Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『砂の世界・二人の世界』

 

『アビドス生徒会会長小鳥遊ホシノ』

 

『貴方には、一つだけメッセージを残しておきます』

 

『──決して、希望を絶やさないように。貴方の星は、いずれ訪れる』

 

「……」

 

超人が残した予言は、各自治区の生徒会長もしくはそれに該当する人物に対してのみ残されている。

自身の失踪を示唆するかのように、各地に残された『遺言』とも言えるそれは、世界に禍根の芽を残した。

ミレニアムはセミナー会長調月リオの失踪、ゲヘナはパンデモニウムソサエティーがトリニティとの協定構想を表明し、トリニティは紛争を開始し、

 

「……」

 

そして、アビドスには何も残さなかった。

 

「──」

 

望まれる者も、求められるものも、何も無く、あの曖昧な言葉を言い換えるなら『待て』とだけ。

何を、誰を、どんなものを。この砂に埋もれた世界で何に希望を見出せばいいのか。

答えは、外からやってきた。

 

「──スバル」

 

「まずは、優先順位を調べよっか。アイツらの行動パターン…弱点とかは分かる?」

 

「えっと…ビナーの野郎は纏ってる砂嵐がやべぇけど、ミサイルとかビーム撃ってる時は使ってない。多分使えないって方が正しい。移動する時は逆で、武装を使えない代わりに砂嵐でやたらめったら砂に変えながら暴走する」

 

「雷のデカブツは───」

 

スバルが言葉を連ねる前に、凄まじい振動が大地を揺らす。

持ち前のミサイル連装とビーム兵器を、照準を合わせる必要も無い巨体へ惜しげも無く使用するビナー。未だその武装の供給源と復元能力の限度が不明な以上、雷神と共に『消耗』の二文字は考えない方がいい。

 

虚空に響く雷鳴は、立ち塞がる大蛇への不満を表すように音量を増している。音を置き去りにする雷撃は本来自然が生み出す厄災である筈が、化身の一振りの指揮によりその厄災は意思を纏って迸る。

大口を開け、口腔内のビーム砲を放とうとしているビナー。その口の中へ音もなく射出される雷槍が狙い違わずビナーの頭部を吹き飛ばす。

 

そのまま、雷槍はその勢いを殺す事無く突き進み地表に露出した身体を貫いて進み、地上へ爆発を招いたがビーム砲の発射を止めるには至らず、ビナーの全身を雷槍が貫いたと同時に雷神にもビーム砲が直撃する。

スバルの瞬きの間に起こった事は、常人には認識も出来ない代物だ。ミサイルもビームも雷も、それを認識している頃には着弾している。

それらを自らの力で弾く事の出来る怪物以外は、この容赦の無い四方から迫る破壊の衝撃に苦痛の悲鳴を上げながら消えていた事だろう。

 

「──や、やっべぇぇ…!?で、でも!あの強めの雷を撃った後は隙が生まれる!それに攻撃した時は雷の珠を作るんだが、それを吸収して回復してるっぽい!」

 

「オッケー、ありがとスバル。それだけ教えてくれればやりようがある……それとあの蛇、私と戦った時より強くなってるね。リミッターでも外したのかな?」

 

「あ、あの、これさ!本当に……列車砲だけで何とかなる!?アイツら今の撃ち合いでピンピンしてんだけど!?」

 

「万全の状態なら怪しいかも……まだ攻撃手段しか見てないから、どんな防御行動を取れるか次第だね。つまり私が、アイツらを消耗させればいい」

 

互いの攻撃で仰け反った雷神と大蛇は、早くも体勢を立て直し同じ攻防を始め出す。一方は破壊箇所が放たれるドローンと自己修復によって損傷を回復し、一方はビーム砲によって削り取られた身体は自然に復帰した。

 

互いは互いに、目的遂行の大きな障壁だ。どちらかが倒れるまで、どちらも争う事を止めはしない。

 

ヒナとホシノの戦いとは打って変わって、技量の介入する間の無いスペックの押し付け合い。攻撃力を、防御力を、機能を能力をただぶつけ合うだけの勝負に人の居場所は無かった。

二つの極地とも言える戦いを目視しているスバルにとって、横で手を繋いでいるホシノがどのような手段で両者を消耗させるのかと目を見やり──、

 

「化け物相手なら──全力で殴っていいしね。スバル、ちょっとだけ『跳ぶ』よ」

 

「───殴る?」

 

「うん、人相手に全力で殴っちゃうと大変な事になるからさ…。久しぶりに本気出して、殴ってみるよ」

 

「本気出して…って、いやいや、なら今までずっと加減してたって事…?俺とか、シロコとか、ヒナとかと戦った時も…」

 

「ううん。そうじゃなくて……なんて言うかな、加減してた訳じゃなくて…その時その時が私の全てを出し切ってる戦いだったのは間違いじゃないんだけど……」

 

「全力で、本気で、ただ『殴る事』だけを考えて打つパンチは、ちょっとだけ違うって所、見てて欲しいな〜」

 

「───ぉ…」

 

ホシノが言い終わると同時に、スバルの肺から吐き出された空気だけがそこに置き去りにされた。

ホシノの全力──知らないものは知らないとしか言いようが無く、というより今まで全力の戦いを繰り広げてきたとばかり。

気が付けば、スバルの視界には満天の星空が瞳の内側に映っているのではないかと思う程、輝く星々が散らばっていて、

 

「よい…しょッ───!!」

 

「う」

 

そこに入り込んできた影に、どう驚けば良かったのか。

驚天動地、奇々怪々、衝撃的で有り得ない光景に吐き出す言葉は一つ。

 

「っっっっそぉ!?」

 

ビナーの巨体に潜り込んでのホシノのアッパーカットは、地中に埋まっていた身体をも掘り出して空へと打ち上げる。

嘘だろ、嘘でしかない。ビル何棟かある鉄の塊を殴るだけで打ち上げるのにどれだけの衝撃が必要なのかなんて、スバルに計算出来なくとも天文学的なパワーが必要なのは分かる。

 

これも神秘の成せる技なのか、そう納得するにしても『ちょっと違う』と形容するには桁違いに変わりすぎでは無いか?

 

「空、飛んで…凄いってかコレ、何がどうなって…?」

 

「っ」

 

「ともかくすっげぇよホシノ!今のパンチ何発かぶち込めば列車砲なんて使わなくても…──ホシノ!?」

 

その破壊力を披露したホシノへ賛美を送ろうとして、彼女の右腕の負傷に気が付いた。ぽたぽたと血を垂らし抑えるその右の拳は、他ならぬホシノ自身の出血で赤く染まっていた。

ここまで流血の一つも無かったホシノの負傷に狼狽え、目を見開くスバルを抱き寄せてホシノは「大丈夫」と呟く。

 

「いてて…やっぱり本気で殴るとこうなっちゃうよね…」

 

「ホシノ!それ…!」

 

「『加減無く』ってのはこういう事、こんなの委員長ちゃんに向けた所で…私の方が不利を背負って負けるだけ。こういう何にも考えてないデカブツぐらいだよ、効果あるの」

 

「それ……大丈夫なのか?」

 

「勿論。まぁいざとなれば両手両足ダメにしても──」

 

「ホシノ」

 

「──駄目だ」

 

「…うん」

 

両怪物の間に割り込むホシノは、その自傷した拳を更に握り込み、背に背負う盾を構えると今度は雷神へ振り向いて、空中で軌道修正を行い突撃する。

横薙ぎに盾を振るい、雷神を崖の壁へと突き飛ばすとその身体の一部を盾を使い消滅させた。

押し潰しているのか、それとも盾で殴り壊しているのかは定かではないが、スバルの耳に伝わってくる風きり音が盾の振るわれるスピードを物語っていて、雷神を足蹴にした後真下へショットガンを放つ。

弾が着弾した地点は、先程の雷槍と良く似た規模の爆発を起こして、雷神を沈黙させて───。

 

「さぁ、どっちを選ぶ?」

 

体勢を崩した雷神の上に、空に打ち上げられていたビナーが漸く地面と再会する為の落下を繰り広げ、怪物同士が折り重なった。

足蹴にするは、桃髪の少女。自壊をものともせず繰り出される攻撃は、雷神と大蛇の両者を圧倒している。

 

そしてこの状況においても観察を止めない彼女にとって、一時の優勢を慢心に変える愚行は犯さない。

雷神の視界には自身の身体を押さえ付ける大蛇と、絶対的な敵対者であるホルスの神性を有する者。大蛇を退ける為に攻撃を放つも、巨体という一点に関しては誰もビナーを超える事はなく、

 

「──マジかよ」

 

──ビナーはこの世界で最高の小鳥遊ホシノの盾となり、その重量によって雷神を押さえ付け、そして雷神から受ける攻撃に対応する為、雷神に向けて無尽蔵の体力で兵装を放ち続けていた。

同士討ちと評するには酷すぎる光景にスバルの顔が青ざめる、ビナーは武装を抑え、砂嵐を展開する事で雷神を分解し、蟻地獄のように両者もつれ合い崩れる崖に沈んでいく。

これが一人の少女によってもたらされた結果だと言うのなら、その規格外の程もよく分かるだろう。

 

「なるほど、ちゃんと考える頭はあってもこの程度か」

 

「…あの〜、ホシノさん?ラスボスが過ぎません…?」

 

「やだな〜ラスボスだなんて。ただ、私達の排除が最優先事項になってるなら、わざわざ争わずとも攻撃を私達に集中させてスバルと私を引き剥がせばいい。それもせず障害になるもの全部、破壊していこうとするなら……」

 

「それを利用されるぐらい、覚悟してもらわないと」

 

「やっぱりラスボスだよね!?こんな光景作り出しといてさ!?」

 

「うーん。スバル〜私そんな風に言われるより、もっとちゃんと褒めて欲しいなー?」

 

「ぐっ…随分と遠慮が無くなりやがってこんちくしょう!可愛すぎるのも大概にしないと、それこそ褒め殺されるのも覚悟してもらわないと…!」

 

「スバルになら、幾らでも褒め殺して欲しいけど」

 

「─────」

 

妖艶に微笑む彼女の余りの変わりように、一抹の不安を感じるも…思い返せばホシノの本当の『素』を知らないスバルだからこそ、このじっとりとした視線に少しだけ、ほんの少しだけ怖がっているのかもしれないけれど、

 

「あ、えと…とりあえず終わってからで…?」

 

「約束」

 

「は、はい?」

 

「約束、ね」

 

「はい…」

 

──やはり、ほんの少しだけ背筋に伝う冷たさは消えず、スバルがこれから受け止め切れる感情である事を祈るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノ先輩…」

 

「何あれ何あれ何あれ!?素手!素手!?」

 

荒れ狂う雷撃を避け怪物同士の争いを迂回して、シロコは感嘆の響きを込めて名前を呼ぶ。

白黒の双眸で見つめる先は、暴力を更なる暴力で押し潰した先輩の姿であり、元のあるべき姿を取り戻し心身共に全力を尽くせる小鳥遊ホシノの規格外を見つめていた。

 

まず、スバルを抱えながらあの高機動を繰り広げておいてなんの被害も与えていない。

目視するのがやっとの加速は、外の人間であるスバルにとって致命傷の筈。スバルを左腕に抱えて加速と急停止を繰り返せば、とても彼の身体がもたない。

慣性でスバルがグチャグチャになる前に、筋力で無理矢理スピードを殺して対処している。

 

そして、自身では一撃で蒸発するか戦闘不能になるであろう攻撃の数々を受け止めるだけでは無く、スバルへの被害を逸らす為に受ける攻撃を弾き返している。更に弾く方向を考え、被害を最小限にカウンターを行っていた。

異次元の空間把握能力と、世界最高技量の兼ね合わせ、掛け値無く、間違いなく、今の小鳥遊ホシノは世界最強と謳えるであろう能力が発揮されている。

 

「うわ、何あれ飛んでるの?…ぇ…また消えて…」

 

「消えてるねー、すごーい!」

 

簡素で味気ない感想は、逆に彼女の動きが『現実』の枠から超えている事を示している。

それはまるで、夢の中のスーパーマン。何でも出来て、何でも叶えられる夢の世界で、二人が手を繋いで空を舞っているのもそう思う要因の一つなんだろう。

 

彼女は、今微笑んでいた。必死にしがみついているスバルからじゃ、表情を見ることは出来ないのだろうけれど、彼女は今笑っている。

必死に、長い間必死に孤独で戦ってきたホシノにとって、戦闘中に感情の発露は無いに等しかった。

 

そんな彼女が戦いの最中笑顔を浮かべるなんて『奇跡』を起こしているのは、他ならないスバルであり、笑顔の理由もたった一つ、戦闘が優位に運べているからでもなく、全力を気兼ねなく振るえるからでもなく。

───ただ、ああしているのが、幸せなのだ。

 

「────」

 

瞬きの瞬間に、スバルが地面に下ろされていた。抱えている二人には分からないだろうが、自身の目はハッキリとホシノの消耗と流血を捉えていて、あの出力は限定的なものだと分かる。

蟻地獄にハマった虫のように、互いの攻撃でもつれ合っている怪獣たちを差し置き、スバルとホシノは正反対の方向へと走り出す。

 

「何か、作戦があるのかな」

 

あの瞬間的な攻防で何を見破ったのかは分からないが、ホシノがスバルを手放して送り出したのなら何かしらの策があって然るべきだ。

あの空間は、既に二人の世界。私達がそれに組み込まれている事は考慮しない方がいいし、邪魔にならない場所まで退避する事を優先すべきだと考える。

 

「──カイザー…」

 

砂舞う空の彼方から影を落とすカイザーの武装ヘリ、けれどアレらはもう遅い、この舞台に上がるべき時期(チャンス)を逃している。

何をしようと、あの二人の世界へ踏み入る事は出来ない。散々漁夫の利を得てきた大人達が、その悪癖で世界を揺るがす魚を取り逃しているのは少し気分が良かった。

 

スバルの大見得もあながち間違いじゃなかった、利益と欲望にしか従わない行動パターンは根本的な成長をしていない。自分の欲求が全てである以上、これが大人が手を出すべきじゃない私達の物語であっても、出した手を引っ込められないんだ。

 

「……それでも、選択の責任は自分で背負うのが『大人』だから」

 

「ん、どうでもいい」

 

カイザーコーポレーションは決して相容れない、侵してはいけない領域に踏み込んだ責任を払う事になる。

スバルの言葉の一つでも、耳から心へ受け止めていればこうならなかったのかもしれないのに、子供だからいつも通りになると考えていた彼らは、

振りかざしてきた理不尽に対する、全ての責任を負わされるだろう。

 

「──砂狼シロコ」

 

「ん」

 

受け身をとって全身に付いた砂を払い、声を掛けられた方向へ首を回すと、そこには空崎ヒナが居た。純白の髪を揺らし、砂を振い落して握り締めていた携帯をシロコへと見せる。

 

「スバルから端末を受け取ってるわ、これで列車砲を起動させる、と」

 

「遺産…スバルとの連携は取れてるの?」

 

《いいえ。ですが、ご心配無く。スバル様と小鳥遊ホシノ様なら、確実且つ適正な発射タイミングを作成してくれます》

 

「ん、なら早く行こ……」

 

「───委員長!!!」

 

「……うるさい…」

 

キンキン声が脳を刺し眉を顰める。聞いた覚えのある声は、あの馬鹿みたいな格好をしていた指揮官か。

よくこの騒乱の中、その声を出せる元気を残せておけたなと片耳を塞ぎ、複数人の足音がその女の背後に連なっているのを拾いとる。

 

「委員長!私、委員長があの男の為に身を呈した時、胸が張り裂ける想いで──」

 

「ん、声がデカイ」

 

「むぐぅっ!?」

 

「イオリ、チナツ、アコ、お疲れ様。よく頑張ったわね」

 

「途中でカイザーと私募ファンド共が…急に撤退したからそうでもなかったよ。委員長の方こそボロボロじゃん」

 

「委員長、既に全隊退避済みです。残るは私達と…あの二人だけ」

 

「…………そう」

 

ヒナの瞳に映るは、自縄自縛の呪いを克服した小鳥遊ホシノと地面を蹴って走るナツキ・スバルの姿。

自分が憧れ夢見た『暁のホルス』が脳裏に蘇る。けれどそのイメージを消し去る程に、彼女が浮かべる笑顔は眩しく美しかった。

強さを追い求める者達の、その先に居た小鳥遊ホシノは、自らその座を退いた。

──強さをそのままに、孤独をその座へ捨て去って。

 

「……………スバル」

 

その身を寄せる温かな巣を見つけれた事を、祝福しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルにとって、自分の能力を大きく超えた敵と戦うのは慣れたものだ。精神と魂を摩耗させて、欠片に散らばったチャンスを手に掴む。

 

だがビナーと雷神に対しての勝率は未だゼロ。ランダムエンカ即死エネミーとエンディングそのものなんかと戦う事はそれこそ出会う回数は多いが、スバルにとってただでさえ柔らかい精神を握りつぶすようなものだった。

 

無力感、絶望、諦め。戦って勝つことを諦めているからこそ、今の自分が目にしている様な光景は夢に描いたことしかないし、実現は不可能だとばかり思っていた

 

『行動の順番を決めるのに、アイツら生物的な思考と機械的な思考が混ざってる。まるで人間の人格を持ってるAIみたいに、本能と理性が意思決定を混乱させてるんだ』

 

『だから───二手に分かれよう。列車砲を命中させられる位置で、共倒れして貰う』

 

「漸く勝ちの目が見えてきたって所か…!」

 

あの巨獣共がコアを潰さないと復活する、なんてクソギミックを搭載したボスでなく、物理的な攻撃が効果を発揮していることは分かっている。このまま時間稼ぎをしていれば、修復の為のエネルギー切れを起こしてくれないかと淡い期待を抱くも、

 

「希望的観測は何回死んできたんだって話」

 

第一、ビナーはともかくあのセトの憤怒とやらは『神』だ。荒御魂がエネルギー切れとやらで大人しく帰るイメージが湧かない。

世界を滅ぼせるホシノに対抗して現れたのなら、同じく世界を滅ぼせる力を持って当たり前、無尽蔵の体力と火力があってこそ神に相応しい。

 

「───」

 

遠目に見えるホシノと身振り手振りで会話する。風よりも早く駆ける事のできるホシノにとってスバルは足枷………と卑下しているのは自分だけだろうが、取り敢えず立ち位置を分析すると導き出されるのは壊れやすいデコイだ。

 

だがナツキ・スバルは、唯一無二天下不滅のデコイ。カイザーの陰謀を阻止し小鳥遊ホシノとの勝負に勝利、その後ゲマトリアの魔の手を退け囚われの姫を取り戻した自分が、今更蛇一匹の誘導に手こずる訳にはいかない。

 

「………」

 

暴れるビナーの視界に映り込む程度にまで近づいたスバルは、その機械の瞳に浮かぶ色を見る。

縦の瞳孔、橙色に輝く瞳、機械である以上センサーでしかない筈のその目は、焦りを孕んでいた。

それは感情か、それともプログラムか、人の事を粉微塵にしておいて人間らしい機微を瞳に浮かべるのも身勝手がすぎるとは思うが、

 

「お前との散々な馴れ初めなんか思い出したくねぇけど……割と、お前が一回殺してくれなきゃどっかで折れてたかもな」

 

スバルの聞こえるはずの無い声が発せられたとき、ビナーの視線はスバルへ向き――突如、瞳に激情が灯る。

雷神への攻撃を止め、鳴き声で空を震わせ、天上へ向け身体を伸ばす、求めていた空虚を、そこにはないなにかを掴み取ろうとでもいうかのように、ビナーは咆哮を上げた。

 

「─────!!!!」

 

「意地でも俺を…いや、意地を晒してでも、俺を殺したいのか。カイザーといい何で俺はこういう奴に…───」

 

「いいぜ来いよ蛇野郎!機械の癖して一丁前に感情があるのなら、俺以外にホイホイ釣られてんじゃねぇよ!」

 

「──お前も、ここで終わりだ。もう、何処にも行けやしない」

 

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