今回は、ようやく遺跡内部に突入です!
賢狼剣士、女神官、女子学者、銀髪魔法士、魔法剣士の隊列で地下遺跡へと突入した一党は、順調に探索を進めていた。
それというのも、夜目が利き、一年の経験もある賢狼剣士が斥候としても優秀というのもあるが、すでに地下最深部まで降りていた女子学者の確かな記憶どおりに進んでいるからだった。
さすがに学者をやっているだけあり、その記憶力は確かで案内に不安はなく、優秀な地図役を務めてもらえば、賢狼剣士は迷いなく先導できた。
「探索だけなら、正直私ひとりでもだいじょうぶなくらいですから。《座標》の呪文もありますし、万が一の心配もいりませんよ」
と、女子学者は微笑みながら言う。
問題は、地下から大量に湧いたアンデットなのだと、女子学者は顔に憂いを浮かべて嘆息する。
「……やはり、ここは地下遺跡というよりは、お墓のようですね」
地下遺跡の壁を見ながら、女神官はそう言って錫杖を手繰り寄せて静かに祈る。
「……ふぅ、息が詰まりそうね。地下に住める鉱人は、本当にたいしたものだわ」
地下へと降りることから、このなかでは、女神官の次に軟く体力のない銀髪魔法士が頬を伝う汗を拭って言う。
「だいじょうぶか?」
そう言って魔法剣士が水袋を差し出したのを見て、銀髪魔法士は若干以上に恥ずかしかったが、その気遣いは純粋に有り難かったので「ありがとう」と言って受け取り、上品に呷る。
「遺跡漁りの冒険者とかは、これが日常といいますからね」
「……未知のものに触れられるのは楽しそうだけれどね」
賢狼剣士の言葉に銀髪魔法士は、憧れはあるがまだまだ自分の技量ではとても、と微苦笑を浮かべた。
そうして初めての地下探索は、時間にして数時間ほどで目的の最深部、その手前の階層で一党は足を止めて最後の小休止を取っていた。
「休むときは、装具を緩めると体が休まる」
魔法剣士は槍使いから教わった知識を伝え、水を飲み、軽い食事を済ませ、体を休める一党。
「最深部には、アンデットが大量に居るんだったな。数はどのくらいだ?」
「数えきれないほど、とはいきませんね。慌てて逃げたので正確な数はわかりませんが、十よりは多く、二十よりは少なかったと思います」
魔法剣士の確認に女子学者は、顎に手を当てて思い出すように考え込み、そう伝える。
「でも、アンデットならなんとかなるのではないですか?」
「……どうかしら? 入口に骨人形が居たように、必ずしもアンデットとは限らないと思っておいたほうがいいわ」
女神官をチラッと見た賢狼剣士の意見に、銀髪魔法士は慎重な意見で注意を促す。
「わ、わたしもまだまだ未熟な神官なので……あまり高位なアンデットになると難しいと思います」
自分が要になるという自覚もあり、緊張した様子の女神官は控えめながら銀髪魔法士に追随するような意見を口にする。
「そうだな……だからまずは一当てだ。仕留める気で挑み、それで無理なら逃げる。これが基本方針だ」
冒険者たるもの危険に立ち向かわずに逃げるなどあり得ない。ただし、あくまで可能な限り安全に、だ。
顔を見合わせて頷き合い、魔法剣士一党は、隊伍を組んで最下層へと繋がる階段を下りていった。
魔法剣士、賢狼剣士を前衛に、女神官、女子学者、銀髪魔法士の順に突入した最下層は、大きく広がっており、戦闘に支障はなかった。
しかし、床には骨が敷き詰められており、魔法剣士たちが全員最下層に下り立つと、その骨が独りでに動きだして組み上がっていく。
組み上がった人型の骨たちは、手に粗末な剣、弓矢、盾などを持っている。
弓骨人が八、盾骨人が四、骸骨が十の合計二十二体──否、彼らの一番奥に長剣と盾を手にした骨人兵長が一体存在しており、全部で二十三体だ。
「けっこうな数ですね……骨相手なら斬撃よりも打撃が有効です」
「わかった!」
賢狼剣士の助言に即応し、魔法剣士は腰の小剣を鞘ごと外した。
そして、鞘の飾り紐を使って小剣と結びつける。これで振り回しても鞘が抜けることはなく、剣でありながら打撃武器となった。
賢狼剣士も腰から鞘ごと外したシミターを同じようにして盾とともに構える。
「たしかに数は多いわ。でも、全部アンデットみたいね」
「ああ。ならなんとかなる! 頼んだぞ! 時間は俺たちで稼ぐ!」
「は、はい!」
視線を走らせて素早く知識と照らし合わせた銀髪魔法士の言葉に頷き、魔法剣士が出した指示に女神官は、錫杖を両手でしっかと握って緊張気味に応じた。
そう、アンデットである以上、女神官の奇跡は有効だ。
しかし、両陣営とも距離はあり、相手は弓持ちと盾持ちが居る。女神官を守りながらある程度接近し、奇跡の届く距離へと連れて行かねばならない。
「私の魔法は……」
「いざとなったら合図する!」
女子学者へとそう返し、魔法剣士は、鞘に収まったままの小剣、左腕に括った円盾を構えた。
骸骨兵長が合図を送り、盾骨人が前に出て盾を構えると、その後ろの弓骨人たちが弓を構えて矢を番え、弓弦を引くと──粗末な矢を放ってきた。
骨ゆえにたいした筋力はないのか、そこまでの剛弓ではないが、しかし、ゴブリンに比べれば遥かに強力だ。
「……《
しかし、慌てず騒がず唱えられた銀髪魔法士の真に力ある言葉の前には、どちらしても無意味だ。
発生した魔法の力場は、触れた矢をあらぬ方向へと逸らし、一矢報いることすら許さない。
アンデットゆえにたいした知能はないのか、それでも懲りずに射掛けられる矢は、魔法剣士たちにその錆びた鏃が触れることすら叶わなかった。
やがて補給もままならない地下遺跡のためか、矢も尽きたのか射撃が止まった。これで弓骨人は、ただの骸骨だ。
「いくぞ!」
魔法剣士の号令に銀髪魔法士が魔法の維持をやめ、一党は、前進を開始した。
それを見た骨人兵長が長剣を振り下ろすと、四体の盾骨人が盾を構えて押し潰さんと前進する。
さらに錆びた剣を手にした骸骨が十体、そのあとに続いた。
矢を失った弓骨人は、その身を盾とするつもりなのか、骸骨兵長を円陣を組んで守っている。
まず魔法剣士と賢狼剣士が盾骨人と接敵した。
両者盾を構えての激突は、人体と骨とあって重量差から盾骨人が後ろに弾き飛ばされる。
しかし、激突の衝撃は、魔法剣士と賢狼剣士にも少なからず生じており、吹き飛ばずともその場から数歩後退を余儀なくされた。
そこへ入れ替わるように粗末な剣を手にした骸骨が前へ前へと出てくる。
真っ先に体勢を立て直したのは、経験ゆえか種族ゆえか、あるいはその両方か、賢狼剣士だった。
「ふっ……!」
素早い身のこなしで誰よりも前に出ると、木の盾で振り下ろされる粗末な剣が勢いに乗るよりも前に、その横っ腹を叩いて逸らす。
さらに賢狼剣士は返す一撃で鞘に収まったシミターが、一体の骸骨の背骨を打ち砕いた。
「数はともかく、個体としてはあまり強くありませんね。ゴブリンよりマシ、くらいです」
そう評しながら、振るわれる粗末な剣を危なげなく躱わす。獣人、それも狼人の敏捷を活かした身のこなしは、森人にも勝るとも劣らない。
防御、反撃、回避の三拍子で見事時間を稼いだ賢狼剣士に続き、魔法剣士も体勢を立て直した。
衝撃で痺れた左腕の感覚が戻り、後衛と距離を空けすぎないように前へと出る。
振るわれる粗末な剣を円盾で受け、力負けすることなく踏み留まり、相手の武器を封じた隙に右手の鞘に収まったままの小剣を振るい、骸骨の背骨を叩き折った。
(よし……! アンデット相手は初めてだが、油断や慢心さえしなければやれない相手じゃないぞ!)
賢狼剣士のような身のこなしは、自分には無理だが、それなら自分なりのやりかたでやればいいと、魔法剣士はたしかな手応えを感じていた。
「呪文はいりますか!?」
「いや、まだだいじょぶだ!」
女子学者の問いに魔法剣士は、そう返す。
決して余裕綽々というわけではないが、まだ切羽詰まってないのだ。節約できるなら節約するべきだった。
そうしてるあいだにも、さらに賢狼剣士が二体、魔法剣士も二体の骸骨を砕き、計六体の骸骨が葬られた。
「だいじょぶかしら……!」
「は、はい、なんとか……!」
豊かな胸を弾ませる銀髪魔法士の問いに、薄い胸を上下させる女神官が応える。
ふたりとも、後衛ゆえにか華奢で体力はあまりない。前衛を信じてはいるが、死の緊張感の只中をひた走るのは、心身ともに負担が大きく、汗を滲ませ息を切らしていた。
そこへ体勢を立て直した四体の盾骨人が、盾を構えて突っ込んできた。
それを賢狼剣士は、ひらりと身を躱わし、横を抜けて真後ろへと回り込むと、その背骨をシミターの柄頭を打ちつけて砕いた。
横列が一部崩れ、そこへ魔法剣士が走り抜け、すれ違いざまに真横から柄頭を打ちつけて背骨を破壊した。
さらに賢狼剣士がもう一体の盾骨人の背骨を後ろから砕き、それらを踏み散らして魔法剣士が最後の一体の盾骨人を、横から円盾を構えて打ち当たり、弾き飛ばした。
そうして、骸骨四、盾骨人四が砕かれたが、アンデットゆえにまだ地を蠢いている。物理は意味ないとまではいわないが、やはり効果は薄い。
また組み上がらないとも限らないなか、業を煮やした骨人兵長が新たな号令を出す──その寸前、女神官が目標地点へと辿り着いた。
「っ……《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに、聖なる光をお恵みください》……!」
錫杖を掲げ、地下深くから捧げられた女神官の祈りはたしかに天上へと届いた。
地の底でも──地の底ゆえか、地母神は敬虔なる信徒へと奇跡をもたらした。
錫杖から発せられる聖なる光が不浄な空間を遍く照らし出す。
清浄な閃光を浴びせられた骨人兵長たちは、地を這う残骸も含めて抵抗する余地なく蒸発していった。
骨人兵長は、消滅する寸前に最後の抵抗とばかりに手にした長剣を投げた。
だが、最後まで警戒を緩めることなく身構えていた魔法剣士は、素早く反応し女神官へ放たれた長剣を円盾で防いでみせた。
「……ふぅ」
やがて二十三体のアンデットを祓った女神官は、錫杖を下ろしてひと息ついた。
「……もうだいじょぶか?」
「……はい、動く気配はありません」
魔法剣士の確認に賢狼剣士は、鼻や耳に集中して索敵し終え、そう報告した。
それを受けて警戒を緩めた魔法剣士は、振り返る。
「……お疲れさま。はい、水」
そう言って銀髪魔法士は、女神官へ水袋を差し出した。
「あ、ありがとうございます」
水袋を受け取った女神官は、水袋を呷って改めてひと息つく。
「ほら、あなたたちも飲んだほうがいいわ。怪我はしてないかしら?」
銀髪魔法士は、確認しながら魔法剣士や賢狼剣士も気遣った。
「ああ、助かる」
「ありがとうございます」
魔法剣士と賢狼剣士も自分たちの水袋を取り出して呷る。
「……そっちは、だいじょぶだったか?」
「……ええ、私たちは問題ないわ」
「はい、わたしもだいじょぶです」
魔法剣士の確認に銀髪魔法士と女神官が答える。けっこうな戦いだったが、一党全員無事なのは喜ばしい。
「そうか、よかった……依頼人はどこ行った?」
ひと息ついた魔法剣士だが、女子学者の姿がないことに周囲を見回すがどこにも彼女の姿はなかった。
女神官たちも、清浄な空間のどこを見廻しても女子学者の姿は見当たらない。
「ま、まさか……」
「……いえ、それはないと思うわ。私たちの後ろに居たはずだもの。彼女がやられるなら最後のはずよ」
最悪の想像が脳裏をよぎった女神官が青ざめるが、銀髪魔法士は冷静に否定する。
「……あちらから匂いがしますね」
スンスンと鼻を鳴らした賢狼剣士は、最下層の先へ続く道を指し示した。
骨人兵長が守っていた先には、さらに奥へと続く一本道が伸びていた。
「……まさか、財宝とやらを独り占めする気じゃないかしら?」
銀髪魔法士が冷静に告げる。たしかにあり得ることだ。冒険者ギルドがいくら依頼を整えていても、万全とはいかない。不正は時たまあるものだ。
「……それをたしかめるためにも、俺たちも奥に行くぞ」
魔法剣士の号令に女神官たちは、真剣な表情で頷いた。
§
髪とほどよい胸を弾ませて女子学者は、最下層の奥へと走って向かっていた。
そう、実は依頼人は財宝を山分けするつもりは毛頭なかったのだ。
魔法剣士一党の活躍で開いた財宝へと続く扉に、女子学者は我先にと駆け込んだ。
しかし駆け込んだ部屋はもぬけの殻だった。宝箱はおろか、金貨一枚すら落ちていなかった。
「これは、いったい……」
女子学者が困惑していると、不意に足元が──否、この最奥の部屋全体に振動が走っている。
「い、いったいなにが……?」
女子学者が戸惑っていると、徐々に天井が近づいてきていた。
いや、正確には、床が迫り上がっているのだ。
そのことに気づいたかどうかはわからないが、女子学者は、危険を感じてこの部屋を出ようと走り出すも床が迫り上がったことで、無情にも入口が石床ですでにヒトが出れないほどに塞がれつつあった。
「そ、そんな……!」
そのことに女子学者が悲嘆に暮れるなか、ついに身を屈めねばならぬほど天井が迫り──。
「私は、こんなところで────」
その言葉を最後に女子学者は、天井と床に挟まれてその末期の言葉もろともに押し潰されてしまった。
END
まさかの事態になり、次回に続くとなりました。
さて、原作一巻までは書けそうです。二巻からは、やはり読者の皆さまにご協力いただくかと思いますのでそのときはよろしくお願いします!
たぶん、いままでみたいに単発クエストを複数こなすようなのより、原作をリスペクトしてひとつの依頼を一章丸々使ってこなしていきたいと考えています。その方向でご協力をお願いします!
あと、いつかダイ・カタナの女魔術師も出したいですねぇ。ダイ・カタナで一番好きな女性キャラなんですよね。ゴブスレ時間軸では何をしてるんでしょう?
それではまた次回!
受付のお姉さんの外見のイメージは……
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エノメ(不徳のギルド)
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ルナ(このすば)