ゴブリンスレイヤー【魔法剣士の異聞録】   作:星屑の騎士

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新年あけましておめでとうございます!新年早々に投稿となりますが、年末でなんだか多くのかたがたにお気に入り登録、評価をしてもらえて驚きながらも喜んでいます。本当にありがとうございます!

新年も頑張っていきますのでよろしくお願いします!


銀等級冒険者

 

 数日は神殿に籠もることになるという女神官の華奢な背を見送り、ひとり冒険者ギルドに残された魔法剣士は悩んでいた。

 

 女神官を送り出したことに後悔はない。

 

 しかしだ、魔法剣士は昇級しようとも未だに駆け出しであることに変わりはない。

 

 日々を生きる糧は必要で、糧を得るには金が必要だ。

 

 数日働かなくていい、というほどの蓄えがないわけではないがそれでは、あとがつらくなるだろう。

 

 だからといって女神官がいない状態で、ひとりで冒険に出るのはあまりに危険だ。

 

 駆け出し冒険者がひとりでできる仕事がないわけではないが、それで安全かといえばそんなことはない。

 

 ひとりでできるとしたら下水道の鼠や蟲退治といったドブ浚いだが、毒を持ってる相手に単独は危険が過ぎる。

 

 解毒を戦いながら飲むのは難しく、時間を稼ぐにはやはり仲間が必要。

 

 そうでなくても鼠のひと噛みで命を落とすことだってある。

 

(……そうなると、誰かと臨時の一党を組むしかないか)

 

 何より女神官がひとりで試練に挑むなか、ひとり呑気に過ごすというのは気が引けた。

 

(あいつがひとり頑張っているんだ。俺だって頑張らないとな)

 

 そうでなければいざ合流したときに、堂々と胸を張って顔を合わせられないだろう。

 

 女神官は気にしないだろうが魔法剣士は、そう考える。

 

(色々理屈はつけたけど……要はかっこ悪いからな)

 

 魔法剣士は内心苦笑する。彼は女神官にかっこつけたいというのもないといえば嘘だった。

 

(そうと決めたなら冒険に出るか、もしくは勉強だな)

 

 昨日より今日、今日より明日の自分が少しでも成長しているようにと、魔法剣士は努力することを当たり前のように決意し実行することにした。

 

(どこかの一党に臨時で加えてもらって経験を積むか、怪物辞典を貸してもらって少しでも怪物についての知識を身につけるか、新しい呪文は……呪文書は高いからなぁ)

 

 魔術を新しく学ぶには、呪文書が必要だが当たり前の話だがタダとはいかない。

 

 そして呪文書は大抵が高価だ。

 

 少なくとも駆け出しが購入できるものではない。

 

 あとは誰かに教わるか、あるいは冒険で見つけるか、市場で掘り出しものに出会うかでもしないとどうにもならない。

 

(魔術なんて簡単に教えてもらえるわけないし、市場に出回ることもまずない。だからまあ、結局冒険に出る必要があるんだよな)

 

 そう考えて魔法剣士は掲示板──依頼貼り出し用のその脇にある小さなものだ──へと向かった。

 

 そこには仲間募集の貼り紙や、一党に入れて欲しいといった貼り紙などがまばらに掲載されていた。

 

(どれどれ……う〜ん……)

 

 それらに目を通した魔法剣士は、内心頭を悩ませる。

 

 募集条件の良し悪しはあるが募集の数は多い。

 

 だが求められる条件に魔法剣士は当てはまらない。

 

(純粋な呪文使い、あとは斥候や聖職者ばかりだな……まあ、どれも優秀なのは数が限られているからな)

 

 どれも数が少ない職業だ。

 

 そのうえ優秀なのとなると更に数が減る。

 

(……仕方ない。受付で訊いてみるか。ついでに、新しい仲間についても相談しておこう)

 

 下手な相手に当たるよりかは、仕事にしろ臨時の一党にしろ、受付で斡旋してもらったほうが安全だろう。

 

 もちろん、ギルド職員といえど必ずしも安心安全とは限らないのだが……。

 

「すみません。少しいいですか?」

 

「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか? ──ああ、あなたでしたか」

 

 魔法剣士が受付に向かえば顔見知りの受付のお姉さんは、営業スマイルを浮かべていたが彼に気づくと表情を和らげた。

 

「はい、実はですね──」

 

 魔法剣士は、受付のお姉さんに諸々の事情を話してひとりでもできる依頼か、臨時の一党などを斡旋してもらえないか相談した。

 

「なるほど……ふふふ。勤勉なのですね」

 

 話を聞き終えた受付のお姉さんは、微笑を浮かべる。

 

「いえ、そんなことは……それでどうでしょうか?」

 

「そうですね……一党はいまのところ条件に当てはまるものはありませんね」

 

「そうですか……」

 

 やはりあの掲示板に貼り出されている以上のものはないようだった。

 

「お仲間のほうは、こちらでも気にかけておきます。希望はありますか?」

 

「ありがとうございます。そうですね……斥候か野伏の技能を持ってる人を優先して欲しいかなと」

 

 魔法剣士は、冒険の幅を広げるためにいま最も必要な能力を持った職業を挙げる。

 

「なるほど……優秀な斥候は少ないですし、居てもすでに一党に所属しているかたばかりですからね」

 

 そう、受付のお姉さんの言うように優秀な斥候は、少なく、だからこそ引く手数多だ。

 

 優秀な斥候は、仕事だけでなく、加入する一党も選択肢が多い。

 

 そのため、現状は手が空いてる斥候などはいない。

 

「やっぱり難しいですか?」

 

「そうですね……いますぐに紹介できるかたは、いらっしゃらないです。ですが、こうして要望を承った以上、気にかけておきますね」

 

「ありがとうございます」

 

 受付のお姉さんが快諾してくれたことに、魔法剣士は頭を下げた。

 

 日々の業務もあるなかで引き受けてくれたのだ。

 

 魔法剣士からしたら当たり前のことだった。

 

 そんな魔法剣士だからこそ、受付のお姉さんもしっかりやってあげようと思う。

 

 とはいえ、現状は維持したままであることに変わりはない。

 

 なら勉強でもするかと考える魔法剣士に、受付のお姉さんは切り出す。

 

「ああ、ただ斥候ではないヒトは紹介できますね」

 

「一党ではなくヒト、ですか?」

 

 つまりはパーティではなくコンビか、と思う魔法剣士だが受付のお姉さんは否定する。

 

「はい。あなたは先ほど、魔術の勉強がしたいと仰ってましたよね? それでしたら、信用できる魔術師の冒険者のかたを紹介できます」

 

「なるほど……」

 

 つまりは、魔術を教えてくれるヒトを紹介してくれるということだ。

 

 とはいえ勉強してる間も飲み食いはしなければならないし、寝泊まりだってしないとならない。

 

 なんにしろ金が必要なのだが……。

 

「お仕事のほうは、また明日以降にいいものがあればご紹介いたします」

 

 受付のお姉さんの補足に、魔法剣士はそれならばと頷く。

 

「そういうことならお願いできますか?」

 

「はい、もちろんです。ええっと……」

 

 受付のお姉さんは笑顔で頷くと、受付席から冒険者たちが行き交うロビーを見回す。

 

「あ、おられましたね。行きましょう」

 

 目当ての人物を見つけたらしい受付のお姉さんが席を立ち、魔法剣士はカウンターから出てきた彼女のあとをついていった。

 

「──あ、ら? 何か、用……かし、ら?」

 

 向かった先に居たのは、紫色の長い髪を持つ女性だった。

 

 とんがり帽子を被り、煽情的な衣装から覗く豊かな胸が作り出す深い谷間や、すらりとした脚が目の保養であり毒だ。

 

「はい。実は、あなたにお願いしたいことがありまして……」

 

 受付のお姉さんは、その女性──魔女に事情を説明した。

 

 ギルド職員らしく要点をまとめた話は、短くも正確に事情を伝える。

 

「そう、いう、こと……ね」

 

「どう、でしょうか? お時間のある限りで構いませんので……」

 

 とんがり帽子の鍔を指で摘んで深く被って目元を隠し、何事かを思案する魔女は受付のお姉さんに言われ、その視線を魔法剣士へと向けた。

 

「そう、ね……あなた、使える、術と回数、は?」

 

「あ、はい。〝稲妻〟と〝粘糸〟のふたつで、回数は二回です」

 

 不思議な喋りかただな、と思いながらも魔法剣士は胸元から視線を逸らして彼女と合わせ──豊満な胸元に見惚れたわけでは断じてない──答えた。

 

「そう……駆け出しで、それ、なら、優秀、ね」

 

 意味深な微笑を口元に浮かべる魔女は、流し目を送る。

 

「それ、で? そこまで、して、勉強したい、理由、は?」

 

「それは……仲間に恥じないように、仲間のためにですかね」

 

「そ、う……仲間の、ため、ね」

 

 魔法剣士の言葉に魔女は、納得すると唇を軽く舐めて言う。

 

「女の子、かし、ら?」

 

「えっと……まあ、そうですね」

 

 少し頬を赤くする魔法剣士に、かわいいと思うも、正直な新人冒険者にたまには教育するのもいいでしょう、と魔女は笑みを浮かべる。

 

 女の子のためという魔法剣士の気概に応えようだなんて、自分もコンビを組んでる彼の影響を受けてる、と魔女は捉えどころのない表情で言う。

 

「ふ、ふ……いい、わ。教えて、あげ、る。時間が、ある、限り、だけれど」

 

「もちろん構いません。あ、でも報酬は……」

 

 銀等級の冒険者相手──胸元を見たときに認識票を確認していた──にまさかタダで教わりだなんてと思う魔法剣士だが、等級を考えれば高そうだなと思いつつもそう訊ねた。

 

「そう、ね……な、ら、一杯、奢って、もらおう、かし……ら?」

 

「わ、わかりました。いっぱいですね」

 

 魔女の要求に魔法剣士は相場だろうと頷く。

 

 認識に齟齬があると気づかない様子に、そうと気づいている魔女は微笑ましげな様子だがいまは訂正しない。

 

「それでは、私は仕事に戻りますね」

 

「あ、はい。ありがとうございました!」

 

「いいえ。頑張ってくださいね」

 

 仲介してくれたことに頭を下げる魔法剣士に、受付のお姉さんは笑顔で応じて手を振ったあと、受付席へと戻っていった。

 

「なら、まずは、場所を、変えま、しょ?」

 

 見れば銀等級の魔術と新人の魔法剣士、先ほどまでは受付のお姉さんも居たとあって注目を集めている。

 

 魔女の言うように場所をギルド併設の酒場に変え、向かい合って席に着いた。

 

「それ、で? どんな、呪文、が、いいの?」

 

「そうですね……仲間の助けになるようなのがいいですね」

 

 魔女の問いに魔法剣士は、俯き加減に思案するように顎に人差し指と親指で挟むように添え、出した答えは口にしてみれば彼にとって当たり前のことだった。

 

「ふ、ふ……なら、今日、は、これ、から、教えて、あげる」

 

 そう言って魔女は、豊かな胸元が作る谷間からするりと呪文書を取り出し、机の上に広げた。

 

 そこには確かに魔法剣士の要望に適した呪文が記されていた。

 

「は、はい! 頑張ります!」

 

 魔法剣士は呪文書に目を通し、早速暗記を始めた。

 

 真言呪文に必要なのは正しく暗記し、正しく発音することだ。

 

 もちろん、真言ひとつひとつの意味や効力も覚える必要があるし、呪文としての効果や影響も覚えなければならない。

 

 魔女は求められた場合のみ口を出したが、それ以外では魔法剣士の独学に任せた。

 

 やがて──

 

「な、なんとかなりました」

 

 数時間後、魔法剣士は額に浮かんだ汗を拭い、ひと息ついた。

 

「ふ、ふ……お疲れ様。頑張った、わね?」

 

「い、いえ、あなたの教えかたが上手いおかげです」

 

 魔女の嫋やかな手に頭を撫でられ、魔法剣士は頬を赤くして恐縮する。

 

「あ、ら……ありが、とう。でも、あなたが、優秀、だから、よ? 普通は、もっと、時間が、かかるもの……だから」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 魔女の言葉に魔法剣士は、そう言って頭を下げた。

 

「ふ、ふ……じゃあ、約束の、報酬を、もらおう、かし、ら?」

 

「あ、はい! どうぞ! 覚悟はできてます!」

 

 魔法剣士は魔女の言葉に気負うように首肯する。

 

 そして魔女は、給仕に葡萄酒を一杯頼んでゆっくり味わうように飲み始める。

 

「……あれ? それだけです、か? いっぱいですよね?」

 

「ええ、一杯、よ?」

 

 魔法剣士は当然疑問を覚えたが、魔女の答えに自分が勘違いしていたことを悟った。

 

 魔女はたくさんという意味のいっぱいではなく、杯で一杯という意味で言っていたのだ。

 

「や、安すぎませんか?」

 

 知識とはそのヒトの経験から来る積み重ねだ。

 

 それを恵んでもらおうというのに見合う対価は当然必要だと、知識神の寺院で育ったがゆえに魔法剣士は当たり前のようにそう訊ねた。

 

 あれを教えろ、これを教えろ、教わるまで何もしない、そういった恥知らずにはなりたくなかった。

 

「いい、の、よ? あたしも、面白かった……から」

 

 魔女はそんな諸々を理解したうえでそう言って微笑を浮かべた。

 

「いい、かしら? ──点火(インフラマラエ)

 

 訊ねながらも答えは聞かず、魔女は谷間から取り出した煙管に真に力ある言葉を口にして火を灯した。

 

「真に、力ある言葉……呪文の、無駄遣い、ね」

 

 不思議な香りの煙が燻るなか、魔女はそっと呟く。

 

「魔術師に、大切、なのは……呪文を、唱えること、では、ない、わ。呪文を、使うこと、よ?」

 

「呪文を唱えるではなく使う……」

 

「そう、よ……魔術師は、言葉を、曖昧な、まま、使うわ……一度意味を、持たせた、ら……その意味として、しか、使えない、から」

 

 呪文を教えていたときと同じく、下手したらそれ以上に大切なことを教わっている。

 

「む、難しいですね」

 

 そう感じた魔法剣士は、頭を悩ませるが理解できた気がしなかった。

 

 だが、先ほどの〝いっぱい〟と〝一杯〟のように同じ言葉にも複数の意味があり、それを使い分けることが大切、だというのはわかった。

 

「ふ、ふ……謎かけ(リドル)は、魔術師の基本、で、本領……よ?」

 

 それは魔法剣士にも理解できた。

 

「そう、いえば……あなたの、職業、は?」

 

「え? 魔法剣士、ですが」

 

「そ、う……なら、あなたは、その意味、を……ちゃんと、理解、しないと、ね」

 

「意味、ですか?」

 

 唐突な魔女からの問いと新たな課題に、魔法剣士は首を傾げる。

 

「ふ、ふ……道は、たくさん、ね? ひとつでは、ない、の。難しいから……焦らないで、ね?」

 

「は、はい!」

 

 最後に微笑を浮かべて頭を撫でてきた魔女に、魔法剣士は真摯に頷いた。

 

「──おう、ここに居たか」

 

 そこへやってきたのは、槍を携えた美丈夫だった。

 

 金属の鎧に身を包み、細身ながら絞り込んだとわかるそのしなやかな体は、野生の猫科動物を思わせる。

 

「ん? そいつは……」

 

「ふ、ふ……駆け出しの、子、よ? 少し、面倒を、見ていた……の」

 

「……ああ、なるほどな」

 

 その男性冒険者──槍使いは、最初から魔法剣士に当然気づいていたが、あえて訊ねて魔女からの答えを聞き、納得する。

 

(こいつが例の期待の新人ってやつか)

 

 槍使いは想起する。

 

 一流の冒険者である彼の耳には、いろいろと情報が集まってくる。

 

 そのなかには、当然この春の新人たちの良し悪しの噂もあった。

 

 新人に自分から関わる気はないし、関わってきたなら対応はするくらいに考えていたが、そんな槍使いも魔法剣士の存在は知っていた。

 

 短期間で黒曜に昇級し、ギルド職員からも少しだけ期待されてる新人冒険者。

 

 実際ギルド職員の魔法剣士への対応は、他の新人冒険者に対するものより幾分かは柔らかく丁寧だった。

 

 槍使いは、魔法剣士の認識票を自然に確認した際に彼がその冒険者だと思い当たっていた。

 

「あの、もしかしてあなたは……辺境最強っていう」

 

 魔法剣士の問いに答えることが野暮になる場合もあると、槍使いは口元に笑みを浮かべ、魔女に行くぞと声をかけた。

 

「じゃあな。俺たちはこれから冒険(デート)なんだ。おまえの事情はよくわからねぇが……今後も頑張れよ、坊主」

 

「それじゃあ、また、ね?」

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 ふたりは連れ立って颯爽とこの場を立ち去ったいった。

 

 魔法剣士はそのかっこいい背中に頭を下げた。

 

(……最強、か)

 

 凄い冒険者になるという漠然とした夢。

 

 その目標とする冒険者を見つけた気がした。

 

(俺も……いつかは辺境──いいや、世界最強の冒険者になってやる!)

 

 ──夢はでっかく。

 

 目的とするなら見上げるくらいで丁度いいと、魔法剣士は決意を新たにするのだった。

 

 

END




というわけで槍使いさん、魔女さん登場でした。槍使いさんは書いてるとクー・フーリンっぽくなりますし、魔女さんは会話文が難しいですね。でも、どちらも好きな原作キャラなので今後も登場させたいところです。

魔女さんという歳上のお姉さんに魔法を教わる。いいシチュエーションですね。魔女さんは、原作キャラでも女神官ちゃんの次くらいには好きです。

槍使いさんは、何気に男キャラでは一番好きだったりします。これからも槍使いさん、魔女さんとはいろいろ関わるような話を考えてみたいところです。

それでは、新年早々お付き合いいただきありがとうございました!作者は、正月のんびりしてますので正月中の更新はこれが最後?かもしれませんが、今後ともよろしくお願いします!

それではまた次回お会いしましょう!

↓は新年も継続中なのでご協力いただけたら嬉しいです。

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受付のお姉さんの外見のイメージは……

  • エノメ(不徳のギルド)
  • ルナ(このすば)
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