喜びとは目的を暖め続け、知性を輝かせ続ける神聖な炎である。 作:Alphecca
目を開くと、まず視界に映ったのは白い天井だった。
僅かに鼻を衝く消毒液のにおいと、右腕に違和感。白く飾り気のない硬いベッドと、重たい上掛け。
全身に倦怠感。指先や首を僅かに動かすことすら億劫。
まるで、一気に数十歳ほど年を取ったかのようだ。ヒトは死ぬと老人になるのだろうか。
死後の世界にしては夢の無い景色だ。もう少しこう、幻想的な地獄めいた何かを期待していなかったと言えば嘘になる。
耳はどこか遠くから聴こえてくる、人の活動する音を僅かにとらえている。ばたばたと歩き去る音、話し声や誰かを呼び掛ける音、スピーカーから流れる呼び出し放送や、紙を捲る音やペンで書き込む音。そう言った色々を。
だから、そこが例えば天国とか地獄とかあの世とか、そう言った呼び方をされる死後の世界ではないことを、男は次第にじんわりと察し始めた。
ここはおそらく病院だ。それも診療所などの小規模なそれではなく、大病院と呼ばれる類の施設。
なぜその一室に自分がいま横たえられているのか、思考が散らかる。
かつてレユニオンであった男は、己の自業自得によって死亡した。そのはずだった。
喉が渇いて張り付いているようで、水が飲みたかった。意識は覚醒しているが、思考は混濁している。
すぐ脇から聴こえてくるパルス音は、自分の心音だろうか。
ぴ、ぴ、と規則正しく発せられる電子音が時計の秒針のように時間の流れを自覚させるたび、自らの瞼が一度、また一度と瞬き運動を行うたび、男は一つ一つ散乱した記憶を拾い集めていった。
源石病の発作が悪化した仲間たち。
苦し気なうめき声と、死体の処理すら満足に行えないアジトの饐えた空気。空気に混じって日の光を反射し輝く活性源石の粉塵。
迫る未来に沈む仲間たちの表情。
やむを得ず計画した襲撃計画。レユニオンを壊滅に追い込んだ企業の輸送団を襲い薬を奪うという企てには、多くの仲間たちが賛同した。
何週間ぶりか、希望と闘志に溢れる仲間たちの表情。
男だけが知っていた。彼らを束ねていた男だけが。
かつてあの時、チェルノボーグ事変の只中に居て全てを見ていた彼だけが。
ロドス・アイランドの輸送団をを襲撃するというその計画が、絶対に成功しないであろうことを知っていた。
「む、起きたか。調子はどうだ?」
自動扉が静かに音を立てて開き、ベッドの足元から掛けられた女の声。
白衣を着た白髪の女性は、角こそないが恐らくサルカズだ。倦怠感の残る眼球を動かして、乾いて張り付いた唇を引きはがし、男は目覚めてから初めて声を発する。
「──なぜ、俺は生きている?」
「喋れるか。意識の混濁はなく術後の経過良好と……お前、その問いが出るということは自らの状況を把握できているようだな」
カルテらしきものにすらすらと書きつけながら、胸元にロドス・アイランドのエンブレムが入った白衣姿の女は静かに問いかけた。
男が頷くと、「我らがそうそう人殺しを許容するわけがなかろう」と簡潔な答えが返ってくる。
確かに、と変な納得があった。医者の集まりが自分たちから積極的に人殺しをして回っているなど、本末転倒も良いところだ。自分たちが死ななかったのは、相手がロドスだったから。
「オペレーター・エイヤフィヤトラによって“鎮圧”が完了した後、ロドスはそなたらを本艦へと搬送しけがの治療と……鉱石病の急性発作を起こしていた者には治療も行った。
その後そなたらの持ち物から情報を集めてアジトも特定し、アーミヤCEOの作戦主導のもとそちらの病人も全員回収しケルシー医師が処置した。危ない者も数人おったが、今はそなたも含め全員の容態が安定している。
目を覚ましたのは、そなたが最後だ」
ベッドの脇の椅子に腰かけて足を組み、カルテへの記入を続けながら医者は淡々と説明を続ける。
ロドスを襲い、ロドスに負け、ロドスに命を救われて此処に居る。
そんな情けない事実も、何でもない日常茶飯事のように告げられれば不思議と何の感情も沸いては来なかった。怒りも悲しみも、もう。
或いは、初めから自分はこの結末を頭の何処かで予期していたのだろうか。
成功するわけの無い作戦を承認し、仲間たちが希望に湧く様子を黙って見届けた。自ら作戦指揮に名乗りを上げ、戦場に出て戦った。
意味のない行動だった。仲間たちを纏めて死地へ追いやる判断だったと言い換えてもいい。
吐き出した息が自分で思っていたよりもずっと深く、重苦しく響く。
「俺たちは、これからどうなるんだ」
大きな窓が開け放たれ、暖かな陽光と初冬の風がレースのカーテンを揺らしている。
ここ数年で経験してきたどんな景色よりも長閑なそれが、酷く自分には場違いなように感じる。戦場や、痛み。絶望、怒り、そういったどろどろと熱く苦しい感情ばかりが、ずっと自分たちの足元に絡みついていた。
男はぼんやりと窓の外を見つめながら、独り言ちるように尋ねた。
「あん? 『どうなる』とは何だ?」
「レユニオンの残党が、お前たちを襲撃して医療品を掠奪しようとした。お前たちはひとの命を救う企業だから、俺は死ななかった。だが、その後は?」
鉱石病に冒された仲間たちは満足な治療も受けられず、暮らす環境は過酷だ。死した仲間は粉塵となって残った者を感染させていく。あのままでは時を待たずとも、皆が鉱石病の急性発作で死んでいただろう。
薬を求めてロドスを襲えど、彼らの戦力では到底敵わない。ロドスは薬品企業を銘打っているが、その実態はPMCにも近い。寄せ集めに武器を持たせただけの者らがどうこうできる相手では、初めからないのだ。
男は窓の外を見ながら話す。その口調はひどく褪めていて、己の語る言葉にすら関心が無いようだ。
かつて彼らを導いていたレユニオンの闘士は、もう居ない。標となる大火を失った暴徒たちは熱を失い、今や荒野を彷徨い死を待つ褪せた幽鬼でしかない。
そんなものを助けて何とすると、男は問うた。
「俺達は皆罪人だ。ここにいつまでも置いておくわけにはいかないだろう。
どの国に帰属するわけでもなく、何処の法で裁かせることもできない。荒野に放り出せば、皆いずれ死ぬ。
俺は……あの作戦で死ぬべきだった。お前たちがいっときの偽善を振るったところで、ただ苦しむ時間が伸びただけじゃないのか」
なぜ、あのまま死なせてくれなかったのか。
「……」
紅い瞳の医師は言葉を紡がず、男が見ているのと同じように窓の外を見た。
カルテに書き込む手を暫し止め、眉をしかめて口を開こうとし……そして、閉じた。
数舜、時が流れる。何かを思い出すような沈黙と、軽い吐息。
ワルファリン医師は表情を和らげ、微笑んでもういちど口を開く。
「辛かったろう」
「我らは皆、そうして世界を怨み、痛み死んでいった鉱石病患者たちの声を知っている。
そなたらがこれからどう生きるか、それは妾にも分からん。だが今は少なくとも、それを考えねばならぬほどそなたらは逼迫して居らぬ。
身体を休め、疵を治し、悲観の晴れた頭で改めて考えよ」
声は柔らかく、穏やかで、そして静かだった。医師らしく淡々としており、人間らしく思いやりに満ちていた。およそ、鉱石病患者である彼らがその身に受けてきたような言葉と心ではなかった。
「そのための平穏な時間と場所が、このロドスがそなたらに渡す最初の治療なのだ」
男は目を閉じた。
酷い世界だ。
チェルノボーグで。いや、もっとずっと前から様々な場所で差別と迫害を受け続け、恐怖のまなざしを向けられ、世界の全ては己の敵であったと信じるには十分すぎる扱いを受けてきた。
だからこそ、家族を連れてレユニオンに入り、感染者の無念を晴らすためと信じて戦い続けてきた。非道なことも、自分たちが受けてきた痛みの報復だと己の心に言い聞かせ、必要なことはすべてやって来た。
果てに標であったタルラは消え、お前たちのやって来たことは全て間違いだと否定され、何もかもを失い、そして。
最後の最後、疲弊と諦観の末に辿り着いた死に場所であったはずなのに。
なぜ。
ワルファリン医師は横たわる男を、言葉を発さずただ見守っている。
ただそれだけの優しさですら、男には膿んだ傷を洗う消毒液のように沁みるようだ。
カルテに書き込み続けるペンの音。
どこかで笑う人々の話し声。
ぱたぱたと小走りに何処かへと急ぐスリッパの音。
暖かな食事を喜ぶ子供たちの声。
ただいまとおかえりを言うための場所。
痛みを、ただ痛みとして感じていてよい時間。
それが、平和という、男が本当にただ求めていたひとつだけのものであったのに。
「そして、もう一つ。繋げてやったから受け取れ。“そなたの生きる意味”をな」
病室の扉が開く音がする。ベッドの脇に駆け寄る足音。今にも泣きだしそうな子供の声。
「パパ!」
駆け寄ってきてベッドの脇に縋り、男の身体に抱き着く小さな子供は。
死んだ妻が命を懸けて護った、ただ一人の宝。
鉱石病に罹り死にかけていた、男の希望だった。
男の閉じた目尻から、一筋涙がこぼれた。
「──」
抱きしめ合って涙する二人を見、ワルファリンはひとり思いを馳せる。
かつてのドクターがたった一人で背負い続けていたものを。こんなものを、何十人分、何百人分、何千人分。もし自分が同じ立場であったとして、耐えられただろうか。
過った思考に意味はない。彼女は立ち上がる。どっさりと増えた患者たちの書類を纏めなければ。
部屋から出ていき際に、ワルファリン医師はふと振り返り、ベッドに横たわる男へと顔を向けた。
その問いかけは謎掛けのように唐突で、けれどその解はひどく簡単なものであった。
「……そういえば、これはちょっとしたたとえ話というか、おとぎ話じみた思考実験だがな。
もし、鉱石病の治療法が見つかるまで何百年でも死なず、眠り続けることで待つことができる技術があったとして。
例え今この人生で得た人や社会とのつながりを棄ててでも、そなたはそれを使い、病からの脱却を望み、新たなる生を望むか?」
男は傍に寄り添う子の頭を撫でながら、医者の口にした言葉の意味を僅かに考える様子を見せた。
しかし、そう間を置かずに僅か微笑み、言葉を返す。
「……それは」
「いや、要らないよ」
「だが、もしそんな道が本当にあって、それを示してもらえたなら。
私はその技術を生み出したひとに、礼を言うだろう。『選ばせてくれて、ありがとう』と」
医者の口元に笑みが浮かび、去り行く足音を残して扉は締まった。
「……そうか。興味深い回答であった。感謝するよ」
目を開ける。
どこか遠くで、目覚ましの音。枕の脇に置いた端末が鳴らすそれを指で触れて、スヌーズを解除。
そのままゆっくりと腕を伸ばし、サイドボードに置いてある眼鏡を手に取って耳に掛ける。
窓から朝日が射しこんでいる。昨日洗濯したばかりの布団の香りが心地よくて、口元が緩む。
──ああ、今日も大丈夫。ちゃんと見える。
ベッドから上半身を起こして、縁に腰かけ端末を手に取ってからトークアプリを起動。
“ニムロッド”と名付けられたそれは、ドクターの発案で開発されたロドス社内用のトークツールだ。
アプリケーションはロドス本艦内でならネットワークに接続されていて、何処に居ても誰とでも自由にチャンネルを作成し、テキストと音声のどちらかで会話することができる。
また、端末のバイブレーション機能と言語を連動させて振動のパターンを暗記しておけば、簡単なメッセージを手から伝わる振動のみで受け取ることも可能だった。
それはロドス内に少数だが存在する患者……視覚や聴覚を鉱石病に冒された者たちのストレスを軽減するための機能だ。
これは単純なトークアプリとしてや、最低限の保守性を担保されたワークツールとしても利用され、今やロドス職員ならインストールしていない者はいないほどの評価を受けている。
ロドスのオペレーター、エイヤフィヤトラもこのアプリの恩恵を受ける者の一人だ。
彼女はドクターとの個人的な会話チャンネルを開き、テキストボックスに文字を入力しはじめた……まだ、彼女はこのアプリに搭載されたバイブレーション・メッセージ機能を利用する必要はない。
『おはようございます、先輩』
『ohayo』
きっと、寝起きで変換を間違えたのだろう。しばらく後にきちんと『おはよう』と修正された文面を見て、ひとりの部屋に控えめな笑い声が響く。
ベッドがから起き上がり、朝の支度。顔を洗い、歯を磨き、軽く食事をして服を着替え……そんな中でも、合間を見つけてはぽつぽつと会話が続く。
『先輩、今日のご予定はどうですか?』
『午前からケルシーに呼び出し食らってる……ドロシーと一緒に怒られてくる』
『また何かやっちゃったんですか? ドロシー博士も』
『そこまでのことではないよ。詳しくは話せないけど、新しいオペレーターの入職手続きをふたりでちょっと強引に進めてたのがバレただけで』
『えぇ~……それじゃあ、午後は?』
『夜は早めに終われる。大丈夫だよ、パーティには俺も顔を出すから』
『ほんとですか? ドロシー博士も?』
『勿論。何が何でも間に合わせるんだからって、凄い勢いで仕事片付けてた』
『やった! 楽しみにお待ちしてますね』
『目の調子はどう?』
『大丈夫です。いつもありがとうございます』
『よかった。今日も頑張ろう』
気の抜けた効果音といっしょに、やたらと可愛らしくデフォルメされたクロージャがサムズアップしているイラストのスタンプが表示される。このアプリケーションに実装されている絵文字は現状これだけだったが、ドクターは割とこのスタンプを愛用する。気に入っているのだろうか?
仕度を終えたエイヤフィヤトラは一人きりの部屋で微笑むと、端末を胸元にそっと抱きしめた。
ドクターは彼女に、以前よりも少しだけプライベートな感情や悩みを打ち明けるようになった。
彼が仕事に関わる機密を漏らすようなことは無いし、エイヤフィヤトラからも尋ねることも当然しない。
だがそれ以外の、今まで男がひとりで背負い続けてきた痛みを、いまは二人で分け合って過ごしている。誰かが死に、誰かが苦しみ、誰かが恨み、誰かが泣いている。
そういう、テラに当たり前のように満ちている苦しみを。
エイヤフィヤトラの病状は、あれから一段と悪化した。
己の限界を超えたオリジニウムアーツの加重行使に、一時は不可解な超高負荷アーツの発現。『エイヤフィヤトラの頭の上に王冠を見た』というアンジェリーナの言もあり、ドクターは暫く彼女が集中治療室を出ることを許してくれなかった。
今は、もう外界の音は殆ど聴こえない。静かな場所で耳に唇がくっつくほど近くから話し掛けられて、彼女はようやく相手の話している言葉が判別できる。
元々習得した読唇術のお陰もあり、彼女は補聴器に頼ることをやめた。自分の声が聴こえないので、発声のイントネーションも狂い始めている。いずれは他者との会話そのものが難しくなるだろう。
眼も、視界の端が縁取られるように白くぼやけた状態。それが慢性化し、これからその症状が少しずつ進行していき、やがて失明するだろうとのことだ。
だが、エイヤフィヤトラは生還した。あのクルビアでの夜から生きて帰り、自立した生活が可能な程度には快復していた。
ドクターは毎朝、エイヤフィヤトラに同じ質問をする。『目の調子はどう?』と。
彼女は今のところ、同じ応えを返し続けていた。
ロドス・アイランドへの出勤路を歩く。
悪化の兆しの無い健康診断の結果を見て喜んでいた時のことが、今では遥か昔のことに感じられた。あの日、診察室に射しこんでいた暖かな陽の光と、いま艦の街路に射しかける午前の光は何一つ変わらないように見えるのに。
エイヤフィヤトラの世界は静かだ。行き交う職員や患者たちの話し声や笑い声も、彼女の耳にはもう届かないから。かつての彼女なら、それをひどく悲しみ恐怖したかもしれない。
顔見知りの職員がすれ違いざまにこちらへと笑顔を向け、挨拶した。『おはようエイヤ』と動く唇の動きを読んで、彼女は笑顔と挨拶を返した。
その職員の声を、エイヤフィヤトラはまだきちんと憶えている。
ドロシー・フランクスとドクターには、ロドスの規律のいくつかを大きく踏み越えたとして責任を問うべきとの声が挙がった。
二人の間で行われた、倫理的に問題があるとされる人体実験の数々。
ドロシー博士の伝達物質を再び暴走させ、居住域でないとはいえクルビアの地で大規模な戦闘行為を行ったこと。
彼らの行いによって頓挫せざるを得なくなったいくつかのプロジェクトが遺した、膨大な負債。
そして、ロドス在籍オペレーター数名に重軽傷を負わせたこと。などなど……。
エリート・オペレーター全員を含むロドス幹部を招集した討論会が開かれ、今回の事件における二人の処遇を決める裁決が執られた。
ドクターは今回の件の責任を取るとして、現ポストからの辞任を申し出ていた。ドロシー博士についても同様だ。だが、二人の辞表は受理されなかった。二人の処遇についてはその一切を幹部会の決断に委任させるという決定がまず為され、実質それが彼ら二人への“罰”ということになった。
というのも、実はここ数週間のロドスは医療部門を除き実質的なストライキ状態にあった。
常駐、非常駐問わず全てのロドス在籍オペレーターが署名した嘆願書が総務に提出された。その内容は『ドクターの退陣と同時に、以下に署名したオペレーター全員の退職手続きを受理せよ』というもの。
用紙数十枚にも及ぶ署名の束を見、幹部会に出席していたアーミヤとケルシーは驚愕に目を見開いた。
『ドクター以外の下で働くつもりはない。ドクターが辞めるなら自分も辞める』という声が実に三百以上、驚くべき早さでロドスの頭脳らの許へと届けられたのだ。流石のケルシーも、この報せには持っていたペンを取り落とした。
「この署名欄……一部のエリート・オペレーターの皆さんのものもありますね」
驚きつつ書類に目を通していたアーミヤは、会議室のテーブルに目を向ける。頭の後ろに手をやってそっぽを向くブレイズと、首をかしげるロスモンティスの姿があった。
「事実として、今のロドスにドクターは無くてはならない存在だ。“彼女”が自らの理念を託した存在であるという以上に、彼の能力がロドスに齎してきたものは余りにも大きい。この嘆願書も、その証左であると言えるな」
「だが、彼がロドスの進むべき道を違えそうになったことも事実だ。それに対する処分がなにもないままでは、組織として示しがつかない。それに彼は、既に一度最悪の形で我々の信頼を裏切っている」
あるオペレーターの言葉が、会議室ににわか薄影を落とした。
その場の誰もが、昔日を脳裏にありありと蘇らせる。始まりの地たるカズデルから今まで、自らが所属する組織の在り方を大きく変えることになった出来事を。
沈黙が落ちかけた部屋に、柔らかくも決然とした声が響いた。
「私は。私とケルシー先生は、彼の計画をロドスの正式なプロジェクトとして一度は承認しました。鉱石病による犠牲者を減らすことができる新たな医療技術は、正しく私たちが求めてやまなかったものの一つです。
ドクターは、自らのしたことを過ちとしました。が、私は彼とフランクス博士の夢が根本から間違いであったとは、今も思っていません」
アーミヤが穏やかに紡ぐ言葉を、一同が傾聴する。彼女はヴィクトリアからこちら数年、ますますその言動に落ち着きとある種の風格を纏うようになっていた。
「病に沢山の種類があり、同じだけの治し方があるように。私たちヒトは、自分にとって何が幸せであるのかを自ら決める権利を持ちます。ドクターとフランクス博士の考え方を真の幸せとしない人がいるように、未来へ一縷の望みをかけることこそが唯一の希望であり幸せである人も、また何処かにいるでしょう。
今回のことでロドスが被る損害など、ドクターたちが見出した技術の芽の価値とは比べるべくもありません。彼らが傷つけた人々は、こうして一も二もなく彼を赦し、彼を守ろうとしています」
アーミヤは皆に嘆願書の表面を示して見せた。署名欄の先頭には、あの日ドクターやドロシーと相対した三名のオペレーター達の署名があった。
彼女は微笑む。大切そうに嘆願書を胸に抱え、皆に語り掛ける。
「私たちにはできなかったことです。ドクターを……彼を、このテラの一員として迎え入れること。私にも、ケルシー先生にも、バベルからの思い出を抱え続ける、皆にも。
これはドクター自身が紡いできた絆の証です。このロドスにはもうこんなにも、彼を過去のしがらみ抜きで認め、愛してくれる人々がいるんです。
私たちももういい加減、ドクターを使い古しの色眼鏡から解放してあげるべきです。あの人はもう“かつてバベルを裏切ったドクター”ではありません。今回の彼の行いは“テラのドクターとして”、真にロドスのこと、感染者たちのことを思っての結果だと、私は信じます」
それに、とロドス・アイランド製薬CEOは眉を下げて苦笑し、端正な耳をゆらりと揺らした。
「一気に三百人ものオペレーターさんたちに辞められてしまっては、ドクターの処分云々以前に経営が成り立たなくなってしまいます……」
エイヤフィヤトラは、職場へ向かって通勤路を歩き続ける。
ドロシー・フランクス博士は何度かの査問を経て、引き続き第五研究区画の主任として働き続けることになった。
スマラグドス計画に関するいくつかのプロジェクトは、充分な治験データが“人道に基づいた適切な方法で”収集されるまで無期凍結という処理がなされた。サイレンス率いるクルビア化学倫理共同宣言の審査の許で下された決断だ。
研究内容そのものが非常に特殊な価値を持つものであったことと、その場に居合わせた者たち全員が伝達物質の暴走は偶然が重なったことによる事故であったと主張したことも、彼女に処分が下らなかった理由の一つだ。
そんなドロシー博士だが、少し前にライン生命のアーツ応用課主任という地位を再び与えられたとのことで、今は名実共にライン生命とロドスの友好的な関係の象徴として研究に励んでいるようだった。
エイヤフィヤトラは彼女とも仲良しだ。ドロシー・フランクスはいざ付き合ってみると意外なほどに……言葉良く言えば自分の私生活を蔑ろにしがちで、世話の焼ける姉ができたような心地になることがある。
以前、なぜか楽し気に彼女の愚痴をこぼしていたアステジーニの気持ちが理解できたような気がした。彼女と違う点と言えば……ドロシーは、エイヤフィヤトラの恋敵でもある、ということで。
平然と食事を抜いたり睡眠時間を削ったりしている彼女はやっぱりドクターと似た者同士のようで、たまに少々妬けてしまうような距離感で話していることも、ある。
意を決して彼との関係を尋ねたエイヤフィヤトラに『ドクターには振られちゃった』と苦笑しながらあっさり零していた彼女だが、それはそれ。
相変わらず女性として魅力的が過ぎる上にドクターとの接点も多いドロシーは(多分彼女は自覚していないけれど)優先警戒対象、なのである。
閑話休題。ここまでが、あの荒野での夜から現在までの一か月と少しで起きたこと。
大分冷え込むようになった朝の風が髪を揺らし首元を冷やしたので、エイヤフィヤトラは軽く身震いし、防寒具代わりに身に付けてきたショールを襟の上まで押し上げた。
クルビア、トリマウンツ近郊は冬も深まってきて、そろそろ一年も区切りが近い頃合いだ。テラの中には一年を通して気候が変化しない土地も多いが、ここでは比較的に四季の変化を感じることができた。
メインシャフトの昇降機で居住区から研究区画へと移動したあたりから、通勤路は屋外から屋内へとその様相を変えていった。こちらは艦がどこにいても、何月でも景色はいつも通り、変わりはない。それもそれで安心感があって、エイヤフィヤトラは好きだった。
けれどやっぱり少し肌寒いかも? などと考えつつ、事務室があるエリアへ移動する。
途中通りかかる売店で飲み物を買い、すれ違う職員とあいさつを交わしながら自動扉のリーダーに社員証をかざして認証を受け、検疫スキャンゲートを潜り、扉を押し開けてオフィスに入り、出勤登録をする。
「おはようございます」
挨拶をすると、アーススピリット先輩が顔を上げて軽く微笑んだ。
『おはよう、エイヤ。あなたにお客さんよ』
「え、私に? こんな朝から……もしかして待たせちゃってます?」
『問題ない。アポも無しに訪ねているのはこちらだ』
顔を青くしたエイヤフィヤトラに応答が返された。良く通る少し低めの声ははきはきとしていて、今の彼女の耳でも薄らとその声色を聞き分けることができる。
奥のソファから立ち上がる、黒緋の角と軽銀色の髪。ガーネットの瞳は鋭く切れ長で、引き結んだ唇からは厳格な軍人のような印象を受ける。
女性ながら相対するだけでも軽い威圧感を与えるそのヴイーヴルに、しかしエイヤフィヤトラは気さくに笑いかけて挨拶をした。
「サリアさん~! ちょっと待ってくださいね。いま荷物を置いてきちゃいますから」
『急がなくていい。ここで待っている』
サリアは表情を変えずにそう言い、ソファに姿勢良く座りなおした。
「──ロドス・ライン合同カンファレンスでの君の発表は、生態課や科学調査課、エネルギー課の研究者の興味を大いに惹いたとのことだ。ああいった場での発表は初めてと聞いたが、本当なのか? それにしては随分と堂に入る態度だった」
「あはは……サリアさんにそういった印象を持ってもらえたなら、私も自信が付きます」
少々特徴的なイントネーションで話す眼前の研究者は、そう言うと眉を下げて苦笑した。
腰かけたソファの上で恥ずかしそうに微笑むキャプリニーの女性を見ていると、数日前に行われた合同学会の質疑応答時間中、若手からベテランまで大勢いる専門家たちが投げかけた多岐に渡る質問を悩む素振りもなく完璧に捌き切って見せた人物と同じとはとても思えない。
質疑応答時間が終わった時の静寂を、サリアは未だに思い出す。
かつてはライン生命の警備主任として勤めていた身だ。ああいう場の空気は嫌でも読めるようになる。
前提として、カンファレンスのような研究職の人間が集まって意見交換をする場では、個人の感情は徹底的に排除される。
相手がどれだけ若かろうが打たれ弱かろうが、立場が高かろうが低かろうが関係ない。甘い論理やデータには容赦なくその道の“本職”を自負する研究者たちから指摘が飛び、壇上で発表する者を徹底的に袋叩きにして、彼らが心血注いで作り上げた研究成果を論理的に否定し、解体する。
誰もが若手を毛嫌いしている、ということもなくて、そういう空気を吸って育ってきた者たちで、それ以外のやり取りの仕方を知らないのだ。
やがて世に出る技術の、その嬰児を見つめる場所で個々人の人格や感情などといった些事に構ってはいられない、という暗黙の了解が其処には在る。そういうある種の厳格さは、全員が共通認識として持ち合わせている。
が、それでも。
それでも、その場にいる誰もが、エイヤフィヤトラという若い学者のことを侮っていた。
ロドスの私兵を兼業するような科学者が、稚拙な論文を振りかざし、クルビアの重鎮たちに質問攻めにあい、反論や説明の一つもできなくなるまで委縮させられ、泣きながら退場するのだろうと。
サリアは早々にそういった空気を感じ取り、人知れず鼻を鳴らした。
クルビアでの一件を越えて快復した彼女が、周りが薦めた数か月の休暇も辞退していの一番に始めたこと。
“まずは”、地質学者としての自分を世界に認めさせること。
この場は、彼女のそんな大きな一歩の踏み台として、むしろ役不足なくらいだった。
いざ発表が始まってしまえば、場の支配権は常に彼女にあった。
狂気的なまでのデータ量と知識量に充てられて呆然とするライン生命の若手たち。初めは理性的だった質問が次第に意地悪な、重箱の隅をつつくようなそれになっても、まるでそれを初めから予期していたかのように回答が用意されている。
ベテランすら目を丸くして時を忘れ、結局終始沈黙していたドクターが立ち上がって割れんばかりの拍手を始めるまで、会場は水を打ったような静けさだった。
エイヤフィヤトラの火山と源石に関する研究は、完全にその場を掌握していた。火口から噴出するマグマの奥底。ドゥリンたちの地下王国すら越えて、このテラの中心部を満たすマントルと地底遺跡、そして源石の動きに皆が思いを馳せた。
そこには原始的な恐怖があった。
ヒトがあまた持つ源石への恐怖を、彼女の研究は浮き彫りにする。その上で彼女は希望を語った。
『ヒトはその身に恐怖を抱え、しかしそれを自ら克己することを得意とする生き物である』。
彼女自身が重篤な鉱石病患者であり、その命すら危ぶまれるような状態にあるにもかかわらずだ。彼女は己の裡に拡がる恐怖を、すでに手懐けていたのだ。
サリアは暖かいコーヒーの入ったマグを、机の上にゆっくりと下ろす。
彼女は他者への感情をあまり表情や態度に表すタイプではない。しかし今、その瞳には敬意が含まれていた。
「お前は間違いなく、ロドスに於いてドクターに次ぐ研究者の一人たり得る証を示して見せた。既にライン生命内の複数の課で、アデル・ナウマンの論文を先行研究としたプロジェクトを立ち上げる案があるらしい。
お前の論文のシニアオーサーになりたいと名乗りを上げる次期主任クラスの研究者も居ると聞く。ライン生命と関わりのある企業の中には、研究に出資したいと希望するものもあるようだ。
今日私がここを訪ねたのは、そういった成果をお前に伝えておくためだ。エイヤフィヤトラ、お前がクルビアの研究者達に齎した影響は、今は部分的でこそあるが確実に……」
サリアの話を頷きながら聞くエイヤフィヤトラは、しかしその知らせにあまり感情を波立ててはいないように見えた。揃えた膝の上に手を置き、ローズグレイの視線をサリアの唇に固定して何かを考えている。
事務室の職員達が手を動かす音や、外回りのトランスポーター達が入退室する音がまばらに響いている。
アーススピリットとプロヴァンスが会話する声が聴こえてきて、エイヤフィヤトラのデスクにクリップで留めた紙の資料を置き、自らのデスクに戻る。
複合機がのんびりと用紙を吐き出している。
「……落ち着いているんだな」
「えっ、そう見えます?」
視線を上げてこちらを見つめ、驚いたように目を丸くするエイヤフィヤトラにサリアは頷きかえした。
「ああ。ライン生命は確かに手放しで信用のおける企業ではない。しかしそれはあくまでも私やオリヴィア、そしてクリステンとの間にあった問題だ。いち研究者として、もう少し誇ってもよい事だと思うが」
「いえあの、私すごく嬉しいんです。私の研究がクルビアで注目されて、そこから火山と源石の関係に対する知識が広まって、将来的に少しでも鉱石病患者に対する差別や偏見が少なくなれば、それはとても素晴らしいことですから。
でもまだ、全然足りなくて」
「足りない?」
「はい。全然」
言葉から想像するに、名誉や脚光を浴びる機会をもっと欲しているということか?
この研究者は、想像していた人物像とは少し違うのか? と、サリアは内心で呟いた。その疑問を、今は素直に口に出してみることにする。なんとなく、自分が軽い勘違いをしているような予感があった。
「少し意外だったな。お前がそこまで成果主義者だったとは。無論、まっとうな手段で追い求めるのであればそれも否定しないし、研究者らしいとも思うが」
そして、その予想は的中していた。
しかしてその返答は、サリアの想像を遙かに越えるものだった。
「あ、いえそういうのではなくて……私が注目されるかどうかとか、脚光を浴びるのがどうかは全然問題じゃないんです」
「なら、お前の言う『足りない』とは何だ?」
「私には、普通の人よりも短い時間しか遺されていません。
でもその短い時間の中でやりたいことを精一杯やりきって、幸せだったって確信できるような死に方をするって、先輩に約束したんです。
鉱石病患者の幸せはその命を長らえることだけが本質じゃないってことを、私の人生をかけて先輩に証明してみせるんです。でも私、まだたったの一つしかやりたいことができてないので。
こんなところで、満足するわけにはいきませんっ!」
「……」
数日前の学会のように、今度はサリアが沈黙させられる番だった。
それは、一種の狂気だ。
エイヤフィヤトラは、研究者としては勿論並外れて優秀だった。しかし彼女の本当の目的は研究者としての本懐を遂げるところに留まりはしていない。
目の前の女性は、一人の男のために己の短いいのちで幸福を体現しようとしている。
ヒトが数十年をかけてたどり着く大悟の境地を、数年で得て見せようという。己の立つ学術という分野において成したいこと、成せることを全て成し、悔いなく死ぬ。
それが彼女の言う“先輩”を救う術であると、彼女は真剣な表情で言った。彼女にとっては最早地質学も、源石研究も、自らの人生そのものを研究成果とした大きな一つのプロジェクトが包括する一要素でしかない。
彼女はまだ若い。しかして彼女に残された時間は、サリアよりもよほど少ない。
だから、彼女は純粋ながらに老成していている。
彼女は、答えの一端を得ている。
己の人生を、アデル・ナウマンは既に見据えることができている。
彼女の優秀さの本質を垣間見せられて、そして。
「成程。そういうことか」
ひとりのヴイーヴルは納得して頷き、めったに見せない微笑を浮かべて目の前の研究者に手を差し出し、握手を求めた。
「Dr.ナウマン。貴女に敬意を表する。
その偉大な愛が成就することを、影ながら祈らせてもらう」
「ど、ドク……! はいっ、頑張ります!」
僅かにたじろいだ彼女だったが、今度は謙遜することなくサリアの賛辞を真っ直ぐに受け取った。
「ああそれと、遅ればせながら──」
▼△
「「はぁ゛~間に合った~~……」」
ロドスの大食堂に、疲れ切ってガラガラに掠れた死人のような声が二人分転がった。
普段は時間を問わず食事をとったり単に休憩したりする職員達で賑わっているこの広い空間だが、今日はことさらに楽しげな話し声や笑い声でごった返している。
施設の照明や壁面は色とりどりの飾り付けでデコレーションされていた。市販されているモールやリボン、ジャック・オ・ランタンやデフォルメされたスケルトンのフィギュア。オレンジ色や黄色、黒を基調としたさまざまな飾りの中には、ロドスで治療を受ける鉱石病の子供達が作ったのであろう、手作りのリースや色紙のループリボンもちらほら。
所々に置かれている小さなかごの中には、キャンディーやチョコレートなど個包装のお菓子が山と積まれており、通りがかる職員達が時折自由につまんでいる。
部屋の入り口近くには“ハッピーバースデイ エイヤフィヤトラ!”と可愛らしい飾り看板がでかでかと掲げられている。近くでは普段よりも少しだけおめかしをしたエイヤフィヤトラが、沢山のオペレーターとスタッフに囲まれて嬉しげに、少し困ったように頬を上気させている。
今日はロドスの総務が主催するハロウィンのミニパーティ。皆普段の業務の疲れや重圧、オペレーターたちも作戦の緊迫から一時解放され、思い思いに食事や談笑を楽しんでいる。最近誕生日を迎え、自ら執筆した論文がクルビアの学会で素晴らしい成果を挙げたオペレーターのお祝い会も兼ねていた。
中にはハロウィンらしい仮装をして訪れるものもおり、集まった者で記念撮影をしたりと楽しげな雰囲気が漂っていた、のだが。
そんな中、開始からすこしだけ遅れて到着したドクターとドロシーは、仮想もメイクも必要ないほどにゾンビッシュな顔色で目の下に巨大なクマをこさえ、テーブルに突っ伏していた。
「ドロシー……俺達、やり遂げたな……」
「ええ……もう悔いは無いわ……ああ、原っぱの向こうでお母さんが手を振ってる──」
「何だあれ、こわ」
「今日のパーティに参加するために四徹で業務をフル回転させたらしいぞ」
「ロドス随一のやんちゃ天才児コンビが……? 俺この職場好きだけど、管理職にだけは絶対になりたくないよ」
「違いない、ハハ」
一般職員達が笑い合いながら通り過ぎていく。後には安らかな顔でのこされる二つの死体が──。
「ウワーッちょっとふたりとも満足そうな顔で昇天しないでよ!? 起きて! アンデッドは仮装だけにしてーッ!!」
偶然通りかかったアンジェリーナに発見されて理性剤とカフェインを持ってこさせ、なんとか一命を取り留めたのだった。
「いやあ助かったよアンジェリーナ。ドロシーとふたりでなんとか定時上がりできるくらいに仕事を片付けた……までは良かったんだが、正直足下がおぼつかなくて。
ケルシーがカニカニポンプの説明を三時間以上真顔で続ける夢を見ながら、ここまで歩いてきたんだ。」
「そんな悪夢を見るような極限状態でカフェインと変なお薬摂取してけろっと回復しないで!?」
「でも、折角のパーティでしょ? 何より今日はエフィちゃんのお誕生日会も兼ねてるし。私はともかく、ドクターは絶対直接会ってお祝いしてあげなきゃいけないわ。
だから頑張ってお手伝いしたの! 久々にお母さんの顔も見られたし、結果オーライよね」
「ドロシー博士もちょっと里帰り、みたいなノリで臨死体験しないでよ!?」
あきれ果てて突っ込みが止まらないアンジェリーナをよそにニコニコとしているドロシーと、「おっあっちでスズランとシャマレが仮装してる。愛らしいなあ」と完全に他人事のドクター。
普段、この二人の終末的な生活習慣をどうにか改善させようと奮闘しているエイヤフィヤトラとアステジーニの心労が知れるというものだった。少なくともアンジェリーナには無理である。ぜったい。
ふたりはあれから、良い仕事仲間かつ親友として良好な関係を続けているらしい。
タッグを組めば社内に敵う者が居ないほどの天才でありながら、度々“ちょっとした”問題を起こしてはその度ケルシーかアーミヤに叱られている。
ただドクターとドロシーがやらかすトラブルはいつも最終的にロドスにとって利益になることばかりのようで、アンジェリーナには細かないきさつこそ分からないものの、ケルシーのお説教が毎回お説教のままで済んでいることを鑑みるに、おそらくそういうことなのだろう。
アンジェリーナが察した、ドロシーの想いの結末がどうなったのか。
その答えは、ドクターの彼女への態度を見ればおのずと察せてしまう。或いは、エイヤフィヤトラに見せる表情や仕草を見ればより残酷に。
だが、ふたりはそんなことをおくびにも出さない。特にドロシー博士は、以前よりもずっと自然な笑顔が増えたような感すらあった。
彼女は以前ほど、“何かを護る”ことに偏執的ではなくなった。勿論生来の気質としてそういう性格ががらりと変わってしまったわけではないけれど。
相変わらず弱者に対して過保護で、見ているこちらがどきどきしてしまうほどに自己犠牲的で、そういうヒトだ。けれど、以前ほどそういう姿に真に迫った危うさや妖しさは感じられなくなった。
彼女は自らが推し進めたスマラグドスに関して、今後仮にプロジェクトが再始動することがあっても自分はその研究には参加せず、これまでの研究成果とその所有権も全てケルシーに譲渡すると主張した。
この主張にドクターも同調。何度かの会議の末にケルシーはそれを受理し、いま彼の研究はロドスの医療部門トップのデスクの中で静かに眠っている。
アンジェリーナは知らない。彼女が己の中で、その気持ちにどういった落としどころを見たのか。
けれど、少なくとも。
「あ。あっちでミヅキくんがテーブルトークゲームをやってるわ。私、あれとっても好きなの。彼の語りは本当に神秘的でね……プレイヤーは誰かしら? ドクター、私ちょっと見てくるわね」
「ああ。俺はまだちょっとグロッキーだ……アデルが来るまで、外の風に当たっていようかな」
「ふふ、あの子にそんな酷い顔色見せちゃだめよ? 怖がられてお祝いどころじゃなくなっちゃうんだから」
「お互い様だろ? 俺たち、まるでゲームの悪役みたいだ」
「あら。私たちには無理でしょう? “悪役”だなんて、そんな器じゃないわ」
「……違いない。行ってらっしゃい、ドロシー。また明日」
「ええ、ドクター!」
手を振り合い、別々の方向へと歩き出す二人。
互いに振り返ることは無い。もう、二人の夢が混じり合うことは無い。
其処にはひとつの失恋が残った。けれど、アンジェリーナはそれを見て思う。
悲しいことの筈なのに。
それはとても、やりきれない痛みであったはずなのに。何故なのだろう、それは本当に──。
「すごいな……」
「アンジェリーナちゃん! 良かったら私と一緒に見に行きましょう? きっと面白いわ!」
「あ、はい! 行きます!」
手の指の間をすり抜けていく風は堅く乾燥していて、吐いた息が白い煙になって空へと立ち上っていく。
それを視線で追うと、初冬の澄んだ星空が目に入った。
荒野にヒトの営みの明かりは存在しない。ロドス本艦が発するそれらを除けば、クルビアの荒野に星空を濁らせる明かりは一篇たりともありはしない。
鼻で吸い込んだ息は鼻腔の奥をつんと冷やしては抜けていく。マスクを外し、肉眼で星明かりを受け止める。 青く、赤く、オレンジにピンク、水色。
あまた在る星々の熱の放射が、黒く深い宙の海に光る雲を広げては瞬き、テラの地表に立つ男の瞳へとそれを焼き付けた。
曰く、占星学者たちの言うにはその明かりこそが何億年も前、何億光年も先から届けられた予言の徴なのだと。それを読み取ることができさえすれば、私たちがこれから先歩む未来すらも見通し、ヒトが生涯にわたって抱える未来への不安を取り去って、不安なき生を謳歌することができるのだそうだ。
ならば、星々は知っていたのだろうか。この大地に拡がり往く病巣も、それに苦しみあえぎ、本来在るべき心を失っては狂い果てるいきものたちがいることも。
知っていて、何もしてはくれなかったのだろうか。
或いは偉大な先人が突き破った阻隔層の向こう、本物の星空が瞬くどこかで、救いは文明が自らの膝下に辿り着くのを今も待っているのだろうか。
男は懐から煙草のソフトケースを取り出し、中から紙巻きを一本つまみ上げた。
滑らかな手つきでそれを咥えると、空いた手で取りだしたマッチ箱を開け片手で火を点ける。
手で作った風除けの中に、星明かりよりも暖かい橙色の光が灯った。煙草の先端にそれをそっと移すと、他人顔でこの大地を見下ろすばかりの星空に煙を吐きかける。
煙は風に流され、直ぐに宵の暗闇の中へと消えていった。冬の星空の清冽は乱される気配も無い。
もう一度吸い込み、肺に冷えた煙を入れる。なんだか随分久々に、煙草を吸う。
『結局さ、確かに鉱石病は怖い病気だが……ここに来て思うのは』
いつだったか、本艦で雇用し働いてもらっている感染者の作業員と喫煙所で一緒になり、煙草が短くなるまでの間にいくつか言葉を交わしたことがあった。
お医者様も吸うのかい? と少し驚いた様子の男の表情が面白くて、どこか印象に残っていたのだ。彼の言葉を、喉に感じる異物感と共に思い出していた。
『本当に恐ろしかったのは、明日どうやって金を稼ごうとか、何処で寝泊まりしたらいいのかとか……病気が無くったって感じるはずの、生きていたら当たり前みたいな悩み事だってことに気が付いたんだよ。
鉱石病はそういう悩みをいくらでもでっかくしちまうが、物事の本質ってのも、一緒に黒い石の中に隠して見えなくしちまうんだろうなァ──』
だからさ、俺は今の生活をもらえて、実はそこまで怖さは感じてないんだよ。たとえ、いずれ鉱石病で死ぬんだとしてもな。それまでにやれることとやりたいことを、やるだけさ。
ありがとうな、ドクター。
吐き出した煙は、長いため息と同じだけの量。
あのとき、あの作業員の男の笑顔がドクターには理解できなかった。だから、あなたの鉱石病もきちんと治してみせると、そう答えを返した。
煙を鼻から吐きながら、嬉しげに、だが同時に少しだけ困ったように笑った彼の表情の意味が理解できなかったのだ。
今なら、やっと理解できる。
この星空にもう、八つ当たりのような焦げ付く怒りを感じなくなったのと同じように。
「先輩~っ」
デッキの出入り口扉の方から小走りに近づいてくる影が、撥ねる声で男を呼んだ。
「先輩! さっき、会場から出て行かれるのが見えたので、追いかけてきちゃいました……煙草、吸われてたんですか?」
柔らかな、以前までとはすこし調子の変わった声が、人気の無いデッキと冷えた夜気のなかに響く。
「ああ。アデルは良かったの? パーティの主役なのに、会場を抜け出してきて」
「皆お酒を飲みだしちゃいましたから。もう誰が主役かなんて、誰も気にしてません。だから、ちょっとくらい大丈夫です」
そう言って悪戯を成功させた子供のように微笑み、アデルはドクターの隣に立って星空を見上げた。
そうか、と応えて彼女から視線を外そうとして、それがほんの少しだけ躊躇われた。
亜麻色のくせ毛がちな髪が、風にあおられる羽のようにふわりふわりと揺れている。星明かりを跳ね返すつややかな角と、側頭部から覗くキャプリニーの耳も一緒に。
ローズグレイの瞳は、遙か頭上に輝くそれと少しだけ似ている。長い睫毛や、形のいい眉や、小さな唇や少し童顔な輪郭が目に入り、不意に男の心臓も撥ねた。
互いの視線が繋がっていた。星を見ていたはずなのに。
微細な光に照らされるたった一人の後輩は、とても美しい。そう、今更のように思う。気付くのが遅すぎる自分という男は本当に不出来だなとも思う。
「先輩?」
首を傾げる彼女に、自分が今手に持っていたもののことを思い出す。半分ほど残ったそれを吸っている姿を、男はあまり他人に見せたことがなかった。
「え、あ、ごめん。ぼーっとしていて……ちょっと待ってくれ、今消すから」
目の前の女性に見惚れていたのだと、正直に白状するのは少々恥ずかしい。
喫煙中の男の傍に、いつまでも居たいことも無いだろう。煙たいし、なにより煙草の刺激臭を好むものはそういない。
ドクターは懐からいそいそと携帯灰皿を取り出した。ごまかしのための言い訳半分だ。少々ばつが悪い。
そんなドクターの動きを、伸ばされた手がそっと押し留めた。
「あ、アデル?」
上腕と前腕に添えられた手に、僅かに感じる重みと温もり。紫煙がゆらりと二人の間に漂う。
澄んだ瞳が近くて、また心臓が嫌な震え方をする。
「アデル、そんなに近いと、消せない」
「先輩の煙草、甘いにおいがします」
すんすんと、鼻を利かせる幽かな音まで聞こえる距離。それだけの静寂。
このままでは、彼女のたっぷりとした髪に煙の匂いが染みついてしまう。ドクターはそっと、煙草を持った手を彼女から離そうとした。ローズグレイが、その動きを追っている。
「ああ……まあ、そういう銘柄だから」
「消さないでください、先輩。私、煙草を吸ってる先輩を見ていたいです。煙草を吸っている時の先輩のにおい、覚えておきたいんです」
そう言ってへにゃ、と相好を崩し些か恥ずかしげに顔を赤らめる彼女の頬を、初冬の乾いた風が冷ましている。
「あんまり、覚えていて欲しくない。煙草吸う大人なんて、厭だろ」
「そんなこと無いです! ちょっと意外で、あの……格好、いいなって」
女の不器用な誘惑と、不器用な男。
すこし、居心地の悪い沈黙。
ぎこちなくそれを受け入れ合って、そして在るべき形に落ち着く。
「先輩は、のんびりされてるときに私が隣に居るの、嫌、ですか……?」
ようやく観念したドクターは、アデルと二人寄り添ってデッキに備え付けられたベンチに腰を下ろした。
取り出しかけた灰皿は、ふたたびポケットの中にしまわれた。
「んっ」
「ゆっくり、優しく。うん、そんな感じ。直ぐに肺には入れず、口の中にある程度煙を溜めて……外の空気と一緒にゆっくり吸い込んで、煙を冷ましながら。で、いきなり深く吸い込みすぎると気分が悪くなるから、無理せず吐き出す。そう」
半身を重ね合うように寄り添い座って、男は右手をアデルの口元に添えていた。
親指が滑らかな頬に触れている。人差し指と中指は、その小さな唇に。薄桃色のそれは僅かに開かれ、先程まで男が銜えていた煙草を軽く挟み、指示されたとおりに息を吸い込む。
僅かに橙を増す火種が、白く小さな灰を舞いあげた。
「ふぅ……」
手を口元から離すと、アデルは青白い煙を細くゆったりと吐き出した。
「上手だね、アデル。どう?」
「ん……苦いれす」
「はは、そうだろう。美味しくないんだ。煙草って」
眉をしかめて、表情で苦い顔をする彼女が可笑しかった。『先輩の吸っているの、私も体験してみたいです』などというものだから。
身体に悪いよと散々説得するも、煙草が吸ってみたいというアデルの考えは変わらなかった。彼女はもう成人だし、一本くらいなら身体に影響もなかろうと箱から新しいものを取り出して渡そうとすると。
『一口で大丈夫なので、それを』
と、吸いかけのまま男の手にあったものを指さされてしまった。
ふたりの、秘密の手ほどきは。誰にも知られることなく、静かに進む。遥か帳の彼方にある双月と偽物の星々だけがそれを見守っている。
やたらと緊張するのに、恥ずかしさもあるのに、事実アデルの柔らかそうな耳はさっきから地肌が真っ赤に上気しているのが透けて見えるほどなのに。
なのに、ふたりともなぜか、そんな行為を辞めようとは言い出さなかった。
「先輩と、同じ匂いがします」
そう言ってはにかむ彼女の表情に、心が波立った。くすぐったいような、触って欲しくない場所を触られているような、それでいて心地良いような。
言葉では形容しきれない感覚が波のように寄せては帰して、男は困惑した。
冬の寒さが好きなのに、側に寄り添う温もりがかけがえないものに感じられた。
「さっき、アデルが来たとき」
「先輩、ちょっとぼーっとしてましたよね? あの時ですか?」
「うん。君に見とれていた。角とか髪とか、目が、あまりに綺麗で」
「だから、煙草も消しそびれたんだ。普段なら、人が来たらすぐ消すのに」
言ってしまって、男はすぐに後悔する。
顔が熱かった。今すぐマスクを被りたい。
すぐ隣に居るアデルの顔を直視できない。フードの襟を引っ張り上げ、顔をなるべく隠した。彼女はしばらく何も言わず、少し顔を俯けて沈黙したままだ。
「さわって、みますか……?」
風に流されていきそうな小声。暗い夜空に消えていく煙。きっと、二人は同じだけの熱を共有している。
肩に、アデルの頭がそっと寄り掛かる。
初めは遠慮がちに。次第に少しずつ体の重みが預けられて、煙草のにおいに甘い女性の香りが混ざった。或いは、雄大なる火と火山灰の香りが。
ドクターは煙草を持っていない方の腕を回して彼女の小さな肩を抱き寄せ、その頭に手を置いた。
ふわりふわりと跳ねる髪を梳くと、指や手に柔らかく細い髪の暖かさが伝わってくる。
重さを預け合った身体から伝わる鼓動が、初めは速く、次第に落ち着いてゆったりとしたものに変わっていく。肩の上下で察せられる呼吸のリズムを合わせて、次第に心臓の煩さも気にならなくなった。
固く滑らかな巻き角を撫でる。アデルはもぞもぞと身じろぎして「ちょっとくすぐったいです」と笑った。つるりとしていて、血の通ったぬくもりだ。ずっと撫でていたいような、不思議な心地だ。
亜麻色の髪から覗く、キャプリニーの小さな耳に触れる。柔らかな毛を逆立てないように指を滑らせていると、こんなに温かいのか、と小さな発見があった。
「ピアスをしてみようかなって、迷っているところなんです」
楽しげに耳がぴこりと動く。男の指と一緒に、アデルは自らの耳に軽く触れた。
「今まで、おしゃれとかを気にしたこともなかったですから。先輩はどう思います?」
「やってみたいことは、全部やってみるべきだ。そうだろ?
それに……おしゃれをした君の姿は、俺も見たい」
あまり声を張るようなことをしなくても、これだけ近くに寄り添っていれば彼女の耳に届く。
花が咲くように笑顔を浮かべたアデルは、一緒に耳に触れていたドクターの手を取り、指を絡めた。
「あの……先輩とおそろいで、ピアス。してみたいです」
「分かった。いいよ。一緒にピアス穴を空けよう」
「えへへ。じゃあ次のお休みを合わせて、デートですよ」
「うん」
「──またひとり、救えずに死なせてしまった」
「どんな方だったんですか」
「ヴィクトリアからずっと、頑張っていたお爺さんだよ。なるだけ、安らかなかたちにできたと思う」
「……先輩も、よく頑張りましたね」
「私の論文、ライン生命でもいい評価をもらったみたいなんです。これを足がかりにして、鉱石病治療がクルビアでも注目されるようになるかもって、サリアさんが」
「すごいじゃないか。アデルの資料の精度と、努力の結果だね」
「先輩が、沢山手伝ってくださったお陰です」
「誰にも手伝われない研究論文なんて、ありはしない」
ふたりは、痛みと歓びを分かち合う。
星が映し出す影を重ねて、体温を分け合うのと同じようにして。
「アデル。君を愛している。」
絡めた指をしっかりと握って、男はやや恥ずかし気に微笑みながら言う。
キャプリニーの女は数瞬驚いたように目を丸くしていたが……やがてこれ以上ないほどに頬を緩めると言葉なく頷き、傍の男にぎゅっと抱きついた。
甘い煙のにおいが、栗色の髪にゆっくりと染みこんでいく。
男に合わせておどけるようにして、睫毛に乗せた小さな雫を男に見られぬよう拭い、そして花が咲いたような満面の笑みで言った。
「私も、先輩のことを愛してます。」
腕を回して抱きしめ合って、或いは互いにあった欠落を埋め合う。
苦しみや幸せや、熱や吐息や視線を重ね、二人はそれを生きる喜びにする。
「君が好きだ」
「あなたが好きです」
「ずっと、ずっと生きて欲しい」
「私、百年生きますから。きっと病気、治してくださいね」
「約束する。絶対だよ」
「先輩も、絶対幸せになってくださいね」
「ああ。君がいてくれるなら、俺は幸せになれる」
「大好きです。先輩」
「好きだよ、アデル」
「はい。大好きです。あなたが好き」
こぼれる涙も混ぜ合わせて、この地を歩む全てのいのちに二人が誓う。
私たちは、幸せになる。
△▼
アデル・ナウマンという学者がその後、そのような人生を送り、そして如何にして没したのか。
このテラの一時代、そこに生きる人々の中のただ一人でしかない彼女について、詳細な記録は残されていない。彼女について記した伝記などは存在せず、記録を探ることも不可能だ。
彼女と仲の深かった者も、彼女の子孫も、その凄烈な人生を軽々しく口に出すことはない。
それは彼女の遺言であり、“彼”の望みでもある。
だが確かに、皆は口を揃えて言う。
或る者は笑顔で。或る者は誇らしげに。また或る者は懐かしげに。
『あの二人は、幸せに生きたよ』と。
彼らは、幸せになった。
喜びとは目的を暖め続け、知性を輝かせ続ける神聖な炎である。
終
初めまして。Alpheccaです。
最終話、お待たせしてしまい申し訳ありません。
ここまで拙作をご愛読いただき、本当にありがとうございました。
本シリーズはこれで完結となります。
ちいさな擦り傷に小石が入り込んだ程度のことで、自分の余命があと数年と定められ、身体から石が生える痛みと様々な症状に苦しむことになり、そして如何なる治療法も発明されておらず自らの死が確定し、また他者から虐げられるようになる病。
そんな病気に罹るとはどういう気持ちなのか、そしてそうなってでもなお“いきる”ことにひたむきであり続けるとはどういうことなのか、自分なりにアークナイツという素敵な作品をお借りして、大好きなエイヤフィヤトラというキャラクターにありったけを込めたつもりです。
願わくば、拙作が読者の皆様にテラという世界の厳しさやそこに生きる人々の強さに思いを馳せる一助となれば幸いです。
繰り返しになりますが、此処までご愛読いただき本当にありがとうございました。
今後は気が向いた時にぽつぽつと掌編を投稿していこうかと考えています。その時には、また美しいテラの地でお会いできることを楽しみにしています。
2024.12.16 Alphecca