ゴブリンスレイヤー【魔法剣士の異聞録】   作:星屑の騎士

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今回は、槍使いさんと魔女さん、ふたりとの冒険の決着となります!


↓への引き続きのご協力のほどよろしくお願いいたします!

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みすぼらしい者たち

頭上に浮かんだ光が周囲を淡く照らすなか、槍使い、魔女、魔法剣士の順で遺跡内部を慎重に進む。

 

「……これ、すごいですね」

 

 そう声を発したのは、最後尾で後方の警戒を務める魔法剣士だった。

 

 彼の頭上から視界を照らすのは、槍使いたちの魔法の道具だった。

 

 魔法剣士が隊列は先頭以外に経験がないからと、槍使いがその位置に配置したのだ。

 

「ま、松明なんかと違って片手塞がらないのは便利だな。ランタンみたいに割れる心配もねぇ」

 

 先頭を行く槍使いが軽く応じる。

 

 言動ほど油断はなく、警戒はしっかりされているのが経験の少ない魔法剣士にもわかる。

 

(自然体っていうのかな……すごいなぁ)

 

 そんな槍使いに魔法剣士は、知らずと憧れの眼差しをその大きく、近いのに遠い背中に向ける。

 

 その視線をむず痒く思いながら、先輩冒険者として見本を示し、しっかり学ばせようという槍使い。

 

 珍しい槍使いの様子をおかしそうに見つめている魔女。

 

 見透かすような相方の視線にも顔を顰め、しかし、決して油断することはなく、かといって無駄な力まず、魔法剣士の感じたように自然体で槍使いは先頭を行く。

 

「──っと、待ちな」

 

 ある程度進み、拓けたところに出ると槍使いが足を止め、制止の声を発した。

 

 魔女、魔法剣士は、それぞれ足を止めた。

 

「どう、した、の?」

 

「……見な」

 

 魔女の問いに槍使いが視線を逸らさず、顎で先を示した。

 

 魔女がその視線を向けた先を魔法剣士も追って見た。

 

 そこには、複数の人影が確認できた。

 

 一ヶ所に集まった、武装した集団だ。

 

 だが、その武装はどこかみすぼらしく、集団にも覇気というものがない。

 

 熾した火に鍋を掛けて囲んでいる姿は、傭兵や冒険者というよりは焼け出されてきた難民のようだった。

 

「どう、しますか?」

 

「ま、とりあえずは声をかけてみっか」

 

 魔法剣士の問いに槍使いは気安く応じ、油断ない歩調で武装集団に近づいていった。

 

 魔女は、そのあとをしずしずと尻を揺らすように歩いてついていく。

 

 ふたりの様子に魔法剣士は、いつ何があっても動けるように心構え、あとをついていった。

 

「よう、おまえら。無事か?」

 

 槍使いが軽く声をかければ、集団はビクッと身を震わせ、こちらを振り返った。

 

(……なんだ、この匂い?)

 

 近づいて気づいた異臭に魔法剣士は、何日もここに居たから集団の体臭かと思った。

 

「あ、あんたらは?」

 

「おう、冒険者だ」

 

 そう言って槍使いが首から下げた認識票を見せ、魔女がそれに続き、魔法剣士も銀等級のあとに出すのは恥ずかしかったが、冒険者として黒曜の認識票を翳した。

 

「おおっ、冒険者! それも銀等級か! 助かった! 助かったぞ!」

 

 槍使いと魔女の存在に集団のリーダー格らしき男が喜び勇み、ガチャっと鎧の音を鳴らして立ち上がった。

 

 かなり背の高い男だった。

 

 見た目のみすぼらしさに対して、顔色は悪くなく、佇まいもしっかりしており、背には斧を背負っていた。

 

「で、ここで何があった?」

 

「あ、ああ、実は────」

 

 槍使いの再度の問いに斧を背負った男が恐る恐る口を開いた。

 

 なんでもここには、恐ろしい化け物が居て、そいつはここで捕らえた獲物──冒険者たちのことだ──を嬲るようにひとり、またひとりと順番に食ってしまうらしい。

 

 しかも、そいつは、食われる人間を自分たちで選ばせるのだという。

 

 最初は、抵抗していた者もそいつの強さに次々と心が折れ、従うようになっていったらしい。

 

 自分たちは、そんな生贄の集まりであり、ここで少しでも旨味が出るようにと、食事だけは与えられているのだ。

 

「……協力して逃げようと思わないんですか?」

 

「んっなことができたらとっくにやってる! だが、奴らは絶対に俺たちを逃さねぇ! 前も逃げようとした奴は、捕まって生きたまま食われちまった!」

 

 魔法剣士の問いに斧を背負った男は、見開いた目を血走らせてそう言った。

 

「……んっで? その化け物っていうのはどこに居んだ?」

 

「あ、ああ……それは、この先に」

 

 槍使いの問いに斧を背負った男が奥を指差したときだった。

 

 いままでずっと黙っていた他の者たちが自然と、槍使いと魔女、魔法剣士の間に入ってきた。

 

(分断されたっ!?)

 

 そう理解したときには、魔法剣士は声を発しようとし──

 

「危な────」

 

 それより早く背負っていた斧を手にした男が、それを槍使いの背中に思いっきり振り下ろした。

 

 完全な不意打ち──に思われたが、しかし、ガキンッと金属質な音が響き渡った。

 

「────っ!?」

 

 驚愕は、斧を振るった男のものであり、他のみすぼらしいたちであり、魔法剣士のものでもあった。

 

 槍使いは、後ろを振り返ることなく、いつの間にか手にしていた槍を斜に構えて斧の一撃を受け流していた。

 

「──ま、そんなこったろうと思ったぜ」

 

 平然としているのは、槍使いと魔女くらいなものだった。

 

「なぜわかった?」

 

 一番早く正気に戻った斧使いの男の問いに、槍使いは長槍を振るって斧を弾き、肩を竦めた。

 

「ああ? 単純なこった。おまえら、臭うんだよ。そりゃあ、もうぷんぷんとな──人を食った奴の匂いがよ」

 

 槍使いは冷たい目と声音で言った。

 

 そう、先ほど男が語っていた恐ろしい化け物とは、彼ら自身のことだったのだ。

 

 自分たちで生贄を選ばせ、選ばれた人間を食らい、恐怖から迎合する者を仲間に引き入れ、逃げる者は捕まれば死の追いかけっこで遊ぶ楽しみにし、ここでカニバリズムを開いていたのだ。

 

 つまり、火に掛けた鍋で煮込んでいたのは、人間だったのだ。

 

 その異臭の正体に経験豊富な槍使い、そして魔女は気づいていたのだ。

 

「いちおう、訊いてやる。なんでこんな真似をした?」

 

「こんな真似? 楽するためだ。ここに来た初心者冒険者を狩り、装備や糧秣をいただいて懐も腹も満たすって寸法だ」

 

 槍使いの冷たい問いかけに、斧使いはせせら笑う。

 

 駆け出し冒険者から奪った装備を売り払い、糧秣や人肉で食費を浮かし、自らの懐や装備を満たしていた。

 

 そうして新人や中堅あたりの冒険者が来る遺跡や洞窟を転々としていたのだ。

 

 すべては楽をして稼ぐためだ。

 

「それもこれも〝死の迷宮〟の奴らを参考にしたわけだ」

 

 そう、この者たちは、かつて〝死の迷宮〟にも居たとされる賊。それの模倣犯というわけだ。

 

(だから、入口にはヒトの足跡しかなかったのか……っ!)

 

 そのことに気づいた魔法剣士が吐き気を覚えたのも仕方ないだろう。

 

 むしろ吐き気で我慢できたのは、新人ながらに褒められたものだった。

 

「まあいい。いろいろ知られちまった以上は、仕方ねぇ。てめぇら全員ここで殺してやる! それに久しぶりの女、それも肉付きのいい女だ! いろんな意味で食い出があるぜ! 駆け出し冒険者の女は、肉付き薄くていけねぇからな!」

 

 斧使いは、戦斧を振り上げて獰猛に笑う。  

 

 その形相は、もはや〝祈りを持つ者〟ではなく、〝祈らぬ者〟となんら変わらない。

 

 斧使いに応じ、他のみすぼらしい者たちも武器を手に構えた。

 

 堕ちた者たちの手にした武器は、新人冒険者から奪ったものであるため、新品同然のものばかりだ。

 

「おう、そっちはやれるか?」

 

 槍使いは、斧使いから目を逸らさずにそう問いかけた。

 

 それは、相棒の魔女にではない。彼女がやれるのはわかっている。

 

 その問いは、魔法剣士に対してだった。

 

「やれ、ます……!」

 

 戦いの気配に吐き気などどこかに消えた。魔法剣士は、長剣を抜いて盾を構えてる。

 

「よし。危なくなったら言いな。助けてやるからよ」

 

「余裕だなぁ!」

 

 斧使いが槍使いへと斬りかかった。

 

 斧使いを手助けするため、数人のみすぼらしい者たちが向かう。

 

 銀等級の魔女が居るとはいえ、後衛職。前衛が白磁の魔法剣士しかいないこちらよりも、銀等級の槍使いひとりを危険と判断し、先にそちらを片付ける算段だ。

 

 いままで駆け出し冒険者を何人も葬ってきたゆえの侮りにも似た考え。しかし、確かな経験からの裏打ちだ。

 

 だが、だからこそ思いもしないだろう。魔法剣士があえてそれを見逃したなどとは。

 

 そう、敵を数名あちらにやったことは、魔法剣士としても業腹だがあえて見逃した。そうでもなければいまの自分に一度で相手できる数を超えていたからだ。

 

 だが、数が減れば相手できる。槍使いならば問題ないと考えたための戦術だ。

 

「今回、呪文はお願いします」

 

「ええ、任せ、て」

 

 魔法剣士に応じ、魔女は呪文の準備に入る。

 

 一手、二手を稼がせまいとみすぼらしい者たちが長剣を、短槍を、短剣を、他にも雑多な武器を手に襲いかかる。

 

 魔法剣士は、相手の武器種を見切り、自らの長剣よりもリーチが短い武器種を狙って斬りかかった。

 

「がっ!?」

 

「ぎゃっ!?」

 

 魔法剣士の予想以上に鋭い斬撃に、瞬く間にふたりが斬り倒された。

 

 その死体を阻塞にするように蹴り転がし、後続を阻む。

 

 みすぼらしい者たちは、死体を飛び越えようとしたが身動きできない空中で魔法剣士が狙い討つ。

 

 突き出された長剣の切っ先が、ひとりの喉を貫き、ひとりの眼窩を貫いた。

 

 そこで魔法剣士は、抜く手間や血濡れて滑ることから長剣を手放した。

 

 魔法剣士は、転がっている槍を手元の高さまで蹴り上げ、右手で掴み取る。

 

 新たに迫る敵勢を魔法剣士は、槍を素早く突き出し、胸元を貫いた。

 

 これで魔法剣士は、五人のみすぼらしい者たちを葬り去った。

 

「下がっ、て、ね」

 

 そこで魔女からの声が届き、魔法剣士は後退する。その隙にみすぼらしい者たちが殺到しかけるが──

 

「《カリブンクルス(火石)……クレスクント(成長)……ヤクタ(投射)》!」

 

 魔女の呪文が完成し、火球が放たれた。

 

 一丸となっていたみすぼらしい者たちは、我先にと駆け出していたことが仇となって着弾と同時に爆発、炎上した火球に巻き込まれる。

 

 敵をひとまとめに焼き尽くし、見事に残った八人のみすぼらしい者たちを全員巻き込んで葬り去った。

 

 彼らは、不意打ちや一方的な戦いとも呼べない戦いばかりで、火球対策に散開するという戦術を知らなかったのだ。

 

「やった、わ、ね?」

 

「は、はい! あ! あっちは!?」

 

「ふ、ふ……だいじょう、ぶ」

 

 槍使いを心配する魔法剣士に魔女は、微笑を浮かべてその細指で指し示した。

 

「お、そっちも終わったか」

 

 魔法剣士がそちらに視線を向ければ、槍使いが長槍を肩に担いで気楽に声を上げる。

 

 見れば足元には、斧使いを合わせて四人のみすぼらしい者たちが転がっていた。誰もが首を失い、胸元に孔が空いていて、ひとりたりとても生きてはいまい。

 

 複数の、それも全員がかなりの技量だった──少なくともいまの魔法剣士にはそう見えた──を相手に怪我なく、息も乱さずに勝ったのだ。

 

(これが……銀等級……辺境最強)

 

 魔法剣士は、槍使いの技量に改めて尊敬の念を持つのだった。

 

「これで終わり、ですか?」

 

 魔法剣士は、いままで依頼がすんなり終わったことがないため、ついそんなことを訊ねた。

 

「ああ、そうだな。いちおう、奥まで探索してみて、何もなければそれでしまいだ。とりあえず、ひと息ついたら探索再開だ」

 

 呪文を使った魔女はもちろん、大立ち回りした魔法剣士、余裕ある槍使いも休息は必要だった。

 

 槍使いとしては、イヤーワン時代に失敗したことを踏まえてのことでもあった。

 

 水袋からぬるい、けれど体を内側から冷やすには充分な水を飲んでひと息つき、思い思いに休んでいた。

 

 その間、槍使いはせっかくだからと魔法剣士に口頭で己の経験から得たものを伝えていた。

 

 魔法剣士は、逐一頷き、疑問に思ったことは訊ねていた。

 

 聞き上手で、受身だけでなくしっかり糧にしようという姿勢もあるからか、ついつい槍使いもいろいろと話してしまう。

 

 その光景は、魔女から見ればすっかり師匠と弟子の関係だ。らしくないなんて言っていたのが信じられないくらいには。

 

 そうして休憩も授業も終えた頃、武装を整えたあと、魔法剣士たちは遺跡の奥へと歩を進めた。

 

「だい、じょう、ぶ?」

 

 その最中、魔女が後ろを預かる魔法剣士に声をかけた。今回の件は、新人には少し刺激が強かったのではと心配したのだ。

 

「あ、いえ、だいじょうぶです。ただ、あのなかには冒険者だったヒトも居たと思うと少し……」

 

「──まあ、誰だろうとああなる可能性はあるさ」

 

 そう声をかけたのは、槍使いだった。いろいろな意味で先を行く彼の背に魔法剣士の視線が向く。

 

「だがな、ならねぇように気をつけることはできるさ」

 

「それは、どうしたら?」

 

「努力するしかねぇよ。他人を羨むのは悪いことじゃねぇ。それを発条にできるんならな。だが妬んじゃいけねぇ。それは、いずれああいう奴らみたいになる」

 

 成功してる者を才能や運で評価してしまう。なるほど、確かに才能も運もあるだろう。

 

 しかし、成功者が努力していないなどあり得ない。先を行く者たちは、先達ゆえにいろいろな経験をしている。

 

 華々しい勇者や英雄ですら、その裏事情を知っているギルド職員などからしたら多くの失敗を経験しているのだ。

 

 失敗しても生き残り、その失敗すら糧にして成長する。それができたからこそ先に、上に行くことができるのだ。

 

 みすぼらしい者たちは、そういった事実を無視し、努力よりも楽を選び、ヒトから獣、祈る者たちから祈らぬ者たちへと堕ちた。

 

「それって、難しいですよね?」

 

「おう。だからそれができたら成功する可能性があんのさ。まっ、できてても成功しない奴は居るがな」

 

 結局は、いろいろなものの噛み合わせの問題だと、槍使いは笑い飛ばす。彼も自分のことをあまり語らないが、それだけ多くの成功も失敗も経験してきたのだ。

 

「……がんばります」

 

「おう。ま、焦らず、無理せずな。何かあれば……まあ、時間があればあるだけ話を聞いてやるさ」

 

 魔法剣士の──駆け出しの気概に応えてやるくらいできずして何が銀等級か、自分はあのゴブリンゴブリン言ってる奴とは違うと、槍使いは内心気炎を上げる。

 

「おっ、見な。もしかしたらラッキーかもしんねぇぞ?」

 

 そうこうしているうちに遺跡の奥の拓けた場所に出ると、先頭を行く槍使いが声を上げた。

 

 見れば奥に宝箱らしきものが確認できる。

 

「あ、宝箱!」

 

 実物は初めて見る魔法剣士は、思わず声を上げるが槍使いや魔女からの視線に気づいて恥ずかしそうに身を縮こめる。

 

「恥ずかしがんなって。冒険者になった醍醐味のひとつだろ」

 

 槍使いがそう言って笑い、背中をバシッと叩くと慎重な足取りで宝箱に向かう。魔女、魔法剣士もそれに続いた。

 

 槍使いは、腰の雑嚢に手を入れると、どう考えても入らないはずの杖を取り出した。

 

 初めて見る魔法の品に魔法剣士は、目を輝かせる。

 

 槍使いは、その様子に笑って杖を振るう。

 

 キラキラとした光が宝箱に降り注ぎ、それを見た魔女が頷く。

 

「魔法、の、罠は、ない、みたい、ね?」

 

「だな。あとは物理的のほうだが……」

 

 槍使いは、長槍の石突きで宝箱を小突くが罠が作動する様子はない。

 

「……だいじょうぶか。いちおう、離れとけよ」

 

 そう言った槍使いは、魔女と魔法剣士が僅かに距離を取ったのを確認し、宝箱に手をかけた。

 

 宝箱の蓋が軋み、開けられていく。

 

 魔法剣士にとっての初めての宝箱、そのなかに入っていたものは──。

 

 

 

 

END




まだ何かあるのでは?と疑った読者のかたも居たことでしょう。しかし、何も起きませんでした。銀等級ふたりも居るからですね。これが魔法剣士くん、女神官ちゃんだけなら何か起きていたかもしれません。

それでは、今回はこれまでとなります。また次回お会いいたしましょう!

受付のお姉さんの外見のイメージは……

  • エノメ(不徳のギルド)
  • ルナ(このすば)
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