感想ありがとう!!!全部見てます、全てに感謝。
───それは、治療中のとある一日の事。
「………」
「…────」
ため息をつきながら、晴天を眺める。
ため息をつくほどの気苦労があるのかと言われれば、そうでもないのだが。
「落ち着かないな」
一日、一時間、一分一秒を大切にしてきた今までと比べて、圧倒的に無為な時間を過ごしている気がする。
無論、身体を治す時間が無駄だとは言わない。今の精神状態は、働きづめの毎日から解放された社畜が、自由な時間で何をすればいいか分からない的な奴だ。
というより最近、スバルのふざけた言動を温かい目で見てくる奴が多すぎて困っている。ある程度の冷やかさと冷笑が無いと、スバルの自尊心は辱められてしまう。
かといっておふざけの具合を間違えると──、
『ああ、もう、ダメだ。ダメ、おしまい!限界です耐えられません!こんなにも今俺は!悲しみに満ち溢れている!!』
『『『────』』』
『あ、いや、その。すみません違います、スナック菓子が食べられないのがなーってちょっと思っただけで』
──残念ながら、シロコ、ホシノ、セナの三名に冗談は通じなかった。スナック菓子を食べたいと言ってしまったのが口火を切り、本気で話し合いを始めてしまった三人の対処を考えているうちに、スバルのメンタルメーターは過冷却でひびが入ってしまったのだ。
「はーぁ、俺の心を射止めるラブリー天使ズよ。ちょいと加減してくれないと俺の身が持たねぇぜ…」
「……──四六時中、『ん、今日は私の事褒めて』『スバル、おいしい?』『約束しようよスバル』『起きたらデート』『シロコちゃんが後、ね』『勝負』と競い合ってんのは精神的にも辛いもんがあるしなぁ」
「いやん!私の身体は一つなの!二人共私のせいで争うのはやめて!……をする側になるとは…」
向けられる好意を受け止めるのに拒否感は無い。ただそれを無情に否定する自分が大嫌いになるだけだが、意地の張り合い勝負でスバルがあの二人に勝てるヴィジョンは無し。
シロコはとにかくスキンシップ。抱き着くのは当たり前になってきて、過剰とも思えるその態度は、ここ数日のスバルへの接し方として通常運転。
ホシノは隙を見つければスバルと話をして約束を取り付けようとする。デートはまだいい、願ったり叶ったりだ。美少女とのそんな経験なんてこっちこそ宜しくお願い致し───たら最後、「じゃあ、もう一つお願い聞いて欲しいな」×∞が始まる。
エスカレートしていけばそのまま人生のエンディングまで約束まみれになって、丘の上の教会で鐘を鳴らしていそうなほど。
毎日幸せを確かめようとは言ったが、流石にアクセルが効きすぎだ。
「おに~さん、何ふざけたこと言ってるの」
「からだ、大丈夫~?」
「──ノゾミ!ヒカリ!」
スバルの意識が目覚める前に仕事へ向かわざるを得なかったノゾミとヒカリの二人。昼下がり、両腕を胴体に回してくねっているスバルへまともなツッコミをしてくれる貴重な相手がやってきてくれた。
片手をあげ、いつも通りに意地悪を始めそうな小悪魔顔を浮かべるノゾミは「おみまいおみまい」と、お菓子袋を手に握っている。
「うう…。もう、ノゾミとヒカリしか頼れねぇよ俺…」
「なになに、どうしたのお兄さん。濡れた子犬みたいになっちゃってさぁ」
「俺のヒロイン化が止まらないんだよ!」
「は?」
「分かる~、スバルは守られるお姫様だもんねー」
「ヒカリはそっち派かぁ!?ぐふぅ、これでまた俺の味方が減っちまった」
布団に顔をどっぷりつっぷして、がっくりとうなだれる肩にヒカリが手を添える。渾身のグッジョブポーズだ、さぞかしこの保健室に囚われた姫の事を憐れんでくれているのだろう。
「お兄さんがヒロインって…本気で言ってる?」
「しょうがないだろ、今どきの恋愛漫画でも見れない光景の登場人物に立たされてみれば、ちったぁノゾミも俺の気持ちが分かる筈。人外魔境の殴り合いを添えて」
「ノーセンキュウ、多分ジャンル間違えてるよお兄さん。まぁそのシーン見かけても助けないけど」
「苦渋の決断だよな??一秒で見捨てたんじゃなくて、『くっ、盟友たるナツキ・スバルを見捨てるのは心が張り裂けてしまいそうだ』って、次回予告分くらいの時間は使ってくれるよな?」
「スルー安定~」
「安定じゃねぇよ!?絶対巻き込んでやるからな!」
酷い裏切りもあるものだ、あれだけ戦場を共にした仲間だというのにこの態度、それでこそノゾミらしい。
立場が逆転したとて、スバルもそんな修羅場に巻き込まれたくない。巻き込まれたくないので全力で巻き込みに行く。
「自分がされて嫌なことは、人に積極的にしていこうってのが教訓ね」
「うへぇ、性格悪すぎ!」
「俺今、味気の無い食生活のせいでカリカリしてんだよ。マヨネーズも菓子も、塩分糖脂質も何もない、白湯飲まされ続ける毎日……!」
「みんなお兄さんの身体を思っての事なんだから、おとなしくしとけばぁ?まっ、無理そうだけど」
「よく分かってるじゃん、俺がじっとできないハチャメチャ救世主系主人公だってこと」
「そこまで言ってない」
向かい合ったノゾミが、呆れた手振りで持ち込んだ菓子袋の紐をほどく。
コンポタ、ポテチ、ポップコーン。ここが日本ではないことを忘れそうになるぐらい身近な菓子の数々に目を光らせる。
物欲しそうにノゾミの手元を見つめるスバルをよそに、目を細め、わざとらしく体を揺らしてコンポタの袋から取り出した黄金色の宝物をスバルの口周りで漂わせ、スバルの目線が釘付けになってからそれを口へと放り込んだ。
「……欲しい?」
ぶんぶんと首を縦に振り、目を輝かせるスバルに対し二個目のコンポタを取り出して──。
「ほら、あーん。……うっそー!ダメに決まってるじゃん?パヒャヒャ!」
「────」
散々泳がされた後に、スバルから希望を奪い去られた。
「うわ、凄く悲しそうな顔してるー」
「ヒカリ……この妹どうにかしてくれよ…」
「お似合いだから何も言えないかもー」
ヒカリ的にはお似合い──なのか。確かにノリが似ていると言えば似ているが、いやしかし、貴重な貴重なツッコミとボケを両立できる相手だと考えると最高の相性だと言える。
セリカ、ノゾミの二大巨頭がスバルの生命線だ。二人無くして今後のスバルライフは安泰を迎えることは無いだろう、主に日常生活的に。
「……約束の事だけどさ、ノゾミとヒカリは何かやりたい事とか、欲しいもんあるの?」
「んー、無い!てかあんな私的な約束、お兄さんの立場を考えるともう意味無いし」
「意味ないって…寂しい事言いすぎるとキャラ脱ぎ捨ててノゾミに泣きつくぞ?あれだけ頑張ってくれて、何もないってのは筋が通ってない!みんなやり切った雰囲気出してんのに二人がひもじい思いをするのはお兄さん許せません」
「──ふふっ」
ノゾミの純粋無垢な笑みに、きょとんと憑き物が落ちる間抜け顔を晒すスバル。
余りにもイメージと違う柔らかな笑みで思わず「お、面白い所ありましたか、ノゾミさん」と他人行儀な態度をとってしまった。
ベッドの端に腰を下ろしているノゾミは翡翠の髪を揺らして、思考を一巡させるかのようにスバルを見つめた後、
「よし、先に帰るね。ヒカリはお兄さんの面倒見てあげといて」
「え、帰っちゃうの。俺との約束事、まだまだ話したりねぇんだけど…」
「バイバイノゾミ~、電車の中で待っててー」
ぷい、とスバルから目線を外し、お菓子袋を置き去って保健室を出ていくノゾミ。
からかいの中で不貞を何か働いてしまったのか、不安になってヒカリの顔色を窺ってみるも、そこにあるのは綺麗な桃色に染まった頬を上げた笑顔だけで、何かを読み取れもしない。
「……──どしたの、あの子」
「気にしないでー、ちょっと照れてるだけだからー」
「…照れてるんだ」
「うん~。あ、スバル、ハグしてーハグ不足、なでなでもぷりーずー」
「あいあい、ヒカリお姫様の言う通りにっと」
長い時間と経験を得て、スバルのなでなで力は達人の域に達している。
いつかはヒナも骨抜きにするその日まで、己のゴールデンフィストの研鑽を怠ることは無いと言っておこう。
「んー……」
ハグをしてみれば、やはりいつも通り軽い身のない身体だ。軽い、薄い、小さい、三つの要素が合わさって、極上の抱き心地を実現している。
ヒカリのハグ要求は、ヒカリの為だけでなくスバルがこの感覚を味わう為にも存在しているのだ。
「ありがとな、ヒカリ」
「んー?」
「みんながみんな、一人でも欠けてたらここまで来れてなかった」
「んー」
「…温かいな」
「ん……」
「……」
「スバルー?」
──温もりと穏やかな時間、ヒカリがハグを解いてスバルの目を見つめる。そうだ、漸く手に入れたこの時間で少しくらいは、ナツキ・スバルは。
「泣いてる顔してる、でも涙出てないねー」
「…」
「もしかして、泣きたいけど、泣けないの?スバル」
「あー。もう、俺って弱ぇ!分かっちまうよなそうだよな…!最悪だ、ほんと…。ごめん、この事は誰にも言わないで欲しい…頼む」
「んー…」
ナツキ・スバルは、ナツキ・スバルという少年は、人間性の喪失を誰にも明かす事は許されない筈なのに。
痛みを感じなくなった時とも、救済のため自身の苦しみを無視した時とも違う不治の病。
波の様に訪れる自我の希釈、目の前が暗くなっては意識が空へと吸われていく。人間性の喪失とは共感性との別れであり、自分自身の正しい姿を見失う事を意味していて、
「分かったー。でも、ノゾミが悲しいとヒカリも悲しくて、ヒカリが悲しいとノゾミも悲しいから…──ヒカリにはこれからも隠さないでねー」
「小っ恥ずかしいけど…助かる。ま、まぁ!本気で見せたくない、こういう情けねぇ姿見せれる様になったのも成長って事で!」
「成長ー!」
「成長!よっしゃ!」
やっぱり、情けなくて弱いのだろう。
多分、自罰する程でも無い。シロコやホシノ、今やスバルを助けてくれる存在は沢山いて、スバルは助けられる準備が整っていて。
でもやっぱり、男の子としては見せたくない強がりが勝つ。
「ノゾミねー、スバルの事、割と好きだから…沢山心配してるせいでバレちゃうかもだけどー」
「え」
「えー?気付いてなかったのー?」
「え、あ、はい」
「鈍感〜」
■
「…………」
火照って仕方の無い頬を、手で押さえて抑えようとしても、逆に頬の熱で手が火傷してしまいそう。
廊下を歩きながら、下駄箱にまで続く道を壁に手を添わせつつ歩き続ける。
「ダメダメ、お兄さんにはもう沢山お似合いの人がいるもんね」
スバルが意識不明になっていた時に、彼を囲んでいた顔ぶれを見れば分かる。アレは物凄く大変な事になるメンバーだ、その証拠に今さっき助けを求めてきたし。
というより、彼にとって自分はその『枠』じゃない。目を見れば分かる、何も分かっていなそうなあの目と間抜け顔。
自分もそんな柄じゃないし、何より自分があの色ボケした側に寄ってしまうと……いよいよだ。
「…………」
「───」
柄じゃない───けど嘘でもない。
「はぁ」
「あーあ、なんであの通信、受け取っちゃったんだろ」
誰からかも分からない謎の通信に、暇だからと言って繋げてしまったあの瞬間。
聞こえてきた声に手を伸ばそうと思ったのは、なんでだっけ。
「…………」
『助けてくれ、ノゾミ』
「──もー!最悪!」
密かな乙女心を隠して、少女は持ち場へ帰っていく。
柄じゃない、柄じゃない、柄じゃないと何度も呟いて、時には壁にもたれかかり額に手を当てては浮ついて。
胸の高鳴りと頬の紅潮を、この熱い砂漠と日差しのせいにして、誰にも顔を見られないように。
──やっぱり、あの約束は果たしてもらおう。何度も何度も、シャーレで活動するスバルを邪魔しに行って、気分を慰める事としよう。
今後のお品書き:
・活躍してくれたみんなとのエピローグ×3
・今後のスバルの活動示唆×1
・日常編×3
・???×未定