ちなみに一人目はシロコ。

 

呆れながらスバルから携帯を受け取って、傍で手を握るホシノへと目をやると、軽く微笑んで去ろうとしたのを──ホシノが呼び止める。

 

「い、委員長ちゃん!」

 

「…何かしら」

 

「その…ごめん。沢山迷惑掛けて…」

 

「───」

 

「いいのよ、私の勝手でやった事だし。それにその言葉は私じゃなくて、もっと伝えるべき相手が居ると思うのだけれど」

 

「……うん」

 

「スバルを頼んだわ、小鳥遊ホシノ。貴方の強さ、信じてるから」

 

──最強から最強へ、放つ言葉に信頼を乗せて、送る。

いざという時は命を投げ打ってでも二人を救う、その気概はあるが使う時は無いと予感しながら。

 

「正真正銘、これで俺はホシノの手を握るだけのマスコットって訳だ」

 

「それだと、マスコットと捻くれ者が世界滅亡に立ち向かう……なんて、B級映画みたいになっちゃうけど」

 

「映画なら…丁度いい。───主人公補正掛かりまくってるぜ、俺ら」

 

「ふふっ、ならどうにだってなるね」

 

「ああ、どうにだって出来る」

 

「行くぜホシノ、俺とお前で───あの理不尽共をぶっ飛ばす!!」

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