「──という訳でして」
「………」
「どういう訳?」
ツッコみを入れられるのも致し方ない。
何故ならば、スバルは今言い訳のしようも無い残酷なことをしてしまっていて、尚且つ過酷な試練を皆へ与えているのだから。
本気の疑問符、セリカが頭の上に浮かべるのは本当に仕方のない事で、
「………ふん」
朝霧スオウ、という少女がこの場に居合わせる事態が、どれだけの不和といざこざを巻き起こすのかを想像できない訳では無かった。
スバルの笑顔の歓迎とは裏腹に、自嘲と居心地の悪さを噛み締めた様な表情は、スオウ自身も今この対面を望んでいるわけではないのが見て取れる。
「ねぇムツキ…!なんでスバル達はこんな雰囲気なの…!?」
「う~ん、浅からぬ因縁…って奴?実質的にアビドスを滅ぼそうとした相手だし」
「どうしてそんな人を食事に誘ったのよ──!!?」
「スバルきゅんが誘いたいってさ〜」
スバルの額に浮かぶ冷や汗と、おどけた態度。
それはホシノに向けられたもので、最大の懸念でもある『戦闘開始』という事態を引き起こさないためにも両者の間に割って入る。
だが、『何故』が欠けた状態で食事タイムに突入すれば不和は当然。
朝霧スオウと仲直りしたくて食事に連れてきました、のでは無いのだ、今は何も彼女らに伝わっていない。意図も、意思も。
気まずそうに注文を取りに来るか悩んでいる柴関の大将も、せっかく自分の店をカイザーから取り戻せたというのに、初来客がコレでは……厄が寄りつくというもの。
「スオウ!ちゃんと説明カモンヌっ!」
「説明も何も、この物好きな死にたがりバカに連れてこられただけだ。私がお前に話した内容が何故、コイツらと昼食を共にする理由になる?」
「理由になるんです─!!スオウが悩んでる事への、解決法のプロフェッショナルが居るじゃん!?」
「………小鳥遊ホシノ…か。確かに私と同じ虚無を抱えて───」
「いや。違うぜスオウ、今回相談相手になって頂くプロフェッショナルは…──セリカだ」
「──ん?」
対面に座るホシノへ向け、注意を飛ばしていたスオウも思わず目を見開き首を傾げた。
──黒見セリカ。敵対していた際、特に目立つ注意点も無かった存在が自分の相談相手なのか、と。
「てかさ、なんでスバルはそっち側座ってるの」
「え゛。いやぁ、そりゃ、スオウの隣に座れる奴俺くらいだし…?」
「便利屋の依頼相手なんだから、丁度便利屋側と私達側で分かれられる」
「……まぁ、ホントの所はコイツが余計な事口走った時の翻訳兼フォロー枠だ。俺もホシノ達に挟まれながら飯食いたかったけど、今回は我慢」
対面の四人と四人。
椅子を引っ張ってきて隣り合わせに二人。ハルカとノノミが椅子に座りつつ、二人共心配そうに火花を散らす視線を眺めている。
だがぶつかり合うのはここまで、今からは、踏み込み合う時間。スバルの背中を押しているのは、スオウとホシノが似た者同士であるからこそ、ホシノは『許し』を選ぶという確信だ。
「ホシノもみんなも、俺の身勝手を許して欲しい。でも…スオウがせっかく自分のやらかしってのを理解して、依頼してまで俺を頼ってるってのも、理解してあげてくれ」
「だとしても、その子がそうやって自覚してるならここには…───」
「…………」
「……」
「私が、言えた事じゃないか。うん、なら…一旦話ぐらいしてもいいかな」
「っ、先輩それは…」
「アヤネちゃん、私がみんなに掛けた迷惑の事を考えたら……彼女以上にここに座ってられないよ。だからスバルの提案を私は受けたい。受けなきゃダメ」
「──君だって変われるんだもんね。変われるって、信じてあげないと。だって私達は似た者同士…なんでしょ?」
「………………」
駅帽のつばを指でなぞり、首を少し前へ、目線を下へ。
仕方の無い男だ、ナツキ・スバルという男は。あわせ鏡を目の前に置く事で、逃げられないようにしているんだ。
正気を疑いもした、言うに事欠いてまさか顔を突きあわせるとは。それもまぁ、正解なのかもしれない。
「大将〜!注文お願い出来るかー!」
「おう、もう大丈夫なのかい?」
「何となく…後はラーメンが来るのを待ってる時に話す。食べた時にゃ、みんな笑顔にさせてくれよな」
「おうさ、注文は…ラーメン10人分?」
「あ。俺食事制限されてるから白米だけで……」
「───アンタも色々と大変だねぇ」
■
──自由で穏やかな空気感を演出する力はスバルには無い。
つまりは、この朗らかな雰囲気は彼女らが作り出したものであり、ホシノとの約束も自然の内に達成していた。
「そうか、砂漠の砂のせいで水張れねぇから…!プールに入る機会が無いっつうのも勿体無いな、今度市街地の方のプールでフェスティバルしようぜ!」
「え~。プール…か。うん、いいね!おじさんも水着持て余してるし行こ行こ」
既に話し合いに飽きたシロコがノノミとじゃれ合い、関わりが無いので興味も持てないカヨコとムツキがハルカで遊んでいる。
「つまりは…どういうことだ?」
「なんっで分からないのよ!?」
届いたラーメンは一人の椀を残し、量の減ったスープだけが椀の中に。コッソリとラーメンスープの中にライスを入れたアルは、いそいそとレンゲを動かしていた。
満腹感のせいかうつらうつらとしているシロコは、ノノミの両腕に挟まれて寝落ち。アヤネは携帯をいじりながらホシノと談笑。
普通でしかない食事の光景を、愛おしく思うスバルの心中は、きっとホシノと重なることだろう。
ただし、その中で一人。セリカだけが安息を手にしていない。なぜならば──、
「アンタは深く考えすぎ!!そんぐらい誰でも悩むことだし、私も今はバイトする理由が無いからモチベーションが湧いてないの!!!」
「む、むぅ」
「それでも、明日は何をするか、何のために働いて何のためにお金を使うかってのを考えてんのよ!何のために生きてきたかなんかで悩んでるのなら、まずは図書館にでも行ってそういう本を読む!!」
「自分の中が空っぽって分かってるなら、向き合うのは自分とじゃなくて周り。同じ考えの人を見つけなくてもいい、てか見つかるわけないから自分が見たい人を見る!」
「そうやって沢山、『何をすればいいのか』って選択肢を自分で増やさないと…!!───アンタは、みんなにその時間を与えてもらってんだから…!」
「………それでも、見つからなかったら」
「はぁぁぁ、だから!死ぬまで付き合うって言ってる馬鹿がいるでしょ!?それにやっても無いのに言わない!」
「…あ、ああ」
この頑固者の面倒を見ることに、必死だからだった。
まだこれなら新人バイトへの指南の方が楽だと、椀に残ったスープを飲み干して脳髄に塩分を感じ取る。
セリカがスオウと語る中で感じ取った感覚は、ぎちぎちキンキンに固まったアイスクリームへスプーンを突き立てるようなもの。
最初は二人の会話に参加していた者も、今や真面目に話を聞いておらず、セリカは怒りの詰まった視線でスバルをにらみつけるのであった。
「そうだぞースオウ、誰だって虚しいなーって思う時はあるからな~」
「ねー」
「だよなー」
「二人とも覚えといてよね…!!!?」
「オー怖っ、まっ…スオウもそろそろ分かってきただろ?自分勝手も空っぽさも、特別でも無きゃお前しか持ってないわけでも無い」
「嫌でも色んなこと経験するんだよ。でも嬉しいこと、楽しいこと、悲しいこと、辛いこと…それを全部、頭の中に詰め込んで次の選択肢を見つけに行く。なにも、自暴自棄だけが逃げ道じゃない、趣味でも何でも『逃げ方』を増やそうぜ」
「…大丈夫だ。今更それを理解してない訳じゃない…────助かった。ここへ、連れて来ようとしてくれてありがとう」
「────ははっ、ああ、どういたしまして」
彼女の感謝の言葉は、泣きたくなるほど身体になじんだ。結局、何処まで行っても朝霧スオウも一人の生徒であると示すように。
罪は憎んで人は憎まず。
許せる筈が無い相手としてスバルはスオウを見ていたのに、そんな風に思えることが正しいのだと、過ちを赦す意味を知る。
こうしてみると、人生は数多くの場面で手を抜いていたのだと分かる。
手を抜いて、本気で、真面目でやってこなかった事が多すぎる、さぼっているとも言い換えられる。
進む道を増やすのなんて、毎日できた。明日はどうしようかなんて考えても、それを本気で悩んだことも無い。
「……サボり…か」
「サボり?」
自分はこれだけだ!これだけしかできない、これが自分の全てだって思っていても、それは突然崩れるもので、重ねてきた努力の裏には───、
「結構、俺もサボってきたなって。セリカが話してるの聞いてさ」
する。という選択肢を何万回してきた。選択肢を選ぶまでに過去の経験を活かして最善を選ぼうと尽力してきた。過ちの無い人生を送る為に、自分の歩みが誤ったものでないと胸を張れるように、選ぶ事と向き合ってきた。
───それでも、選ばなかった道の多さには比べようも無い。
───だとしても、してこなかった事の方が圧倒的に多い。
人間、無意識に諦めている物事へ目を向ける事なんて難しいったらありゃしないのだから、『他の人の歩き方』に目を寄せた方が一番簡単で楽なのだ。
「スオウ。いつでも見つけに行くっつったけど、自分一人で歩ける、歩きたいってなら一人で頑張ってもいいし、手を借りに来てもいい」
「スオウ一人でゴールまでの長ったらしいこの道を、独りっきりで歩いていく必要も無い。けどあんまりフラフラ歩いてっと心配になって顔見に行くからな」
「────」
「…やはり、お前は壊れていると思う。それにこれでは英雄というより───」
「教育者、らしく見えるぞ。ナツキ・スバル」
「教育者……」
教育者。
その言葉を一転二転、三転着地させることなく転がらせておくと、ジワジワと脳裏が温まってくる。
柄にも無い事ほど自分に寄り添ってくるもので、例えば『その人』だったり。要らないものとまでは言わないが、背負うには頭が痛くなるものを背負いがちだ。
現に、最早当初の気持ちとやる気は一切失われたというのに目的は果たされているし。
「うーん」
何か、頭の中でピースがハマりそうになる。
欠けた隙間にピッタリハマる部品だとか、あと一冊でギッチリ埋まる本棚だとか、そんな感じの感触。
一ミリも───自分には似合わない筈の、教育者という単語が何か、スバルの何処かにハマりそうで、
「流石に似合わねぇや」
流石の流石に、ハッキリとした役割を持つソレにはなれない。なれやしない。スバルがその役職になるには多分、免許とか取らないとダメだし。
───そんなこんなで、ヌルりと外れて、彼方に消えていった。
短いけど今日は夜にも投稿します〜。せっせこ書いてる途中…(そろぼち新章の情報をじょぼぼと洩らしていこうかな…)
《2章・裏話》
本来は30話程度で終わる話でした。それから3章4章と、5章目にアビドス編の完結をしようかと。
でも、良く考えると…放置してたら詰むんですねこれが…。
問題その1。連邦生徒会長の失踪が早く、事態の悪化が止まっていない。
お陰様でアヤセリ誘拐にシロホシ孤立、ノノミの拉致が早まってます。何やってんだ連邦生徒会長!!!!!
問題その2。ホシノがテラー化した場合、3、4章中に世界が詰む。
多分一番ヤバかった所。表面上救ったとしても、ホシノの虚無を見抜かずテロ化カイザーをぶっ飛ばしても地下ちゃんでゲームエンド。
どれだけ戦力を整えた所で、ヒナが負けてしまう以上他の生徒は戦力になりません、ネルも火力不足。
問題その3。100%エンカウントエネミー朝霧スオウ。
どんな奇跡が起こったとしても、スオウが居る限りホシノが真っ向からバトるのでどうしようもありません。生肉置かれたイビルジョーかコイツは…。スバルのホシノ理解度△な上、後輩の話は基本無視するので止めようがない───なんだこの暴走列車。
結果として本来の2章と5章を急遽くっつけることに…。書き溜め力× 執筆体力× の人間がそんな事をすればどうなるか、はい、脅威の予定話から50話オーバーでしたね、たはは…。
あ、ちなみに3章はエデン条約です。